説明

光電変換素子、光電変換素子の製造方法、固体撮像素子、固体撮像素子の製造方法、電子機器、光伝導体、光伝導体の製造方法および多層透明光電変換素子

【課題】光により励起されたキャリアが再結合により消滅するのを防止することができ、光電変換効率の向上を図ることができる光伝導体およびこの光伝導体を用いた光電変換素子を提供する。
【解決手段】導電性ポリマーおよび/または高分子半導体11と、少なくとも一つの、長寿命励起状態を有する色素12aを含む一つまたは複数のタンパク質12との複合体により光伝導体を形成する。色素12aが発光中心となる。導電性ポリマーおよび/または高分子半導体11はネットワーク状に形成される。導電性ポリマーおよび/または高分子半導体11とタンパク質12とは非共有結合または共有結合により互いに結合している。この光伝導体のネットワーク状の導電性ポリマーおよび/または高分子半導体11の互いに異なる部位に第1の電極および第2の電極を電気的に接続して光電変換素子を構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、タンパク質を利用した光電変換素子、光電変換素子の製造方法、固体撮像素子、固体撮像素子の製造方法、電子機器、光伝導体、光伝導体の製造方法および多層透明光電変換素子に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ほとんどの受光素子はフォトダイオードとして働き、このフォトダイオードは逆バイアス電圧が印加されて動作する。
【0003】
なお、タンパク質を用いた光電変換素子として、亜鉛置換ウマ心筋シトクロムc(ウマ心筋シトクロムcの補欠分子族ヘムの中心金属の鉄を亜鉛に置換したもの)を金電極に固定化したタンパク質固定化電極を用いたものが提案されている(特許文献1参照。)。そして、このタンパク質固定化電極から光電流が得られることが示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−220445号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】McLendon,G.and Smith,M.J.Biol.Chem.253,4004(1978)
【非特許文献2】Moza,B.and 2 others,Biochim.Biophys.Acta 1646,49(2003)
【非特許文献3】Vanderkooi,J.M.and 2 others,Eur.J.Biochem.64,381-387(1976)
【非特許文献4】Tokita,Y.and 4 others,J.Am.Chem.Soc.130,5302(2008)
【非特許文献5】Gouterman M.,Optical spectra and electronic structure of porphyrins and related rings, in "The Porphyrins" Vol.3,Dolphin,D.ed.,pp.1-156, Academic Press(1978)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上述の従来の受光素子では、光により励起されたキャリアのかなりの部分は、光電流(CMOS型)あるいは電荷蓄積(CCD型)に寄与する前に再結合により消滅してしまうため、光電変換効率の低下を招いていた。
【0007】
そこで、本開示が解決しようとする課題は、光により励起されたキャリアが再結合により消滅するのを防止することができ、光電変換効率の向上を図ることができる光電変換素子およびその製造方法を提供することである。
【0008】
本開示が解決しようとする他の課題は、光により励起されたキャリアが再結合により消滅するのを防止することができ、光電変換効率の向上を図ることができる固体撮像素子およびその製造方法を提供することである。
【0009】
本開示が解決しようとするさらに他の課題は、光により励起されたキャリアが再結合により消滅するのを防止することができ、光電変換効率の向上を図ることができる光伝導体およびその製造方法を提供することである。
【0010】
本開示が解決しようとするさらに他の課題は、上記の優れた光電変換素子または固体撮像素子を用いた高性能の電子機器を提供することである。
【0011】
本開示が解決しようとするさらに他の課題は、光により励起されたキャリアが再結合により消滅するのを防止することができ、光電変換効率の向上を図ることができる多層透明光電変換素子を提供することである。
【0012】
本開示が解決しようとするさらに他の課題は、上記の優れた多層透明光電変換素子を用いた高性能の電子機器を提供することである。
【0013】
上記課題および他の課題は、本明細書の以下の記述により明らかとなるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決するために、本開示は、
導電性ポリマーおよび/または高分子半導体と少なくとも一つの、長寿命励起状態を有する色素を含むタンパク質との複合体からなる光伝導体である。
【0015】
また、本開示は、
導電性ポリマーおよび/または高分子半導体と少なくとも一つの、長寿命励起状態を有する色素を含むタンパク質との複合体を形成する光伝導体の製造方法である。
【0016】
また、本開示は、
導電性ポリマーおよび/または高分子半導体と少なくとも一つの、長寿命励起状態を有する色素を含むタンパク質との複合体からなる光伝導体を用いた光電変換素子である。
【0017】
また、本開示は、
導電性ポリマーおよび/または高分子半導体と少なくとも一つの、長寿命励起状態を有する色素を含むタンパク質との複合体からなる光伝導体を形成する工程を有する光電変換素子の製造方法である。
【0018】
また、本開示は、
導電性ポリマーおよび/または高分子半導体と少なくとも一つの、長寿命励起状態を有する色素を含むタンパク質との複合体からなる光伝導体を用いた光電変換素子を有する電子機器である。
【0019】
また、本開示は、
導電性ポリマーおよび/または高分子半導体と少なくとも一つの、長寿命励起状態を有する色素を含むタンパク質との複合体からなる光伝導体を用いた透明な光電変換素子が複数、互いに積層された多層透明光電変換素子である。
【0020】
また、本開示は、
導電性ポリマーおよび/または高分子半導体と少なくとも一つの、長寿命励起状態を有する色素を含むタンパク質との複合体からなる光伝導体を用いた透明な光電変換素子が複数、互いに積層された多層透明光電変換素子を有する電子機器である。
【0021】
上記の光伝導体においては、典型的には、導電性ポリマーおよび/または高分子半導体とタンパク質とは非共有結合または共有結合により互いに結合する。典型的には、導電性ポリマーおよび/または高分子半導体は全体としてネットワークを形成している。導電性ポリマーおよび/または高分子半導体はp型のものが多いが、n型であってもよい。タンパク質に含まれる、長寿命励起状態を有する色素の「長寿命」とは、蛍光性ないしは燐光性を有するような色素に一般的な励起寿命を意味し、典型的には数十ピコ秒以上であるが、これに限定されるものではない。タンパク質は、例えば、電子伝達タンパク質、補酵素を含むタンパク質、グロビン類、蛍光タンパク質および蛍光タンパク質の変異種からなる群より選ばれた少なくとも一種である。電子伝達タンパク質としては、従来公知の電子伝達タンパク質を用いることができる。より具体的には、電子伝達タンパク質としては、金属を含む電子伝達タンパク質または金属を含まない(金属フリー)電子伝達タンパク質を用いることができる。電子伝達タンパク質に含まれる金属は、好適には、d軌道以上の高エネルギーの軌道に電子を有する遷移金属(例えば、亜鉛や鉄など)である。電子伝達タンパク質としては後述の新規な電子伝達タンパク質を用いることもできる。導電性ポリマーおよび/または高分子半導体とタンパク質との複合体は、機械的強度の向上を図るために、必要に応じて、導電性ポリマーおよび/または高分子半導体より機械的強度が高い他のポリマーをさらに含む。こうすることで、光伝導体を基板上に支持する必要がなくなる。
【0022】
上記の光電変換素子においては、典型的には、導電性ポリマーおよび/または高分子半導体が第1の電極と第2の電極との間に電気的に接続されている。必要に応じて、機械的支持のために、光伝導体、第1の電極および第2の電極が基板上に設けられる。この基板は透明であっても透明でなくてもよい。例えば可視光に対して透明な光電変換素子を得るためには、これらの基板、第1の電極および第2の電極は可視光に対して透明に構成される。光電変換素子は、例えば受光素子であるが、これに限定されるものではない。
【0023】
上記の光伝導体の製造方法および光電変換素子の製造方法においては、典型的には、導電性ポリマーおよび/または高分子半導体とタンパク質とを非共有結合または共有結合により互いに結合させる。導電性ポリマーおよび/または高分子半導体とタンパク質との複合体は、例えば、導電性ポリマーおよび/または高分子半導体とタンパク質とを含む溶液を用いて形成することができる。また、この複合体は、導電性ポリマーおよび/または高分子半導体とタンパク質とを含む溶液にリンカーを添加して導電性ポリマーおよび/または高分子半導体とタンパク質とをこのリンカーにより結合させた後、この溶液を用いて形成することができる。さらに、この複合体は、導電性ポリマーおよび/または高分子半導体を形成するためのモノマーと上記の色素とを含む溶液を用いて電気化学的重合法によりそのモノマーから導電性ポリマーおよび/または高分子半導体を形成した後、この溶液にアポタンパク質を添加して上記色素を含むタンパク質を形成し、この溶液を用いて形成することもできる。光電変換素子の製造方法においては、典型的には、基板上に第1の電極および第2の電極を形成した後、基板上に上記の光伝導体を導電性ポリマーおよび/または高分子半導体が第1の電極と第2の電極との間に電気的に接続されるように形成する。
【0024】
上記の光電変換素子を有する電子機器は、例えば、受光部を有する各種の電子機器であってよく、機能や用途を問わない。多層透明光電変換素子を有する電子機器は、多層透明光電変換素子を用いることができるものである限り各種のものであってよいが、具体例をいくつか挙げると、三次元ディスプレイ、三次元イメージセンサー、カメラ、光記録再生システムなどである。
【0025】
また、本開示は、
導電性ポリマーおよび/または高分子半導体と少なくとも一つの、長寿命励起状態を有する色素を含むタンパク質との複合体からなる光伝導体を受光部に用いた固体撮像素子である。
【0026】
また、本開示は、
導電性ポリマーおよび/または高分子半導体と少なくとも一つの、長寿命励起状態を有する色素を含むタンパク質との複合体からなる光伝導体を用いて受光部を形成する工程を有する固体撮像素子の製造方法である。
【0027】
また、本開示は、
導電性ポリマーおよび/または高分子半導体と少なくとも一つの、長寿命励起状態を有する色素を含むタンパク質との複合体からなる光伝導体を受光部に用いた固体撮像素子を有する電子機器である。
【0028】
上記の固体撮像素子、固体撮像素子の製造方法および固体撮像素子を有する電子機器については、その性質に反しない限り、上記の光電変換素子、光電変換素子の製造方法および電子機器に関連して説明したことが成立する。
【0029】
上述の本開示においては、導電性ポリマーおよび/または高分子半導体と少なくとも一つの、長寿命励起状態を有する色素を含むタンパク質との複合体からなる光伝導体に光が入射したとき、タンパク質に含まれる色素が光子を吸収して電子−正孔対が発生する。この電子−正孔対は電荷分離され、一方はタンパク質から出て導電性ポリマーおよび/または高分子半導体に注入され(光ドーピング)、他方はタンパク質近傍に局在化する。例えば、電子−正孔対のうちの正孔が導電性ポリマーおよび/または高分子半導体に注入され、電子はタンパク質近傍に局在化する。導電性ポリマーおよび/または高分子半導体が第1の電極と第2の電極との間に電気的に接続され、第1の電極と第2の電極との間にバイアス電圧が印加されると、導電性ポリマーおよび/または高分子半導体中に注入された電子または正孔が導電性ポリマーおよび/または高分子半導体を伝導して第1の電極と第2の電極との間に光電流が流れる。この場合、各タンパク質を構成するポリペプチドが電子または正孔に対するバリアとなるため、一つのタンパク質に含まれる色素で発生した電子または正孔と他のタンパク質に含まれる色素で発生した正孔または電子と再結合して消滅するのが防止される。導電性ポリマーおよび/または高分子半導体とタンパク質との複合体からなる光伝導体に光が入射しないとき、光伝導体は絶縁体として振る舞う。
【発明の効果】
【0030】
本開示によれば、光により励起されたキャリアが再結合により消滅するのを防止することができ、光電変換効率の向上を図ることができる光電変換素子、固体撮像素子および多層透明光電変換素子を実現することができる。そして、この優れた光電変換素子、固体撮像素子および多層透明光電変換素子を用いることにより、高性能の電子機器を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】第1の実施の形態による光伝導体を示す略線図である。
【図2】第1の実施の形態による光伝導体の構造例を示す略線図である。
【図3】第1の実施の形態による光伝導体の他の構造例を示す略線図である。
【図4】第1の実施の形態による光伝導体の製造方法の一例を説明するための略線図である。
【図5】第1の実施の形態による光伝導体の製造方法の一例を説明するための略線図である。
【図6】第2の実施の形態による光伝導体を示す略線図である。
【図7】第3の実施の形態による光電変換素子を示す略線図である。
【図8】第3の実施の形態による光電変換素子の具体的な構成例を示す断面図である。
【図9】第3の実施の形態において光電流発生実験に用いた光電変換素子を示す平面図である。
【図10】図9に示す光電変換素子のくし型電極部を拡大して示す平面図である。
【図11】図9に示す光電変換素子の光電流アクションスペクトルの測定結果および光電流のバイアス電圧依存性を示す略線図である。
【図12】亜鉛プロトポルフィリンとポリアニリンとの複合体の光電流アクションスペクトルの測定結果を示す略線図である。
【図13】亜鉛置換シトクロムcとポリアニリンとの複合体の光電流アクションスペクトルの測定結果を示す略線図である。
【図14】亜鉛プロトポルフィリンとポリアニリンとの複合体および亜鉛置換シトクロムcとポリアニリンとの複合体の光電流およびオン/オフ比を比較して示す略線図である。
【図15】亜鉛置換シトクロムcとポリアニリンとの複合体の光電流アクションスペクトルの測定結果を示す略線図である。
【図16】第3の実施の形態による光電変換素子をフォトセンサーアレイに適用した例を示す平面図およびその一部を拡大した平面図である。
【図17】導電性ポリマーおよび/または高分子半導体に加えて他のポリマーを添加した光伝導体を用いた光電変換素子の光電流の測定結果を示す略線図である。
【図18】第4の実施の形態による多層透明光電変換素子を示す略線図である。
【図19】第5の実施の形態による多層透明光電変換素子を構成する透明光電変換素子において用いられるスズ置換ウマ心筋シトクロムcの紫外可視吸収スペクトルの測定結果を示す略線図である。
【図20】第5の実施の形態による多層透明光電変換素子を構成する透明光電変換素子において用いられるスズ置換ウシ心筋シトクロムcの紫外可視吸収スペクトルの測定結果を示す略線図である。
【図21】亜鉛置換ウマ心筋シトクロムcの紫外可視吸収スペクトルの測定結果を示す略線図である。
【図22】亜鉛置換ウシ心筋シトクロムcの紫外可視吸収スペクトルの測定結果を示す略線図である。
【図23】第5の実施の形態による多層透明光電変換素子を構成する透明光電変換素子において用いられるスズ置換ウマ心筋シトクロムcの紫外可視吸収スペクトルの経時変化の測定結果を示す略線図である。
