免震構造
【課題】変位を抑制しつつ免震効果を充分に発揮し得る有効適切な免震構造を提供する。
【解決手段】構造体1を構造体バネ2と構造体減衰3を介して固定端に接続し、構造体の地震動入力に対する応答変位を低減させるための応答低減機構を構造体バネと並列に設置する。応答低減機構を、慣性質量ダンパー4と、慣性質量ダンパーに対して直列に接続した付加減衰7と、付加減衰に対して並列に接続した復元バネ5’とにより構成し、復元バネ5’のバネ剛性k2および付加減衰7の減衰係数Cd2を、構造体バネ2のバネ剛性k1、構造体1の質量m、慣性質量ダンパー4の慣性質量ψ2に基づいて適正に設定する。付加減衰にリリーフ機構を付加し、慣性質量ダンパーに過負荷防止機構を付加しても良い。
【解決手段】構造体1を構造体バネ2と構造体減衰3を介して固定端に接続し、構造体の地震動入力に対する応答変位を低減させるための応答低減機構を構造体バネと並列に設置する。応答低減機構を、慣性質量ダンパー4と、慣性質量ダンパーに対して直列に接続した付加減衰7と、付加減衰に対して並列に接続した復元バネ5’とにより構成し、復元バネ5’のバネ剛性k2および付加減衰7の減衰係数Cd2を、構造体バネ2のバネ剛性k1、構造体1の質量m、慣性質量ダンパー4の慣性質量ψ2に基づいて適正に設定する。付加減衰にリリーフ機構を付加し、慣性質量ダンパーに過負荷防止機構を付加しても良い。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は建物等の構造物を対象とする免震構造、特に既存の免震構造建物に対して応答低減機構を付加することによって地震時の応答変位を大幅に低減させ得る免震構造に関する。
【背景技術】
【0002】
周知のように免震構造は1980年代から案件適用が始まり、1995年の阪神大震災の後に普及した構法である。一方、地震動については1990年代後半から長周期地震動に対する検討が行われるようになったものの、それ以前には観測波と建設地での模擬波だけで設計されることが多かった。
免震構造は長周期化と減衰の付与によって地震時の応答低減を図るものであるので、従来の設計用地震力のように短周期成分が卓越していて長周期化していくと入力が小さくなる場合には問題ないが、長周期地震動のように長周期化しても入力が低下しない場合には大きな変位が生じる可能性がある。
そのため、2000年以前に建設された免震建物では、設計当時の想定を超えた長周期地震動により応答変位が免震クリアランス(地盤に一体化された擁壁等と免震構造体との間の隙間)に納まらずに躯体が擁壁に衝突してしまうことも想定され、そのような既存の免震建物に長周期地震動が作用しても過大な応答変位が生じないようにするための対策が求められている。
【0003】
免震構造において変位を抑制するための対策としては、以下の手法が知られている。
(a)免震層のバネ剛性を増大する。
この手法では応答変位は小さくなるが、短周期化してしまい免震効果が大幅に低下(応答加速度が大幅に増大)してしまい、有効ではない。
(b)免震層に減衰を付加する。
免震層にオイルダンパー等の減衰装置を付加することで短周期化せずに応答変位を低減できるが、応答加速度が増大するデメリットがある。また、高振動数域(短周期領域)では応答変位がほぼ地動変位となることから、加速度の増大を抑制しながら大幅に変位を低減することは難しい。
【0004】
(c)免震層に慣性質量ダンパーを付加する。
図11に示すモデルのように、構造体バネ2と構造体減衰3により免震支持されている質量mの構造体(既存免震建物)1に対し、免震層の水平剛性(すなわち構造体バネ2のバネ剛性k1)と並列に慣性質量ダンパー4による慣性質量ψ1を付与することにより、長周期化しつつ応答変位を低減できる。
しかし、高振動数域において応答変位はm/(m+ψ1)倍に低減されるものの、応答加速度はψ1/(m+ψ1)倍までしか低減されず、高振動数域においては慣性質量ダンパーを設置することで応答加速度が増大するという問題がある。
【0005】
(d)免震層に慣性質量ダンパーと付加バネを直列に接続した応答低減機構を付加する。
図12に示すモデルのように、特許文献1に開示されているような応答低減機構、すなわち慣性質量ダンパー4と付加バネ5とを直列に接続した応答低減機構を免震層の水平剛性と並列に設置する。この場合、慣性質量ダンパー4には第1の付加減衰6(図では付加減衰1と記している)を並列に接続するか、あるいは慣性質量ダンパー4として第1の付加減衰6を並列に組み込んだものを用いる。また、付加バネ5には第2の付加減衰7(同、付加減衰2)を並列に接続する。なお、第1の付加減衰6あるいは第2の付加減衰7のいずれかを省略する場合もある。
そして、その応答低減機構の固有周期T’を、慣性質量ダンパー4による慣性質量ψ2と付加バネ5のバネ剛性k2に基づいて図中に示すような関係に設定して構造体1の固有周期と同調させることにより、共振時の応答を大幅に改善することが可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009−180346号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記(d)に示した応答低減機構によれば、第2の付加減衰7が比較的小さくても、同調により当該部の変位が拡大して大きなエネルギー吸収を図れる特徴があるが、第2の付加減衰7の変位が大きくなるためストロークの大きな減衰装置が必要となり、その第2の付加減衰としてストロークが500〜600mmもの大ストロークの免震用オイルダンパーを用いなければならず、その点では改善の余地を残している。
