説明

光輝性複層塗膜の形成方法

【課題】見る角度によって、空色系の色相から群青色系の色相へと青色の同系色内で連続して色相が変化し、しかも、塗装物の正面から見た場合、すなわちハイライト部で高彩度に光り輝くだけでなく、塗装物の斜めから見た場合、すなわちシェード部でも高彩度で光り輝くことができる、独特の意匠を有する光輝性複層塗膜の形成方法を提供する。
【解決手段】下地塗膜層を形成した基材上に、光輝性ベース塗膜層を形成し、さらにその上にクリヤー塗膜層を形成する、光輝性複層塗膜の形成方法であって、光輝性複層塗膜が、マンセル表色系において、所定の色相、明度、彩度を有するように着色顔料および光輝性顔料の濃度、粒径を規定した光輝性複層塗膜の形成方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車車体などの塗装に適用することのできる独特の優れた意匠を有する光輝性複層塗膜の形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車車体などの基材の表面には、種々の役割を持つ複数の塗膜を順次形成して、基材を保護すると同時に美しい外観および優れた意匠を付与している。複層塗膜の形成方法としては、導電性に優れた基材上に電着塗膜などの下塗り塗膜を形成し、その上に、中塗り塗膜、上塗り塗膜を順次形成する方法が一般的である。特に、塗膜の外観および意匠を大きく左右するのは、ベース塗膜とクリヤー塗膜とからなる上塗り塗膜である。特に、自動車において、ベース塗膜とクリヤー塗膜とからなる上塗り塗膜の外観および意匠は、極めて重要である。また、最近では、消費者は、ソリッドカラーよりも、キラキラした光輝感のある塗色を好む傾向がある。キラキラした光輝感は、自動車などの複雑な形状の意匠そのものを強調する効果があり、特に、外側からよく見えて光のよく当たるフェンダー部やドア部のプレスラインを強く強調する効果がある。このような効果は、光輝性塗膜に含まれる光輝性顔料によるものであり、自動車のこのような複雑な形状の部分では、光の反射角度が複雑に変化するので、キラキラした光輝感を有する光輝性塗膜の役割は非常に重要となる。また、最近では、消費者の嗜好も高まり、キラキラした光輝感に加えて、見る角度によって色が変化するなどのさらなる意匠が塗膜に求められる。
【0003】
例えば、特開2002−275421号公報(特許文献1)は、光輝性顔料として、金属酸化物被覆アルミナフレーク顔料およびマイカ顔料の使用を開示する。また、この金属酸化物被覆アルミナフレーク顔料の平均粒子径とマイカ顔料の平均粒子径の比率を特定範囲とすることで、多方面反射によるキラキラした光輝感および立体的な光輝感、さらに、緻密感と白味感とを併せ持つ光輝性塗膜を形成することができる。
【0004】
特開2003−73620号公報(特許文献2)は、カラーベース塗膜の上に、2種以上の干渉光輝性顔料を含む光輝性塗料組成物を塗布して干渉性ベースクリヤーコート層を形成し、その上にトップクリヤーコート層を形成する塗膜形成方法を開示する。この方法によると、見る角度によって3色性の意匠を発現する塗膜を形成することができる。
【0005】
特開2003−73621号公報(特許文献3)は、カラーベース塗膜の上に、2種以上の干渉光輝性顔料を含む光輝性塗料組成物を塗布して干渉光輝性ベースコート層を形成し、さらにその上にトップクリヤーコート層を形成する光輝性塗膜形成方法を開示する。この方法によると、干渉作用を有する立体感のあるキラキラした光輝感を発現する塗膜を形成することができる。
【0006】
特開2005−239801号公報(特許文献4)は、2種類の粒径の異なるアルミニウムフレーク顔料を使用し、さらに、それらの配合量を規定したメタリック塗料組成物を開示する。また、このメタリック塗料組成物を使用すると、生産性の高いウェットオンウェットの2コート1ベーク塗装方法によって、粒子感、光輝感、フリップフロップ性、隠蔽性の全てを満足するメタリック塗膜を形成することができる。
【0007】
特開2007−70424号公報(特許文献5)は、光輝性顔料として、2種類の酸化チタン被覆アルミナフレークを含むメタリック塗料組成物を開示する。このメタリック塗料組成物は、さらに、干渉パール顔料を含んでいてもよく、このメタリック塗料組成物によって、ハイライトで光輝感が強く、緻密性に優れた黄味の少ない外観、すなわちホワイトパール色の塗膜を形成することができる。
【0008】
特開2008−237939号公報(特許文献6)は、2種類の粒径の異なるアルミニウム顔料を含む第1のベース光輝性塗料と、微小鱗片状顔料を含む第2のベース光輝性塗料と、クリヤー塗料とを順次塗装する、金属調光輝性塗膜形成方法を開示する。この方法によると、下地隠蔽性に優れかつ高度の真珠光沢と金属光沢とを併せ持つ光輝感ならびに立体的な光輝感を有する塗膜を形成することができる。
【0009】
しかし、これらの塗膜は、いずれも、メタリック色を含むシルバー系や、パール色を含む白色系のものである。
【0010】
従来日本では、シルバー系や白色系の塗色が好まれる傾向にあったが、最近では、よりカラフルな光輝性塗膜が好まれる傾向にあり、特に、日本以外でも、ヨーロッパやアメリカなどの国では、金色、黄色、緑色、青色などで、しかも、あざやか(高彩度)で光輝感の強い塗色の人気がすごく高い。
【0011】
しかし、光輝性塗膜は、一般に、光がよく当たる、いわゆるハイライト部では干渉色により高彩度(あざやか)となるが、光がよく当たらない、いわゆるシェード部では彩度が急激に低下する傾向がある。また、青色を含む暗色系の塗膜では、黒色が光を吸収するため、シェード部においてあざやかさ(高彩度)を得ることは非常に困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2002−275421号公報
【特許文献2】特開2003− 73620号公報
【特許文献3】特開2003− 73621号公報
【特許文献4】特開2005−239801号公報
【特許文献5】特開2007− 70424号公報
【特許文献6】特開2008−237939号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、青色系の色相を有する従来にない独特な意匠を有する光輝性複層塗膜の形成方法の提供を目的とし、特に、見る角度によって、いわゆる空色系の色相から群青色系の色相へと青色系の同系色内で連続して色相が変化し、しかも、塗装物の正面から見た場合、すなわちハイライト部で高彩度に光り輝くだけでなく、塗装物の斜めから見た場合、すなわちシェード部でも高彩度で光り輝くことができる、従来にない独特の意匠を有する光輝性複層塗膜の形成方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、鋭意検討の結果、塗料に、光輝性顔料(a)と、着色顔料(b)とをそれぞれ特定の量で配合し、光輝性顔料(a)として、反射光が青色系の平均粒径の異なる少なくとも2種類の光輝性顔料(a1)平均粒径10〜25μmの酸化チタン被覆アルミナフレーク顔料および(a2)平均粒径5〜15μmの酸化チタン被覆マイカフレーク顔料を使用し、着色顔料(b)として、少なくともカーボンブラック着色顔料を使用することによって、色相が、いわゆる空色系の色相から群青色系の色相へと青色系の同系色内で連続して変化し、しかも、塗装物のハイライト部だけでなく、シェード部でも高彩度で光り輝くことができる、従来にない青色系の独特な意匠を有する光輝性複層塗膜が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。従って、本発明は以下の光輝性複層塗膜の形成方法を提供する。
【0015】
下地塗膜層を形成した基材上に、光輝性ベース塗膜層を形成し、さらにその上にクリヤー塗膜層を形成する、光輝性複層塗膜の形成方法であって、
光輝性複層塗膜が、マンセル表色系において、マンセル色相環(20色相)の10BG〜10Bから選択される色相から、10PB〜10Pから選択される色相までの青色系の色相(H)、ならびに、0〜5の明度(V)および0〜8の彩度(C)を有し、
光輝性ベース塗膜層を形成する光輝性ベース塗料組成物が、光輝性顔料(a)と、着色顔料(b)とを含み、
前記顔料(a)が、アルミナフレーク顔料(a1)と、マイカフレーク顔料(a2)とを含み、
前記顔料(a1)が、反射光が青色系の平均粒径10〜25μmの酸化チタン被覆アルミナフレーク顔料であり、
前記顔料(a2)が、反射光が青色系の平均粒径5〜15μmの酸化チタン被覆マイカフレーク顔料であり、
前記顔料(a1)の濃度(PWC)が、0.1〜30質量%であり、
前記顔料(a2)の濃度(PWC)が、0.1〜30質量%であり、
前記顔料(a1)および(a2)の合計濃度(PWC)が、0.2〜60質量%であり、前記顔料(b)が、カーボンブラック着色顔料であり、前記顔料(b)の濃度(PWC)が、0.1〜20質量%である、光輝性複層塗膜の形成方法。
【0016】
本発明の光輝性複層塗膜の形成方法において、好ましくは、前記顔料(a1)の反射光は、マンセル色相環(20色相)の10BG〜10PBの色相を有し、前記顔料(a2)の反射光は、マンセル色相環(20色相)の5B〜5Pの色相を有する。
【0017】
本発明の光輝性複層塗膜の形成方法において、好ましくは、前記顔料(a1)および(a2)の質量比((a1)/(a2))が、2/8〜8/2である。
【0018】
本発明の光輝性複層塗膜の形成方法において、好ましくは、前記光輝性複層塗膜が、マンセル色相環(20色相)の10BGから10Pの青色系の色相(H)を有する。
【0019】
本発明の光輝性複層塗膜の形成方法において、前記光輝性複層塗膜が、広い干渉幅を有する。
【0020】
本発明の上記の光輝性複層塗膜の形成方法によって形成される、光輝性ベース塗膜層と、クリヤー塗膜層とを含む光輝性複層塗膜。
【発明の効果】
【0021】
