説明

光酸発生剤及びフォトリソグラフィ用樹脂組成物

【課題】i線照射により酸を発生する優れた光酸発生剤及びこれを含むフォトリソグラフィ組成物の提供。
【解決手段】光酸発生剤は、式(I)


(式中、R1は低級アルキル基であり、R2は低級アルキル基である。また、R3は水素又は低級アルキル基である。さらに、X-はCF3SO3-、PF6-、SbF6-、BF4-、C4F9SO3-のうちの何れか一つである。)で示される化合物やその異性体などを含むものである。また、フォトリソグラフィ組成物は前記光酸発生剤を含むものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、半導体製造等に利用するフォトリソグラフィ用樹脂組成物やその成分である光酸発生剤(PAG)等に関し、特に、紫外線(i線)を照射すると酸を発生する光酸発生剤、及び前記光酸発生剤を含むフォトリソグラフィ用樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
非イオン系i線対応光酸発生剤は、比較的樹脂との相溶性がよく、安価な光源である高圧水銀灯が使用可能であることから注目されている(例えば、非特許文献1から非特許文献5を参照)。
【0003】
そこで、発明者らは290nmに吸収を有するチアントレンを発色団とするイミド型光酸発生剤N-トリフルオロメタンスルフォニロキシ-7-メチルチアントレン-2,3-ジカルボン酸イミド(以下、Me-THITfと略記する。)及びN-ペンタフルオロベンゼンスルフォニロキシ-7-メチルチアントレン-2,3-ジカルボン酸イミド(以下、Me-THIPSと略記する。)を既に開発している(非特許文献5を参照)。
【0004】
Me-THITf及びMe-THIPSは、光が照射されると超強酸であるトリフルオロメタンスルホン酸を発生し、樹脂の架橋・不溶化を触媒する。また、これらのi線(波長365nm)におけるモル吸光係数は、それぞれ1570M-1cm-1及び1640M-1cm-1あり、市販品の光酸発生剤であるN-トリフルオロメタンスルフォニロキシ-1,8-ナフチルイミド(以下、NITfと略記する。)よりも優れた光架橋触媒である。
【0005】
ただし、Me-THITf及びMe-THIPSは優れた光酸発生剤であるものの、溶媒への溶解性はあまりよくなく、樹脂との相溶性も不十分であった。また、これらの光酸発生剤を合成するには、保護・脱保護の過程を必要とするため、最終生成物であるMe-THITf及びMe-THIPSに至るまでには多くの手間と長い反応時間を要していた。
【0006】
そこで、発明者らは反応時間が短くてすみ、溶媒への溶解性が高く、樹脂との相溶性も十分高い化合物である、N-トリフルオロメタンスルフォニロキシ-7-tert-ブチルチアントレン-2,3-ジカルボン酸イミド(以下、tert-THITfと略記する。)、N-ペンタフルオロベンゼンスルフォニロキシ-7-tert-ブチルチアントレン-2,3-ジカルボン酸イミド(以下tert-THIPSと略記する。)等の非イオン型光酸発生剤を開発している。
【0007】
これらtert-THITf、tert-THIPSは、Me-THITf及びMe-THIPSのメチル基の代りにt-ブチル基を備えているため、溶媒への溶解性や樹脂との相溶性は高いものの、熱安定性は不十分であった。そのため、これらの光酸発生剤を含むフォトリソグラフィ用樹脂組成物を使用してシリコンウェハ上にレジスト膜を形成する場合、レジスト膜を低温で長時間乾燥しなければならず、半導体の生産性を引き挙げる上での障害となっていた。
【非特許文献1】T. Asakura, H. Yamato, M. Ohwa, J. Photopolym. Sci. Technol., 13, 223 (2000).
【非特許文献2】H. Okamura, Y. Watanabe, M. Tsunooka, M. Shirai, T. Fujiki, S. Kawasaki, M. Yamada, J. Photopolym. Sci. Technol., 15, 145 (2002).
【非特許文献3】H. Okamura, K. Sakai, M. Tsunooka, M. Shirai, J. Photopolym. Sci. Technol., 16, 87 (2003).
【非特許文献4】C. Iwashima, G. Imai, H. Okamura, M. Tsunooka, M. Shirai, J. Photopolym. Sci. Technol., 16, 91 (2003).
【非特許文献5】H. Okamura, R. Matsumori, M. Shirai, J. Photopolym. Sci. Technol., 17,131, (2004).
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで、この発明は、i線照射により酸を発生し、溶媒への溶解性及び樹脂との相溶性が高く、熱安定性も優れた光酸発生剤を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
発明者らは、光酸発生剤の構造について鋭意検討した結果、i線照射により酸を発生し、溶媒への溶解性及び樹脂との相溶性が高く、熱安定性も優れたイオン型光酸発生剤及びこの光酸発生剤を含むフォトリソグラフィ組成物を開発した。
【0010】
すなわち、請求項1に記載の光酸発生剤は、
式(I)及び式(II)
【化1】

【化2】

(式中、R1は低級アルキル基であり、R2は低級アルキル基である。また、R3は水素又は低級アルキル基である。さらに、X-はCF3SO3-、PF6-、SbF6-、BF4-、C4F9SO3-のうちの何れか一つである。)で示される化合物からなる群れより選ばれた少なくとも一種の化合物を含むものである。なお、低級アルキル基とは炭素数1〜6の鎖状又は環状のアルキル基のことである。
【0011】
請求項2に記載の光酸発生剤は、請求項1記載の光酸発生剤であって、式(I)及び式(II)において、R1がメチル基又はブチル基のものである。
【0012】
請求項3に記載の光酸発生剤は、請求項1又は請求項2に記載の光酸発生剤であって、式(I)及び式(II)において、R2がt-ブチル基又はメチル基のものである。
【0013】
請求項4に記載の光酸発生剤は、請求項1から請求項3の何れか一つの請求項に記載の光酸発生剤であって、式(I)及び式(II)において、R3が水素、フェニル基、ベンジル基のうちの何れか一つであるのものである。
【0014】
請求項5に記載の光酸発生剤は、請求項1から請求項4の何れか一つの請求項に記載の光酸発生剤であって、式(I)及び式(II)において、X-がCF3SO3-、PF6-、C4F9SO3-のうちの何れか一つのものである。
