説明

入射光学系及びラマン散乱光測定装置

【課題】全反射する光の入射角を正確に制御することができる入射光学系、及びラマン散乱光測定装置を提供することにある。
【解決手段】本発明の入射光学系では、平面状の試料面111及び半球面状の曲面112を有する透光部材11と、反射面121が回転放物面122の一部をなす放物面鏡12とを備え、曲面112が反射面121に対向し、試料面111上の球中心が回転放物面122の焦点125に一致する。回転放物面122の回転対称軸123に平行なレーザ光(光束)Lは、反射面121で反射し、試料面111上の焦点125へ集光する。試料面111でレーザ光Lが内部全反射して発生したエバネッセント光により試料Sからラマン散乱光が発生する。レーザ光Lの光軸を回転対称軸123に接離する方向に移動させることにより、試料面111に対するレーザ光Lの入射角を変更することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試料が接触される試料面で全反射を起こすために試料面へ光を入射する入射光学系に関し、より詳しくは、光の入射角を全反射条件を保ちながら変更することができる入射光学系及びそれを用いたラマン散乱光測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、試料に含まれる物質の同定又は特定物質の分布の推定等を非破壊で行う方法として、ラマン分光分析が利用されている。ラマン分光分析では、試料の表面のみを励起するために、試料を載置した試料面で光を全反射させ、全反射により発生したエバネッセント光を励起光として利用することができる。特許文献1には、全反射を起こすように光を入射する光学系の例が開示されている。図8は、全反射を起こすように光を試料面へ入射する入射光学系の一部を示す模式図である。平面と半球面とを有する半球状の透光部材41を用い、透光部材41の平面の中心に試料Sを載置し、半球面の外側から平面の中心へ向かってレーザ光Lを照射する。レーザ光Lは半球面を直進して通過し、透光部材41の内部から平面へ入射する。平面への入射角を臨界角以上にしておけば、透光部材41の内部においてレーザ光Lは平面で全反射し、エバネッセント光が試料Sに浸透し、エバネッセント光と試料Sとの相互作用によりラマン散乱光が発生する。試料Sが透明である場合は、試料S側からラマン散乱光を観測することができる。このような入射光学系を用いることにより、ラマン分光分析でも、試料Sの表面を選択的に分析することができる。
【特許文献1】特開平9−159922号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
全反射において光の入射角を臨界角以上の範囲で変更した場合は、エバネッセント光が試料Sに浸透する深さが変化し、異なった深さでの分析を行うことができる。このため、全反射において光の入射角を変更できるようにした機構のニーズがある。図8に示す入射光学系では、透光部材41へ入射するレーザ光Lの向きを変更することによって、入射角を変更することができる。
【0004】
しかしながら、図8に示す入射光学系では、透光部材41へ入射する直前のレーザ光Lを反射するミラー42を回転させるだけでは、レーザ光Lの入射位置が変化し、レーザ光Lの向きを適切に変更することはできず、入射角を変更することはできない。同様に、ミラー42を平行移動させるだけでも、レーザ光Lの入射角を変更することはできない。レーザ光Lの向きを変更するためには、レーザ光Lがミラー42で反射する角度とレーザ光Lがミラー42で反射する位置との両方を変更する必要があり、ミラー42の回転とミラー42の平行移動とを同時に行う必要がある。従って、入射光学系において光の入射角を正確に制御するためには、ミラー42の回転及び平行移動を同期させて正確に制御する必要があり、実現が困難である。また仮に実現したとしても、入射光学系光学系を制御する機構が複雑になり、ラマン散乱光測定装置のコストが上昇する。特許文献1に開示された入射光学系光学系では、光が全反射する条件を保った状態で入射角を変更することはできない。
【0005】
本発明は、斯かる事情に鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、光の入射角の変更を簡易的な機構で実行可能にすることにより、全反射を起こす光の入射角を正確に制御することができる入射光学系、及び該入射光学系を用いたラマン散乱光測定装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る入射光学系は、任意の試料が接触される平面状の試料面を有する透光部材を備え、前記試料面で全反射が行われるように前記試料面へ光を入射する入射光学系において、凹面状の反射面が回転放物面の一部分をなす放物面鏡と、前記回転放物面の回転対称軸に平行な光束を前記放物面鏡の反射面へ入射する入射手段とを備え、前記透光部材及び前記放物面鏡は、前記放物面鏡の反射面で反射した前記光束が、前記透光部材内へ入射され、前記試料面で内部全反射するように配置してあることを特徴とする。
