説明

光電変換素子及びその製造方法、並びにその素子を用いた太陽電池

【課題】著しく高い電流変換率を有する光電変換素子及びそれを用いた太陽電池を提供する。
【解決手段】透明導電膜と対極との間に電荷輸送層を備えている光電変換素子において、前記電荷輸送層が、前記透明導電膜上に形成された非晶質金属酸化物n型半導体からなるバリア膜と、前記バリア膜上に形成され、結晶性金属酸化物n型半導体の粒子群からなり、CdSなどの量子ドットが担持された多孔質膜と、前記多孔質膜に浸透させられた電解液(好ましくはフェリシアン化物イオンやフェロシアン化物イオンを含む。)とを含むことを特徴とする光電変換素子である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、量子ドットによって増感された光電変換素子及びその製造方法、並びにその素子を用いた太陽電池に関する。
【背景技術】
【0002】
太陽電池、光センサなどに用いられる光電変換素子は、受光のために一方の電極集電体を透明基板上に透明導電膜で形成し、対極との間に電荷輸送層を有する。近年、量子ドットを増感剤として用い、これを酸化チタンなどのn型半導体に担持させて電荷輸送層を構成した太陽電池が提案されている(特許文献1及び非特許文献1)。この種の電池は、色素増感太陽電池と異なり、ルテニウム錯体などの高価で資源量の乏しい色素を必要とせず、また増感可能な波長領域を量子ドットのサイズで制御できるという利点を有する。従って、シリコン太陽電池よりも低コストで製造できるといわれている色素増感太陽電池よりも更に、次世代電池として注目されている。
【特許文献1】特開2002−111031
【非特許文献1】社団法人電気化学会第73回大会講演要旨集、第189頁、2108
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、特許文献1に記載の電池は、そこに開示された実施形態でさえ入射光子の電流変換率(IPCE)が最高で25%と低く、しかも電解質が有機物であるから耐光性に乏しい。また、非特許文献1に記載の電池は、電解液中の電解質として界面での電子移動反応速度の速いものを用いると、電力を取り出す方向(酸化チタン→透明導電膜)とは逆方向(透明導電膜→電解液)の反応速度も速くなることから、フィルファクタが低下する。従って、電子移動反応速度の遅い電解質を用いざるを得ず、高い電流変換率を期待することができない。
それ故、この発明の課題は、著しく高い電流変換率を有する光電変換素子及びそれを用いた太陽電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
その課題を解決するために、この発明の光電変換素子(以下、「素子」という。)は、
透明導電膜と対極との間に電荷輸送層を備えている光電変換素子において、前記電荷輸送層が、
前記透明導電膜上に形成された非晶質金属酸化物n型半導体からなるバリア膜と、
前記バリア膜上に形成され、結晶性金属酸化物n型半導体の粒子群からなり、量子ドットが担持された多孔質膜と、
前記多孔質膜に浸透させられた電解液とを含むことを特徴とする。
【0005】
この発明の素子によれば、光吸収に伴って量子ドット内で生じた励起電子は、多孔質膜中のn型半導体内部に送り込まれる。そして、バリア膜も多孔質膜と同じく金属酸化物n型半導体からなるので、励起電子はバリア膜を速やかに通過し、透明導電膜に至る。また、多孔質膜の隅々に電解液が浸透しているので、透明導電膜から外部回路を通って対極に到着した電子は、電解液を介して量子ドットに速やかに戻る。一方、バリア膜が非晶質であるので、電解液が直接透明導電膜に触れることはない。従って、透明導電膜から電解液への電子移動(電流の漏れ)が阻止される。
前記バリア膜となる半導体および多孔質膜となる半導体は、好ましくはともに酸化チタンである。酸化チタンは、抗菌などの光触媒機能を有し、無害で化学的に安定であり、資源的に豊富であるうえ、バリア膜の化学種と多孔質膜のそれとを同じにすることで両者間に異種の化合物が形成されることを回避できるからである。
【0006】
前記電解液としては、1×10-1cm/s以上の標準速度定数を有する、無機系電解質の水溶液が好ましい。これより遅い速度定数を有する電解液を用いた素子は、バリア膜が無くてももともと透明導電膜から電解液への電子移動量が少なく、バリア膜の作用に乏しいからである。また、無機系電解質は耐光性に優れるからである。このような電解質としては、例えばフェリシアン化カリウム/フェロシアン化カリウムなどのフェリシアン化物イオンやフェロシアン化物イオンを含むものが挙げられる。
また、バリア膜は1〜5nmすなわち分子レベルの厚さを有し、多孔質膜はバリア膜よりも大きい厚さを有するのが好ましい。バリア膜が厚すぎると直列抵抗が増すし、多孔質膜は電解液を保持する必要があるからである。
【0007】
