説明

全熱交換器及びこれに用いる仕切板の製造方法

【課題】結露を繰り返す環境下でも性能の低下を抑制できるとともに、全熱交換効率の向上を図った全熱交換器及びこれに用いる仕切板の製造方法を得ること。
【解決手段】仕切板を隔てて二種の気体を流通させ、仕切板を介して各気体の顕熱及び潜熱を熱交換させる全熱交換器であって、仕切板は、多孔質樹脂基材11から成る第1層と、第1層に積層された多孔状の親水性透湿樹脂膜10から成り、通気性を有する第2層と、第2層に積層された無孔状の親水性透湿樹脂膜9から成り、気体遮蔽性を有する第3層とで構成された3層構造で、第3層は表面に凹凸形状を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば室外から室内への給気と、室内から室外への排気とを同時に行う換気装置等に用いられ、特に結露を繰り返すような環境寒冷地でも使用できる全熱交換器及びこれに用いる仕切板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
室内の冷暖房効果を損なわずに換気を行う方法として、給気と排気との間で熱交換を行いながら換気を行う方法がある。また、熱交換の効率を向上させるためには、給気と排気との間で温度(顕熱)とともに湿度(潜熱)の交換も同時に行う(すなわち、全熱交換を行う)ことが有効である。
【0003】
全熱交換を行う全熱交換器は、平らな仕切板と波形をした間隔板とを交互に積層した構造で、積層する際に間隔板の方向を一段置きに直交させることで、給気のための流路と排気のための流路とが形成されている。
【0004】
例えば冬季の場合、給気の室外空気と排気の室内空気とが間隔板によって隔てられた各流路を通る際、仕切板を介して給気と排気との間で温度及び湿度の交換が行われ、給気は暖められ加湿されて室内に供給される。また、排気は冷やされ減湿されて室外へ排気される。熱交換を行う仕切板は、水蒸気を通すが空気は通さない性質(透湿性)と、給気と排気との隔絶による換気性(気体遮蔽性)とを併せ持つことで、高い全熱交換効率を実現している。
【0005】
全熱交換器の普及に伴い、給気と排気との温度差が大きいため結露が生じやすい環境、例えば寒冷地や浴室、温水プール等に設置するため、仕切板材質の耐湿化が要求されている。
【0006】
従来、高分子多孔質シートに吸湿性物資を含浸又は塗布した仕切板を介して給気と排気との間の全熱交換を行う全熱交換器が提案されている。吸湿性物質としては、吸湿剤を含有する親水性高分子などが用いられている(特許文献1参照)。
【0007】
また、不織布などの多孔質基材上に直接、非水溶性の親水性高分子を塗布した仕切板を介して給気と排気との間の顕熱及び潜熱の全熱交換を行う全熱交換器も提供されている(特許文献2参照)。
【0008】
また、多孔質基材(例えば不織布)と非水溶性の親水性高分子との間に、多孔質樹脂膜(ポリテトラフルオロエチレン(PTFE))を挟み込む構造を有する仕切板を介して、給気と排気との間の顕熱及び潜熱の全熱交換を行う全熱交換器も提供されている(特許文献3参照)。
【0009】
また、非水溶性で撥水性の透湿樹脂を透湿樹脂膜に用い、かつ透湿樹脂膜の表面を別工程(放電加工)で荒らして小さな凹凸形状を設けた全熱交換器も提供されている(特許文献4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開昭60−205193号公報
【特許文献2】特公平4−081115号公報
【特許文献3】特開平7−133994号公報
【特許文献4】特開2008−89199号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかし、特許文献1に示された仕切板による全熱交換器では、仕切板表面に発生した結露などにより吸湿剤の流失量が多くなってしまうため、仕切板の透湿性を長時間保持することが困難である。したがって、全熱交換器を長期間使用した場合、全熱交換器の性能が低下してくる。
【0012】
特許文献2に示された仕切板による全熱交換器では、吸湿剤に起因する透湿性低下は回避できるが、表面凹凸の多い不織布などの多孔質樹脂基材に親水性高分子を成膜するため、膜が厚くなることが避けられず、透湿性能を損ない熱交換効率も低下する。高い透湿性を得るために親水性高分子の膜を薄くすると、多孔質樹脂基材の表面凹凸によって親水性高分子の膜にピンホールが生じ、気体遮蔽性を保つことができなくなる。
