説明

全反射分光計測方法

【課題】固体の被測定物に関する光学定数を精度良く計測することができる全反射分光計測方法を提供する。
【解決手段】全反射分光計測装置1を用いた全反射分光計測方法は、プリズム31の全反射面31cの上に被測定物34を配置し、内部全反射プリズム31を通って全反射面31cで全反射したテラヘルツ波に基づいて、被測定物34に関する光学定数を計測する全反射分光計測方法であって、少なくとも全反射面31cと被測定物34との間に、被測定物34が不溶性を示す液体50を介在させる。この液体50と被測定物34との間に働く接着力等の力により、被測定物34を全反射面31cに近接させることが可能となり、エバネッセント成分と被測定物34との相互作用を安定して生じさせることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、テラヘルツ波を用いた全反射分光計測方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、テラヘルツ波を用いた全反射分光計測方法として、プリズムの全反射面の上に被測定物を配置し、プリズムの内部を通って全反射面で全反射したテラヘルツ波に基づいて、被測定物に関する光学定数を計測するものが知られている。このような全反射分光計測方法では、テラヘルツ波が全反射する際に放射されるエバネッセント成分と被測定物とが相互に作用し、全反射前後でテラヘルツ波に変化が生じる。このテラヘルツ波に生じる変化に基づいて、被測定物に関する光学定数が計測される。
【0003】
エバネッセント成分と被測定物との相互作用を生じさせるためには、全反射面と被測定物とが十分に近接している必要がある。このことは、特に粉体状あるいは片状といった固体の被測定物に関する光学定数を計測する場合に重要となる。このため、従来では、全反射面の上に被測定物を押し付けながら、テラヘルツ波を全反射面で全反射させる方法等が採られていた(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第3950818号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来のように、被測定物を全反射面に押し付ける方法を採った場合でも、全反射面と被測定物との間に微小な隙間が生じてしまう場合がある。この微小な隙間は、測定の度に変化するため、エバネッセント成分と被測定物との相互作用が計測の度にばらつく要因となる。一方、この微小な隙間をなくすために、被測定物を全反射面に過剰な力で押し付けようとすると、プリズムに変形や傷が生じるおそれがある。
【0006】
本発明は、上記課題の解決のためになされたものであり、固体の被測定物に関する光学定数を精度良く計測することができる全反射分光計測方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題解決のため、本発明に係る全反射分光計測方法は、プリズムの全反射面の上に被測定物を配置し、プリズムの内部を通って全反射面で全反射したテラヘルツ波に基づいて、被測定物に関する光学定数を計測する全反射分光計測方法であって、少なくとも全反射面と被測定物との間に、被測定物が不溶性を示す液体を介在させることを特徴とする。
【0008】
この全反射分光計測方法では、少なくとも全反射面と被測定物との間に液体を介在させている。このため、液体と被測定物との間に働く例えば接着力等の力によって被測定物を全反射面に近接させることが可能となり、エバネッセント成分と被測定物との相互作用を安定して生じさせることができる。一方、被測定物を全反射面に物理的に押し付ける必要がなくなるため、プリズムに変形や傷が生じることも抑制することができる。従って、この方法では、上記接着力等を利用することで、被測定物に関する光学定数を精度良く計測することができる。なお、被測定物が不溶性を示す液体を用いるので、液体が被測定物に関する光学定数の計測を阻害することはない。
【0009】
ここで、全反射面の上に上記液体のみを配置した状態で全反射したテラヘルツ波を参照用のテラヘルツ波として、被測定物に関する光学定数を計測することが好ましい。この場合、上記液体によるテラヘルツ波の吸収等の影響をキャンセルすることができるため、被測定物に関する光学定数を更に精度良く計測することができる。
【0010】