【図24】第5の実施の形態による多層透明光電変換素子を構成する透明光電変換素子において用いられるスズ置換ウシ心筋シトクロムcの紫外可視吸収スペクトルの経時変化の測定結果を示す略線図である。
【図25】亜鉛置換ウマ心筋シトクロムcの紫外可視吸収スペクトルの経時変化の測定結果を示す略線図である。
【図26】亜鉛置換ウシ心筋シトクロムcの紫外可視吸収スペクトルの経時変化の測定結果を示す略線図である。
【図27】第5の実施の形態による多層透明光電変換素子を構成する透明光電変換素子において用いられるスズ置換ウマ心筋シトクロムcおよびスズ置換ウシ心筋シトクロムcの光分解反応の二次反応式のフィッティングの一例を示す略線図である。
【図28】亜鉛置換ウマ心筋シトクロムcおよび亜鉛置換ウシ心筋シトクロムcの光分解反応の二次反応式のフィッティングの一例を示す略線図である。
【図29】第5の実施の形態において金属置換シトクロムcの光電流発生実験に用いたタンパク質固定化電極を示す平面図である。
【図30】図29に示すタンパク質固定化電極の光電流アクションスペクトルの測定結果を示す略線図である。
【図31】図29に示すタンパク質固定化電極のSoret帯光電流値の平均値を示す略線図である。
【図32】各種の金属置換シトクロムcの紫外可視吸収スペクトルの測定結果を示す略線図である。
【図33】各種の金属置換シトクロムcの蛍光スペクトルの測定結果を示す略線図である。
【図34】スズ置換ウマ心筋シトクロムcおよび亜鉛置換ウマ心筋シトクロムcの波長409nmにおける吸光度に対する積分蛍光強度を示す略線図である。
【図35】スズ置換ウシ心筋シトクロムc、亜鉛置換ウシ心筋シトクロムcおよび亜鉛置換ウマ心筋シトクロムcの波長409nmにおける吸光度に対する積分蛍光強度を示す略線図である。
【図36】第7の実施の形態による多層透明光電変換素子を示す略線図である。
【図37】第8の実施の形態による多層透明光電変換素子を示す略線図である。
【図38】第9の実施の形態による立体イメージングシステムを説明するための略線図である。
【図39】第9の実施の形態による立体イメージングシステムを説明するための略線図である。
【図40】第9の実施の形態による立体イメージングシステムを説明するための略線図である。
【図41】第9の実施の形態による立体イメージングシステムを説明するための略線図である。
【図42】第9の実施の形態による立体イメージングシステムを説明するための略線図である。
【図43】第9の実施の形態による立体イメージングシステムを説明するための略線図である。
【図44】第9の実施の形態による立体イメージングシステムを説明するための略線図である。
【図45】第9の実施の形態による立体イメージングシステムを説明するための略線図である。
【図46】第9の実施の形態による立体イメージングシステムを説明するための略線図である。
【図47】第9の実施の形態による立体イメージングシステムを説明するための略線図である。
【図48】第10の実施の形態による立体イメージングシステムを説明するための略線図である。
【図49】第11の実施の形態による立体イメージングシステムを説明するための略線図である。
【図50】第12の実施の形態による光ディスクシステムを示す略線図である。
【図51】第13の実施の形態による光記録再生システムを示す略線図である。
【図52】第14の実施の形態によるCCDイメージセンサーを示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、発明を実施するための形態(以下「実施の形態」とする)について説明する。なお、説明は以下の順序で行う。
1.第1の実施の形態(光伝導体およびその製造方法)
2.第2の実施の形態(光伝導体およびその製造方法)
3.第3の実施の形態(光電変換素子およびその製造方法)
4.第4の実施の形態(多層透明光電変換素子およびその製造方法)
5.第5の実施の形態(多層透明光電変換素子およびその製造方法)
6.第6の実施の形態(多層透明光電変換素子)
7.第7の実施の形態(多層透明光電変換素子)
8.第8の実施の形態(多層透明光電変換素子)
9.第9の実施の形態(立体イメージングシステム)
10.第10の実施の形態(立体イメージングシステム)
11.第11の実施の形態(立体イメージングシステム)
12.第12の実施の形態(光ディスクシステム)
13.第13の実施の形態(光記録再生システム)
14.第14の実施の形態(CCDイメージセンサー)
【0033】
〈1.第1の実施の形態〉
[光伝導体]
図1は第1の実施の形態による光伝導体を示す。
【0034】
図1に示すように、この光伝導体は、ネットワーク状の導電性ポリマーおよび/または高分子半導体11と、一つまたは複数のタンパク質12との複合体からなる。タンパク質12は、長寿命励起状態を有し、発光中心となる色素12aがポリペプチド12bに包被され、所定の位置に配向したものである。典型的には、導電性ポリマーおよび/または高分子半導体11とタンパク質12とは、非共有結合または共有結合により互いに結合している。非共有結合は、例えば、静電相互作用、ファンデルワールス相互作用、水素結合相互作用、電荷移動相互作用などである。導電性ポリマーおよび/または高分子半導体11とタンパク質12とは、リンカー(図示せず)により互いに結合してもよい。この光伝導体の全体形状は特に限定されず、必要に応じて選ばれるが、例えば膜状あるいは板状である。また、この光伝導体の表面形状は任意であり、例えば凹面、凸面、凹凸面などのいずれであってよい。さらに、この光伝導体の平面形状は特に限定されず、必要に応じて選ばれるが、例えば、多角形(三角形、四角形、五角形、六角形など)、円形、楕円形などである。
【0035】
導電性ポリマーおよび/または高分子半導体11とタンパク質12との混合比(質量比または重量比)は特に限定されず、光伝導体に持たせる光伝導度などに応じて適宜選ばれるが、一般的には導電性ポリマーおよび/または高分子半導体11に対してタンパク質12を多く含ませることにより光伝導度が高くなる。
【0036】
導電性ポリマーおよび/または高分子半導体11は、p型であってもn型であってもよい。導電性ポリマーは、大きく分けて炭化水素系導電性ポリマーとヘテロ原子含有系導電性ポリマーとがある。炭化水素系導電性ポリマーとしては、例えば、ポリアセチレン、ポリフェニレン、ポリフェニレンビニレン、ポリアセン、ポリフェニルアセチレン、ポリジアセチレン、ポリナフタレンなどが挙げられる。ヘテロ原子含有系導電性ポリマーとしては、例えば、ポリピロール、ポリアニリン、ポリチオフェン、ポリチエニレンビニレン、ポリアズレン、ポリイソチアナフテンなどが挙げられる。
【0037】
色素12aがポリペプチド12bに包被されたタンパク質12としては、以下の各種のタンパク質に蛍光性を持たせたり、蛍光性を持つ化合物で修飾したりしたものを用いることができる。以下のタンパク質の誘導体(骨格のアミノ酸残基が化学修飾されたもの)またはその変異体(骨格のアミノ酸残基の一部が他のアミノ酸残基に置換されたもの)を用いることもできる。
【0038】
(1)シトクロムc類(電子伝達タンパク質)
シトクロムc、シトクロムc1 、シトクロムc2 、シトクロムc3 、シトクロムc4 、シトクロムc5 、シトクロムc6 、シトクロムc7 、シトクロムc8 、シトクロムc’、シトクロムc’’、シトクロムcL、シトクロムcM、シトクロムcS、シトクロムc544 、シトクロムc545 、シトクロムc546 、シトクロムc547 、シトクロムc548 、シトクロムc549 、シトクロムc550 、シトクロムc551 、シトクロムc551.5 、シトクロムc552 、シトクロムc553 、シトクロムc554 、シトクロムc555 、シトクロムc556 、シトクロムc557 、シトクロムc558 、シトクロムc559 、シトクロムc560 、シトクロムc561 、シトクロムc562 、シトクロムc563 など。
【0039】
(2)シトクロムb類(電子伝達タンパク質)
シトクロムb、シトクロムb1 、シトクロムb2 、シトクロムb3 、シトクロムb4 、シトクロムb5 、シトクロムb6 、シトクロムb7 、シトクロムb8 、シトクロムb9 、シトクロムb550 、シトクロムb551 、シトクロムb552 、シトクロムb553 、シトクロムb554 、シトクロムb555 、シトクロムb556 、シトクロムb557 、シトクロムb558 、シトクロムb559 、シトクロムb560 、シトクロムb561 、シトクロムb562 、シトクロムb563 、シトクロムb564 、シトクロムb565 、シトクロムb566 、シトクロムb567 、シトクロムb568 、シトクロムb569 、シトクロムP450など。
【0040】
(3)シトクロムa類(電子伝達タンパク質)
シトクロムa、シトクロムa1、シトクロムa2、シトクロムa3、シトクロムo、シトクロムo3 など。
【0041】
(4)その他の電子伝達タンパク質
フェレドキシン、ルブレドキシン、プラストシアニン、アズリン、シュードアズリン、ステラシアニン、チオレドキシンなど。
【0042】
(5)下記の補酵素を含むタンパク質
ヌクレオチド系:ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NADH)、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸(NADPH)、フラビンアデニンヌクレオチド(FADH)、フラビンモノヌクレオチド(FMN)など。
キノン系:ユビキノン、プラストキノン、メナキノン、カルダリエキノン、補酵素F420、ロドキノンなど。
ポルフィリン系:ヘム、クロロフィル、フェオフィチン、クロリンなど。
【0043】
(6)グロビン類
ミオグロビン、ヘモグロビン、ニューログロビン、サイトグロビンなど。
【0044】
(7)蛍光タンパク質およびその変異種
緑色蛍光タンパク質(GFP)、DsRed、クサビラオレンジ、TagBFP(Evrogen社)、クロンテック社製フルーツ蛍光タンパク質(http://catalog.takara-bio.co.jp/clontech/product/basic_info.asp?unitid=U100005040)、MBL社製CoralHueシリーズ(https://ruo.mbl.co.jp/product/flprotein/)など。
【0045】
蛍光性を持つ化合物としては、例えば、以下の蛍光色素が挙げられる。
・4−アセトアミド−4’−イソチオシアナトスチルベン−2,2’ジスルホン酸
・アクリジン、アクリジンオレンジ、アクリジンイエロー、アクリジンレッド、アクリジンイソチオシアネートなどのアクリジンおよび誘導体
・5−(2’−アミノエチル)アミノナフタレン−l−スルホン酸(EDANS)
・4−アミノ−N−[3−(ビニルスルホニル)フェニル]ナフタルイミド−3,5ジスルホン酸(ルシファーイエローVS)
・N−(4−アニリノ−l−ナフチル)マレイミド
・アントラニルアミド
・ブリリアントイエロー
・クマリン、7−アミノ−4−メチルクマリン(AMC、クマリン120)、7−アミノ−4−トリフルオロメチルクルアリン(7−amino−4−trifluoromethylcouluarin)(クマラン151(coumaran151))などのクマリンおよび誘導体
・シアノシン、Cy3、Cy5、Cy5.5およびCy7などのシアニンおよび誘導体
・4’,6−ジアミジノ−2−フェニリンドール(DAPI)
・5’,5”−ジブロモピロガロール−スルホンフタレイン(ブロモピロガロールレッド)
・7−ジエチルアミノ−3−(4’−イソチオシアナトフェニル)−4−メチルクマリン
・ジエチルアミノクマリン
・ジエチレントリアミンペンタアセテート
・4,4’−ジイソチオシアナトジヒドロスチルベン−2,2’ジスルホン酸
・4,4’−ジイソチオシアナトスチルベン−2,2’ジスルホン酸
・5−[ジメチルアミノ]ナフタレン−l−スルホニルクロライド(DNS、塩化ダンシル)
・4−(4’−ジメチルアミノフェニルアゾ)安息香酸(DABCYL)
・4−ジメチルアミノフェニルアゾフェニル−4’−イソチオシアネート(DABITC)
・エオシン、エオシンイソチオシアネートなどのエオシンおよび誘導体
・エリトロシンB、エリトロシンイソチオシアネートなどのエリトロシンおよび誘導体
・エチジウム;5−カルボキシフルオレセイン(FAM)、5−(4,6−ジクロロトリアジン−2−イル)アミノフルオレセイン(DTAF)、2’7’−ジメトキシ−4’5’−ジクロロ−6−カルボキシフルオレセイン(JOE)、フルオレセインイソチオシアネート(FITC)、フルオレセインクロロトリアジニル、ナフトフルオレセイン、QFITC(XRITC)などのフルオレセインおよび誘導体
・フルオレサミン
・IR144
・IR1446
・緑色蛍光タンパク質(GFP)
・サンゴ礁由来蛍光タンパク質(RCFP)
・リサミン(商標)
・リサミンローダミン、ルシファーイエロー
・マラカイトグリーンイソチオシアネート
・4−メチルウンベリフェロン
・オルトクレゾールフタレイン
・ニトロチロシン
・パラローズアニリン
・ナイルレッド
・オレゴングリーン
・フェノールレッド
・B−フィコエリトリン
・o−フタルジアルデヒド
・ピレン、ピレン酪酸、1−ピレン酪酸スクシンイミジルなどのピレンおよび誘導体
・リアクティブレッド4(シバクロン(商標)ブリリアントレッド3B−A)
・6−カルボキシ−X−ローダミン(ROX)、6−カルボキシローダミン(R6G)、4,7−ジクロロローダミンリサミン、塩化ローダミン−B−スルホニル、ローダミン(Rhod)、ローダミンB、ローダミン123、ローダミンXイソチオシアネート、スルホロダミンB、スルホロダミン101、スルホロダミン101の塩化スルホニル誘導体(テクサスレッド)、N,N,N’,N’−テトラメチル−6−カルボキシローダミン(TAMRA)、テトラメチルローダミン、イソチオシアン酸テトラメチルローダミン(TRITC)などのローダミンおよび誘導体
・リボフラビン
・ロゾール酸およびテルビウムキレート誘導体
・キサンテン
・上記の組合せ
上記以外に、当業者に知られている他の蛍光色素、例えばMolecular Probes社(米国オレゴン州ユージン(Eugene))およびExcitors社(米国オハイオ州デイトン(Dayton))から購入可能なもの、またはそれらの組み合わせも使用してよい。
【0046】
この光伝導体は、この光伝導体を機械的に支持するためなどの目的により、必要に応じて基板上に形成される。基板としては従来公知のものを用いることができ、必要に応じて選ばれ、透明基板であっても不透明基板であってもよい。透明基板の材料は必要に応じて選ばれるが、例えば、石英やガラスなどの透明無機材料や透明プラスチックなどが挙げられる。フレキシブルな透明基板としては透明プラスチック基板が用いられる。透明プラスチックとしては、例えば、ポリエチレンテレフタラート、ポリエチレンナフタラート、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリフェニレンスルフィド、ポリフッ化ビニリデン、アセチルセルロース、ブロム化フェノキシ、アラミド類、ポリイミド類、ポリスチレン類、ポリアリレート類、ポリスルホン類、ポリオレフィン類などが挙げられる。不透明基板としては例えばシリコン基板が用いられる。
【0047】
図2に、導電性ポリマーおよび/または高分子半導体11とタンパク質12とが非共有結合により互いに結合している様子の一例を模式的に示す。また、図3に、導電性ポリマーおよび/または高分子半導体11とタンパク質12とがリンカー13により互いに結合している様子の一例を模式的に示す。
【0048】
リンカー13としては従来公知のものを用いることができ、導電性ポリマーおよび/または高分子半導体11とタンパク質12とに応じて適宜選ばれるが、具体的には、例えば、次のようなものを用いることができる。
【0049】
(1)導電性ポリマーおよび/または高分子半導体11とタンパク質12とをアミン−アミン結合で結合するもの
・グルタルアルデヒド(反応基はアルデヒド基)
【化1】

