説明

光量調整装置、光量調整装置を備えた光学装置、光量調整用の物性素子と外部基板との接続方法

【課題】EC素子の駆動用電極を外部接続用端子に対して、信頼性の高い接続を簡単に行うことができ、小型化を図ることが可能となる光量調整装置、光量調整装置を備えた光学装置、光量調整用の物性素子と外部基板との接続方法を提供する。
【解決手段】光学素子3と、該光学素子が有する曲面上に設けられ、内部の透過率を変化させることができる物性素子4bと、前記物性素子を挟む一対の電極4a,4cと、前記光学素子の外径部3aに設けられ、前記一対の電極と電気的に接続されている端子4d,4eと、前記端子から前記一対の電極に電位差を制御することにより、前記物性素子の透過率を制御する制御手段とを有する構成とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光量調整装置、光量調整装置を備えた光学装置、光量調整用の物性素子と外部基板との接続方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、透過光量調整用の物性素子としてエレクトロクロミック素子を用いた透過光量調整装置がいくつか提案されている。
ここで、先ずエレクトロクロミック素子(以下、EC素子と記す。)の動作原理について簡単に説明する。EC素子については、例えば特許文献1にも開示されているが、全固体形の、電圧による分光透過率可変の光学フィルタ素子であり、図5に示すような構造を有している。具体的には、図5に示されるようにlto等の透過被膜電極501と502の間に、Ta25,Sio2等の絶縁被膜層503を介して、lrox等の酸化発色被膜層504と還元発色被膜層505が着色され、透過特性が変化するように構成されている。
【0003】
この様な特性を持つEC素子は、従来より、カメラ等の絞り装置の代わりに、または、例えば特許文献2のように絞り装置と組み合わせて使用することが提案されている。この特許文献2の絞り装置は、図6に示されるように、エレクトロクロミック素子による物性シャッター18を撮影レンズ系14,15,16の途中で絞り装置17に直列に配置して構成されている。このような構成により、エレクトロクロミック素子による物性シャッターの機能を発揮して超高速シャッター秒時の出せるシャッター装置の実現が図られている。
【特許文献1】特開昭56−4679号公報
【特許文献2】特開平9−258294号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記したように、特許文献2によるエレクトロクロミック素子による物性シャッターと絞り装置とを組み合わせたシャッター装置によれば、撮影者が超高速シャッター秒時を設定したい時、等にその機能を充分に発揮することができる。またエレクトロクロミック素子による透過光量調整装置を用いることは小絞り時の回折を避けるため、絞り径を小さくできない場合等にも有効である。
しかしながら、EC素子が平面である場合には、撮像部としてCCD等の撮像素子を用いるときに、CCD等におけるカバーガラスの表面や撮像素子の表面は、一般に反射率が高く、このためこれらの表面で反射した光が該EC素子でさらに反射し、撮像素子へ再入射時に結像して、所謂ゴーストやフレアーを発生する原因となる。そのため、撮影系にEC素子を配置する場合、所定曲率の球面を有するレンズ上面にEC素子を積層して反射光が撮像素子に結像しないようにして、フレアが発生しないようにすることが必要となる。
【0005】
ところで、所定曲率の球面を有するレンズ上面にEC素子を積層するに際しては、レンズ上面は球面であるため、EC素子及び、EC素子駆動用の透明電極を積層することは可能であるが、外部電極とEC素子駆動用の電極を接続するため、接続信頼性がある外部接続用端子をレンズ上に形成することはきわめて困難である。例えば、レンズ上のEC素子駆動用の電極にフレキシブル基板を接続しようとした場合、所定の曲率をもつレンズの球面にフレキシブル基板を沿わせることはできないため、フレキシブル基板と電極の密着性は悪く、信頼性の高い接続はできなかった。
【0006】
本発明は、上記課題に鑑み、EC素子の駆動用電極を外部接続用端子に対して、信頼性の高い接続を簡単に行うことができ、小型化を図ることが可能となる光量調整装置、光量調整装置を備えた光学装置、光量調整用の物性素子と外部基板との接続方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、以下のように構成した光量調整装置、光量調整装置を備えた光学装置、光量調整用の物性素子と外部基板との接続方法を提供するものである。