【0015】
請求項6に記載のフォトリソグラフィ用樹脂組成物は、請求項1から請求項5の何れか一つの請求項に記載の光酸発生剤を含むものである。
【0016】
このフォトリソグラフィ用樹脂組成物は、光酸発生剤に加えて、光酸発生剤から発生した酸によって架橋・不溶化する樹脂を含んでおり、必要に応じて公知の塗布性を改善するための溶媒、各種添加剤などを含んでいてもよい。
【0017】
前記樹脂としては、例えばエポキシ基、オキセタン基、ビニルエーテル基を側鎖に有するポリマー、オリゴマー、多官能モノマーなどが挙げられる。これらの中でも、高反応性、汎用性、硬化物の特性から、エポキシ基を有するオリゴマーが好ましい。なお、これらの樹脂は単独で又は二種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0018】
前記溶媒としては、例えばN,N'-ジメチルホルムアミド、テトラヒドロフラン、トルエン、ジメトキシエタン、アセトニトリル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、シクロヘキサノン、プロピレングリコールメチルエーテルアセテート等の有機溶媒が挙げられる。これらの中でも、化合物に対する高い溶解性及びその沸点が適切であるとの理由から、シクロヘキサノンが好ましい。なお、これらの溶媒は単独で又は二種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0019】
前記添加剤としては、例えば、染料、顔料、増粘剤、消泡剤、レベリング剤、分散剤などが挙げられる。
【発明の効果】
【0020】
請求項1に記載の光酸発生剤は、i線の照射により酸を発生し、溶媒への溶解度及び樹脂との相溶性が高く、熱安定性も高い。そのため、熱安定性に優れた均一なフォトリソグラフィ組成物を得ることができる。
【0021】
請求項2の光酸発生剤は、R1がメチル基又はブチル基であるため、溶媒への溶解度及び樹脂への相溶性をより高くすることができる。なお、メチル基及びブチル基以外の直鎖、分岐、及び環状アルキル基を導入することによっても、溶解性を向上させることができる。
【0022】
請求項3の光酸発生剤は、R2がt-ブチル基又はメチル基であるため、溶媒への溶解度及び樹脂への相溶性をより高くすることができる。中でも、t-ブチル基を導入するほうが溶解性をより高くでき、製造に有利である。
【0023】
請求項4の光酸発生剤は、R3が水素、フェニル基、ベンジル基のうちの何れか一つであるため、溶解性及び光反応性を制御することができる。なお、溶解性及び光反応性の観点から、ベンジル基を導入するほうが好ましい。
【0024】
請求項5の光酸発生剤は、X-がCF3SO3-、PF6-、C4F9SO3-であるため、光カチオン重合の開始剤として使用できる。なお、X-は前記のマイナスイオンに限定されるわけでなく、これら以外の様々なマイナスイオンから選択できる。
【0025】
請求項6のフォトリソグラフィ用樹脂組成物により、Si等からなる基板上により均一な樹脂層(フィルム)をより容易、かつ効率よく形成することができ、半導体の生産性向上に寄与する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下に、この発明を実施例により説明するが、この発明の特許請求の範囲は如何なる意味においても下記の実施例により限定されるものではない。
【実施例1】
【0027】
1.光酸発生剤の合成とその評価
図1、図2に示す合成経路に従って、複数のイオン型酸光発生剤を合成し、その物性等について評価した。以下にその詳細について説明する。なお、図1、図2と以下の説明との関係を明確にするため、同一の化合物には同一の番号を付与した。
【0028】
(1)試薬
tert-ブチルベンゼン(以下、化合物1と略記する。)、4,5-ジクロロフタル酸イミド(以下、化合物3と略記する。)はアルドリッチより購入したものをそのまま使用した。二塩化二硫黄、アニソール、五酸化二リン、メタンスルホン酸は和光純薬より購入したものをそのまま使用した。トリフルオロメタンスルホン酸カリウム、パーフルオロ-1-ブタンスルホン酸カリウム、ヘキサフルオロリン酸カリウムは東京化成工業より購入したものをそのまま使用した。亜鉛はキシダ化学より購入したものをそのまま使用した。NITfはミドリ化学から購入したものをそのまま使用した。ホルムアミドはナカライテスクより購入したものをそのまま使用した。N,N'-ジメチルホルムアミド(DMF)、トルエン、アセトニトリル、シクロヘキサノンはCaH2により蒸留したものを使用した。tert-THITfは発明者らが既に開発している方法に沿って合成したものを使用した。
【0029】
(2)測定装置
1H NMRスペクトルはFT-NMRスペクトロメーター(JEOL、GX-270)により測定した。IRスペクトルはFT-IRスペクトロメーター(JASCO、FT/IR-410)により測定した。質量分析は、質量分析装置(島津製作所製 GCMS QP2010plus)によって行った。UV-VisスペクトルはUV-Visスペクトロメーター(島津製作所、UV2400PC)により測定した。分解点(Td)は熱重量分析器(島津製作所、TGA-50)により測定した。
【0030】
(3)図1に示す光酸発生剤の合成
(i)4-tert-ブチルベンゼン-1,2-ジチオールの合成
特開平07−173130号公報に従って合成した。化合物1(91.0g,679mmol)、ヨウ素(107g,423mmol)、二塩化二硫黄(84.9ml)、クロロホルム(257ml)を四つ口フラスコに入れ、42℃で環流しながら24時間反応させた。反応系を室温に戻し、亜鉛(164g,2.51mol)と35% 塩酸(780ml,1.06mol)を加えて60℃で還流しながら2時間反応させた。
【0031】
反応終了後、反応系を室温に戻して、生成物をクロロホルム(500ml)で4回抽出し、有機相を無水硫酸マグネシウムで乾燥したのち、溶媒を留去した。最後に、残ったものを減圧下で蒸留(1.33hPa,110℃)して、無色透明の液体である4-tert-ブチルベンゼン-1,2-ジチオール(以下、化合物2と略記する。)を得た(収量17.2g,収率12%)。なお、この化合物2は以下に示す分析結果から同定した。
【0032】
1H NMR(CDCl3):δ7.35(1H,s,aromatic),7.25(1H,d,aromatic),7.05(1H,d,aromatic),3.72(1H,s,SH),3.54(1H,s,SH),1.21(9H,s,-C(CH3)3).