・DSG(反応基はNHSエステル、分子量326.26、スペーサアーム長7.7Å)
【化2】

・BS(PEG)5 (反応基はNHSエステル、PEGスペーサ、分子量532.50)
【化3】

・BS(PEG)9 (反応基はNHSエステル、PEGスペーサ、分子量708.71)
【化4】

・DSP(反応基はNHSエステル、チオール開裂可、分子量404.42、スペーサアーム長12.0Å)
【化5】

・DST(反応基はNHSエステル、misc開裂可、分子量344.24、スペーサアーム長6.4Å)
【化6】

・DMA(反応基はイミドエステル、分子量245.15、スペーサアーム長8.6Å)
【化7】

・DTBP(反応基はイミドエステル、チオール開裂可、分子量309.28、スペーサアーム長11.9Å)
【化8】

・HBVS(vinylsulfone)(分子量266.38、スペーサアーム長14.7Å)
【化9】

【0050】
(2)導電性ポリマーおよび/または高分子半導体11とタンパク質12とをアミン−メルカプト(あるいはスルフヒドリル)結合で結合するもの
・BMPS(反応基はNHSエステル/マレイミド、分子量266.21、スペーサアーム長5.9Å)
【化10】

・SM(PEG)n (反応基はNHSエステル/マレイミド、PEGスペーサ)
【化11】

・SM(PEG)2 (反応基はNHSエステル/マレイミド、PEGスペーサ、n=2、4、6、8、12、24)
【化12】

・SMPT(反応基はNHSエステル/ピリジルジチオール、開裂可、分子量388.46、スペーサアーム長20.0Å)
【化13】

・SIA(反応基はNHSエステル/ハロアセチル、分子量283.02、スペーサアーム長1.5Å)
【化14】

【0051】
(3)導電性ポリマーおよび/または高分子半導体11とタンパク質12とをアミン−カルボキシ結合で結合するもの
・EDC(反応基はカルボジイミド、分子量191.70)
【化15】

【0052】
(4)導電性ポリマーおよび/または高分子半導体11とタンパク質12とをメルカプト(あるいはスルフヒドリル)−カルボハイドレート結合で結合するもの
・BMPH(反応基はマレイミド/ハイドラザイド、分子量297.19、スペーサアーム長8.1Å)
【化16】

【0053】
(5)ポリマーネットワーク11とタンパク質12とをヒドロオキシル−メルカプト(あるいはスルフヒドリル)結合で結合するもの
・PMPI(反応基はイソシアネート/マレイミド、分子量214.18、スペーサアーム長8.7Å)
【化17】

【0054】
この光伝導体には、光伝導体全体の機械的強度の向上を図るために、必要に応じて、導電性ポリマーおよび/または高分子半導体11に加えて、機械的強度に優れた一種または二種以上の他のポリマーを混合してもよい。こうすることで、光伝導体の機械的強度の向上を図るために、この光伝導体を機械的支持用の基板上に形成する必要がなくなる。あるいは、この光伝導体には、この光伝導体を形成するときに用いる溶液または懸濁液の粘度を調整するために、導電性ポリマーおよび/または高分子半導体11に加えて、粘度調整用の一種または二種以上の他のポリマーが混合されることもある。この粘度調整用のポリマーは、この光伝導体全体の吸収波長の光に対して透明であること、光伝導体形成用の溶液または懸濁液にこの粘度調整用のポリマーを加えることにより粘度が増加すること、絶縁性で安定であることなどが必要である。あるいは、この光伝導体には、この光伝導体の耐酸化性や耐湿性の向上を図るために、耐酸化性や耐湿性に優れた一種または二種以上の他のポリマーを混合してもよい。これらの目的で用いられる他のポリマーとしては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリスチレン(PS)、ポリ−4−ビニルフェノール(poly-4-vinyl phenol,PVP)などを用いることができるが、これに限定されるものではない。
【0055】
[光伝導体の製造方法]
この光伝導体の製造方法について説明する。
図2に示す光伝導体を製造するためには、まず、溶媒に導電性ポリマーおよび/または高分子半導体11およびタンパク質12を溶かして混合する。溶媒としては水や有機溶媒などを用いることができ、必要に応じて選ばれる。こうして得られた溶液を基板上に塗布する。塗布方法としては、ディップコーティング、スピンコーティング、バーコーティング、インクジェット印刷などを挙げることができ、必要に応じて選ばれる。基板の表面形状は問わず、平面、曲面などのいずれであってもよい。次に、基板から溶媒を蒸発させる。こうして、基板上に光伝導体が形成される。
【0056】
図3に示す光伝導体を製造するためには、まず、溶媒に導電性ポリマーおよび/または高分子半導体11とタンパク質12とを溶かして混合する。導電性ポリマーおよび/または高分子半導体11に加えて他のポリマーも用いる場合には、溶媒にこの他のポリマーも混合する。溶媒としては水や有機溶媒などを用いることができ、必要に応じて選ばれる。次に、こうして得られた溶液にリンカー13を添加し、このリンカー13により導電性ポリマーおよび/または高分子半導体11とタンパク質12とを共有結合により結合させて析出させる。この後、未反応のリンカー13とリンカー13により結合していない導電性ポリマーおよび/または高分子半導体11ならびにタンパク質12とを除去する。こうして、基板上に光伝導体が形成される。
【0057】
図2に示す光伝導体は次のようにして製造することもできる。この製造方法では、導電性ポリマーおよび/または高分子半導体11を電気化学的重合法(電解重合法)により形成する。すなわち、まず、図4に示すように、導電性ポリマーおよび/または高分子半導体11を形成するためのモノマー11aおよび色素12aを溶媒に溶かして混合する。こうして得られた溶液に電極14(作用電極)を浸漬して電位掃引を行うことにより、電極14の表面に複数のモノマー11aが重合した導電性ポリマーおよび/または高分子半導体11を形成するとともに、色素12aを導電性ポリマーおよび/または高分子半導体11に結合させる。次に、図5に示すように、こうして得られたポリマー溶液に、アポタンパク質(ポリペプチド)15を混合する。そして、このポリマー溶液の状態(pH、温度など)を調節することにより、アポタンパク質15が再度フォールディング(refold)して色素12aを包被する。こうして、ポリペプチド11aにより色素12aが包被されたタンパク質12が形成される。その後、溶媒および未反応のモノマー11aを除去することにより、電極14上に光伝導体が形成される。
【0058】
この第1の実施の形態によれば、導電性ポリマーおよび/または高分子半導体11と、長寿命励起状態を有し、発光中心となる色素12aを含むタンパク質12との複合体からなる新規な光伝導体を実現することができる。そして、この光伝導体を光電変換層に用いることにより新規な光電変換素子を実現することができる。
【0059】
〈2.第2の実施の形態〉
[光伝導体]
図6は第2の実施の形態による光伝導体を示す。
【0060】
図6に示すように、この光伝導体は、基板16上に多層積層されたタンパク質12とネットワーク状の導電性ポリマーおよび/または高分子半導体11との複合体からなる。図6においては、タンパク質12が三層積層された例が示されているが、これに限定されるものではなく、タンパク質12の積層数は必要に応じて選ばれる。基板16としては、第1の実施の形態と同様なものを用いることができ、必要に応じて選ばれる。
【0061】
導電性ポリマーおよび/または高分子半導体11、タンパク質12および基板16の一例を挙げると、次の通りである。導電性ポリマーおよび/または高分子半導体11はp型のポリアニリンスルホン酸(PASA)
【化18】

やポリ[2−メトキシ−5−(2’−エチル−ヘキシルオキシ)−1,4−フェニレン
ビニレン](poly[2-methoxy-5-(2’-ethyl-hexyloxy)-1,4-phenylene vinylene ],MEH−PPV)
【化19】