本発明によって形成される光輝性複層塗膜は、上述のように、見る角度によって、マンセル色相環(20色相)の10BG〜10Bの色相(いわゆる「空色」系)から、10PB〜10Pの色相(いわゆる「群青色」系)に連続して色相(H)が変化するが、図2で示すように、塗装物(1)の入射光(5)がよく当たるハイライト部(2)を正面から見た場合、マンセル色相環(20色相)の10BG〜10Bの色相(H)(いわゆる「空色」系)を発色し、しかも光輝性塗膜に含まれる少なくとも2種類の平均粒径の異なる光輝性顔料の作用によって、塗膜はキラキラと高彩度に輝くことができる。従って、本発明で形成される光輝性複層塗膜を自動車車体などの複雑な形状の被塗物に適用した場合、フェンダーやプレスラインなどの被塗物の意匠そのものを際立たせる効果が得られる。また、図2で示す塗装物(1)のシェード部(3)ではマンセル色相環(20色相)の10PB〜10P(いわゆる「群青色」系)の色相(H)を発色し、なおかつ、光輝性塗膜に含まれる少なくとも2種類の平均粒径の異なる光輝性顔料の作用によって、塗膜はシェード部であってもキラキラと高彩度に輝くことができる。この効果によって、ハイライト部(2)からシェード(3)にかけて連続して高彩度な輝きを発現し、被塗物自体の意匠をさらに強調することができる。
【0022】
従って、本発明で形成される光輝性複層塗膜は、図2に示すように、被塗物(1)のハイライト部(2)だけでなく、シュード部(3)やその中間部(4)においても、キラキラとした高彩度の光輝感を発現することができ、優れた意匠を塗膜に提供することができる。
【0023】
本発明のこのような効果は、光輝性顔料として、平均粒径の異なる少なくとも2種類の光輝性顔料(a1)と(a2)とを使用することによって得られるものであり、特に、シェード部(3)においても、優れた高彩度の光輝感を発現することができることは、非常に驚くべきことである。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】マンセル表色系のマンセル色相環(20色相)を示す。
【図2】塗装物(1)のハイライト部(2)、シェード部(3)および中間部(4)および入射光(5)を示す。
【図3】XYZ表色系の色度図を示す。
【図4】色度の測定方法を模式的に示す。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明は、光輝性複層塗膜の形成方法に関し、塗膜の色相が空色系から群青色系へと青色系の同系色内で連続的に変化し、しかも塗装物のシェード部であっても、高彩度で光輝感を有する、従来にない青色系の独特な意匠を有する光輝性複層塗膜を提供する。
【0026】
本発明では、塗膜の色をマンセル表色系で示す。マンセル表色系は、「三属性による色の表示方法」(JIS Z 8721)として、当業者によく知られているものであり、色の三属性である、色相(H)、明度(V)および彩度(C)によって、色を分類する。
【0027】
マンセル表色系において、色相(H)は、図1に示すマンセル色相環の記号(R、Y、G、BおよびP)と番号(5および10など)との組み合わせで示すことができる。マンセル色相環において、「R」はレッドを示し、「Y」はイエローを示し、「G」はグリーンを示し、「B」はブルーを示し、「P」はパープルを示す。また、これらの中間の色相である、「YR」はイエローレッドを示し、「GY」はグリーンイエローを示し、「BG」はブルーグリーンを示し、「PB」はパープルブルーを示し、「RP」はレッドパープルを示す。マンセル表色系において、マンセル色相環の「10色相」とは、図1に示す通り、番号「10」を付した色相の総称である。また、マンセル色相環の「20色相」とは、図1に示す通り、マンセル色相環の「10色相」の中間に位置する色相に番号「5」を付して「20色相」としたものである。さらに、マンセル表色系では、マンセル色相環の「20色相」の中間に位置する色相に番号「2.5」または「7.5」を付して「40色相」とする場合もある。
【0028】
マンセル表色系において、明度(V)は、0〜10の値で示され、色の明るさを示す指標であり、値が小さいほど色が暗いことを示し、値が大きいほど明るいことを示す。本発明によって形成される光輝性複層塗膜の明度(V)は、0〜5、好ましくは0〜3である。
【0029】
マンセル表色系において、彩度(C)は、0〜14の値で示され、色の鮮やかさを示す指標であり、値が小さいほど色が地味であることを示し、値が大きいほど色が鮮やかであることを示す。本発明によって形成される光輝性複層塗膜の彩度(C)は、0〜8、好ましくは0〜5である。
【0030】
本発明において、塗膜の色、すなわち、マンセル表色系の色相(H)、明度(V)および彩度(C)は、例えば、スガ試験機株式会社製の「SM カラーコンピューター SM−T」によって測定することができる。
【0031】
本発明によって形成される光輝性複層塗膜の色相(H)は、マンセル表色系のマンセル色相環(20色相)によると、10BG〜10B(いわゆる「空色」系)から10PB〜10P(いわゆる「群青色」系)まで、好ましくは10BG〜10Pの青色系の色相系内でゆるやかに連続して変化する。
【0032】
さらに、本発明では、図2で示す通り、塗装物(1)のハイライト部(2)においては、光(5)がよく当たるので、キラキラした高彩度の光輝感が非常に強く現れるが、本発明では、驚くべきことに、光がよく当たらないシェード部(3)であっても、優れた高彩度の光輝感が得られる。従って、本発明では、キラキラした高彩度の光輝感を従来よりも広い範囲にわたって塗膜に付与することができる。なお、本明細書中、このような広範囲にわたる光輝感を「広い干渉幅」と称する場合もある。また、このような「広い干渉幅」を上記の青色系の色相で達成することは、従来技術では不可能であった。というのも、従来技術では、干渉をもたらす光輝性顔料として一般によく知られている粒径の大きなマイカを使用すると、干渉力は強くなるが、ハイライト部のみに干渉が集中し、シェード部では、干渉しないことが原因で、また、粒径の小さなマイカでは、干渉力が弱いのが原因で、従来技術では「広い干渉幅」を達成することが不可能であった。
【0033】
上述の通り、本発明は、マンセル色相環(20色相)の10BG〜10Bから選択される色相(いわゆる「空色」系)から、10PB〜10Pから選択される色相(いわゆる「群青色」系)までの青色系の色相(H)を連続して奏し、しかも広い干渉幅を有する従来にない独特の意匠を塗膜に提供することができるが、これらの特徴は、光輝性複層塗膜に含まれる光輝性ベース塗膜層を形成する光輝性ベース塗料組成物が、光輝性顔料(a)と着色顔料(b)とをそれぞれ規定の量で含み、光輝性顔料(a)として、反射光が青色系の平均粒径の異なる少なくとも2種類の光輝性顔料(a1)平均粒径10〜25μmの酸化チタン被覆アルミナフレーク顔料および(a2)平均粒径5〜15μmの酸化チタン被覆マイカフレーク顔料を使用し、着色顔料(b)として、少なくともカーボンブラック着色顔料を規定の量で使用することによって、達成することができるものである。以下、本発明の光輝性複層塗膜の形成方法および各塗膜層を形成する塗料組成物を詳細に説明する。
【0034】
本発明は、基材上に、光輝性ベース塗料組成物を塗布して光輝性ベース塗膜層を形成し、さらにその上にクリヤー塗料組成物を塗布してクリヤー塗膜層を形成することによって、上塗り塗膜として、光輝性ベース塗膜層とクリヤー塗膜層とを含む光輝性複層塗膜を形成することができる。本発明の方法によって得られる光輝性複層塗膜は、マンセル表色系において、図1に示すマンセル色相環(20色相)の10BG〜10Bから、10PB〜10Pまでの青色系の色相(H)、ならびに、0〜5の明度(V)および0〜8の彩度(C)を有し、角度に応じて青色系の同系色内で色相が連続して変化し、しかもハイライト部だけでなくシェード部においても優れた光輝感を有する、従来にない独特の意匠を提供する。
【0035】
光輝性ベース塗料組成物
本発明において、光輝性ベース塗膜層(本明細書中、単に「光輝性塗膜層」と記載する場合もある)を形成することのできる光輝性ベース塗料組成物(本明細書中、単に「光輝性塗料組成物」と記載する場合もある)は、ビヒクルと、光輝性顔料(a)[本明細書中、以下、「顔料(a)」と略記する場合もある]と、着色顔料(b)[本明細書中、以下、「顔料(b)」と略記する場合もある]とをそれぞれ特定の配合量で含む。
【0036】
本発明では、顔料(a)と顔料(b)とをそれぞれ特定の配合量で含む光輝性塗料組成物から光輝性塗膜層を形成し、さらにその上にクリヤー塗膜層を形成することによって、角度に応じて色相が青色系の同系色内で連続して変化する光輝性複層塗膜を形成することができる。
【0037】
また、本発明では、顔料(a)として、反射光が青色系の平均粒径の異なる少なくとも2種類の光輝性顔料を使用し、例えば、アルミナフレーク顔料(a1)[本明細書中、以下、「顔料(a1)」と略記する場合もある]と、マイカフレーク顔料(a2)[本明細書中、以下、「顔料(a2)」と略記する場合もある]とを使用することを特徴とする。さらに、本発明では、顔料(b)として、カーボンブラック着色顔料を使用することを特徴とする。本発明では、顔料(a1)、顔料(a2)および顔料(b)の濃度(Pigment Weight Concentration(PWC))をそれぞれ特定の値に規定することによって、青色系の色相(H)で、しかも、シェード部においても優れた光輝感を達成することができる。
【0038】
ハイライト部だけでなくシェード部でも優れた光輝感(すなわち、広い干渉幅)を発現するための第1の条件としては、光輝性顔料(a)に関して、
顔料(a)が、アルミナフレーク顔料(a1)と、マイカフレーク顔料(a2)とを含み、
前記顔料(a1)が、反射光が青色系の平均粒径10〜25μmの酸化チタン被覆アルミナフレーク顔料であり、
顔料(a2)が、反射光が青色系の平均粒径5〜15μmの酸化チタン被覆マイカフレーク顔料であり、
顔料(a1)の濃度(PWC)が、0.1〜30質量%であり、
顔料(a2)の濃度(PWC)が、0.1〜30質量%であり、
顔料(a1)および(a2)の合計濃度(PWC)が、0.2〜60質量%であることが挙げられる。
【0039】
さらに第2の条件として、着色顔料(b)に関して、
顔料(b)が、カーボンブラック着色顔料であり、
顔料(b)の濃度(PWC)が、0.1〜20質量%であることが挙げられる。