すなわち、本発明の光量調整装置は、光学素子と、該光学素子が有する曲面上に設けられ、内部の透過率を変化させることができる物性素子と、前記物性素子を挟む一対の電極と、前記光学素子の外径部に設けられ、前記一対の電極と電気的に接続されている端子と、前記端子から前記一対の電極に電位差を制御することにより、前記物性素子の透過率を制御する制御手段とを有することを特徴としている。その際、前記光学素子の外径部には平面部を形成し、前記外部接続用端子を前記光学素子の外径部に形成された平面部に配設する構成を採ることができる。
また、本発明の光学装置は、上記した光量調整装置を有することを特徴としている。本発明においては上記光学装置として、前記光学素子を含む、結像光学系を有する交換レンズ鏡筒を構成し、その際、前記結像光学系の瞳位置近傍に、前記光学素子を配置する構成とすることができる。
また、本発明においては上記光学装置として、前記光学素子を含む、結像光学系を有するカメラシステムを構成し、その際、前記結像光学系の瞳位置近傍に、前記光学素子を配置する構成とすることができる。
また、本発明の光量調整用の物性素子と外部基板との接続方法は、光学素子が有する曲面上に設けられた光量調整用の物性素子を、外部基板に対して電気的に接続する接続方法であって、前記光学素子の曲面上に設けられた物性素子を挟持している一対の電極層と、前記光学素子の外径部に形成された外部接続用端子とを電気的に接続すると共に、前記外部基板を前記光学素子の外径部に沿わせて前記外部接続用端子と密着させ、電気的に接続することを特徴としている。
その際、前記光学素子の外径部に平面部を形成し、前記外部基板を前記光学素子の外径部に形成された平面部に沿わせて前記外部接続用端子と密着させ、電気的に接続する構成を採ることができる。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、EC素子等の物性素子を用い、信頼性の高い電気接続を簡単に行うことができる光量調整装置、光量調整装置を備えた光学装置、光量調整用の物性素子と外部基板との接続方法の実現が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明を実施するための最良の形態を、以下の実施例により説明する。
【実施例】
【0010】
[実施例1]
実施例1は、上記した本発明を適用して透過光量調整装置を有する交換式レンズ鏡筒(光学装置)を構成したものである。
図1に本実施例の透過光量を調整するEC素子(物性素子)が配置された交換式レンズ鏡筒の断面図を示す。ここで、EC素子は、交換レンズ鏡筒に保持されている交換レンズ(結像光学系)の絞り位置近傍、瞳位置近傍に配置されており、具体的には、瞳位置とEC素子が配置された位置との距離が、レンズ全長(光軸上において、最も拡大共役側の光学面と最も縮小共役側の光学面との距離)の10%以内、好ましくは5%以内であることが望ましい。
図1において、1はフォーカスレンズ群であり、このフォーカスレンズ群1により光軸方向に移動して合焦動作を行う。
また、2は凹レンズ、3は凸レンズ、4は凹レンズ2と凸レンズ3との貼り合せ面に形成されたEC(エレクトロクロミック)素子である。凹レンズ2及び凸レンズ3は変倍時に固定の固定レンズであり、透過率を変化させ光量を調整するEC素子4を挟み込むように配置され、凸レンズ3の外径部3aにEC電圧印加用接続端子が設けられている。ここで、凹レンズ2及び凸レンズ3は、変倍時に動いても構わないし、EC素子は、有限の曲率を有する曲面(球面でも非球面でも構わない)上に設けられている。ここで言うEC素子は、両端に電圧をかけた場合に透過率が変化する素子、すなわち互いに異なる電圧を与えると互いに異なる透過率となる素子であれば、どのような素子であっても構わない。
【0011】
5はフォーカスレンズ群1を保持する鏡筒であり、後述するフォーカス駆動アクチュエータ7との螺合部5aと、不図示の直進ガイド部を有し、フォーカス駆動アクチュエータ7の駆動を受けて、フォーカスレンズ群1を光軸方向に前後させて合焦動作を行うものである。
6は凹レンズ2、凸レンズ3、EC素子を含む固定レンズ群を保持する固定レンズ鏡筒である。
7は前述のフォーカスレンズ群を駆動するフォーカス駆動アクチュエータであり、8は所定の絞り値に絞り込まれる絞りである。
【0012】
9はフレキシブル基板であり、前述した固定レンズ上に形成されたEC電圧印加用接続端子と、後述のメイン基板とを電気的に接続し、EC電圧印加用接続端子とは凸レンズのレンズ外径部3aにて電気接続される。
