説明

六方晶フェライト磁性粒子およびその製造方法、磁気記録媒体用磁性粉、ならびに磁気記録媒体

【課題】高密度記録用磁気記録媒体における強磁性体として好適な六方晶フェライト磁性粒子を提供すること。
【解決手段】Alを含む原料混合物を溶融し、得られた溶融物を急冷し非晶質体を得ること、上記非晶質体を加熱処理することにより六方晶フェライト磁性粒子を析出させること、および、上記加熱処理により得られた物質に酸処理および洗浄処理を施すことにより、粒径が15〜30nmの範囲であって表面にAlが被着した、粒子総量に対するAl含有量がAl23換算で0.6〜8.0質量%である六方晶フェライト磁性粒子を捕集すること、を含む、六方晶フェライト磁性粒子の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、六方晶フェライト磁性粒子の製造方法に関するものであり、詳しくは、塗布型磁気記録媒体の製造に好適な六方晶フェライト磁性粒子をガラス結晶化法により製造する方法に関するものである。
更に本発明は、上記方法により得られた六方晶フェライト磁性粒子および磁気記録媒体用磁性粉、ならびに上記六方晶フェライト磁性粒子を含む塗布型磁気記録媒体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、高密度記録用磁気記録媒体の磁性層には強磁性金属磁性粒子が主に用いられてきた。強磁性金属磁性粒子は主に鉄を主体とする針状粒子であり、高密度記録のために粒子サイズの微細化、高保磁力化が追求され各種用途の磁気記録媒体に用いられてきた。
【0003】
記録情報量の増加により、磁気記録媒体には常に高密度記録が要求されている。しかしながら更に高密度記録を達成するためには強磁性金属磁性粒子の改良には限界が見え始めている。これに対し、六方晶フェライト磁性粒子は、保磁力は永久磁石材料にも用いられた程に大きく、保磁力の基である磁気異方性は結晶構造に由来するため粒子を微細化しても高保磁力を維持することができる。更に、六方晶フェライト磁性粒子を磁性層に用いた磁気記録媒体はその垂直成分により高密度特性に優れる。このように六方晶フェライト磁性粒子は、高密度化に適した強磁性体である。
【0004】
近年、上記優れた特性を有する六方晶フェライト磁性粒子を更に改良するために、六方晶フェライトの粒子表面にAl等を被着させること(特許文献1〜3参照)、六方晶フェライト磁性粒子にMgまたはAlを少量含有させること(特許文献4)が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭58−19733号公報
【特許文献2】特開平5−283219号公報
【特許文献3】特開平9−213513号公報
【特許文献4】特開平4−337521号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記特許文献1〜4に記載の技術は、いずれも六方晶フェライト磁性粒子の磁気記録用途への適性を高めることを目的として、その分散性の向上や粒度分布の均一化を図るものである。
しかし本願発明者らの検討により、特許文献1〜3に記載されているような粒子表面にAl等を被着させた六方晶フェライト磁性粒子を使用した磁気記録媒体では、媒体の出力が低下することが判明した。これは、Al等が均一被覆されていないため粒子からのFeやBa溶出量が多く、それらイオン成分が脂肪酸またはその誘導体(脂肪酸エステル等)と反応して脂肪酸金属塩を形成することによりヘッドが汚染されることが原因と推察される。また、本願発明者らの検討により、上記粒子では磁気記録媒体用塗布液調製時に分散メディアの磨耗が多いことが明らかとなった。分散メディアの磨耗は、メディアライフ低下によるコスト増につながるものであり、更にはメディアの磨耗粉が媒体に混入し磁気特性を低下させるおそれもある。
一方、特許文献4に記載の六方晶フェライト磁性粒子は、粒径が大きく現在の更なる高密度化が要求されている磁気記録媒体用の磁性粒子としては使用し得ないものである。
【0007】
そこで本発明の目的は、高密度記録用磁気記録媒体における強磁性体として好適な六方晶フェライト磁性粒子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
六方晶フェライト磁性粒子の製法としては、ガラス結晶化法、水熱合成法、共沈法等の方法が知られているが、磁気記録媒体用の六方晶フェライトの製法としては、磁気記録媒体に望まれる微粒子適性・単粒子分散適性を有する磁性粉末が得られる、粒度分布が狭い、等の点からガラス結晶化法が優れると言われている。そこで本願発明者らは、ガラス結晶化法により上記目的を達成するために鋭意検討を重ねた。その結果、以下の新たな知見を得るに至った。
ガラス結晶化法では通常、非晶質体を加熱することにより、六方晶フェライト磁性粒子と結晶化したガラス成分(例えばBaO・B23)を析出させ、酸処理によって結晶化したガラス成分を除去して六方晶フェライト磁性粒子を得る。しかし、この酸処理中に洗浄を繰り返すことで六方晶フェライトの粒子同士が凝集体を形成すると推察される。したがって、ここで得られた六方晶フェライト磁性粒子に特許文献1〜3に記載されているようにAl等を被着させると、凝集体の上にAl等が被着されることになる。また、特許文献1〜3に記載されているように金属塩の水溶液中で被着処理を施す場合、水溶液中で六方晶フェライト磁性粒子が凝集すると、やはり凝集体の上にAl等が被着されることとなる。このような凝集は、近年の微粒子化された六方晶フェライト磁性粒子では特に顕在化する傾向にある。その後、こうして得られた粒子が磁性層形成塗布液中で分散処理を施されると、粒子の凝集体が解砕される結果、表面にAl等が被着されていない微粒子が現れると考えられる。以上のモデル図を、図2に示す。このように表面に被着物を有さない微粒子の表面から溶出したFeやBaが媒体に潤滑剤成分として使用された脂肪酸またはその誘導体と塩を形成し脂肪酸金属塩を生成することが、特許文献1〜3に記載されているような粒子表面に被着物を有する六方晶フェライト磁性粒子を使用した媒体の出力が低下する原因と考えられる。また、凝集体の上にAl等が被着されているため粒子自体が硬くなり、これが分散処理時に分散メディア磨耗を引き起こしていると推察される。
これに対し本願発明者らは、結晶化処理中に被着物を形成すれば、凝集していない状態の粒子表面にAlを被着させる(この状態の六方晶フェライト磁性粒子のモデル図を図1に示す)ことが可能となるとの新たな発想の下で更なる検討を重ねた。凝集していない状態で被着物が形成された六方晶フェライト磁性粒子であれば、上記のような分散メディアの磨耗やFeやBaの多量な溶出による脂肪酸金属塩の析出を抑制し、高密度記録用磁気記録媒体を形成することが可能となる。
本願発明者らは、以上の知見に基づき更に検討重ねた結果、本発明を完成するに至った。
【0009】
即ち、上記目的は、下記手段により達成された。
[1]Alを含む原料混合物を溶融し、得られた溶融物を急冷し非晶質体を得ること、
上記非晶質体を加熱処理することにより六方晶フェライト磁性粒子を析出させること、および、