【0040】
光輝性顔料(a)
本発明では、光輝性塗料組成物に配合して、キラキラした光輝感を塗膜に付与することのできる光輝性顔料(a)として、反射光が青色系の平均粒径の異なる少なくとも2種類の光輝性顔料を配合する。従って、本発明では、光輝性顔料(a)として、例えば、反射光が青色系の平均粒径10〜25μmの酸化チタン被覆アルミナフレーク顔料(a1)[以下、顔料(a1)]と、反射光が青色系の平均粒径5〜15μmの酸化チタン被覆マイカフレーク顔料(a2)[以下、顔料(a2)]とを光輝性塗料組成物に配合する。
【0041】
顔料(a1)
本発明で使用することのできる顔料(a1)は、天然または合成のアルミナフレーク(酸化アルミニウム:Al)に二酸化チタン(TiO)を望ましくは均一に被覆することによって製造することができる。
【0042】
アルミナフレーク基材の厚みは、100〜800nm、好ましくは200〜400nmである。アルミナフレーク基材の厚みが、上記範囲を逸脱すると、本発明で規定する発色性が低下する恐れがある。
【0043】
顔料(a1)の組成は、アルミナが47.0〜52.0質量%;二酸化チタンが42.0〜47.0質量%;二酸化スズが1.0〜3.0質量%;二酸化ジルコニウムが1.0〜3.0質量%;および二酸化ケイ素が1.0〜3.0質量%である(但し、合計は100質量%である)。顔料(a1)がこのような組成を有することによって、本発明で規定する発色性を達成することができる。
【0044】
二酸化チタン層の厚みは、50〜300nmである。二酸化チタン層の厚みが、上記範囲を逸脱すると、本発明で規定する発色性を達成することができない恐れがある。
【0045】
顔料(a1)の平均粒径(D50)は、10〜25μm、好ましくは15〜20μmである。平均粒径が、上記範囲を逸脱すると、本発明で規定する発色性を達成することができない恐れがある。
【0046】
なお、顔料(a1)の平均粒径は、レーザー回折法によって粒度分布を測定し、メジアン値(D50)で示したものである。
【0047】
顔料(a1)は、上記の構造を有することによって、青色の反射光を発現することができる。本発明では、顔料(a1)の反射光は、好ましくは、マンセル色相環(20色相)の10BG〜10PBの色相、より好ましくは10B〜10PBの色相を有する。
【0048】
また、顔料(a1)は、市販品であってもよく、例えば、MERCK社製のシラリック T60−23 WNT ギャラクシーブルー、T60−25 WNT コズミックターコイズなどが挙げられる。なかでも、反射光が青色系であるMERCK社製のシラリック T60−23 WNT ギャラクシーブルーが、青色系の色相の観点から、特に好ましい。
【0049】
なお、本発明では2以上の顔料(a1)を組み合わせて使用してもよい。
【0050】
顔料(a1)の濃度(PWC)は、光輝性ベース塗料組成物において、0.1〜30質量%、好ましくは0.1〜10質量%であり、0.1質量%未満の場合、発色性が低下する恐れがあり、30質量%を超える場合、仕上がり外観が低下する恐れがある。
【0051】
本発明において、顔料(a1)の濃度(PWC)は、光輝性ベース塗料組成物の全固形分の質量に対して、顔料(a1)の質量を百分率(質量%)で表したものである。なお、光輝性ベース塗料組成物の全固形分には、顔料(a1)および(a2)ならびに顔料(b)、光輝性ベース塗料組成物のビヒクルとなる樹脂成分(固形分)、任意のその他の成分(固形分)が全て含まれる。
【0052】
顔料(a2)
本発明で使用することのできる顔料(a2)は、天然または合成のマイカ(雲母)フレークに二酸化チタン(TiO)を望ましくは均一に被覆することによって製造することができる。
【0053】
マイカフレーク層の厚みは、100〜800nm、好ましくは200〜400nmである。マイカフレーク層の厚みが、上記範囲を逸脱すると、発色性が低下する恐れがある。
【0054】
顔料(a2)の組成は、マイカ(雲母)が30〜35質量%;二酸化チタンが60〜65質量%;二酸化スズが2.0〜4.0質量%;および二酸化ジルコニウムが1.0〜3.0質量%である(但し、合計は100質量%である)。顔料(a2)がこのような組成を有することによって、本発明で規定の発色性を達成することができる。
【0055】
二酸化チタン層の厚みは、50〜300nmである。二酸化チタン層の厚みが、上記範囲を逸脱すると、本発明で規定の発色性を達成することができない恐れがある。
【0056】
顔料(a2)の平均粒径(D50)は、5〜15μm、好ましくは8〜12μmである。平均粒径が、上記範囲を逸脱すると、本発明で規定する発色性を達成することができない恐れがある。
【0057】
なお、顔料(a2)の平均粒径は、レーザー回折法によって粒度分布を測定し、メジアン値(D50)で示したものである。
【0058】
顔料(a2)は、上記の構造を有することによって、青色の反射光を発現することができる。本発明では、顔料(a2)の反射光は、好ましくは、マンセル色相環(20色相)の5B〜5Pの色相、より好ましくは5PB〜5Pの色相を有する。
【0059】
また、顔料(a2)は、市販品であってもよく、例えば、MERCK社製のエフェクトピグメント T81−23 WNT リキッドブルーなどが挙げられる。なかでも、反射光が青色系であるMERCK社製のエフェクトピグメント T81−23 WNT リキッドブルーが、得られる塗膜の彩度の高さの観点から、特に好ましい。
【0060】
なお、本発明では2以上の顔料(a2)を組み合わせて使用してもよい。
【0061】
顔料(a2)の濃度(PWC)は、光輝性ベース塗料組成物において、0.1〜30質量%、好ましくは0.1〜10質量%であり、0.1質量%未満の場合、発色性が低下する恐れがあり、30質量%を超える場合、仕上がり外観が低下する恐れがある。
【0062】
本発明において、顔料(a2)の濃度(PWC)は、光輝性ベース塗料組成物の全固形分の質量に対して、顔料(a2)の質量を百分率(質量%)で表したものである。なお、光輝性ベース塗料組成物の全固形分には、顔料(a1)および(a2)ならびに顔料(b)、光輝性ベース塗料組成物のビヒクルとなる樹脂成分(固形分)、任意のその他の成分(固形分)が全て含まれる。
【0063】
また、顔料(a1)および(a2)の合計濃度(PWC)は、0.2〜60質量%、好ましくは0.2〜30質量%である。合計濃度(PWC)が0.2質量%未満では、発色性が低下する恐れがあり、60質量%を超えると、仕上がり外観が低下する恐れがある。
【0064】
さらに、顔料(a1)および顔料(a2)の質量比((a1)/(a2))は、2/8〜8/2、好ましくは4/6〜6/4であり、2/8未満であると、ハイライト部での発色性が低下する恐れがあり、8/2を超えると、シェード部での発色性が低下する恐れがある。
【0065】
本発明では、上述の通り、光輝性顔料(a)として、平均粒径の異なる少なくとも2種類の顔料(a1)および顔料(a2)を配合することを特徴とする(望ましくは、平均粒径(a1)>(a2))。本発明では、光輝性塗膜が、平均粒径の異なる少なくとも2種類の顔料(a1)および顔料(a2)を含むことによって、広い干渉幅、すなわち、ハイライト部だけでなく、シェード部にまでおよぶキラキラとした高彩度に優れた光輝感を達成することができる。これは、顔料(a1)では、平均粒径が大きいと、反射光がより正反射方向に集中し、ハイライト部において干渉が強く発現し、顔料(a2)では、平均粒径が小さいと、反射光が多方面に散乱し、シェード部において干渉が強く発現することに起因するものと考えられる。
【0066】
着色顔料(b)
本発明では、上記の光輝性顔料(a)とともに、着色顔料(b)として、少なくともカーボンブラック着色顔料を光輝性塗料組成物に配合する。
【0067】
本発明で使用することのできる顔料(b)は、好ましくはカーボンブラック着色顔料であり、本発明では市販品をそのまま使用してもよい。例えば、コロンビアカーボン社製のラーベン(Raven)5000U3などが、透明性の観点から好ましいものとして挙げられる。
【0068】
顔料(b)の濃度(PWC)は、0.1〜20質量%、好ましくは0.1〜10質量%であり、0.1質量%未満であると、塗膜にした場合の下地隠蔽性が低下する恐れがあり、20質量%を超えると、仕上がり外観が低下する恐れがある。
【0069】
本発明において、顔料(b)の濃度(PWC)は、光輝性ベース塗料組成物の全固形分の質量に対して、顔料(b)の質量を百分率(質量%)で表したものである。なお、光輝性ベース塗料組成物の全固形分には、顔料(a1)および(a2)ならびに顔料(b)、光輝性ベース塗料組成物のビヒクルとなる樹脂成分(固形分)、任意のその他の成分(固形分)が含まれる。
【0070】
本発明では、顔料(a)および顔料(b)だけでなく、必要に応じて、さらに、顔料(a)および顔料(b)以外のその他の光輝性顔料、有機系の着色顔料、無機系の着色顔料、体質顔料などの顔料を光輝性ベース塗料組成物に適宜配合してもよい。
【0071】
顔料(a)以外のその他の光輝性顔料としては、例えば、天然または合成のアルミナ(Al)フレークまたはマイカ(雲母)フレークに、チタン以外の金属(例えば、鉄、クロム、コバルト、スズ、ジルコニウムなど)の酸化物を被覆したもの、天然または合成のシリカ(SiO)フレークに、例えば、チタン、鉄、クロム、コバルト、スズ、ジルコニウムなど)の酸化物を被覆したもの、金属アルミニウムフレーク、金属チタンフレーク、ステンレスフレーク、ガラスフレークなどが挙げられ、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0072】
有機系の着色顔料としては、例えば、アゾ系顔料(例えば、アゾキレート系顔料、不溶性アゾ系顔料、縮合アゾ系顔料)、フタロシアニン系顔料、キナクリドン系顔料、ベンズイミダゾロン系顔料、ジケトピロロピロール系顔料、イソインドリノン系顔料、スレン系顔料、ペリノン系顔料、ペリレン系顔料、インジゴ系顔料、ジオキサン系顔料、キノフタロン系顔料、ジオキサジン系顔料、金属錯体有機顔料などが挙げられ、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0073】
