説明

光電変換素子

【課題】周囲の環境温度の変化が大きい場所で使用されても、光電変換効率の低下を十分に抑制できる光電変換素子を提供すること。
【解決手段】透明導電電極を構成する第1電極1と、第1電極1に対向して設けられる第2電極2と、第1電極1及び第2電極2を連結する封止部4と、第1電極1、第2電極2及び封止部4によって包囲されるセル空間に充填される電解質3とを備え、第2電極2が、チタン、白金及びニッケルからなる群より選択される少なくとも1種の金属から構成される金属基板9と、金属基板9に対して電解質3側に設けられる導電層10とを有し、金属基板9の厚さが5〜35μmである光電変換素子100。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光電変換素子に関する。
【背景技術】
【0002】
光電変換素子として、安価で、高い光電変換効率が得られることから色素増感型太陽電池が注目されており、色素増感型太陽電池に関して種々の開発が行われている。
【0003】
色素増感型太陽電池は一般に、作用極と、対極と、作用極に担持される光増感色素と、作用極と対極とを連結する封止部と、作用極、対極及び封止部によって包囲される空間(以下、「セル空間」と呼ぶ)に配置される電解質とを備えている。
【0004】
このような色素増感太陽電池として、チタンなどの金属基板上に白金などの触媒層を設けてなる対極を用いたものが知られている(下記特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−265796号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上述した特許文献1に記載の色素増感太陽電池は、特に周囲の環境温度の変化が大きい場所で使用されると、電解質が漏洩し、光電変換効率が低下するという課題を有していた。
【0007】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、周囲の環境温度の変化が大きい場所で使用されても、光電変換効率の低下を十分に抑制できる光電変換素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは上記課題が生じる原因について検討した。まず対極に使用される金属基板の厚さに着目した。対極に使用される金属基板の厚さは一般的には100μm〜300μmであるとされている。しかし、このような厚さの金属基板を対極に用いると、金属基板は比較的剛直な構造を有するのではないかと本発明者らは考えた。この場合、周囲の環境温度の変化により電解質中の揮発性溶質及び電解質溶媒が揮発してセル空間の内圧が変化し、電解質の膨張及び収縮が起こる。これにより金属基板に応力が繰り返し加えられると、対極と封止部との間の界面に応力が集中し、対極に対する封止部の封止能が弱まるものと考えられる。その結果、電解質の漏洩が徐々に起こり、光電変換効率が低下していくのではないかと考えられる。
【0009】
ここで、金属基板の厚さを薄くすることも考えられるが、一般的には、次の理由により金属基板の厚さを薄くすることは考えにくいとされている。
1.金属基板を薄くすると、金属基板の機械的強度が弱まると考えられる。このため、金属基板に応力が繰り返し加えられると、金属疲労により、金属基板にクラックや破損が生じると考えられる。
2.金属基板を薄くするほど、金属基板におけるピンホール密度が増加するため、一般的には電解質の漏洩が起こりやすくなるものと考えられる。
【0010】
しかし、本発明者らは、所定の範囲の厚さを有する金属基板を対極に用いた色素増感太陽電池について熱サイクル試験を行ってみたところ、意外なことに、電解質の漏洩は極めて少なく、また、光電変換効率の低下も小さいことが判明した。そこで、本発明者らは上記知見に基づいてさらに鋭意研究を重ねた結果、以下の発明により上記課題を解決しうることを見出した。
【0011】
即ち本発明は、透明導電電極を構成する第1電極と、前記第1電極に対向して設けられる第2電極と、前記第1電極及び前記第2電極を連結する封止部と、前記第1電極、前記第2電極及び前記封止部によって包囲されるセル空間に充填される電解質とを備え、前記第2電極が、チタン、白金及びニッケルからなる群より選択される少なくとも1種の金属から構成される金属基板と、前記金属基板に対して前記電解質側に設けられる導電層とを有し、前記金属基板の厚さが5〜35μmであることを特徴とする光電変換素子である。
【0012】