上記加熱処理により得られた物質に酸処理および洗浄処理を施すことにより、粒径が15〜30nmの範囲であって表面にAlが被着した、粒子総量に対するAl含有量がAl23換算で0.6〜8.0質量%である六方晶フェライト磁性粒子を捕集すること、
を含む、六方晶フェライト磁性粒子の製造方法。
[2]前記原料混合物は、ガラス形成成分としてAl化合物を含むものである、[1]に記載の製造方法。
[3][1]または[2]に記載の製造方法により得られた六方晶フェライト磁性粒子。
[4]159〜318kA/mの保磁力を有する、[3]に記載の六方晶フェライト磁性粒子。
[5]Alが粒子表面に酸化物として存在する、[3]または[4]に記載の六方晶フェライト磁性粒子。
[6]六方晶フェライトの一次粒子表面にAlが被着してなる、[3]〜[5]のいずれかに記載の六方晶フェライト磁性粒子。
[7]50〜100m2/gの範囲の比表面積を有する、[3]〜[6]のいずれかに記載の六方晶フェライト磁性粒子。
[8]バリウムフェライト磁性粒子である、[3]〜[7]のいずれかに記載の六方晶フェライト磁性粒子。
[9][3]〜[8]のいずれかに記載の六方晶フェライト磁性粒子からなる磁気記録媒体用磁性粉。
[10]非磁性支持体上に強磁性体と結合剤とを含む磁性層を有する磁気記録媒体であって、
前記強磁性体として、[3]〜[8]のいずれかに記載の六方晶フェライト磁性粒子を含む磁気記録媒体。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、磁気記録媒体作製時の分散メディア磨耗を低減することができ、メディアライフを増大することができる。また、磁性体からのFeやBa溶出量の低減が可能となるため、脂肪酸金属塩の発生が抑制された磁気記録媒体を提供することができる。更に、磁性体製造工程において、被覆層形成のための表面処理工程およびその後の洗浄工程が不要となるため、製造時間短縮によるコスト低減および洗浄廃液の減少による環境負荷の低減も可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明にかかる六方晶フェライト磁性粒子のモデル図である。
【図2】従来の方法により得られる六方晶フェライト磁性粒子の分散処理前後の状態を示すモデル図である。
【図3】原料混合物組成の一例を示す説明図(三角相図)である。
【図4】実施例におけるヘッド磨耗評価方法の説明図である。
【図5】実施例1で作製した磁性粉末のTEMによる粒子断面写真である。
【図6】図6上図は実施例6で得た磁性粉末中の粒子のTEM写真であり、図6下図は比較例7で作製した六方晶フェライト磁性粉末中の粒子のTEM写真である。
【図7】実施例6で作製した磁性粉末について、粒子表面をスパッタしながらAES分析によりAl量の深さ方向分析を行った結果(AlのAES微分スペクトル)である。
【図8】実施例6において得られた加熱処理物を高分解能TEMにより観察しエネルギーフィルタ像の取得およびSTEM−EDS元素マッピングを行った結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
[六方晶フェライト磁性粒子の製造方法]
本発明は、ガラス結晶化法による六方晶フェライト磁性粒子の製造方法に関する。ガラス結晶化法とは、一般に以下の工程からなるものである。
(1)六方晶フェライト形成成分(任意に保磁力調整成分)およびガラス形成成分を含む原料混合物を溶融し、溶融物を得る工程(溶融工程);
(2)溶融物を急冷し非晶質体を得る工程(非晶質化工程);
(3)非晶質体を加熱処理し、六方晶フェライト粒子を析出させる工程(結晶化工程);
(4)加熱処理物に酸処理および洗浄処理を施すことにより六方晶フェライト磁性粒子を捕集する工程(粒子捕集工程)。
ここで本発明の六方晶フェライト磁性粒子の製造方法では、工程(1)において使用する原料混合物として、Alを含む原料混合物を使用する。これにより工程(3)において、結晶化したガラス成分および六方晶フェライト磁性粒子とともにAl被膜形成物を析出させることができる。その後、工程(4)において、酸処理および洗浄処理を行うことにより、粒径が15〜30nmの範囲であって表面にAlが被着した、粒子総量に対してAl23換算で0.6〜8.0質量%のAlを含む六方晶フェライト磁性粒子を捕集することができる。
従来は工程(4)を経て得られた六方晶フェライト磁性粒子に対して表面にAl等を被着させていたのに対し、上記の通り工程(3)および(4)で粒子表面にAl被膜形成物が被着した磁性粒子を得ることにより、後述する実施例で示すように、分散メディア磨耗および媒体出力低下の少ない六方晶フェライト磁性粒子を得ることが可能となる。
ここで、得られる粒子の粒径を15〜30nmとする理由は、粒径15nm未満の粒子では十分な磁気特性が得られず、粒径30nmを超える粒子ではノイズが大きくなり、いずれも高密度記録用の磁気記録媒体に必要なS/N比を確保することが困難となるからである。また、粒径30nmを超える粒子を析出させるためには、必然的に結晶化条件を強化(結晶化温度の高温化、結晶化時間の長期化)することになるが、強化された結晶化条件の下ではAlが粒子内部に取り込まれやすいと推察される。その結果、出力低下やメディア磨耗を低減し得る被膜を粒子表面に形成することが困難となる。
一方、Al含有量がAl23換算で0.6質量%未満では、メディア磨耗や媒体出力低下を低減する効果が不十分であり、8.0質量%を超えると、理由は定かではないが媒体表面が硬くなりヘッドを磨耗させることで出力が低下し、高密度記録用途に適さないものとなる。したがって、得られる六方晶フェライト磁性粒子のAl含有量は、粒子総質量に対して、Al23換算で0.6〜8.0質量%の範囲とする。
以下、本発明の六方晶フェライト磁性粒子の製造方法について、更に詳細に説明する。
【0013】
(1)溶融工程
ガラス結晶化法において使用される原料混合物は、ガラス形成成分と六方晶フェライト形成成分を含むものであり、本発明においても少なくとも上記成分を含む原料混合物を使用する。ガラス形成成分とは、ガラス転移現象を示し非晶質化(ガラス化)し得る成分であり、通常のガラス結晶化法ではB23成分が使用される。本発明でもガラス形成成分としてB23成分を含む原料混合物を使用することができる。なお、ガラス結晶化法において原料混合物に含まれる各成分は、酸化物として、または溶融等の工程において酸化物に変わり得る各種の塩として存在する。本発明において「B23成分」とは、B23自体および工程中にB23に変わり得るH3BO3等の各種の塩を含むものとする。他の成分についても同様である。また、B23成分以外のガラス形成成分としては、例えばSiO2成分、P25成分、GeO2成分等を挙げることができる。
【0014】
前記原料混合物に含まれる六方晶フェライト形成成分としては、六方晶フェライト磁性粉末の構成成分となる成分であって、Fe23、BaO、SrO、PbO等の金属酸化物が挙げられる。例えば、六方晶フェライト形成成分の主成分としてBaO成分を使用することによりバリウムフェライト磁性粉末を得ることができる。原料混合物中の六方晶フェライト形成成分の含有量は、所望の磁気特性に応じて適宜設定することができる。
【0015】
