説明

光軸シフト装置および光学装置

【課題】機械的な駆動機構を必要とせず簡便な構成によって高速な応答を可能とする光軸シフト装置を提供する。
【解決手段】光軸シフト装置は、対向して配置される一対の透明電極13,14と、所定の方向に配向処理されて一対の透明電極13,14の対向面側にそれぞれ設けられた一対の配向板15,16と、一対の配向板15,16の間に備えられ配向板15,16により液晶分子を所定の方向に初期配向させる液晶層17とをそれぞれ有し、透明電極13,14間への電圧の印加により液晶層17中の液晶分子の姿勢を変更させることにより液晶層17の実効的な屈折率を変化させる第1液晶素子10および第2液晶素子20を有して構成され、第1液晶素子10と第2液晶素子20とを互いに配向方向を直交して積層させてなるシフト平板2,3を入射光の光軸方向に対して傾斜させて配設する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、入射光の光軸を光学的にシフトさせる光軸シフト装置、および、この光軸シフト装置を用いた光学装置に関する。
【背景技術】
【0002】
検査装置、投射装置(プロジェクタ)、光ピックアップ装置などの光学装置においては、入射光に対して出射光を平行にシフトさせて光軸(光路)を切り換えることが可能な光軸シフト装置を用いることで各種機能を向上させることが行われている。例えば、特許文献1には、所定の厚さを有する複数の平行平面ガラスをそれぞれ異なる回動軸上に軸支して設け、各平行平面ガラスの回動軸周りの回動を制御することにより、各平行平面ガラスの入射光に対する傾斜を変更させることで、光軸を複数の方向にシフト(変位)させることができる光軸シフト装置が開示されている。この光軸シフト装置が適用された検査装置によれば、検査対象物の被検面に対して複数の方向に関して光軸シフトされた複数の画像を取得することが可能になり、表面検査の精度を向上させることができる。
【特許文献1】特許第3383381号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、このような光軸シフト装置においては、光軸をシフトさせるために平行平面ガラスの傾斜角度を制御するための駆動機構が必要となり、構成が複雑となって装置全体が大型化するとともに、製造コストが増大するという問題がある。また、光軸のシフト量を可変とするための可動部(平行平面ガラス)を駆動機構により制御するため振動などを生じやすく、光軸のシフトを高速に制御することが困難であるという問題もある。
【0004】
本発明はこのような課題に鑑みてなされたものであり、機械的な駆動機構を必要とせず簡便な構成によって高速な応答を可能とする光軸シフト装置、および、この光軸シフト装置を用いた光学装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
このような目的達成のため、本発明に係る光軸シフト装置は、対向して配置される一対の透明電極と、所定の方向に配向処理されて一対の透明電極の対向面側にそれぞれ設けられた一対の配向板と、一対の配向板の間に備えられ配向板により液晶分子を所定の方向に初期配向させる液晶層とをそれぞれ有し、透明電極間への電圧の印加により液晶層中の液晶分子の姿勢を変更させることにより液晶層の実効的な屈折率を変化させる第1液晶素子および第2液晶素子を有して構成され、第1液晶素子と第2液晶素子とを互いに配向方向を直交して積層させてなるシフト平板を入射光の光軸方向に対して傾斜させて配設する。
【0006】
なお、上述の発明において、第1液晶素子および第2液晶素子への印加電圧値を同一に制御することにより、第1液晶素子での実効的な屈折率と第2液晶素子での実行的な屈折率とを同一に制御するように構成されることが好ましい。
【0007】
また、上述の発明において、所定の方向とは、透明電極の対向面に平行な方向であることが好ましい。
【0008】
さらに、上述の発明において、一対の透明電極をそれぞれ対向面側に設けた平板状の一対の透明基板を備えて構成されることが好ましい。
【0009】
また、上述の発明において、シフト平板を2枚有して構成され、2枚のシフト平板が、一方のシフト平板を入射光の光軸に対して第1の基軸周りに傾斜させてなる第1シフト平板と、他方のシフト平板を入射光の光軸に対して第2の基軸周りに傾斜させてなる第2シフト平板とから構成されることが好ましい。
【0010】