【0008】
上記事情に鑑み、本発明は上記従来の応答低減機構をさらに改良して、変位を抑制しつつ免震効果を充分に発揮し得る有効適切な免震構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、構造体を構造体バネと構造体減衰を介して固定端に接続するとともに、前記構造体の地震動入力に対する応答変位を低減させるための応答低減機構を前記構造体バネと並列に設置してなる免震構造であって、前記応答低減機構を、慣性質量ダンパーと、該慣性質量ダンパーに対して直列に接続した付加減衰と、該付加減衰に対して並列に接続した復元バネとにより構成し、前記復元バネのバネ剛性k2、および前記付加減衰の減衰係数Cd2を、前記構造体バネのバネ剛性k1、前記構造体の質量m、前記慣性質量ダンパーの慣性質量ψ2に基づき、次の関係を満足するように設定してなることを特徴とする。
【0010】
【数1】
【0011】
なお、本発明では前記付加減衰にリリーフ機構を付加することが好ましい。また、付加減衰にリリーフ機構を付加することに代えて、もしくはそれに加えて、前記慣性質量ダンパーに過負荷防止機構を付加することも好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、固定端に対して免震支持される構造体に対して、慣性質量ダンパーと付加減衰と復元バネとによる応答低減機構を設置し、復元バネおよび付加減衰の諸元を適正に設定することにより、構造体の加速度を制御しつつ変位を大幅に低減することができる。
特に、本発明によれば、長周期地震動のように長周期成分が卓越する場合でも免震層の過大な変位が防止され、したがって過去の基準により設計された既存免震建物に対して本発明の応答低減機構を付加することで、設計当時の想定を超える長周期地震動による応答変位を免震クリアランスの範囲に納まるように低減させることができ、躯体が擁壁に衝突してしまうといった事態を未然に防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の実施形態である免震構造の概要を示すモデル図である。
【図2】同、設計例1についての解析結果を示す図である。
【図3】同、解析に使用する地震波(1)を示す図である。
【図4】同、解析に使用する地震波(2)を示す図である。
【図5】同、解析に使用する地震波(3)を示す図である。
【図6】同、地震波(1)による時刻歴応答解析結果を示す図である。
【図7】同、地震波(2)による時刻歴応答解析解析結果を示す図である。
【図8】同、地震波(3)による時刻歴応答解析解析結果を示す図である。
【図9】同、設計例1についての解析結果をまとめて示す図である。
【図10】同、設計例2についての解析結果をまとめて示す図である。
【図11】従来の免震構造の一例を示す図である。
【図12】従来の免震構造の他の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
図1は本発明の免震構造の実施形態をモデルとして示すものである。これは(a)に示すような既存の免震建物に対して(b)に示すように応答低減機構を付加することで構造体の応答変位を大きく抑制するようにしたものである。なお、上述した従来の免震構造と共通する要素については同一符号を付してある。
本実施形態の応答低減機構は、慣性質量ダンパー4と直列に主たる減衰要素としての付加減衰7(以下ではこれを上述の応答低減機構の場合と同様に第2の付加減衰7という。但し図1では付加減衰2と記す)を接続し、その第2の付加減衰7と並列に復元バネ5’を接続した構成としている。
慣性質量ダンパー4には第1の付加減衰6(図1では付加減衰1)を並列に接続するか、あるいは慣性質量ダンパー4として第1の付加減衰6を並列に組み込んだものを用いれば良いが、この第1の付加減衰6の効果は小さいので省略することも可能であり、その場合は、慣性質量ダンパー4と第2の付加減衰7と復元バネ5’とにより応答低減機構が構成されることになる。
【0015】
本発明における上記の応答低減機構は、図12に示した従来の応答低減機構と同様に、慣性質量ダンパー4と第2の付加減衰7を直列に接続した応答低減機構を免震層の剛性(構造体バネk1)と並列に付加するものであるが、従来のものが慣性質量ψ2と付加バネ5のバネ剛性k2とによる同調機構であるのに対し、本発明ではそのような同調を行うものではなく、従来における同調用の付加バネ5に代えて残留変形を防止するための単なる復元バネ5’を設置するに留めており、したがってその復元バネ5’のバネ剛性k2は次式により従来における付加バネ5のバネ剛性k2に比較して充分に小さく設定することができる。
そして本発明では、復元バネ5’のバネ剛性k2を、構造体バネ2のバネ剛性k1、構造体1の質量m、慣性質量ダンパー4の慣性質量ψ2に基づき、次の関係を満足するように設定する。
【0016】
【数2】
【0017】
また、本発明においては第2の付加減衰7が慣性質量ダンパー4と直列に配置された主たる減衰要素であり、その第2の付加減衰7の減衰係数Cd2を第1の付加減衰6の減衰係数Cd1よりも充分に大きくし(Cd2≫Cd1)、かつ次式により過減衰(減衰定数hd2>1.0)となるように第2の減衰係数Cd2を充分に大きく設定する必要がある。
すなわち、本発明では第2の付加減衰7の減衰係数Cd2を、構造体バネ2のバネ剛性k1、構造体1の質量m、慣性質量ダンパー4の慣性質量ψ2に基づき、次の関係を満足するように設定する。
