説明

免疫増強剤

【課題】本発明はショウガ抽出物の成分を有効成分とする免疫増強剤を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明は6−ショウガオールを有効成分として含有する免疫増強剤に関する。好ましくは、6−ショウガオールは、6−ショウガオールと6−ジンゲロールとを含有する、6−ショウガオールの含有量が6−ジンゲロールの含有量に対して1.6倍以上であるショウガ抽出物の形態で含有される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は6−ショウガオールを有効成分として含有する免疫増強剤に関する。
【背景技術】
【0002】
6−ショウガオール及び6−ジンゲロールはショウガ根茎及びその抽出物中に含まれる成分である。特許文献1によればショウガ根茎中の6−ショウガオール等のショウガオール類の含有量は、6−ジンゲロール等のジンゲロール類の含有量よりも小さい。
【0003】
これらの成分に着目した技術として例えば以下の先行技術がある。
特許文献1には、これらの成分を含有するショウガ抽出物が体温上昇作用を奏することが記載されている。
【0004】
特許文献2にはショウガオール類を含有する糖尿病及び/又は肥満の治療予防剤が記載されている。具体的な実施形態として6−ショウガオールを0.005wt%(5.0mg%)含有する清涼飲料が開示されている。
【0005】
特許文献3には、ジンゲロールとショウガオールを10:1〜1:10の重量濃度比で、合計0.001重量%以上含有し、香気成分であるar−クルクメンの含有量が15mg/kg以下であり、糖質の濃度が40〜90重量%であるショウガ加工食品組成物が記載されている。特許文献3では、健康機能性の優れたショウガオールの含有量を増大させるために、ショウガ抽出物等を加熱することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第3462839号公報
【特許文献2】特開2008−189571号公報
【特許文献3】特開2010−124786号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ショウガ抽出物を含有する飲料等は体を温める作用を有すると消費者に認識されている。
【0008】
しかしながら、ショウガ抽出物を含有する飲料等が免疫増強作用を奏するか否かは従来検討されていない。免疫増強作用を奏する組成物は、免疫力を維持することにより風邪をひき難くする効果を有すると期待される。
【0009】
そこで本発明はショウガの成分を有効成分とする免疫増強剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは6−ショウガオールを含有するショウガ抽出物が免疫増強作用を奏することを見出し、本発明を完成させるに至った。本発明は以下の発明を包含する。
(1)6−ショウガオールを有効成分として含有する免疫増強剤。
(2)6−ショウガオールを、これを含有するショウガ抽出物の形態で含有する請求項1記載の免疫増強剤。
【0011】
(3)6−ショウガオールを、6−ショウガオールと6−ジンゲロールとを含有するショウガ抽出物の形態で含有し、
該ショウガ抽出物における6−ショウガオールの含有量が6−ジンゲロールの含有量に対して1.6倍以上である、
(2)の免疫増強剤。
(4)1日あたり0.01〜0.06mg/kg体重の6−ショウガオールがヒトに対して経口摂取されるように用いられる、(1)〜(3)のいずれかの免疫増強剤。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、6−ショウガオールを有効成分とする免疫増強剤が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】図1は、対照群、実施例寒冷ストレス群及び対照寒冷ストレス群における、検体投与後のマウスの体温変化を示す。
【図2】図2は、対照群、実施例寒冷ストレス群及び対照寒冷ストレス群における、マウスの脾臓リンパ球の細胞障害性(NK活性)を示す。
【図3】図3は、実施例寒冷ストレス群の試験スケジュールを模式的に示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の免疫増強剤の有効成分として用いられる6−ショウガオールは、これを含有するショウガ抽出物の形態のものであってもよいし、合成されたものであってもよいし、ショウガ等の植物に由来するものであってもよい。
【0015】
6−ショウガオールは、好ましくは、ショウガ抽出物の形態、より好ましくは、6−ショウガオールと6−ジンゲロールとを含有するショウガ抽出物の形態で用いられる。特に好ましくは、6−ショウガオールの含有量が6−ジンゲロールの含有量に対して1.6倍以上であるショウガ抽出物の形態で用いられる。
【0016】