【0007】
本発明に係る入射光学系は、前記入射手段は、前記放物面鏡の反射面へ入射する光束の光軸を、前記回転放物面の回転対称軸に平行な状態を保ちながら、前記回転対称軸に接離する方向に移動させる手段を有することを特徴とする。
【0008】
本発明に係る入射光学系は、前記透光部材は、前記試料面上の一点を球中心とする半球面の一部又は全部をなす曲面を有する形状になし、前記曲面が前記回転放物鏡の反射面に対向し、前記球中心が前記回転放物面の焦点に位置するように配置してあることを特徴とする。
【0009】
本発明に係る入射光学系は、前記放物面鏡は、前記回転放物面の頂点に対応する部分が欠損した形状に形成してあり、前記放物面鏡及び前記透光部材は、前記試料面が前記回転放物面の頂点に対向するように配置してあることを特徴とする。
【0010】
本発明に係るラマン散乱光測定装置は、本発明に係る入射光学系と、前記入射手段が入射する光束として単色の光束を発生させる手段と、前記入射光学系が備える透光部材の試料面で前記光束が全反射することにより発生したエバネッセント光が試料に作用することによって発生したラマン散乱光を検出する手段とを備えることを特徴とする。
【0011】
本発明においては、ラマン散乱光測定装置で用いることができる入射光学系は、試料が接触する平面状の試料面を有する透光部材と、凹面状の反射面が回転放物面の一部分をなす放物面鏡とを備え、回転放物面の軸に平行な光束が、放物面鏡の反射面で反射し、透光部材へ入射され、透光部材内において試料面で全反射するように、透光部材及び放物面鏡を配置してある。試料面で光束が内部全反射することにより、発生したエバネッセント光で試料の試料面に接触した部分が励起される。
【0012】
また本発明においては、入射光学系は、放物面鏡の反射面へ入射される光束の光軸を、回転放物面の軸に平行な状態を保ちながら軸に接離する方向に移動させる。
【0013】
また本発明においては、透光部材は、球中心が試料面上にある半球面の少なくとも一部をなす曲面を有し、曲面が放物面鏡の反射面に対向し、試料面上の球中心が回転放物面の焦点に一致するように配置してある。放物面鏡の反射面で反射した光束は、透光部材の曲面に直交し、試料面上の焦点に集光する。
【0014】
また本発明においては、放物面鏡は、回転放物面の頂点付近に対応する部分が欠損しており、透光部材は、試料面が頂点に対向して配置されている。試料が透明である場合、試料を透過した光は、回転放物面の頂点付近に対応する部分を通過して出射することが可能である。
【発明の効果】
【0015】
本発明にあっては、放物面鏡の軸に平行な光束は、放物面鏡の反射面のどの位置で反射させたとしても、反射面で反射した後で回転放物面の焦点に集光するので、反射面上で光束が反射する位置を変化させることにより、焦点へ向かう光束の向きが変化する。従って、放物面鏡の軸に平行な光軸を移動させるだけで、透光部材の試料面で全反射する光束の入射角を変化させることができる。
【0016】
また本発明にあっては、ミラーを平行移動させる機構等、回転放物面の軸に平行な光束の光軸を軸に接離する方向に移動させる機構を備えることにより、全反射を行う光束の入射角を変化させることを可能とする。ミラーの回転及び平行移動を同期させて正確に制御する機構等の複雑な機構を必要とすることが無いので、全反射において光の入射角を正確に制御することができるラマン散乱光測定装置を容易に実現することが可能となる。また簡易的な機構で光の入射角を変更することができるので、ラマン散乱光測定装置のコストの上昇を抑制することが可能となる。
【0017】
また本発明にあっては、放物面鏡の反射面で反射した光束は、常に、試料面上にある回転放物面の焦点に集光して内部反射するので、光束の全反射によりエバネッセント光が発生する位置は、入射角が変化しても焦点から移動しない。従って、試料面に接触した試料へのエバネッセント光の浸透深さを入射角の変化により変化させ、試料を深さ方向に分析する際には、試料の同一部分を深さ方向に分析することが可能である。
【0018】