【0033】
(ii)7-tert-ブチルチアントレン-2,3-ジカルボン酸イミドの合成
窒素下、化合物2(0.500g,2.52mmol)、水酸化カリウム(0.480g,8.58mmol)、DMF(12.0ml)及びトルエン(5.00ml)の混合溶液をフラスコに入れ、ディーンスターク装置を組立てたのち、フラスコの内容物を130℃で18時間撹拌して反応させた。その際、反応系より生成する水をトルエンと共に随時排出した。反応系を60℃に冷却し、化合物3(1.00g,4.65mmol)を加え、90℃で18時間撹拌した。
【0034】
反応系を室温に戻して、クロロホルムと水で4回抽出し、有機層を無水硫酸マグネシウムで乾燥したのち、溶媒を留去した。その結果、黄色の固体である7-tert-ブチルチアントレン-2,3-ジカルボン酸イミド(以下、化合物4と略記する。)を得た(収量0.920g,収率58%)。なお、この化合物4は以下に示す分析結果から同定した。
【0035】
mp:218-220℃.1H NMR(CDCl3):δ7.88(2H,d,aromatic),7.48(1H,d,aromatic),7.39(1H,s,aromatic),7.32(1H,d,aromatic),1.28(9H,s,-C(CH3)3).IR(KBr):3257cm-1(N-H),1714cm-1(C=O).Anal.Calcd for C18H15NO2S2:C,63.32;H,4.43;N,4.10.Found:C,63.35;H,4.16;N,3.64.MS(EI):341(M+,100).
【0036】
(iii)7-tert-ブチルチアントレン-(5 or 10)-オキシド-2,3-ジカルボン酸イミドの合成
化合物4(5.67g,15.9mmol)、酢酸(80ml)を四つ口フラスコに入れ、撹拌しながら1M硝酸(6.0ml)をゆっくりと滴下した。滴下が終了したのち、125℃で20分間還流させた。反応液を室温に戻し、氷水(400ml)に注ぎ入れた。析出した固体をイオン交換水で4回洗浄した。洗浄したものを真空乾燥させることにより、淡黄色の固体である7-tert-ブチルチアントレン-(5 or 10)-オキシド-2,3-ジカルボン酸イミド(以下、化合物5と略記する。)を得た(5.23g,収率88%)。なお、この化合物5は以下に示す分析結果から同定した。
【0037】
mp:234-237℃.1H NMR(CDCl3):δ7.52(1H,d,aromatic),7.64(1H,d,aromatic),7.67(1H,s,aromatic),8.10(2H,d,aromatic),1.33(9H,s,-C(CH3)3);δ7.67(1H,d,aromatic),7.87(1H,d,aromatic),7.95(1H,s,aromatic),8.45(2H,d,aromatic),1.33(9H,s,-C(CH3)3).IR(KBr):3492cm-1(N-H),1727cm-1(C=O).Anal.Calcd for C18H15NO3S2:C,60.48;H,4.23;N,3.92;found:C,60.09;H,3.96;N,3.75.MS(EI):357(M+,20),294(M+-63,100).
【0038】
(iv)チアントレニウム-2,3-ジカルボン酸イミド塩の合成
(a)7-tert-ブチル-(5 or 10)-(4-メトキシフェニル)チアントレニウム-2,3-ジカルボン酸イミド トリフルオロメタンスルホン酸塩の合成
五酸化二リン(1.14g,4.02mmol)とメタンスルホン酸(14.5ml,164mmol)をナスフラスコに入れ、溶けるまで撹拌した。二口フラスコに化合物5(4.99g,14.0mmol)とアニソール(0.77ml,14.3mmol)とを入れ、撹拌して溶解した。パスツールピペットを使用して、五酸化二リンとメタンスルホン酸の溶液を氷浴で冷やした二口フラスコにゆっくりと滴下した。滴下が終了したのち、湯浴(30℃)で2時間反応させ、室温で一晩放置した。得られた液状の反応物を氷水にゆっくりと滴下し、そこにトリフルオロメタンスルホン酸カリウム(2.98g,15.8mmol)を加えてガラス棒で撹拌すると、パールイエローの固体が析出した。
【0039】
析出物をグラスフィルターでろ過して乾燥した。乾燥物を中圧カラム(溶離液:クロロホルム)にアプライして不純物を流去し、溶離液をメタノールに変更して回収した。メタノール溶液を乾燥させ、残渣を沸騰した純水で抽出したのち、水を留去、乾燥させることにより、淡黄白色固体である7-tert-ブチル-(5 or 10)-(4-メトキシフェニル)チアントレニウム-2,3-ジカルボン酸イミド トリフルオロメタンスルホン酸塩(以下、化合物6aと略記する。)を得た(収量1.13g,収率19%)。なお、この化合物6aは以下に示す分析結果から同定した。
【0040】
mp:158-162℃.1H NMR (CDCl3):δ7.82(2H,s,aromatic),8.14(1H,s,aromatic),8.50(1H,s,aromatic),8.92(1H,s,aromatic),7.23(2H,d,aromatic),6.92(2H,d,aromatic),3.68(3H,s,-CH3),1.35(9H,s,-C(CH3)3).IR(KBr):1737cm-1(C=O),1162cm-1(S(=O)2),1263cm-1(-CF3),1029cm-1(C-O-C).UV(acetonitrile):ε365=3460L/mol・cm,ε254=24800L/mol・cm.Td:317℃.