ショウガ(Zingiber officinale)はショウガ目ショウガ科に属する。本発明で用いられるショウガ抽出物はショウガの根茎の抽出物を指す。
【0017】
ショウガの根茎における6−ショウガオールの含有量は、6−ジンゲロールの含有量よりも少ない。このため、通常の方法で調製されるショウガ抽出物中では6−ショウガオールの含有量が6−ジンゲロールの含有量に対して大幅に少なく、通常は6−ショウガオールの含有量は、6−ジンゲロールの含有量に対して1/5にも満たない。本発明者らは、ショウガ抽出物または抽出前のショウガ原料を加熱処理することにより6−ジンゲロールが減少し、6−ショウガオールが増加して、上記比率を満足するショウガ抽出物を得ることができることを見出した。
【0018】
6−ショウガオールの含有量が6−ジンゲロールの含有量に対して1.6倍以上、好ましくは2倍以上に高められたショウガ抽出物は、辛味を高めることなく免疫増強を達成することができるため好ましい。上記比率を実現するためには、ショウガ抽出物等を100〜130℃の温度で24〜60時間加熱処理することが好ましい。なお特許文献3の段落0015に開示されている条件(100℃以上、0.5〜5時間)での加熱処理では、加熱時間が短いために6−ショウガオールの含有量は6−ジンゲロールの含有量を超えることはできず、上記比率を達成することはできない。特許文献3の段落0023の実施例1に開示されている条件(115℃以上、2時間)での加熱処理では、6−ショウガオールの含有量は6−ジンゲロールの含有量に対して約0.47となる(段落0024)。
【0019】
ショウガ抽出物の調製において加熱処理を行う時点は特に限定されず、ショウガ抽出物を加熱処理してもよいし、抽出前のショウガ原料(例えば、ショウガ根茎を潰して得られるショウガ粉砕物や、ショウガ根茎を圧搾して得られるショウガ絞り汁)を加熱処理してもよい。
【0020】
ショウガ抽出物の調製のための抽出媒体は6−ショウガオール及び6−ジンゲロールを溶出可能なものであれば特に限定されず、典型的にはアセトン、低級アルコール、ヘキサン、酢酸エチル等の有機溶媒、超臨界二酸化炭素等の超臨界流体、が挙げられる。抽出は通常の方法により行うことができる。ショウガ抽出物の範囲には、ショウガ抽出物を分画して得られる6−ショウガオール及び6−ジンゲロールを含有するフラクションも包含される。
【0021】
本発明の免疫増強剤は少量の摂取で効果を奏することができる。好ましくは、本発明の免疫増強剤は1日あたり0.01〜0.1mg/kg体重の6−ショウガオールがヒトに対して経口摂取されるように用いられる。免疫増強剤の経口摂取は数日間以上(例えば5日間以上)継続することが好ましい。
【0022】
本発明の免疫増強剤はヒト等の哺乳動物において免疫力を高める作用だけでなく、ストレスによる免疫力の低下を抑制する作用を奏する。すなわち本発明の免疫増強剤の範囲には、免疫低下抑制剤も包含される。
【0023】
本発明の免疫増強剤は飲食品組成物または医薬品組成物(医薬部外品組成物を含む。以下同じ)等の任意の形態であってよい。
【0024】
飲食品組成物の形態としては、飲料、固形食品、半固形食品等が挙げられる。飲料としては、具体的には、果汁飲料、清涼飲料、アルコール飲料等が挙げられる。固形食品としては、例えば、飴、トローチ等を含む錠剤(タブレット)や糖衣錠の形態、顆粒の形態、粉末飲料、粉末スープ等の粉末の形態、ビスケット等のブロック菓子類の形態、カプセル、ゼリー等の形態等、種々の形態が挙げられる。半固形食品としては、例えばジャムのようなペーストの形態、チューイングガムのようなガムの形態が挙げられる。これらの飲食品組成物には6−ショウガオール、又は6−ショウガオールを含有するショウガ抽出物のほかに、本発明の所望の効果が損なわれない範囲で、飲食品原料として通常用いられる種々の成分を配合することができる。これらの成分は単独で、または組み合わされて使用され得る。
【0025】
飲食品組成物としては特に飲料の形態が好ましい。本発明の免疫増強剤が飲料の形態の場合、該飲料中の6−ショウガオールの含有量は1.0mg%以上であることが好ましく、1.5mg%以上であることがより好ましい。該飲料では、6−ショウガオールは、6−ショウガオールと6−ジンゲロールとを含有する、6−ショウガオールの含有量が6−ジンゲロールの含有量に対して1.6倍以上であるショウガ抽出物の形態で含有されることが好ましく、該飲料では更に、6−ショウガオールの含有量と6−ジンゲロールの含有量との合計が5.0mg%以下であることが好ましい。なお「mg%」とは、飲料100gあたりの質量(単位=mg)を指す。
【0026】
