説明

光路長の温度依存性が小さい酸化物材料

【課題】光通信、光集積回路基板に利用可能な光路長の温度依存性が小さい材料を提供する。
【解決手段】Na、K、Rb、Csから選ばれる1種以上の成分及びNb、Taから選ばれる1種以上の成分を含有するペロブスカイト型(ABO)酸化物材料は、光路長温度係数(OPD、ここでOPD=1/S・dS/dT=CTE + 1/n・dn/dTであって、Sが光路長、CTEが線熱膨張係数、nが屈折率、dn/dTが屈折率の温度係数である)が制御可能であり、特にその絶対値が6ppm/℃以下と光路長の温度依存性が極めて小さく、光通信用フィルター、光集積回路基板などに利用可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光通信用デバイス、光集積回路デバイス、特にエタロンフィルターに使用するのに好適な複合酸化物材料とその製造方法、ならびにこの複合酸化物材料を用いたエタロンフィルター基板および回折格子基板、光集積回路基板に関する。
【背景技術】
【0002】
光通信システムやそれに関連するレーザーシステムにおいては、高速で大量の信号を伝送するための方法として、波長分割多重方式がある。この波長分割多重方式では、できるだけ狭い波長差の信号を送信することで、一度に送信する情報量を多くすることができる。このため、異なるチャンネルの波長は、互いに非常に接近し、これら互いに接近した波長の信号を正しく送受信するためには、光通信に使用される信号の波長に対する特性が安定していることが必要である。この信号の波長の安定化、光出力の安定化および波長選択等の目的でエタロンフィルターが使用されている。エタロンフィルターは、光透過媒質からなる基板を有し、この基板の光入射面側と光出射面側の両面に反射膜を形成して通過光を反射させることにより、光信号を定在波化して通過帯域を制限し、複数光信号の波長多重を可能とし、所定の帯域内において光伝送を容易にするものである。このフィルターは光路長が波長の整数倍である光信号を選択的に定在波化するため、その性能は基板の光路長に大きく左右される。そのため安定した光出力を得るためには、エタロンフィルターの基板に用いられる材料は、光路長が一定であることが重要である。
【0003】
ところが、これまでに知られている基板材料は、温度変化により光路長が変化するものであった。光路長が変化すると出力される光信号の波長も変化するため、狭い波長差の信号を送信する波長分割多重方式では用いることができない。
【0004】
光路長および光路長の温度依存性は下記(式1)の温度係数(OPD)で表すことができる。
光路長 S=n・l
光路長温度係数(OPD)
(1/S)・(dS/dT)=CTE+(1/n)・(dn/dT)・・・(式1)
なお、ここで、lは光透過媒質の厚み、CTEは光透過媒質の線熱膨張係数、nは光透過媒質の屈折率、dn/dTは屈折率の温度係数である。
【0005】
光路長の温度変化を防ぐために以下の方法がある。第一の方法は厳密な温度制御を行うことである。しかしながら、厳密な温度制御を行うためには温度制御ユニットなどを取り付ける必要があり、そのためデバイスサイズが大きくなる、コストがかかる、電力消費が必要といった問題がある。
【0006】
第二の方法は屈折率の温度変化(dn/dT)を打ち消す方向に厚み変化を与えることである。材料に温度変化が与えられると、屈折率と厚さが変化し、屈折率と厚さの積で表される光路長(S=n・l)が変化する。そこで、正のdn/dTを持つ基板材料やその周囲に負のCTEを有する補正部材を貼ることで長さ変化を負にすることで、屈折率の温度変化を厚さ変化で相殺する方法が提案されている(例えば、特許文献1、特許文献2、特許文献3)。しかし、このような構成では、やはり部品点数の増加によるサイズおよびコストアップの問題がある。
【0007】