【0041】
(b)7-tert-ブチル-(5 or 10)-(4-メトキシフェニル)チアントレニウム-2,3-ジカルボン酸イミド ヘキサフルオロリン酸塩の合成
五酸化二リン(1.04g,365mmol)とメタンスルホン酸(7.00ml,79.2mmol)をナスフラスコに入れ、溶けるまで撹拌した。二口フラスコに化合物5(2.50g,7.00mmol)とアニソール(0.77ml,14.3mmol)とを入れ、撹拌して溶解した。パスツールピペットを使用して、五酸化二リンとメタンスルホン酸の溶液を氷浴で冷やした二口フラスコにゆっくりと滴下した。滴下が終了したのち、湯浴(30℃)で2時間反応させ、室温で一晩反応させた。得られた液状の反応物を氷水にゆっくりと滴下し、そこにヘキサフルオロリン酸カリウム(1.32g,7.17mmol)を加えてガラス棒で撹拌すると、パールイエローの固体が析出した。
【0042】
析出物をグラスフィルターでろ過したのち乾燥した。乾燥物を中圧カラム(溶離液:クロロホルム)にアプライして不純物を流去したのち、溶離液をメタノールに変更して回収した。メタノール溶液を乾燥させ、これを沸騰した純水で抽出したのち、水を留去、乾燥させることにより淡黄白色固体である7-tert-ブチル-(5 or 10)-(4-メトキシフェニル)チアントレニウム-2,3-ジカルボン酸イミド ヘキサフルオロリン酸塩(以下、化合物6bと略記する。)を得た(収量0.34g,収率8%)。なお、この化合物6bは以下に示す分析結果から同定した。
【0043】
mp:164-167℃.1H NMR (CDCl3):δ7.75(2H,s,aromatic),7.99(1H,s,aromatic),8.54(1H,s,aromatic),8.90(1H,s,aromatic),7.28(2H,d,aromatic),6.87(2H,d,aromatic),365(3H,s,-CH3),1.32(9H,s,-C(CH3)3).IR(KBr):1732cm-1(C=O),842cm-1(P-F),1073cm-1(C-O-C).UV(acetonitrile):ε365=2750L/mol4cm,ε254=22100L/mol4cm.T
【0044】
(c)7-tert-ブチル-(5 or 10)-(4-メトキシフェニル)チアントレニウム-2,3-ジカルボン酸イミド パーフルオロブタンスルホン酸塩の合成
五酸化二リン(0.56g,196mmol)とメタンスルホン酸(9.00ml,101mmol)をナスフラスコ内に入れ、溶解するまで撹拌した。また、二口フラスコに化合物5(1.32g,3.70mmol)とアニソール(1.00ml,18.6mmol)を入れ、撹拌して溶解した。二口フラスコを氷浴により冷却しながら、ナスフラスコから五酸化二リンとメタンスルホン酸の溶液を、パスツールピペットを使用して、ゆっくりと二口フラスコに滴下した。滴下が終了したのち、湯浴(30℃)で2時間反応させ、液状の反応物を室温で一晩放置した。反応物を氷水にゆっくりと滴下して、そこにパーフルオロ-1-ブタンスルホン酸カリウム(2.06g,6.10mmol)を加えてガラス棒で撹拌すると、パールイエローの固体が析出した。
【0045】
析出物をグラスフィルターでろ過して乾燥した。乾燥したものを中圧カラム(溶離液:クロロホルム)にアプライして不純物を流去させたのち、溶離液をメタノールに変更して回収した。回収したメタノール溶液を乾燥させたのち、沸騰した純水で抽出し、水を留去、乾燥させることによって、淡黄色固体である7-tert-ブチル-(5 or 10)-(4-メトキシフェニル)チアントレニウム-2,3-ジカルボン酸イミド パーフルオロブタンスルホン酸塩(以下、化合物6cと略記する。)を得た(収量0.50g,収率18%)。なお、この化合物6cは以下に示す分析結果から同定した
【0046】
mp:142-143.5℃.1H NMR (CDCl3):δ8.99(2H,s,aromatic),8.49(1H,s,aromatic),8.05(1H,s,aromatic),7.74(1H,s,aromatic),7.28(2H,d,aromatic),6.87(2H,d,aromatic),3.64(3H,s,-OCH3),1.29,0.87(9H,s,s,-C(CH3)3).IR(KBr):3448cm-1(N-H),1733cm-1(C=O),1261cm-1(-CF3),1054cm-1(C-O-C).UV(acetonitrile):ε365=3340L/mol・cm,ε254=26800L/mol・cm.Td:312℃.
【0047】
(d)7-tert-ブチル-(5 or 10)-[4-(1-ブトキシ)フェニル]チアントレニウム-2,3-ジカルボン酸イミド トリフルオロメタンスルホン酸塩の合成
五酸化二リン(0.48g,170mmol)とメタンスルホン酸(2.80ml,31.6mmol)をナスフラスコに入れ、溶解するまで撹拌した。また、化合物5(1.00g,2.80mmol)とn-ブチルフェニルエーテル(0.841g,5.6mmol)を二口フラスコに入れ、撹拌して溶解した。二口フラスコを氷浴で冷却しながら、ナスフラスコ中の五酸化二リンとメタンスルホン酸の溶液を、パスツールピペットを使用して、ゆっくりと二口フラスコに滴下した。滴下が終了したのち、湯浴(30℃)で2時間反応させ、液状の反応物を室温で一晩放置した。反応物を氷水にゆっくりと滴下し、そこにトリフルオロメタンスルホン酸カリウム(0.60g,3.2mmol)を加えてガラス棒で撹拌すると、淡黄色の固体が析出した。
【0048】
析出物をグラスフィルターでろ過して乾燥した。乾燥したものを中圧カラム(溶離液:クロロホルム)にアプライして不純物を流去させたのち、溶離液を酢酸エチルに変更して回収した。回収した酢酸エチル溶液を濃縮し、濃縮液をヘキサンに滴下すると淡黄色固体が析出した。この固体を濾別乾燥させることによって、淡黄色固体である7-tert-ブチル-(5 or 10)-[4-(1-ブトキシ)フェニル]チアントレニウム-2,3-ジカルボン酸イミド トリフルオロメタンスルホン酸塩(以下、化合物7と略記する。)を得た(収量0.65g,収率36%)。なお、この化合物7は以下に示す分析結果から同定した。
【0049】
mp:207-213℃.1H NMR(CDCl3):δ9.96(1H,s,N-H),9.05(1H,m,aromatic),8.50(1H,m,aromatic),8.17(1H,s,aromatic),7.80(2H,m,aromatic),7.36(2H,d,aromatic),6.92(2H,d,aromatic),3.87(3H,s,-OCH2-),1.63(3H,m,-CH2-),1.36(12H,m,-C(CH3)3,-CH2-),0.87(3H,t,-CH3).UV(acetonitrile):ε365=5000L/mol・cm.ε254=28400L/mol・cm.Td:295℃.