原料混合物の組成は、特に限定されるものではないが、例えば、高い保磁力Hcおよび飽和磁化σsを達成するために、AO成分(式中、Aは例えばBa、Sr、CaおよびPbから選択された少なくとも1種を表す)、B23成分、Fe23成分を頂点とする、図3に示す三角相図において、斜線部(1)〜(3)の組成領域内の原料が好ましい。特に、下記のa、b、c、dの4点で囲まれる組成領域内(斜線部(3))にある原料が好ましい。なお前述のようにB23成分の一部をSiO2成分、GeO2成分等の他のガラス形成成分と置換することができ、後述するようにFe23成分の一部を保磁力調整のための成分と置換することもできる。また、後述するように本発明では、B23成分の一部をAl化合物と置換し、ガラス形成成分としてAl化合物を使用することが好ましい。
(a)B23=44モル%,AO=46モル%,Fe23=10モル%
(b)B23=40モル%,AO=50モル%,Fe23=10モル%
(c)B23=21モル%,AO=29モル%,Fe23=50モル%
(d)B23=10モル%,AO=40モル%,Fe23=50モル%
【0016】
六方晶フェライト磁性粉末として、保磁力調整のためFeの一部が他の金属元素によって置換されたものを得ることもできる。置換元素としては、Co−Zn−Nb、Zn−Nb、Co、Zn、Nb、Co−Ti、Co−Ti−Sn、Co−Sn−Nb、Co−Zn−Sn−Nb、Co−Zn−Zr−Nb、Co−Zn−Mn−Nb等が挙げられる。このような六方晶フェライト磁性粉末を得るためには、六方晶フェライト形成成分として、保磁力調整のための成分を併用すればよい。保磁力調整成分としては、CoO、ZnO等の2価金属の酸化物成分、TiO2、ZrO2、SnO2、MnO2等の4価金属の酸化物成分、Nb25等の5価金属の酸化物成分が挙げられる。上記保磁力調整成分を使用する場合、その含有量は所望の保磁力等にあわせて、適宜決定すればよい。
【0017】
本発明では、ガラス結晶化法の工程中に粒子表面にAlを被着させるために、Alを含有する原料混合物を使用する。Alは、酸化物として、または溶融等の工程において酸化物に変わり得る各種の塩(水酸化物等)として添加することができる。ガラス結晶化法の工程内で六方晶フェライトの粒子表面にAlを被着させるためには、原料混合物に添加されたAl化合物の大部分が、結晶化工程において析出する粒子に取り込まれずに結晶化したガラス成分とともに、Al被膜形成物として存在することが好ましい。したがってAl化合物はガラス形成成分として添加することが好ましい。例えば前述の好ましい組成領域内で決定した原料組成中のB23成分の一部をAl化合物に置換することにより、ガラス形成成分としてAl化合物を存在させることができる。Al化合物の添加量は、最終的に得られる六方晶フェライト磁性粒子にAl23換算で0.6〜8.0質量%のAlを存在させることができるように決定する。このAl化合物の添加量は、予備実験を行い実験結果に基づき決定することもできるが、具体的には、酸化物換算で、原料混合物の全量に対して1.0〜10.0モル%とすることが好ましく、B23成分に対する割合は、モル比として、B23成分:Al化合物=1:0.04〜0.40とすることが好ましい。
【0018】
上記原料混合物は、各成分を秤量および混合して得ることができる。次いで、前記原料混合物を溶融し溶融物を得る。溶融温度は原料組成に応じて設定すればよく、通常、1000〜1500℃である。溶融時間は、原料混合物が十分溶融するように適宜設定すればよい。
【0019】
(2)非晶質化工程
次いで、上記工程で得られた溶融物を急冷することにより固化物を得る。この固化物は、ガラス形成成分により非晶質化(ガラス化)した非晶質体である。上記急冷は、ガラス結晶化法で非晶質体を得るために通常行われる急冷工程と同様に実施することができ、例えば高速回転させた水冷双ローラー上に溶融物を注いで圧延急冷する方法等の公知の方法で行うことができる。
【0020】
(3)結晶化工程
上記急冷後、得られた非晶質体を加熱処理する。この工程により、六方晶フェライト磁性粒子および結晶化したガラス成分を析出させることができる。ここで、結晶化したガラス成分とともにAlが、例えばAl23やBaAl24のような酸化物の状態で存在すると、その後の酸処理において除去されず一部が粒子表面に残留することにより、六方晶フェライト磁性粒子の表面にAlを被着させることができると、本願発明者らは推察している。
ここで結晶化工程における粒子内部へのAlの取り込みを抑制する観点から、結晶化における最高温度(結晶化温度)は、760℃以下とすることが好ましい。また、六方晶フェライト磁性粒子核生成温度を考慮すると、結晶化温度は580℃以上とすることが好ましく、600℃以上とすることがより好ましい。
【0021】
析出させる六方晶フェライト磁性粉末の粒子サイズは、結晶化温度および結晶化のための加熱時間により制御可能である。なお、後述する粉砕処理や塗布液中での分散処理では、六方晶フェライト磁性粒子の粒子サイズは変化しない。したがって、本発明では最終的に15〜30nmの粒径を有する六方晶フェライト磁性粒子が得られるように、結晶化温度および上記加熱時間を決定することが好ましい。結晶化温度は、上記好ましい範囲内で最適な範囲に設定することが好ましい。上記結晶化温度までの昇温速度は、例えば0.2〜10℃/分程度が好適であり、好ましくは0.5〜5℃/分であり、上記温度域での保持時間は、例えば0.5〜24時間であり、好ましくは1〜8時間である。
【0022】
(4)粒子捕集工程
上記結晶化工程において加熱処理を施された加熱処理物中には、六方晶フェライト磁性粒子と結晶化したガラス成分が析出しているが、この結晶化したガラス成分とともに、先に説明したようにAlの酸化物が存在すると推察される。事実、後述の実施例では加熱処理物中にガラス成分とともにAl酸化物が存在することが確認されている。そこで、加熱処理物に酸処理を施すと、粒子を取り囲んでいた、結晶化したガラス成分が溶解除去されるため六方晶フェライト磁性粒子を採取することができる。ここで酸処理によって除去されずに残留したAl酸化物を含む反応生成物が粒子表面に被着物を形成すると推察される。その結果、表面にAlが被着した六方晶フェライト磁性粒子を得ることができる。
【0023】
上記酸処理の前には、酸処理の効率を高めるために粉砕処理を行うことが好ましい。粗粉砕は乾式、湿式のいずれの方法で行ってもよいが均一な粉砕を可能とする観点から湿式粉砕を行うことが好ましい。粉砕処理条件は、公知の方法にしたがって設定することができ、また後述の実施例も参照できる。
【0024】
粒子捕集のための酸処理は、加熱下酸処理等のガラス結晶化法で一般的に行われる方法により行うことができる。酸処理条件は、所望のAl含有被膜が形成されるように、必要に応じて予備実験を行い決定することができる。
好ましくは、60〜90℃に加温した酢酸、蟻酸、酪酸等の水溶液中(好ましくは2〜12質量%程度の酸濃度)で0.5〜10時間程度、粗粉砕物を保持することが好ましい。これにより結晶化したガラス成分を溶解除去することができる。その後、水洗等の洗浄および乾燥処理を施し、六方晶フェライト磁性粒子を得ることができる。また、Al被着量の制御のために、酸処理後の粒子に対してアルカリ処理を施し、被着しているAlの一部を除去することもできる。アルカリ処理は、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ水溶液により酸処理後の粒子を洗浄することにより行うことができる。