無機系の着色顔料としては、例えば、酸化チタン、黄鉛、亜鉛華、カドミウムレッド、モリブデンレッド、クロムエロー、酸化クロム、プルシアンブルー、コバルトブルー、黄色酸化鉄、ベンガラなどが挙げられ、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0074】
体質顔料としては、例えば、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、クレー、タルク等が挙げられ、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0075】
光輝性ベース塗料組成物において、全顔料の濃度(PWC)は、0.3〜50質量%、好ましくは0.3〜30質量%であり、0.3質量%未満では塗膜にした場合の下地隠蔽性が低下する恐れがあり、50質量%を超えると、仕上り外観が低下する恐れがある。
【0076】
ビヒクル
本発明で使用することのできる光輝性ベース塗料組成物に含まれるビヒクルは、上述の顔料を分散するものであって、塗膜形成性樹脂と、必要に応じて、架橋剤(および/または硬化剤)とから構成される。
【0077】
ビヒクルを構成する塗膜形成性樹脂としては、例えば、(A)アクリル樹脂、(B)ポリエステル樹脂、(C)アルキド樹脂、(D)フッ素樹脂、(E)エポキシ樹脂、(F)ポリウレタン樹脂、(G)ポリエーテル樹脂等が挙げられ、特に、アクリル樹脂およびポリエステル樹脂が好ましく用いられる。これらは、2種以上を組み合わせて使用することができる。また、上記塗膜形成性樹脂には、硬化性を有するタイプとラッカータイプとがあるが、通常は硬化性を有するタイプのものが使用される。硬化性を有するタイプの場合には、アミノ樹脂や(ブロック)ポリイソシアネート化合物、アミン系、ポリアミド系、多価カルボン酸等の架橋剤と混合して使用に供され、加熱または常温で硬化反応を進行させることができる。また、硬化性を有しないタイプの塗膜形成性樹脂を、硬化性を有するタイプと併用することも可能である。
【0078】
(A)アクリル樹脂
アクリル樹脂としては、アクリル系モノマーの共重合体、あるいは、アクリル系モノマーと他のエチレン性不飽和モノマーとの共重合体を挙げることができる。上記共重合に使用し得るアクリル系モノマーとしては、アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸またはメタクリル酸のメチル、エチル、プロピル、n−ブチル、i−ブチル、t−ブチル、2−エチルヘキシル、ラウリル、フェニル、ベンジル、2−ヒドロキシエチル、2−ヒドロキシプロピル等のエステル化物、アクリル酸またはメタクリル酸2−ヒドロキシエチルのカプロラクトンの開環付加物、アクリルアミド、メタクリルアミドおよびN−メチロールアクリルアミドなどがある。これらと共重合可能な他のエチレン性不飽和モノマーとしては、スチレン、α−メチルスチレン(またはダイマー)、イタコン酸、マレイン酸、酢酸ビニルなどがある。また、当業者に公知の方法、例えば、特開2007−39615号公報に開示の方法に従って、アクリル樹脂を水性エマルション化して水性塗料とすることが好ましい。
【0079】
(B)ポリエステル樹脂
ポリエステル樹脂としては、飽和ポリエステル樹脂や不飽和ポリエステル樹脂等が挙げられ、例えば、多塩基酸と多価アルコールを加熱縮合して得られた縮合物が挙げられる。多塩基酸としては、例えば、飽和多塩基酸、不飽和多塩基酸等が挙げられ、飽和多塩基酸としては、例えば、無水フタル酸、テレフタル酸、コハク酸等が挙げられ、不飽和多塩基酸としては、例えば、マレイン酸、無水マレイン酸、フマル酸等が挙げられる。多価アルコールとしては、例えば、二価アルコール、三価アルコール等が挙げられ、二価アルコールとしては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール等が挙げられ、三価アルコールとしては、例えば、グリセリン、トリメチロールプロパン等が挙げられる。
【0080】
(C)アルキド樹脂
アルキド樹脂としては、上記多塩基酸と多価アルコールにさらに油脂・油脂脂肪酸(大豆油、アマニ油、ヤシ油、ステアリン酸等)、天然樹脂(ロジン、コハク等)等の変性剤を反応させて変性させて得られたアルキッド樹脂を用いることができる。
【0081】
(D)フッ素樹脂
フッ素樹脂としては、フッ化ビニリデン樹脂、四フッ化エチレン樹脂のいずれかまたはこれらの混合体、フルオロオレフィンとヒドロキシ基含有の重合性化合物およびその他の共重合可能なビニル系化合物からなる単量体を共重合させて得られる各種フッ素系共重合体からなる樹脂を挙げることができる。
【0082】
(E)エポキシ樹脂
エポキシ樹脂としては、ビスフェノールとエピクロルヒドリンの反応によって得られる樹脂等を挙げることができる。ビスフェノールとしては、例えば、ビスフェノールA、F等が挙げられる。上記ビスフェノール型エポキシ樹脂としては、例えば、エピコート828、エピコート1001、エピコート1004、エピコート1007、エピコート1009(いずれも、シェルケミカル社製)等が挙げられ、またこれらを適当な鎖延長剤を用いて鎖延長したものも用いることができる。
【0083】
(F)ポリウレタン樹脂
ポリウレタン樹脂としては、アクリル、ポリエステル、ポリエーテル、ポリカーボネート等の各種ポリオール成分とポリイソシアネート化合物とによって得られるウレタン結合を有する樹脂を挙げることができる。上記ポリイソシアネート化合物としては、2,4−トリレンジイソシアネート(2,4−TDI)、2,6−トリレンジイソシアネート(2,6−TDI)、およびその混合物(TDI)、ジフェニルメタン−4,4’−ジイソシアネート(4,4’−MDI)、ジフェニルメタン−2,4’−ジイソシアネート(2,4’−MDI)、およびその混合物(MDI)、ナフタレン−1,5−ジイソシアネート(NDI)、3,3’−ジメチル−4,4’−ビフェニレンジイソシアネート(TODI)、キシリレンジイソシアネート(XDI)、ジシクロへキシルメタン・ジイソシアネート(水素化HDI)、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、へキサメチレンジイソシアネート(HDI)、水素化キシリレンジイソシアネート(HXDI)等を挙げることができる。
【0084】
(G)ポリエーテル樹脂
ポリエーテル樹脂としては、エーテル結合を有する重合体または共重合体であり、ポリオキシエチレン系ポリエーテル、ポリオキシプロピレン系ポリエーテル、ポリオキシブチレン系ポリエーテルもしくはビスフェノールAあるいはビスフェノールFなどの芳香族ポリヒドロキシ化合物から誘導されるポリエーテル等の1分子当たりに少なくとも2個の水酸基を有するポリエーテル樹脂を、または上記ポリエーテル樹脂とコハク酸、アジピン酸、セバシン酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、トリメリット酸等の多価カルボン酸類、あるいは、これらの酸無水物等の反応性誘導体とを反応させて得られるカルボキシル基含有ポリエーテル樹脂を挙げることができる。
【0085】
上記ビヒクルが架橋剤を含む場合、塗膜形成性樹脂と架橋剤の割合としては、固形分換算で塗膜形成性樹脂が90〜50質量%、架橋剤が10〜50質量%であり、好ましくは塗膜形成性樹脂が85〜60質量%であり、架橋剤が15〜40質量%である。架橋剤が10質量%未満では(塗膜形成性樹脂が90質量%を超えると)、塗膜中の架橋が十分でない場合がある。一方、架橋剤が50質量%を超えると(塗膜形成性樹脂が50質量%未満では)、塗料組成物の貯蔵安定性が低下するとともに硬化速度が大きくなるため、塗膜外観が悪くなる場合がある。
【0086】
その他の成分
本発明で使用することのできる光輝性ベース塗料組成物には、上記成分の他に、脂肪族アミドの潤滑分散体であるポリアミドワックスや酸化ポリエチレンを主体としたコロイド状分散体であるポリエチレンワックス等の沈降防止剤、硬化触媒、紫外線吸収剤、酸化防止剤、レベリング剤、シリコンや有機高分子等の表面調整剤、タレ止め剤、増粘剤、消泡剤、滑剤、架橋性重合体粒子(ミクロゲル)等を適宜添加することができる。これらの添加剤は、通常、上記ビヒクル100質量部(固形分基準)に対して、15質量部以下の割合で配合することにより、塗料や塗膜の性能を改善することができる。
【0087】
本発明の光輝性ベース塗料組成物は、上記構成成分を、通常、溶剤に溶解または分散した態様で提供される。溶剤としては、ビヒクルを溶解または分散するものであればよく、有機溶剤および/または水を使用することができる。有機溶剤としては、塗料分野において通常用いられるものを挙げることができる。例えば、トルエン、キシレン等の炭化水素類、アセトン、メチルエテルケトン等のケトン類、酢酸エチル、セロソルブアセテート、ブチルセロソルブ等のエステル類、アルコール類等を例示できる。環境面の観点から、有機溶剤の使用が規制されている場合には、水を用いることが好ましい。この場合、適量の親水性有機溶剤を配合してもよい。
【0088】
本発明において使用することのできる光輝性ベース塗料組成物は、特に好ましい態様では、上記の顔料(a)および顔料(b)、ならびに、ビヒクルとして、アクリル樹脂エマルションを含む塗膜形成性樹脂、アクリル樹脂と疎水性メラミン樹脂とを反応させた反応生成物を水分散することによって得られる粒径20〜140nmの疎水性メラミン樹脂水分散体を含む硬化剤、および架橋剤を含有するものであってもよく、これによって、優れた発色性を有する塗膜を得ることができる。また、自動車塗装における複層塗膜形成方法において、上記の光輝性ベース塗料組成物を水性塗料として用いた場合、優れたリコート密着性、チッピング性、耐水付着性を有する塗膜を得ることができる。従って、上記の光輝性ベース塗料組成物は、水性光輝性ベース塗料組成物として好適に用いることができる。
【0089】
塗膜形成方法