【0050】
(4)図2に示す光酸発生剤の合成
(i)ジクロロフタル酸イミドの合成
(a)4,5-ジクロロフタル酸イミドの合成
4,5-ジクロロフタル酸無水物(21.0g,96.8mmol)とホルムアミド(84.0g,1.86mmol)を四つ口フラスコに入れ、100℃で25時間熟成させた。反応液を冷水(5℃以下,525ml)にパージして減圧ろ過したのち、40℃で減圧乾燥し、白色個体である4,5-ジクロロフタル酸イミド(以下、化合物9aと略記する。)を得た(収量20.2g,収率96%)。なお、純度をHPLCと吸光光度計(UV:254nm)により測定したところ、99.5 Area%であった。
【0051】
(b)N-フェニル-4,5-ジクロロフタル酸イミドの合成
4,5-ジクロロフタル酸無水物(10.0g,46mmol)、酢酸(69.3g)、DMF(54.2g)を四つ口フラスコに入れて攪拌した。アニリン(4.29g,46mmol)を添加して、DMF(13.3g)により洗い込み、100℃で5時間熟成させた。反応液を減圧ろ過したのち、40℃で減圧乾燥し、白色固体であるN-フェニル-4,5-ジクロロフタル酸イミド(以下、化合物9bと略記する。)を得た(収量11.1g,収率83%)。なお、純度をHPLCと吸光光度計(UV:254nm)により測定したところ、100 Area%であった。
【0052】
(c)N-ベンジル-4,5-ジクロロフタル酸イミドの合成
4,5-ジクロロフタル酸無水物(15.2g,70mmol)、酢酸(105.3g)、DMF(82.3g)を四つ口フラスコに入れて攪拌したのち、ベンジルアミン(7.43g,70mmol)を添加して、DMF(20.2g)により洗い込み、100℃で3時間熟成させた。反応液を減圧ろ過したのち、40℃で減圧乾燥して、白色固体であるN-ベンジル-4,5-ジクロロフタル酸イミド(以下、化合物9cと略記する。)を得た(収量17.9g,収率84%)。なお、純度をHPLCと吸光光度計(UV:254nm)により測定したところ、100 Area%であった。
【0053】
(ii)メチルチアントレン-2,3-ジカルボン酸イミドの合成
(a)7-メチルチアントレン-2,3-ジカルボン酸イミドの合成
トルエン-3,4-ジチオール(以下、化合物8と略記する。12.5g,80mmol)、DMF(347.8g)、カリウム-t-ブトキシド(22.4g,200mmol)を四つ口フラスコに入れ、95℃で2時間加温してカリウム塩化した。反応液に化合物9a(16.4g,76mmol)を加え、65℃にて6時間熟成させた。反応液に水100mlとメタノール100mlとを加えて0℃以下まで冷却したのち、減圧ろ過し、40℃で減圧乾燥することによって、黄色固体である7-メチルチアントレン-2,3-ジカルボン酸イミド(以下、化合物10aと略記する。)を得た(収量18.8g,収率83%)。なお、純度をHPLCと吸光光度計(UV:254nm)により測定したところ、98.5 Area%であった。
【0054】
(b)N-フェニル-7-メチルチアントレン-2,3-ジカルボン酸 イミドの合成
化合物8(2.81g,18mmol)、DMF(73.9g)、カリウム-t-ブトキシド(5.05g,45mmol)を四つ口フラスコに入れ、95℃で2時間加温してカリウム塩化した。反応液に化合物9b(4.97g,17mmol)を加え、65℃で20時間熟成させた。反応液に水24mlとメタノール240mlとを加えて0℃以下まで冷却したのち、減圧ろ過し、40℃で減圧乾燥することによって、黄色固体であるN-フェニル-7-メチルチアントレン-2,3-ジカルボン酸イミド(以下、化合物10bと略記する。)を得た(収量5.48g,収率85%)。なお、純度をHPLCと吸光光度計(UV:254nm)により測定したところ、99.7 Area%であった。
【0055】
(c)N-ベンジル-7-メチルチアントレン-2,3-ジカルボン酸イミドの合成
化合物8(8.75g,56mmol)、DMF(233.0g)、カリウム-t-ブトキシド(15.7g,140mmol)を四つ口フラスコに入れ、95℃で2時間加温してカリウム塩化した。反応液に化合物9c(16.3g,53mmol)を加え、65℃で2時間熟成させた。反応液に水70mlとメタノール70mlとを加えて0℃以下まで冷却したのち、減圧ろ過し、40℃で減圧乾燥することによって、黄色固体であるN-ベンジル-7-メチルチアントレン-2,3-ジカルボン酸イミド(以下、化合物10cと略記する。)を得た(収量17.1g,収率82%)。なお、純度をHPLCと吸光光度計(UV:254nm)により測定したところ、96.8 Area%であった。
【0056】
(iii)メチルチアントレン-(5 or 10)-オキシド-2,3-ジカルボン酸イミドの合成
(a)7-メチルチアントレン-(5 or 10)-オキシド-2,3-ジカルボン酸イミドの合成
化合物10a(4.79g,16mmol)、酢酸(83.9g)を四つ口フラスコに入れて攪拌した。反応液に1M 硝酸(20ml)を添加し、100℃で11時間熟成させた。反応液を冷水(5℃以下,400ml)にパージして減圧ろ過したのち、40℃で減圧乾燥することによって、淡黄色固体である7-メチルチアントレン-(5 or 10)-オキシド-2,3-ジカルボン酸イミド(以下、化合物11aと略記する。)を得た(収量3.74g,収率74%)。なお、純度をHPLCと吸光光度計(UV:254nm)により測定したところ、95.7Area%であった。
【0057】
(b)N-フェニル-7-メチルチアントレン-(5 or 10)-オキシド-2,3-ジカルボン酸イミドの合成
化合物10b(4.51g,12mmol)、酢酸(62.9g)を四つ口フラスコに入れて攪拌した。反応液に1M 硝酸(9.2ml)を添加し、100℃で4時間熟成させた。反応液を冷水(5℃以下,300ml)にパージして減圧ろ過したのち、40℃で減圧乾燥し、淡黄色固体であるN-フェニル-7-メチルチアントレン-(5 or 10)-オキシド-2,3-ジカルボン酸イミド(以下、化合物11bと略記する。)を得た(収量3.46g,収率73%)。なお、純度をHPLCと吸光光度計(UV:254nm)により測定したところ、86.7 Area%であった。