また本発明にあっては、試料が透明である場合、エバネッセント光により発生したラマン散乱光を、回転放物面の頂点付近に対応する部分を通過して出射させることができるので、ラマン散乱光を測定するための機構を、入射光学系と物理的に干渉しない位置に配置することが可能となる等、本発明は優れた効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下本発明をその実施の形態を示す図面に基づき具体的に説明する。
(実施の形態1)
図1は、実施の形態1に係る本発明の入射光学系を示す構成図であり、図2は、実施の形態1に係る本発明のラマン散乱光測定装置の構造を示す概略図である。本発明の入射光学系は、試料Sを載置される透光部材11と、放物面鏡12と、ミラー13とを備えている。透光部材11は、透光性の材料からなり、球中心を通る切断面で球体を切断した半球体の形状に形成してある。即ち、透光部材11は、前述の切断面である平面状の試料面111と、半球面をなす曲面112とを有し、試料面111は、半球面の球中心を含み、球中心を円の中心とする円形となっている。透光部材11の材料としては、屈折率の大きいものが良く、ガラス、石英、ZrO2 、ダイヤモンド、ZnSe、KRS−5、Si、Ge等が挙げられる。KRS−5は、ヨウ化タリウム及び臭化タリウムの混晶である。
【0020】
放物面鏡12は、反射面121が凹面状になった凹面鏡であり、反射面121が回転放物面122の一部をなす形状となっている。図1には、反射面121を延長した仮想的な回転放物面122を破線で示し、回転放物面122の回転対称軸123を一点鎖線で示している。また図1には、回転放物面122の頂点124及び焦点125を示している。放物面鏡12は、頂点124付近に対応する部分が欠損した形状に形成してある。透光部材11は、試料面111を回転対称軸123に対して垂直にし、試料面111の中心(半球面の球中心)を焦点125に一致させ、更に試料面111を頂点124に対向させて配置されている。この結果、透光部材11の回転対称軸が回転放物面122の回転対称軸123に一致し、透光部材11の曲面112は、放物面鏡12の反射面121に対向している。図1及び図2では、透光部材11及び放物面鏡12の断面図を示している。透光部材11及び放物面鏡12は、三次元的には、図1に示す断面図を図1中の回転対称軸123を中心にして回転させた形状となっている。
【0021】
ラマン散乱光測定装置は、レーザ光(光束)Lを発光するレーザ光源21を備えている。ミラー13は、レーザ光源21が発光したレーザ光Lを回転対称軸123と平行に放物面鏡12の反射面121へ入射するように、位置及び傾きが調整されている。ミラー13は、本発明における入射手段であり、回転対称軸123に平行な光束であるレーザ光源21からのレーザ光Lを、反射面121へ入射する。
【0022】
ミラー13により反射面121へ入射されたレーザ光Lは、反射面121で反射し、焦点125へ向かって透光部材11へ入射する。放物面鏡12の反射面121に対向する透光部材11の曲面112は、焦点125に一致した球中心を持つ半球面であるので、焦点125へ向かう光は、曲面112と直交し、屈折しない。このため、ミラー13により入射されて反射面121で反射したレーザ光Lは、直進し、透光部材11の内部で焦点125に集光する。焦点125は試料面111上にあるので、焦点125に集光したレーザ光Lは、透光部材11の内部において試料面111で反射する。レーザ光Lの試料面111に対する入射角が臨界角以上である場合は、レーザ光Lは試料面111で内部全反射する。ミラー13は、レーザ光Lが試料面111で全反射するような位置に配置されている。
【0023】
ミラー13には、ソレノイド、ステッピングモータ又はアクチュエータ等によりミラー13を移動させる移動機構14が設けられている。移動機構14は、放物面鏡12の反射面121へ入射されるレーザ光Lの光軸を、回転対称軸123に平行な状態を保ちながら、回転対称軸123に接離する方向に移動させる構成となっている。具体的には、移動機構14は、ミラー13の傾きを固定した状態でミラー13を平行移動させる構成となっている。図1には、ミラー13を移動させたミラー13aを示している。放物面鏡12の反射面121へ回転対称軸123と平行に入射されたレーザ光Lは、全て、反射面121で反射した後で焦点125に集光する。透光部材11の曲面112は、焦点125に一致した球中心を持つ半球面であるので、放物面鏡12の反射面121で反射したレーザ光Lは、全て、直進して試料面111上の焦点125へ集光し、透光部材11の内部において試料面111で反射する。ミラー13aで反射したレーザ光Lも、ミラー13で反射したレーザ光Lと同様に、回転対称軸123と平行に放物面鏡12の反射面121へ入射され、反射面121で反射して焦点125へ集光し、透光部材11の内部において試料面111上の焦点125で反射する。