【0025】
本発明によれば、以上説明した工程により、粒径が15〜30nmの範囲であって表面にAlが被着した、粒子総量に対するAl含有量がAl23換算で0.6〜8.0質量%である六方晶フェライト磁性粒子を得ることができる。本発明において、六方晶フェライト磁性粒子に関する粒径とは、透過型電子顕微鏡(TEM)で撮影した写真から測定した板径とする。また、複数の粒子については、TEM写真中で無作為に抽出した500個の粒子の板径の平均値をもって、六方晶フェライト磁性粒子の粒径とする。板状比とは、TEM写真から測定した(板径/板厚)をいい、複数の粒子についてはTEM写真中で無作為に抽出した500個の粒子の板状比の平均値をもって、六方晶フェライト磁性粒子の板状比とする。
粒子中のAl含有量は、ICP(誘導結合プラズマ)分析によるAl/Fe比から求めることができる。粒子表面にAlが被着していることは、XPS(X線光電子分光)分析により求められる粒子表層におけるAl/Fe比が上記ICP分析によるAl/Fe比より大きくなること、AES(オージェ電子分光法)分析において粒子表層にAlの局在が見られること、およびTEMによる断面観察において粒子表面に被膜が確認されることから、確認することができる。なお、上記の通り、粒子表面に存在するAlは酸化物の状態にあると推察される。
【0026】
先に説明したように、従来の方法により得られるAl等が表面に被着した六方晶フェライト磁性粒子は、粒子の凝集体に被着物が形成されたものであることが、メディア磨耗およびFe溶出の原因と考えられる。ここで、従来の方法の改良のため、凝集体を分散させた後に被着物を形成する手段も取り得るが、分散のための設備投資、処理に伴う作業工程数増により、製造コストが増大するため好ましくない。これに対し本発明によれば、そのような追加の分散工程を行うことなく、一次粒子表面にAlを被着させることが可能となる。また、被着処理を別工程として行う場合には、被着物形成のための表面処理およびその後の洗浄処理を別途要することとなるのに対し、本発明によればそれら工程が不要となるため、洗浄廃液の減少による環境負荷の低減、および製造時間短縮によるコスト低減も可能となる。
【0027】
[六方晶フェライト磁性粒子および磁気記録媒体用磁性粉]
本発明の六方晶フェライト磁性粒子は、本発明の製造方法により得られたものである。即ち、本発明の六方晶フェライト磁性粒子は、粒径が15〜30nmの範囲であって表面にAlが被着した、粒子総量に対するAl含有量がAl23換算で0.6〜8.0質量%である六方晶フェライト磁性粒子である。また、ガラス結晶化法の工程内でAl含有被膜を形成したものであるため、Al粒子の凝集物ではなく、六方晶フェライトの一次粒子表面にAl含有被膜を有することができる。一次粒子の表面にAlが被着していることは、TEMによる断面観察によって確認することができる。
【0028】
本発明の六方晶フェライト磁性粒子の粒径は、上記の通り15〜30nmの範囲である。S/N向上の観点から、上記粒径は、好ましくは15〜25nm、より好ましくは16〜22nmの範囲である。
【0029】
本発明の六方晶フェライト磁性粒子のAl含有量は、前述の通り、粒子の質量に対してAl23換算で0.6〜8.0質量%である。Fe溶出量および分散メディア磨耗を低減する観点からは、0.7質量%以上であることが好ましく、1.0質量%以上であることがより好ましく、飽和磁化量の観点からは、7.5質量%以下であることが好ましい。
【0030】
本発明の六方晶フェライト磁性粒子の飽和磁化量σsは、高密度記録を実現する観点から30〜70A・m2/kgであることが好ましい。同様の理由から、その保磁力は159〜318kA/m(≒2000〜4000Oe)であることが好ましく、175〜286kA/m(≒2200〜3600Oe)であることがより好ましい。
また、BET法による比表面積(SBET)は、ノイズ低減の観点から、50〜100m2/gであることが好ましく、60〜100m2/gであることがより好ましい。
ところで、磁性粒子については保磁力向上の観点から微粒子化は不利である(粒径の低下とともに保磁力も低下する)ことが知られている。六方晶フェライト磁性粒子は、結晶構造に起因する高い保磁力を有するため、微粒子化により保磁力が低下したとしても、同程度の粒子サイズを有する強磁性金属磁性粒子と比べて高い保磁力を示すことができる点で、高密度記録のために有利であるが、微粒子の状態でより高い保磁力を示すことができれば、高密度記録用磁性粒子として望ましい。本願発明者らの検討によれば、本発明の六方晶フェライト磁性粒子は、前述の特許文献1〜3に記載の方法のように金属塩の水溶液中でAl等の被着処理を行って得られた六方晶フェライト磁性粒子や被着処理を行っていない六方晶フェライト磁性粒子と比べて、同程度の粒子サイズにて高い保磁力を示し得ることが明らかとなった。これは、ガラス結晶化法の工程において所定量のAlを粒子表面に被着することによる効果と考えている。したがって本発明によれば、微粒子かつ高保磁力であり高密度記録用磁性粒子として望ましい六方晶フェライト磁性粒子を提供することができる。この点も本発明の利点である。
【0031】
更に本発明は、本発明の六方晶フェライト磁性粒子からなる磁気記録媒体用磁性粉に関する。本発明の六方晶フェライト磁性粒子は、前述の通り媒体出力低下の抑制および分散メディア磨耗の低減を可能とするものであり、磁気記録媒体における強磁性体として好適なものである。したがって、本発明の磁気記録媒体用磁性粉によれば、FeやBa溶出による脂肪酸金属塩の生成が抑制された磁気記録媒体を、高い生産性をもって製造することができる。更に、前述のとおり微粒子化と高保磁力化を両立し得るものであるため、本発明の磁気記録媒体用磁性粉によれば、優れた磁気特性を有する高密度記録用磁気記録媒体を提供することができる。
【0032】
[磁気記録媒体]
本発明の磁気記録媒体は、非磁性支持体上に強磁性体と結合剤とを含む磁性層を有する磁気記録媒体であって、前記強磁性体として、本発明の六方晶フェライト磁性粒子を含むものである。先に説明したように、本発明の六方晶フェライト磁性粒子によれば、FeやBaの溶出量を低減することができるため、該粒子を含む本発明の磁気記録媒体は、溶出Fe、Baに起因する脂肪酸金属塩の生成を抑制することが可能である。また、磁性層塗布液調製時には通常、ガラスビーズ、ジルコニアビーズ、チタニアビーズ、スチールビーズ等の分散メディアを使用した分散処理を行うが、従来の方法でAl等を粒子表面に被着させた六方晶フェライト磁性粒子は、上記分散処理における分散メディアの磨耗量が多いものであった。これに対し本発明の六方晶フェライト磁性粒子によれば、分散メディアのメディアライフを増大することも可能となるため、生産性を向上することもできる。
以下、本発明の磁気記録媒体について、更に詳細に説明する。
【0033】
磁性層