やポリ(3−ヘキシルチオフェン)(poly(3-hexylthiophene),P3HT)
【化20】

などである。なお、n型の導電性ポリマーおよび/または高分子半導体としては、例えば、Poly(p-pyridyl vinylene)Poly(isothianaphthene)を用いることができる。タンパク質12の一例を挙げると亜鉛置換シトクロムcである。基板16の一例を挙げるとインジウム−スズ複合酸化物(ITO)基板である。
【0062】
[光伝導体の製造方法]
この光伝導体の製造方法について説明する。
導電性ポリマーおよび/または高分子半導体11を溶媒に溶かしたポリマー溶液およびタンパク質12を溶媒に溶かしたタンパク質溶液(例えば、pH5.0)をそれぞれ調製する。溶媒としては水や有機溶媒などを用いることができ、必要に応じて選ばれる。
【0063】
まず、基板16をタンパク質溶液に浸漬したり、基板16上にタンパク質溶液を塗布したりした後、溶媒を除去して一層目のタンパク質12を形成する。次に、こうして一層目のタンパク質12が形成された基板16をポリマー溶液に浸漬したり、基板16上にポリマー溶液を塗布したりする。このとき、一層目のタンパク質12の表面の電荷とこの電荷と逆極性の電荷を有する部分の導電性ポリマーおよび/または高分子半導体11との間に静電引力が働き、この静電引力によりタンパク質12と導電性ポリマーおよび/または高分子半導体11とが結合する。
【0064】
次に、溶媒を除去した後、一層目のタンパク質12および導電性ポリマーおよび/または高分子半導体11が形成された基板16を再びタンパク質溶液に浸漬したり、基板16上にタンパク質溶液を塗布したりする。このとき、基板16上に形成された導電性ポリマーおよび/または高分子半導体11の表面の電荷とこの電荷と逆極性を有する部分のタンパク質12との間に静電引力が働き、この静電引力により導電性ポリマーおよび/または高分子半導体11とその上のタンパク質12とが結合する。次に、溶媒を除去した後、同様にして再び導電性ポリマーおよび/または高分子半導体11を形成する。このプロセスを必要な回数繰り返し行って、導電性ポリマーおよび/または高分子半導体11ならびにタンパク質12を必要な層数だけ積層する。
【0065】
この第2の実施の形態の上記以外のことは、第1の実施の形態と同様である。
この第2の実施の形態によれば、第1の実施の形態と同様な利点を得ることができる。
【0066】
〈3.第3の実施の形態〉
[光電変換素子]
図7は第3の実施の形態による光電変換素子を示す。
【0067】
図7に示すように、この光電変換素子においては、第1の実施の形態と同様な光伝導体17のネットワーク状の導電性ポリマーおよび/または高分子半導体11が、互いに異なる部位でそれぞれ第1の電極18および第2の電極19と電気的に接続されている。例えば、光伝導体17が第1の電極18および第2の電極19の両方に跨がるようにして形成され、この光伝導体17が第1の電極18および第2の電極19と接触する部分で導電性ポリマーおよび/または高分子半導体11が第1の電極18および第2の電極19と電気的に接続される。第1の電極18と第2の電極19との間の距離は特に限定されず、必要に応じて選ばれるが、例えば、1μm以上30μm以下、典型的には5μm以上20μm以下、例えば10μmである。第1の電極18および第2の電極19の材料としては従来公知の導電材料を用いることができ、必要に応じて選ばれるが、例えば、銅(Cu)、銀(Ag)、アルミニウム(Al)、クロム(Cr)、金(Au)、鉄(Fe)、ニッケル(Ni)、チタン(Ti)および白金(Pt)からなる群より選ばれた少なくとも一種の金属からなる純金属または合金を用いることができる。第1の電極18および第2の電極19を透明に構成する場合、透明電極材料としては、例えば、ITO(インジウム−スズ複合酸化物)、FTO(フッ素ドープ酸化スズ)、ネサガラス(SnO2 ガラス)などの透明金属酸化物のほか、光の透過が可能な極薄い金属膜、例えばAu膜などを用いることができる。第1の電極18および第2の電極19を透明に構成し、以下のように基板を用いる場合にはその基板も透明に構成することにより、透明光電変換素子を得ることができる。
【0068】
この光電変換素子は、この光電変換素子を機械的に支持するためなどの目的により、必要に応じて基板上に形成される。具体的には、基板上に光伝導体17、第1の電極18および第2の電極19が形成される。基板としては従来公知のものを用いることができ、必要に応じて選ばれ、透明基板であっても不透明基板であってもよい。透明基板の材料は必要に応じて選ばれるが、例えば、石英やガラスなどの透明無機材料や透明プラスチックなどが挙げられる。フレキシブルな透明基板としては透明プラスチック基板が用いられる。透明プラスチックとしては、例えば、ポリエチレンテレフタラート、ポリエチレンナフタラート、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリフェニレンスルフィド、ポリフッ化ビニリデン、アセチルセルロース、ブロム化フェノキシ、アラミド類、ポリイミド類、ポリスチレン類、ポリアリレート類、ポリスルホン類、ポリオレフィン類などが挙げられる。不透明基板としては例えばシリコン基板が用いられる。
【0069】
図8に光電変換素子の具体的な構成例を示す。図8に示すように、この光電変換素子においては、基板16上に第1の電極18および第2の電極19が互いに離れて形成され、これらの第1の電極18および第2の電極19の両方に跨がって光伝導体17が形成されている。
【0070】
[光電変換素子の製造方法]
この光電変換素子の製造方法について説明する。
まず、基板16上に第1の電極18および第2の電極19を形成する。第1の電極18および第2の電極19を形成するためには、例えば、基板16上に導電材料からなる膜を形成した後、この膜をリソグラフィーおよびエッチングによりパターニングする。
【0071】
次に、こうして第1の電極および第2の電極が形成された基板16上に第1の実施の形態と同様にして光伝導体17を形成する。
以上により、目的とする光電変換素子が製造される。
【0072】
[光電変換素子の動作]
図7を参照してこの光電変換素子の動作を説明する。
この光電変換素子においては、光が照射されていないとき(暗状態)には、光伝導体17を構成する導電性ポリマーおよび/または高分子半導体11ならびにタンパク質12ともに絶縁体であり、したがって光伝導体17は絶縁体である。
【0073】
一方、この光電変換素子の光伝導体17に、タンパク質12の色素12aの励起に必要な光子エネルギーを有する光が照射されると、色素12aが励起されて電子−正孔対(励起子)が発生する。こうして発生した電子−正孔対のうちの電子または正孔は色素12aから、タンパク質12に形成された経路を通って導電性ポリマーおよび/または高分子半導体11に注入される(光ドーピング)。こうして電子または正孔が注入されると、導電性ポリマーおよび/または高分子半導体11の電気伝導度は急激に増加し、ひいては光伝導体17の電気伝導度が急激に増加する。このとき、第1の電極18と第2の電極19との間にバイアス電圧が印加されていると、導電性ポリマーおよび/または高分子半導体11に注入された正孔または電子は、第1の電極18および第2の電極19のうちの電位が低い方または高い方に移動し、第1の電極18と第2の電極19との間に光電流が流れる。例えば、第1の電極18と第2の電極19との間に第1の電極18の方が電位が高くなるようにバイアス電圧が印加されている場合には、導電性ポリマーおよび/または高分子半導体11に注入された正孔は第2の電極19に移動し、第1の電極18から第2の電極19に光電流が流れる。光電流は光伝導体17に照射される光の強度が高いほど多くなる。第1の電極18と第2の電極19との間にバイアス電圧が印加されていないとき(バイアス電圧=0)には、光伝導体17に光が照射されても、第1の電極18と第2の電極19との間に光電流は流れない。第1の電極18と第2の電極19との間に流れる光電流の向きは、第1の電極18と第2の電極19との間に印加するバイアス電圧の極性により制御することができる。また、光伝導体17に入射する光の強度を一定とすると、第1の電極18と第2の電極19との間に流れる光電流は、入射光の波長および第1の電極18と第2の電極19との間に印加するバイアス電圧によって制御することができる。
【0074】
この場合、タンパク質12同士はその外殻のポリペプチド12aにより互いに絶縁されているため、タンパク質12間で電子と正孔とが再結合して消滅してしまうのを防止することができる。このため、光伝導体17に入射した光により色素12aで発生する電子−正孔対の光電流に対する寄与度の大幅な向上を図ることができる。加えて、光伝導体17に光が照射されていない暗状態で第1の電極18と第2の電極19との間に流れるリーク電流(暗電流)の大幅な低減を図ることができる。
【0075】
〈実施例〉
光電変換素子を作製し、光電流発生実験を行った。
光電変換素子は次のようにして作製した。
図9に示すように、大きさが15mm×25mmで厚さが1mmのガラス基板20上に所定形状の一対のITO電極21、22を形成した。これらのITO電極21、22は第1の電極18および第2の電極19に対応する。ITO電極21、22の各部の寸法は図9に示す通りである。ITO電極21、22の厚さは100nmである。図10に示すように、これらのITO電極21、22のそれぞれの先端部はくし型電極部21a、22aを有し、これらのくし型電極部21a、22aが互いに噛み合って、所定の距離離れて互いに対向している。このくし型電極部21a、22aにおける電極ピッチは20μm、電極間距離は10μmである。くし型電極部21a、22aの全体の面積は4mm×4mm=16mm2 である。
【0076】
ウマ心筋シトクロムcの中心金属の鉄を亜鉛で置換した亜鉛置換シトクロムcを調製した。この亜鉛置換シトクロムcを水に溶かして0.73mMのタンパク質溶液を調製した。また、ポリアニリンスルホン酸(PASA)を水に溶かして5.1mg/mLのPASA溶液を調製した。
【0077】
こうして調製したPASA溶液を水酸化ナトリウム(NaOH)で中和してPASAナトリウム塩溶液を得た。PASAナトリウム塩は下記の式で表される。
【化21】

次に、こうして調製されたPASAナトリウム塩溶液を上記のタンパク質溶液に添加してタンパク質−ポリマー水溶液を調製した。このタンパク質−ポリマー水溶液における亜鉛置換シトクロムcとPASAナトリウム塩との重量比は10:1である。このタンパク質−ポリマー水溶液の亜鉛置換シトクロムcの濃度は約0.6mMであった。次に、こうして調製したタンパク質−ポリマー水溶液をディッピング法により、くし型電極部21a、22a上に塗布した。ディッピング後、ITO電極21、22を真空中に約3時間保持することにより水を除去した。その後、ITO電極21、22を試験前に一晩乾燥容器中に保管した。
【0078】
この光電変換素子を用いて室温で波長380〜600nmの光電流アクションスペクトルを測定した。ITO電極21、22間に印加する電圧は−1000mVから+1000mV間で250Vずつ変化させた。得られた光電流アクションスペクトルを図11Aに示す。光電流アクションスペクトルの極大は、亜鉛置換シトクロムcの溶液吸収スペクトルと同様、408、540、578nmに見られ、これは、電気伝導度の変化は亜鉛置換シトクロムcに由来することを示す。波長を408nmに固定したときの光電流Ip のバイアス電圧依存性を図11Bに示す。図11Bに示すバイアス電圧依存性は光伝導体の性質を示している。図11Bのバイアス電圧依存性はまた、この光電変換素子の光に対する感度をバイアス電圧の調節によって変化させることができることを示す。このため、例えば、微弱光を検出する際には、バイアス電圧を大きくして感度を高くし、逆に強い光を検出する際には、バイアス電圧を小さくして感度を低くすることにより、増幅器の飽和を防ぐことができる。
【0079】
光伝導体17において、色素12aを含むタンパク質12を用いることによる利点を検証するために、比較実験を行った。そのために、導電性ポリマーおよび/または高分子半導体11と色素12aとの複合体をくし型電極部21a、22a上に形成した試料(試料1)と、導電性ポリマーおよび/または高分子半導体11とタンパク質12との複合体をくし型電極部21a、22a上に形成した試料(試料2)とを作製した。
【0080】
導電性ポリマーおよび/または高分子半導体11と色素12aとの複合体をくし型電極部21a、22a上に形成した試料1は次のようにして作製した。
【0081】
色素12aとして亜鉛プロトポルフィリン(ZPP)を1−メチル−2−ピロリドン(NMP)に溶かして2mg/mLの色素溶液を調製した。また、ポリアニリン(PANI)をNMPに溶かして2mg/mLのPANI溶液を調製した。次に、このPANI溶液を上記の色素溶液に添加して色素−ポリマー水溶液を調製した。この色素−ポリマー水溶液におけるZPPとPANIとの重量比は10:1である。次に、こうして調製した色素−ポリマー水溶液をPANI濃度が0.24mg/mLとなるように希釈した後、ディッピング法により、くし型電極部21a、22a上に塗布した。ディッピング後、ITO電極21、22を真空中に48時間保持することにより水およびNMPを除去した。その後、ITO電極21、22を試験前に一晩乾燥容器中に保管した。
【0082】
導電性ポリマーおよび/または高分子半導体11とタンパク質12との複合体をくし型電極部21a、22a上に形成した試料2は次のようにして作製した。
【0083】
亜鉛置換シトクロムcを水に溶かして0.73mMのタンパク質溶液を調製した。また、ポリアニリン(PANI)をNMPに溶かして2mg/mLのPANI溶液を調製した。次に、このPANI溶液を上記のタンパク質溶液に添加してタンパク質−ポリマー水溶液を調製した。このタンパク質−ポリマー水溶液における亜鉛置換シトクロムcとPANIとの重量比は10:1である。次に、こうして調製したタンパク質−ポリマー水溶液をPANI濃度が0.24mg/mLとなるように希釈した後、ディッピング法により、くし型電極部21a、22a上に塗布した。ディッピング後、電極を真空中に48時間保持することにより水およびNMPを除去した。その後、ITO電極21、22を試験前に一晩乾燥容器中に保管した。
【0084】
試料1、2を用いて室温で波長380〜600nmの光電流アクションスペクトルを測定した。ITO電極21、22間に印加する電圧は100mV、200mV、400mV、800mV、1600mVに変えた。試料1、2について得られた光電流アクションスペクトルをそれぞれ図12および図13に示す。図12に示すように、試料1では、ソーレー帯(428nm)のピークおよびQ帯のピーク(550nmおよび580nm)が観察される。また、図13に示すように、試料2では、ソーレー帯(408nm)のピークおよびQ帯のピーク(550nmおよび580nm)が観察される。
【0085】
試料1、2から得られる光電流Ip のバイアス電圧依存性を図14Aに、試料1、2のオン/オフ比のバイアス電圧依存性を図14Bに示す。図14AおよびBから明らかなように、導電性ポリマーおよび/または高分子半導体11とタンパク質12との複合体を用いた試料2は、導電性ポリマーおよび/または高分子半導体11と色素12aとの複合体を用いた試料1と比べて、光電流値およびオン/オフ比とも、格段に優れている。
【0086】
導電性ポリマーおよび/または高分子半導体11とタンパク質12との複合体からなる光伝導体17を用いた試料2に正負のバイアス電圧を印加したときの挙動を確認するために、−800mV〜+800mVのバイアス電圧をITO電極21、22間に印加した。そのときの光電流アクションスペクトルを図15に示す。図15から明らかなように、ITO電極21、22間に印加するバイアス電圧が+800mVのときと−800mVのときとで光電流の符号が逆で対称的になっている。
【0087】
〈フォトセンサーアレイへの適用〉
この光電変換素子のフォトセンサーアレイへの適用例について説明する。
図16Aはこのフォトセンサーアレイを示す。図16Aに示すように、このフォトセンサーアレイにおいては、例えばガラス基板などの基板25上に二次元アレイ状(マトリックス状)にフォトセンサーPが設けられている。ここでは、4×4配列で合計16個のフォトセンサーPが設けられている場合について説明するが、これに限定されるものではなく、フォトセンサーPの配列パターンや個数などは必要に応じて選択される。各フォトセンサーPの拡大図を図16Bに示す。図16Bに示すように、各フォトセンサーPにおいては、例えばITOなどからなる電極26、27に設けられたくし型電極部26a、27aが互いに噛み合って、所定の距離離れて互いに対向している。図示は省略するが、各フォトセンサーPにおいては、くし型電極部26a、27aを覆うように、かつこれらのくし型電極部26a、27aと電気的に接続されて光伝導体17が設けられている。図16Aに示すように、第1列の各フォトセンサーPの電極26には配線W1 が接続され、第2列の各フォトセンサーPの電極26には配線W2 が接続され、第3列の各フォトセンサーPの電極26には配線W3 が接続され、第4列の各フォトセンサーPの電極26には配線W4 が接続されている。また、第1行の各フォトセンサーPの電極27には配線W5 が接続され、第2行の各フォトセンサーPの電極27には配線W6 が接続され、第3行の各フォトセンサーPの電極27には配線W7 が接続され、第4行の各フォトセンサーPの電極27には配線W8 が接続されている。配線W1 〜W4 はそれぞれ電極E1 〜E4 に接続されている。また、配線W5 〜W8 はそれぞれ電極E5 〜E8 に接続されている。基板25の形状および大きさは必要に応じて選ばれるが、一例を挙げると、形状は長方形、大きさは15mm×25mmである。また、互いに隣接する二つのフォトセンサーP間の距離は必要に応じて選ばれるが、一例を挙げると、0.2225mmである。配線W1 〜W8 および電極E1 〜E8 の材料は必要に応じて選ばれるが、例えば、Al、Cr、Auなどである。
【0088】
〈光伝導体17に導電性ポリマーおよび/または高分子半導体11に加えて他のポリマーを添加した例〉
導電性ポリマーおよび/または高分子半導体11に加えて他のポリマーを添加したときの影響を検証するために、導電性ポリマーおよび/または高分子半導体11としてMEH−PPV、他のポリマーとして下記の構造式で表されるPMMAを用いた。
【化22】