第三の方法として正の光路長温度係数を持つ材料と負の光路長温度係数を持つ材料を張り合わせ、または混合する方法が提案されている。このような材料として、正の光路長温度係数を持つ酸化物ガラス材料に負の光路長温度係数を持つ酸化物単結晶材料を張り合わせた材料(例えば、特許文献4)や、正の光路長温度係数を持つ無機粒子を負の光路長温度係数を持つポリマーに分散させた材料(例えば、特許文献5、特許文献6、特許文献7)がある。しかし、このような材料は材料界面による反射および散乱が増加し、透過率が低下するという問題がある。
【0008】
第四の方法として光路長の温度変化の比較的小さい材料を用いる方法がある。このような光路長温度係数が小さい材料として、石英ガラス、水晶、LiNbO、LiTaO、LiCaAlFなどが提案されている(例えば、特許文献8、特許文献9、特許文献10)。上記材料の中で光学的等方性を有する材料では、光路長温度係数の最も小さい石英ガラスでも6.2ppm/℃もあり、水晶やLiNbO、LiTaO、LiCaAlFは異方性のある材料であり、使用可能な方位が限定されるという問題がある。また、結晶軸によって光路長温度係数が正と負の値を持つ結晶材料を入射光に対して正と負の変化を打ち消す角度に傾け、実質的に光路長の温度変化の無い方位の基板を用いる方法がある(例えば、特許文献11)が、結晶軸の傾きを利用していることから偏光依存性が生じ、入射方向が制限されるという問題がある。
【0009】
第五の方法として屈折率の温度変化の小さいエアーを基板としたエアーギャップ式エタロンフィルターも開発されている。エアーギャップ式では熱膨張のない/小さい部材でエアーギャップをなし、エアーギャップの両端面に反射膜を配置した構成となっているが、基板に固体材料を用いたソリッドエタロンに比べるとフィルターサイズが大きいという欠点がある。反射膜を形成した基板からなるソリッドエタロンは構成も容易で、サイズ・コスト的に優れているため、ソリッドエタロンフィルターに用いることができる光路長の温度変化が小さい材料が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2000−352633号公報
【特許文献2】特開平9−257567号公報
【特許文献3】特開2001−221914号公報
【特許文献4】特開2005−10734号公報
【特許文献5】特開2001−201601号公報
【特許文献6】特開2006−193398号公報
【特許文献7】WO2001/113963号公報
【特許文献8】特開2004−226425号公報
【特許文献9】特開2006−78914号公報
【特許文献10】特開2006−78915号公報
【特許文献11】特開2003−270434号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の課題は、温度変化による光路長変化が0若しくは無視できるほどに小さく、光学異方性がない材料を得ることである。さらに、この材料をエタロンフィルターのように光路長の安定性が求められる部材に用いることで、厳密な温度制御が不要で、小型化が可能でありながらも、大量の光信号を安定的に処理できる光通信素子、光集積回路などの光デバイスを提供することをその目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意試験研究を重ねた結果、異なる光学的特性を有するペロブスカイト型(ABO)酸化物材料を用いて、Aサイト及び/又はBサイトに配置される成分の組み合わせ及び配合を調整することにより、光路長の温度依存性を任意に変化させることができることを見出し、本発明をするに至った。具体的には本発明は以下のようなものを提供する。
【0013】
(1)Na、K、Rb、Csから選ばれる1種以上の成分及びNb、Taから選ばれる1種以上の成分を含有し、−20〜80℃の温度範囲において、波長1553nmに対する光路長温度係数(OPD)の絶対値が6ppm/℃以下であることを特徴とするペロブスカイト型(ABO)酸化物材料。(ここで、OPDは屈折率nおよび線熱膨張係数CTEによって(1/n)×(dn/dT)+CTEと表される特性である)