本発明の光輝性複層塗膜の形成方法は、基材上に、上記の光輝性ベース塗料組成物を塗布して光輝性ベース塗膜層を形成し、さらにその上に、クリヤー塗料組成物を塗布してクリヤー塗膜層を形成し、基材上に、光輝性ベース塗膜層とクリヤー塗膜層とを含む光輝性複層塗膜を形成するものである。また、本発明では、上記の光輝性ベース塗料組成物を自動車(自動車車体、部品等)用の水性光輝性塗料として好適に使用することができる。
【0090】
基材としては、特に限定されるものでなく、鉄、アルミニウム、マグネシウム、銅、スズ、亜鉛またはこれらの合金等の金属類およびその成形品;ガラス、セメント、コンクリート等の無機材料;ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、エチレン−酢酸ビニル共重合体樹脂、ポリアミド樹脂、アクリル樹脂、塩化ビニリデン樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂、ポリスチレン樹脂、ABS樹脂等の樹脂類や各種のFRP等のプラスチック材料およびその成形品または発泡体;木材、繊維材料(紙、布等)等の天然または合成材料等が挙げられる。基材は、本発明によって得られる少なくとも3色性の意匠を効果的に発現するため、例えば、乗用車、トラック、オートバイ、バス等の自動車車体および部品(自動車のボディ、ドアなど)のように、曲面を有しているものであることが好ましい。また、プラスチック成形品としては、具体的には、スポイラー、バンパー、ミラーカバー、グリル、ドアノブ等の自動車部品等を挙げることができる。さらに、これらのプラスチック成形品は、トリクロロエタンで蒸気洗浄または中性洗剤で洗浄されたものが好ましい。また、さらに、静電塗装を可能にするためのプライマー塗装が施されていてもよい。
【0091】
本発明の光輝性複層塗膜の形成方法においては、基材が自動車車体およびその部品などの場合には、導電性の基材を予め脱脂処理や化成処理(リン酸塩、クロム酸塩等による化成処理)した後、基材に電着塗装、中塗り塗装などの下地塗装を施しておくことが好ましい。
【0092】
電着塗装は、鋼板などの導電性の基材に電着塗膜を形成して防錆性を付与することを目的として行われるものであり、このような電着塗膜を形成することのできる電着塗料組成物としては、特に限定はなく、当業者によく知られているカチオン型電着塗料組成物およびアニオン型電着塗料組成物をいずれも使用することができ、防錆性の観点からカチオン型電着塗料組成物が好ましく、なかでも、エポキシ系のカチオン型電着塗料組成物が特に好ましい。
【0093】
本発明において、基材が自動車車体または鋼板である場合、電着塗膜形成前に、脱脂、水洗、化成皮膜形成、水洗、純水洗、乾燥までの前処理を従来公知の方法で行うことが好ましい。電着塗膜形成方法は、従来公知の方法の中から、適当な方法を任意に選択すればよく、電着塗膜形成条件、焼き付け硬化条件、電着塗膜の厚さ等に関しても、基材や使用する電着塗料組成物の種類等に応じて、適宜決定すればよい。
【0094】
中塗り塗装は、基材または電着塗膜の上に中塗り塗膜層を形成して、下地隠蔽性、耐チッピング性、上塗り塗膜層との密着性などの性能の向上を目的として行われる。また、中塗り塗膜層は、最終の光輝性複層塗膜を平滑にし、外観の良好な塗膜とするための下地としても機能し、さらに、電着塗膜層と上塗り塗膜層との間のバインダーとなり、かつ、塗膜表面を通じて到達する紫外線や水による塗膜の劣化に対する耐候性が要求される。中塗り塗膜層を形成することのできる中塗り塗料組成物としては、特に制限はなく、当業者によく知られている溶剤型塗料のほか、水性塗料、粉体塗料またはハイソリッド型塗料等も適用でき、具体的には、エポキシエステル/メラミン系樹脂、アルキッド/メラミン系樹脂またはオイルフリーポリエステル/メラミン系樹脂塗料、アクリル樹脂および/またはポリエステル樹脂とアミノ樹脂および/またはイソシアネート硬化剤とを組み合わせた中塗り塗料等、従来公知の中塗り塗料の中から適宜選択して用いることができる。
【0095】
中塗り塗膜層の形成方法に関しては、従来公知の方法の中から適当な方法を任意に選択すればよい。また、本発明では、カーボンブラックと二酸化チタンとを主要顔料としたグレー系中塗り塗料組成物や、上塗り塗膜層との明度および色相を合わせたセットグレーや各種の着色顔料を組み合わせた、いわゆるカラー中塗り塗料組成物を用いることができる。これらのカラー中塗り塗料組成物は、中塗り塗膜層と上塗り塗膜層との複合色を発現させ、意匠性をさらに高めることができる。また、これらの中塗り塗料組成物に、アルミニウム粉、マイカ粉等の扁平顔料を添加してもよい。さらに、中塗り塗料組成物には、塗料に通常添加することのできる添加剤、例えば、表面調整剤、酸化防止剤、消泡剤等を配合してもよい。中塗り塗膜層の乾燥膜厚は、20〜100μmが好ましく、より好ましくは30〜50μmである。
【0096】
本発明の光輝性複層塗膜の形成方法では、好ましくは、基材上に、光輝性ベース塗料組成物を塗布して光輝性ベース塗膜層を形成し、光輝性ベース塗膜層の上にクリヤー塗料組成物を塗布してクリヤー塗膜層を形成する。
【0097】
基材が、必要に応じて、電着塗装、中塗り塗装などの下地塗装を施した下地塗膜層を有する基材である場合には、下地塗膜層の上に、ウェットオンウェット(W/W)法、またはウェットオンドライ(W/D)法によって、光輝性ベース塗料組成物を塗布して、光輝性ベース塗膜層を形成することができる。次いで、光輝性ベース塗膜層の上に、ウェットオンウェット(W/W)法、またはウェットオンドライ(W/D)法によって、クリヤー塗料組成物を塗布して、クリヤー塗膜層を形成することができる。W/W法とは、塗料組成物を塗布した後、必要に応じて、塗布した塗膜を風乾等により乾燥、または、100℃未満の温度で半硬化させて、未硬化状態または半硬化状態の塗膜の上に、さらに塗料組成物を塗布する方法であり、これに対して、W/D法とは、塗料組成物を塗布した後、焼き付け、硬化した塗膜の上に、さらに塗料組成物を塗布する方法である。
【0098】
光輝性ベース塗料組成物を塗布する方法としては、特に限定はないが、例えば、スプレー法、ロールコーター法等が好ましく、外観向上の観点から、エアー静電スプレー塗装による多ステージ塗装、好ましくは2ステージで塗装するか、あるいは、エアー静電スプレー塗装と、メタリックベルと言われる回転霧化式の静電塗装機とを組み合わせた塗装方法が好ましい。また、複数回塗装することも可能である。
【0099】
光輝性ベース塗料組成物による塗装時の塗膜の膜厚は、所望の用途により変化するが、一般的には乾燥膜厚で1コートにつき5〜30μmが好ましく、5〜20μmであることが好ましい。上記乾燥膜厚が5μm未満である場合、下地を隠蔽することができず膜切れが発生し、30μmを超える場合、鮮映性が低下したり、塗装時にムラあるいはタレ等の不具合が起こったりするおそれがある。良好な外観の複層塗膜を得るために、クリヤー塗料組成物を塗布する前に、形成した光輝性ベース塗膜を40〜100℃で2〜10分間加熱しておくことが好ましい。この予備加熱を行うと、この上にクリヤー塗料組成物を塗布しても、光輝性顔料の配向が乱れないので好ましい。
【0100】
本発明では、このようにして形成した光輝性ベース塗膜層の上に、少なくとも1層のクリヤー塗膜層を形成することができる。クリヤー塗膜層は、光輝性ベース塗膜層に含まれる光輝性顔料に起因する凹凸、チカチカ等を平滑にし、保護し、さらに美観を与えるものである。
【0101】
本発明の光輝性複層塗膜の形成方法で使用することのできるクリヤー塗料組成物としては、特に限定はなく、上塗り塗装用として一般に使用されているものを用いることができ、例えば、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、フッ素樹脂、エポキシ樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリエーテル樹脂およびこれらの変性樹脂等から選ばれた少なくとも1種の熱硬化性樹脂と前述の架橋剤および/または硬化剤とを混合したものを用いることができる。
【0102】
クリヤー塗料組成物は、必要に応じて、その透明性を損なわない範囲で、あるいは、下地の意匠性を妨げない程度であれば、着色顔料、体質顔料、改質剤、紫外線吸収剤、レベリング剤、分散剤、消泡剤等の添加剤を配合することが可能である。また、特公平8−19315号公報に記載されたカルボキシル基含有ポリマーとエポキシ基含有ポリマーとを含有するクリヤー塗料が、酸性雨対策およびW/W法で上記光輝性ベース塗膜層を形成した際に、光輝性顔料および着色顔料の配向を乱さないという観点から、好ましく用いられる。また、クリヤー塗料組成物は、溶剤型、水性型、粉体型等の種々の形態をとることができる。溶剤型塗料または水性塗料としては、一液型塗料を用いてもよいし、二液型ウレタン樹脂塗料等のような二液型塗料を用いてもよい。
【0103】
溶剤型クリヤー塗料組成物の好ましい例としては、透明性あるいは耐酸エッチング性等の点から、アクリル樹脂および/またはポリエステル樹脂と、アミノ樹脂および/またはイソシアネートとの組み合わせ、あるいはカルボン酸/エポキシ硬化系を有するアクリル樹脂および/またはポリエステル樹脂等を挙げることができる。
【0104】
また、水性型クリヤー塗料組成物の例としては、上記溶剤型クリヤー塗料組成物の例として挙げたものに含有される塗膜形成性樹脂を、塩基で中和して水性化した樹脂を含有するものを挙げることができる。この中和は重合の前または後に、ジメチルエタノールアミンおよびトリエチルアミンのような3級アミンを添加することにより行うことができる。
【0105】
さらに、上記クリヤー塗料組成物には、塗装作業性を確保するために、粘性制御剤が添加されていることが好ましい。粘性制御剤は、一般にチクソトロピー性を示すものを使用できる。このようなものとして、例えば、従来から公知のものを使用することができる。また、必要により、硬化触媒、表面調整剤等を含むことができる。
【0106】
なお、上記複層塗膜形成方法において用いられるクリヤー塗料組成物としては、有機溶剤の含有量による環境に与える影響の観点から、20℃におけるフォードカップNo.4で20〜50秒の粘度となるように希釈した時のクリヤー塗料組成物の固形分が50質量%以上である溶剤型クリヤー塗料組成物または水性型クリヤー塗料組成物、あるいは、粉体型クリヤー塗料組成物であることが好ましい。