【0058】
(c)N-ベンジル-7-メチルチアントレン-(5 or 10)-オキシド-2,3-ジカルボン酸イミドの合成
化合物10c(5.06g,13mmol)、酢酸(68.2g)を四つ口フラスコに入れて攪拌した。反応液に1M 硝酸(7.8ml)を添加し、100℃で5時間熟成させた。反応液を冷水(5℃以下,330ml)にパージして減圧ろ過したのち、40℃で減圧乾燥し、淡黄色固体であるN-ベンジル-7-メチルチアントレン-(5 or 10)-オキシド-2,3-ジカルボン酸イミド(以下、化合物11cと略記する。)を得た(収量4.46g,収率85%)。なお、純度をHPLCと吸光光度計(UV:254nm)により測定したところ、97.4 Area%であった。
【0059】
(iv)チアントレニウム-2,3-ジカルボン酸イミド トリフルオロメタンスルホン酸塩の合成
(a)7-メチル-(5 or 10)-(4-メトキシフェニル)チアントレニウム-2,3-ジカルボン酸イミド トリフルオロメタンスルホン酸塩の合成
メタンスルホン酸(7.60g)、アニソール(0.56g)、化合物11a(1.58g,5.00mmol)を四つ口フラスコに入れて攪拌した。反応液に五酸化二リン(0.2g)/メタンスルホン酸(7.60g)溶液をゆっくりと滴下し、30℃で22時間熟成させた。反応液14.4gを冷水(5℃以下,150ml)にパージして減圧ろ過したのち、ろ液にトリフルオロメタンスルホン酸カリウム(2.30g)を加えて攪拌してアニオン交換した。
【0060】
析出した固体を減圧ろ過したのち、40℃で減圧乾燥することにより、黄色固体である7-メチル-(5 or 10)-(4-メトキシフェニル)チアントレニウム-2,3-ジカルボン酸イミド トリフルオロメタンスルホン酸塩(以下、化合物12aと略記する。)を得た(収量1.56g,収率69%)。なお、純度をHPLCと吸光光度計(UV:254nm)により測定したところ、97.0 Area%であった。また、この化合物12aは以下に示す分析結果から同定した。
【0061】
mp:144-147℃.1H NMR(DMSO-d6):δ11.90(1H,s,N-H),8.98(1H,d,aromatic),8.47-8.37(2H,m,aromatic),7.98(1H,m,aromatic),7.77-7.68(1H,m,aromatic),7.28(2H,m,aromatic),7.09(2H,m,aromatic),3.76 (3H,s,-CH3),2.49(3H,s,-CH3).UV(acetonitrile):ε365=4870L/mol・cm.Td:313℃.
【0062】
(b)N-フェニル-7-メチル-(5 or 10)-(4-メトキシフェニル)チアントレニウム-2,3-ジカルボン酸イミド トリフルオロメタンスルホン酸塩の合成
メタンスルホン酸(6.09g)、アニソール(0.44g)、化合物12b(1.57g,4.0mmol)を四つ口フラスコに入れ攪拌した。反応液に五酸化二リン(0.16g)/メタンスルホン酸(6.09g)溶液をゆっくり滴下し、30℃で44時間熟成させた。反応液12.0gを水(180ml)にパージして減圧ろ過したのち、ろ液にトリフルオロメタンスルホン酸カリウム(2.26g)を加えたのち、攪拌してアニオン交換した。
【0063】
析出した固体を減圧ろ過したのち、40℃で乾燥することにより、黄色固体であるN-フェニル-7-メチル-(5 or 10)-(4-メトキシフェニル)チアントレニウム-2,3-ジカルボン酸イミド トリフルオロメタンスルホン酸塩(以下、化合物12bと略記する。)を得た(収量1.28g,収率51%)。なお、純度をHPLCと吸光光度計(UV:254nm)により測定したところ、89.4 Area%であった。また、この化合物12bは以下に示す分析結果から同定した。
【0064】
mp:145-148℃.1H NMR (CDCl3):δ8.98(1H,d,aromatic),8.16(2H,m,aromatic),7.70-7.20(8H,m,aromatic),6.87(2H,d,aromatic),3.69(3H,d,-OCH3),2.44(3H,d,-CH3).UV(acetonitrile):ε365=4470L/mol・cm.Td:321℃.
【0065】
(c)N-ベンジル-7-メチル-(5 or 10)-(4-メトキシフェニル)チアントレニウム-2,3-ジカルボン酸イミド トリフルオロメタンスルホン酸塩の合成
メタンスルホン酸(8.99g)、アニソール(0.89g)、化合物11c(3.24g,8.0mmol)を四つ口フラスコに入れて攪拌した。反応液に五酸化二リン(0.3g)/メタンスルホン酸(8.99g)溶液をゆっくり滴下し、30℃で19時間熟成させた。反応液11.1gを冷水(5℃以下,225ml)にパージして減圧ろ過したのち、ろ液にトリフルオロメタンスルホン酸カリウム(0.85g)を加え、攪拌してアニオン交換した。
【0066】
析出した固体を減圧ろ過したのち、40℃で減圧乾燥することにより、黄色固体であるN-ベンジル-7-メチル-(5 or 10)-(4-メトキシフェニル)チアントレニウム-2,3-ジカルボン酸イミド トリフルオロメタンスルホン酸塩(以下、化合物12cと略記する。)を得た(収量2.00g,収率78%)。なお、純度をHPLCと吸光光度計(UV:254nm)により測定したところ、96.9 Area%であった。また、この化合物12cは以下に示す分析結果から同定した。
【0067】
mp:124-126℃.1H NMR (CDCl3):δ8.87(1H,d,aromatic),8.36(1H,t,aromatic),8.13(1H,s,aromatic),7.75-7.55(2H,m,aromatic),7.35-7.21(8H,m,aromatic),6.93(2H,m,aromatic),4.81(2H,s,-CH2-Ph),3.76(3H,d,-OCH3),2.51(3H,s,-CH3).UV(acetonitrile):ε365=5060L/mol・cm.Td:312℃.