実験の都合上、タンパク質12の代わりに[6,6]−フェニル−C61−酪酸メチルエステル([6,6 ]-Phenyl-C61-Butyric Acid Methyl Ester,PCBM)を用いた。これらのMEH−PPV、PMMAおよびPCBMを用いて光伝導体を形成した。PCBMを用いることにより、光伝導体の形成時に150℃以上の温度で乾燥を行うことができることから、光伝導体の形成に要する時間の大幅な短縮を図ることができる。この光伝導体を用いて図9に示すものと同様な光電変換素子を形成した。PMMAの添加量を変えて光伝導体を形成し、光電変換素子を形成した。これらの光電変換素子のITO電極21、22間に8Vのバイアス電圧を印加した状態で波長550nmの光を照射し、光電流Ip を測定した。その結果を図17に示す。図17の横軸は光伝導体におけるPMMAに対する(MEH−PPV+PCBM)の質量比である。図17から分かるように、(MEH−PPV+PCBM)/PMMA質量比が約8以上、言い換えると、光伝導体に占めるPMMAの質量の割合が約11%以下では光電流Ip はほぼ一定であり、PMMAの添加による光電流Ip の減少は観測されない。
【0089】
以上のように、この第3の実施の形態によれば、第1の実施の形態による新規な光伝導体17を用いることにより、新規な光電変換素子を実現することができる。この光電変換素子では、光伝導体17のタンパク質12同士で電子と正孔とが再結合により消滅するのを防止することができるため、従来のフォトダイオードに比べて高い光電変換効率を得ることができる。さらに、従来のフォトダイオードでは光電変換効率は100%が限界であるのに対し、この光電変換素子では、100%を超える光電変換効率を得ることが可能である。また、従来のフォトダイオードは逆バイアスで動作させるために光電変換効率を調整することはできなかったのに対し、この光電変換素子によれば、第1の電極18と第2の電極19との間に印加するバイアス電圧により光電変換効率を容易に調整することができる。また、この光電変換素子では、暗電流の大幅な低減を図ることができる。また、光伝導体17はフレキシブルに構成することができるため、この光電変換素子もフレキシブルに構成することができ、基板を用いる場合でもフレキシブルな基板を用いることにより光電変換素子をフレキシブルに構成することができる。また、光伝導体17の形状および大きさは自在に選ぶことができるため、この光電変換素子の形状および大きさも自在に選ぶことができ、大面積の光電変換素子も容易に実現することができる。
【0090】
〈4.第4の実施の形態〉
[多層透明光電変換素子]
図18は第4の実施の形態による多層透明光電変換素子を示す。
【0091】
図18に示すように、この多層透明光電変換素子は、互いに積層されたN層(Nは2以上の整数)の透明光電変換素子31により構成されている。透明光電変換素子22は、第3の実施の形態による光電変換素子と同様な構成を有し、第1の電極18および第2の電極19が透明であり、基板上に形成されている場合にはその基板も透明である。透明光電変換素子31の積層数Nは、この多層透明光電変換素子の用途に応じて適宜選ぶことができる。また、この多層透明光電変換素子および透明光電変換素子31の平面形状、大きさおよび厚さも適宜選ぶことができる。
【0092】
図18においては、各透明光電変換素子31はいずれも平坦な表面形状を有するように描かれているが、各透明光電変換素子31の表面形状は任意であり、例えば凹面、凸面、凹凸面などのいずれであってよい。
【0093】
[多層透明光電変換素子の製造方法]
この多層透明光電変換素子を製造するには、透明光電変換素子31を必要な数だけ積層し、この際、必要に応じて、透明接着剤などにより透明光電変換素子31同士を接着する。
【0094】
[多層透明光電変換素子の動作]
この多層透明光電変換素子の各透明光電変換素子31の光伝導体17にそのタンパク質12の色素12aに応じた波長の光が入射すると、光励起により色素12aから電子−正孔対が発生し、電子または正孔が導電性ポリマーおよび/または高分子半導体11に注入される。そして、第1の電極18と第2の電極19とから外部に光電流が取り出される。
【0095】
この第4の実施の形態によれば、光伝導体17を用いた新規な透明光電変換素子31が多層に積層された多層透明光電変換素子を実現することができる。
【0096】
この多層透明光電変換素子は、光電変換を利用する各種の装置や機器などに用いることができ、具体的には、例えば、受光部を有する電子機器などに用いることができる。このような電子機器は、基本的にはどのようなものであってもよく、携帯型のものと据え置き型のものとの双方を含む。例えば、後述のように、一つのレンズを用いて互いに異なる位置にある複数の被写体に焦点を同時に合わせることができるカメラを実現することができる。これは一度に立体映像を再現する情報を一眼で取得することができることを示しており、よりシンプルでコンパクトなステレオカメラを実現することができる。また、この多層透明光電変換素子を用いることにより、一眼でのマルチフォーカス化や高速フォーカス化も可能となる。さらに、多層光ディスクを用いる光ディスクシステムやホログラフィック記録媒体を用いる光記録再生システムの受光素子としてこの多層透明光電変換素子を用いることにより、多層光ディスクの並列読み出し(パラレルリードアウト)やホログラフィック記録媒体の読み出し(リードアウト)を容易に行うことができる。
【0097】
〈5.第5の実施の形態〉
[多層透明光電変換素子]
第5の実施の形態による多層透明光電変換素子は、透明光電変換素子31のタンパク質12として新規な電子伝達タンパク質を用いることを除いて、第4の実施の形態による多層透明光電変換素子と同様な構成を有する。
【0098】
この新規な電子伝達タンパク質は、哺乳類由来のシトクロムcのヘムの中心金属の鉄をスズに置換したスズ置換シトクロムc、または、哺乳類由来のシトクロムcのアミノ酸配列において1もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列からなり、スズを含むタンパク質である。ここで、哺乳類由来のシトクロムcとしては、例えば、ウマ心筋シトクロムcまたはウシ心筋シトクロムcが挙げられる。これらの新規な電子伝達タンパク質は、光照射に対する安定性が極めて高く、光電変換機能を長期にわたって維持することができる。
スズ置換シトクロムcの詳細および調製方法について説明する。
【0099】
〈スズ置換シトクロムc〉
表1にウマ心筋シトクロムc(CYC HORSEと表示)およびウシ心筋シトクロムc(CYC BOVINと表示)のアミノ酸配列(一文字記号)を示す。表1に示すように、ウシ心筋シトクロムcとウマ心筋シトクロムcとは全104アミノ酸残基中、3残基だけが異なる。ウマ心筋シトクロムcのThr47、Lys60、Thr89が、ウシ心筋シトクロムcではSer47、Gly60、Gly89にそれぞれ置換されている。
【0100】
表1

sp:CYC_HORSE 001 GDVEKGKKIFVQKCAQCHTVEKGGKHKTGP
sp:CYC_BOVIN 001 GDVEKGKKIFVQKCAQCHTVEKGGKHKTGP
47 60
sp:CYC_HORSE 031 NLHGLFGRKTGQAPGFTYTDANKNKGITWK
sp:CYC_BOVIN 031 NLHGLFGRKTGQAPGFSYTDANKNKGITWG
89
sp:CYC_HORSE 061 EETLMEYLENPKKYIPGTKMIFAGIKKKTE
sp:CYC_BOVIN 061 EETLMEYLENPKKYIPGTKMIFAGIKKKGE

sp:CYC_HORSE 091 REDLIAYLKKATNE 104
sp:CYC_BOVIN 091 REDLIAYLKKATNE 104
【0101】
ウシ心筋シトクロムcは、ウマ心筋シトクロムcに比べて、熱、変性剤(グアニジン塩酸塩)に対するタンパク質部の安定性が高いことが知られている(非特許文献1、2)。表2にウマ心筋シトクロムcおよびウシ心筋シトクロムcの変性中点温度T1/2 および変性中点濃度[Gdn−HCl]1/2 を示す。変性中点温度T1/2 は系にある全タンパク質中、変性タンパク質の占める割合が半分(1/2)になるときの温度である。また、変性中点濃度[Gdn−HCl]1/2 は系にある全タンパク質中、変性タンパク質の占める割合が半分(1/2)になるときのグアニジン塩酸塩(Gdn−HCl)の濃度である。T1/2 および[Gdn−HCl]1/2 の数値が高いほど安定である。
【0102】
【表2】