【0013】
特許文献3に示された仕切板による全熱交換器では、吸湿剤の流失による透湿性低下は回避できる。また、多孔質樹脂膜PTFEを多孔質樹脂基材と親水性透湿樹脂膜との間に挟み込むため、親水性高分子を薄膜で成膜することが可能となり、高い透湿性の親水性高分子膜を得ることができる。しかしながら、フッ素系樹脂であるPTFE自身は透湿性がなく多孔質樹脂膜PTFEの透湿性能は気孔部分のみで決まるため、フッ素系樹脂は仕切板全体としての透湿性を高める上での障壁となる。
【0014】
特許文献4に示された仕切板による全熱交換器では、撥水性の透湿樹脂膜のため透湿による潜熱交換効率を損ない熱交換効率も低下する。また、透湿樹脂膜の表面に凹凸形状を設けるため、撥水性を有する透湿樹脂膜の成膜後に別工程(放電加工)を要するためコスト面で不利となる。
【0015】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、結露を繰り返す環境下でも性能の低下を抑制できるとともに、全熱交換効率の向上を図った全熱交換器及びこれに用いる仕切板の製造方法を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明は、仕切板を隔てて二種の気体を流通させ、仕切板を介して各気体の顕熱及び潜熱を熱交換させる全熱交換器であって、仕切板は、多孔質樹脂基材から成る第1層と、第1層に積層された多孔状の親水性透湿樹脂膜から成り、通気性を有する第2層と、第2層に積層された無孔状の親水性透湿樹脂膜から成り、気体遮蔽性を有する第3層とで構成された3層構造で、第3層は表面に凹凸形状を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、結露を繰り返す環境下でも性能の低下を抑制できるとともに、全熱交換効率の向上を図れるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】図1は、本発明の実施の形態にかかる全熱交換器の構成を示す斜視図である。
【図2】図2は、各仕切板を構成する積層体の構造を示す図である。
【図3】図3は、各仕切板を構成する積層体の製造方法を示す図である。
【図4】図4は、各仕切板を構成する積層体をラミネート方で形成する手順を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に、本発明にかかる全熱交換器及びこれに用いる仕切板の製造方法の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施の形態によりこの発明が限定されるものではない。
【0020】
実施の形態.
図1は、本発明の実施の形態にかかる全熱交換器の構成を示す斜視図である。全熱交換器1は、給気の気流(矢印A)が通される給気層2と、排気の気流(矢印B)が通される排気層3とが仕切板4を介して交互に積層された積層体である。給気層2には、仕切板4に沿って給気の気流を導く給気通路5が設けられている。排気層3には、仕切板4に沿って排気の気流を導く排気通路6が設けられている。給気通路5及び排気通路6は、各仕切板4の間隔を保持する波形の間隔板7によりそれぞれ形成されている。給気の気流が給気通路5により導かれる方向(矢印A)と、排気の気流が排気通路6により導かれる方向(矢印B)とは互いに垂直になっている。
【0021】
各間隔板7は、加工紙を波板状に加工して作成されている。加工紙の厚さは50〜200[μm]の範囲内に設定されている。
【0022】
全熱交換器1の動作について説明する。例えば、冷たくて乾燥した外気が給気として給気層2に通され、暖かくて湿った室内空気が排気として排気層3に通されると、給気及び排気の各気流(二種の気流)が各仕切板4を隔てて流れる。このとき、仕切板4を熱及び水蒸気が通り、給気と排気との間で顕熱及び潜熱の熱交換が各仕切板4を介して行われる。これにより、給気は暖められるとともに加湿されて室内へ供給され、排気は冷やされるとともに減湿(除湿)されて室外へ排出される。
【0023】
図2は、各仕切板4を構成する積層体の構造を示す図である。各仕切板4は、第1層としての多孔質樹脂基材11と、第1層に積層された第2層としての多孔状の親水性透湿樹脂膜10と、第2層に積層された第3層としての表面に凹凸形状を有した無孔状の親水性透湿樹脂膜9とを有した3層構造となっている。
【0024】