【0024】
回転対称軸123に平行なレーザ光Lの光軸が回転対称軸123に接離する方向に移動することにより、反射面121上でレーザ光Lが反射する位置は変化する。反射面121上での反射位置が変化することにより、焦点125に集光するレーザ光Lの試料面111に対する入射角が変化する。移動機構14は、ミラー13が移動可能な移動範囲を、焦点125に集光するレーザ光Lの試料面111に対する入射角が臨界角以上になる範囲内に限定する構成となっている。反射面121で反射したレーザ光Lは、直進して試料面111上の焦点125へ集光するので、レーザ光Lの試料面111に対する入射角が臨界角以上になるミラー13の移動範囲は、屈折の影響を考慮せずに容易に求めることが可能である。従って、ミラー13によって放物面鏡12の反射面121へ入射されるレーザ光Lは、全て、透光部材11の内部において試料面111の中心(焦点125)で全反射する。なお、本実施の形態では入射手段をミラー13で構成しているが、本発明では、より多くの光学部品を用いて入射手段を構成してもよく、ミラー13を平行移動させる方法以外の方法でレーザ光Lの光軸を平行移動させる構成であってもよい。
【0025】
試料Sは、透光部材11の試料面111の中心に載置される。また試料Sは透明な物質であるとする。レーザ光Lが試料面111で内部全反射する際には、試料面111でエバネッセント光が発生する。発生したエバネッセント光は、試料面111に接触した試料S内に浸透し、エバネッセント光と試料Sとの相互作用によりラマン散乱光Rが発生する。レーザ光Lは焦点125で全反射するので、試料面111の中心(焦点125)に接触した試料Sの部分からラマン散乱光Rが発生する。発生したラマン散乱光Rは、透明な試料Sを透過して試料S外へ放出される。
【0026】
ラマン散乱光測定装置は、試料Sを透過して放出された光を集光する集光レンズ22、レイリーカットフィルタ23、集光レンズ24及び分光器25を備える。レイリーカットフィルタ23は、レーザ光源21が発光するレーザ光Lと同波長のレイリー散乱光を除去し、集光レンズ24は、ラマン散乱光Rを集光して分光器25へ入射させる。
【0027】
またラマン散乱光測定装置は、CCD(Charge Coupled Device )光センサ又は光電子増倍管を用いてなる光検出器26を備える。分光器25は、入射したラマン散乱光Rを分光し、光検出器26は、分光器25が分光したラマン散乱光Rを検出する。ラマン散乱光測定装置は、更に、光検出器26に接続されたコンピュータ3を備える。光検出器26は、検出したラマン散乱光Rの光量に対応する電気信号をコンピュータ3へ入力する。なお、光検出器26は、その他の光センサを用いてなる構成であってもよい。
【0028】
コンピュータ3は、パーソナルコンピュータ(PC)等の汎用コンピュータを用いて構成されている。コンピュータ3は、分光器25が接続されており、分光器25へ必要な制御信号を送信することにより、分光器25が入射されたラマン散乱光Rの中から取り出すラマン散乱光Rの波長を制御する処理を行う。光検出器26は、分光器25が取り出したラマン散乱光Rを検出し、検出したラマン散乱光Rの光量を示す電気信号をコンピュータ3へ入力する。コンピュータ3は、光検出器26からの電気信号を受け付け、分光器25が取り出したラマン散乱光Rの波長をラマンシフトに変換し、ラマンシフトと光検出器26が検出したラマン散乱光Rの光量とを関連付けて記憶する。またコンピュータ3は、分光器25が取り出すラマン散乱光Rの波長を変化させながら光検出器26からの電気信号を順次受け付け、各ラマンシフトに対応するラマン散乱光Rの光量を記憶することにより、ラマンスペクトルを取得する処理を行う。
【0029】
更にコンピュータ3には、移動機構14が接続されている。コンピュータ3は、移動機構14へ必要な制御信号を送信することにより、ミラー13を適宜移動させ、レーザ光Lの試料面111に対する入射角を制御する処理を行う。コンピュータ3は、レーザ光Lの試料面111に対する入射角を変化させ、入射角を変化させた条件の基でラマンスペクトルを取得する処理を行う。
【0030】