(2)前記ペロブスカイト型(ABO)酸化物が、Na、K、Rb、及びCsから選ばれる2種以上の成分、Nb成分、並びにTa成分、を含有することを特徴とする(1)に記載の酸化物材料。
(3)カチオン%にて示した組成が
Na0〜49.1%
0.9〜49.5%
Rb0〜40.6%
Cs0〜27.4%
Nb0%を超え50%未満
Ta0%を超え50%未満
であることを特徴とする(1)または(2)に記載の酸化物材料。
(4)Li、Ag、Ca、Sr、Ba、Zn、Y、ランタノイド、Pb、およびBiから選ばれる1種以上の成分をドープした(1)から(3)記載の酸化物材料。
(5)V、Ti、Zr、Hf、Al、Ga、In、Si、Ge、およびSnから選ばれる1種以上の成分をドープした(1)から(4)記載の酸化物材料。
(6)立方晶であることを特徴とする(1)から(5)いずれか記載の酸化物材料。
(7)単結晶である(1)から(6)いずれか記載の酸化物材料。
(8)(1)から(7)いずれかに記載の酸化物材料を含むエタロンフィルター基板。
(9)(8)に記載のエタロンフィルター基板を含むソリッドエタロンフィルター。
(10)(1)から(7)いずれかに記載の酸化物材料を含む光集積回路基板。
(11)(1)から(7)いずれかに記載の酸化物材料を含む回折格子基板。
【発明の効果】
【0014】
この発明によれば、光路長の温度変化が0若しくは無視できるほどに小さい材料を得ることができる。この材料を用いた素子もしくは部材を光通信フィルター、光集積回路基板などの光デバイスに利用すると、厳密な温度制御や厚み制御など、温度変化による材料の光路長変化を打ち消すための工夫や装備等が不要となるため、前記素子及び、当該素子を用いるデバイスを簡素化、小型化、低コスト化できる。また、この材料は屈折率が高く光学異方性が無いため、基板等の部材自体を小型化でき、使用方向が制限されず材料の加工が容易である。その結果、温度制御のための装備が不要で小型でありながらも温度安定性に優れ、大量の光信号を安定的に処理できる光通信素子、光集積回路などの光デバイスを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】実施例についてのXRDパターンである。
【図2】実施例の単結晶の写真である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態を説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0017】
この発明による酸化物材料は、ペロブスカイト型(ABO)酸化物材料であって、Na、K、Rb、Csから選ばれる1種以上の成分及びNb、Taから選ばれる1種以上の成分を含有し、−20〜80℃の温度範囲において、波長1553nmに対する光路長温度係数(OPD)の絶対値が6ppm/℃以下であることを特徴とする(ここで、OPDは屈折率nおよび線熱膨張係数CTEによって(1/n)×(dn/dT)+CTEと表される特性である)。本発明の酸化物材料について、光路長の温度係数、結晶構造、および組成を上記のように限定した理由を以下に述べる。
【0018】
まず光路長温度係数(OPD)についてであるが、例えば1553nmにおいて、その絶対値が6ppm/℃を越えると光通信用デバイスに極めて精密な温度制御が必要となるため、光路長温度係数の絶対値は、6ppm/℃以下であることが必要であり、特に5ppm/℃が好ましく、さらに100GHz以下の高速通信では温度制御を完全に不要とするには3ppm/℃以下であることが好ましい。
【0019】
光路長温度係数(OPD)が低い波長範囲は1553nmに限定されるものでなく、1553nm波長において光路長温度係数が低い材料設計を行うことで、一般的に光通信波長に用いられる1260−1675nmの光通信波長範囲の波長に対しても光路長温度係数を低くできる。
【0020】