図3は、各仕切板を構成する積層体の製造方法を示す図である。まず、気体遮蔽性を有した透湿性の高い親水性樹脂膜を、離型基材8上に薄膜状でありながらピンホールがない無孔状態で形成して、無孔状の親水性透湿樹脂膜9(第3層)とする(図3(a))。すなわち、無孔状の親水性透湿樹脂膜9は、粗くない離型基材8を下地として完全な形(無孔状態)で製膜することで形成される。
【0025】
次に、無孔状の親水性樹脂膜9の上に親水性透湿樹脂膜10’を形成する(図3(b))。そして、親水性透湿樹脂膜10’に多孔質樹脂基材11を貼り合せる(図3(c))。無孔状の親水性透湿樹脂膜9に親水性透湿樹脂を塗布して親水性透湿樹脂膜10’を形成した後、完全に製膜しきる前(半乾き状態)に多孔質樹脂基材11(第1層の不織布)を貼り合せることにより、多孔質樹脂基材11(第1層)の表面凹凸で親水性透湿樹脂膜10’は多孔状になる。これを乾燥させることで、多孔状の親水性透湿樹脂膜層10(第2層)が形成される。このように、多孔質樹脂基材11を貼り合せられた親水性透湿樹脂膜10’は、多孔質樹脂基材11の表面凹凸で多孔状に膜が形成されて多孔状の親水性透湿樹脂膜10となる。また多孔質樹脂基材11の表面凹凸は多孔状の親水性透湿樹脂膜10により平滑化される。以上のように、多孔状の親水性透湿樹脂膜10の“多孔”は、半乾き状態の親水性透湿樹脂膜10’を多孔状樹脂基材11と貼り合せ、親水性透湿樹脂膜10’に穴を開けることで形成される。
【0026】
このようにして形成した積層体を離型基材8から離型することで、各仕切板を構成する積層体が完成する(図3(d))。
【0027】
無孔質の親水性透湿樹脂膜9は、凹凸形状を有する離型基材8上に親水性透湿樹脂を塗布することで、凹凸形状を有する無孔質の透湿樹脂膜として成膜できる。これにより、後工程を要することなく、無孔状の親水性透湿樹脂膜9の表面に凹凸形状を自発的に成膜することができコスト面でも有利となる。凹凸形状を有する離型基材8として、凹凸形状を有するエンボス剥離紙などを用いることができる。
【0028】
第1層の多孔質樹脂基材11は、例えば不織布が用いられる。不織布で構成された通気性の多孔質樹脂基材11は樹脂繊維間同士の間隔を粗く、広くすることができるため、仕切板4の強度を保持する役目を担うが、気体遮蔽及び温度と湿度を熱交換する機能を果たす無孔状の親水性透湿樹脂膜9の働きを阻害しない。また、不織布で構成された通気性の多孔質樹脂基材11は非水溶性であるため、結露を繰り返すような環境においても結露水による劣化が防止され、仕切板4の透湿性・気体遮蔽性などの基本性能を保持できる。
【0029】
第2層及び第3層の親水性透湿樹脂膜は、例えばエーテル系のポリウレタン系樹脂またはエステル系のポリウレタン系樹脂、ポリエステル系樹脂等が用いられ、好ましくは加水分解耐性が高く、仕切板としての長寿命が見込まれ、且つ透湿性が高いエーテル系のポリウレタン系樹脂が用いられる。第2層及び第3層の親水性透湿樹脂膜として、上記の樹脂に限定されず加水分解耐性が高く長寿化が見込めるもので、且つ透湿性が高い樹脂であれば用いることができる。
【0030】
多孔状の親水性透湿樹脂膜10(第2層)は、表面凹凸の大きい多孔質樹脂基材11(不織布)(第1層)の表面を平滑化し、多孔状の親水性透湿樹脂膜10(第2層)の上に無孔状の親水性透湿樹脂膜9(第3層)の形成を可能とする。また、透湿性を有した親水性透湿樹脂膜を多孔状にすることで、気孔部と透湿性の高い樹脂部分との両方で透湿性を確保することにより、透湿性をさらに向上できる。
【0031】
無孔状の親水性透湿樹脂膜9(第3層)は、表面が平滑化された多孔状の親水性透湿樹脂膜10(第2層)と重なるように形成されるため、薄膜化することができ、気体遮蔽性を保持しつつ透湿性を向上できる。
【0032】
親水性透湿樹脂膜の製膜方法として、離型基材8(剥離紙)等に公知の製膜方法、例えば剥離フィルム等にコーティングしておいて多孔質樹脂基材11(不織布)に張り合わせるラミネート方法で、無孔状の親水性透湿樹脂膜9を形成させておき、多孔質樹脂基材11にコーティングした多孔状の親水性透湿樹脂膜10の面と貼り合せる、いわゆるラミネート方法を適用することもできる。
【0033】