【0107】
本発明において、クリヤー塗料組成物の塗布は、硬化した光輝性ベース塗膜層の上に行ってもよいが、未硬化状態または半硬化状態の光輝性ベース塗膜層の上に、W/W法でクリヤー塗料組成物を塗布することが好ましい。上記の光輝性ベース塗膜層に対して、上述のクリヤー塗料組成物を塗布する方法としては、特に限定はないが、例えば、スプレー法、ロールコーター法等が好ましく、具体的には、マイクロマイクロベル、マイクロベルと呼ばれる回転霧化式の静電塗装機による塗装方法を挙げることができる。また、複数回塗装することも可能である。クリヤー塗料組成物を複数回塗装する場合には、最終のクリヤー塗料組成物を塗布した後で同時に焼き付け硬化すればよく、先に形成したクリヤー塗膜を完全に硬化させる必要はない。
【0108】
一方、粉体型クリヤー塗料組成物としては、熱可塑性および熱硬化性粉体塗料のような通常の粉体塗料を用いることができる。良好な物性の塗膜が得られるため、熱硬化性粉体塗料組成物が好ましい。熱硬化性粉体塗料組成物の具体的なものとしては、エポキシ系、アクリル系およびポリエステル系の粉体クリヤー塗料組成物等が挙げられるが、耐候性が良好なアクリル系粉体クリヤー塗料組成物が特に好ましい。
【0109】
このように、光輝性ベース塗膜層(未硬化、半硬化、完全硬化のいずれでもよい)の上に形成されたクリヤー塗膜層は、必要に応じて、電着塗膜、中塗り塗膜などの下地塗膜層(未硬化、半硬化、完全硬化のいずれでもよい)とともに、所定温度および所定時間で焼き付け硬化され、光輝性複層塗膜を形成することができる。
【0110】
上記クリヤー塗料組成物を塗装することによって形成されるクリヤー塗膜層の乾燥膜厚は、一般に10〜80μmが好ましく、20〜60μmであることがより好ましい。上記乾燥膜厚が10μm未満である場合、下地の凹凸を隠蔽することができず、80μmを超えると塗装時にワキあるいはタレ等の不具合が起こるおそれがある。
【0111】
このようにして形成されたクリヤー塗膜は、予め形成されている光輝性ベース塗膜とともに同時に加熱することによって硬化塗膜が形成される。上記加熱硬化温度は、硬化性および得られる複層塗膜の物性の観点から、80〜180℃に設定されていることが好ましく、120〜160℃に設定されていることが更に好ましい。加熱硬化時間は上記温度に応じて任意に設定することができるが、加熱硬化温度120℃〜160℃で時間が10〜30分であることが適当である。
【0112】
このようにして形成される光輝性複層塗膜の膜厚は、一般的には30〜300μmであり、50〜250μmであることが好ましい。上記膜厚が30μm未満である場合、膜自体の強度が低下し、300μmを超える場合、冷熱サイクル等の膜物性が低下するおそれがある。このようにして得られる複層塗膜もまた本発明の1つである。
【0113】
本発明の光輝性複層塗膜形成方法によって形成される光輝性複層塗膜は、その表面に極めて高い光輝感および発色性、リコート密着性、耐チッピング性、耐水付着性を兼ね備える。
【0114】
本発明では、好ましくは上述の下地塗膜層を形成した基材上に、上述の光輝性ベース塗料組成物、好ましくは水性光輝性ベース塗料組成物を塗布して、未硬化の光輝性ベース塗膜層を形成する工程(1)、上記未硬化の光輝性ベース塗膜層の上にクリヤー塗料組成物を塗布して、未硬化のクリヤー塗膜層を形成する工程(2)、および、上記の未硬化の光輝性ベース塗膜層および未硬化のクリヤー塗膜層とを同時に焼き付け硬化させる工程(3)を含む光輝性複層塗膜の形成方法が、コスト、作業性の観点から、特に好ましい。
【0115】
本発明の方法によって基材上に形成される光輝性複層塗膜は、光輝性ベース塗膜層と、少なくとも1層のクリヤー塗膜層とを含むものであり、必要に応じて、電着塗膜層および中塗り塗膜層からなる群から選択される下地塗膜層をさらに含んでいてもよい。光輝性(ベース)塗膜層は、マンセル表色系において、マンセル色相環(20色相)の10BG〜10Bから選択される色相(すなわち「空色」系)から、10PB〜10Pから選択される色相(すなわち「群青色」系)まで、好ましくは10BG〜10Pの青色系の色相(H)、ならびに、0〜5、好ましくは0〜3の明度(V)、および0〜8、好ましくは0〜5の彩度(C)を有する。
【0116】
本発明の方法によって基材上に形成される光輝性複層塗膜は、特に、光輝性ベース塗料組成物から形成される光輝性ベース塗膜層に特徴があり、この光輝性ベース塗膜層によって、従来にない独特な意匠、すなわち、上述のマンセル表色系において、図1に示すマンセル色相環(20色相)の10BG〜10Bから選択される色相(すなわち「空色」系)から、10PB〜10Pから選択される色相(すなわち「群青色」系)までの青色系の色相(H)、ならびに、0〜5の明度(V)および0〜8の彩度(C)を提供し、しかも、見る角度に応じて、青色系の同系色内で少なくとも3色の色相変化を起こすことができる。
【0117】
また、本発明によって形成される光輝性(ベース)塗膜層および光輝性複層塗膜は、広い干渉幅を有することを特徴とする。すなわち、本発明では、光輝性顔料(a)として、望ましくは粒径の異なる少なくとも2種類の顔料(a1)および(a2)を上記の規定の量で使用することによって、これらの光輝性顔料で反射した光の干渉に基づくキラキラとした光輝感が、塗膜全体にわたって広がり、図2のハイライト部(2)だけでなく、驚くべきことに、シェード部(3)およびその中間部(4)においても、高彩度で優れた光輝感を維持することができる。
【0118】
本発明によって形成される光輝性複層塗膜のこれらの従来にない意匠は、特に、自動車車体などの複雑な形状でしかも太陽光にさらされる被塗物に適用した場合、その形状を際立たせるのに非常に効果的である。また、本発明によって形成される光輝性複層塗膜は、広い干渉幅を有するので、光が強く当たらない屋内などにおいても、十分にキラキラとした高彩度の光輝感を確認することができる。
【0119】
また、本発明の塗装方法は、自動車車体だけでなく、二輪車、三輪車などのあらゆる乗り物の車体およびその部品、容器、電化製品など、塗装を必要とするあらゆる物品および製品に適用することができる。
【実施例】
【0120】
以下に製造例、実施例および比較例を挙げて本発明をさらに詳しく説明する。各例中の「部」は「重量部」を表し、「%」は「重量%」を表す。
【0121】
製造例1:アクリル樹脂エマルション(Em−1)の調製
反応容器にイオン交換水135.4部、アクアロンHS−10(ポリオキシエチレンアルキルプロペニルフェニルエーテル硫酸エステル、第一工業製薬社製)1.1部を加え、窒素気流中で混合撹拌しながら80℃に昇温した。次いで、アクリル酸メチル35.73部、メタクリル酸ブチル8.57部、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル5.7部、スチレン20部、アクアロンHS−10が0.5部、アデカリアソープNE−20(α−[1−[(アリルオキシ)メチル]−2−ノニルフェノキシ]エチル)−ω−ヒドロキシオキシエチレン、旭電化社製、80%水溶液)0.5部およびイオン交換水49.7部からなる第1段目のエチレン性不飽和モノマー混合物と、過硫酸アンモニウム0.21部およびイオン交換水8.6部からなる開始剤溶液とを、2時間にわたり並行して反応容器に滴下した。滴下終了後、1時間同温度で熟成を行った。
【0122】
さらに、この反応容器に、メタクリル酸ブチル25.3部、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル2.4部、メタクリル酸2.3部、アクアロンHS−10が0.1部およびイオン交換水24.7部からなる第2段目のエチレン性不飽和モノマー混合物と、過硫酸アンモニウム0.08部およびイオン交換水7.4部からなる開始剤溶液とを、80℃で0.5時間にわたり並行して滴下した。滴下終了後、2時間同温度で熟成を行った。
【0123】
次いで、40℃まで冷却し、400メッシュフィルターで濾過した後、イオン交換水2.14部およびジメチルアミノエタノール0.24部を加えてpH6.5に調整し、平均粒子径80nm、不揮発分30%、固形分酸価15、水酸基価35のアクリル樹脂エマルション(Em−1)を得た。
【0124】
製造例2:水溶性アクリル樹脂の調製
反応容器にジプロピレングリコールメチルエーテル23.89部およびプロピレングリコールメチルエーテル16.11部を加え、窒素気流中で混合撹拌しながら105℃に昇温した。次いで、メタクリル酸メチル13.1部、アクリル酸エチル68.4部、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル11.6部、メタクリル酸6.9部と、ジプロピレングリコールメチルエーテル10.0部およびt−ブチルパーオキシ2−エチルヘキサノエート1部からなる開始剤溶液とを3時間にわたり並行して反応容器に滴下した。滴下終了後、0.5時間同温度で熟成を行った。
【0125】
次に、ジプロピレングリコールメチルエーテル5.0部およびt−ブチルパーオキシ2−エチルヘキサノエート0.3部からなる開始剤溶液を0.5時間にわたり反応容器に滴下した。滴下終了後、2時間同温度で熟成を行った。
【0126】
さらに、脱溶剤装置を用いて、減圧下(70torr)110℃で溶剤を16.11部留去した後、イオン交換水204部およびジメチルエタノールアミン7.1部を加えて水溶性アクリル樹脂を得た。得られたアクリル樹脂溶液の不揮発分は30.0%、固形分酸価40mgKOH/g、水酸基価50mgKOH/gであった。
【0127】
製造例3:疎水性メラミン樹脂水分散体(MFD−1)の調製