この発明の光電変換素子を製造する適切な方法は、
金属化合物を加水分解させることにより透明導電膜上に非晶質金属酸化物n型半導体からなるバリア膜を形成する工程と、
バリア膜上に結晶性金属酸化物n型半導体の粒子群からなる多孔質膜を形成する工程と、
バリア膜及び多孔質膜を焼成する工程と、
多孔質膜に量子ドットを担持させる工程と、
多孔質膜に電解液を浸透させる工程と
を順に備えることを特徴とする。
金属化合物として好ましいのは、金属のビス(アセチルアセトナト)ジイソプロポキシドである。加水分解によって非晶質金属酸化物を容易に形成するからである。
【発明の効果】
【0008】
以上のように、この発明の光電変換素子によれば、バリア膜が良好な整流特性を有することから、著しく高い電流変換効率を有する。従って、高効率の太陽電池を設計することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
n型半導体膜となる金属酸化物としては、量子ドットの伝導帯の下端が金属酸化物の伝導帯の下端よりも負側にあり、量子ドットの価電子帯の上端が電解質の酸化還元電位よりも正側にあるものであればよく、例えばTiO2、Ta25、Nb25、SnO2、ZnO、ZrO2などが挙げられる。好ましいのはTiO2である。量子ドットとなる半導体としては、PbS、CdSが好ましく挙げられる他、CdTe、CdSe、Sb23、Bi23、Ag2S、Ag2Se、Ag2Te、Au2S、Au2Se、Au2Te、Cu2S、Cu2Se、Cu2Te、Fe2S、Fe2Se、Fe2Te、PbSe、PbTe、In23、SnS、CuInS2、CuInSe2、CuInTe2などの化合物半導体であってもよい。前記量子ドットは、通常直径10nm以下、好ましくは6nm以下の粒子であるが、特に限定されず量子サイズ効果を生じるものであればよい。
【実施例】
【0010】
−予備実験−
電解液として、Na2X/Na2S水溶液(濃度0.05M/0.1M)、I3-/I-水溶液(濃度0.05M/0.7M)、及びFe(CN)63-/Fe(CN)64-水溶液(濃度0.1M/0.1M)を準備した。そして、フッ素ドープSnO2からなる透明導電膜が形成されたガラス基板(旭ガラス株式会社製A110U80(U膜))を洗浄した。別途、ビス(アセチルアセトナト)ジイソプロポキシドチタンの0.5M濃度2−プロパノール溶液(以下、TAA溶液という。)を調製した。透明導電膜上にTAA溶液を噴霧し、450℃で焼き付けることにより、厚さ数nm程度のバリア膜を形成した。その後、前記電解液にガラス基板を浸し、透明導電膜と電解液との間の並列抵抗αを測定した。また、バリア膜が形成されていないガラス基板についても同様に並列抵抗βを測定した。並列抵抗αと並列抵抗βの値に基づいて、漏れ電流減少率を算出した結果を図1にグラフで示す。
【0011】
図1より、標準速度定数が1×10-1cm/sに満たないヨウ化物イオンや多硫化物イオンの場合は、バリア膜の形成前後で抵抗値は変わらなかったことがわかる。これに対して、速度定数が1×10-1cm/s以上のフェロシアン化物イオン/フェリシアン化物イオンの場合は、バリア膜形成後に並列抵抗値が著しく上昇した。従って、漏れ電流を抑制できることが判った。
【0012】
−実施例1−
フッ素ドープSnO2からなる透明導電膜が形成されたガラス基板(旭ガラス株式会社製A110U80(U膜))を洗浄し、透明導電膜上に前記TAA溶液を噴霧した。500℃で焼成した後、その上にTiO2ペースト(平均粒径15nm、BET表面積165m2/g、アナターゼ型)を150メッシュのスクリーンで6〜7nmの厚さに印刷した。
次に、Cd(ClO42水溶液(濃度0.1M)に前記酸化チタン膜付き基板を1分間浸した後、Na2S水溶液(濃度0.1M)に1分間浸す操作を複数回繰り返すことによって、半導体量子ドット増感酸化チタン電極(以下、「酸化チタン電極」)を作製した。当初無色であったTiO2ペースト焼き付け部分が黄色に変わり、浸漬操作を繰り返すたびにその色が濃くなった。X線回折法により着色部分を分析したところ、いずれの酸化チタン電極にもCdSが担持されていることが認められた。また、浸漬前の焼き付け部分をSEMで観察したところ、10nm以上の粒子(酸化チタンに由来)しか見られなかったが、浸漬したものはそのような比較的大きな粒子の上に2−5nmの粒子が付着していた。従って、この微粒子がCdSからなる量子ドットであると認められる。
【0013】
電解液としてのK3[Fe(CN)6]/K4[Fe(CN)6]水溶液(濃度0.1M/0.1M)、枠状のPET製スペーサ及び白金薄膜をスパッタした対極を準備した。そして、酸化チタン電極のTiO2印刷面にスペーサを置き、電解液を酸化チタン電極に浸透させ、その上に対極を重ね合わせ、クリップで固定することにより、太陽電池を製造した。対照のために、バリア膜を形成していないこと以外は前記太陽電池と同一条件で別の太陽電池を製造した。