以上の構成でなるラマン散乱光測定装置は、透光部材11の試料面111に試料Sを載置させた状態で、透光部材11の内部からレーザ光Lを試料面111で全反射させ、発生したエバネッセント光により試料Sから発生したラマン散乱光Rを測定する。またラマン散乱光測定装置は、試料面111に対するレーザ光Lの入射角を、臨界角以上の範囲で変更し、入射角を変更した状態で試料Sから発生するラマン散乱光Rを測定する。レーザ光Lが試料面111で全反射する範囲内で入射角を変更することにより、エバネッセント光が試料Sに浸透する深さが変化し、試料S内でラマン散乱光Rが発生する部分の深さが変化する。従って、本発明により、試料Sの表面からの深さが異なった部分からのラマン散乱光Rを測定することができ、試料S内の深さ方向の物質分布等、試料Sを深さ方向に分析することが可能となる。また、レーザ光Lが全反射してエバネッセント光が発生する位置は、入射角が変化しても、試料面111上にある焦点125から移動しないので、試料Sの同一部分を深さ方向に分析することが可能である。
【0031】
本発明では、放物面鏡12を利用することにより、回転対称軸123に平行に放物面鏡12の反射面121へ入射されたレーザ光Lは、全て反射面121で反射して焦点125へ集光するようになる。焦点125で全反射が起こるように透光部材11を配置してあるので、回転対称軸123に平行なレーザ光Lが反射面121で反射する位置を変更することにより、全反射時のレーザ光Lの入射角を変更することができる。回転対称軸123に平行なレーザ光Lの光軸を回転対称軸123に接離する方向に移動させることによりレーザ光Lが反射面121で反射する位置が変化するので、レーザ光Lの光軸を回転対称軸123に接離する方向に移動させるだけで、全反射時のレーザ光Lの入射角を変更することができる。レーザ光Lの光軸を回転対称軸123に接離する方向に移動させることは、ミラー13を平行移動させる機構等、簡易的な機構で実行可能である。
【0032】
従って、本発明では、試料Sを励起するために試料面111で全反射する光の入射角を正確に制御することができるラマン散乱光測定装置を容易に実現することが可能となる。また簡易的な機構で光の入射角を変更することができるので、ラマン散乱光測定装置のコストの上昇を抑制することが可能となる。
【0033】
(実施の形態2)
実施の形態1に係るラマン散乱光測定装置は、試料Sを透過したラマン散乱光Rを測定する構成となっているので、試料Sは透明である必要がある。実施の形態2においては、試料Sが不透明な物質であってもラマン散乱光Rを測定することができるラマン散乱光測定装置を示す。
【0034】
図3は、実施の形態2に係る本発明の入射光学系を示す構成図であり、図4は、実施の形態2に係る本発明のラマン散乱光測定装置の構造を示す概略図である。本実施の形態に係る入射光学系は、透光部材15を備えてなる。透光部材15は、球体中心を面中心とする試料面151と試料面151に平行な切頭面153とを有する切頭半球体の形状に形成されている。透光部材15の曲面152は、半球面の一部をなす。透光部材15は、試料面151を回転放物面122の回転対称軸123に対して垂直にし、試料面151の中心を回転放物面122の焦点125に一致させ、更に試料面151を回転放物面122の頂点124に対向させて配置されている。入射光学系のその他の構成は実施の形態1と同様であり、その説明を省略する。この形態においても、透光部材15の回転対称軸は回転放物面122の回転対称軸123に一致し、透光部材15の曲面152は放物面鏡12の反射面121に対向している。透光部材15は、三次元的には、図3に示す断面図を図3中の回転対称軸123を中心にして回転させた形状となっている。
【0035】
透光部材15の切頭面153は、回転対称軸123に対して垂直となっており、切頭面153の中心は回転対称軸123上になる。本実施の形態でも、試料Sは透光部材15の試料面151に載置されるので、焦点125に対して切頭面153とは逆の位置に試料Sが配置されることになる。レーザ光Lが透光部材15の試料面151で内部全反射し、エバネッセント光により試料Sの試料面151に接した部分で発生したラマン散乱光Rは、試料面151から透光部材15内へ進入し、透光部材15内を透過して切頭面153から放出される。
【0036】
ラマン散乱光測定装置は、集光レンズ22を透光部材15の切頭面153に対向する位置に配置してあり、集光レンズ22は、切頭面153から放出されたラマン散乱光Rを集光する。レイリーカットフィルタ23、集光レンズ24及び分光器25は、集光レンズ22が集光したラマン散乱光Rを、レイリーカットフィルタ23及び集光レンズ24を通して分光器25へ入射させるように配置されている。ラマン散乱光測定装置のその他の構成は実施の形態1と同様であり、その説明を省略する。
【0037】