図4は、各仕切板4を構成する積層体をラミネート方で形成する手順を示す図である。まず、平坦な離型基材8’の上に親水性透湿樹脂膜10’を形成する(図4(a))。そして、親水性透湿樹脂膜10’に多孔質樹脂基材11を貼り合せる(図4(b))。離型基材8’に親水性透湿樹脂を塗布した後、完全に製膜しきる前(半乾き状態)に多孔質樹脂基材11(第1層の不織布)を貼り合せることにより、多孔質樹脂基材11(第1層)の表面凹凸で親水性透湿樹脂膜10’は多孔状になる。親水性透湿樹脂膜10’を乾燥させることで、多孔状の親水性透湿樹脂膜層10を形成し、離型基材8’から取り外す(図4(c))。
【0034】
次に、気体遮蔽性を有した透湿性の高い親水性樹脂膜を離型基材8上に薄膜状でありながらピンホールがない無孔状態で無孔状の親水性透湿樹脂膜9として薄膜を形成する(図4(d))。無孔状の親水性透湿樹脂膜9(第3層)は、粗くない離型基材8を下地として完全な形で製膜することで形成される。そして、無孔状の親水性透湿樹脂膜9と多孔状の親水性透湿樹脂膜10とを貼り合わせる(図4(e))。その後、形成した積層体を離型基材8から離型することで、各仕切板を構成する積層体が完成する(図4(f))。
【0035】
本実施の形態に係る全熱交換器は、無孔状の親水性透湿樹脂膜の表面に凹凸形状を有しているため、表面に凹凸形状を有しない無孔状の親水性透湿樹脂膜と比較して、水分子の吸着(吸水)面積が拡大しているため、透湿性能(吸湿・透過量)の向上を図ることができる。ただし、透湿性能が十分に得られるのであれば、無孔状の親水性透湿樹脂膜の表面に凹凸形状を設けないことも可能である。また、吸湿剤を含浸させないため吸湿剤の流失による透湿性能の低下を防止できる。
【0036】
さらに、表面に凹凸形状を有する無孔状の親水性透湿樹脂膜を全熱交換器の仕切板として用いることで、仕切板と間隔板との接着(片段コルゲート)時に、表面に凹凸を有しない無孔状の親水性透湿樹脂膜と比較した場合に接着面積が拡大し、接着性の向上を図れる。
【符号の説明】
【0037】
1 全熱交換器
2 給気層
3 排気層
4 仕切板
5 給気通路
6 排気通路
7 間隔板
8 離型基材
9 無孔状の親水性透湿樹脂膜
10 多孔状の親水性透湿樹脂膜
11 多孔質樹脂基材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
仕切板を隔てて二種の気体を流通させ、前記仕切板を介して各気体の顕熱及び潜熱を熱交換させる全熱交換器であって、
前記仕切板は、
多孔質樹脂基材から成る第1層と、
前記第1層に積層された多孔状の親水性透湿樹脂膜から成り、通気性を有する第2層と、
前記第2層に積層された無孔状の親水性透湿樹脂膜から成り、気体遮蔽性を有する第3層とで構成された3層構造で、前記第3層は表面に凹凸形状を有することを特徴とする全熱交換器。
【請求項2】
前記第2層及び前記第3層は、非水溶性であることを特徴とする請求項1に記載の全熱交換器。
【請求項3】
前記第2層及び前記第3層が、ポリウレタン樹脂で形成されたことを特徴とする請求項2に記載の全熱交換器。
【請求項4】
前記多孔質樹脂基材は、不織布であることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の全熱交換器。
【請求項5】
二種の気体の顕熱及び潜熱を熱交換させる全熱交換器に用いられて前記二種の気体を隔てて流通させる仕切板の製造方法であって、
凹凸表面を有する離型基材上に無孔状の親水性樹脂膜を形成する工程と、
前記無孔状の親水性樹脂膜の上に親水性透湿樹脂を塗布する工程と、
前記無孔状の親水性樹脂膜の上に塗布した親水性透湿樹脂が乾燥しきる前に、該親水性透湿樹脂の上に多孔質樹脂基材を積層する工程と、
前記多孔質樹脂基材を乾燥させて、前記無孔状の親水性樹脂膜の上に塗布した親水性透湿樹脂を多孔状の親水性透湿樹脂膜とする工程と、
前記離型基材を前記無孔状の親水性樹脂膜から剥離させて、該無孔状の親水性透湿樹脂膜に転写された前記凹凸表面を露出させる工程と、
を有することを特徴とする仕切板の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−15286(P2013−15286A)
【公開日】平成25年1月24日(2013.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−149246(P2011−149246)
【出願日】平成23年7月5日(2011.7.5)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】