反応容器にMFDG(メチルプロピレンジグリコール、日本乳化剤社製)50部を添加し、窒素気流中で撹拌しながら130℃に昇温した。次いで、アクリル酸14.77部、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル32.48部、アクリル酸ブチル47.75部、MSD−100(α−メチルスチレンダイマー、三井化学社製)5部からなるエチレン性不飽和モノマー混合物と、カヤエステルO(tert−ブチルパーオクタノエート、化薬アクゾ社製)13部およびMFDG10部からなる開始剤溶液とを3時間にわたり並行して反応容器に滴下した。滴下終了後に0.5時間置いて、更にカヤエステルOが0.5部およびMFDGが5部からなる開始剤溶液を0.5時間にわたり滴下した。滴下終了後1時間同温度で熟成を行った。次いで、50℃まで冷却し、不揮発分60%、固形分酸価110mgKOH/g、水酸基価140mgKOH/g、数平均分子量(Mn)=3000のアクリル樹脂(Ac1)を得た。
【0128】
得られたアクリル樹脂(Ac1)の178.5部を、ユーバン20SB(完全ブチル化メラミン樹脂、日本サイテック社製、不揮発分75%、Sp=9.6)800部と混合し、80℃で4時間撹拌した。その後、ジメチルエタノールアミンを18.3部加えて均一に分散し、40℃まで冷却した後、イオン交換水1003.2部を1時間で滴下することにより疎水性メラミン樹脂水分散体(MFD−1)を得た。この水分散体中の樹脂粒子の粒径は80nmであった。
【0129】
製造例4:光輝性ベース塗料組成物(1)の調製
塗膜形成性樹脂として製造例1のアクリル樹脂エマルション(Em−1)を153.3部、10質量%ジメチルエタノールアミン水溶液5部、製造例2の水溶性アクリル樹脂を16.7部、プライムポールPX−1000(三洋化成工業社製2官能ポリエーテルポリオール、数平均分子量1000、水酸基価278、水トレランス無限大)10部、製造例3の疎水性メラミン樹脂水分散体(MFD−1)を100部、顔料(a1)として、シラリック T60−23 WNT ギャラクシーブルー(MERCK社製、二酸化チタン被覆アルミナフレーク顔料、平均粒径:18μm)を0.5部、顔料(a2)として、エフェクトピグメント T81−23 WNT リキッドブルー(MERCK社製、二酸化チタン被覆マイカフレーク顔料、平均粒径:9μm)を0.5部、顔料(b)として、カーボンブラック(コロンビアカーボン社製のラーベン(Raven)5000U3)2.0部を配合した。さらに、エチレングリコールモノヘキシルエーテル30部を混合撹拌し、10質量%ジメチルアミノエタノール水溶液を加えてpH=8.5に調整し、均一に分散し、水性光輝性ベース塗料組成物を得た。得られた水性光輝性ベース塗料組成物の塗料粘度が20℃、No.4フォードカップで60秒となるようにイオン交換水を加えて希釈し、塗装に用いる光輝性ベース塗料組成物(1)を得た。
【0130】
製造例5:光輝性ベース塗料組成物(2)の調製
製造例4に従って、顔料(a1)として、シラリック T60−23 WNT ギャラクシーブルー(MERCK社製、二酸化チタン被覆アルミナフレーク顔料、平均粒径:18μm)を5.0部、顔料(a2)として、エフェクトピグメント T81−23 WNT リキッドブルー(MERCK社製、二酸化チタン被覆マイカフレーク顔料、平均粒径:9μm)を5.0部、顔料(b)として、カーボンブラック(コロンビアカーボン社製のラーベン(Raven)5000U3)を2.0部を配合して、光輝性ベース塗料組成物(2)を得た。
【0131】
製造例6:光輝性ベース塗料組成物(3)の調製
製造例4に従って、顔料(a1)として、シラリック T60−23 WNT ギャラクシーブルー(MERCK社製、二酸化チタン被覆アルミナフレーク顔料、平均粒径:18μm)を7.5部、顔料(a2)として、エフェクトピグメント T81−23 WNT リキッドブルー(MERCK社製、二酸化チタン被覆マイカフレーク顔料、平均粒径:9μm)を7.5部、顔料(b)として、カーボンブラック(コロンビアカーボン社製のラーベン(Raven)5000U3)を2.0部を配合して、光輝性ベース塗料組成物(3)を得た。
【0132】
製造例7:光輝性ベース塗料組成物(4)の調製
製造例4に従って、顔料(a1)として、シラリック T60−23 WNT ギャラクシーブルー(MERCK社製、二酸化チタン被覆アルミナフレーク顔料、平均粒径:18μm)を1.0部、顔料(a2)を配合せず、顔料(b)として、カーボンブラック(コロンビアカーボン社製のラーベン(Raven)5000U3)を2.0部を配合して、比較用の光輝性ベース塗料組成物(4)を得た。
【0133】
製造例8:光輝性ベース塗料組成物(5)の調製
製造例4に従って、顔料(a1)として、シラリック T60−23 WNT ギャラクシーブルー(MERCK社製、二酸化チタン被覆アルミナフレーク顔料、平均粒径:18μm)を10.0部、顔料(a2)を配合せず、顔料(b)として、カーボンブラック(コロンビアカーボン社製のラーベン(Raven)5000U3)を2.0部を配合して、比較用の光輝性ベース塗料組成物(5)を得た。
【0134】
製造例9:光輝性ベース塗料組成物(6)の調製
製造例4に従って、顔料(a1)として、シラリック T60−23 WNT ギャラクシーブルー(MERCK社製、二酸化チタン被覆アルミナフレーク顔料、平均粒径:18μm)を15.0部、顔料(a2)を配合せず、顔料(b)として、カーボンブラック(コロンビアカーボン社製のラーベン(Raven)5000U3)を2.0部を配合して、比較用の光輝性ベース塗料組成物(6)を得た。
【0135】
製造例10:光輝性ベース塗料組成物(7)の調製
製造例4に従って、顔料(a1)および(a2)を配合せず、その代わり、光輝性顔料として、イリオジン 225 WNT(MERCK社製、マイカ顔料、平均粒径:18μm)10.0部、顔料(b)として、カーボンブラック(コロンビアカーボン社製のラーベン(Raven)5000U3)を2.0部を配合して、比較用の光輝性ベース塗料組成物(7)を得た。
【0136】
製造例11:光輝性ベース塗料組成物(8)の調製
製造例4に従って、顔料(a1)として、シラリック T60−23 WNT ギャラクシーブルー(MERCK社製、二酸化チタン被覆アルミナフレーク顔料、平均粒径:18μm)を5.0部、顔料(a2)の代替として、イリオジン 221 WNT(MERCK社製、マイカ顔料、平均粒径:10μm)5.0部を配合し、顔料(b)として、カーボンブラック(コロンビアカーボン社製のラーベン(Raven)5000U3)を2.0部を配合して、比較用の光輝性ベース塗料組成物(8)を得た。
【0137】
実施例1
ダル鋼板(長さ300mm、幅100mmおよび厚さ0.8mm)をリン酸亜鉛処理剤(「サーフダインSD2000」、日本ペイント社製)を使用して化成処理した後、カチオン電着塗料(「パワーニクス PN 310」、日本ペイント社製)を乾燥膜厚が25μmとなるように電着塗装した。次いで、160℃で30分間焼き付けた後、中塗り塗料として、ポリエステル/メラミン系グレー中塗り塗料(「オルガ P−30」、日本ペイント社製)を酢酸エチル/ソルベッソ100/ブチルジグリコールアセテート=1/1/1(重量比)を用いて、フォードカップNo.4による粘度が30秒となるように調整し、回転式静電塗装機を用いて中塗り塗装を行い、140℃で30分間の条件で焼き付け乾燥し、平均乾燥膜厚30μmの中塗り塗膜層を形成した。
さらに、中塗り塗膜層の上に、製造例4で調製した光輝性ベース塗料組成物(1)を平均乾燥膜厚が15μmになるようにスプレー塗装した。塗装は静電塗装機(「Auto REA」、ABBインダストリー社製)を用い、霧化圧2.0kg/cmで行った。塗装中のブースの雰囲気は温度25℃、湿度75%に保持した。塗装後3分間セッティングし、80℃で5分間プレヒートした後、その上にウェットオンウェットで、アクリル/メラミン樹脂系クリヤー塗料組成物(酸エポキシ硬化型アクリル樹脂系クリヤー塗料組成物(「マックフローO−1810」、日本ペイント社製)を乾燥膜厚が35μmになるようにスプレー塗装し、室温で7分間セッティングし、140℃の温度で30分間焼き付けて、光輝性複層塗膜を形成した(2コート1ベーク(2C1B))。
【0138】
実施例2
実施例1における製造例4で調製した光輝性ベース塗料組成物(1)の代わりに、製造例5で調製した光輝性ベース塗料組成物(2)を使用して、実施例1に従って、光輝性複層塗膜を形成した。
【0139】
実施例3
実施例1における製造例4で調製した光輝性ベース塗料組成物(1)の代わりに、製造例6で調製した光輝性ベース塗料組成物(3)を使用して、実施例1に従って、光輝性複層塗膜を形成した。
【0140】
比較例1
実施例1における製造例4で調製した光輝性ベース塗料組成物(1)の代わりに、製造例7で調製した比較用の光輝性ベース塗料組成物(4)を使用して、実施例1に従って、光輝性複層塗膜を形成した。
【0141】
比較例2
実施例1における製造例4で調製した光輝性ベース塗料組成物(1)の代わりに、製造例8で調製した比較用の光輝性ベース塗料組成物(5)を使用して、実施例1に従って、光輝性複層塗膜を形成した。
【0142】
比較例3
実施例1における製造例4で調製した光輝性ベース塗料組成物(1)の代わりに、製造例9で調製した比較用の光輝性ベース塗料組成物(6)を使用して、実施例1に従って、光輝性複層塗膜を形成した。
【0143】
比較例4
実施例1における製造例4で調製した光輝性ベース塗料組成物(1)の代わりに、製造例10で調製した比較用の光輝性ベース塗料組成物(7)を使用して、実施例1に従って、光輝性複層塗膜を形成した。
【0144】
比較例5
実施例1における製造例4で調製した光輝性ベース塗料組成物(1)の代わりに、製造例11で調製した比較用の光輝性ベース塗料組成物(8)を使用して、実施例1に従って、光輝性複層塗膜を形成した。
【0145】
また、実施例および比較例で形成した光輝性複層塗膜のマンセル表色系(JIS Z 8721)における色相(H)、明度(V)および彩度(C)を以下の表に示す。なお、塗膜のマンセル表色系における色相(H)、明度(V)および彩度(C)は、スガ試験機株式会社製の「SM カラーコンピューター SM−T」によって測定した。
【0146】
