説明

光送受信器

【課題】駆動回路基板と光モジュールとを繋ぐフレキシブルプリント基板からの電界放射を抑制し、低クロストーク特性を実現することができる光送受信器を提供する。
【解決手段】EML光モジュール2及び駆動回路基板4は、フレキシブルプリント基板3を介して互いに接続されている。EML光モジュール2は、モニタフォトダイオード11と、半導体レーザデバイスとしてのレーザダイオード12と、電界吸収型光変調器13aと、EA変調器13aと同容量をもつ電界吸収型半導体素子13bと、終端抵抗14a,14bと、サーミスタ15と、ペルチェ素子16と、コンデンサ17a,17bとを有している。EML光モジュール2、フレキシブルプリント基板3及び駆動回路基板4のそれぞれは、正相信号用伝送路と逆相信号用伝送路とからなる1対の主電気信号伝送路を有している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、光アクセスネットワークでの高速光送受信に用いられる光送受信器に関する。
【背景技術】
【0002】
インターネットの普及に伴って、サービスの多様化が進み、近年の光アクセスネットワークに求められる所要伝送レートは年々上昇傾向にある。現在の日本では、最大伝送レート1Gbpsの光通信が広くサービス提供されているが、その伝送レートをさらに高速化する研究がなされている。
【0003】
近年では、非特許文献1に示すように、10Gbpsの高速光送受信に関する規格化がなされており、受信部には、(A)PD−TIA(Photo Diode with Trans-Impedance Amplifier)光モジュールが適用され、10Gbpsの送信部には、DFB−LD(Distributed Feed-Back Laser Diode)及び電界吸収型(EA:electroabsorption)光変調器が一体化されたEML(electroabsorption modulator monolithically integrated laser diode)光モジュールが適用される。また、10Gbpsを超える超高速光アクセスシステムの研究も進められている。
【0004】
アクセスネットワークの光送受信器には、低消費電力化や装置設置コストの低下を実現するために、装置の小型高密度化が恒常の要求として存在している。従って、上記のような10Gbpsの送信モジュール及び受信モジュールは一体化され、一芯双方向光モジュールとして供給される。光送受信器基板でも送信機能及び受信機能は、一枚の基板上に実装されるのが一般的である。
【0005】
このような光送信部及び光受信部を一体化した光送受信器では、送信部の電気信号が基板/空間/モジュールなどを経由して、受信信号に影響を与えるクロストークが生じる可能性がある。電気的なクロストークでは、高周波ほどクロストーク量が増加し、周囲の構造によっても発生する向きや大きさなどが変化するために、改善や解析が難しい。
【0006】
これらのクロストークを回避するための1つの手法として、送受信間の距離を広げることが有効である。しかしながら、一芯双方向光モジュールにおいて、光の結合を維持するために送受信間の距離を広げることは設計困難であること、及び小型高密度化の要求に反することから、送受信間の距離を広げる手法をとることは適切ではない。
【0007】
他のクロストーク抑制手法としては、差動信号伝送方式などの相補的な信号を用いることで、空間的に伝播する電気的クロストークを抑圧することが挙げられる。このような差動信号伝送方式では、送信側においては電気的クロストークの発生を抑制可能であり、受信側においても、電気的クロストークによる影響を抑える効果がある。非特許文献2には、送信用の単相線路によってクロストーク特性が劣化するため、送信用のLD、及び受信用のAPD−TIAをともに差動駆動することによりクロストークを抑制可能であることが実験的に示されている。
【0008】
一方、EA光変調器は、電界を印加することによって光を吸収する半導体素子からなり、低チャープで応答速度が速いため、高速の光通信用の変調器として用いられている。非特許文献3には、EML光モジュールが10Gbpsの40km伝送用光モジュールとして用いられている例が示されている。
【0009】
ここで、図8は、従来の送受信器(EML光モジュールと駆動回路基板との接続構成例)を示す構成図である。図8において、CAN型EML光モジュール2は、フレキシブルプリント基板3を介して駆動回路基板4と接続されている。また、EML光モジュール2は、モニタPD11と、LD12と、EA13と、整合抵抗14と、サーミスタ15と、ペルチェ素子16と、コンデンサ17とを有している。駆動回路基板4には、LD12及びEA13を駆動するためのドライバIC31と、LD温度制御用のTEC(Thermoelectric Cooler)制御部32と、AC結合のコンデンサ33a,33bと、EAバイアス印加用のバイアスライン35と、逆相信号の終端抵抗34とが設けられている。
【0010】
ここで、図8に示すLD12及びEA13は、カソード共通の一体化素子(EML)素子として適用されることが多い。また、図8に示す接続方式とは異なり、EA13及びLD12の共通化されたカソードをグラウンドからDC的に浮かせる接続方式や、EA13のカソード側にはドライバIC31とAC結合しないDC結合なども使用される。しかし、ドライバICの片相信号のみをEAへの印加信号として利用する単相駆動がEA変調器の使い方としては一般的である。
【0011】
ただし、一方では、EA変調器の差動駆動手法も提案されており、例えば特許文献1では、EA変調器を差動で駆動することでドライバの駆動力が低い場合でも良好な消光特性をとる手法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2002−277840号公報
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】IEEE802.3av 10G-EPON Task Force ,[online],[平成23年4月19日検索],インターネット (URL:http://www.ieee802.org/3/av/index.html)
【非特許文献2】Yoshida T et al., “First single-fibre bi-directional XFP transceiver for optical metro/access networks,” 31th ECOC2005, Sept. 25-29, 2005, Glasgow, Scotland, UK,Tech. Dig. We4. P.021.