ペロブスカイト型酸化物は主に誘電体として用いられているが、固溶やドープにより電磁波に対する特性が大きく変化することが知られており、紫外可視光赤外といった光に対しても固溶やドープにより特性を変化させることができる。また、同じ結晶構造の材料の中に屈折率および光路長の温度変化が正から負まで存在する数少ない材料であり、各々のサイトに多くの成分を含むことができる。そのため、異なる光学的特性を有するペロブスカイト型酸化物を用いて、Aサイト及び/又はBサイトに配置される成分の組み合わせ及び配合を調整することにより、屈折率とその温度依存性、熱膨張係数、結晶系などを制御した材料設計が可能である。ここで、本発明に係るペロブスカイト型酸化物材料の結晶系としては、光学的異方性がない立方晶であることが好ましい。
【0021】
ペロブスカイト型酸化物(ABO)の中でもA成分がアルカリ金属(Li、Na、K、Rb、Cs、Fr)成分、B成分が第五族金属(V、Nb、Ta、Db)である材料は、その成分の組み合わせ数が多く、各種機能性材料として期待されている。しかしながらLi成分はサイズが小さいためペロブスカイト型結晶構造を不安定にするという問題があり、FrおよびDb成分は全ての同位体が放射性同位体であり生物環境に悪影響を及ぼし、使用が規制されるという問題がある。一方でV成分は酸化物が着色しやすいため、微量のドーパントとして用いる場合を除き、透明な材料を得ようとする場合には導入しないことが好ましい。従ってペロブスカイト型酸化物であって光学用途に用いられる機能性材料を得ようとする場合にはA成分がNa、K、Rb、Csであり、BがNb、Taである材料が好ましい。
【0022】
特にKTaOは立方晶ペロブスカイト構造をとり、光学的等方性を有する材料であり、負の光路長温度係数を持つという特徴がある。このKTaOにアルカリ金属および/またはNbを固溶させることで光学的な等方性を維持しつつも、光路長の温度係数を正から負に変化させることができ、実質的に光路長の温度係数がゼロの材料を得ることができる。
【0023】
ここで、前記複合酸化物はカチオン%で
Na0〜49.1%
0.9〜49.5%
Rb0〜40.6%
Cs0〜27.4%
Nb0%を超え50%未満
Ta0%を超え50%未満
と表される組成範囲において光路長温度係数(OPD)を制御することができる。
【0024】
光路長の温度係数を小さくするためKの含有量は0.9%以上であることが好ましく、1.0%以上であることが特に好ましい。しかしながらKが49.5%を超えると光路長の温度係数が負の方向に大きくなりすぎ、−6ppm/℃を下回るため、Kは49.5以下が好ましく、40.0以下が特に好ましい。
【0025】
Na、Rb、Csの含有量がそれぞれ49.1、40.6、27.4を超えると結晶系が立方晶でなくなり、正方晶や斜方晶などの異方性がある結晶系となるため、本材料を素子やデバイスに用いる場合に使用方向が制限されるため、Naは49.1以下、Rbは40.6以下、Csは27.4以下が好ましい。
【0026】
結晶系が立方晶の場合、光学的に等方であることから使用方向に制限なく用いることができるため、光学的に等方である立方晶であることが望ましい。特にカチオン%にて示した各成分の含有量(以下、[イオン]と表す。)において、1.39[Na]+1.64[K]+1.72[Rb]+1.88[Cs]の値が70〜81.5の範囲にあれば、前記複合酸化物材料は使用温度域において立方晶であると考えられるので、好ましい。ペロブスカイト構造酸化物(ABO)材料の結晶構造はA、B、O成分のシャノンのイオン半径をそれぞれr、r、rとしたとき、式1で示されるtolerance factor(以下、tを示す)が1のときに立方晶となることが知られており、具体的には0.97≦t≦1.06の範囲にある材料が、室温(25℃)での結晶系が立方晶となっている。
【0027】
【数1】

【0028】
ここで6配位のNb5+およびTa5+、12配位のアルカリ金属のシャノンのイオン半径を用いると、それぞれのアルカリ金属成分の含有量が、1.39[Na]+1.64[K]+1.72[Rb]+1.88[Cs]の式から求めた値が70〜81.5の範囲となる量である場合に、本材料が立方晶となることがわかる。