また、上記液体として、テラヘルツ波の吸収性を有しない液体を用いることが好ましい。この場合、上記液体によるテラヘルツ波の吸収が抑制されるため、被測定物に関する光学定数を更に精度良く計測することができる。
【0011】
また、上記液体として、フッ素系不活性液体を用いることが好ましい。この場合、フッ素系不活性液体を用いることで、多くの物質が上記液体に不溶性を示すと共に、上記液体によるテラヘルツ波の吸収が抑制される。また、フッ素系不活性液体は揮発しにくいので、揮発成分による周囲への悪影響がなくなる上、環境負荷も抑えられる。
【0012】
また、上記液体として、シリコーンオイルを用いることが好ましい。この場合も、シリコーンオイルを用いることで、多くの物質が上記液体に不溶性を示すと共に、上記液体によるテラヘルツ波の吸収が抑制される。また、シリコーンオイルは揮発しにくいので、揮発成分による周囲への悪影響がなくなる上、環境負荷も抑えられる。
【0013】
また、全反射面の上に環状の囲いを配置し、囲い内に液体を配置することが好ましい。この場合、全反射面上に上記液体を留めることができるため、全反射面と被測定物との間に上記液体を確実に介在させることができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る全反射分光計測方法によれば、固体の被測定物に関する光学定数を精度良く計測することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明に係る全反射分光計測方法を実現する全反射分光計測装置の一実施形態を示す図である。
【図2】図1に示した全反射分光計測装置に用いられる内部全反射プリズムの断面図である。
【図3】被測定物に関する光学定数を計測する手順を示すフローチャートである。
【図4】粉体状の被測定物を配置する手順を示す図である。
【図5】片状の被測定物を配置する手順を示す図である。
【図6】被測定物の吸収係数の一例を示す図である。
【図7】全反射面上に配置した環状の囲い内に液体を配置する例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照しながら、本発明に係る全反射分光計測方法の好適な実施形態について詳細に説明する。
【0017】
図1は、本発明に係る全反射分光計測方法を実現する全反射分光計測装置の一実施形態を示す図である。同図に示すように、全反射分光計測装置1は、レーザ光を出射するレーザ光源2と、テラヘルツ波発生素子32・内部全反射プリズム31・テラヘルツ波検出素子33が一体となった一体型プリズム3と、テラヘルツ波を検出する検出部4とを備えている。また、全反射分光計測装置1は、上記構成要素の動作を制御する制御部5と、検出部4からの出力に基づいてデータ解析を行うデータ解析部6と、データ解析部6における処理結果を表示する表示部7とを備えている。
【0018】
レーザ光源2は、フェムト秒パルスレーザを発生させる光源である。レーザ光源2からは、例えば平均パワー120mW、繰り返しレート77MHzのフェムト秒パルスレーザが出力される。レーザ光源2から出射したフェムト秒パルスレーザは、ミラー11,12を経て、ビームスプリッター13によってポンプ光48とプローブ光49とに二分される(図2参照)。プローブ光49が伝播するプローブ光用光路C1には、ミラー14,15及びレンズ16が設けられており、プローブ光49は、レンズ16で集光されて後述のテラヘルツ波検出素子33に入射する。
【0019】
一方、ポンプ光48が伝播するポンプ光用光路C2には、遅延部21と、変調器22とが設けられている。遅延部21は、一対のミラー23,24と、可動ステージ26上に設置された反射プリズム25によって構成され、反射プリズム25の位置を一対のミラー23,24に対して前後させることで、ポンプ光48の遅延調節が可能となっている。また、変調器22は、例えば光チョッパによってポンプ光48の透過と遮断を切り替える部分である。変調器22は、制御部5からの信号に基づいて、例えば1kHzでポンプ光48の透過と遮断の変調を行う。
【0020】