【非特許文献3】安西他, “ 小型低消費電力の40km 伝送用10Gbit/s 光トランシーバ,” 2010年 電子情報通信学会総合大会, B-10-75
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
上述のように、光送受信器の送信部・受信部を全て差動駆動にすることによって、クロストークを抑制できる。しかしながら、上述した従来の一般的なEMLモジュールの接続構成をアクセス系の光送受信器に適用した場合には、EMLを駆動するための信号の逆相側が駆動回路基板で終端してしまい、フレキシブル基板から光モジュールにかけて単相線路となる。このため、送信信号によるクロストークが生じ受信器の受信感度特性が劣化するという問題が生じる。
【0015】
さらに、上述した特許文献1のEA変調器の差動化手法は、EA及びLDのそれぞれのカソードを共通化して一体化したEML素子に適用した場合には、LD光源からの光出力が揺らいでしまうため、安定した光出力が得られず、適用が困難である。
【0016】
この発明は、上記のような問題点を解決するためになされたものであり、駆動回路基板と光モジュールとを繋ぐフレキシブルプリント基板からの電界放射を抑制し、低クロストーク特性を実現することができる光送受信器を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
この発明の光送受信器は、電気を光に変換する半導体レーザデバイスと前記半導体レーザデバイスの光を変調する光変調部とを有する光送信部、及び光信号を電気信号に変換する半導体光デバイスを有する光受信部を一体化した一芯双方向の光モジュールと、前記光モジュールを駆動するための差動ドライバ回路を有する光送受信器基板と、前記光モジュールと前記駆動回路基板とを接続するフレキシブルプリント基板とを備え、前記光モジュール、前記フレキシブルプリント基板及び前記駆動回路基板のそれぞれは、正相信号用伝送路と逆相信号用伝送路とからなる1対の主電気信号伝送路を有する。
【発明の効果】
【0018】
この発明の光送受信器によれば、光モジュール、フレキシブルプリント基板及び光送受信器基板のそれぞれは、正相信号用伝送路と逆相信号用伝送路とからなる1対の主電気信号伝送路を有するので、駆動回路基板と光モジュールとを繋ぐフレキシブルプリント基板からの電界放射を抑制し、低クロストーク特性を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】この発明の実施の形態1による光送受信器を示す構成図である。
【図2】EA光変調器の印加バイアスに対する光出力特性を示すグラフである。
【図3】この発明の実施の形態2による光送受信器を示す構成図である。
【図4】ある任意の逆バイアスをEA素子に印加した場合の、EA素子への光入力パワーに対するバイアス電流値の関係を示すグラフである。
【図5】この発明の実施の形態3による光送受信器を示す構成図である。
【図6】この発明の実施の形態4による光送受信器を示す構成図である。
【図7】この発明の実施の形態5による光送受信器を示す構成図である。
【図8】従来の光送受信器を示す構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、この発明を実施するための形態について、図面を参照して説明する。
実施の形態1.