【0103】
〈スズ置換シトクロムcの調製〉
スズ置換ウマ心筋シトクロムcおよびスズ置換ウシ心筋シトクロムcを次のようにして調製した。比較実験用に亜鉛置換ウマ心筋シトクロムcおよび亜鉛置換ウシ心筋シトクロムcも調製した。
【0104】
ウマ心筋シトクロムcおよびウシ心筋シトクロムcとしては、ともにSigma社製のものを使用した。
【0105】
以下においては、スズ置換ウマ心筋シトクロムcの調製方法を主に説明するが、スズ置換ウシ心筋シトクロムc、亜鉛置換ウマ心筋シトクロムcおよび亜鉛置換ウシ心筋シトクロムcの調製方法も同様である。なお、ウマ心筋シトクロムcまたはウシ心筋シトクロムcのアミノ酸配列において1もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列からなり、スズを含むタンパク質も、ランダムミューテーション、化学修飾などの技術を適宜用いて同様に調製可能である。
【0106】
ウマ心筋シトクロムc粉末100mgに70%フッ酸/ピリジンを6mL加え、室温で10分インキュベートすることにより、ウマ心筋シトクロムcからヘムの中心金属の鉄を抜く。こうして鉄を抜いたウマ心筋シトクロムcに50mM酢酸アンモニウム緩衝液(pH5.0)を9mL加えて、反応停止後、ゲルろ過カラムクロマトグラフィー(カラム体積:150mL、樹脂:Sephadex G−50、展開溶媒:50mM酢酸ナトリウム緩衝液(pH5.0))により、中心金属の抜けた金属フリーウマ心筋シトクロムcを得る。
【0107】
この金属フリーウマ心筋シトクロムc溶液を可能な限り濃縮し、これに氷酢酸を加えてpH2.5(±0.05)とする。こうして得られた溶液に塩化スズ粉末約25mgを加えて、遮光下、50℃で30分インキュベートする。この過程で塩化スズの代わりに酢酸亜鉛または塩化亜鉛を加えると亜鉛置換体が得られる。10分毎に紫外可視吸収スペクトルを測定し、タンパク質の波長280nmにおける吸収ピークとスズポルフィリン由来の波長408nmにおける吸収ピークとの比が一定になるまでインキュベーションを続ける。
【0108】
これ以降の操作は全て遮光下で行う。上記の最終的に得られた溶液に飽和二リン酸−水素ナトリウム溶液を加えてpHを中性(6.0<)にした後、10mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH7.0)への緩衝液交換を行う。その後、陽イオン交換カラムクロマトグラフィー(カラム体積:40mL、樹脂:SP−Sephadex Fast Flow、溶出:10〜150mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH7.0)の直線濃度勾配)により単量体の画分を回収する。こうしてスズ置換ウマ心筋シトクロムcが調製される。
【0109】
上記のようにして調製されたスズ置換ウマ心筋シトクロムc、スズ置換ウシ心筋シトクロムc、亜鉛置換ウマ心筋シトクロムcおよび亜鉛置換ウシ心筋シトクロムcの紫外可視吸収スペクトルの測定結果を図19〜図22に示す。以下においては、必要に応じて、スズ置換ウマ心筋シトクロムcをSnhhc、スズ置換ウシ心筋シトクロムcをSnbvc、亜鉛置換ウマ心筋シトクロムcをZnhhc、亜鉛置換ウシ心筋シトクロムcをZnbvcと略記する。図19〜図22に示すように、亜鉛置換ウマ心筋シトクロムcおよび亜鉛置換ウシ心筋シトクロムcは波長280、346、423、550、584nmに吸収極大を持つのに対して、スズ置換ウマ心筋シトクロムcおよびスズ置換ウシ心筋シトクロムcは波長280、409、540、578nmに吸収極大を持ち、δ帯(346nm付近)を持たない。
【0110】
〈金属置換シトクロムcの光照射分解実験〉
上記の4種類の金属置換シトクロムc、すなわちスズ置換ウマ心筋シトクロムc、スズ置換ウシ心筋シトクロムc、亜鉛置換ウマ心筋シトクロムcおよび亜鉛置換ウシ心筋シトクロムcの光照射分解実験を以下のようにして行った。
【0111】
約4μMの金属置換シトクロムc(10mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH7.0)に溶解)1mLをキュベットに入れ、亜鉛置換体には波長420nm(強度1255μW)、スズ置換体には波長408nm(強度1132μW)の光を暗室中、室温で照射した。30分毎に波長240〜700nmの紫外可視吸収スペクトルを測定した。その結果を図23〜図26に示す。図25および図26中の矢印は、スペクトルの変化方向を示す。
【0112】
図25および図26より、亜鉛置換ウマ心筋シトクロムcおよび亜鉛置換ウシ心筋シトクロムcは、時間の経過とともに急速に光分解が進むことが分かる。これに対して、図23および図24より、スズ置換ウマ心筋シトクロムcおよびスズ置換ウシ心筋シトクロムcは、時間が経過した後のスペクトルは初期のスペクトルとほとんど重なっており、時間が経過しても光分解がほとんど起きていないことが分かる。図23〜図26に示す紫外可視吸収スペクトルにおけるSoret帯(亜鉛(Zn):423nm、スズ(Sn):409nm)の吸光度から、ミリモル吸光係数ε(Zn:243000M-1cm-1、Sn:267000M-1cm-1、数値は非特許文献3より引用)を用いて、濃度(M)を算出し、その逆数を時間(秒(s))に対してプロットし、その傾きから光分解速度定数kを算出した。スズ置換ウマ心筋シトクロムcおよびスズ置換ウシ心筋シトクロムcの濃度の逆数(1/C)−時間(t)プロットを図27に、亜鉛置換ウマ心筋シトクロムcおよび亜鉛置換ウシ心筋シトクロムcの濃度の逆数(1/C)−時間(t)プロットを図28に示す。図27および図28において、直線は二次反応式(1/C=kt+1/C0 )のフィッティング曲線である。ここで、C0 は初期濃度である。この直線の傾きが光分解速度定数kとなる。図27および図28中に記載した直線を表す一次式においてはtをx、1/Cをyで表した。
【0113】
2回の実験の平均から上記の4種類の金属置換シトクロムcの光分解速度定数kを求めた。その結果、光分解速度定数kは、スズ置換ウマ心筋シトクロムcは1.39±0.13M-1-1、スズ置換ウシ心筋シトクロムcは0.90±0.20M-1-1、亜鉛置換ウマ心筋シトクロムcは67.2±1.4M-1-1、亜鉛置換ウシ心筋シトクロムcは56.1±1.0M-1-1であった。この結果から、スズ置換ウマ心筋シトクロムc、スズ置換ウシ心筋シトクロムcともに、亜鉛置換ウマ心筋シトクロムcおよび亜鉛置換ウシ心筋シトクロムcに比べて光分解速度が50〜60倍遅く、光照射に対して極めて安定であることが分かった。また、亜鉛置換体、スズ置換体ともに、ウマ心筋シトクロムcに比べてウシ心筋シトクロムcの方が光分解速度は1.2〜1.5倍遅く、光照射に対して安定であることも分かった。特に、スズ置換ウシ心筋シトクロムcは、特許文献1において用いられた亜鉛置換ウマ心筋シトクロムcに比べ、光照射に対して75倍も安定である。
【0114】
〈金属置換シトクロムcの光電流発生実験〉
光電流発生実験に用いるタンパク質固定化電極を次のようにして作製した。
図29に示すように、大きさが15.0mm×25.0mmで厚さが1mmのガラス基板41上に所定形状のITO電極42を形成した。ITO電極42の各部の寸法は図29に示す通りである。ITO電極42の厚さは100nmである。このITO電極42は作用極となる。照射領域43の大きさは4.0mm×4.0mmである。この照射領域43におけるITO電極42上に50μMの金属置換シトクロムc溶液(10mM Tris−HCl(pH8.0)に溶解)10μLでドロップを作製し、4℃、二日間放置した。こうしてタンパク質固定化電極を作製した。
【0115】
このタンパク質固定化電極を0.25mMフェロシアン化カリウムを含む10mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH7.0)27mLに浸し、対極として白金メッシュ、参照極として銀/塩化銀電極を用い、特許文献1の図4に示す光電流測定装置を用いて、銀/塩化銀電極に対する電位を120mVとして波長380〜600nmの光電流アクションスペクトルを測定した。この測定に際しては、待機時間を900秒、測定時間を60秒、電流レンジを10nA、フィルターの周波数を30Hz、時間分解能を50msとした。4種類の金属置換シトクロムcのそれぞれにつき5枚、電極を作製して測定を行った。
【0116】
得られた光電流アクションスペクトルを図30に示す。光電流アクションスペクトルの極大は溶液吸収スペクトルと同様、408、540、578nmに見られた。図30より、Soret帯(408nm)とQ帯(540nm)との強度比が10:1であることから、スズ置換ウマ心筋シトクロムcおよびスズ置換ウシ心筋シトクロムcの光電流発生機構は、亜鉛置換ウマ心筋シトクロムcと同様にホールトランスファー(hole transfer)タイプであると考えられる(非特許文献4)。Soret帯における光電流値平均値グラフ(サンプル数=5)を図31に示す。図31より、ウマ、ウシともにスズ置換シトクロムcは亜鉛置換ウマ心筋シトクロムcと同様の光電流(10nA)を発生することが分かった。
【0117】
〈金属置換シトクロムcの蛍光量子収率〉
金属置換シトクロムcの異なる濃度の希薄溶液を用意し、波長380〜440nmの紫外可視吸収スペクトル、波長500〜700nmの蛍光スペクトル(励起波長409nm)を測定した。その結果を図32および図33に示す。
【0118】
図34および図35に示すように、波長409nmにおける吸光度を横軸(x軸)に、波長560〜670nm間の積分蛍光強度を縦軸(y軸)にとり、各データをプロットして直線近似曲線を描いた。こうして得られた直線の傾きが蛍光量子収率となる。図33に示す蛍光スペクトルにおいて波長560〜670nm間の面積を積分蛍光強度(任意単位(a.u.))とした。亜鉛置換ウマ心筋シトクロムcの直線の傾き、すなわち蛍光量子収率を1.0としたときの各金属置換シトクロムcの相対蛍光量子収率Φを算出した。その結果を表3に示す。表3から分かるように、スズ置換体の蛍光強度は、亜鉛置換体の蛍光強度のおよそ1/7〜1/8である。このスズ置換体における励起電子の寿命の短さが、光照射時のラジカル発生を抑え、安定化に寄与していると考えられる。
【0119】
【表3】

【0120】
以上のように、スズ置換ウマ心筋シトクロムcおよびスズ置換ウシ心筋シトクロムcとも、光照射に対する安定性が亜鉛置換ウマ心筋シトクロムcおよび亜鉛置換ウシ心筋シトクロムcに比べて極めて高い。このため、スズ置換ウマ心筋シトクロムcまたはスズ置換ウシ心筋シトクロムcを用いることにより、長期安定利用可能な新規な透明光電変換素子31を実現することが可能となる。この透明光電変換素子31は光センサーや撮像素子などに用いることができる。
【0121】
[多層透明光電変換素子の製造方法]
この多層透明光電変換素子は第4の実施の形態と同様にして製造することができる。
【0122】
[多層透明光電変換素子の動作]
この多層透明光電変換素子の動作は第4の実施の形態と同様である。
【0123】
以上のように、この第5の実施の形態によれば、タンパク質12として、高い光照射安定性を有するスズ置換ウマ心筋シトクロムcまたはスズ置換ウシ心筋シトクロムcを用いていることにより、タンパク質12が長時間の光照射によっても劣化することがなく、長期安定利用可能な新規な透明光電変換素子31、従って多層透明光電変換素子を実現することができる。
【0124】
この多層透明光電変換素子は、第4の実施の形態による多層透明光電変換素子と同様に、光電変換を利用する各種の装置や機器などに用いることができ、具体的には、例えば、受光部を有する電子機器などに用いることができる。
【0125】
例えば、後述のように、一つのレンズを用いて互いに異なる位置にある複数の被写体に焦点を同時に合わせることができるカメラを実現することができる。また、この多層透明光電変換素子を用いることにより、一眼でのマルチフォーカス化や高速フォーカス化も可能となる。さらに、多層光ディスクを用いる光ディスクシステムやホログラフィック記録媒体を用いる光記録再生システムの受光素子としてこの多層透明光電変換素子を用いることにより、多層光ディスクの並列読み出しやホログラフィック記録媒体の読み出しを容易に行うことができる。
【0126】
〈6.第6の実施の形態〉
[多層透明光電変換素子]
第6の実施の形態による多層透明光電変換素子は、透明光電変換素子31のタンパク質12として新規な電子伝達タンパク質を用いることを除いて、第4の実施の形態による多層透明光電変換素子と同様な構成を有する。
【0127】
この新規な電子伝達タンパク質は、哺乳類由来のシトクロムcのヘムの中心金属の鉄を亜鉛およびスズ以外の金属に置換し、蛍光励起寿命τが5.0×10-11 s<τ≦8.0×10-10 sである金属置換シトクロムc、または、哺乳類由来のシトクロムcのアミノ酸配列において1もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列からなり、亜鉛およびスズ以外の金属を含み、蛍光励起寿命τが5.0×10-11 s<τ≦8.0×10-10 sであるタンパク質である。ここで、哺乳類由来のシトクロムcとしては、例えば、ウマ心筋シトクロムcまたはウシ心筋シトクロムcが挙げられる。これらの新規な電子伝達タンパク質は、光照射に対する安定性が極めて高く、光電変換機能を長期にわたって維持することができる。
【0128】
〈金属置換シトクロムc〉
ウマ心筋シトクロムcおよびウシ心筋シトクロムcのヘムの中心金属の鉄をスズおよび亜鉛以外の金属に置換した金属置換ウマ心筋シトクロムcおよび金属置換ウシ心筋シトクロムcについて説明する。
【0129】
これらの金属置換ウマ心筋シトクロムcおよび金属置換ウシ心筋シトクロムcに用いられる金属の例を表4に示す。この金属を中心金属として含むポルフィリンは蛍光を発することが知られている(非特許文献5)。表4において、各元素記号の下に記載されている数値は金属オクタエチルポルフィリンで測定したりん光寿命を示す。
【0130】
【表4】