ポンプ光用光路C2を伝播したポンプ光48は、ミラー28を経てレンズ27で集光され、一体型プリズム3に入射する。一体型プリズム3を構成する内部全反射プリズム31は、例えばSiによって形成されている。図2に示すように、内部全反射プリズム31の入射面31a側にはテラヘルツ波発生素子32が固定され、出射面31b側にはテラヘルツ波検出素子33が固定されている。内部全反射プリズム31の上面は平坦な全反射面31cとなっており、屈折率、誘電率、吸収係数といった各種の光学定数を計測する対象となる被測定物34が配置される。本実施形態では、被測定物34は、粉体状あるいは片状といった固体の被測定物34が想定される。
【0021】
全反射面31cは、テラヘルツ波に対しては鏡面となり、近赤外線に対しては砂面となるように加工されている。具体的には、全反射面31cは、例えば表面粗さがRa=10μmとなるように加工されている。これにより、テラヘルツ波Tと同じ光路で近赤外線を全反射面31cに照射すると、テラヘルツ波Tが全反射する位置で近赤外線が散乱する。この散乱を目視確認することで、テラヘルツ波Tが全反射する位置を確認し、被測定物34を配置すべき位置を確認することができる。
【0022】
入射面31aと全反射面31cとの間には、テラヘルツ波発生素子32で発生したテラヘルツ波Tを全反射面31cに向けて平行光化する第1光学面31dが設けられている。更に、全反射面31cと出射面31bとの間には、全反射面31cで全反射したテラヘルツ波Tを出射面31bに向けて集光する第2光学面31eが設けられている。これらの第1光学面31d及び第2光学面31eは、内部全反射プリズム31の底面を所定の形状に曲面加工することによって形成されている。
【0023】
テラヘルツ波発生素子32としては、例えばZnTeなどの非線形光学結晶、GaAsを用いた光スイッチなどのアンテナ素子、InAsなどの半導体、超伝導体などを用いることができる。これらの素子から発生するテラヘルツ波のパルスは、一般的には数ピコ秒程度である。テラヘルツ波発生素子32として非線形光学結晶を用いた場合、テラヘルツ波発生素子32にポンプ光48が入射すると、非線形光学効果によってテラヘルツ波Tに変換される。発生したテラヘルツ波Tは、内部全反射プリズム31の上面で全反射し、テラヘルツ波検出素子33に入射する。
【0024】
テラヘルツ波検出素子33としては、例えばZnTeなどの電気光学結晶、GaAsを用いた光スイッチなどのアンテナ素子を用いることができる。テラヘルツ波検出素子33として、電気光学結晶を用いた場合、テラヘルツ波検出素子33にテラヘルツ波Tとプローブ光49とが同時に入射すると、プローブ光49がポッケルス効果によって複屈折を受ける。プローブ光49の複屈折量は、テラヘルツ波Tの電場強度に比例する。従って、プローブ光49の複屈折量を検出することで、テラヘルツ波Tを検出することができる。
【0025】
テラヘルツ波発生素子32及びテラヘルツ波検出素子33の固定には、例えば熱硬化型の接着剤が用いられる。このとき用いられる接着剤は、テラヘルツ波Tの波長において透明なものであって、テラヘルツ波発生素子32及びテラヘルツ波検出素子33それぞれの屈折率と内部全反射プリズム31の屈折率との間の屈折率、又はいずれかと同等の屈折率を有していることが好ましい。
【0026】
また、接着剤のほか、テラヘルツ波Tの波長において透明なワックスを溶融・凝固させて固定する方法や、テラヘルツ波発生素子32及びテラヘルツ波検出素子33を入射面31a及び出射面31bにそれぞれ直接接触させた状態で、テラヘルツ波発生素子32及びテラヘルツ波検出素子33の縁部を接着剤で固めるようにしてもよい。
【0027】
テラヘルツ波Tを検出する検出部4は、図1に示すように、例えばλ/4波長板41と、偏光素子42と、一対のフォトダイオード43,43と、差動増幅器44と、ロックイン増幅器47とによって構成されている。テラヘルツ波検出素子33で反射したプローブ光49は、ミラー45によって検出部4側に導かれ、レンズ46で集光されてλ/4波長板41を経由した後、ウォラストンプリズムなどの偏光素子42によって垂直直線偏光成分と水平直線偏光成分とに分離される。このプローブ光49の垂直直線偏光成分と水平直線偏光成分とは、一対のフォトダイオード43,43によってそれぞれ電気信号に変換され、差動増幅器44によってその差分が検出される。差動増幅器44からの出力信号は、ロックイン増幅器47によって増幅された後、データ解析部6に入力される。
【0028】