図1は、この発明の実施の形態1による光送受信器(低クロストーク光送受信器のEML光モジュールと駆動回路基板との接続構成例)を示す構成図である。
図1において、光送受信器(低クロストーク光送受信器)1は、CAN型のEML光モジュール2と、フレキシブルプリント基板3と、駆動回路基板4とを有している。CAN型のEML光モジュール2及び駆動回路基板4は、フレキシブルプリント基板3を介して互いに接続されている。
【0021】
また、EML光モジュール2は、モニタフォトダイオード(以下、モニタPD)11と、半導体レーザデバイスとしてのレーザダイオード(以下、LD)12と、電界吸収型光変調器(以下、EA光変調器)13aと、EA変調器13aと同容量をもつ電界吸収型半導体素子(以下、EA素子)13bと、終端抵抗14a,14bと、サーミスタ15と、ペルチェ素子16と、コンデンサ17a,17bとを有している。ここで、EML光モジュール2は、LD12及びEA光変調器13aを含む光送信部、及び光信号を電気信号に変換する半導体光デバイスと復調部(いずれも図示せず)とを含む光受信部を一体化した一芯双方向の光モジュールである。
【0022】
モニタPD11は、レーザ出力パワーをモニタするために、レーザ光の強度に依存した電流を生成する。終端抵抗14aは、EA光変調器13aに印加される信号の終端抵抗である。終端抵抗14bは、EA素子13bに印加される信号の終端抵抗である。サーミスタ15の抵抗値は、LD12及びEA光変調器13aの温度に応じて変化する。ペルチェ素子16は、LD12とEA光変調器13aとの温度を制御するためのものである。
【0023】
駆動回路基板4には、EA光変調器13aやLD12を駆動するための回路が実装されている。具体的に、駆動回路基板4には、ドライバIC(差動ドライバ回路)31と、TEC制御部32と、コンデンサ33a,33bと、バイアスライン35a,35bとが設けられている。コンデンサ33a,33bは、ドライバIC31の正逆相出力をAC結合するためのものである。バイアスライン35a,35bは、EA光変調器13aとEA素子13bにDCバイアスを印加するためものである。なお、図1において、EML光モジュール2とフレキシブルプリント基板3との間、及びフレキシブルプリント基板3と駆動回路基板4と間の白抜きの丸は、それぞれの部品の接続点を意味する。
【0024】
次に、実施の形態1におけるEML光モジュール2及び駆動回路基板4の動作について説明する。図1のEML光モジュール2を動作させるためには、LD12が一定のパワーで出力し続ける自動出力パワー制御機能(APC機能)と、LD12とEA光変調器13aとEA素子13bの温度を一定に制御する自動温度制御機能(ATC機能)と、EA光変調器13aに信号バイアスを印加する変調機能(変調機能)との3つの機能を駆動回路基板4側で実現する必要がある。実施の形態1の構成では、APC機能及び変調機能はドライバIC31によって実現され、ATC機能はTEC制御部32によって実現される。
【0025】
ここで、EA光変調器13aのような外部光変調器を用いる際には、LD12から安定した一定出力パワーが得られなければならない。しかしながら、LDは一定の電流を流し続けたとしても、経年劣化などの要因から出力パワーが揺らいでしまう。このため、モニタPD11を利用したフィードバック制御を行う。受光素子であるPDの入力光パワーに応じた電流を流す特性を利用して、LD12から出力された光はモニタPD11で受光され、光から電流へと変換される。
【0026】
モニタPD11の電流は、ドライバIC31にフィードバックされる。ドライバIC31には、基準の電流値が予め設定されており、LD12へと印加される電流量は、フィードバックされたPD電流と基準の電流値とが常に等しくなるように制御される。また、モニタPD11からの電流は、LD12の光出力パワーに依存するため、例えば経年劣化などの理由でLD12の光出力パワーが劣化した場合には、モニタPD11が供給する電流も小さくなる。そこで、ドライバIC31のAPC機能は、LD12への印加電流値を増加し、光出力パワーを増加させ、モニタPD11からの電流を元に戻すように制御する。
【0027】