【0018】
【数3】
【0019】
なお、本発明において使用する慣性質量ダンパー4としては、特許文献1にも開示されているようにたとえばボールねじ機構とフライホイール(回転錘)とを組み合わせたものが好適に採用可能であり、それによれば回転錘の実際の質量の数百倍以上もの大きな質量効果が得られるものである。
そして、本発明では慣性質量ダンパー4に過負荷防止機構を付加することが好ましい。すなわち、たとえば上記のようなボールねじ機構とフライホイールとによる慣性質量ダンパー4の場合には,回転錘をボールねじ機構に対して摩擦材を介して接合することにより回転錘からの伝達トルクを頭打ちにした過負荷防止機構(フェールセーフ機構)とすることができ、それにより慣性質量ダンパー4が所望の相対加速度α以上で摩擦材が滑ってトルクを頭打ちとすることができる。
この場合、構造体1の質量mに対する慣性質量ψ2の比が大きいほど変位抑制効果があるが、その比が過度に大きいと加速度が増加するので、次式の範囲で設定することが好ましい。
【0020】
【数4】
【0021】
また、本発明における第2の付加減衰7の変位は小さいので一般的な小ストロークの制震用オイルダンパーを使用できるが、その第2の付加減衰7にはリリーフ機構を付加することが好ましい。たとえば、第2の付加減衰7としてオイルダンパーを使用する場合には、そのオイルダンパーのシリンダー内圧が一定以上になった際に逃がし弁を開いて内圧を所定以内にするようなリリーフ機構を付加することにより、第2の付加減衰7の負担力を頭打ちにすることができる。
【0022】
以下、本発明の具体的な設計例とその効果について説明する。
・設計例1
既存の免震建物としての構造体1の諸元を以下とする。
構造体1の質量m=10000ton、免震層の水平剛性(構造体バネ)k1=35.5kN/mm、固有振動数f=0.3Hz、固有周期T=3.33sec、免震層の減衰定数h=0.2として構造体減衰C1=75.4kN/kine。
上記の免震建物に付加する応答低減機構の諸元を以下とする。
慣性質量ダンパー4には過負荷防止機構を付加せず、その慣性質量ψ2=10000ton、したがってψ2/m=1.0とする。復元バネk2=11.8kN/mm(構造体バネk1の1/3に設定。したがって同調しない)、第1の付加減衰Cd1=155kN/kine、第2の付加減衰(オイルダンパー)Cd2=3020kN/kine、減衰定数hd2=8.0>1.0(過減衰)とする。第2の付加減衰には相対速度0.025m/sで作動するリリーフ機構を付加し、リリーフ後の減衰係数はリリーフ前の0.02倍とする。
【0023】
構造体1の固有角振動数ω0、地震動の加振角振動数ωとした場合の応答倍率を図2に示す。第2の付加減衰についてはリリーフ機構が作動する前と後で大きく特性が変化するので、減衰係数をリリーフ前の線形時とリリーフ後の非線形特性時(1/10に低減するものと設定)の2ケースで求めた。なお、応答倍率とは加振振幅に対する応答振幅の比率を表したものである。
図2より、既存免震建物に本発明の応答低減機構を付加することで、高振動数域での加速度はやや増加する傾向があるが、免震層変位は大幅に低減することがわかる。特に、長周期地震動のように低振動数領域での加振成分が大きな地震動の場合、加振振動数比ξ(免震建物の1次固有振動数に対する比率)が2以下の長周期域の振動特性が重要になるが、本発明ではそのような長周期域で充分な変位抑制効果が見られる。
なお、従来のように免震層に単にオイルダンパー等の粘性減衰だけを付加する場合には、高振動数域で応答倍率が1に収斂する特性しかできないので、本発明のような大幅な変位抑制効果は期待できない。
また、本発明によれば、加振振動数比ξが大きいいわゆる短周期領域の卓越する地震動に対しては、既存免震建物よりも応答加速度がやや増大することになるが、第2の付加減衰7のリリーフ荷重を適切に設定することで加速度応答を制御することができる。
【0024】
次に、上記設計例1の免震建物に対する時刻歴応答解析を行い、本発明の効果を検証する。既存免震建物の諸元およびそれに付加する応答低減機構の諸元は上記設計例1の場合と同じとする。
長周期成分の多い地震動として、下記の3波で検討する。
(1)想定東海地震(名古屋三の丸)EW 最大加速度186gal
(2)想定南海地震(大阪湾岸WOS)NS 最大加速度84.9gal
(3)建築センター波 Level-2 最大加速度356gal
【0025】
上記の地震動に対して応答解析を行い、上記免震建物の加速度と変位を検討する。
さらに、第2の付加減衰7としてのオイルダンパーのストロークを検討するために最大応答変位を追記する。
また、付加したダンパーを含め建物全体に入力される地震エネルギーを求め、既存免震建物に入力されるエネルギーとの比較を行う。なお、地震入力エネルギー(総エネルギー入力)Eは次式で求められる。
【0026】
【数5】
【0027】
図3〜図5に各地震動の入力波形、応答スペクトルを、加速度、速度、変位について示す。また、入力加速度の振動数成分の分布をみるためフーリエスペクトルも付記する。
図6〜図8に各地震動に対する解析結果を示し、その結果を図9にまとめて示す。
図6から、想定東海地震の場合には加速度、変位とも大幅に低減されることがわかる。この場合の第2の付加減衰7の変位は13mm、総エネルギー入力は0.3倍に低減した。
図7から、想定南海地震の場合には加速度は大差ないが変位は大幅に低減されることがわかる。この場合の第2の付加減衰7の変位は6.2mm、総エネルギー入力は0.85倍に低減した。