磁性層に使用される六方晶フェライト磁性粉末およびその製造方法の詳細は、前述の通りである。前記磁性層は、六方晶フェライト磁性粉末とともに結合剤を含む。磁性層に含まれる結合剤としては、ポリウレタン樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、塩化ビニル系樹脂、スチレン、アクリロニトリル、メチルメタクリレートなどを共重合したアクリル系樹脂、ニトロセルロースなどのセルロース系樹脂、エポキシ樹脂、フェノキシ樹脂、ポリビニルアセタール、ポリビニルブチラールなどのポリビニルアルキラール樹脂などから単独または複数の樹脂を混合して用いることができる。これらの中で好ましいものはポリウレタン樹脂、アクリル系樹脂、セルロース系樹脂、塩化ビニル系樹脂である。これらの樹脂は、後述する非磁性層においても結合剤として使用することができる。以上の結合剤については、特開2010−24113号公報段落[0029]〜[0031]を参照できる。また、上記樹脂とともにポリイソシアネート系硬化剤を使用することも可能である。
【0034】
磁性層には、必要に応じて添加剤を加えることができる。添加剤としては、研磨剤、潤滑剤、分散剤・分散助剤、防黴剤、帯電防止剤、酸化防止剤、溶剤、カーボンブラックなどを挙げることができる。潤滑剤として広く用いられている脂肪酸およびその誘導体は走行性改善のために有効な成分であるが、前述のように従来の方法によりAl等を被着させた六方晶フェライト磁性粒子では脂肪酸金属塩の生成による出力低下の原因となるものであった。これに対し本発明によれば脂肪酸金属塩の生成を抑制することが可能である。したがって本発明の六方晶フェライト磁性粒子は、潤滑剤成分として脂肪酸および/またはその誘導体を含む磁気記録媒体における強磁性体として好適である。脂肪酸およびその誘導体としては、脂肪酸では、カプリン酸、カプリル酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ベヘン酸、オレイン酸、エライジン酸、リノール酸、リノレン酸、イソステアリン酸、などが挙げられる。エステル類ではブチルステアレート、オクチルステアレート、アミルステアレート、イソオクチルステアレート、ブチルミリステート、オクチルミリステート、ブトキシエチルステアレート、ブトキシジエチルステアレート、2−エチルヘキシルステアレート、2−オクチルドデシルパルミテート、2−ヘキシルドデシルパルミテート、イソヘキサデシルステアレート、オレイルオレエート、ドデシルステアレート、トリデシルステアレート、エルカ酸オレイル、ネオペンチルグリコールジデカノエート、エチレングリコールジオレイル等を挙げることができる。本発明の磁気記録媒体において、脂肪酸およびその誘導体の磁性層中の含有量は、強磁性体100質量部に対して、例えば0.1〜20質量部であり、非磁性層中の含有量は、非磁性粉末100質量部に対して、例えば0.01〜10質量部である。
【0035】
以上説明した添加剤は、所望の性質に応じて市販品を適宜選択して使用することができる。
【0036】
非磁性層
次に非磁性層に関する詳細な内容について説明する。本発明の磁気記録媒体は、非磁性支持体と磁性層との間に非磁性粉末と結合剤を含む非磁性層を有することができる。非磁性層に使用できる非磁性粉末は、無機物質でも有機物質でもよい。また、カーボンブラック等も使用できる。無機物質としては、例えば金属、金属酸化物、金属炭酸塩、金属硫酸塩、金属窒化物、金属炭化物、金属硫化物などが挙げられる。これらの非磁性粉末は、市販品として入手可能であり、公知の方法で製造することもできる。その詳細については、特開2010−24113号公報段落[0036]〜[0039]を参照できる。
【0037】
非磁性層の結合剤、潤滑剤、分散剤、添加剤、溶剤、分散方法その他は、磁性層のそれが適用できる。特に、結合剤量、種類、添加剤、分散剤の添加量、種類に関しては磁性層に関する公知技術が適用できる。また、非磁性層にはカーボンブラックや有機質粉末を添加することも可能である。それらについては、例えば特開2010−24113号公報段落[0040]〜[0042]を参照できる。
【0038】
非磁性支持体
非磁性支持体としては、二軸延伸を行ったポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリアミド、ポリアミドイミド、芳香族ポリアミド等の公知のものが挙げられる。これらの中でもポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリアミドが好ましい。
これらの支持体はあらかじめコロナ放電、プラズマ処理、易接着処理、熱処理などを行ってもよい。また、本発明に用いることのできる非磁性支持体の表面粗さはカットオフ値0.25mmにおいて中心平均粗さRa3〜10nmが好ましい。
【0039】
層構成
本発明の磁気記録媒体の厚み構成は、非磁性支持体の厚みが、好ましくは3〜80μmである。磁性層の厚みは、用いる磁気ヘッドの飽和磁化量やヘッドギャップ長、記録信号の帯域により最適化されるものであるが、一般には0.01〜0.15μmであり、好ましくは0.02〜0.12μmであり、さらに好ましくは0.03〜0.10μmである。磁性層は少なくとも一層あればよく、磁性層を異なる磁気特性を有する2層以上に分離してもかまわず、公知の重層磁性層に関する構成が適用できる。
【0040】
非磁性層の厚みは、例えば0.1〜3.0μmであり、0.3〜2.0μmであることが好ましく、0.5〜1.5μmであることが更に好ましい。なお、本発明の磁気記録媒体の非磁性層は、実質的に非磁性であればその効果を発揮するものであり、例えば不純物として、あるいは意図的に少量の磁性体を含んでいても、本発明の効果を示すものであり、本発明の磁気記録媒体と実質的に同一の構成とみなすことができる。なお、実質的に同一とは、非磁性層の残留磁束密度が10mT以下または保磁力が7.96kA/m(100Oe)以下であることを示し、好ましくは残留磁束密度と保磁力を持たないことを意味する。
【0041】
バックコート層
本発明の磁気記録媒体には、非磁性支持体の磁性層を有する面とは反対の面にバックコート層を設けることもできる。バックコート層には、カーボンブラックと無機粉末が含有されていることが好ましい。バックコート層形成のための結合剤、各種添加剤は、磁性層や非磁性層の処方を適用することができる。バックコート層の厚みは、0.9μm以下が好ましく、0.1〜0.7μmが更に好ましい。
【0042】
製造方法
磁性層、非磁性層またはバックコート層を形成するための塗布液を製造する工程は、通常、少なくとも混練工程、分散工程、およびこれらの工程の前後に必要に応じて設けた混合工程からなる。個々の工程はそれぞれ2段階以上に分かれていてもかまわない。本発明で用いられる強磁性体、非磁性粉末、結合剤、カーボンブラック、研磨剤、帯電防止剤、潤滑剤、溶剤などすべての原料はどの工程の最初または途中で添加してもかまわない。また、個々の原料を2つ以上の工程で分割して添加してもかまわない。例えば、ポリウレタンを混練工程、分散工程、分散後の粘度調整のための混合工程で分割して投入してもよい。本発明の目的を達成するためには、従来の公知の製造技術を一部の工程として用いることができる。混練工程ではオープンニーダ、連続ニーダ、加圧ニーダ、エクストルーダなど強い混練力をもつものを使用することが好ましい。これらの混練処理の詳細については特開平1−106338号公報、特開平1−79274号公報に記載されている。また、磁性層塗布液、非磁性層塗布液またはバックコート層塗布液を分散させるには、ガラスビーズを用いることができる。このようなガラスビーズは、高比重の分散メディアであるジルコニアビーズ、チタニアビーズ、スチールビーズが好適である。これら分散メディアの粒径と充填率は最適化して用いられる。分散機は公知のものを使用することができる。磁気記録媒体の製造方法の詳細については、例えば特開2010−24113号公報段落[0051]〜[0057]を参照できる。