テラヘルツ波検出素子33にテラヘルツ波Tとプローブ光49とが同時に入射した場合、差動増幅器44からはテラヘルツ波Tの電場強度に比例した強度の信号が出力され、テラヘルツ波検出素子33にテラヘルツ波Tとプローブ光49とが同時に入射しなかった場合、差動増幅器44からは信号が出力されないこととなる。また、テラヘルツ波Tが内部全反射プリズム31の全反射面31cで反射するときに放射されるエバネッセント成分は、内部全反射プリズム31の全反射面31cに配置される被測定物34と相互作用を起こし、被測定物34が配置されていない場合に比べてテラヘルツ波Tの反射率が変化する。従って、このテラヘルツ波Tの反射率の変化を計測することで、被測定物34の分光特性を評価することができる。
【0029】
データ解析部6は、例えば全反射分光計測装置1の専用の解析プログラムに基づいて全反射分光計測のデータ解析処理を行う部分であり、物理的には、CPU(中央処理装置)、メモリ、入力装置、及び表示部7などを有するコンピュータシステムである。データ解析部6は、ロックイン増幅器47から入力された信号に基づいてデータ解析処理を実行し、解析結果を表示部7に表示させる。
【0030】
図3は、被測定物34に関する光学定数を計測する手順を示すフローチャートである。なお、以下の説明では、テラヘルツ波Tが内部全反射プリズム31の全反射面31cに対しP偏光で入射した場合を仮定する。
【0031】
図3に示すように、まず、全反射分光計測装置1を用いてリファレンス計測及びサンプル計測を実施する(ステップS01,S02)。リファレンス計測では、被測定物34が配置されていない全反射面31cで全反射したテラヘルツ波Trefを計測する。また、サンプル計測では、被測定物34が配置されている全反射面31cで全反射したテラヘルツ波Tsigを計測する。なお、リファレンス計測は、光学定数の計測の度に行わなくても良い。例えば、一度のリファレンス計測結果を記憶しておき、記憶したリファレンス計測結果を以後の光学定数の計測で繰り返し用いてもよい。
【0032】
次に、テラヘルツ波Trefとテラヘルツ波Tsigとをそれぞれフーリエ変換することによって、振幅Rref及び位相Φrefと、振幅Rsig及び位相Φsigと、をそれぞれ求める(ステップS03)。
【0033】
次に、振幅Rrefと振幅Rsigとの比Pを式(1)によって求め、位相Φrefと位相Φsigとの位相差Δを式(2)によって求める(ステップS04)。
【数1】


【数2】


さらに、上述した比Pと位相差Δとを用いて値qを式(3)のように定める(ステップS05)。
【数3】

【0034】
ここで、内部全反射プリズム31に対するテラヘルツ波Tの入射角をθ(図2参照)とし、テラヘルツ波Tref及びテラヘルツ波Tsigについてスネルの法則より求められる屈折角をそれぞれθref,θsigとする。更に、フレネルの反射式を用いると、式(3)におけるPe−iΔは、以下の式(4)で表すことができる。
【数4】

【0035】
上記式(4)を式(3)に代入し、式の変形を行うと、以下の式(5)が得られる。
【数5】

【0036】
また、内部全反射プリズム31を構成する物質の複素屈折率をnprismとし、被測定物34の複素屈折率をnsampleとした場合、スネルの法則は以下の式(6)のようになり、被測定物34の複素屈折率の2乗は、式(7)で表される。従って、式(5)を式(7)に代入することで、被測定物34の複素屈折率を求めることができ、これにより、被測定物34の所望の光学定数が計測される(ステップS06)。
【数6】


【数7】

【0037】
続いて、上記リファレンス計測及びサンプル計測について、より詳細に説明する。
【0038】
上述したように、本実施形態では、粉体状あるいは片状といった固体の被測定物34を測定することを想定している。このような固体の被測定物34に関する光学定数を精度良く測定するためには、被測定物34を全反射面31cに十分に近接させることで、テラヘルツ波Tのエバネッセント成分と被測定物34との相互作用を安定して生じさせる必要がある。
【0039】
このため、従来では、全反射面の上に被測定物を押し付けながら、テラヘルツ波を全反射面で全反射させる方法等が採られていたが、かかる方法を採った場合でも、全反射面と被測定物との間に微小な隙間が生じてしまう場合がある。この微小な隙間は、測定の度に変化するため、エバネッセント成分と被測定物との相互作用が計測の度にばらつく要因となる。一方、この微小な隙間をなくすために、被測定物を全反射面に過剰な力で押し付けようとすると、プリズムに変形や傷が生じるおそれがある。