図8から、建築センター波の場合には、加速度は微増するが変位は大幅に低減されることがわかる。この場合の第2の付加減衰7の変位は89mm、総エネルギー入力は0.81倍に低減した。
【0028】
・設計例2
上記の設計例1とは非線形特性のみを変更した場合について検討を行う。
慣性質量ダンパー4の慣性質量ψ2を設計例1と同様にψ2=10000tonとするが、過負荷防止機構により相対加速度α=0.3m/s2以上で0.02倍となるように設定する。
第2の付加減衰7は設計例1と同様にCd2=3020kN/kineのオイルダンパーとし、ここではリリーフ機構を付加しない。
【0029】
設計例2についての検討結果を図10にまとめて示す。(a)は最大応答加速度および最大応答変位を示し、(b)は第2の付加減衰7としてのオイルダンパーの変位と総エネルギー入力の低下率を示す。
図10から明らかなように、第2の付加減衰7にリリーフ機構を付加せずに慣性質量ダンパー4に過負荷防止機構を付加することによっても、加速度をあまり増加させずに変位を充分に抑制する効果が得られることがわかる。
特に設計例2において上記の設計例1と大きく異なるのは、建築センター波でのオイルダンパー(第2の付加減衰7)の変位である。設計例2では慣性質量ダンパー4の負担力が頭打ちされることでオイルダンパーに作用する荷重も頭打ちされることから、ダンパー変位が設計例1の場合の89mmから11.5mmへと大幅に低下しており、したがってダンパーストロークが充分に小さくて済むことになる。
【0030】
なお、上記設計例1では第2の付加減衰7にリリーフ機構を付加するのみとし、上記設計例2では慣性質量ダンパー4に過負荷防止機構を付加するのみとしたが、本発明においてはそれらの双方を付加する設計としても勿論良いし、双方がなくても良い。
【0031】
本発明の効果を以下に列挙する。
(1)免震で支持される構造体の加速度を制御しつつ変位を大幅に低減することができる。従来のバネと減衰(オイルダンパー等)だけによる免震構造では変位と加速度を同時に抑制することは困難であるが、本発明により従来の手法では達成できなかった「加速度を増大させずに変位を低減する」ことが可能になる。
(2)慣性質量効果を用いることでやや長周期化するが、長周期地震動のように長周期成分が卓越する場合でも免震層の過大な変位が防止され、したがって過去の基準により設計された既存免震建物に対して適用すれば長周期地震動に対しても免震クリアランスの不足を解消することができる。
但し、本発明は既存免震建物に適用するのみならず、新築免震建物に対しても有効に適用できることは当然である。
【0032】
(3)過減衰となるような大きな減衰係数を持つ付加減衰(上記実施形態における第2の付加減衰。以下同じ)を慣性質量ダンパーと直列した構成であり、固有周期より短周期側の入力が小さい場合には総エネルギー入力が低減される。総エネルギー入力とは「ダンパーを含む構造物全体に入力されることにより構造物の損傷に関わる地震エネルギー」であって、これが大きいほどダンパーで吸収すべきエネルギーが大きくなり構造物の塑性化が進むことになるから、この値を小さくすることは損傷軽減に有効であり、ダンパーの疲労破壊を防止したり構造体の損傷を抑制することが可能である。
また、その付加減衰に対して並列に復元バネを設けることにより、慣性質量ダンパーや付加減衰の残留変形を防止することができる。
【0033】
(4)付加減衰に対してリリーフ機構を付加することにより、構造体に作用する制御力が過大にならないようにすることができる。構造体に作用する力は質量×加速度なので、制御力を低減することは加速度を低減する(頭打ちにする)ことに効果的である。
【0034】
(5)慣性質量ダンパーに過負荷防止機構を設けることにより、付加減衰の変位(ストローク)が小さくて済み、免震層に設置する付加減衰として制震用の小ストロークのオイルダンパーを適用できる。制震用のオイルダンパーは免震用のオイルダンパーよりも減衰係数と負担力の大きい装置を安価に調達できるため、本発明の応答低減機構をローコストに構築できる。すなわち、一般的な免震用オイルダンパーのストロークは500〜600mm程度であるが、制震用オイルダンパーは80〜100mm程度であり、減衰係数は制震用の方が1桁大きいから、本発明によれば免震構造でありながらそのような特性の制震用オイダンパーを有効に活用できることになる。
(6)本発明の応答低減機構は免震層の下部構造と上部との間に設置するだけで良く、通常のオイルダンパーと同様に免震層上下の床梁間に設置できる。また、既存のダンパーよりも応答低減効果が大きいので、既存ダンパーの一部または全部を撤去して本発明の応答低減機構を設置することも可能である。
【符号の説明】
【0035】
1 構造体(既存免震建物)
2 構造体バネ
3 構造体減衰
4 慣性質量ダンパー
5 付加バネ
5’ 復元バネ
6 第1の付加減衰
7 第2の付加減衰(付加減衰)
【技術分野】
【0001】
本発明は建物等の構造物を対象とする免震構造、特に既存の免震構造建物に対して応答低減機構を付加することによって地震時の応答変位を大幅に低減させ得る免震構造に関する。
【背景技術】
【0002】
周知のように免震構造は1980年代から案件適用が始まり、1995年の阪神大震災の後に普及した構法である。一方、地震動については1990年代後半から長周期地震動に対する検討が行われるようになったものの、それ以前には観測波と建設地での模擬波だけで設計されることが多かった。