この光電変換素子によれば、周囲の環境温度変化が大きい場所で使用されても、光電変換効率の低下が十分に抑制される。この理由について、本発明者らは以下のように推測している。即ち光電変換素子の周囲の環境温度が変化して、セル空間の内圧が変化すると、セル空間が膨張または収縮し、それに伴って電解質が膨張または収縮する。このとき、第2電極に応力が繰り返し加えられる。ここで、金属基板の厚さを上記範囲とすることにより金属基板は可とう性を有すると考えられる。そのため、第2電極に応力が加えられても、その応力は第2電極と電解質との界面で吸収され、第2電極と封止部との界面における応力集中が緩和される。このため、第2電極に対する封止部の封止能の低下が抑制される。また金属基板が可とう性を有するため、金属基板にクラックや破損が生じることも防止される。その結果、光電変換素子によれば、周囲の環境温度変化が大きい場所で使用されても、電解質の漏洩が効果的に抑制され、光電変換効率の低下が十分に抑制される。
【0013】
上記光電変換素子においては、前記第1電極が、透明基板と、前記透明基板上に設けられる透明導電膜と、前記透明導電膜上に設けられる多孔質酸化物半導体層とを有する作用極であり、第2電極が対極であることが好ましい。
【0014】
この場合、第2電極は、第1電極に含まれる多孔質酸化物半導体層を有しないため、第2電極に応力が加わることにより第2電極が撓んでも、それに伴って多孔質酸化物半導体層にクラック等が生じることを心配する必要がない。
【0015】
上記光電変換素子においては、前記第2電極が、前記金属基板に対して前記電解質と反対側に設けられる樹脂層を有することが好ましい。
【0016】
この場合、金属基板がピンホールを有していても、そのピンホールを通じた電解質の漏洩が樹脂層によって抑制される。このため、樹脂層がない場合に比べて、電解質の漏洩がより効果的に抑制され、光電変換効率の低下をより十分に抑制することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、周囲の環境温度の変化が大きい場所で使用されても、光電変換効率の低下を十分に抑制できる光電変換素子が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の光電変換素子の一実施形態を示す断面図である。
【図2】図1の光電変換素子が高温下に置かれた場合の光電変換素子を示す断面図である。
【図3】図1の光電変換素子が低温下に置かれた場合の光電変換素子を示す断面図である。
【図4】本発明の光電変換素子の他の実施形態を示す断面図である。
【図5】本発明の光電変換素子のさらに他の実施形態を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら詳細に説明する。なお、全図中、同一又は同等の構成要素には同一符号を付し、重複する説明を省略する。
【0020】
図1は、本発明に係る色素増感型太陽電池の好適な実施形態を示す断面図である。
【0021】
図1には、光電変換素子としての色素増感型太陽電池100が示されている。図1に示すように、色素増感型太陽電池100は、作用極1と、作用極1に対向するように配置される対極2とを備えている。作用極1には光増感色素が担持されている。作用極1と対極2との間には、作用極1及び対極2を連結する封止部4が設けられている。そして、作用極1と対極2と封止部4とによって包囲されるセル空間内には電解質3が充填されている。
【0022】
作用極1は、透明基板6と、透明基板6の対極2側に設けられる透明導電膜7と、透明導電膜7の上に設けられる多孔質酸化物半導体層8とを備えており、透明導電電極を構成している。光増感色素は作用極1のうちの多孔質酸化物半導体層8に担持されている。
【0023】
透明基板6を構成する材料は、例えば透明な材料であればよく、このような透明な材料としては、例えばホウケイ酸ガラス、ソーダライムガラス、白板ガラス、石英ガラスなどのガラス、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリカーボネート(PC)、ポリエーテルスルフォン(PES)などが挙げられる。透明基板6の厚さは、色素増感型太陽電池100のサイズに応じて適宜決定され、特に限定されるものではないが、例えば50μm〜10000μmの範囲にすればよい。
【0024】