さらに、上述の発明において、第1の基軸の方向と第2の基軸の方向とは互いに直交する方向であることが好ましい。
【0011】
また、上述の発明において、第1シフト平板と第2シフト平板とを、光軸上にそれぞれ複数配置して構成されることが好ましい。
【0012】
さらに、本発明に係る光学装置は、上記構成の光軸シフト装置を用いて構成されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、機械的な駆動機構を必要とせず簡便な構成により、入射光の光軸を高速でシフトさせることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、図面を参照して本発明の好ましい実施形態について説明する。本実施形態に係る光軸シフト装置の概略構成を図1に示している。なお、図1において図示の通りにXYZ直交座標系を設定し、この座標系を参照しつつ説明する。
【0015】
光軸シフト装置1は、XY平面に対してX軸に平行な基軸X′周りに角度αだけ傾けて配置された第1シフト平板2と、XY平面に対してY軸に平行な基軸Y′周りに角度βだけ傾けて配置された第2シフト平板3とを有して構成される。各シフト平板2,3は、液晶の配向方向が互いに直交するようにして貼り付けられた2枚の液晶素子10,20をそれぞれ有して構成される。
【0016】
各液晶素子10,20は、図2に示すように、対向配置された一対の透明基板11,12と、これらの透明基板11,12の内面側にそれぞれ設けられた一対の透明電極13,14と、これらの透明電極13,14上にそれぞれ設けられた一対の配向板15,16と、透明基板11,12間に配向板15,16を介して充填され、これら配向板15,16に処理された配向方向に多数の液晶分子18が配列された液晶層(ネマティック液晶層)17と、この液晶層17を封止(シール)する矩形枠形状の封止部材19とを有して構成される。
【0017】
透明基板11,12としては、ガラス、プラスチック、フィルムなどの光学的に透明な材料が用いられる。また、透明電極13,14としては、ITOなどが用いられる。この一対の透明電極13,14には、不図示の電源装置から矩形波交流電圧が印加される。
【0018】
配向板15,16には、液晶層17の異常光屈折率方向が所定の方向(透明基板11,12の表面に対して平行な方向)を向くように配向処理(平行配向処理)を施している。配向処理は、ポリイミドなどを主成分とする配向膜を表面にスピンコートした後、布などで上記所定の方向にラビングする方法によりなされている。
【0019】
液晶層(ネマチック液晶層)17は、透明電極13,14および配向板15,16を介して透明基板11,12と、封止部材19とで囲まれた空間内に封入されている。この液晶層17の液晶分子18は、ラビング処理が施された配向板15,16によって初期配向が規制されている。このため、液晶分子18は、その長軸が電圧非印加時に透明基板11,12の対向面に対して平行な上記所定の方向(図2で示すA方向)となるように配列される。
【0020】
また、液晶層17は、この液晶層17の配向方向に平行な方向の偏光成分の光(異常光)に対する屈折率が液晶分子18の角度により変化する特性を有している。このことから、外部から透明電極間に印加する電圧(矩形波交流電圧)を変化させることで、液晶分子18の分子配列が変化し(図4参照)、その液晶分子18の角度により液晶層17の実質的な屈折率を変化させることができる。また、液晶層18の配向方向に垂直な方向の偏光成分の光は、液晶層17内で常光として直進する。
【0021】
そして、各シフト平板2,3は、図3に示すように、2枚の液晶素子10,20をその液晶の配向方向が互いに直交するようにして、互いの透明基板11,12の表面(液晶素子10の下面側の透明基板12と液晶素子20の上面側の透明基板11と)を張り合わせて構成されている。
【0022】
そして、光軸シフト装置1は、これら各シフト平板2,3のうち、第1シフト平板2をXY平面(水平面)に対してX軸に平行な基軸X′周りに角度αだけ傾けて配置するとともに、第2シフト平板3をXY平面(水平面)に対してY軸に平行な基軸Y′周りに角度βだけ傾けて配置することで構成されている。なお、ここで第1シフト平板2の傾斜角度αと第2シフト平板3の傾斜角度βとは同一の大きさの角度でもよいし、互いに相違する大きさの角度として構成してもよいものである。
【0023】