免震構造は長周期化と減衰の付与によって地震時の応答低減を図るものであるので、従来の設計用地震力のように短周期成分が卓越していて長周期化していくと入力が小さくなる場合には問題ないが、長周期地震動のように長周期化しても入力が低下しない場合には大きな変位が生じる可能性がある。
そのため、2000年以前に建設された免震建物では、設計当時の想定を超えた長周期地震動により応答変位が免震クリアランス(地盤に一体化された擁壁等と免震構造体との間の隙間)に納まらずに躯体が擁壁に衝突してしまうことも想定され、そのような既存の免震建物に長周期地震動が作用しても過大な応答変位が生じないようにするための対策が求められている。
【0003】
免震構造において変位を抑制するための対策としては、以下の手法が知られている。
(a)免震層のバネ剛性を増大する。
この手法では応答変位は小さくなるが、短周期化してしまい免震効果が大幅に低下(応答加速度が大幅に増大)してしまい、有効ではない。
(b)免震層に減衰を付加する。
免震層にオイルダンパー等の減衰装置を付加することで短周期化せずに応答変位を低減できるが、応答加速度が増大するデメリットがある。また、高振動数域(短周期領域)では応答変位がほぼ地動変位となることから、加速度の増大を抑制しながら大幅に変位を低減することは難しい。
【0004】
(c)免震層に慣性質量ダンパーを付加する。
図11に示すモデルのように、構造体バネ2と構造体減衰3により免震支持されている質量mの構造体(既存免震建物)1に対し、免震層の水平剛性(すなわち構造体バネ2のバネ剛性k1)と並列に慣性質量ダンパー4による慣性質量ψ1を付与することにより、長周期化しつつ応答変位を低減できる。
しかし、高振動数域において応答変位はm/(m+ψ1)倍に低減されるものの、応答加速度はψ1/(m+ψ1)倍までしか低減されず、高振動数域においては慣性質量ダンパーを設置することで応答加速度が増大するという問題がある。
【0005】
(d)免震層に慣性質量ダンパーと付加バネを直列に接続した応答低減機構を付加する。
図12に示すモデルのように、特許文献1に開示されているような応答低減機構、すなわち慣性質量ダンパー4と付加バネ5とを直列に接続した応答低減機構を免震層の水平剛性と並列に設置する。この場合、慣性質量ダンパー4には第1の付加減衰6(図では付加減衰1と記している)を並列に接続するか、あるいは慣性質量ダンパー4として第1の付加減衰6を並列に組み込んだものを用いる。また、付加バネ5には第2の付加減衰7(同、付加減衰2)を並列に接続する。なお、第1の付加減衰6あるいは第2の付加減衰7のいずれかを省略する場合もある。
そして、その応答低減機構の固有周期T’を、慣性質量ダンパー4による慣性質量ψ2と付加バネ5のバネ剛性k2に基づいて図中に示すような関係に設定して構造体1の固有周期と同調させることにより、共振時の応答を大幅に改善することが可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009−180346号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記(d)に示した応答低減機構によれば、第2の付加減衰7が比較的小さくても、同調により当該部の変位が拡大して大きなエネルギー吸収を図れる特徴があるが、第2の付加減衰7の変位が大きくなるためストロークの大きな減衰装置が必要となり、その第2の付加減衰としてストロークが500〜600mmもの大ストロークの免震用オイルダンパーを用いなければならず、その点では改善の余地を残している。
【0008】
上記事情に鑑み、本発明は上記従来の応答低減機構をさらに改良して、変位を抑制しつつ免震効果を充分に発揮し得る有効適切な免震構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、構造体を構造体バネと構造体減衰を介して固定端に接続するとともに、前記構造体の地震動入力に対する応答変位を低減させるための応答低減機構を前記構造体バネと並列に設置してなる免震構造であって、前記応答低減機構を、慣性質量ダンパーと、該慣性質量ダンパーに対して直列に接続した付加減衰と、該付加減衰に対して並列に接続した復元バネとにより構成し、前記復元バネのバネ剛性k2、および前記付加減衰の減衰係数Cd2を、前記構造体バネのバネ剛性k1、前記構造体の質量m、前記慣性質量ダンパーの慣性質量ψ2に基づき、次の関係を満足するように設定してなることを特徴とする。
【0010】
【数1】
【0011】
なお、本発明では前記付加減衰にリリーフ機構を付加することが好ましい。また、付加減衰にリリーフ機構を付加することに代えて、もしくはそれに加えて、前記慣性質量ダンパーに過負荷防止機構を付加することも好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、固定端に対して免震支持される構造体に対して、慣性質量ダンパーと付加減衰と復元バネとによる応答低減機構を設置し、復元バネおよび付加減衰の諸元を適正に設定することにより、構造体の加速度を制御しつつ変位を大幅に低減することができる。
特に、本発明によれば、長周期地震動のように長周期成分が卓越する場合でも免震層の過大な変位が防止され、したがって過去の基準により設計された既存免震建物に対して本発明の応答低減機構を付加することで、設計当時の想定を超える長周期地震動による応答変位を免震クリアランスの範囲に納まるように低減させることができ、躯体が擁壁に衝突してしまうといった事態を未然に防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の実施形態である免震構造の概要を示すモデル図である。