【0068】
(5)光酸発生剤の物性
(i)UV-Visスペクトルの測定
合成した化合物6a及び化合物6bのアセトニトリル中でUV-Visスペクトルを測定した。その結果を図3に示す。図3のUV-Visスペクトルから、合成した2種類の光酸発生剤はi線(365nm)に吸収を有することが確認できた。なお、測定した化合物6aの濃度は1.55×10-5Mであり、化合物6bの濃度は1.52×10-5Mであった。
【0069】
また、このスペクトルから化合物6a、化合物6bのモル吸光係数(ε365)を算出した。その結果を表1に記載する。なお、比較のため、tert-THITf及びNITfのモル吸光係数(ε365)も合わせて示す。
【0070】
【表1】

【0071】
表1に示すように、化合物6a、化合物6bのモル吸光係数はそれぞれ3460M-1cm-1、2750M-1cm-1であり、従来からあるtert-THITf(1950M-1cm-1)、NITf(330M-1cm-1)よりも大きかった。このことは、365nmの光を照射することによって、化合物6a、化合物6bがtert-THITfやNITfよりも効率良く分解する可能性を示唆している。
【0072】
(ii)分解点の測定
化合物6a、化合物6bの分解点(Td)を窒素雰囲気下、加熱速度10℃/minで熱重量測定法により測定した。その結果であるTGA曲線を図4に示す。また、測定した分解点(Td)を表1に記載した。なお、比較のため、tert-THITf及びNITfの分解点(Td)についても合わせて記載した。
【0073】
表1に示すように、化合物6a、化合物6bの分解点(Td)は、それぞれ317℃、268℃であり、従来からあるtert-THITf(156℃)、NITf(225℃)よりも高かった。このことは、化合物6a、化合物6bは、従来からある光酸発生剤よりも熱安定性に優れており、光酸発生剤としての使用温度域では理論上安定であることを示唆している。なお、化合物6a、化合物6bの分解点(Td)が大きく異なる原因としては、対アニオンの違いが考えられる。
【0074】
(iii)光分解による吸収スペクトルの変化
一般的に光分解性化合物は光を吸収することによって分解し、UV-Visスペクトルの吸光度変化を起こす。そこで、化合物6a、化合物6bにアセトニトリル中で光(波長365nm)を照射して光分解させ、そのUV-Visスペクトルの変化を測定した。その結果を図5に示す。なお、測定した化合物6aの濃度は1.74×10-5Mであり、6bの濃度は1.55×10-5Mであった。
【0075】
図5に示すように、光照射によって化合物6a、化合物6bは250nm、360nm付近の吸収が減少しており、その一方で290nm付近の吸収が増大していることが分かった。このことから両化合物とも365nm光を吸収し、光分解することが分かった。
【0076】
また、対アニオンの違いが光分解速度に与える影響を調べるため、化合物6a、化合物6bの290nmにおけるピークの増加からこれらの分解率を算出した。その結果を図6に示す。
【0077】
図6に示すように、両者の分解速度を比較すると、化合物6aの分解速度が化合物6bの分解速度よりもやや早い程度であり、両者の分解速度はほとんど同じであった。また、化合物6aの方が化合物6bよりもε365の値が大きいにもかかわらず、両者の分解速度にほとんど差がなかった。その理由としては、化合物6aの量子収率が化合物6bの量子収率より小さいということが考えられる。
【0078】
光酸発生剤6c、7、12a〜12のモル吸光係数(ε365)及び光分解速度(k)を測定し、6aを基準としたモル吸光係数(ε365)、光分解速度(k)及び相対光分解量子収率(φdrel)を計算した。その結果を表2に示す。この表から、12bを除く、どの光酸発生剤も光反応速度と相対光分解量子収率が大きく、良好な光分解性を示すことが分かった。
【0079】
【表2】

【0080】
なお、表2中の光分解速度は、各光酸発生剤のアセトニトリル溶液(1.0〜3.0×10-5M)を石英セルに入れて、365nmの光を空気下で照射して、その減少率を測定し、下記の数式(I)により計算した。
【0081】
【数1】

【実施例2】
【0082】
2.フィルムの作製とその評価
実施例1で合成した光酸発生剤を含むフォトリソグラフィ用樹脂組成物を調製し、これを光重合することによってフィルムを作製し、このフィルムの性質を評価した。なお、フォトリソグラフィ用樹脂組成物の樹脂成分には、ポリグリシジルメタクリレート(以下、PGMAと略記する。)を使用した。
【0083】
(1)試薬
グリシジルメタクリレート(以下、GMAと略記する。)は、東京化成から購入したものを蒸留して使用した。また、2,2'-アゾビスイソブチロニトリル(以下、AIBNと略記する。)は、ナカライテスクから購入したもの再結晶(溶媒:クロロホルム)して使用した。さらに、NITf、tert-THITfは、実施例1と同様の方法で入手、合成したものを使用した。
【0084】
(2)測定装置等
PGMAのMn及びMwは、ポンプ(JASCO,880-PU)、検出器(JASCO,RI-1530,870-UV)、デガッサー(JASCO,DG-980-53)、恒温槽(クロマトサイエンス,CS-600H)、カラム(TOSOH,GMHHR-N,GMHHR-H)で構成したSEC測定装置を使用して、GCP法により測定した。なお、溶離液にはTHFを使用し、その流速は0.8ml/minに設定した。また、分子量標準物質にはポリスチレン(東ソー)を使用した。
【0085】
また、光重合は、高圧水銀灯(ウシオ電機,UM-102)が発生した光から、干渉フィルター(朝日分光,MZ0365)により365nm光のみを取り出して照射することにより行った。なお、光量測定は紫外線照度計(オーク製作所,UV-MO2)で行った。
【0086】
さらに、フィルムの作製にはスピンコーター(ミカサスピンコーター,1H-D3型)を使用し、フィルムの膜厚測定には膜厚測定器(Nanometrics Japan, Nanospec M3000)を使用した。
【0087】
(3)フィルムの作製
(i)ポリグリシジルメタクリレート(PGMA)の合成
まず、GMA(4.26g,66.4mmol)、AIBN(244mg,1.49mmol)、イソプロピルベンゼン(23.2ml)、DMF(21ml)の混合物をアルゴンでバブリングしてアルゴン置換したのち、60℃で2時間重合した。つぎに、反応液をメタノールに滴下して、生じた沈殿をろ別した。最後に、THF/メタノール系にて再沈精製を3回行った。その結果、白色粉末であるPGMAを得た(収量2.20g,収率26%)。なお、1H NMRよりモノマーが残留していないことを確認した。また、GPC法により求めた分子量は、ポリスチレンに換算してMn=34000,Mw=55800,Mw/Mn=1.64であった。
【0088】
(ii)PGMAフィルムの作製