また、EA光変調器13aの吸収光波長や、LD12の光出力パワー及び波長には、温度依存性が存在する。このため、EML光モジュール2には、温度制御用にサーミスタ15及びペルチェ素子16が用いられる。サーミスタ15は、LD12及びEA光変調器13aのそれぞれの温度を検知するため、LD12及びEA光変調器13aのそれぞれの温度に対応した抵抗値になる。TEC制御部32は、サーミスタ15に印加される電圧もしくは電流により、EML光モジュール2の内部の温度を検出し、ペルチェ素子16へ流す電流量や向きを変化させることでLD12及びEA光変調器13aの温度を制御する。
【0028】
続いて、EA光変調器13aに印加される変調信号について説明する。図2は、EA光変調器の印加バイアスに対する光出力特性を示すグラフである。図2では、横軸にEAアノードへの印加バイアスをとり、縦軸に光出力パワーをとる。EA光変調器13aの特性は、深いバイアスをかけるほど光を吸収・消光する特性であり、図2の(1)に示すように、中心バイアスを中心に歪んだ電気波形を印加することによって、図2の(2)に示すように、歪みのない光出力波形を得ることができる。
【0029】
また、図1に戻り、ドライバIC31からの出力波形は、コンデンサ33aによりAC成分のみが取り出され、中心バイアスはバイアスライン35aを用いて決定するAC結合構成を用いて、EA光変調器13aに印加する信号を生成する。EML光モジュール2側では、EA光変調器13aと並列に、インピーダンス整合用の終端抵抗14aとコンデンサ17aとの直列接続体が接続され、反射なく信号をEA光変調器13aに印加する。
【0030】
送信される光出力パワーや光波形は、LD12からの連続光とEA光変調器13aに印加する電気信号とによって決定される。なお、終端抵抗14aと直列に接続されたコンデンサ17aは、バイアスラインとグラウンドとをDC的に切り離すことで、終端抵抗14aからのDC電流の増加を抑制するために用いられる。
【0031】
ここで、EA光変調器13a及び終端抵抗14aへのドライバIC31の出力伝送ラインの信号を正相信号とし、印加しない側の信号を逆相信号とする。逆相信号ラインは、正相信号ラインと同じAC結合容量のコンデンサ33b、バイアスライン35b、EA光変調器13aと同じ素子容量をもつEA素子13b、終端抵抗14b及びコンデンサ17bが配置されている。このように、EML光モジュール2、フレキシブルプリント基板3及び駆動回路基板4のそれぞれは、正相信号用伝送路と逆相信号用伝送路とからなる1対の主電気信号伝送路を有している。
【0032】
EA素子13b及び終端抵抗14bに印加される信号は、正相信号の位相を180度ずらした信号が印加される。前述したように、送信される光出力は、LD12及びEA光変調器13aによって決定されるものであり、LD12及びEA素子13bの光の結合に対する要求は厳しくない。EA素子13bは、LD12からの漏れ光に対して変調をするのみでよく、EA素子13bによる変調光が出力されることはない。従って、EA素子13bによって変調される光は、EA光変調器13aからの光出力には何ら影響を与えないため、実施の形態1の構成をとることによる従来技術からの特性劣化は何ら生じない。
【0033】
次に、実施の形態1の効果について説明する。上記のような実施の形態1の構成をとることにより、EML光モジュール2及び駆動回路基板4を繋ぐフレキシブルプリント基板3には、正相信号伝送線路と逆相信号伝送線路とが形成される。これらの正相及び逆相信号用伝送路には、それぞれ逆位相の信号が通り、逆位相の電界が発生する。この結果、逆位相の電界が互いの電界を打ち消すように発生するため、空間に放射される信号(電界放射)が抑制されることになり、受信部や他の送信部に対するクロストークを改善することができる。即ち、低クロストーク特性を実現することができる。
【0034】
さらに、実施の形態1では、ドライバIC31から終端抵抗14a及びコンデンサ17aまでと、ドライバIC31から終端抵抗14b及びコンデンサ17bまでとの等長配線が可能であり、EA光変調器13aとEA素子13bとのそれぞれの素子容量を等しくすることで、ドライバIC31からみた正相及び逆相伝送線路を、極めて等しい負荷に見せることができ、高周波特性が改善できる。
【0035】
実施の形態2.