透明導電膜7を構成する材料としては、例えばスズ添加酸化インジウム(Indium−Tin−Oxide:ITO)、酸化スズ(SnO)、フッ素添加酸化スズ(Fluorine−doped−Tin−Oxide:FTO)などの導電性金属酸化物が挙げられる。透明導電膜7は、単層でも、異なる導電性金属酸化物で構成される複数の層の積層体で構成されてもよい。透明導電膜7が単層で構成される場合、透明導電膜7は、高い耐熱性及び耐薬品性を有することから、FTOで構成されることが好ましい。また透明導電膜7として、複数の層で構成される積層体を用いると、各層の特性を反映させることが可能となることから好ましい。中でも、ITOで構成される層と、FTOで構成される層との積層体を用いることが好ましい。この場合、高い導電性、耐熱性及び耐薬品性を持つ透明導電膜7が実現できる。透明導電膜7の厚さは例えば0.01μm〜2μmの範囲にすればよい。
【0025】
多孔質酸化物半導体層8は、多孔質酸化物半導体で構成される。多孔質酸化物半導体は、例えば酸化チタン(TiO2)、酸化亜鉛(ZnO)、酸化タングステン(WO3)、酸化ニオブ(Nb25)、チタン酸ストロンチウム(SrTiO3)、酸化スズ(SnO2)、酸化インジウム(In)、酸化ジルコニウム(ZrO)、酸化タリウム(Ta)、酸化ランタン(La)、酸化イットリウム(Y)、酸化ホルミウム(Ho)、酸化ビスマス(Bi)、酸化セリウム(CeO)、酸化アルミニウム(Al)又はこれらの2種以上で構成される酸化物半導体粒子で構成される。これら酸化物半導体粒子の平均粒径は1〜1000nmであることが、色素で覆われた酸化物半導体の表面積が大きくなり、即ち光電変換を行う場が広くなり、より多くの電子を生成することができることから好ましい。ここで、多孔質酸化物半導体層8が、粒度分布の異なる酸化物半導体粒子を積層させてなる積層体で構成されることが好ましい。この場合、積層体内で繰り返し光の反射を起こさせることが可能となり、入射光を積層体の外部へ逃がすことなく効率よく光を電子に変換することができる。多孔質酸化物半導体層8の厚さは、例えば0.5〜50μmとすればよい。なお、多孔質酸化物半導体層8は、異なる材料からなる複数の半導体層の積層体で構成することもできる。
【0026】
光増感色素としては、例えばビピリジン構造、ターピリジン構造などを含む配位子を有するルテニウム錯体や、ポルフィリン、エオシン、ローダミン、メロシアニンなどの有機色素が挙げられる。
【0027】
対極2は、金属基板9と、金属基板9のうち作用極1側に設けられて対極2の表面における還元反応を促進する導電性の触媒膜(導電層)10とを備えている。
【0028】
金属基板9は、チタン、ニッケル、白金又はこれらの2種以上の合金から構成される。これらは、電解質3の種類に関係なく使用できるが、特にヨウ素に対して耐食性を有することから、電解質3がヨウ素を含むものである場合に特に好適である。これらのうち金属基板9はチタンから構成されることが耐食性、価格及び入手性の点から好ましい。金属基板9の厚さは、5〜35μmであり、好ましくは10〜30μmであり、より好ましくは10〜20μmである。
【0029】
触媒膜10は、白金、炭素系材料又は導電性高分子などから構成される。
【0030】
電解質3は通常、電解液で構成され、この電解液は例えばI/Iなどの酸化還元対と有機溶媒とを含んでいる。有機溶媒としては、アセトニトリル、メトキシアセトニトリル、メトキシプロピオニトリル、プロピオニトリル、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ジエチルカーボネート、γ−ブチロラクトンなどを用いることができる。酸化還元対としては、例えばI/Iのほか、臭素/臭化物イオンなどの対が挙げられる。色素増感太陽電池100は、酸化還元対としてI/Iのような揮発性溶質及び、高温下で揮発しやすいアセトニトリル、メトキシアセトニトリル、メトキシプロピオニトリルのような有機溶媒を含む電解液を電解質3として用いた場合に特に有効である。この場合、色素増感太陽電池100の周囲の環境温度の変化によりセル空間の内圧の変化が特に大きくなり、封止部20と対極2との界面、および封止部20と作用極1との界面から電解質3が漏洩しやすくなるからである。なお、上記揮発性溶媒にはゲル化剤を加えてもよい。また電解質3は、イオン液体と揮発性成分との混合物からなるイオン液体電解質で構成されてもよい。この場合も、色素増感太陽電池100の周囲の環境温度の変化によりセル空間の内圧の変化が大きくなるためである。イオン液体としては、例えばピリジニウム塩、イミダゾリウム塩、トリアゾリウム塩等の既知のヨウ素塩であって、室温付近で溶融状態にある常温溶融塩が用いられる。このような常温溶融塩としては、例えば1−エチル−3−メチルイミダゾリウム ビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミドが好適に用いられる。また揮発性成分としては、上記の有機溶媒や、1−メチル−3−メチルイミダゾリウムヨーダイド、LiI、I、4−t−ブチルピリジンなどが挙げられる。さらに電解質3としては、上記イオン液体電解質にSiO、TiO、カーボンナノチューブなどのナノ粒子を混練してゲル様となった擬固体電解質であるナノコンポジットイオンゲル電解質を用いてもよく、また、ポリフッ化ビニリデン、ポリエチレンオキサイド誘導体、アミノ酸誘導体などの有機系ゲル化剤を用いてゲル化したイオン液体電解質を用いてもよい。