【0131】
表4よりスズ(Sn)ポルフィリンのりん光寿命は30msであるが、りん光寿命がこれと同等またはこれより短い金属ポルフィリンは、光照射によりタンパク質やポルフィリン環部分にダメージを与えないと考えられる。表4よりこれらの金属は、ベリリウム(Be)、ストロンチウム(Sr)、ニオブ(Nb)、バリウム(Ba)、ルテチウム(Lu)、ハフニウム(Hf)、タンタル(Ta)、カドミウム(Cd)、アンチモン(Sb)、トリウム(Th)、鉛(Pb)などである。
【0132】
そこで、ウマ心筋シトクロムcおよびウシ心筋シトクロムcのヘムの中心金属の鉄をこれらの金属に置換する。この置換には第5の実施の形態で述べたものと同様の方法を用いることができる。
【0133】
こうして得られる金属置換ウマ心筋シトクロムcおよび金属置換ウシ心筋シトクロムcは光照射に対して、スズ置換ウマ心筋シトクロムcおよびスズ置換ウシ心筋シトクロムcと同等に安定であり、光分解がほとんど起こらない。
【0134】
ここで、金属置換ウマ心筋シトクロムcおよび金属置換ウシ心筋シトクロムcに必要とされる蛍光励起寿命の範囲について説明する。
【0135】
亜鉛置換ウマ心筋シトクロムcの分子内ホールトランスファー速度(非特許文献4)は次の通りである。分子軌道(MO)の番号として非特許文献4に準じた分子軌道番号を用いると、MO3272−MO3271間の遷移では1.5×1011-1、MO3268−MO3270間の遷移では2.0×1010-1である。そこで、分子内ホールトランスファー速度の下限を後者の2.0×1010-1とする。
【0136】
スズ置換ウマ心筋シトクロムcの蛍光励起寿命(非特許文献3)は8.0×10-10 sである。亜鉛置換ウマ心筋シトクロムcの蛍光励起寿命は3.2×10-10 sである。
【0137】
スズ置換ウマ心筋シトクロムcの電子励起1回の間の分子内ホールトランスファー回数は、MO3272−MO3271間の遷移では(1.5×1011-1)×(8.0×10-10 s)=120回、MO3268−MO3270間の遷移では(2.0×1010-1)×(8.0×10-10 s)=16回である。そこで、電子励起1回の間の分子内ホールトランスファー回数の下限を後者の16回とする。
【0138】
この場合、ホールトランスファーを最低1回起こすのに必要な蛍光励起寿命は8.0×10-10 s/16=5.0×10-11 sである。
【0139】
以上より、光照射により、タンパク質部あるいはポルフィリンにダメージを与えず、かつホールトランスファーが起こるために必要な金属置換ウマ心筋シトクロムcおよび金属置換ウシ心筋シトクロムcの蛍光励起寿命(τ)の範囲は5.0×10-11 s(最低1回ホールトランスファーを起こすのに必要な蛍光励起寿命)<τ≦8.0×10-10 s(スズ置換ウマ心筋シトクロムcの蛍光励起寿命)である。
【0140】
この第6の実施の形態によれば、透明光電変換素子31のタンパク質12として金属置換ウマ心筋シトクロムcまたは金属置換ウシ心筋シトクロムcを用いていることにより、スズ置換ウマ心筋シトクロムcおよびスズ置換ウシ心筋シトクロムcを用いた第5の実施の形態による多層透明光電変換素子と同様な利点を得ることができる。
【0141】
〈7.第7の実施の形態〉
[多層透明光電変換素子]
第7の実施の形態による多層透明光電変換素子は、N層の透明光電変換素子31を積層した構成を有するのは第4の実施の形態による多層透明光電変換素子と同じであるが、透明光電変換素子31からなる画素が面内において多数集積形成されている点が第4の実施の形態と異なる。
【0142】
すなわち、図36に示すように、この多層透明光電変換素子においては、例えばN番目の透明基板60と(N−1)番目の透明基板41との間に透明なスペーサ61が設けられており、このスペーサ61の厚さによりこれらの透明基板60の間隔が規定されている。スペーサ61とスペーサ61との間の空間に透明光電変換素子31からなる画素62が設けられており、この画素62が面内に二次元マトリクス状に多数配列されている。この画素62が配列された面が受光面を構成し、この受光面が合計N段存在する。
【0143】
この集積型多層透明光電変換素子における各画素62からの信号の取り出しや処理などには従来公知の技術を用いることができる。例えば、m行n列の二次元マトリクス状に配列された各画素62の上下の電極と接続されるように、行方向および列方向に配線を形成しておく。そして、例えば、選択された列のm個の画素62からの信号を読み出すためには、この列の画素62の一方の電極に接続された配線にだけ所定のバイアス電圧を印加し、このときm行の画素62の他方の電極に接続された配線に流れる光電流を検出する。
【0144】
この第7の実施の形態によれば、第4の実施の形態と同様な利点を得ることができる。また、この集積型多層透明光電変換素子は、第4の実施の形態による多層透明光電変換素子と同様な応用が可能である。
【0145】
〈8.第8の実施の形態〉
[多層透明光電変換素子]
図37に示すように、この第8の実施の形態による多層透明光電変換素子においては、例えばN番目の透明基板60と(N−1)番目の透明基板60との間に高さが可変で透明なスペーサ61が設けられており、このスペーサ61の厚さによりこれらの透明基板60の間隔が規定されている。そして、スペーサ61とスペーサ61との間の空間に透明光電変換素子31からなる画素62が設けられており、この画素62が面内に二次元マトリクス状に多数配列されている。この画素62が配列された面が受光面を構成し、この受光面が合計N段存在する。この場合、この透明光電変換素子31からなる画素62の厚さはスペーサ61の厚さよりも小さく、しかもこの透明光電変換素子31からなる画素62の幅はスペーサ61とスペーサ61との間の空間の幅よりも小さく、透明基板60とこの画素62との間およびスペーサ61とこの画素62との間には隙間が存在している。このように透明基板11と画素62との間およびスペーサ61と画素62との間に隙間が存在するため、この多層透明光電変換素子をフレキシブルに構成することができる。
【0146】
この集積型多層透明光電変換素子における各画素62からの信号の取り出しや処理などには従来公知の技術を用いることができる。
【0147】
この第8の実施の形態によれば、第4の実施の形態と同様な利点を得ることができる。また、この集積型多層光電変換素子は、第4の実施の形態による多層透明光電変換素子と同様な応用が可能である。
【0148】
〈9.第9の実施の形態〉
[立体イメージングシステム]
第9の実施の形態による立体イメージングシステムにおいては、光センサーとして第7または第8の実施の形態による集積型多層透明光電変換素子を備えたカメラを用いる。このカメラはデジタルカメラやビデオカメラなどである。
【0149】
このカメラは、このカメラの撮像光学系の光軸方向が、集積型多層透明光電変換素子の透明光電変換素子31からなる画素62の積層方向と一致するように構成されている。こうすることで、このカメラでは、集積型多層透明光電変換素子のN段の受光面のそれぞれを被写体を撮影する際の焦点合わせに用いることができる。このため、このカメラから異なる距離にある被写体のいずれにも焦点を合わせて撮像することができる。例えば、図38に示すように、カメラ71から距離d1 の位置に花72があり、距離d2 (d2 >d1 )の位置に山73がある場合、これらの花72および山73をカメラ71により撮影する際、集積型多層透明光電変換素子によりこれらの花72および山73の両方に焦点を合わせることができ、その状態で撮影することができる。そして、集積型多層透明光電変換素子からの信号を処理することにより三次元の画像を得ることができる。この画像では、花72および山73の両方とも鮮明に撮影されており、しかも花72は近くに、山73は遠くに見え、遠近感も十分に得ることができる。
【0150】
カメラ71により撮影された画像をディスプレイに表示する場合について説明する。
第1の例では、カメラ71により撮影されたリアルな三次元画像をディスプレイに表示する。例えば、花71が近くに位置し、山72が遠くに位置するリアルな三次元画像を表示することができる。
【0151】
第2の例では、カメラ71により撮影された三次元画像のうち特に見たい部分を強調して表示する。例えば、図38の例では、カメラ71により撮影された花72および山73を含む三次元画像のうち花72だけを見たい場合には、図39Aに示すように、ディスプレイ74に画像信号の処理により花72だけを鮮明に表示し、山73をぼかして表示することができる。逆に、図39Bに示すように、画像信号の処理により山73だけを鮮明に表示し、花72をぼかすことができる。このようにすることにより、ユーザの希望通りの画像をディスプレイ74に表示することができる。
【0152】
集積型多層透明光電変換素子のN段の受光面のそれぞれを被写体を撮影する際の焦点合わせに用いることができることについて改めて詳細に説明する。
【0153】
図40は集積型多層透明光電変換素子の撮像光学系を示す。撮像光学系には一般には二つ以上のレンズが含まれるが、ここでは説明を簡単にするため一つのレンズLだけがあるとする。像面I1 〜IN は集積型多層透明光電変換素子のN段の受光面に対応する。いま、レンズLから互いに異なる距離にある物体O1 、O2 を考える。レンズLによる物体O1 の像は像面I2 に結像し(像点O1 ´)、物体O2 の像は像面I1 に結像する(像点O2 ´)。この場合、物体O1 、O2 の両方とも焦点を合わせることができ、それらの鮮明な像を得ることができる。
【0154】
レンズLからの被写体の距離による集積型多層透明光電変換素子における結像面の位置の変化、言い換えれば焦点の位置の変化について説明する。図41に示すように、焦点距離がf0 のレンズLから距離f1 にある物体の像がレンズLから距離f2 の位置に結像する。このとき、レンズ公式より、f1 =f2 0 /(f2 −f0 )が成り立つ。一例として、f0 =5cmの場合を考えると、f1 とf2 との関係は表5のようになり、グラフに表すと図42に示すようになる。
【0155】
【表5】