更に、実施例および比較例で形成した光輝性複層塗膜の色相範囲(目視評価)は、1943年に米国光学会(Optical Society of America)の測色委員会で尺度が示された色票集の色見本と、得られた塗版とを、ハイライト位置およびシェード位置の二つの方向から観察した場合に分け、目視による対比評価を行うことによって、決定した。
【0147】
結果を以下の表に示す。
【0148】
【表1】

【0149】
【表2】

【0150】
本発明の実施例1〜3の光輝性複層塗膜は、いずれも、ハイライト位置において、10BG〜10Bの色相(H)を示し、シェード位置において、10PB〜10Pの色相(H)を示し、幅広い青色系の色相変化を連続してもたらすが、比較例1〜5の光輝性複層塗膜は、いずれも、このような色相変化を全く示さない。
【0151】
色度および刺激純度の測定
実施例および比較例で形成した光輝性複層塗膜のXYZ表色系(JIS Z 8701)における色度(xy)を測定し、刺激純度(Pe)を計算した。XYZ表色系の色度(zy)を図3に示す(色度図)。
【0152】
Xrite社製の多角度分光光度計「MA−68II」を用いて、図4に示す通り、入射角45°で光を照射し、照射光に対して、受光角15°(ハイライト)、25°、45°(中間)、75°および110°(シェード)でそれぞれ色度(xy)を測定した。
【0153】
図3のXYZ表色系(JIS Z 8701)の色度図に示す通り、実際に測定した試料の色度座標がC(x,y)、無彩色(すなわち白色)の色度座標がN(x,y)=(0.3333,0.3333)、NとCとを結ぶ直線NCと色度図の奇跡との交点が色度座標D(x,y)(すなわち、色度座標Dは、測定した色の純粋な色度を示す)であると、刺激純度(Pe)は、以下の式に従って、計算することができる(詳細には、JIS Z 8701の付属書の図1を参照のこと)。
Pe=(x−x)/(x−x)×100(%)
Pe=(y−y)/(y−y)×100(%)
ただし、刺激純度(Pe)は、上記2つの式のうち、分母の絶対値が大きい方の式で求める。
【0154】
従って、刺激純度(Pe)は、その値が100%に近いほど、その色の純度、すなわち彩度が高いことを示す。また、ここでの彩度は、マンセル表色系の彩度(C)とは異なる指標である。
【0155】
刺激純度(Pe)の測定結果を以下の表に示す。
【0156】
【表3】

【0157】
【表4】

【0158】
刺激純度の評価
一般に、光輝性塗膜では、ハイライト部(15°)から、中間部(45°)、シェード部(110°)にかけて、刺激純度(彩度)が低下する。従って、ハイライト部(15°)に対するシェード部(110°)の刺激純度の比(110°/15°)は、ハイライト部での彩度がシェード部においてどれほど維持できているのかを示す指標となる。
【0159】
表3および表4に示す通り、実施例1と比較例1(顔料(a2)含まず)とを比較すると、両者は、ともに、ハイライト部(15°)での刺激純度が同じ値(51%)を示すが、実施例1では、ハイライトとの比(110°/15°)が0.12であり、比較例1では、ハイライトとの比(110°/15°)は0.02であり、実施例1では、比較例1に対して、6倍の彩度を維持できていることを示す。
【0160】
また、実施例2と比較例2(顔料(a2)含まず)とを比較すると、両者は、ともに、ハイライト部(15°)での刺激純度が同じ値(66%)を示すが、実施例2では、ハイライトとの比(110°/15°)が0.30であり、比較例2では、ハイライトとの比(110°/15°)は0.23であり、実施例2では、比較例2に対して、シェード部での彩度が明らかに向上していることを示す。
【0161】
更に、実施例2と比較例4(顔料(a1)および(a2)を含まず)とを比較すると、比較例4の光輝性複層塗膜は、従来の干渉マイカ顔料「イリオジン 225 WNT(平均粒径:18μm)」を使用することによって、実施例2では、ハイライトとの比(110°/15°)が0.30であるのに対して、比較例4では、ハイライトとの比(110°/15°)は0.16でしかなく、実施例2では、比較例4に対して、シェード部での彩度が明らかに向上していることを示す。
【0162】
また、実施例2と比較例5(顔料(a2)を従来の干渉マイカ顔料に置換)とを比較すると、比較例5の光輝性複層塗膜は、従来の干渉マイカ顔料「イリオジン 221 WNT(平均粒径:10μm)」を使用することによって、実施例2では、ハイライトとの比(110°/15°)が0.30であるのに対して、比較例5では、ハイライトとの比(110°/15°)は0.22でしかなく、実施例2では、比較例5に対して、シェード部での彩度が明らかに向上していることを示す。
【0163】
同様に、実施例3と比較例3(顔料(a2)含まず)とを比較すると、両者は、ともに、ハイライト部(15°)での刺激純度がほぼ同じ値(実施例3では67%、比較例3では68%)を示すが、実施例3では、ハイライトとの比(110°/15°)が0.36であり、比較例3では、ハイライトとの比(110°/15°)は0.31であり、実施例3では、比較例3に対して、シェード部での彩度が明らかに向上していることを示す。
【0164】
従って、本発明では、ハイライト部だけでなく、シェード部においても、キラキラとした高彩度の優れた光輝感を維持することができ、広い角度にわたって、高彩度を維持することができる。
【0165】
また、比較例4の光輝性複層塗膜は、顔料(a1)および(a2)を含まず、従来の大粒径干渉マイカ顔料「イリオジン 225 WNT(平均粒径:18μm)」を使用していることから、ハイライトとの比(110°/15°)は0.16であるが、得られた光輝性複層塗膜の色相は、上述の通り、本発明の実施例のような広い色相変化を発現するものではなかった。また、比較例4の光輝性複層塗膜では、本発明の実施例のような広い干渉幅を観察することができなかった。
【0166】
また更に、比較例5の光輝性複層塗膜も、顔料(a2)を含まず、従来の小粒径干渉マイカ顔料「イリオジン 221 WNT(平均粒径:10μm)」を使用していることから、得られた光輝性複層塗膜の色相は、上述の通り、本発明の実施例のような広い色相変化を発現するものではなかった。また、比較例5の光輝性複層塗膜では、本発明の実施例のような広い干渉幅を観察することができなかった。
【産業上の利用可能性】
【0167】
本発明の方法では、光輝性顔料(a)として、少なくとも2種類の望ましくは粒径の異なる顔料(a1)および(a2)、着色顔料(b)として、少なくともカーボンブラック着色顔料をそれぞれ特定の配合量で塗料に添加することによって、色相が空色系から群青色系へと青色系の同系色内で連続的に変化し、さらに、塗装物のハイライト部とシェード部との間に優れた青色のコントラストを構築し、従来にない独特な意匠を有する光輝性複層塗膜を形成することができる。また、本発明の方法によると、塗装物のハイライト部だけでなく、シェード部においても、キラキラとした高彩度の優れた光輝感が得られ、このような優れた光輝感が、被塗物の広い角度にわたって観察することができる。
従って、本発明の方法は、自動車車体などの複雑な形状で、しかも、その意匠が製品として非常に重要である被塗物に適用した場合に特に有益である。また、本発明の方法は、自動車車体に限らず、あらゆる塗装分野に適用することができる。
【符号の説明】
【0168】
1 塗装物
2 ハイライト部
3 シェード部
4 中間部
5 入射光

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下地塗膜層を形成した基材上に、光輝性ベース塗膜層を形成し、さらにその上にクリヤー塗膜層を形成する、光輝性複層塗膜の形成方法であって、
光輝性複層塗膜が、マンセル表色系において、マンセル色相環(20色相)の10BG〜10Bから選択される色相から、10PB〜10Pから選択される色相までの青色系の色相(H)、ならびに、0〜5の明度(V)および0〜8の彩度(C)を有し、
光輝性ベース塗膜層を形成する光輝性ベース塗料組成物が、光輝性顔料(a)と、着色顔料(b)とを含み、
前記顔料(a)が、アルミナフレーク顔料(a1)と、マイカフレーク顔料(a2)とを含み、
前記顔料(a1)が、反射光が青色系の平均粒径10〜25μmの酸化チタン被覆アルミナフレーク顔料であり、
前記顔料(a2)が、反射光が青色系の平均粒径5〜15μmの酸化チタン被覆マイカフレーク顔料であり、
前記顔料(a1)の濃度(PWC)が、0.1〜30質量%であり、
前記顔料(a2)の濃度(PWC)が、0.1〜30質量%であり、
前記顔料(a1)および(a2)の合計濃度(PWC)が、0.2〜60質量%であり、前記顔料(b)が、カーボンブラック着色顔料であり、前記顔料(b)の濃度(PWC)が、0.1〜20質量%である、光輝性複層塗膜の形成方法。
【請求項2】
前記顔料(a1)の反射光は、マンセル色相環(20色相)の10BG〜10PBの色相を有し、前記顔料(a2)の反射光は、マンセル色相環(20色相)の5B〜5Pの色相を有する、請求項1記載の光輝性複層塗膜の形成方法。
【請求項3】
前記顔料(a1)および(a2)の質量比((a1)/(a2))が、2/8〜8/2である、請求項2記載の光輝性複層塗膜の形成方法。
【請求項4】
前記光輝性複層塗膜が、マンセル色相環(20色相)の10BGから10Pの青色系の色相(H)を有する、請求項3に記載の光輝性複層塗膜の形成方法。
【請求項5】
前記光輝性複層塗膜が、広い干渉幅を有する、請求項4に記載の光輝性複層塗膜の形成方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の光輝性複層塗膜の形成方法によって形成される、光輝性ベース塗膜層と、クリヤー塗膜層とを含む光輝性複層塗膜。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−136317(P2011−136317A)
【公開日】平成23年7月14日(2011.7.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−140(P2010−140)
【出願日】平成22年1月4日(2010.1.4)
【出願人】(000230054)日本ペイント株式会社 (626)
【Fターム(参考)】