【0043】
以上説明した本発明の磁気記録媒体は、本発明の六方晶フェライト磁性粒子を含むことにより高出力を達成可能であるため、優れた電磁変換特性が求められる高密度記録用磁気記録媒体として好適である。
【実施例】
【0044】
以下に本発明を実施例によりさらに具体的に説明する。ただし本発明は、実施例に示す態様に限定されるものではない。また、以下に記載の「部」は、特に示さない限り質量部を示す。
【0045】
[実施例1]
酸化物換算でB23:23.0モル%、Al23:8.7モル%、BaO:37.0モル%、Fe23:31.3モル%となるように、B23に対応するH3BO3、Al23に対応するAl(OH)3、BaOに対応するBaCO3と、Fe23を所定量秤量し、ミキサーにて混合したものを容量2Lの白金ルツボに仕込み、溶融後、水冷ロールにて冷却し非晶質体を得た。得られた非晶質体600gを電気炉に仕込み、720℃まで4℃/minで昇温して5時間保持させて六方晶フェライトを結晶化(析出)させた。次いで、結晶化が完了した加熱処理物600gを乳鉢で粗粉砕し、3Lのポットミルに入れ、φ5mmZrボール5kgと純水1.2kgとともにボールミルにて4時間粉砕処理を行った後、粉砕液をボールと分離させ5Lステンレスビーカーに入れた。粉砕液を30質量%酢酸溶液と3:1の割合(質量比)で混合し、85℃に温度制御した状態で2時間攪拌し酸処理した。その後、デカンテーション洗浄(水洗)を繰り返した後、乾燥させて六方晶フェライト磁性粉末を得た。
【0046】
[実施例2]
酸化物換算でB23:26.3モル%、Al23:5.4モル%、BaO:37.0モル%、Fe23:31.3モル%となるように、B23に対応するH3BO3、Al23に対応するAl(OH)3、BaOに対応するBaCO3と、Fe23を所定量秤量し、ミキサーにて混合したもの(Feの一部をCo=0.5at%、Zn=1.5at%、Nb=1at%で置換したものを用いた)を容量2Lの白金ルツボに仕込み、溶融後、水冷ロールにて冷却し非晶質体を得た。得られた非晶質体600gを電気炉に仕込み、700℃まで4℃/minで昇温して5時間保持させて六方晶フェライトを結晶化(析出)させた。次いで、結晶化が完了した加熱処理物600gを乳鉢で粗粉砕し、3Lのポットミルに入れ、φ5mmZrボール5kgと純水1.2kgとともにボールミルにて4時間粉砕処理を行った後、粉砕液をボールと分離させ5Lステンレスビーカーに入れた。粉砕液を30質量%酢酸溶液と3:1の割合(質量比)で混合し、85℃に温度制御した状態で2時間攪拌し酸処理した。その後、デカンテーション洗浄(水洗)を繰り返した後、乾燥させて六方晶フェライト磁性粉末を得た。
【0047】
[実施例3]
酸化物換算でB23:30.4モル%、Al23:1.3モル%、BaO:37.0モル%、Fe23:31.3モル%となるように、B23に対応するH3BO3、Al23に対応するAl(OH)3、BaOに対応するBaCO3と、Fe23を所定量秤量し、ミキサーにて混合したもの(Feの一部をZn=1.5at%、Nb=0.75at%で置換したものを用いた)を容量2Lの白金ルツボに仕込み、溶融後、水冷ロールにて冷却し非晶質体を得た。得られた非晶質体600gを電気炉に仕込み、660℃まで4℃/minで昇温して5時間保持させて六方晶フェライトを結晶化(析出)させた。次いで、結晶化が完了した加熱処理物600gを乳鉢で粗粉砕し、3Lのポットミルに入れ、φ5mmZrボール5kgと純水1.2kgとともにボールミルにて4時間粉砕処理を行った後、粉砕液をボールと分離させ5Lステンレスビーカーに入れた。粉砕液を30質量%酢酸溶液と3:1の割合(質量比)で混合し、85℃に温度制御した状態で2時間攪拌し酸処理した。次いで、酸処理済みの溶液から分離した固形分を95℃に温度制御した4N−NaOH溶液中で2時間攪拌洗浄した。その後、デカンテーション洗浄(水洗)を繰り返した後、乾燥させて六方晶フェライト磁性粉末を得た。
【0048】
[実施例4]
酸化物換算でB23:19.9モル%、Al23:4.4モル%、BaO:31.7モル%、Fe23:44.0モル%となるように、B23に対応するH3BO3、Al23に対応するAl(OH)3、BaOに対応するBaCO3と、Fe23を所定量秤量し、ミキサーにて混合したもの(Feの一部をNb=1at%で置換したものを用いた)を容量2Lの白金ルツボに仕込み、溶融後、水冷ロールにて冷却し非晶質体を得た。得られた非晶質体600gを電気炉に仕込み、700℃まで4℃/minで昇温して5時間保持させて六方晶フェライトを結晶化(析出)させた。次いで、結晶化が完了した加熱処理物600gを乳鉢で粗粉砕し、3Lのポットミルに入れ、φ5mmZrボール5kgと純水1.2kgとともにボールミルにて4時間粉砕処理を行った後、粉砕液をボールと分離させ5Lステンレスビーカーに入れた。粉砕液を30質量%酢酸溶液と3:1の割合(質量比)で混合し、85℃に温度制御した状態で2時間攪拌し酸処理した。その後、デカンテーション洗浄(水洗)を繰り返した後、乾燥させて六方晶フェライト磁性粉末を得た。
【0049】
[実施例5]
酸化物換算でB23:22.8モル%、Al23:1.5モル%、BaO:31.7モル%、Fe23:44.0モル%となるように、B23に対応するH3BO3、Al23に対応するAl(OH)3、BaOに対応するBaCO3と、Fe23を所定量秤量し、ミキサーにて混合したもの(Feの一部をZn=1.5at%、Nb=0.75at%で置換したものを用いた)を容量2Lの白金ルツボに仕込み、溶融後、水冷ロールにて冷却し非晶質体を得た。得られた非晶質体600gを電気炉に仕込み、660℃まで4℃/minで昇温して5時間保持させて六方晶フェライトを結晶化(析出)させた。次いで、結晶化が完了した加熱処理物600gを乳鉢で粗粉砕し、3Lのポットミルに入れ、φ5mmZrボール5kgと純水1.2kgとともにボールミルにて4時間粉砕処理を行った後、粉砕液をボールと分離させ5Lステンレスビーカーに入れた。30質量%酢酸溶液と3:1の割合(質量比)で混合し、85℃に温度制御した状態で2時間攪拌し酸処理した。その後、デカンテーション洗浄(水洗)を繰り返した後、乾燥させて六方晶フェライト磁性粉末を得た。
【0050】
[比較例1]