【0029】
本発明における酸化物材料は、屈折率が高いと材料の光路長が長くなるため、エタロンフィルター素子や光集積回路基板に用いるとき薄板化、小型化ができるので、屈折率は高い方がよく、例えば1553nm光に対する屈折率では1.9以上が好ましく、2.0以上が特に好ましい。
【0030】
本発明における酸化物材料は融点、結晶系、格子定数などを調整するため、Li、Ag、Ca、Sr、Ba、Zn、Y、ランタノイド、Pb、Biのうちから1種または2種以上を合わせて添加することができる。これらは主にAサイトに置換固溶する成分であるが、他のサイトへの置換やサイト外への侵入固溶でもよい。
【0031】
更に本発明における酸化物材料は、Ti、Zr、Hf、Ga、Al、In、Si、Ge、Sn、Vのうちから1種または2種以上を合わせて添加することができる。これらは主にBサイトに置換固溶する成分であるが、他のサイトへの置換やサイト外への侵入固溶でもよい。また、光路長の温度特性や透過率を妨げない範囲で、この他の成分を含有しても良い。
【0032】
本発明における酸化物材料は透明であることを特徴とし、透明/透光性セラミックスや単結晶の形態で使用することができる。特に粒界が存在せず、結晶方位も均一であることから、光散乱が少なく、高い透過率を持つことから単結晶であることがよい。
【0033】
以下、本発明の酸化物材料の製造方法について説明する。この発明による酸化物材料の製造方法は、粉体又は焼結体又は溶融液より、フラックス法、CZ法、ブリッジマン法、トップシード法、FZ法、μ−PD法、気相成長法など、既知の単結晶育成方法にて複合酸化物の単結晶として製造するか、真空焼結、加圧焼結、放電焼結などの製法により透光性セラミックスとして製造することができる。
【0034】
単結晶を製造する方法としてフラックス法の場合、(a)原料および溶媒(フラックス)を準備する工程、(b)原料および溶媒(フラックス)粉を加熱溶融液とする工程、(c)加熱溶融液を冷却し、結晶を成長させる工程、(d)溶媒(フラックス)を除去し、結晶を分離する工程を含むことができる。
【0035】
(a)原料および溶媒を準備する工程は例えば以下の手順がある。
(1)出発原料を秤量する。
(2)秤量原料を混合する。
(3)混合原料を熱処理する。
(4)熱処理原料を粉砕する。
上記の手順は必須ではなく、例えば工程(2)から(4)を省略し、(1)の原料混合物をそのまま原料として用いてもいい。出発原料には酸化物、水酸化物、炭酸塩、硝酸塩、硫酸塩、各種アルコキシドなどの形態を用いることができる。液状の出発原料を用いたり、混合・粉砕において純水またはアルコールなどの有機溶媒を加えたりして、湿式粉砕とすることもでき、ボールミルや遊星ミルなどを用いてもよい。出発原料混合物を充分に反応させるために、(3)熱処理および(4)粉砕を数回繰り返して行うこともでき、仮焼中に雰囲気制御するなどの手法を単一あるいは組み合わせて用いることができ、効率的に均一な原料粉を得ることできる。なお仮焼温度は500℃以上が好ましく、仮焼時間は1時間以上が好ましい。溶媒には目的の結晶物質よりも融点が低く、結晶物質を融点以下で溶解できる物質であり、具体的にはNaO、KOなどのアルカリ金属酸化物およびアルカリ金属の硝酸塩、炭酸塩、水酸化物、硫酸塩などのアルカリ金属塩の他、各種フッ化物などの低融点物質を溶媒として用いることができる。原料と溶媒は別々に用意してもいいし、(1)から(4)いずれかの工程で混合して準備してもいい。
【0036】
(b)原料および溶媒を加熱溶融液とする工程については例えば以下の手順がある。
(1)原料および溶媒を容器に投入する
(2)容器ごと溶媒の融点以上まで加熱し、溶融液とする
容器には白金やイリジウムなどの高融点金属やアルミナ、ジルコニア、マグネシア、石英ガラスなどの無機材料の坩堝などを用いることができ、外部から冷却することにより結晶物質の一部を固化したスカルポットを用いることもできる。また溶融液は一定時間、加熱温度を維持するなどの方法で均質化することもできる。