【0040】
これに対し、本実施形態では、リファレンス計測及びサンプル計測を実施するに際して液体50を用いる。液体50は、被測定物34が不溶性を示す液体である必要があり、更にテラヘルツ波Tの吸収性を有しないものであることが好ましい。このような液体50としては、フッ素系不活性液体やシリコーンオイル等を用いる。フッ素系不活性液体としては、パーフルオロカーボンやハイドロフルオロカーボンが挙げられる。これらの液体の中でも、パーフルオロカーボンは、不溶性及び吸収性の点で特に好ましい。なお、フッ素系不活性液体やシリコーンオイルは、揮発しにくいので、揮発成分による周囲への悪影響がない上、環境負荷が小さい点でも好ましい。なお、ここでいう「テラヘルツ波の吸収性を有しない」とは、例えば、0.1[THz]〜10[THz]のテラヘルツ波に対する吸収係数が20[cm−1]以下であることを意味し、より好ましくは10[cm−1]以下であることを意味する。
【0041】
上記リファレンス計測では、まず、液体50を配置する位置を確認する。この確認にあたっては、テラヘルツ波Tと同じ光路で全反射面31cに近赤外線を照射する。全反射面31cは、上述のように近赤外線に対して砂面となっているため、テラヘルツ波Tと同じ光路で全反射面31cに近赤外線を照射すると、テラヘルツ波Tが全反射する位置で近赤外線が散乱し、液体50を配置する位置を示すこととなる。このとき用いる近赤外線は、テラヘルツ波発生素子32を透過し、かつ内部全反射プリズム31に吸収されにくいことを考慮し、例えば、内部全反射プリズム31がSiによって形成されている場合には波長1μm〜2μmであることが好ましい。このようにして確認した位置に、液体50を配置し(図4(a)及び図5(a)参照)、テラヘルツ波Trefを計測する。
【0042】
上記サンプル計測では、全反射面31cと被測定物34との間に液体50を介在させた状態で、テラヘルツ波Tsigを計測する。被測定物34が粉体状である場合には、例えば、全反射面31c上に配置された液体50内に被測定物34を入れ(図4(b)参照)、被測定物34の全体が液体50に浸った状態とする(図4(c)参照)。これにより、液体50と被測定物34との間に例えば接着力等の力が作用し、被測定物34が全反射面31cに十分に近接した状態となる。なお、粉体状の被測定物34の場合には、被測定物34と液体50とが十分に混ざった状態となっていればよく、被測定物34と液体50とを予め混合しておき、これを全反射面31c上に配置してもよい。
【0043】
一方、被測定物34が片状である場合には、例えば全反射面31c上に液体50を先に塗布し、この後、被測定物34を配置する(図5(b)、図5(c)参照)。これにより、粉体状の場合と同様に、液体50と被測定物34との間に例えば接着力等の力が作用し、被測定物34が全反射面31cに十分に近接した状態となる。なお、被測定物34の底面に予め液体50を塗布しておき、それを全反射面31c上に配置してもよい。
【0044】
以上説明したように、本実施形態では、全反射面31cと被測定物34との間に液体50を介在させている。このため、液体50と被測定物34との間に働く接着力等の力によって被測定物34を全反射面31cに近接させることが可能となり、エバネッセント成分と被測定物34との相互作用を安定して生じさせることができる。被測定物34が粉体状である場合には、上記接着力等により、被測定物34の粉体同士を近接させることも可能となり、エバネッセント成分と被測定物34との相互作用をより安定して生じさせることができる。一方、被測定物34を全反射面31cに物理的に押し付ける必要がなくなるため、内部全反射プリズム31に変形や傷が生じることも抑制することができる。従って、この方法では、上記接着力等を利用することで、被測定物34に関する光学定数を精度良く計測することができる。なお、被測定物34が不溶性を示す液体50を用いるので、液体50が被測定物34の測定を阻害することはない。
【0045】