酸化物換算でB23:21.4モル%、Al23:10.3%、BaO:37.0モル%、Fe23:31.3モル%となるように、B23に対応するH3BO3、Al23に対応するAl(OH)3、BaOに対応するBaCO3と、Fe23を所定量秤量し、ミキサーにて混合したものを容量2Lの白金ルツボに仕込み、溶融後、水冷ロールにて冷却し非晶質体を得た。得られた非晶質体600gを電気炉に仕込み、730℃まで4℃/minで昇温して5時間保持させて六方晶フェライトを結晶化(析出)させた。次いで、結晶化が完了した加熱処理物600gを乳鉢で粗粉砕し、3Lのポットミルに入れ、φ5mmZrボール5kgと純水1.2kgとともにボールミルにて4時間粉砕処理を行った後、粉砕液をボールと分離させ5Lステンレスビーカーに入れた。30質量%酢酸溶液と3:1の割合(質量比)で混合し、85℃に温度制御した状態で2時間攪拌し酸処理した。その後、デカンテーション洗浄(水洗)を繰り返した後、乾燥させて六方晶フェライト磁性粉末を得た。
【0051】
[比較例2]
酸化物換算でB23:30.8モル%、Al23:0.9モル%、BaO:37.0モル%、Fe23:31.3モル%となるように、B23に対応するH3BO3、Al23に対応するAl(OH)3、BaOに対応するBaCO3と、Fe23を所定量秤量し、ミキサーにて混合したもの(Feの一部をCo=0.5at%、Zn=1.5at%、Nb=1at%で置換したものを用いた)を容量2Lの白金ルツボに仕込み、溶融後、水冷ロールにて冷却し非晶質体を得た。得られた非晶質体600gを電気炉に仕込み、640℃まで4℃/minで昇温して5時間保持させて六方晶フェライトを結晶化(析出)させた。次いで、結晶化が完了した加熱処理物600gを乳鉢で粗粉砕し、3Lのポットミルに入れ、φ5mmZrボール5kgと純水1.2kgとともにボールミルにて4時間粉砕処理を行った後、粉砕液をボールと分離させ5Lステンレスビーカーに入れた。粉砕液を30質量%酢酸溶液と3:1の割合(質量比)で混合し、85℃に温度制御した状態で2時間攪拌し酸処理した。その後、デカンテーション洗浄(水洗)を繰り返した後、乾燥させて六方晶フェライト磁性粉末を得た。
【0052】
[比較例3]
酸化物換算でB23:31.7モル%、BaO:37.0モル%、Fe23:31.3モル%となるように、B23に対応するH3BO3、BaOに対応するBaCO3と、Fe23を所定量秤量し、ミキサーにて混合したもの(Feの一部をCo=1at%、Zn=3at%、Nb=2at%で置換したものを用いた)を容量2Lの白金ルツボに仕込み、溶融後、水冷ロールにて冷却し非晶質体を得た。得られた非晶質体600gを電気炉に仕込み、640℃まで4℃/minで昇温して5時間保持させて六方晶フェライトを結晶化(析出)させた。次いで、結晶化が完了した加熱処理物600gを乳鉢で粗粉砕し、3Lのポットミルに入れ、φ5mmZrボール5kgと純水1.2kgとともにボールミルにて4時間粉砕処理を行った後、粉砕液をボールと分離させ5Lステンレスビーカーに入れた。粉砕液を30質量%酢酸溶液と3:1の割合(質量比)で混合し、85℃に温度制御した状態で2時間攪拌し酸処理した。その後、デカンテーション洗浄(水洗)を繰り返した後、塩化アルミニウム6水和物を磁性粒子に対するAl23換算で2.5質量%となるように添加し、85℃で1時間撹拌した。その後、苛性ソーダを添加してpHを9に調整した後、85℃で1時間撹拌することでAl含有被膜を磁性粒子に形成した。デカンテーション洗浄(水洗)を繰り返した後、乾燥させて六方晶フェライト磁性粉末を得た。
【0053】
[比較例4]
酸化物換算でB23:30.7モル%、Al23:1.0モル%、BaO:37.0モル%、Fe23:31.3モル%となるように、B23に対応するH3BO3、Al23に対応するAl(OH)3、BaOに対応するBaCO3と、Fe23を所定量秤量し、ミキサーにて混合したもの(Feの一部をZn=1.5at%、Nb=0.75at%で置換したものを用いた)を容量2Lの白金ルツボに仕込み、溶融後、水冷ロールにて冷却し非晶質体を得た。得られた非晶質体600gを電気炉に仕込み、780℃まで3℃/minで昇温して5時間保持させて六方晶フェライトを結晶化(析出)させた。次いで、結晶化が完了した加熱処理物600gを乳鉢で粗粉砕し、3Lのポットミルに入れ、φ5mmZrボール5kgと純水1.2kgとともにボールミルにて4時間粉砕処理を行った後、粉砕液をボールと分離させ5Lステンレスビーカーに入れた。粉砕液を30質量%酢酸溶液と3:1の割合(質量比)で混合し、85℃に温度制御した状態で2時間攪拌し酸処理した。その後、デカンテーション洗浄(水洗)を繰り返した後、乾燥させて六方晶フェライト磁性粉末を得た。
【0054】
上記実施例および比較例で得られた粉末についてはX線回折分析を行い、六方晶フェライト(バリウムフェライト)であることを確認した。
【0055】
次に、前述の実施例および比較例で得られた六方晶フェライト磁性粉末を用いて、以下の方法により磁気テープを作製した。
【0056】
磁性層塗布液
六方晶バリウムフェライト粉末 100部
(前述の実施例および比較例で得られた粉末)
ポリウレタン樹脂 5部
分岐側鎖含有ポリエステルポリオール/ジフェニルメタンジイソシアネート系、
−SO3Na=0.07meq/g
塩化ビニル共重合体(日本ゼオン社製MR104) 10部
オレイン酸 10部
α−アルミナ(粒子サイズ0.15μm) 5部
カーボンブラック(平均粒径20nm) 0.5部
シクロヘキサノン 110部
メチルエチルケトン 100部
トルエン 100部
ブチルステアレート 2部
ステアリン酸 1部
【0057】
非磁性層塗布液
非磁性無機粉体 85部
α−酸化鉄
表面処理層:Al23、SiO2
平均長軸長 0.15μm
平均針状比:7
BET法による比表面積 52m2/g
PH8
カーボンブラック 15部
塩化ビニル共重合体(日本ゼオン社製MR110) 10部
ポリウレタン樹脂 10部
分岐側鎖含有ポリエステルポリオール/ジフェニルメタンジイソシアネート系、
−SO3Na=0.2meq/g
フェニルホスホン酸 5部
シクロヘキサノン 140部
メチルエチルケトン 170部
ブチルステアレート 2部
ステアリン酸 1部
【0058】
バックコート層塗布液
微粒子状カーボンブラック粉末 100部
(キャポット社製BPr800、平均粒子サイズ:17nm)
粗粒子状カーボンブラック粉末 10部
(カーンカルブ社製、サーマルブラック、平均粒子サイズ:270nm)
α−アルミナ(硬質無機粉末) 2部
平均粒子サイズ:200nm、モース硬度:9
ニトロセルロース樹脂 140部
ポリウレタン樹脂 15部
ポリエステル樹脂 5部
分散剤:オレイン酸銅 5部
銅フタロシアニン 5部
硫酸バリウム 5部
(堺化学工業(株)製BF−1、平均粒径:50nm、モース硬度3)
メチルエチルケトン 1200部
酢酸ブチル 300部
トルエン 600部
【0059】
上記の非磁性層塗布液については、各成分をオープンニーダで混練した後、サンドミルを用いて分散させた。得られた分散液にポリイソシアネート(日本ポリウレタン(株)製コロネートL)を4部加え、更にメチルエチルケトン、シクロヘキサノン混合溶媒40部を加え、混合、攪拌した後、1μmの孔径を有するフィルターを用いて濾過して非磁性層塗布液を調製した。
磁性層塗布液については、六方晶フェライト粉末とオレイン酸とを乾式で15分間分散させた後、この分散物を上記磁性層成分とともにオープンニーダで混練した後、サンドミルを用いて分散させた。得られた分散液にポリイソシアネート(日本ポリウレタン(株)製コロネートL)を3部加え、更にメチルエチルケトン、シクロヘキサノン混合溶媒40部を加え、混合、攪拌した後、1μmの孔径を有するフィルターを用いて濾過して磁性層塗布液を調製した。
