説明

光路長可変型セル、それを使用した吸光度測定方法、並びにそれらを使用したCOD測定方法及び装置

【課題】
装置の改造を行なわず光路長を変更できるようにする。
【解決手段】
本発明の光路長可変型セル2は、互いに平行に配置された透明平板からなる光入射窓10aと光出射窓10bをもち被測定液が収容され又は流通するセル本体2bと、対をなす平面対14a,14bをもちセル本体2b内に着脱可能に挿入される透明材質の光路長変更ブロック14とを備えている。その光路長変更ブロック14が有す平面対14a,14bから、いずれかの厚さの平面対を選択してセル内の光路に挿入することで、光路長を複数段階に変更することができる。本発明の光路長可変型セル2を使用した吸光度測定方法は、測定光の光路Xに対してセル本体2bを固定し、光路長変更ブロック14を測定光の光路を横切る方向に移動させることにより複数の光路長での吸光度測定を可能にするものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、吸光度を測定するセル、及びそのセルを用いて吸光度を測定する方法に関する。さらには排水や環境水の紫外線(UV)吸光度とCOD(化学的酸素消責量)測定値との相関関係を前提としてUV値をCOD値に換算するCOD測定方法及び装置に関する。
CODはBOD(生物学的酸素要求量)を含むものとして扱う。
【背景技術】
【0002】
日本工業規格(JIS)は、水質監視用紫外線吸光度自動計測器を定めており、UV測定値がCODと相関付けられて水質総量規制に係る水質汚濁負荷量の演算等に用いられている(非特許文献1参照。)。
【0003】
COD測定装置には図6に示されるような吸光光度計が使用される。低圧水銀ランプなどの光源1からの光は、一定の光路長の空間に試料を導く光透過性の測定セル2に照射される。測定セル2を透過した光は干渉フィルタ3を透過し、特定の波長(例えば254nm)が選択され、検出器4で検出される。その後、その検出信号は増幅器5で吸光度に変換され、検量線によりCOD値に換算される。
【0004】
しかし、試料水の濃度が高すぎる場合、吸光度とCOD値との相関によって求められる検量線は直線近似に適さないものになる。また、排水処理施設からの排水が同一であっても、処理原水の性状の変化等により排水自体の性状が変化し、同一光路長のセルを用いた測定では吸光度が大きくなりすぎてしまい、正確に測れないことがある。
このように濃度が極端に異なる試料の場合は、セル長の異なるもの(例えば1cmと5cm)を用意し、それを手作業で交換して測定を行なっていた。
【非特許文献1】JIS K0807
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
COD測定の対象となる試料は、試料ごとに濃度が大きく異なるので、得られる吸光度を適当な値にするために複数の光路長が必要になる。また、同一試料であっても試料の性状が変化する場合は光路長を変える必要がある。
光路長を変える場合、セル自体の交換やセルの窓材の組み替えなど、測定装置の改造を行なわなければならず操作が煩雑になる。
本発明は、測定装置の改造を行なうことなく、光路長を変更できる光路長可変型セル、それを使用した吸光度測定方法、並びにそれらを使用したCOD測定方法及び装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の光路長可変型セルは、互いに平行に配置された透明平板からなる光入射窓と光出射窓をもち、被測定液が収容され又は流通するセル本体と、対をなす互いに平行な平面をもち、上記セル本体内に着脱可能に挿入される透明材質の光路長変更ブロックとを備えている。その光路長変更ブロックは、上記平面がセル本体を透過する測定光の光路上に位置決めされたときは、その平面が光入射窓及び光出射窓に対して平行に配置される。
ここで、「透明」とは紫外光に対して透過性をもつことを意味し、材質としては、例えば合成石英を用いることができる。
【0007】
光路長変更ブロックの好ましい形態として、平面対を2以上もち、それらの平面対は平面間の厚さが互いに異なっており、セル本体内への挿入方向に配置されているものを挙げることができる。その光路長変更ブロックの2以上の平面対から、いずれかの厚さの平面対を選択してセル内の光路に挿入することで、光路長を複数段階に変更することができる。
【0008】
本発明の光路長可変型セルを使用した吸光度測定方法は、測定光の光路に対してセル本体を固定し、光路長変更ブロックを測定光の光路を横切る方向に移動させることにより複数の光路長での吸光度測定を可能にするものである。
【0009】