【図2】同、設計例1についての解析結果を示す図である。
【図3】同、解析に使用する地震波(1)を示す図である。
【図4】同、解析に使用する地震波(2)を示す図である。
【図5】同、解析に使用する地震波(3)を示す図である。
【図6】同、地震波(1)による時刻歴応答解析結果を示す図である。
【図7】同、地震波(2)による時刻歴応答解析解析結果を示す図である。
【図8】同、地震波(3)による時刻歴応答解析解析結果を示す図である。
【図9】同、設計例1についての解析結果をまとめて示す図である。
【図10】同、設計例2についての解析結果をまとめて示す図である。
【図11】従来の免震構造の一例を示す図である。
【図12】従来の免震構造の他の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
図1は本発明の免震構造の実施形態をモデルとして示すものである。これは(a)に示すような既存の免震建物に対して(b)に示すように応答低減機構を付加することで構造体の応答変位を大きく抑制するようにしたものである。なお、上述した従来の免震構造と共通する要素については同一符号を付してある。
本実施形態の応答低減機構は、慣性質量ダンパー4と直列に主たる減衰要素としての付加減衰7(以下ではこれを上述の応答低減機構の場合と同様に第2の付加減衰7という。但し図1では付加減衰2と記す)を接続し、その第2の付加減衰7と並列に復元バネ5’を接続した構成としている。
慣性質量ダンパー4には第1の付加減衰6(図1では付加減衰1)を並列に接続するか、あるいは慣性質量ダンパー4として第1の付加減衰6を並列に組み込んだものを用いれば良いが、この第1の付加減衰6の効果は小さいので省略することも可能であり、その場合は、慣性質量ダンパー4と第2の付加減衰7と復元バネ5’とにより応答低減機構が構成されることになる。
【0015】
本発明における上記の応答低減機構は、図12に示した従来の応答低減機構と同様に、慣性質量ダンパー4と第2の付加減衰7を直列に接続した応答低減機構を免震層の剛性(構造体バネk1)と並列に付加するものであるが、従来のものが慣性質量ψ2と付加バネ5のバネ剛性k2とによる同調機構であるのに対し、本発明ではそのような同調を行うものではなく、従来における同調用の付加バネ5に代えて残留変形を防止するための単なる復元バネ5’を設置するに留めており、したがってその復元バネ5’のバネ剛性k2は次式により従来における付加バネ5のバネ剛性k2に比較して充分に小さく設定することができる。
そして本発明では、復元バネ5’のバネ剛性k2を、構造体バネ2のバネ剛性k1、構造体1の質量m、慣性質量ダンパー4の慣性質量ψ2に基づき、次の関係を満足するように設定する。
【0016】
【数2】
【0017】
また、本発明においては第2の付加減衰7が慣性質量ダンパー4と直列に配置された主たる減衰要素であり、その第2の付加減衰7の減衰係数Cd2を第1の付加減衰6の減衰係数Cd1よりも充分に大きくし(Cd2≫Cd1)、かつ次式により過減衰(減衰定数hd2>1.0)となるように第2の減衰係数Cd2を充分に大きく設定する必要がある。
すなわち、本発明では第2の付加減衰7の減衰係数Cd2を、構造体バネ2のバネ剛性k1、構造体1の質量m、慣性質量ダンパー4の慣性質量ψ2に基づき、次の関係を満足するように設定する。
【0018】
【数3】
【0019】
なお、本発明において使用する慣性質量ダンパー4としては、特許文献1にも開示されているようにたとえばボールねじ機構とフライホイール(回転錘)とを組み合わせたものが好適に採用可能であり、それによれば回転錘の実際の質量の数百倍以上もの大きな質量効果が得られるものである。
そして、本発明では慣性質量ダンパー4に過負荷防止機構を付加することが好ましい。すなわち、たとえば上記のようなボールねじ機構とフライホイールとによる慣性質量ダンパー4の場合には,回転錘をボールねじ機構に対して摩擦材を介して接合することにより回転錘からの伝達トルクを頭打ちにした過負荷防止機構(フェールセーフ機構)とすることができ、それにより慣性質量ダンパー4が所望の相対加速度α以上で摩擦材が滑ってトルクを頭打ちとすることができる。
この場合、構造体1の質量mに対する慣性質量ψ2の比が大きいほど変位抑制効果があるが、その比が過度に大きいと加速度が増加するので、次式の範囲で設定することが好ましい。
【0020】
【数4】
【0021】
また、本発明における第2の付加減衰7の変位は小さいので一般的な小ストロークの制震用オイルダンパーを使用できるが、その第2の付加減衰7にはリリーフ機構を付加することが好ましい。たとえば、第2の付加減衰7としてオイルダンパーを使用する場合には、そのオイルダンパーのシリンダー内圧が一定以上になった際に逃がし弁を開いて内圧を所定以内にするようなリリーフ機構を付加することにより、第2の付加減衰7の負担力を頭打ちにすることができる。
【0022】
以下、本発明の具体的な設計例とその効果について説明する。
・設計例1
既存の免震建物としての構造体1の諸元を以下とする。
構造体1の質量m=10000ton、免震層の水平剛性(構造体バネ)k1=35.5kN/mm、固有振動数f=0.3Hz、固有周期T=3.33sec、免震層の減衰定数h=0.2として構造体減衰C1=75.4kN/kine。
上記の免震建物に付加する応答低減機構の諸元を以下とする。