【0031】
封止部4を構成する材料としては、例えば非鉛系の透明な低融点ガラスフリットなどの無機絶縁材料や、アイオノマー、エチレン−ビニル酢酸無水物共重合体、エチレン−メタクリル酸共重合体、エチレン−ビニルアルコール共重合体、紫外線硬化樹脂、及び、ビニルアルコール重合体などの樹脂が挙げられる。なお、封止部4は樹脂のみで構成されてもよいし、樹脂と無機フィラーとで構成されていてもよい。
【0032】
上述した色素増感型太陽電池100によれば、周囲の環境温度変化が大きい場所で使用されても、光電変換効率の低下が十分に抑制される。この理由について、本発明者らは以下のように推測している。
【0033】
即ち色素増感型太陽電池100の周囲の環境温度変化が大きいと、電解質3中の有機溶媒や電解質成分が揮発し、作用極1と対極2と封止部4とによって囲まれるセル空間の内圧も大きく変化する。すると、セル空間が膨張または収縮し、これに伴って電解質3が膨張したり(図2参照)、収縮したりする(図3参照)。このとき、対極2に応力が繰り返し加えられる。ここで、金属基板9の厚さを上記のように5〜35μmの範囲とすることで金属基板9は可とう性を有すると考えられる。そのため、対極2に応力が加えられても、その応力は対極2と電解質3との界面Aで吸収され、対極2と封止部4との界面Bにおける応力集中が緩和される。このため、対極2に対する封止部4の封止能の低下が抑制される。また金属基板9が可とう性を有するため、金属基板9にクラックや破損が生じることも防止される。その結果、色素増感型太陽電池100によれば、周囲の環境温度変化が大きい場所で使用されても、電解質3の漏洩が効果的に抑制され、光電変換効率の低下が十分に抑制される。
【0034】
なお、金属基板9の厚さが5μm未満では、金属基板9にクラックや破損が生じ又は金属基板9におけるピンホール密度が増加し、電解質3の漏洩が起こりやすくなる。その結果、光電変換効率の低下を十分に抑制することができなくなる。一方、金属基板9の厚さが35μmを超えると、金属基板9の剛直性が増し、周囲の環境温度変化が大きい場所では、対極2と封止部4との界面から電解質3が漏洩して光電変換効率が低下する。
【0035】
また色素増感型太陽電池100においては、対極2は、作用極1とは異なり、多孔質酸化物半導体からなる多孔質酸化物半導体層8を有しないため、対極2に応力が加わることにより金属基板9が撓んでも、それに伴って多孔質酸化物半導体層8にクラック等が生じることを心配する必要がない。
【0036】
次に、色素増感型太陽電池100の製造方法について説明する。
【0037】
まず作用極1を以下のようにして準備する。
【0038】
はじめに透明基板6の上に透明導電膜7を形成する。透明導電膜7の形成方法としては、スパッタ法、蒸着法、スプレー熱分解法(SPD:Spray Pyrolysis Deposition)及びCVD法などが用いられる。これらのうちスプレー熱分解法が装置コストの点から好ましい。
【0039】
次に、透明導電膜7上に、多孔質酸化物半導体層形成用ペーストを印刷する。半導体層形成用ペーストは、上述した酸化物半導体粒子のほか、ポリエチレングリコールなどの樹脂及び、テレピネオールなどの溶媒を含む。半導体層形成用ペーストの印刷方法としては、例えばスクリーン印刷法、ドクターブレード法、バーコート法などを用いることができる。
【0040】
次に、半導体層形成用ペーストを焼成して透明導電膜7上に多孔質酸化物半導体層8を形成する。焼成温度は酸化物半導体粒子により異なるが、通常は350℃〜600℃であり、焼成時間も、酸化物半導体粒子により異なるが、通常は1〜5時間である。
【0041】
次に、作用極1の多孔質酸化物半導体層8に光増感色素を担持させる。このためには、作用極1を、光増感色素を含有する溶液の中に浸漬させ、その色素を多孔質酸化物半導体層8に吸着させた後に上記溶液の溶媒成分で余分な色素を洗い流し、乾燥させることで、光増感色素を多孔質酸化物半導体層8に吸着させればよい。但し、光増感色素を含有する溶液を多孔質酸化物半導体層8に塗布した後、乾燥させることによって光増感色素を酸化物半導体多孔膜に吸着させても、光増感色素を多孔質酸化物半導体層8に担持させることが可能である。