図6(a)は、本実施形態により計測された被測定物34の吸収特性の一例を示す図である。この例において、被測定物34はラクトースであり、液体50はパーフルオロカーボンである。図6(a)に示すように、1回目に計測された被測定物34の吸収特性A1と2回目に計測された被測定物34の吸収特性A2とは、ほぼ同等の傾向を示し、特にピーク値や、そのピーク値に対応する周波数等がほぼ一致している。即ち、被測定物34の吸収特性の計測結果が、計測の度にばらつくことなく、安定していることが示されている。
【0046】
図6(b)は、比較例として、液体50を用いずに計測された被測定物34の吸収特性を示す図である。比較例においても、被測定物34はラクトースである。図6(b)に示すように、1回目に計測された被測定物34の吸収特性B1と2回目に計測された被測定物34の吸収特性B2とは、液体50を用いた場合の吸収特性A1,A2と同様に、約1.4THzでピーク値を示している。しかしながら、吸収特性B1と吸収特性B2とは、他の周波数でもピーク値を示しており、その周波数は、吸収特性B1と吸収特性B2との間で大きく異なっている。即ち、比較例では、被測定物34の吸収特性の計測結果が、計測の度に大きくばらつき、安定していないことが示されている。
【0047】
また、本実施形態では、全反射面31cの上に液体50のみを配置した状態で全反射したテラヘルツ波Trefを参照用のテラヘルツ波として用い、液体50によるテラヘルツ波Tsigの吸収等の影響をキャンセルしている。このため、被測定物34に関する光学定数を更に精度良く計測することができる。
【0048】
また、液体50として、テラヘルツ波の吸収性を有しないフッ素系不活性液体やシリコーンオイル等を用いることで、液体50によるテラヘルツ波Tsigの吸収が抑制されるため、被測定物34に関する光学定数を更に精度良く計測することができる。
【0049】
以上、本発明の好適な実施形態について説明してきたが、本発明は上記実施形態に限られるものではない。
【0050】
例えば、上記リファレンス計測及びサンプル計測では、図7に示すように、全反射面31cの上に環状の囲い51を配置し、囲い51内に液体50を配置してもよい。囲い51は、例えばシリコーンゴムからなる。囲い51を用いると、全反射面31c上に液体50を留めることができるため、全反射面31cと被測定物34との間に液体50を確実に介在させることができる。なお、囲い51は、自己粘着性により全反射面31cに貼り付けられることが好ましい。この場合、計測終了後に、囲い51を容易に除去することができる。
【符号の説明】
【0051】
31…内部全反射プリズム、31c…全反射面、34…被測定物、50…液体、T…テラヘルツ波、51…囲い。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プリズムの全反射面の上に被測定物を配置し、前記プリズムの内部を通って前記全反射面で全反射したテラヘルツ波に基づいて、前記被測定物に関する光学定数を計測する全反射分光計測方法であって、
少なくとも前記全反射面と前記被測定物との間に、前記被測定物が不溶性を示す液体を介在させることを特徴とする全反射分光計測方法。
【請求項2】
前記全反射面の上に前記液体のみを配置した状態で全反射したテラヘルツ波を参照用のテラヘルツ波として、前記被測定物に関する光学定数を計測することを特徴とする請求項1記載の全反射分光計測方法。
【請求項3】
前記液体として、テラヘルツ波の吸収性を有しない液体を用いることを特徴とする請求項1又は2記載の全反射分光計測方法。
【請求項4】
前記液体として、フッ素系不活性液体を用いることを特徴とする請求項3記載の全反射分光計測方法。
【請求項5】
前記液体として、シリコーンオイルを用いることを特徴とする請求項3記載の全反射分光計測方法。
【請求項6】
前記全反射面の上に環状の囲いを配置し、前記囲い内に前記液体を配置することを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項記載の全反射分光計測方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−198135(P2012−198135A)
【公開日】平成24年10月18日(2012.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−63079(P2011−63079)
【出願日】平成23年3月22日(2011.3.22)
【出願人】(000236436)浜松ホトニクス株式会社 (1,479)
【Fターム(参考)】