このとき、各シフト平板2,3は、上述したように、配向方向が互いに直交するようにして2枚の液晶素子10,20を張り合わせて構成されるため、それぞれの液晶層17内に入射する光に対して、液晶の配向方向に平行な方向の偏光成分については液晶層17内で屈折を生じさせ、液晶の配向方向に垂直な方向の偏光成分については液晶層17内を直進させる。
【0024】
すなわち、これら各シフト平板2,3への入射光において、一方の液晶素子10の配向方向との関係で平行な偏光成分の光は、他方の液晶素子20の配向方向との関係では垂直な方向の偏光成分の光となる。これとは逆に、一方の液晶素子10の配向方向との関係で垂直な方向の偏光成分の光は、他方の液晶素子20の配向方向との関係では平行な方向の偏光成分の光となる。このため、一方の液晶素子10への印加電圧値と他方の液晶素子20への印加電圧値とを同一に制御することで、これらの偏光成分を有する入射光は、偏光成分ごとに各液晶素子10,20の液晶層17内で同一変位量の屈折あるいは直進の作用を受け、シフト平板2,3の入射面内で距離dだけ光軸をシフト(変位)させて出射することになる。したがって、シフト平板2,3への入射光を、見かけ上は屈折率nでシフト平板の入射面内において屈折させて、光軸を距離dだけシフト(変位)させるようにすることができる。
【0025】
ここで、上記の光軸のシフト量dは、
d=t・sinθ(1−tanθ/tanθ
で表すことができる(図5参照)。このとき、tはシフト平板2,3の厚さ、θはシフト平板2,3に対する光軸の入射角、θはシフト平板2,3に対する光軸の屈折角、nはシフト平板2,3の屈折率である。このうち入射角θは、各シフト平板2,3の傾き角度α,βに応じて定まることになる。また、スネルの法則により、屈折角θは、
θ=sin−1{(n・sinθ)/n}
で表すことができる。このとき、nはシフト平板2,3の外部の屈折率である。すなわち、印加電圧値を変化させることで屈折率nを変化させることにより、光軸を所望のシフト量dだけシフト(変位)させることが可能になる。
【0026】
このように構成される光軸シフト装置1では、まず、第1シフト平板2への入射光を、この第1シフト平板2の入射面内でY方向に光軸を距離dだけシフト(変位)させて出射する。次いで、この出射光を第2シフト平板3により、第2シフト平板3の入射面内でX方向に距離dだけシフト(変位)させて出射する。そして、これらシフト平板2,3による光軸のシフト(変位)を組み合わせることで、各シフト平板2,3(液晶層17)への印加電圧値を変化させてシフト平板2,3それぞれの実効屈折率を変化させることにより、入射光の光軸を二次元(XY平面内)で任意にシフト制御することが可能になる。
【0027】
それでは、このような光軸シフト装置1を用いた光学装置への適用例について、以下4つの実施例を説明する。
【0028】
まず、光軸シフト装置1を用いた表面検査装置への適用例について、図6を参照して説明する。表面検査装置は、散乱光により被検物(例えば、半導体ウェハ)の表面欠陥を検出するようになっており、照明部30、ステージ36、受光部40、光軸シフト装置1、画像処理部(制御部)43、および画像表示部44を有して構成される。
【0029】
ステージ36は、不図示の搬送装置によって搬送されてきた被検物35を、その上面の被検面を水平面内(XY平面内)に位置させた状態でステージ36の表面に載置して、例えば真空吸着により固定保持する。また、ステージ36はステージ回転機構37によりステージ36の表面に直交する所定の回転軸を中心として水平面内で回転可能に構成されている。
【0030】
照明部30は、照明光源31、レンズ32、スリット33、および照射レンズ34を有して構成されており、照明光源31から出射される検査用照明光は、レンズ32により共役面が形成される位置に配置されたスリット33を通過したのち、照射レンズ34により平行光束に変換されて均一な照明として被検物35の被検面全体を照明する。
【0031】
受光部40は、被検物35の被検面から散乱された光の一部を結像させる受光レンズ41と、検出面上に所定の大きさの多数の画素を有するCCDカメラ42とを有して構成されており、その受光光軸がステージ36の表面に載置された被検物35の法線方向(Z方向)と平行になるように設けられている。
【0032】
このとき、被検物35の被検面上に傷や異物などの欠陥が存在すると、被検面に照射された検査用照明光はこのような欠陥に当たって散乱される。この散乱光のうち、被検物35のほぼ法線方向(Z方向)に向かう光は、受光レンズ41により集光されてCCDカメラ42の撮像面に結像される。この結果、被検物35の被検面に存在する傷や異物の像がCCDカメラ42により撮像され画像信号に光電変換される。