【0037】
(c)加熱溶融液を冷却し、結晶を成長させる工程については、例えば600℃/h以下の降温速度で温度を下げていくなどの手順がある。結晶を成長させる間の降温速度は小さい方が高品質な結晶を得ることができるので、降温速度は600℃/h以下が好ましく、100℃/h以下がより好ましく、25℃/h以下が最も好ましい。結晶成長を終了させた後、結晶を取り出すために冷却する場合などは600℃/hを超える降温速度で冷却してもいい。また加熱溶融液の一部に種結晶を接触させることでトップシード・フラックス法として結晶を成長させることもできる。
【0038】
(d)溶媒を除去し、結晶を分離する工程では、結晶と溶媒(1とする)の溶解度が異なる別の溶媒(2)を用いて溶媒(1)だけ溶解して結晶を分離する方法や、溶媒が完全に固化する前に育成結晶を取りだす方法などがある。例えば溶媒(1)としてNaCO、KCO、NaNO、KNOなどのアルカリ金属塩を用いた場合、別の溶媒(2)として熱水などを用いて溶媒(1)を溶かして結晶を分離することができる。
【0039】
物性調整のため、Li、Ag、Ca、Sr、Ba、Zn、Y、ランタノイド、Pb、Bi、Ti、V、Zr、Hf、Al、Ga、In、Si、Ge、Snなどを添加する場合は(a)原料および溶媒(フラックス)を準備する工程、及び/または(b)原料および溶媒(フラックス)を加熱溶融液とする工程、で添加することができる。
【0040】
本発明の方法は上記に示した方法に限られるものではない。例えば以下のような方法も可能である。
【0041】
単結晶を製造する別の方法としてCZ法の場合、(a)原料を準備する工程、(b)原料を坩堝に投入し、原料粉を加熱溶融し、原料を溶融させる工程、(c)加熱融液に種結晶を接触させる工程、(d)種結晶を引き上げて結晶を成長させる工程を含むことができる。(a)工程についてはフラックス法で上述した手段を用いることができ、(b)から(d)工程についてはCZ法における公知の手段を用いることができる。
【0042】
単結晶を製造する別の方法としてブリッジマン法の場合、(a)原料を準備する工程、(b)原料を坩堝に投入し、種結晶と接触させる工程、(c)原料粉と種結晶との接触部を加熱溶融し、原料を溶融させ、種結晶側から冷却しながら単結晶を成長させていく工程を含むことができる。(a)工程についてはフラックス法で上述した手段を用いることができ、(b)工程についてはブリッジマン法における公知の手段を用いることができる。
【0043】
単結晶を製造する別の方法として気相成長法の場合、(a)原料を準備する工程、(b)原料を成形・焼結させターゲットを準備する工程、(c)ターゲットを気化させ、基板上に積層させて単結晶を成長させる工程を含むことができる。(a)および(b)工程についてはフラックス法で上述した手段を用いることができ、(c)工程については気相成長法における公知の手段を用いることができる。ターゲットは成分でわけたものを二個以上用いてもよい。
【0044】
この発明による酸化物材料の製造方法において熱源には赤外線、カーボンヒーター、金属ヒーター、高周波などを用いることができ、必要に応じて予熱用ヒーターやアフターヒーターを用いてもよい。作製中の雰囲気は特に限定しないが、カーボンあるいは金属ヒーターを用いる場合には不活性雰囲気が好ましい。本発明の単結晶は、作製雰囲気により材料の透過率が低下することがあるが、得られた酸化物材料に対してアニール処理を行うことで、透過率を改善することもできる。アニール処理は酸化性雰囲気、500℃以上が望ましい。
【実施例】
【0045】
(実施例および比較例)
以下の手順で実施例および比較例を作製した。NaNO、KCO、Nb、Taの出発原料粉末を秤量し、混合した混合粉を白金坩堝に入れ、大気雰囲気下1500℃で3時間保持後、2〜10℃/hにて1100〜1300℃まで冷却し、結晶を育成した。その後、炉内放冷で室温(25℃)まで冷却した後、白金容器ごと80℃以上の熱水にて洗浄することで、溶媒を除去し、複合酸化物材料を得た。