以上の構成によって、本実施の形態においては、エバネッセント光により試料Sで発生したラマン散乱光Rを、試料Sを透過させること無く、透光部材15内を透過させて切頭面153から取り出すことができる。ラマン散乱光Rが試料Sを透過せずともラマン散乱光Rを試料Sから取得できるので、試料Sが不透明な物質であってもそのラマン散乱光Rを測定することが可能となる。本実施の形態においても、回転対称軸123と平行に回転放物面122鏡12の反射面121へ入射されるレーザ光Lの光軸を回転対称軸123に接離する方向に移動させるだけで、全反射時のレーザ光Lの入射角を変更することが可能である。従って、試料Sを励起するために試料面151で全反射する光の入射角を正確に制御することができるラマン散乱光測定装置を容易に実現することが可能となる。
【0038】
なお、本実施の形態に係るラマン散乱光測定装置は、透光部材15を透過したラマン散乱光Rを測定する形態であるとしたが、試料Sを透過したラマン散乱光Rをも測定できる構成であってもよい。即ち、ラマン散乱光測定装置は、試料Sを透過して放出されたラマン散乱光Rを導いて分光器25へ入射させるための光学系を更に備えた構成としてもよい。この場合は、透明な試料Sについては試料Sを透過したラマン散乱光Rを測定し、不透明な試料Sについては透光部材15を透過したラマン散乱光Rを測定するようにラマン散乱光測定装置を利用することが可能である。
【0039】
(実施の形態3)
図5は、実施の形態3に係る本発明の入射光学系を示す構成図である。半球状に形成された透光部材16は、試料面161を回転放物面122の回転対称軸123に対して垂直にし、試料面161の中心(半球面の球中心)を回転放物面122の焦点125に一致させ、更に、試料面161が焦点125に対して頂点124に対向する向きとは逆向きになるように配置されている。入射光学系のその他の構成は実施の形態1と同様である。このように配置した結果においても、図5に示すように、透光部材16の回転対称軸は回転放物面122の回転対称軸123に一致し、透光部材16の曲面162は、放物面鏡12の反射面121に対向している。透光部材16は、三次元的には、図5に示す断面図を図5中の回転対称軸123を中心にして回転させた形状となっている。また入射光学系を備えるラマン散乱光測定装置のその他の構成は、実施の形態1と同様である。
【0040】
本実施の形態においても、回転対称軸123と平行に反射面121へ入射されるレーザ光Lの光軸を回転対称軸123に接離する方向に移動させるだけで、透光部材16の試料面161で内部全反射するレーザ光Lの入射角を変更することが可能である。従って、試料Sを励起するために試料面161で全反射する光の入射角を正確に制御することができるラマン散乱光測定装置を容易に実現することが可能となる。
【0041】
(実施の形態4)
図6は、実施の形態4に係る本発明の入射光学系を示す構成図である。本実施の形態に係る入射光学系は、透光部材17を備えてなる。透光部材17は、底面に対する側面の傾きが複数段階に亘って変化する円錐台の形状に形成されている。透光部材17の側面の傾きは、軸方向に底面から離れるに従って、試料面171に対する傾きが順次非連続的に小さくなるようになっている。透光部材17は、円錐台の底面を試料面171とし、頂面174が試料面171に平行な形状となっている。図6には、側面の傾きが2段階で変化している透光部材17の例を示しており、透光部材17は、試料面171に対する傾きが異なる第1側面172及び第2側面173を有する。
【0042】
透光部材17は、試料面171を回転放物面122の回転対称軸123に対して垂直にし、試料面171の中心を回転放物面122の焦点125に一致させ、更に試料面171を回転放物面122の頂点124に対向させて配置されている。この形態においても、透光部材17の回転対称軸が回転放物面122の回転対称軸123に一致している。透光部材17は、三次元的には、図6に示す断面図を図6中の回転対称軸123を中心にして回転させた形状となっている。
【0043】
透光部材17が有する各側面の試料面171に対する傾きは、垂直に入射された光が直進して焦点125に集光し、試料面171で内部全反射するように形成されている。また移動機構14は、回転対称軸123に平行なレーザ光Lの光軸の取り得る位置を、放物面鏡12の反射面121で反射したレーザ光Lが透光部材17の各側面に対して垂直に入射されるような位置に限定する構成となっている。図6に示した例では、移動機構14で移動されるミラー13の位置は、第1側面172に垂直なレーザ光Lを入射させるための図6中のミラー13の位置と、第2側面173に垂直なレーザ光Lを入射させるための図6中のミラー13aの位置とのいずれかに限定される。入射光学系のその他の構成は実施の形態1と同様であり、また入射光学系を備えるラマン散乱光測定装置のその他の構成は実施の形態1又は2と同様である。