【0033】
CCDカメラ42からの画像信号は、配線を介して画像処理部43および画像表示部44に送られる。画像処理部43は、CCDカメラ42の撮像素子(イメージデバイス)により変換された被検面の画像信号に基づいて、輝度が所定の閾値を超える部分に傷や異物などの欠陥が存在すると判断して欠陥抽出の処理を行う。画像表示部44は、CCDカメラ42により撮像された画像(または画像処理部により処理がされた画像)を画面45に表示する。このため、CCDカメラ(撮像素子)42からの撮像情報を画像処理部43により画像処理して画像表示部44の画面45に表示される画像には、傷や異物などの欠陥を示す輝点(所定閾値の輝度よりも明るい輝度を有する部分)が現れ、これにより被検物35における表面欠陥の存在を検出することができる。
【0034】
このとき、受光レンズ41とCCDカメラ42との間の光路上には、光軸シフト装置1が介在して設けられている。この光軸シフト装置1は、上述したように、画像処理部(制御部)43からの印加電圧を変化させて各シフト平板2,3それぞれの実効屈折率を変化させることにより、入射光の光軸をXY平面内で任意にシフト制御することが可能である。したがって、検査画像を取得する場合には、CCDカメラ42の撮像素子間の間隔(画素ピッチ)に対して、X方向およびY方向に入射光(散乱光)の光軸に変位を与えたそれぞれの位置でCCDカメラ42への入射光像を撮像する。そして、これらの位置で撮像した画像を画像処理部43によって合成処理等することにより、取得画像の解像度を向上させることができる。
【0035】
例えば、光軸を変位させていない初期画像と、X方向に画素ピッチの1/2の距離、Y方向に画素ピッチの1/2の距離、およびX,Y方向に画素ピッチの1/2の距離だけ変位を与えて撮像した画像との計4枚の画像を、画像処理部43によって合成処理することで、CCDカメラ42に用いた撮像素子の画素数よりも高画素化された検査画像を取得することができる。このように、高解像化を実現するために必要な光学系の構成を小さくすることができ、精度の高い表面欠陥検査を行うことが可能になる。
【0036】
次に、光軸シフト装置1を用いた顕微鏡装置への適用例について、図7を参照して説明する。顕微鏡装置は、光源51、レンズ52、開口絞り53、ハーフミラー54、対物レンズ55、スリット56、結像レンズ57、光軸シフト装置1、CCDカメラ58、画像処理部(制御部)59、および画像表示部60を有して構成される。
【0037】
このうち、光源51、レンズ52、開口絞り53、ハーフミラー54、および対物レンズ55が照明光学系(落射照明系)LS1を構成しており、対物レンズ55、ハーフミラー54、スリット56、および結像レンズ57が観察光学系LS2を構成している。なお、照明光学系LS1と観察光学系LS2とは、ハーフミラー54から対物レンズ55までの光路を共有している。
【0038】
このように構成される顕微鏡装置では、照明光学系LS1の光源51からの出射光は、レンズ52によって開口絞り53の位置で一旦集光された後、ハーフミラー54で垂直下方へ(折り曲げられるように)反射されたのち、対物レンズ55を介して撮像対象の標本(標本面)62を照射する。標本(標本面)62から反射された光は、再び対物レンズ55を通ってハーフミラー54を透過した後、観察光学系LS2の単独光路へ入る。
【0039】
そして、ハーフミラー54を透過した光は、スリット56を介して結像レンズ57によってCCDカメラ58の撮像面上に結像されて標本像が形成される。この標本像はCCDカメラ58によって撮像され、画像信号に光電変換された後、配線を介して画像処理部(制御部)59および画像表示部60に送られる。そして、CCDカメラ58からの画像信号に基づいて画像処理部59により画像処理がなされ、画像表示部60の画面61に標本62の画像を表示させることができる。
【0040】
このとき、結像レンズ57とCCDカメラ58との間の光路上には、光軸シフト装置1が介在して設けられている。この光軸シフト装置1は、上述したように、画像処理部(制御部)59からの印加電圧を変化させてシフト平板2,3それぞれの実効屈折率を変化させることにより、入射光の光軸をXY平面内で任意にシフト制御することが可能である。したがって、標本画像を取得する場合には、先に説明した表面検査装置と同様に、CCDカメラ58の撮像素子間の間隔(画素ピッチ)に対して、X方向およびY方向に入射光の光軸に変位を与えたそれぞれの位置でCCDカメラ58への入射光像を撮像する。そして、これらの位置で撮像した画像を画像処理部59によって合成処理等することにより、取得画像の解像度を向上させることができる。