慣性質量ダンパー4には過負荷防止機構を付加せず、その慣性質量ψ2=10000ton、したがってψ2/m=1.0とする。復元バネk2=11.8kN/mm(構造体バネk1の1/3に設定。したがって同調しない)、第1の付加減衰Cd1=155kN/kine、第2の付加減衰(オイルダンパー)Cd2=3020kN/kine、減衰定数hd2=8.0>1.0(過減衰)とする。第2の付加減衰には相対速度0.025m/sで作動するリリーフ機構を付加し、リリーフ後の減衰係数はリリーフ前の0.02倍とする。
【0023】
構造体1の固有角振動数ω0、地震動の加振角振動数ωとした場合の応答倍率を図2に示す。第2の付加減衰についてはリリーフ機構が作動する前と後で大きく特性が変化するので、減衰係数をリリーフ前の線形時とリリーフ後の非線形特性時(1/10に低減するものと設定)の2ケースで求めた。なお、応答倍率とは加振振幅に対する応答振幅の比率を表したものである。
図2より、既存免震建物に本発明の応答低減機構を付加することで、高振動数域での加速度はやや増加する傾向があるが、免震層変位は大幅に低減することがわかる。特に、長周期地震動のように低振動数領域での加振成分が大きな地震動の場合、加振振動数比ξ(免震建物の1次固有振動数に対する比率)が2以下の長周期域の振動特性が重要になるが、本発明ではそのような長周期域で充分な変位抑制効果が見られる。
なお、従来のように免震層に単にオイルダンパー等の粘性減衰だけを付加する場合には、高振動数域で応答倍率が1に収斂する特性しかできないので、本発明のような大幅な変位抑制効果は期待できない。
また、本発明によれば、加振振動数比ξが大きいいわゆる短周期領域の卓越する地震動に対しては、既存免震建物よりも応答加速度がやや増大することになるが、第2の付加減衰7のリリーフ荷重を適切に設定することで加速度応答を制御することができる。
【0024】
次に、上記設計例1の免震建物に対する時刻歴応答解析を行い、本発明の効果を検証する。既存免震建物の諸元およびそれに付加する応答低減機構の諸元は上記設計例1の場合と同じとする。
長周期成分の多い地震動として、下記の3波で検討する。
(1)想定東海地震(名古屋三の丸)EW 最大加速度186gal
(2)想定南海地震(大阪湾岸WOS)NS 最大加速度84.9gal
(3)建築センター波 Level-2 最大加速度356gal
【0025】
上記の地震動に対して応答解析を行い、上記免震建物の加速度と変位を検討する。
さらに、第2の付加減衰7としてのオイルダンパーのストロークを検討するために最大応答変位を追記する。
また、付加したダンパーを含め建物全体に入力される地震エネルギーを求め、既存免震建物に入力されるエネルギーとの比較を行う。なお、地震入力エネルギー(総エネルギー入力)Eは次式で求められる。
【0026】
【数5】
【0027】
図3〜図5に各地震動の入力波形、応答スペクトルを、加速度、速度、変位について示す。また、入力加速度の振動数成分の分布をみるためフーリエスペクトルも付記する。
図6〜図8に各地震動に対する解析結果を示し、その結果を図9にまとめて示す。
図6から、想定東海地震の場合には加速度、変位とも大幅に低減されることがわかる。この場合の第2の付加減衰7の変位は13mm、総エネルギー入力は0.3倍に低減した。
図7から、想定南海地震の場合には加速度は大差ないが変位は大幅に低減されることがわかる。この場合の第2の付加減衰7の変位は6.2mm、総エネルギー入力は0.85倍に低減した。
図8から、建築センター波の場合には、加速度は微増するが変位は大幅に低減されることがわかる。この場合の第2の付加減衰7の変位は89mm、総エネルギー入力は0.81倍に低減した。
【0028】
・設計例2
上記の設計例1とは非線形特性のみを変更した場合について検討を行う。
慣性質量ダンパー4の慣性質量ψ2を設計例1と同様にψ2=10000tonとするが、過負荷防止機構により相対加速度α=0.3m/s2以上で0.02倍となるように設定する。
第2の付加減衰7は設計例1と同様にCd2=3020kN/kineのオイルダンパーとし、ここではリリーフ機構を付加しない。
【0029】
設計例2についての検討結果を図10にまとめて示す。(a)は最大応答加速度および最大応答変位を示し、(b)は第2の付加減衰7としてのオイルダンパーの変位と総エネルギー入力の低下率を示す。
図10から明らかなように、第2の付加減衰7にリリーフ機構を付加せずに慣性質量ダンパー4に過負荷防止機構を付加することによっても、加速度をあまり増加させずに変位を充分に抑制する効果が得られることがわかる。
特に設計例2において上記の設計例1と大きく異なるのは、建築センター波でのオイルダンパー(第2の付加減衰7)の変位である。設計例2では慣性質量ダンパー4の負担力が頭打ちされることでオイルダンパーに作用する荷重も頭打ちされることから、ダンパー変位が設計例1の場合の89mmから11.5mmへと大幅に低下しており、したがってダンパーストロークが充分に小さくて済むことになる。
【0030】
なお、上記設計例1では第2の付加減衰7にリリーフ機構を付加するのみとし、上記設計例2では慣性質量ダンパー4に過負荷防止機構を付加するのみとしたが、本発明においてはそれらの双方を付加する設計としても勿論良いし、双方がなくても良い。
【0031】
本発明の効果を以下に列挙する。
(1)免震で支持される構造体の加速度を制御しつつ変位を大幅に低減することができる。従来のバネと減衰(オイルダンパー等)だけによる免震構造では変位と加速度を同時に抑制することは困難であるが、本発明により従来の手法では達成できなかった「加速度を増大させずに変位を低減する」ことが可能になる。