本発明のCOD測定方法は、紫外領域の波長を含む光を発生する光源光学系、試料水中に前記光源光学系からの測定光を透過させる測定セル、測定セルを透過した測定光を受光し検出する受光光学系、及び受光光学系の検出信号に基づく吸光度信号から試料水のCOD値を求める演算処理部を用いてCOD値を測定する方法において、測定セルとして上記の光路長可変型セルを使用し、測定光の光路に対してセル本体を固定し、光路長変更ブロックを測定光の光路に配置し又は配置しないことにより試料水に応じた光路長で吸光度を測定し、演算処理部において光路長に応じて吸光度をCOD値に換算するものである。
【0010】
本発明のCOD測定装置は、紫外領域の波長を含む光を発生する光源光学系、試料水中に光源光学系からの測定光を透過させる測定セル、測定セルを透過した測定光を受光し検出する受光光学系、及び受光光学系の検出信号に基づく吸光度信号から試料水のCOD値を求める演算処理部を用いてCOD値を測定する装置において、測定セルとして上記光路長可変型セルを使用し、測定光の光路に対してセル本体を固定し、光路長変更ブロックを測定光の光路を横切る方向に移動可能に支持し、演算処理部は前記測定セルでの測定時の光路長に応じて吸光度をCOD値に換算するCOD値換算部を備えているものである。
【0011】
上記COD測定装置の好ましい形態として、光路長変更ブロックを、測定光の光路を横切る方向に移動させる光路長変更機構を備え、演算処理部は、COD値に換算可能な上限吸光度を設定する上限吸光度設定部と、測定した吸光度と上限吸光度設定部で設定された上限吸光度とからその測定した吸光度が上限吸光度以下であるか否かを判定する吸光度判定部と、吸光度判定部がその測定された吸光度が上限吸光度より大きいと判定したときに光路長が短くなる方向に光路長変更ブロックを移動させるように光路長変更機構を制御する光路長制御部とを備え、COD値換算部は測定された吸光度が上限以下となったときの光路長に対応して吸光度をCOD値に換算するようにすることができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明の光路長可変型セルは、本体内に光路長変更ブロックを着脱するだけで光路長を変更することができるので、これまで装置の改造が必要であった光路長を、セル全体の改造をすることなく変更することができる。
光路長変更ブロックが互いに厚さの異なる2以上の平面対をもっている場合は、複数段階の光路長で測定することができるようになり、広い濃度範囲の試料に対応することができる。
【0013】
COD値を測定する装置において、この光路長可変型セルを使用することにより、広い濃度範囲の試料中のCODを測定することができる。
また、演算処理部が上限吸光度を設定しておき、測定吸光度がそれを越えたときに光路長を変更するようにすれば、光路長変更を自動化することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下に図面を参照して本発明の一実施例を詳細に説明する。
図1は一実施例の光路長可変型セル2を一使用状態で示した断面図である。
セル2は、互いに平行で対をなす光透過性の光入射窓10aと光出射窓10bをもつセル本体2bを備えている。セル本体2bはその下底部に試料導入穴16、上部にはセル本体2bの光出射窓10bよりも上方に設けられた試料排出穴17を備え、上部のセル蓋2aにはベアリング12により支持棒11を摺動可能に支持している。
セル本体2b内において、支持棒11の下端には透明材質の光路長変更ブロック14を備え、光路長変更ブロック14は平面対間の厚さの異なる2つの平面対14a及び14bを備えている。平面対14a,14bがセル本体を透過する測定光の光路上に位置決めされたときは、それらの平面は光入射窓10a及び光出射窓10bに平行に配置される。支持棒11の上端はセル蓋2aを貫通して光路長変更機構であるブロック移動用モータ15により駆動されるように結合されている。
【0015】
光源を含む光源光学系1と検出器を含む受光光学系4を結ぶ光路Xは固定されており、その光路Xが光入射窓10aから光出射窓10bを透過するように、セル本体2bが固定される。また、支持棒11と光路長変更ブロック14は、モータ15によって、平面対14a又は14bが光路Xを横切る方向に移動させられる。
【0016】
セル2において、光入射窓10aの内側から光出射窓10bの内側間の光路長は25mmであり、光路長変更ブロック14の厚さは平面対14aで15mm、平面対14bで19mmである。光入射窓10a、光出射窓10b、及び光路長変更ブロック14の材質としては、紫外線を透過する合成石英を用いるのが好ましい。
受光光学系4の検出器は演算処理部23に接続され、演算処理部23は受光光学系4の検出信号に基づく吸光度信号から試料水のCOD値を求める。演算処理部23はモータ15に接続され、モータ15を制御することで光路長変更ブロック14を垂直方向に移動させて光路長を変更する。