【0042】
一方、以下のようにして対極2を準備する。
【0043】
まず厚さ5〜35μmの金属基板9を準備する。そして、金属基板9の上に触媒膜10を形成する。触媒膜10の形成方法としては、スパッタ法、蒸着法などが用いられる。これらのうちスパッタ法が膜の均一性の点から好ましい。
【0044】
次に、例えば熱可塑性樹脂からなるシートを準備し、色素を担持した作用極1と対極2とで上記シートを挟み、シートを加熱溶融させることにより作用極1と対極2とを接着して連結する。こうして作用極1と対極2との間に封止部4を形成する。このとき、作用極1には、電解質3を注入するための貫通孔を予め形成しておく。
【0045】
そして、作用極1に形成された貫通孔を通して、作用極1と対極2と封止部4とによって包囲されたセル空間内に電解質3を注入して充填する。
【0046】
電解質3の充填後、その貫通孔を、例えば上記シートと同様のシートで封止する。こうして、色素増感型太陽電池100が得られ、色素増感型太陽電池100の製造が完了する。
【0047】
本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。例えば上記実施形態では、対極2は、金属基板9と触媒層10とで構成されているが、図4に示す色素増感太陽電池200のように、対極202が、触媒層10と、金属基板9と、金属基板9に対して触媒層10及び電解質3と反対側に設けられる樹脂層201とで構成されていてもよい。この場合、金属基板9がピンホールを有していても、そのピンホールを通じた電解質3の漏洩が樹脂層201によって抑制される。このため、樹脂層201がない場合に比べて、電解質3の漏洩がより効果的に抑制され、光電変換効率の低下をより十分に抑制することができる。なお、樹脂層201を構成する樹脂としては、例えばアイオノマーやエチレン−メタクリル酸共重合体などを挙げることができる。なお、対極2は金属基板9のみで構成されてもよい。
【0048】
さらに上記実施形態では、作用極1によって第1電極が構成され、対極2によって第2電極が構成されているが、図5に示す色素増感太陽電池300のように、対極302によって第1電極が構成され、作用極301によって第2電極が構成されていてもよい。ここで、対極302は、透明基板6と透明な触媒層310とによって構成され、透明導電電極を構成する。触媒層310を構成する材料としては、透明な導電材料が挙げられ、このような透明な導電材料としては、例えば透明導電膜7を構成する材料などが挙げられる。また作用極301は、金属基板9と、金属基板9上に設けられる導電膜(導電層)307と、導電膜307上に設けられる多孔質酸化物半導体層8とによって構成される。導電膜307は、導電材料であればよく、必ずしも透明である必要はない。このような導電材料としては、透明導電膜7を構成する材料や、触媒層10を構成する材料などが挙げられる。
【0049】
以下、本発明の内容を、実施例を挙げてより具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。
【0050】
(実施例1)
はじめに、10cm×10cm×4mmのFTO基板を準備した。続いて、FTO膜の上に、ドクターブレード法によって酸化チタンペースト(Solaronix社製、Ti nanoixide T/sp)を、その厚さが10μmとなるように塗布した後、熱風循環タイプのオーブンに入れて500℃で3時間焼成し、FTO膜上に多孔質酸化物半導体層を形成し、5cm×5cmの積層体を得た。次に、積層体に2つの貫通孔を形成し、作用極を得た。
【0051】
次に、この作用極を、光増感色素であるN719色素を0.2mM溶かした脱水エタノール液中に一昼夜浸漬して作用極に光増感色素を担持させた。
【0052】
一方、6cm×6cm×35μmのチタン箔からなる金属基板を準備した。そして、金属基板上に、スパッタリング法により、厚さ10nmの白金触媒膜を形成し、対極を得た。
【0053】
そして、作用極と対極とで、アイオノマーであるハイミラン(商品名、三井・デュポンポリケミカル社製)からなる環状の熱可塑性樹脂シートを挟んだ。このとき、熱可塑性樹脂シートの内側に、多孔質酸化物半導体層が配置されるようにした。そして、熱可塑性樹脂シートを180℃で5分間加熱し溶融させ、作用極と対極とを接着した。
【0054】