10はメイン基板であり、このメイン基板10は不図示のカメラと通信を行い不図示の電気接続部を介して、前述のフォーカス駆動アクチュエータ、絞りを制御するとともに、フレキシブル基板9を介してEC電圧印加用接続端子とつながり、EC素子に電圧を印加して透過率を調整する電気回路が形成されている。
11は不図示のカメラボディーとメカニカルに結合するためのマウントである。
【0013】
図2に本実施例のEC電圧印加用接続端子とフレキシブル基板の接続部の断面図を、図3にその正面図を示す。
図2及び図3において、凸レンズ3は固定レンズ鏡筒6に嵌合し、その胴付部6aに当接して光軸方向の一方を規制される共に、3箇所のかしめ部6bにより他方の光軸方向も規制されることで、鏡筒6に一体的に保持される。
EC素子4は凸レンズ3上にレンズ面に沿って積層され、第一の電圧印加用透明電極層4a、EC素子層4b、第二の電圧印加用透明電極層4cの順に積層されている。
さらに、その上に接着材により凹レンズ2が貼り合わされ、凹レンズ2、凸レンズ3によりEC素子4は保護される形で挟み込まれる。
【0014】
第一、第二の電圧印加用透明電極層4a、4cはITO等からなる薄膜であり、それぞれ凸レンズ3のレンズ外径部3aまで延びて、それぞれ塗布された導電ペーストからなる外部接続用端子4d、4eへとつながっている。
さらに、外部接続用端子4d、4eはフレキシブル基板9上に形成された接続端子部9a、9bと半田接続されている。
これらにより、EC電圧印加用透明電極4a、4cはフレキシブル基板9を介してメイン基板と電気的につながり、メイン基板上の電気回路によりEC素子への印加電圧を制御してEC素子を所望の透過率に調整することができる。
本実施例の構成によれば、第一、第二の電圧印加用透明電極層4a、4cをフレキシブル基板9に接続するに際し、フレキシブル基板9をレンズ外径部3aに沿って外部接続用端子4d、4eと密着させることができ、信頼性の高い接続が可能となる。
【0015】
[実施例2]
実施例2は、上記した本発明を適用した透過光量調整装置を有する交換式レンズ鏡筒として、実施例1とは別の形態を構成したものである。
図4に本実施例の透過光量を調整するEC素子が配置された交換式レンズ鏡筒の断面図を示す。但し、実施例1と基本的には凸レンズのレンズ外径部に平面部を構成した点が異なるだけであるから、接続部以外のレンズ鏡筒の構成についての説明は省略する。
図4において、13は凸レンズ、13bは凸レンズ13のレンズ外径部に形成された平面部である。なお、不図示のカメラの撮像面形状は長方形であり、カメラの撮像面に入射する必要な凸レンズ13の有効光束範囲を13cで示すと、平面部13bは有効光束範囲13cの外に設けられている。
凸レンズ13は固定レンズ鏡筒16に嵌合するとともに、不図示の胴付部と3箇所のかしめ部16bにより光軸方向も規制されることで鏡筒16に一体的に保持される。
【0016】
14はEC素子であり、実施例1同様に、凸レンズ13上に積層された、第一、第二の電圧印加用透明電極層14a、14c、EC素子層14bからなり、第一、第二の電圧印加用透明電極層14a、14cはそれぞれ凸レンズ13のレンズ外径部に形成された平面部13bまで延びており、導電ペーストからなる外部接続用端子14d、14eへとつながっている。
外部接続用端子14d、14eはフレキシブル基板19上に形成された接続端子部19a、19bと半田接続され電気的に接続される。なお、有効光束範囲13cとEC素子層14bの範囲は一致していないが、EC素子は小絞り時の回折対策、あるいは超高速シャッター秒時の露光量制御に用いられるものだから、その範囲は所定段数絞り込んだ状態での有効光束をカバーする大きさを持てば十分である。
【0017】
本実施例の構成によれば、第一、第二の電圧印加用透明電極層14a、14cをフレキシブル基板19に接続するに際し、フレキシブル基板19を凸レンズ13のレンズ外径部に形成された平面部13bに沿って外部接続用端子14d、14eと密着させることができるから、より一層信頼性の高い接続が可能となる。
【0018】
本実施例は主にレンズ鏡筒について記載したが、本実施例のレンズ鏡筒は、公知のカメラ本体を合わせてカメラシステム(ビデオカメラも、スチールカメラも含む)にも適用可能である。さらに、本実施例のレンズ鏡筒は、カメラシステム以外の観察光学系(望遠鏡、双眼鏡、顕微鏡等)にも適用可能である。
【0019】