試料は試料導入穴16からセル2内部に導入され、試料排出穴17から排出される。
【0017】
図1に示す状態においては、光路長変更ブロック14は光路から外れており、光路長は光入射窓10aの内側から光出射窓10bの内側間の距離で決まる25mmである。
図2はセル2において光路長を1段階短くした状態での断面図である。モータ15を制御して支持棒11をセル2の垂直下方に移動させ、平面対14aを光路X上に位置決めする。
【0018】
図2に示す状態においては、光入射窓10aの内側から光出射窓10bの内側間(25mm)に、厚さ15mmの平面対14aを挿入したことで、測定光が試料を透過する光路長は(25mm−15mm)の10mmとなる。このとき、光入射窓10aと光路長変更ブロック14の幅は5mm、光出射窓10bと光路長変更ブロック14の幅も5mmとなるように光路長変更ブロック14がセルの光路長の中央に配置されている。
【0019】
図3は光路長可変型セル2において、光路長をさらに1段階短くした状態の断面図である。モータ15を制御して支持棒11をセル2の下方に移動させ、平面対14bを光路X上に位置決めする。
図3に示す状態においては、光入射窓10aの内側から光出射窓10bの内側間(25mm)に、厚さ19mmの平面対14bを挿入したことで、光路長は(25mm−19mm)の6mmとなる。このとき、光入射窓10aと光路長変更ブロック14の幅は3mm、光出射窓10bと光路長変更ブロック14の幅も3mmとなるようにブロック14がセルの光路長の中央に配置されている。
【0020】
このように、本実施例では、平面対の厚さが15mm、19mmである光路長変更ブロック14を測定光の光路を横切る方向に配置することで、装置を改造せずに試料を透過する光路長を25mm、10mm、6mmの3種類に変更することができる。
光入射窓10a,10b及び平面対により変更できる光路長の数は、上記に限定されるものではない。例えば、光路長を2段階、又は4段階以上にしてもよい。
【0021】
図4は演算処理部23及び演算処理部23に含まれるCOD値換算部28の機能を示したブロック図である。
演算処理部23は、COD値に変換可能な吸光度の上限を設定する上限吸光度設定部24、受光光学系4によって検出された吸光度が上限吸光度設定部24で設定された上限以下であるかどうかを判定する吸光度判定部26、吸光度が上限より大きい場合に光路長を1段階短く変更して吸光度を小さくする光路長制御部22、及びCOD値換算部28によって構成されている。光路長制御部22は、モータ15を含む光路長変更機構15aを制御する。
図1の状態で吸光度が設定値以下の場合は光路長を変更しないで、COD値換算部28でCOD値を算出する。
【0022】
COD値換算部28は、検量線設定部34とCOD値算出部36を備えている。検量線設定部34は、入力されたCODの手分析値に基づいて光路長ごとの検量線データを保持している。COD値算出部36は、光路長制御部22で決められた光路長を基にして検量線設定部34から検量線を呼び出し、受光光学系4の検出部で求められた吸光度からCOD値を算出する。
検量線設定部34は、1つの検量線データに対し光路長制御部22によって決められる光路長に対応するように検量線データを変換するものであってもよく、又は、ユーザーが異なる光路長ごとに手分析値を入力した検量線データを保持するものでもよい。
COD値算出部36によって決められたCOD値は表示部30に表示される。
【0023】
図5を参照してCOD値を算出する手順を説明する。
(1)上限吸光度設定部24にCOD値への換算が許容できる吸光度の上限を設定する。
(2)光路長を図1に示した状態に設定し、採水を開始する。
(3)検出部4で吸光度を測定する。
(4)測定した吸光度が上で設定した上限吸光度以下か否かを判定し、上限吸光度より大きい場合は光路長を図2で示す状態のように光路長を一段階短く変更し、再び吸光度を測定する。
(5)測定した吸光度がまだ上限より大きいときは、図3で示すようにさらに光路長を一段階短く設定し、再び吸光度を測定する。
(6)吸光度が上限吸光度以下になったところで、吸光度をCOD値に換算してCOD値を算出する。
(7)得られた結果をモニター等に表示して、一試料の分析が終了する。
【0024】
実施例はフローセルに適用したものであるが、本発明は試料を流通させないで収容するセルにも適用することができる。
【産業上の利用可能性】
【0025】
本発明は、排水や環境水の紫外線吸光度を測定してCOD値を求めるオンライン分析計などのCOD測定用分析計として利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】一実施例のセルを示す一使用状態での断面図である。