【0044】
以上の構成により、放物面鏡12の反射面121に入射されるレーザ光Lは、反射面121で反射し、透光部材17の何れかの側面を通過して透光部材17内に入射され、試料面171上の焦点125に集光し、試料面171で内部全反射する。反射面121へ入射されるレーザ光Lの光軸を、取り得る何れかの位置に移動させることにより、透光部材17の試料面171で内部全反射するレーザ光Lの入射角を変更することが可能である。従って、本実施の形態においても、試料Sを励起するために試料面171で全反射する光光の入射角を正確に制御することができるラマン散乱光測定装置を容易に実現することが可能となる。
【0045】
(実施の形態5)
図7は、実施の形態5に係る本発明の入射光学系を示す構成図である。本実施の形態に係る入射光学系は、透光部材18を備えてなる。透光部材18は、円錐台の形状に形成されており、円錐台の底面を試料面181とし、頂面183が試料面181に平行な形状となっている。透光部材18は、試料面181を回転放物面122の回転対称軸123に対して垂直にし、透光部材18の回転対称軸を回転放物面122の回転対称軸123に一致させ、更に試料面181を回転放物面122の頂点124に対向させて配置されている。透光部材18は、三次元的には、図7に示す断面図を図7中の回転対称軸123を中心にして回転させた形状となっている。
【0046】
透光部材18が有する側面182の試料面181に対する傾きは、垂直に入射された光が直進し、試料面181で内部全反射するように形成されている。また移動機構14は、回転対称軸123に平行なレーザ光Lの光軸の取り得る位置を、放物面鏡12の反射面121で反射したレーザ光Lが側面182に対して垂直に入射される位置からより回転対称軸123に近い位置に限定する構成となっている。図7に示した例では、移動機構14で移動されるミラー13の位置は、側面182に垂直なレーザ光Lを入射させるための図6中のミラー13aの位置からより回転対称軸123に近い位置に限定される。このようにレーザ光Lの光軸の位置が限定されているので、透光部材18に入射されたレーザ光Lは、側面182で屈折するものの、試料面181に対する入射角は、側面182に垂直に入射される光の入射角よりも大きくなる。側面182に垂直に入射される光は試料面181で内部全反射するので、より入射角が大きいレーザ光Lも試料面181で内部全反射することになる。従って、透光部材18に入射されたレーザ光Lは、透光部材18の試料面181で内部全反射する。なお、本実施の形態では、透光部材18に入射されたレーザ光Lは、側面182で屈折し、回転放物面122の焦点で集光しないので、焦点が透光部材18の試料面181上にある必要はない。入射光学系のその他の構成は実施の形態1と同様であり、また入射光学系を備えるラマン散乱光測定装置のその他の構成は実施の形態1又は2と同様である。
【0047】
以上の構成により、放物面鏡12の反射面121に入射されるレーザ光Lは、反射面121で反射し、側面182を通過して透光部材18内に入射され、試料面181で内部全反射する。反射面121へ入射されるレーザ光Lの光軸を、取り得る何れかの位置に移動させることにより、透光部材18の試料面181で内部全反射するレーザ光Lの入射角を変更することが可能である。従って、本実施の形態においても、試料Sを励起するために試料面181で全反射する光の入射角を正確に制御することができるラマン散乱光測定装置を容易に実現することが可能となる。なお、本実施の形態においては、透光部材18の形状を円錐台としたが、透光部材18の形状を角錐台の形状とすることも可能である。
【0048】
なお、以上の実施の形態1〜5においては、透光部材及び放物面鏡12は回転対称軸123を回転軸とした回転体の形状に形成されているとしたが、これに限るものではない。透光部材及び放物面鏡12は、レーザ光Lが通過する部分が存在していればよく、透光部材及び放物面鏡12の形状は、回転対称軸123を回転軸とした回転体からレーザ光Lが通過しない部分を除去した形状であってもよい。また透光部材及び放物面鏡12は、反射面121で反射して透光部材へ入射されたレーザ光Lが試料面で内部全反射するように配置されてあれば、必ずしも回転対称軸123に対して対称な構成である必要はない。例えば、実施の形態1〜3において曲面の球中心が回転放物面122の焦点に一致している等、レーザ光Lが試料面で内部全反射する条件が保たれていれば、試料面が回転対称軸123に対して直角以外の角度で交差するように透光部材が配置されてあってもよい。また例えば、放物面鏡12は、試料面での反射後に透光部材外へ出射したレーザ光Lを反射する部分が欠損した形状であってもよい。