【0156】
表5および図42から分かるように、レンズLからの被写体の距離f1 が1mから10000mまで変化しても、レンズLから被写体の像までの距離f2 はわずか約0.26cmしか変化しない。この場合、集積型多層透明光電変換素子における1段目の受光面とN段の受光面との間隔は0.3cm以下で足りることになる。
【0157】
レンズLによる被写体の像の結像面が集積型多層透明光電変換素子の受光面と一致していない、言い換えると受光面に焦点が合っていない場合には、各受光面で得られた信号からソフトウエアのアルゴリズムにより被写体の画像を再構成することができる。
【0158】
いま、図43に示すように、レンズLにより結像された被写体の像が、集積型多層透明光電変換素子の受光面R1 〜R3 のうち受光面R1 と受光面R2 との間にあるとする。この場合、受光面R1 〜R3 のそれぞれにおける点像強度分布関数(point spread function)SPF1、SPF2、SPF3の関数F(SPF1、SPF2、SPF3)として被写体の結像面の点像強度分布関数SPFx を求めることができる。この計算はコンピュータにより容易に行うことができる。そして、この点像強度分布関数SPFx を用いて被写体の画像を得ることができ、この画像をディスプレイに表示することができる。
【0159】
例えば放送局においてテレビカメラにより撮影を行う場合にこの技術を用いることにより、放送局から配信される映像信号を用いて三次元テレビで画像を表示する場合、集積型多層透明光電変換素子の受光面からの出力信号に基づいて、表示されている画像のうちユーザーが特に見たい部分のズームインまたはズームアウトを自在に行うことができる。
【0160】
カメラ71を用いることにより、カメラ71から互いに異なる距離にある複数の物体(被写体)の鮮明な画像を同時に得ることができる。例えば、図44に示すように、1列目の人75が地面に立ち、二列目の人76が低い台77の上に立ち、三列目の人78が台77より高い台79の上に立っており、カメラ71によりこれらの人75、76、78を撮影する場合を考える。この場合、カメラ71の多層透明光電変換素子によりこれらの人75、76、78にそれぞれ焦点を合わせることができるので、これらの人75、76、78の鮮明な画像を同時に得ることができる。
【0161】
カメラ71を用いることにより、撮影したい被写体に高速で焦点を合わせることができる。例えば、図45に示すように、サッカーコート79で試合が行われている場合に、試合の様子をカメラ71で撮影する場合を考える。いま、サッカーコート79のA点に焦点が合った状態からB点に焦点を合わせるとする。この場合、通常のカメラを用いた場合にはカメラのレンズを大きく動かす必要があるが、カメラ71を用いた場合には、レンズLをあまり動かさないでもB点に焦点を合わせることができ、焦点合わせを高速で行うことができる。これは次のような理由による。
【0162】
すなわち、図46Aに示すように、最初、サッカーコート79のA点にある物体O1 に焦点が合っていてカメラ71の集積型多層透明光電変換素子の受光面R1 に像O1 ´が結像しており、B点にある物体O2 には焦点が合っておらずカメラ71の集積型多層透明光電変換素子の受光面R2 から少しずれた位置に像O2 ´が結像している。この状態からB点に焦点を合わせる場合、従来のカメラでは、図46Cに示すように、レンズLを像O1 ´と像O2 ´との位置の差に相当する距離Δx2 だけ移動させることにより物体O2 の像O2 ´が受光面に結像するようにする必要がある。これに対し、カメラ71を用いた場合には、図46Bに示すように、像O2 ´が受光面R1 に隣接する受光面R2 に結像するように像O2 ´と受光面R2 との間の距離Δx1 だけ動かすだけでよいので、レンズLの移動距離が小さくて済み、従ってB点への焦点合わせを高速で行うことができる。また、カメラ71をより薄型に構成することができる。
【0163】
カメラ71を用いることにより、高価なアクロマートレンズを用いることなく、色収差を補正することができる。すなわち、図47に示すように、白色光がレンズLに入射した場合、レンズLの色収差により例えば青色光、緑色光および赤色光が異なる面(レンズLからの距離がそれぞれfb 、fg 、fr )で結像しても、カメラ71の集積型多層透明光電変換素子の受光面R1 〜RN のいずれかの受光面でこれらの青色光、緑色光および赤色光を受光することができる。
【0164】
〈10.第10の実施の形態〉
[立体イメージングシステム]
第10の実施の形態による立体イメージングシステムにおいては、光センサーとして第8の実施の形態による集積型多層透明光電変換素子を備えたカメラを用いる。
【0165】
図48に示すように、このカメラ71においては、光センサーとして、湾曲した形状の集積型多層透明光電変換素子80を用いる。そして、この集積型多層透明光電変換素子80の曲率中心の近傍にレンズLを配置する。こうすることで、広い角度範囲にある複数の物体(例えば、物体O1 、O2 )を同時に撮影することができる。
【0166】
〈11.第11の実施の形態〉
[立体イメージングシステム]
第11の実施の形態による立体イメージングシステムにおいては、受光素子として第8の実施の形態による集積型多層透明光電変換素子を備えたカメラを用いる。
【0167】
図49に示すように、このカメラ71においては、受光素子として、円柱面状の集積型多層透明光電変換素子81を用いる。そして、この集積型多層透明光電変換素子81の外周にレンズLを配置する。こうすることで、360°の角度範囲にある物体O1 、O2 を同時に撮影することができ、全方位の立体イメージングシステムを得ることができる。
【0168】
〈12.第12の実施の形態〉
[光ディスクシステム]
図50に第12の実施の形態による光ディスクシステムを示す。
【0169】
図50に示すように、この光ディスクシステムにおいては、N層の記録層を有する多層光ディスク91を用い、N層の透明光電変換素子31を有する多層透明光電変換素子92を用いてこの多層光ディスク91のN層の記録層に記録されたデジタルデータを一括して読み出す。具体的には、図50に示すように、低コヒーレンスの光源93からの光94をビームスプリッタ95により二つに分け、ビームスプリッタ95を透過した光を多層光ディスク91に入射させる。多層光ディスク91に入射した光は各記録層でそれぞれ反射されて多層透明光電変換素子92に入射する。一方、ビームスプリッタ95で反射された光はミラー96、97で順次反射させた後、多層透明光電変換素子92に入射させる。こうして、ビームスプリッタ95により二つに分けられた光が多層透明光電変換素子92に入射すると、これらの光は干渉を起こす。その結果、図50の多層透明光電変換素子92の直ぐ横に示すように、多層透明光電変換素子92のN層の受光面における光の強度の分布が得られる。この強度分布は多層光ディスク91の各記録層に記録されたデータを反映したものとなる。この場合、例えば、しきい値強度I0 より強度のピークが高いときを「1」、低いときを「0」とすることにより、多層光ディスク91に記録されたデジタルデータを読み出すことができる。
【0170】
〈13.第13の実施の形態〉
[光記録再生システム]
図51に第13の実施の形態による光記録再生システムを示す。
【0171】
図51に示すように、この光記録再生システムにおいては、ホログラフィック記録媒体101を用い、N層の透明光電変換素子31を有する多層透明光電変換素子102を用いてこのホログラフィック記録媒体101に記録されたデータを読み出す。具体的には、図51に示すように、高コヒーレンスの光源103からの光104をビームスプリッタ105により二つに分け、ビームスプリッタ105を透過した光をホログラフィック記録媒体101に入射させる。ホログラフィック記録媒体101に入射した光は多層透明光電変換素子92に向かう。一方、ビームスプリッタ105で反射された光はレンズ106を通って多層透明光電変換素子102に入射し、ホログラフィック記録媒体101から来た光と重ね合わされる。その結果、多層透明光電変換素子92上に、ホログラフィック記録媒体101に記録された画像が光の強度分布として現れる。こうして、ホログラフィック記録媒体101に記録された画像を再生することができる。
【0172】
〈14.第14の実施の形態〉
[CCDイメージセンサー]
図52に、第14の実施の形態によるCCDイメージセンサーの受光部およびこの受光部の近傍の垂直レジスタの断面構造を示す。このCCDイメージセンサーは、受光部、垂直レジスタおよび水平レジスタを有するインタライン転送方式のものである。
【0173】
図52に示すように、p型Si基板171(あるいはn型Si基板に形成されたpウエル層)上にゲート絶縁膜172が形成され、このゲート絶縁膜172上に読み出しゲート電極173が形成されている。この読み出しゲート電極173の両側の部分のp型Si基板171中にn型層174および垂直レジスタを構成するn型層175が形成されている。n型層174上の部分のゲート絶縁膜172には開口172aが形成されている。そして、この開口172aの内部のn型層174上に、例えば第3の実施の形態による光電変換素子が受光部176として形成されている。この光電変換素子の第1の電極18は、ゲート絶縁膜172の開口172aの内外にわたって延在して設けられており、開口172aの内部においてはn型層174とオーミック接触している。一方、この光電変換素子の第2の電極19は、光伝導体17の一端部の上に設けられている。
【0174】
このCCDイメージセンサーの上記以外の構成は、従来公知のインタライン転送方式のCCDイメージセンサーの構成と同様である。
【0175】
このCCDイメージセンサーにおいては、光電変換素子の第2の電極19に対して第1の電極18を正の電圧にバイアスしておく。受光部176において光伝導体17に光が入射すると光励起により発生した電子がn型層174に流れ込む。次に、垂直レジスタを構成するn型層175にn型層174より高い電圧を印加した状態で読み出しゲート電極173に正電圧を印加することによりこの読み出しゲート電極173の直下のp型Si基板171にn型チャネルを形成し、このn型チャネルを通してn型層174の電子をn型層175に読み出す。この後、こうして読み出された電荷は垂直レジスタ内を転送され、さらに水平レジスタを転送され、出力端子から撮像された画像に対応する電気信号が取り出される。
【0176】
この第14の実施の形態によれば、受光部176に、導電性ポリマーおよび/または高分子半導体11とタンパク質12との複合体からなる光伝導体17を用いた光電変換素子を用いた新規なCCDイメージセンサーを実現することができる。
【0177】
以上、実施の形態および実施例について具体的に説明したが、本技術は、上述の実施の形態および実施例に限定されるものではなく、本技術の技術的思想に基づく各種の変形が可能である。
【0178】
例えば、上述の実施の形態および実施例において挙げた数値、構造、構成、形状、材料などはあくまでも例に過ぎず、必要に応じてこれらと異なる数値、構造、構成、形状、材料などを用いてもよい。
【0179】
なお、導電性ポリマーおよび/または高分子半導体により伝導体を形成し、この導電性ポリマーおよび/または高分子半導体に光ドーピング、化学ドーピング、電気化学ドーピング、電荷注入ドーピング、ノンレドックスドーピングなどによりキャリアを注入することができ、それによって伝導体の電気伝導度を増加させることができる。このような伝導体に用いられる導電性ポリマーおよび/または高分子半導体としては、例えば、トランス−(CH)x 、ポリアニリン、ポリアニリンにスルホン酸などの側鎖を付加した誘導体などが挙げられるが、これに限定されるものではない。
【符号の説明】
【0180】
11…導電性ポリマーおよび/または高分子半導体、12…タンパク質、12a…色素、12b…ポリペプチド、13…リンカー、14…電極、15…アポタンパク質、16…基板、17…光伝導体、18…第1の電極、19…第2の電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性ポリマーおよび/または高分子半導体と少なくとも一つの、長寿命励起状態を有する色素を含むタンパク質との複合体からなる光伝導体を用いた光電変換素子。
【請求項2】
上記導電性ポリマーおよび/または高分子半導体が第1の電極と第2の電極との間に電気的に接続されている請求項1記載の光電変換素子。
【請求項3】
上記導電性ポリマーおよび/または高分子半導体と上記タンパク質とは非共有結合または共有結合により互いに結合している請求項2記載の光電変換素子。
【請求項4】
上記導電性ポリマーおよび/または高分子半導体がネットワークを形成している請求項3記載の光電変換素子。
【請求項5】
上記色素は蛍光性または燐光性を有する請求項4記載の光電変換素子。
【請求項6】
上記タンパク質は電子伝達タンパク質、補酵素を含むタンパク質、グロビン類、蛍光タンパク質および蛍光タンパク質の変異種からなる群より選ばれた少なくとも一種である請求項5記載の光電変換素子。
【請求項7】
上記複合体は上記導電性ポリマーおよび/または高分子半導体より機械的強度が高い他のポリマーをさらに含む請求項6記載の光電変換素子。
【請求項8】
上記光伝導体、上記第1の電極および上記第2の電極が基板上に設けられている請求項6記載の光電変換素子。
【請求項9】
上記基板、上記第1の電極および上記第2の電極が透明である請求項8記載の光電変換素子。
【請求項10】
上記光電変換素子は受光素子である請求項1記載の光電変換素子。
【請求項11】
導電性ポリマーおよび/または高分子半導体と少なくとも一つの、長寿命励起状態を有する色素を含むタンパク質との複合体からなる光伝導体を形成する工程を有する光電変換素子の製造方法。
【請求項12】
基板上に第1の電極および第2の電極を形成した後、上記基板上に上記光伝導体を上記導電性ポリマーおよび/または高分子半導体が上記第1の電極と上記第2の電極との間に電気的に接続されるように形成する請求項11記載の光電変換素子の製造方法。
【請求項13】
上記導電性ポリマーおよび/または高分子半導体と上記タンパク質とを非共有結合または共有結合により互いに結合させる請求項12記載の光電変換素子の製造方法。
【請求項14】
上記導電性ポリマーおよび/または高分子半導体と上記タンパク質とを含む溶液を用いて上記複合体を形成する請求項13記載の光電変換素子の製造方法。
【請求項15】
上記導電性ポリマーおよび/または高分子半導体と上記タンパク質とを含む溶液にリンカーを添加して上記導電性ポリマーおよび/または高分子半導体と上記タンパク質とをこのリンカーにより結合させた後、この溶液を用いて上記複合体を形成する請求項13記載の光電変換素子の製造方法。
【請求項16】
上記導電性ポリマーおよび/または高分子半導体を形成するためのモノマーと上記色素とを含む溶液を用いて電気化学的重合法により上記モノマーから上記導電性ポリマーおよび/または高分子半導体を形成した後、この溶液にアポタンパク質を添加して上記色素を含む上記タンパク質を形成し、この溶液を用いて上記複合体を形成する請求項13記載の光電変換素子の製造方法。
【請求項17】
導電性ポリマーおよび/または高分子半導体と少なくとも一つの、長寿命励起状態を有する色素を含むタンパク質との複合体からなる光伝導体を受光部に用いた固体撮像素子。
【請求項18】
導電性ポリマーおよび/または高分子半導体と少なくとも一つの、長寿命励起状態を有する色素を含むタンパク質との複合体からなる光伝導体を用いて受光部を形成する工程を有する固体撮像素子の製造方法。
【請求項19】
導電性ポリマーおよび/または高分子半導体と少なくとも一つの、長寿命励起状態を有する色素を含むタンパク質との複合体からなる光伝導体を用いた光電変換素子を有する電子機器。
【請求項20】
導電性ポリマーおよび/または高分子半導体と少なくとも一つの、長寿命励起状態を有する色素を含むタンパク質との複合体からなる光伝導体を受光部に用いた固体撮像素子を有する電子機器。
【請求項21】
導電性ポリマーおよび/または高分子半導体と少なくとも一つの、長寿命励起状態を有する色素を含むタンパク質との複合体からなる光伝導体。
【請求項22】
導電性ポリマーおよび/または高分子半導体と少なくとも一つの、長寿命励起状態を有する色素を含むタンパク質との複合体を形成する光伝導体の製造方法。
【請求項23】
導電性ポリマーおよび/または高分子半導体と少なくとも一つの、長寿命励起状態を有する色素を含むタンパク質との複合体からなる光伝導体を用いた透明な光電変換素子が複数、互いに積層された多層透明光電変換素子。
【請求項24】
導電性ポリマーおよび/または高分子半導体と少なくとも一つの、長寿命励起状態を有する色素を含むタンパク質との複合体からなる光伝導体を用いた透明な光電変換素子が複数、互いに積層された多層透明光電変換素子を有する電子機器。
【請求項25】
上記電子機器が三次元ディスプレイ、三次元イメージセンサー、カメラまたは光記録再生システムである請求項24記載の電子機器。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate

【図17】
image rotate

【図18】
image rotate

【図19】
image rotate

【図20】
image rotate

【図21】
image rotate

【図22】
image rotate

【図23】
image rotate

【図24】
image rotate

【図25】
image rotate

【図26】
image rotate

【図27】
image rotate

【図28】
image rotate

【図29】
image rotate

【図30】
image rotate

【図31】
image rotate

【図32】
image rotate

【図33】
image rotate

【図34】
image rotate

【図35】
image rotate

【図36】
image rotate

【図37】
image rotate

【図38】
image rotate

【図39】
image rotate

【図40】
image rotate

【図41】
image rotate

【図42】
image rotate

【図43】
image rotate

【図44】
image rotate

【図45】
image rotate

【図46】
image rotate

【図47】
image rotate

【図48】
image rotate

【図49】
image rotate

【図50】
image rotate

【図51】
image rotate

【図52】
image rotate


【公開番号】特開2012−186320(P2012−186320A)
【公開日】平成24年9月27日(2012.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−48510(P2011−48510)
【出願日】平成23年3月7日(2011.3.7)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】