先の実施の形態1では、EML光モジュールに逆相信号用の端子を増加して逆相信号をEML光モジュール内で終端する構成とするようにしたものである。これに対して、実施の形態2では、EML光モジュールで使用することができる端子が、図8に示すような従来例と同数の制限がある場合の実施形態を示す。
【0036】
図3は、この発明の実施の形態2による光送受信器を示す構成図である。図1と同様の素子や同様の機能についての説明は省略する。ここで、実施の形態2の図3に示す構成では、図1に示す実施の形態1の構成とは異なり、EML光モジュール2からLD12の光出力モニタ用のモニタPD11が省略され、駆動回路基板4の逆相信号用バイアスライン35bにDC電圧もしくは電流を検出するための抵抗(電流検出手段)36を設けた構成である。他の構成は、実施の形態1と同様である。
【0037】
次に、実施の形態2の光送受信器の動作を説明する。図3に示すEML光モジュール2を動作させるためには、実施の形態1と同様にLD12が一定のパワーで出力し続ける自動出力パワー制御機能(APC機能)と、LD12とEA光変調器13aとEA素子13bとの温度を一定に制御する自動温度制御機能(ATC機能)、及びEA光変調器13aに信号バイアスを印加する変調機能(変調機能)の3つを用いる必要がある。このうち、ATC機能及び変調機能は、実施の形態1と同様であり、その説明を省略する。
【0038】
実施の形態2の自動出力パワー制御機能(APC機能)のLDモニタ機能は、逆相信号の終端負荷の一つであるEA素子13bと、バイアスライン35bに挿入した抵抗36とによって実現される。EA光変調器13a及びEA素子13bは、光を吸収して電流に変換する特性をもち、その光吸収電流量は、同じバイアスが印加されている場合、入力される光パワーの大きさに従う。
【0039】
図4は、ある任意の逆バイアスをEA素子13bに印加した場合の、EA素子13bへの光入力パワーに対するバイアス電流値の関係を示すグラフである。図4に示すように、EA素子13bは、光入力パワーに依存した光吸収電流を流すため、LD12の光出力をモニタするためには、バイアス電流値、又はそれに代わる何かをモニタすればよい。
【0040】
また、図3に戻り、ドライバIC31は、バイアスライン35bに挿入した抵抗36のインダクタ側の電圧値をモニタし、その電圧値が初期設定値(例えば中心バイアス)と同様になるようにLD12の出力を制御する。例えば、抵抗36のインダクタ側の電圧値が浅いバイアスになった場合、EA素子13bの光吸収電流が増加したことを検知したドライバIC31は、LD12にバイアス電流を流さないように、光出力パワーを抑える方向に制御する。逆に抵抗36のインダクタ側の電圧値が深いバイアスになった場合には、LD12にバイアス電流をより流すように、光出力パワーを増加させるように制御する。
【0041】
次に、実施の形態2の効果について説明する。実施の形態2では、実施の形態1と同様に、EML光モジュール2と駆動回路基板4とを繋ぐフレキシブルプリント基板3に、正相信号伝送線路と逆相信号伝送線路とを設けることで、正相及び逆相信号用伝送路にそれぞれ逆位相の電界を発生させ、受信部や他の送信部に対するクロストークを改善することができる。
【0042】
また、ドライバIC31から終端までを等配置、等長配線可能であることから、高周波特性の改善効果もある。さらに、実施の形態1に比較して逆相信号用伝送路をパワーモニタ機能と併用することで、EML光モジュール2の出力端子数を従来技術の構成のまま実現することが可能となる。さらに、実施の形態1の構成から、モニタPD11の素子を完全に除去することが可能であり、EML光モジュール2からの出力端子数を従来技術の構成から増加させることなく実現することができる。
【0043】
実施の形態3.