【0049】
また以上の実施の形態1〜5においては、試料Sを透光部材の試料面に載置する形態を示したが、本発明の構成は、透光部材の試料面が天側になる構成に限るものではない。本発明の構成は、透光部材の試料面で発生するエバネッセント光が試料Sに浸透できるように試料Sが試料面に接触する構成であればよい。例えば、本発明の入射光学系は、透光部材の試料面を天側以外の方向に向け、試料Sを試料面に貼着する構成であってもよい。
【0050】
また以上の実施の形態1〜5においては、本発明の入射光学系はラマン散乱光測定装置を構成する構成物であるとしたが、これに限るものではない。本発明の入射光学系は、光が試料面で全反射することによって試料Sを分析できる方法であれば、ラマン効果以外の現象を測定する測定装置で利用してもよい。例えば、フォトルミネセンス又は蛍光のスペクトルを測定する装置に本発明の入射光学系を組み込んでもよい。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】実施の形態1に係る本発明の入射光学系を示す構成図である。
【図2】実施の形態1に係る本発明のラマン散乱光測定装置の構造を示す概略図である。
【図3】実施の形態2に係る本発明の入射光学系を示す構成図である。
【図4】実施の形態2に係る本発明のラマン散乱光測定装置の構造を示す概略図である。
【図5】実施の形態3に係る本発明の入射光学系を示す構成図である。
【図6】実施の形態4に係る本発明の入射光学系を示す構成図である。
【図7】実施の形態5に係る本発明の入射光学系を示す構成図である。
【図8】全反射を起こすように光を試料面へ入射する入射光学系の一部を示す模式図である。
【符号の説明】
【0052】
11、15、16、17、18 透光部材
111、151、161、171、181 試料面
112、152、162 曲面
12 放物面鏡
121 反射面
122 回転放物面
123 回転対称軸
124 頂点
125 焦点
13 ミラー(入射手段)
14 移動機構
21 レーザ光源
25 分光器
26 光検出器
3 コンピュータ
L レーザ光
R ラマン散乱光
S 試料

【特許請求の範囲】
【請求項1】
任意の試料が接触される平面状の試料面を有する透光部材を備え、前記試料面で全反射が行われるように前記試料面へ光を入射する入射光学系において、
凹面状の反射面が回転放物面の一部分をなす放物面鏡と、
前記回転放物面の回転対称軸に平行な光束を前記放物面鏡の反射面へ入射する入射手段とを備え、
前記透光部材及び前記放物面鏡は、前記放物面鏡の反射面で反射した前記光束が、前記透光部材内へ入射され、前記試料面で内部全反射するように配置してあること
を特徴とする入射光学系。
【請求項2】
前記入射手段は、前記放物面鏡の反射面へ入射する光束の光軸を、前記回転放物面の回転対称軸に平行な状態を保ちながら、前記回転対称軸に接離する方向に移動させる手段を有すること
を特徴とする請求項1に記載の入射光学系。
【請求項3】
前記透光部材は、
前記試料面上の一点を球中心とする半球面の一部又は全部をなす曲面を有する形状になし、
前記曲面が前記回転放物鏡の反射面に対向し、前記球中心が前記回転放物面の焦点に位置するように配置してあること
を特徴とする請求項1又は2に記載の入射光学系。
【請求項4】
前記放物面鏡は、前記回転放物面の頂点に対応する部分が欠損した形状に形成してあり、
前記放物面鏡及び前記透光部材は、前記試料面が前記回転放物面の頂点に対向するように配置してあること
を特徴とする請求項1乃至3のいずれか一つに記載の入射光学系。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか一つに記載の入射光学系と、
前記入射手段が入射する光束として単色の光束を発生させる手段と、
前記入射光学系が備える透光部材の試料面で前記光束が全反射することにより発生したエバネッセント光が試料に作用することによって発生したラマン散乱光を検出する手段と
を備えることを特徴とするラマン散乱光測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−156556(P2010−156556A)
【公開日】平成22年7月15日(2010.7.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−333541(P2008−333541)
【出願日】平成20年12月26日(2008.12.26)
【出願人】(000155023)株式会社堀場製作所 (638)
【Fターム(参考)】