飲料を調製するための他の成分としては例えば水、果糖ブドウ糖液糖、環状オリゴ糖、酸味料、増粘剤、イノシトール、香料、ナイアシン、酸化防止剤、ビタミン類、甘味料等が挙げられる。酸味料としては、クエン酸、リンゴ酸、グルコン酸、酒石酸、或いはこれらの塩等が挙げられる。増粘剤としては、ジェランガム、キサンタンガム、ペクチン、グアーガム、発酵セルロース等の増粘多糖類が挙げられる。甘味料としては、ショ糖、果糖、ブドウ糖、液糖等の糖類、はちみつ、スクラロース、アセスルファムカリウム、ソーマチン、アスパルテーム等の高甘味度甘味料が挙げられる。酸化防止剤としては、ビタミンC、酵素処理ルチン等が挙げられる。ビタミン類としては、ビタミンB、ビタミンB、ビタミンE等が挙げられる。これらの成分は単独で、または組み合わされて使用され得る。
【0027】
医薬品組成物としては種々の投与形態用に製剤化されたものを使用することができる。医薬品組成物の製剤形態は特に制限はなく、液剤、錠剤、顆粒剤、細粒、散剤、チュアブル剤等の経口剤、注射剤等の非経口剤等の通常の製剤形態が挙げられ、経口剤であることが好ましい。上記製剤は6−ショウガオールや6−ショウガオールを含有するショウガ抽出物と、賦形剤等の製薬上許容される他の成分とを使用して常法により調製することができる。
【実施例】
【0028】
(検体)
実施例の液剤:ショウガ根茎の乾燥物より超臨界抽出法で得られた抽出物を120℃で48時間加熱して製造したショウガ抽出物(6−ショウガオール濃度:10質量%、6−ジンゲロール濃度:4.2質量%)をウェルソルブで希釈したもの。
対照検体:生理食塩水
【0029】
(試験動物)
検疫馴化終了後に、体重を基に完全無作為化法で1群7匹のマウスを3群に群分け、後記の体温低下の測定試験を実施した。また、同様に群分けした別の3群のマウスについて後記のNK活性の測定試験を実施した。
【0030】
(試験方法)
試験動物を次の3群に群分けした。
対照群:25℃の室内で5日間寒冷ストレスを負荷しない状態で生理食塩水を10ml/kg体重の割合で一日のはじめに5日間連続経口投与した群
実施例寒冷ストレス群:5℃の低温室内で5日間(1日目4時間、2日目7時間、3日目と4日目24時間、5日目10時間)飼育し寒冷ストレスを負荷する(1日目、2日目の他の時間は25℃の室内で飼育する)と共に、負荷期間中実施例の液剤を10ml/kg体重(ショウガ抽出物15mg/kg体重、6−ショウガオール1.5mg/kg体重が含まれる※)の割合で一日のはじめに5日間連続経口投与した群。この群の試験スケジュールを図3に模式的に示す。
対照寒冷ストレス群:前記と同様に寒冷ストレスを負荷すると共に、負荷期間中生理食塩水を10ml/kg体重の割合で一日のはじめに5日間連続経口投与した群
※6−ショウガオールの投与量の決定方法
6−ショウガオールのヒトへの投与量を1日あたり0.03 mg/kg体重(50kgのヒトに対する一日投与量が1.5mg)と設定した。ヒトでの投与量の有効性を、マウスを用いた試験により評価するために通常用いられる換算係数が50である。そこで、本試験では、ヒトでの投与量(1日あたり0.03 mg/kg体重)の有効性を評価するために、マウスへの1日あたりの投与量を1.5mg/kg体重(=0.03 mg/kg体重×50)とした。
【0031】
(体温低下の測定)
5日目検体投与時及び投与してから10時間後まで一定時間ごとにマウスの体温を体温計を肛門から挿入して腸内体温を測定することで求め、各群についてマウスの体温の平均値を測定した。
結果を表1及び図2に示す。
【0032】
【表1】

【0033】
(NK(ナチュラル・キラー)活性の測定)
5日目4時間後各群のマウスより採血すると共に脾臓を無菌的に摘出して重量を測定した。摘出した脾臓よりリンパ球懸濁液を調製した。脾臓リンパ球懸濁液と蛍光標識したYAC−1細胞を混合・インキュベートし、FACSにより細胞障害性(%)を測定した。
結果を表2及び図2に示す。
【0034】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
6−ショウガオールを有効成分として含有する免疫増強剤。
【請求項2】
6−ショウガオールを、これを含有するショウガ抽出物の形態で含有する請求項1記載の免疫増強剤。
【請求項3】
6−ショウガオールを、6−ショウガオールと6−ジンゲロールとを含有するショウガ抽出物の形態で含有し、
該ショウガ抽出物における6−ショウガオールの含有量が6−ジンゲロールの含有量に対して1.6倍以上である、
請求項2記載の免疫増強剤。
【請求項4】
1日あたり0.01〜0.1mg/kg体重の6−ショウガオールがヒトに対して経口摂取されるように用いられる、請求項1〜3のいずれか1項に記載の免疫増強剤。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2012−51811(P2012−51811A)
【公開日】平成24年3月15日(2012.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−193205(P2010−193205)
【出願日】平成22年8月31日(2010.8.31)
【出願人】(000111487)ハウス食品株式会社 (262)
【Fターム(参考)】