図5は、実施の形態3による光送受信器を示す構成図である。以下では、図1,3に示す実施の形態1,2と同様の素子や同じ機能のものについての説明は省略する。実施の形態3では、実施の形態2とは異なり、ドライバIC31の逆相信号用伝送路の終端としてモニタPDを用いる構成である。つまり、実施の形態3の構成としては、図3に示す実施の形態2の構成のEA素子13bに代えて、モニタPD11が用いられる点が実施の形態2の構成と異なる。
【0044】
次に、実施の形態3の光送受信器の動作を説明する。図5のEML光モジュール2を動作させるためには、実施の形態1と同様に、LD12が一定のパワーで出力し続ける自動出力パワー制御機能(APC)と、LD12及びEA光変調器13aの温度を一定に制御する自動温度制御機能(ATC)と、EA光変調器13aに変調信号を印加する変調機能との3つを用いる必要がある。このうち、自動温度制御機能(ATC)及び変調機能は、実施の形態2と同様であり、説明を省略する。
【0045】
実施の形態3の自動出力パワー制御機能(APC)について説明する。実施の形態3のモニタPD11は、逆相信号の終端として実装され、LD12からの連続光を電流に変換し、そのDC成分をバイアスライン35bに供給する。従って、LD12の光出力をモニタするためには、バイアス電流値を何らかの方法でモニタすればよい。そこで、実施の形態3のドライバIC31は、バイアスライン35bに挿入した抵抗36のインダクタ側の電圧値をモニタし、その電圧値が初期設定値と同じになるようにLD12の出力を制御する。
【0046】
例えば、抵抗36のインダクタ側の電圧値が浅いバイアスになった場合には、ドライバIC31は、EA素子13bの光吸収電流が増加したことを検知し、LD12にバイアス電流を流さないように制御する。これに対して、抵抗36のインダクタ側の電圧値が深いバイアスになった場合には、ドライバIC31は、LD12にバイアス電流をより流すように制御する。なお、抵抗36のインダクタ側の電圧値の初期値は、モニタPD11が十分稼動する電圧値に設定する必要がある。
【0047】
次に、実施の形態3の効果について説明する。実施の形態3では、実施の形態1と同様に、EML光モジュール2と駆動回路基板4とを繋ぐフレキシブルプリント基板3に、正相信号伝送線路と逆相信号伝送線路とが設けられている。この構成により、正相及び逆相信号用伝送路にそれぞれ逆位相の電界を発生させ、受信部や他の送信部に対するクロストークを改善することが可能となる。
【0048】
また、ドライバIC31から終端までを、等配置、及び等長配線可能であることから、高周波特性の改善効果もある。さらに、実施の形態1と比較して、逆相信号用伝送路をパワーモニタ機能と併用することで、EML光モジュール2の出力端子数を従来技術の構成のまま実現することが可能となる。また、実施の形態2に比較して高価な光素子であるEA素子を適用せずにクロストークを抑制することができる。
【0049】
実施の形態4.
図6は、この発明の実施の形態4による送受信器を示す構成図である。図6において、図1,3と同様の素子や同様の機能のものについての説明は省略する。実施の形態4は、実施の形態1において逆相信号の終端に配置していたEA素子13bの代替として、EA光変調器13aの素子容量と等価な容量をもつコンデンサ(等価回路構成素子)18を用いて、このコンデンサ18を終端抵抗14bと並列に接続した構成をとる。つまり、実施の形態4の構成としては、図1に示す実施の形態1の構成のEA素子13bに代えて、コンデンサ18が用いられる点が実施の形態1の構成と異なる。他の構成は、実施の形態1と同様である。
【0050】
次に、実施の形態4の効果について説明する。実施の形態4では、実施の形態1と同様に、EML光モジュール2と駆動回路基板4とを繋ぐフレキシブルプリント基板3に、正相信号伝送線路と逆相信号伝送線路とを設けたことにより、正相及び逆相信号用伝送路にそれぞれ逆位相の電界を発生させ、受信部や他の送信部に対するクロストークを改善することができる。また、ドライバIC31から終端までを等配置及び等長配線可能であることから、高周波特性の改善効果もある。さらに、実施の形態1の構成に比較して、高価な光素子であるEA素子を増やすことなく、クロストークの抑制に十分な効果を望むことができる。
【0051】
実施の形態5.