(2)慣性質量効果を用いることでやや長周期化するが、長周期地震動のように長周期成分が卓越する場合でも免震層の過大な変位が防止され、したがって過去の基準により設計された既存免震建物に対して適用すれば長周期地震動に対しても免震クリアランスの不足を解消することができる。
但し、本発明は既存免震建物に適用するのみならず、新築免震建物に対しても有効に適用できることは当然である。
【0032】
(3)過減衰となるような大きな減衰係数を持つ付加減衰(上記実施形態における第2の付加減衰。以下同じ)を慣性質量ダンパーと直列した構成であり、固有周期より短周期側の入力が小さい場合には総エネルギー入力が低減される。総エネルギー入力とは「ダンパーを含む構造物全体に入力されることにより構造物の損傷に関わる地震エネルギー」であって、これが大きいほどダンパーで吸収すべきエネルギーが大きくなり構造物の塑性化が進むことになるから、この値を小さくすることは損傷軽減に有効であり、ダンパーの疲労破壊を防止したり構造体の損傷を抑制することが可能である。
また、その付加減衰に対して並列に復元バネを設けることにより、慣性質量ダンパーや付加減衰の残留変形を防止することができる。
【0033】
(4)付加減衰に対してリリーフ機構を付加することにより、構造体に作用する制御力が過大にならないようにすることができる。構造体に作用する力は質量×加速度なので、制御力を低減することは加速度を低減する(頭打ちにする)ことに効果的である。
【0034】
(5)慣性質量ダンパーに過負荷防止機構を設けることにより、付加減衰の変位(ストローク)が小さくて済み、免震層に設置する付加減衰として制震用の小ストロークのオイルダンパーを適用できる。制震用のオイルダンパーは免震用のオイルダンパーよりも減衰係数と負担力の大きい装置を安価に調達できるため、本発明の応答低減機構をローコストに構築できる。すなわち、一般的な免震用オイルダンパーのストロークは500〜600mm程度であるが、制震用オイルダンパーは80〜100mm程度であり、減衰係数は制震用の方が1桁大きいから、本発明によれば免震構造でありながらそのような特性の制震用オイダンパーを有効に活用できることになる。
(6)本発明の応答低減機構は免震層の下部構造と上部との間に設置するだけで良く、通常のオイルダンパーと同様に免震層上下の床梁間に設置できる。また、既存のダンパーよりも応答低減効果が大きいので、既存ダンパーの一部または全部を撤去して本発明の応答低減機構を設置することも可能である。
【符号の説明】
【0035】
1 構造体(既存免震建物)
2 構造体バネ
3 構造体減衰
4 慣性質量ダンパー
5 付加バネ
5’ 復元バネ
6 第1の付加減衰
7 第2の付加減衰(付加減衰)
【特許請求の範囲】
【請求項1】
構造体を構造体バネと構造体減衰を介して固定端に接続するとともに、前記構造体の地震動入力に対する応答変位を低減させるための応答低減機構を前記構造体バネと並列に設置してなる免震構造であって、
前記応答低減機構を、慣性質量ダンパーと、該慣性質量ダンパーに対して直列に接続した付加減衰と、該付加減衰に対して並列に接続した復元バネとにより構成し、
前記復元バネのバネ剛性k2、および前記付加減衰の減衰係数Cd2を、前記構造体バネのバネ剛性k1、前記構造体の質量m、前記慣性質量ダンパーの慣性質量ψ2に基づき、次の関係を満足するように設定してなることを特徴とする免震構造。
【数1】
【請求項2】
前記付加減衰にリリーフ機構を付加してなることを特徴とする請求項1記載の免震構造。
【請求項3】
前記慣性質量ダンパーに過負荷防止機構を付加してなることを特徴とする請求項1または2記載の免震構造。
【請求項1】
構造体を構造体バネと構造体減衰を介して固定端に接続するとともに、前記構造体の地震動入力に対する応答変位を低減させるための応答低減機構を前記構造体バネと並列に設置してなる免震構造であって、
前記応答低減機構を、慣性質量ダンパーと、該慣性質量ダンパーに対して直列に接続した付加減衰と、該付加減衰に対して並列に接続した復元バネとにより構成し、
前記復元バネのバネ剛性k2、および前記付加減衰の減衰係数Cd2を、前記構造体バネのバネ剛性k1、前記構造体の質量m、前記慣性質量ダンパーの慣性質量ψ2に基づき、次の関係を満足するように設定してなることを特徴とする免震構造。
【数1】
【請求項2】
前記付加減衰にリリーフ機構を付加してなることを特徴とする請求項1記載の免震構造。
【請求項3】
前記慣性質量ダンパーに過負荷防止機構を付加してなることを特徴とする請求項1または2記載の免震構造。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2011−236968(P2011−236968A)
【公開日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−108585(P2010−108585)
【出願日】平成22年5月10日(2010.5.10)
【出願人】(000002299)清水建設株式会社 (2,433)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年5月10日(2010.5.10)
【出願人】(000002299)清水建設株式会社 (2,433)
【Fターム(参考)】
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