これらの太陽電池について分光計器株式会社製のXeランプ面内均一光照射装置を用いて波長450nmの光を照射し、電流電圧特性及びIPCEを測定した結果をそれぞれ図2及び図3に示す。図中、実線がバリア膜有り、点線がバリア膜無しの結果である。図に見られるように、バリア膜を形成することにより、電流電圧特性が著しく向上し、IPCEが最高で43%に達した。
【0014】
−比較例1−
電解液としてのK3[Fe(CN)6]/K4[Fe(CN)6]水溶液に代えてNa2X/Na2S水溶液(濃度0.05M/0.1M)を用いた以外は、実施例1と同一条件でバリア膜有り及びバリア膜無しの二つの太陽電池を製造した。これらの太陽電池について実施例1と同様に電流電圧特性及びIPCEを測定した結果をそれぞれ図4及び図5に示す。図に見られるように、電流電圧特性及びIPCEともにバリア膜の有無に依存しなかった。
【0015】
−実施例2−
Cd(ClO42水溶液に酸化チタン膜付き基板を浸した後、Na2S水溶液に浸す操作回数を実施例1の3倍としたこと以外は、実施例1と同一条件で太陽電池を製造した。
この電池にAM1.5の擬似太陽光(100mW/cm2)を照射し、電流電圧特性及びIPCEを測定した結果をそれぞれ図6及び図7に示す。図6において、実線が照射時、点線が暗時の特性である。図6よりフィルファクタを求めると、0.6という高い値を示し、光電変換効率は1%に達した。また、IPCEは最高で56%に達した。
【0016】
―比較例2―
電解液としてのK3[Fe(CN)6]/K4[Fe(CN)6]水溶液に代えてNa2X/Na2S水溶液(濃度0.05M/0.1M)を用いた以外は、実施例2と同一条件で太陽電池性能を比較したところ、最高でフィルファクタは0.39となり、光電変換効率も0.31%に留まった。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】電解質毎の標準速度定数と漏れ電流減少率との関係を示すグラフである。
【図2】実施例1の太陽電池の電流電圧特性を示すグラフである。
【図3】実施例1の太陽電池のIPCEを示すグラフである。
【図4】比較例1の太陽電池の電流電圧特性を示すグラフである。
【図5】比較例1の太陽電池のIPCEを示すグラフである。
【図6】実施例2の太陽電池の電流電圧特性を示すグラフである。
【図7】実施例2の太陽電池のIPCEを示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明導電膜と対極との間に電荷輸送層を備えている光電変換素子において、前記電荷輸送層が、
前記透明導電膜上に形成された非晶質金属酸化物n型半導体からなるバリア膜と、
前記バリア膜上に形成され、結晶性金属酸化物n型半導体の粒子群からなり、量子ドットが担持された多孔質膜と、
前記多孔質膜に浸透させられた電解液とを含むことを特徴とする光電変換素子。
【請求項2】
前記バリア膜となる半導体および多孔質膜となる半導体が、ともに酸化チタンである請求項1に記載の素子。
【請求項3】
前記電解液が、1×10-1cm/s以上の標準速度定数を有する、無機系電解質の水溶液である請求項1又は2に記載の素子。
【請求項4】
前記電解質を構成する負イオンが、フェリシアン化物イオン及びフェロシアン化物イオンのうち一種以上である請求項3に記載の素子。
【請求項5】
前記バリア膜が1〜5nmの厚さを有し、前記多孔質膜がバリア膜よりも大きい厚さを有する請求項1〜4のいずれかに記載の素子。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の素子を用いた太陽電池。
【請求項7】
金属化合物を加水分解させることにより透明導電膜上に非晶質金属酸化物n型半導体からなるバリア膜を形成する工程と、
バリア膜上に結晶性金属酸化物n型半導体の粒子群からなる多孔質膜を形成する工程と、
バリア膜及び多孔質膜を焼成する工程と、
多孔質膜に量子ドットを担持させる工程と、
多孔質膜に電解液を浸透させる工程と
を順に備えることを特徴とする光電変換素子の製造方法。
【請求項8】
前記金属化合物が、金属のビス(アセチルアセトナト)ジイソプロポキシドである請求項7に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−287900(P2008−287900A)
【公開日】平成20年11月27日(2008.11.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−128888(P2007−128888)
【出願日】平成19年5月15日(2007.5.15)
【出願人】(504176911)国立大学法人大阪大学 (1,536)
【出願人】(801000061)財団法人大阪産業振興機構 (168)
【Fターム(参考)】