【0041】
次に、光軸シフト装置1を用いた投射装置(液晶プロジェクタ)への適用例について、図8を参照して説明する。この液晶プロジェクタは、照明部70、液晶ライトバルブ74、光軸シフト装置1、および投射レンズ75を有して構成される。
【0042】
照明部70は、光源71、メニスカスレンズ72、およびコンデンサレンズ73を備えている。この光源71からの出射光はメニスカスレンズ72で拡散されたのちコンデンサレンズ73により平行光に変換され、液晶ライトバルブ74の有効画素領域を照射する。また、照明部70はその光軸上に不図示のフィルタを有しており、照明光に含まれる不要な紫外線成分や赤外線成分などを吸収する。
【0043】
液晶ライトバルブ74は、光の入射側および出射側に設けられた一対の偏光板(図示しない)に挟まれる透過型液晶パネルから構成される。液晶ライトバルブ74は、入射光を入力された画像情報に応じて空間光変調を行い、これを変調光として出射(透過)する。液晶ライトバルブ(透過型液晶パネル)74の各画素は印加電圧を制御することにより液晶分子の配列が変化し、液晶層が位相板の役目を果たすようになっている。そして、液晶ライトバルブ74は、入射光を入力された画像情報に応じて印加電圧を制御することにより、透過型液晶パネルを構成する画素単位で偏光状態を輝度変調して出射する。
【0044】
投射レンズ75は、液晶ライトバルブ74から出射された変調光(画像光)をスクリーン76に拡大投射する。これによりスクリーン76には、拡大投影された画像が写し出される。なお、液晶ライトバルブ74において輝度変調されて投射レンズ75を介してスクリーン76に写し出される投射画像の一部を図9(a)に示す。
【0045】
このとき、液晶ライトバルブ74と投射レンズ75との間の光路上には、光軸シフト装置1が介在して設けられている。この光軸シフト装置1は、上述したように、不図示の電源装置からの各シフト平板(液晶層)への印加電圧値を変化させてシフト平板2,3それぞれの実効屈折率を変化させることにより、入射光の光軸をXY平面内で任意にシフト制御することが可能である。したがって、画像光をスクリーン76に投射する場合には、この光軸シフト装置1によって画像光を所定のシフト量だけ変位させて写し出すことができる。これにより、光軸シフト装置1により表示位置をずらした状態の画像パターンを繰り返し表示させることで、液晶ライトバルブ(透過型液晶パネル)74の見かけ上の画素数を倍増してスクリーン76に表示させることができる。
【0046】
例えば、シフトなしの状態と、X方向に画素ピッチの1/2のシフト量を変位させた状態と、Y方向に画素ピッチの1/2のシフト量を変位させた状態と、X,Y方向に画素ピッチの1/2のシフト量を変位させた状態とで、画素ずらしをした4つの表示位置による画像パターンを順次繰り返し表示させることで、液晶ライトバルブ74(透過型液晶パネル)の画素の配列方向に対して見かけ上4倍の画素数倍増がされた投射画像を得ることができる(図9(b)参照)。
【0047】
また、同様にして画像光を画素ピッチの1/3のシフト量を画素の配列方向に順次変位させて、9つの表示位置による画像パターンを繰り返し表示させることとすると、液晶ライトバルブ(透過型液晶パネル)74の画素の配列方向に対して、見かけ上9倍の画素数倍増がされた投射画像を得ることができる(図9(c)参照)。
【0048】
したがって、光軸シフト装置1によるシフト量に応じて画素区画を細分化することにより、投射画像の解像度、階調を高め、高精細な画像を表示させることができる。特に、投射画像のエッジ部分などを滑らか、かつ自然に表示させることができる。また、投射画像が重なることにより、明るい投射画像を表示させることができる。
【0049】
次に、光軸シフト装置1を用いた光ピックアップ装置への適用例について、図10を参照して説明する。光ピックアップ装置は、光ディスク94を回転ステージ95により定速回転させ、光ピックアップ装置から出射したレーザビーム光を光ディスク94の記録面94aに集光させることで情報の記録を行い、また、記録面94aからの反射光を検出することで光ディスク94に記録されている情報の再生を行う。この光ピックアップ装置は、固定ヘッド部80と可動ヘッド部90とを有して構成される。