【0046】
得られた材料について、結晶構造はXRD(フィリップス製X’pert−MPD)、組成はSEM/EDS(日立ハイテクノロジーズ(株)製S−3000N、(株)堀場製作所製EX−420)にて確認し、光路長温度係数(OPD)については平行平面研磨した両端面の干渉光の温度による変化を−20〜80℃の範囲で測定する方法で評価した。材料組成、溶媒、結晶系およびOPD(ppm/℃)を表1に示した。
【0047】
【表1】

【0048】
図2の写真から分かるように、得られた材料は透明であり、光学用途に使用可能である。また、実施例のOPDは−3ppm/℃と、光路長の温度依存性が非常に小さいことが確認できた。また、図1に示したXRDパターンから本材料が単結晶の固溶体であり、EDS観察により得られた単結晶試料は組成斑が少ないとわかった。一方、比較例1の結晶系は使用方向が限られる斜方晶であり、比較例2はOPDが負に大きすぎるとわかった。
【0049】
以上の実験結果が示すように、本発明の酸化物材料、特に酸化物単結晶材料は、光路長の温度係数が非常に小さく、光通信フィルター、光集積回路などの光デバイスに用いるエタロンフィルターの基板材料として好適であることが確認された。また、本発明に係る材料は屈折率が高いため基板そのものを薄型化でき、光学異方性が無いため材料の利用方向が制限されず加工自由度が高いものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Na、K、Rb、Csから選ばれる1種以上の成分及びNb、Taから選ばれる1種以上の成分を含有し、−20〜80℃の温度範囲において、波長1553nmに対する光路長温度係数(OPD)の絶対値が6ppm/℃以下であることを特徴とするペロブスカイト型(ABO)酸化物材料。(ここで、OPDは屈折率nおよび線熱膨張係数CTEによって(1/n)×(dn/dT)+CTEと表される特性である)
【請求項2】
前記ペロブスカイト型(ABO)酸化物が、Na、K、Rb、及びCsから選ばれる2種以上の成分、Nb成分、並びにTa成分、を含有することを特徴とする請求項1に記載の酸化物材料。
【請求項3】
カチオン%にて示した組成が
Na0〜49.1%
0.9〜49.5%
Rb0〜40.6%
Cs0〜27.4%
Nb0%を超え50%未満
Ta0%を超え50%未満
であることを特徴とする請求項1または2に記載の酸化物材料。
【請求項4】
Li、Ag、Ca、Sr、Ba、Zn、Y、ランタノイド、Pb、およびBiから選ばれる1種以上の成分をドープした請求項1から3記載の酸化物材料。
【請求項5】
V、Ti、Zr、Hf、Al、Ga、In、Si、Ge、およびSnから選ばれる1種以上の成分をドープした請求項1から4記載の酸化物材料。
【請求項6】
立方晶であることを特徴とする請求項1から5いずれか記載の酸化物材料。
【請求項7】
単結晶である請求項1から6いずれか記載の酸化物材料。
【請求項8】
請求項1から7いずれかに記載の酸化物材料を含むエタロンフィルター基板。
【請求項9】
請求項8に記載のエタロンフィルター基板を含むソリッドエタロンフィルター。
【請求項10】
請求項1から7いずれかに記載の酸化物材料を含む光集積回路基板。
【請求項11】
請求項1から7いずれかに記載の酸化物材料を含む回折格子基板。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−225961(P2012−225961A)
【公開日】平成24年11月15日(2012.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−90568(P2011−90568)
【出願日】平成23年4月15日(2011.4.15)
【出願人】(000128784)株式会社オハラ (539)
【Fターム(参考)】