【図2】同実施例で光路長を一段短くした状態での断面図である。
【図3】同実施例で光路長をさらに短くした状態での断面図である。
【図4】同実施例の演算処理部及びCOD値換算部の機能を示すブロック図である。
【図5】同実施例において、COD換算式を決定する手順を示すフローチャートである。
【図6】COD測定装置として用いることのできる従来の吸光光度計の一例を示す概略構成図である。
【符号の説明】
【0027】
1 光源光学系
2 セル
2a セル蓋
2b セル本体
4 受光光学系
10a 光入射窓
10b 光出射窓
11 支持棒
12 ベアリング
14 光路長変更ブロック
14a,14b 平面対
15 ブロック移動用モータ
15a 光路長変更機構
16 試料導入口
17 試料排出口
22 光路長制御部
23 演算処理部
24 上限吸光度設定部
26 吸光度判定部
28 COD値換算部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに平行に配置された透明平板からなる光入射窓と光出射窓をもち、被測定液が収容され又は流通するセル本体と、
対をなす互いに平行な平面をもち、前記セル本体内で測定光の光路上に着脱可能に挿入される透明材質のブロック体であって、前記平面がセル本体を透過する測定光の光路上に位置決めされたときはその平面が前記光入射窓及び光出射窓に平行に配置される光路長変更ブロックと、を備えた光路長可変型セル。
【請求項2】
前記光路長変更ブロックは前記対をなす平面の平面対を2以上もち、それらの平面対は平面間の厚さが互いに異なっており、セル本体内への挿入方向に配置されている請求項1に記載の光路長可変型セル。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の光路長可変型セルを使用し、測定光の光路に対して前記セル本体を固定し、前記光路長変更ブロックを測定光の光路を横切る方向に移動させることにより複数の光路長での吸光度測定を可能にした吸光度測定方法。
【請求項4】
紫外領域の波長を含む光を発生する光源光学系、試料水中に前記光源光学系からの測定光を透過させる測定セル、前記測定セルを透過した測定光を受光し検出する受光光学系、及び前記受光光学系の検出信号に基づく吸光度信号から試料水のCOD値を求める演算処理部を用いてCOD値を測定する方法において、
前記測定セルとして請求項1又は2に記載の光路長可変型セルを使用し、測定光の光路に対して前記セル本体を固定し、前記光路長変更ブロックを測定光の光路に配置し又は配置しないことにより試料水に応じた光路長で吸光度を測定し、
前記演算処理部において光路長に応じて吸光度をCOD値に換算するCOD測定方法。
【請求項5】
紫外領域の波長を含む光を発生する光源光学系、試料水中に前記光源光学系からの測定光を透過させる測定セル、前記測定セルを透過した測定光を受光し検出する受光光学系、及び前記受光光学系の検出信号に基づく吸光度信号から試料水のCOD値を求める演算処理部を用いてCOD値を測定する装置において、
前記測定セルとして請求項1又は2に記載の光路長可変型セルを使用し、測定光の光路に対して前記セル本体を固定し、前記光路長変更ブロックを測定光の光路を横切る方向に移動可能に支持し、
前記演算処理部は前記測定セルでの測定時の光路長に応じて吸光度をCOD値に換算するCOD値換算部を備えているCOD測定装置。
【請求項6】
前記光路長変更ブロックを、測定光の光路を横切る方向に移動させる光路長変更機構を備え、
前記演算処理部は、COD値に換算可能な上限吸光度を設定する上限吸光度設定部と、
測定された吸光度と前記上限吸光度測定部で設定された上限吸光度とからその測定された吸光度が前記上限吸光度以下であるか否かを判定する吸光度判定部と、前記吸光度判定部がその測定された吸光度が上限吸光度より大きいと判定したときに光路長が短くなる方向に前記光路長変更ブロックを移動させるように前記光路長変更機構を制御する光路長制御部と、を備え、
前記COD値換算部は測定された吸光度が上限以下となったときの光路長に対応して吸光度をCOD値に換算するものである請求項5に記載のCOD測定装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2006−194775(P2006−194775A)
【公開日】平成18年7月27日(2006.7.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−7835(P2005−7835)
【出願日】平成17年1月14日(2005.1.14)
【出願人】(000001993)株式会社島津製作所 (3,708)
【Fターム(参考)】