【0050】
固定ヘッド部80は、半導体レーザ等の光源81、光軸シフト装置1、光源81から出射されたレーザ光をメニスカスレンズ82を介して平行なビーム光に変換するコリメータレンズ83、ビームスプリッタ84、収束レンズ85、および光ディスク94の記録面94aからの反射光を検出する光検出器(フォトセンサ)86を有して構成される。
【0051】
可動ヘッド部90は、固定ヘッド部80から出射されたビーム光を上方に90度方向変換させる反射ミラー91、ビーム光をスポット径1μm程度に絞って光ディスク94の記録面94aに集光させる対物レンズ92、不図示のフォーカシング・アクチュエータおよびトラッキング・アクチュエータ等を内蔵しており、ガイド機構93に沿ってベース上を光ディスク94のトラッキング方向(ラジアル方向)にリニア駆動され、微動トラッキング・アクチュエータとともにトラッキング制御される。
【0052】
このような構成において、光源81から出射されたレーザ光は、メニスカスレンズ82で拡散されコリメータレンズ83により平行なビーム光に変換された後、ビームスプリッタ84を透過し、反射レンズ91によって上方に方向変換され対物レンズ92に入射される。この対物レンズ92に入射されたレーザビーム光は、対物レンズ92により光ディスク94の記録面94aに集光されることで微小レーザ光スポットを形成し、情報の書き込みを行う。また、ビーム光で記録面94a上に記録されている微小マーク(ピット)を照射すると、記録面94aからの反射光はマークによって変化する。この記録面94aから反射されたビーム光は、上記経路とは逆の経路を通って固定ヘッド部80へ送られる。そして、固定ヘッド部80のビームスプリッタ84および収束レンズ85を介して光検出器86へ導かれ、ここで電気信号に変換され、光ディスク94に記録されている情報が再生される。
【0053】
ところで、このような光ピックアップにおいては、反射ミラー91の上下動や、この光ピックアップ装置の各構成部品の取付精度などに起因して、光ディスク94の記録面94aに集光される焦点位置にずれが生じ、データの書き込みエラーや読み出しエラーを引き起こすおそれがある。
【0054】
このとき、光源81とメニスカスレンズ82との間の光路上には、光軸シフト装置1が介在して設けられている。この光軸シフト装置1は、上述したように、不図示の電源装置からの印加電圧を変化させてシフト平板2,3それぞれの実効屈折率を変化させることにより、入射光の光軸をXY平面内で任意にシフト制御することが可能である。したがって、情報の記録などを行う場合には、光源から出射されるレーザビームの光軸を任意の方向にシフト(変位)させることができる。このため、光軸シフト装置1によって、光軸ずれを打ち消す方向にレーザビームの光軸をシフト調整することにより、光軸のずれを防止して光ディスク94を良好に記録・再生することができる。
【0055】
以上、このような構成の光軸シフト装置1によれば、光軸をシフトさせるための駆動機構を必要とせず、液晶の実行屈折率を印加電圧値により制御することで、入射光に対する光軸のシフト方向およびシフト量を高精度に制御することができる。また、このように簡便な構成とすることで、装置全体を小型コンパクト化することができるとともに、製造コストを低減させることができる。さらに、液晶素子を用いることにより動作速度が向上し、光軸を高速にシフト制御することが可能になる。
【0056】
なお、上述の実施形態においては、光軸シフト装置1を2枚のシフト平板2,3により構成した場合について説明したが、本発明の技術的範囲はこれに限定されるものではなく、シフト平板をさらに複数配置して構成することにより、光軸を多段階にシフトさせることができるようになる。これによれば、光軸のシフト量を同方向に段階的に変化させることで大きなシフト量を得ることができる一方で、シフト量が互いに打ち消されるように印加電圧値を調整することでシフト量をきめ細かく制御することができる。
【0057】
また、上述の実施形態においては、光軸シフト装置1を用いた表面検査装置、顕微鏡装置、投射装置(液晶プロジェクタ)、および光ピックアップ装置への適用例について説明したが、本発明の技術的範囲はこれに限定されるものではなく、光学シフト装置を用いて他の光学装置へ適用させて構成してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】本実施形態に係る光軸シフト装置の構成を示す模式図である。