本実施例によれば、EC素子の駆動用電極を外部接続用端子に対して、信頼性の高い接続を簡単に行うことができる透過光量調整装置、透過光量調整装置を備えたレンズ鏡筒、透過光量調整用の物性素子と外部基板との接続方法の実現が可能となる。また、レンズ外径部に接続用端子を配設する構成を採ることができることから、接続端子部を設けるスペースを確保するためにレンズ外径を大きくする必要がなく、レンズ(光学装置)の小型化を図ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の実施例1における透過光量を調整するEC素子が配置された交換式レンズ鏡筒の断面図。
【図2】本発明の実施例1におけるEC素子とフレキシブル基板の接続を説明する断面図。
【図3】本発明の実施例1におけるEC素子とフレキシブル基板の接続を説明する正面図。
【図4】本発明の実施例2におけるEC素子とフレキシブル基板の接続を説明する正面図。
【図5】従来例におけるEC素子を説明する模式図。
【図6】従来例である特許文献2におけるエレクトロクロミック素子による物性シャッターと絞り装置とを組み合わせたシャッター装置の構成を示す図。
【符号の説明】
【0021】
1:フォーカスレンズ群
2:凹レンズ
3:凸レンズ
4:EC素子
5:フォーカスレンズ鏡筒
6:固定レンズ鏡筒
7:フォーカス駆動用アクチュエータ
8:絞り
9:フレキシブル基板
10:メイン基板
11:マウント

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光学素子と、
該光学素子が有する曲面上に設けられ、内部の透過率を変化させることができる物性素子と、
前記物性素子を挟む一対の電極と、
前記光学素子の外径部に設けられ、前記一対の電極と電気的に接続されている端子と、
前記端子から前記一対の電極に電位差を制御することにより、前記物性素子の透過率を制御する制御手段とを有することを特徴とする光量調整装置。
【請求項2】
前記光学素子の外径部には平面部が形成され、前記外部接続用端子が前記光学素子の外径部に形成された平面部に配設されていることを特徴とする請求項1に記載の光量調整装置。
【請求項3】
前記平面部は、前記光学素子の有効光束範囲の外側に設けられていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の光量調整装置。
【請求項4】
前記物性素子が、エレクトロクロミック素子であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の光量調整装置。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の光量調整装置を有することを特徴とする光学装置。
【請求項6】
前記光学装置は、交換レンズ鏡筒であり、
前記光学素子を含む、結像光学系を有することを特徴とする請求項5に記載の光学装置。
【請求項7】
前記結像光学系の瞳位置近傍に、前記光学素子が配置されていることを特徴とする請求項6に記載の光学装置。
【請求項8】
前記光学装置は、カメラシステムであって、
前記光学素子を含む、結像光学系を有することを特徴とする請求項5に記載の光学装置。
【請求項9】
前記結像光学系の瞳位置近傍に、前記光学素子が配置されていることを特徴とする請求項8に記載の光学装置。
【請求項10】
光学素子が有する曲面上に設けられた光量調整用の物性素子を、外部基板に対して電気的に接続する接続方法であって、
前記光学素子の曲面上に設けられた物性素子を挟持している一対の電極層と、前記光学素子の外径部に形成された外部接続用端子とを電気的に接続すると共に、前記外部基板を前記光学素子の外径部に沿わせて前記外部接続用端子と密着させ、電気的に接続することを特徴とする光量調整用の物性素子と外部基板との接続方法。
【請求項11】
前記光学素子の外径部に平面部を形成し、前記外部基板を前記光学素子の外径部に形成された平面部に沿わせて前記外部接続用端子と密着させ、電気的に接続することを特徴とする請求項10に記載の光量調整用の物性素子と外部基板との接続方法。
【請求項12】
前記光量調整用の物性素子が、エレクトロクロミック素子であることを特徴とする請求項10または請求項11に記載の光量調整用の物性素子と外部基板との接続方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−163168(P2006−163168A)
【公開日】平成18年6月22日(2006.6.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−356994(P2004−356994)
【出願日】平成16年12月9日(2004.12.9)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】