まず、PGMA(20.0mg)に対して各光酸発生剤を約1mol%(化合物6a:0.69mg,化合物6b0.69mg,tert-THITf:0.688mg,NITf:0.480mg)となるように添加し、これをシクロヘキサノン218mgに溶解させ、スピンコーターによりSi板上に塗布した。つぎに、残存溶媒除去のためプリベークしてフィルムを得た。
【0089】
(4)不溶化率の測定
光酸発生剤の違いがフィルムの不溶化率に与える影響について調べた。具体的には、作製したフィルムに波長365nmの光を異なる照射光量で照射したのち、THF中に浸漬し、浸漬前後の膜厚比から不溶化率を求めた。なお、図7に、光照射により光酸発生剤から酸が発生し、この酸により、PGMA側鎖のエポキシ基が架橋して不溶化するメカニズムを示す。
【0090】
(i)トリフルオロメタンスルホン酸を生成する光酸発生剤が不溶化率に与える影響
光分解によってトリフルオロメタンスルホン酸を生成する光酸発生剤である化合物6a、tert-THITf、NITfを使用して、光酸発生剤の違いがフィルムの不溶化率に与える影響を調べた。その結果を図8に示す。なお、フィルムを作製する際のプリベーク温度は80℃、プリベーク時間は5分であり、作製したフィルムの厚さは0.3μmであった。また、THFへの浸漬時間は10分であった。
【0091】
図8に示すように、化合物6a、tert-THITf、NITfの酸触媒能を、PGMAの不溶化により比較すると、化合物6aが優れた酸触媒能を備えていることが分かった。さて、一般的に、光酸発生剤によるPGMAフィルムの不溶化は酸発生の量子収率と発生する酸の強度に依存すること、が分かっている。ここでは発生する酸の強度が同じであるため、酸触媒能の違いは化合物6aの酸発生の量子収率が優れていることに起因すると考えることができる。
【0092】
化合物6aの量子効率が優れている原因としては、チアントレン骨格にアニソール部位を導入したことによりε365が増加したこと、が考えられる。すなわち、ε365が増加することによって、365nm光を効率よく吸収して分解し、酸を効率よく生成できることが、原因であると考えられる。
【0093】
なお、図8に示すように、光酸発生剤によって使用したPGMAの分子量は異なっている。また、一般的にPGMAの分子量が増加するにつれて不溶化し易くなることが知られている。これらを考慮すれば、分子量の小さなPGMAを使用しているにもかかわらず高い不溶化率を示した化合物6aが優れた酸触媒能を備えていること、が分かる。
【0094】
(ii)イオン型光酸発生剤が不溶化率に与える影響
同じイオン型光酸発生剤である化合物6a、化合物6b、NITfを使用して、光酸発生剤の違いがフィルムの不溶化率に与える影響を調べた。その結果を図9に示す。なお、フィルムを作製する際のプリベーク温度は90℃、プリベーク時間は5分であり、作製したフィルムの厚さは0.4〜0.5μmであった。また、THFへの浸漬時間は5分であった。
【0095】
図9に示すように、化合物6a、化合物6b、NITfの酸触媒能を、PGMAの不溶化により比較すると、化合物6a、化合物6bはNITfよりも優れており、化合物6aは化合物6bよりも多少優れてはいるものの、大きな差は認められなかった。
【0096】
さて、一般的に、光酸発生剤によるPGMAフィルムの不溶化は発生する酸の強度に依存すること、が分かっている。また、化合物6a、化合物6bに光照射することにより生成する酸CF3SO3HとHPF6のpKaを比較すると、CF3SO3Hの方がHPF6よりも大きく、化合物6bの方が強い酸を出すと考えられている。そのため、化合物6aと化合物6bとの酸触媒には大きな差が存在すると予測されるが、実際はそうではなかった。
【0097】
この原因としては、大量に強力な酸が発生しても室温では架橋反応速度が遅く、本測定のタイムスケールではPGMAフィルムの不溶化率に反映されないためだと考えられる。なお、室温で架橋反応の速度が遅い理由としては、PGMA側鎖のセグメント運動が不十分であるため、酸の拡散や架橋反応が制限されていることが挙げられる。
【図面の簡単な説明】
【0098】
【図1】この発明の光酸発生剤の製造方法の合成経路を示す図である。
【図2】この発明の他の光酸発生剤の製造方法の合成経路を示す図である。
【図3】化合物6a、化合物6bのUV-Visスペクトルをアセトニトリル中で測定した結果を示す図である。
【図4】化合物6a、化合物6bの分解点を熱重量測定法により測定した結果を示す図である。
【図5】アセトニトリル中の化合物6a、化合物6bに波長365nmの光を照射して、そのUV-Visスペクトルの変化を測定した結果を示す図である。
【図6】アセトニトリル中の化合物6a、化合物6bに波長365nmの光を照射して、その分解速度を計算した結果を示す図である。
【図7】PGMA側鎖のエポキシ基が架橋して不溶化するメカニズムを示す図である。
【図8】トリフルオロメタンスルホン酸を発生する光酸発生剤を含むフォトリソグラフィ用樹脂組成物を使用してフィルムを形成し、光酸発生剤の違いが不溶化率に与える影響を調べた結果を示す図である。
【図9】イオン型光酸発生剤を含むフォトリソグラフィ用樹脂組成物を使用してフィルムを形成し、光酸発生剤の違いが不溶化率に与える影響を調べた結果を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I)及び式(II)
【化1】

【化2】

(式中、R1は低級アルキル基であり、R2は低級アルキル基である。また、R3は水素又は低級アルキル基である。さらに、X-はCF3SO3-、PF6-、SbF6-、BF4-、C4F9SO3-のうちの何れか一つである。)で示される化合物からなる群れより選ばれた少なくとも一種の化合物を含む光酸発生剤。
【請求項2】
式(I)及び式(II)において、R1がメチル基又はブチル基である請求項1記載の光酸発生剤。
【請求項3】
式(I)及び式(II)において、R2がt-ブチル基又はメチル基である請求項1又は請求項2に記載の光酸発生剤。
【請求項4】
式(I)及び式(II)において、R3が水素、フェニル基、ベンジル基のうちの何れか一つである請求項1から請求項3の何れか一つの請求項に記載の光酸発生剤。
【請求項5】
式(I)及び式(II)において、X-がCF3SO3-、PF6-、C4F9SO3-のうちの何れか一つである請求項1から請求項4の何れか一つの請求項に記載の光酸発生剤。
【請求項6】
請求項1から請求項5の何れか一つの請求項に記載の光酸発生剤を含むフォトリソグラフィ用樹脂組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−143983(P2009−143983A)
【公開日】平成21年7月2日(2009.7.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−319834(P2007−319834)
【出願日】平成19年12月11日(2007.12.11)
【出願人】(591134937)株式会社三宝化学研究所 (7)
【出願人】(505127721)公立大学法人大阪府立大学 (688)
【Fターム(参考)】