【図2】本実施形態に係る光軸シフト装置の液晶素子の構成を示す模式図である。
【図3】本実施形態に係る光軸シフト装置のシフト平板の構成を示す模式図である。
【図4】本実施形態に係る光軸シフト装置の液晶素子の動作を示す模式図である。
【図5】本実施形態に係る光軸シフト装置のシフト平板での光軸のシフト量を説明するための図である。
【図6】本実施形態に係る光軸シフト装置を用いた表面検査装置への適用例を示す模式図である。
【図7】本実施形態に係る光軸シフト装置を用いた顕微鏡装置への適用例を示す模式図である。
【図8】本実施形態に係る光軸シフト装置を用いた投射装置への適用例を示す模式図である。
【図9】上記投射装置での投射画像の一部を示す図であり、(a)は画素ずらしなしの状態を示し、(b)は1/2画素ずらしによる画像を繰り返し表示した状態を示し、(c)は1/3画素ずらしによる画像を繰り返し表示した状態を示す。
【図10】本実施形態に係る光軸シフト装置を用いた光ピックアップ装置への適用例を示す模式図である。
【符号の説明】
【0059】
1 光軸シフト装置 2 第1シフト平板(シフト平板)
3 第2シフト平板(シフト平板) 10 液晶素子(第1液晶素子)
11,12 透明基板 13,14透明電極 15,16 配向板
17 液晶層 18 液晶分子 20 液晶素子(第2液晶素子)
X′ 基軸(第1の基軸) Y′ 基軸(第2の基軸)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
対向して配置される一対の透明電極と、
所定の方向に配向処理されて前記一対の透明電極の対向面側にそれぞれ設けられた一対の配向板と、
前記一対の配向板の間に備えられ前記配向板により液晶分子を前記所定の方向に初期配向させる液晶層とをそれぞれ有し、
前記透明電極間への電圧の印加により前記液晶層中の前記液晶分子の姿勢を変更させることにより前記液晶層の実効的な屈折率を変化させる第1液晶素子および第2液晶素子を有して構成され、
前記第1液晶素子と前記第2液晶素子とを互いに配向方向を直交して積層させてなるシフト平板を入射光の光軸方向に対して傾斜させて配設すること特徴とする光軸シフト装置。
【請求項2】
前記第1液晶素子および前記第2液晶素子への印加電圧値を同一に制御することにより、前記第1液晶素子での実効的な屈折率と前記第2液晶素子での実行的な屈折率とを同一に制御することを特徴とする請求項1に記載の光軸シフト装置。
【請求項3】
前記所定の方向とは、前記透明電極の対向面に平行な方向であることを特徴とする請求項1または2に記載の光軸シフト装置。
【請求項4】
前記一対の透明電極をそれぞれ対向面側に設けた平板状の一対の透明基板を備えて構成されることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の光軸シフト装置。
【請求項5】
前記シフト平板を2枚有して構成され、
前記2枚のシフト平板が、
一方の前記シフト平板を入射光の光軸に対して第1の基軸周りに傾斜させてなる第1シフト平板と、
他方の前記シフト平板を入射光の光軸に対して第2の基軸周りに傾斜させてなる第2シフト平板とから構成されることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の光軸シフト装置。
【請求項6】
前記第1の基軸の方向と前記第2の基軸の方向とは互いに直交する方向であることを特徴とする請求項5に記載の光軸シフト装置。
【請求項7】
前記第1シフト平板と前記第2シフト平板とを、光軸上にそれぞれ複数配置して構成されることを特徴とする請求項5または6に記載の光軸シフト装置。
【請求項8】
請求項1から7のいずれかに記載の光軸シフト装置を用いて構成されることを特徴とする光学装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2010−2497(P2010−2497A)
【公開日】平成22年1月7日(2010.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−159356(P2008−159356)
【出願日】平成20年6月18日(2008.6.18)
【出願人】(000004112)株式会社ニコン (12,601)
【Fターム(参考)】