図7は、この発明の実施の形態5による光送受信器を示す構成図である。これまでの実施の形態と同様の素子や同じ機能のものについての説明は省略する。図7において、実施の形態5では、実施の形態1にて逆相信号の終端に配置していたEA素子13bの代替として、EA光変調器13aの素子容量と等価な容量をもつコンデンサ(等価回路構成素子)23が用いられる。ただし、実施の形態5の光送受信器は、逆相信号の終端負荷であるコンデンサ23、終端抵抗21、及びコンデンサ22をEML光モジュール2の外部に配置し、フレキシブルプリント基板3上に実装することを特徴とした構成をもつ。
【0052】
ここで、正相信号及び逆相信号のそれぞれの伝送路を可能な限り平行に配置し、クロストークを抑制するためには、これらの伝送路の終端をEML光モジュール2に近付ける必要がある。そこで、実施の形態5のEML光モジュール2は、CAN構成を想定しており、逆相信号の終端負荷であるコンデンサ23、終端抵抗21、及びコンデンサ22は、EML光モジュール2とフレキシブルプリント基板3との接点となるCAN裏面に実装する構造である。他の構成は、実施の形態1と同様である。
【0053】
次に、実施の形態5の効果について説明する。実施の形態5では、これまでの実施の形態と同様に、EML光モジュール2と駆動回路基板4とを繋ぐフレキシブルプリント基板3は、正相信号伝送線路と逆相信号伝送線路とを設けることにより、正相及び逆相信号用伝送路にそれぞれ逆位相の電界を発生させ、受信部や他の送信部に対するクロストークを改善することができる。また、EML光モジュール2の構成は、図8に示す従来の光送受信器のEML光モジュール2の構成と全く同じであるため、これまでに説明した実施の形態の中で最も簡単にクロストークの抑制を実現できる。
【符号の説明】
【0054】
1 光送受信器、2 EML光モジュール、3 フレキシブルプリント基板、4 駆動回路基板、11 PD(フォトダイオード)、12 LD(半導体レーザデバイス)、13a EA光変調器(電界吸収型光変調器)、13b EA素子(電界吸収型半導体素子)、14a,14b 終端抵抗、15 サーミスタ、16 ペルチェ素子、17 コンデンサ、17a,17b コンデンサ、18 コンデンサ(等価回路構成素子)、21 終端抵抗、22 コンデンサ、23 コンデンサ(等価回路構成素子)、31 ドライバIC(差動ドライバ回路)、32 TEC制御部、33a,33b コンデンサ、34 終端抵抗、35a,35b バイアスライン、36 抵抗(電流検出手段)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気を光に変換する半導体レーザデバイスと前記半導体レーザデバイスの光を変調する光変調部とを有する光送信部、及び光信号を電気信号に変換する半導体光デバイス及び復調部を有する光受信部を一体化した一芯双方向の光モジュールと、
前記光モジュールを駆動するための差動ドライバ回路を有する光送受信器基板と、
前記光モジュールと前記駆動回路基板とを接続するフレキシブルプリント基板と
を備え、
前記光モジュール、前記フレキシブルプリント基板及び前記駆動回路基板のそれぞれは、正相信号用伝送路と逆相信号用伝送路とからなる1対の主電気信号伝送路を有する
ことを特徴とする光送受信器。
【請求項2】
前記光モジュールには、前記逆相信号用伝送路の終端が設けられる
ことを特徴とする請求項1記載の光送受信器。
【請求項3】
前記変調部は、正相信号のみを用いて変調する電界吸収型光変調器であり、
前記光モジュールの前記逆相信号用伝送路の終端は、前記電界吸収型光変調器もしくは電界吸収型半導体素子である
ことを特徴とする請求項2記載の光送受信器。
【請求項4】
前記逆相用信号用伝送路の終端としての前記電界吸収型光変調器もしくは前記電界吸収型半導体素子で生じる光吸収電流から、前記半導体レーザデバイスの光出力パワーを検出するための電流検出手段
をさらに備え、
前記差動ドライバ回路は、前記電流検出手段を介して前記半導体レーザデバイスの光出力パワーを検出して、前記半導体レーザデバイスの光出力パワーを制御する
ことを特徴とする請求項3記載の光送受信器。
【請求項5】
前記光モジュールにおける前記逆相信号用伝送路の終端をなし、前記半導体レーザデバイスの光出力パワーに応じた信号を生成するフォトダイオード
をさらに備え、
前記差動ドライバ回路は、前記フォトダイオードからの信号を用いて前記半導体レーザデバイスの光出力パワーを検出し、前記半導体レーザデバイスの光出力パワーを制御する
ことを特徴とする請求項1記載の光送受信器。
【請求項6】
前記変調部は、正相信号のみを用いて変調する電界吸収型光変調器であり、
前記光モジュールには、前記逆相信号用伝送路の終端をなし前記電界吸収型光変調器の等価回路をなす等価回路構成素子が設けられている
ことを特徴とする請求項2記載の光送受信器。
【請求項7】
前記変調部は、正相信号のみを用いて変調する電界吸収型光変調器であり、
前記光モジュールと前記フレキシブルプリント基板との接続点には、逆相信号用伝送路の終端をなし前記電界吸収型光変調器の等価回路をなす等価回路構成素子が設けられている
ことを特徴とする請求項1記載の光送受信器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−244229(P2012−244229A)
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−109446(P2011−109446)
【出願日】平成23年5月16日(2011.5.16)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成22年度、総務省、「グリーン・エラスティック超高速光アクセスシステムの研究開発」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】