次いで、作用極に形成した貫通孔を通して、メトキシアセトニトリルを主溶媒とし、ヨウ化リチウムを0.1M、ヨウ素を0.05M、4−tert−ブチルピリジンを0.5M含む電解質を、作用極と対極と封止部とによって包囲されるセル空間内に注入して充填させた。そして、作用極に形成した貫通孔を、上記シートと同様の熱可塑性樹脂を用いて封止した。こうして色素増感型太陽電池を得た。
【0055】
(実施例2〜7及び比較例1〜3)
対極を構成する金属基板の厚さを表1に示す値としたこと以外は実施例1と同様にして色素増感太陽電池を作製した。
【0056】
[熱サイクル試験による光電変換効率の変化についての評価:評価1]
実施例1〜7及び比較例1〜3で得られた色素増感太陽電池について、光電変換効率を測定した後、熱サイクル試験を行った。熱サイクル試験後、色素増感太陽電池について再度光電変換効率を測定し、光電変換効率の低下率を算出した。評価については、光電変換効率の低下率が10%以下である場合には「○」と表示し、光電変換効率の低下率が10%より大きく20%以下である場合には「×」と表示することとした。結果を表1に示す。
【0057】
なお、熱サイクル試験は、−40℃から90℃まで昇温させ、90℃で10分間保持し、その後、90℃から−40℃まで降温させ、−40℃で10分間保持するというサイクルを1サイクルとし、これを100回行った。このとき、昇温速度及び降温速度はいずれも10℃/minとした。
【0058】
[熱サイクル試験による電解質残存率の評価:評価2]
実施例1〜7及び比較例1〜3で得られた色素増感太陽電池について、上記と同様の熱サイクル試験を行い、その後、色素増感太陽電池(セル)の容積、即ち作用極と対極と封止部とによって囲まれるセル空間の容積、に占める電解質の残存量の割合を測定した。そして、その電解質残存割合が80%以上である場合には「○」とし、80%未満である場合には「×」と表示することとした。結果を表1に示す。
【表1】

【0059】
表1に示す結果より、実施例1〜7の色素増感型太陽電池によれば、熱サイクル試験後による光電変換効率の低下が十分小さいことが分かった。なお、実施例1〜7の色素増感太陽電池を熱サイクル試験後に観察したところ、対極にクラックも破損も観察されなかった。また比較例1,2の色素増感型太陽電池では、熱サイクルの回数が70回に達するまでに急激に性能が低下した。試験後に分解調査した結果、チタン金属基板と封止部との界面で剥離が確認できた。比較例3の色素増感型太陽電池では剥離は確認できなかったものの、性能の低下が見られた。
【0060】
よって、本発明の光電変換素子によれば、周囲の環境温度の変化が大きい場所で使用されても、光電変換効率の低下を十分に抑制できることが確認された。
【符号の説明】
【0061】
1…作用極(第1電極)、2,202…対極(第2電極)、3…電解質、4…封止部、9…金属基板、10…触媒膜(導電層)、201…樹脂層、100,200,300…色素増感型太陽電池(光電変換素子)、301…作用極(第2電極)、302…対極(第1電極)、307…導電膜(導電層)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明導電電極を構成する第1電極と、
前記第1電極に対向して設けられる第2電極と、
前記第1電極及び前記第2電極を連結する封止部と、
前記第1電極、前記第2電極及び前記封止部によって包囲されるセル空間に充填される電解質とを備え、
前記第2電極が、チタン、白金及びニッケルからなる群より選択される少なくとも1種の金属から構成される金属基板と、前記金属基板に対して前記電解質側に設けられる導電層とを有し、
前記金属基板の厚さが5〜35μmであること、
を特徴とする光電変換素子。
【請求項2】
前記第1電極が、透明基板と、前記透明基板上に設けられる透明導電膜と、前記透明導電膜上に設けられ多孔質酸化物半導体層とを有する作用極であり、
前記第2電極が対極であること、
を特徴とする請求項1に記載の光電変換素子。
【請求項3】
前記第2電極が、前記金属基板に対して前記電解質と反対側に設けられる樹脂層を有すること、
を特徴とする請求項1又は2に記載の光電変換素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−198823(P2010−198823A)
【公開日】平成22年9月9日(2010.9.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−40563(P2009−40563)
【出願日】平成21年2月24日(2009.2.24)
【出願人】(000005186)株式会社フジクラ (4,463)
【Fターム(参考)】