バックコート層塗布液については、上記成分を連続ニーダで混練した後、サンドミルを用いて分散させた。得られた分散液に、ポリイソシアネート40部(コロネートL、日本ポリウレタン工業(株)製)、メチルエチルケトン1000部を添加し、攪拌した後、1μmの孔径を有するフィルターを用いて濾過した。
【0060】
得られた非磁性層塗布液および磁性層用塗布液を、非磁性層は乾燥後の膜厚で1.0μm、磁性層は乾燥後の膜厚で0.10μmになるように、更に乾燥後のテ−プ総厚が6.6μmになるように厚さ5μmの支持体(二軸延伸を行ったポリエチレンテレフタレート)上に同時重層塗布を行い、乾燥させた。その後、磁性層面とは反対の面に、バックコート層を乾燥後に厚さ0.5μmになるように塗布した。
【0061】
その後、金属ロールのみから構成される7段のカレンダーで速度100m/min、線圧350kg/cm(343kN/m)、温度80℃でカレンダー処理を行い、得られたロールを60℃で48時間加熱処理を行った。次いで、1/2インチ幅にスリットして磁気テ−プを作製した。
【0062】
評価方法
1.粒子中のAl含有量
実施例、比較例で得られた六方晶フェライト磁性粉末0.01gを10mLの4N−HCl溶液に浸漬し、ホットプレートにて80℃で3時間加熱することで溶解させた。溶解液を希釈後、ICPにてFeとAlを定量することで、粒子総量に対するAl23換算のAl含有量を求めた。
2.メディア磨耗量
前述の磁性層塗布液4.3gをφ0.5mmZrO2ビーズ12.5gと混合し、浅田鉄工製ペイントシェーカーにて、振動数640rpm、分散時間360分にて分散液を作製した。この分散液を、乾燥後の磁性層厚が10μmになるように、PET製10μmのベースに塗布してメディア磨耗量測定用シートを作製した。このシートを、あらかじめZrの検量線が作成された蛍光X線分析にて、Zr量を定量することでメディア磨耗量を求めた。
3.出力低下
作製した磁気テープに対して下記評価装置で200kfciにて信号を記録し再生した時の1パス目の出力を基準とし、再生のみを400m長、1000パス実施後、出力の差分を算出し出力低下とした。
装置 リールtoリール方式プレートテスター
書き込みヘッド write−gap:0.22μm、Bs:1.5T
再生ヘッド GMRヘッド、シールド間距離:0.5μm、トラック幅:1.5μm
4.ヘッド磨耗
図4に概略断面図を示すダミーヘッド材料(AlFeSil-bar)に磁気テープを擦りつけ、削れた幅を定量することでヘッド磨耗を求めた。擦りつけ方法は、AlFeSilの角柱に対し15度で400m長の磁気テープをラップし、100gのテンションをかけたのち、50パス実施後の角柱の磨耗面の幅を評価した。ヘッド磨耗が20μm超となると実用上不十分であるため、20μm以下であれば良好と判断することができる。
5.磁性粒子の粒径
透過型電子顕微鏡(TEM)で40万倍の粒子写真を撮影し、粒子写真から500個の粒子の板径の算術平均として求めた値を粒径とした。
6.磁気特性(保磁力)
得られた磁性粉末の保磁力を、振動試料型磁束計(東栄工業社製)を用い、23℃で印加磁界1194kA/m(15kOe)で測定した。
7.比表面積
得られた磁性粉末の比表面積をBET法により求めた。
8.Al存在状態の確認
実施例、比較例で作製した磁性粉末について、高分解能TEM観察により粒子の断面を観察したところ、表層に被膜が形成されていることが確認された。代表例として、実施例1で得た磁性粉末中の粒子のTEM写真を図5に示す。更に、実施例、比較例で作製した磁性粉末について、XPS(X線光電子分光)分析により粒子表面から深さ約0.5nmのAl/Fe比を測定したところ、上記1.で得たICPによる測定値の1.5〜2.0倍の値が得られ、Alが表層に局在していることが確認された。
以上の結果から、実施例、比較例で作製した磁性粉末は、粒子表面にAlが被着していることが確認できる。また、上記のTEMによる観察により、実施例で得た磁性粉末においては、一次粒子上に被膜が形成されていることが確認された。
以上の評価結果を、表1に示す。
【0063】
【表1】

【0064】
評価結果
表1に示すように、実施例1〜5では分散時のメディア磨耗量が少なく、出力低下およびヘッド磨耗も低減された。
これに対し比較例1ではヘッド磨耗が顕著に発生した。これは六方晶フェライト磁性粒子のAl量が過剰なためテープ表面が硬くなったことによるものである。
一方、比較例2では六方晶フェライト磁性粒子のAl量が過少であるため分散時のメディア磨耗および出力低下を抑制する効果が不十分であった。
比較例3は従来法(酸処理および洗浄処理後の六方晶フェライト磁性粒子にAlを被着)による例であるが、分散時のメディア磨耗量が多く、出力低下も顕著に発生した。先に説明したように、これは凝集体上にAlが被着していることによるものと推察される。
また、比較例4は粒径が六方晶フェライト磁性粒子の粒径が30nmを超える例であるが、Al量は0.6〜8質量%(Al23換算)であるもののメディア磨耗および出力低下を抑制することができなかった。これは粒径が大きいことと結晶化処理が長時間に及ぶため粒子内部へのAl取り込み量が多かったためと考えられる。
以上の結果から、本発明によれば分散時のメディア磨耗、出力低下およびヘッド磨耗を抑制できることが示された。
【0065】
[実施例6、7、比較例5〜8]
酸化物換算で表2に示すB23量、Al23量、BaO量、Fe23量となるように、B23に対応するH3BO3、Al23に対応するAl(OH)3、BaOに対応するBaCO3と、Fe23を所定量秤量し、ミキサーにて混合したもの(Feの一部をNb=1at%で置換したものを用いた)を容量2Lの白金ルツボに仕込み、溶融後、水冷ロールにて冷却し非晶質体を得た。得られた非晶質体600gを電気炉に仕込み、実施例6、比較例5および比較例7は700℃まで、実施例7、比較例6および比較例8は680℃まで、4℃/minで昇温して5時間保持させて六方晶フェライトを結晶化(析出)させた。次いで、結晶化が完了した加熱処理物600gを乳鉢で粗粉砕し、3Lのポットミルに入れ、φ5mmZrボール5kgと純水1.2kgとともにボールミルにて4時間粉砕処理を行った後、粉砕液をボールと分離させ5Lステンレスビーカーに入れた。粉砕液を30質量%酢酸溶液と3:1の割合(質量比)で混合し、85℃に温度制御した状態で2時間攪拌し酸処理した。その後、実施例6、7、比較例7、8では、デカンテーション洗浄(水洗)を繰り返した後、乾燥させて六方晶フェライト磁性粉末を得た。比較例5、6では、デカンテーション洗浄(水洗)を繰り返した後、塩化アルミニウム6水和物を磁性粒子に対するAl23換算で2.5質量%となるように添加し、85℃で1時間撹拌した。その後、苛性ソーダを添加してpHを9に調整した後、85℃で1時間撹拌することでAl含有被膜を磁性粒子に形成した。デカンテーション洗浄(水洗)を繰り返した後、乾燥させて六方晶フェライト磁性粉末を得た。
【0066】
評価方法および評価結果
実施例6、7、比較例5〜8で得られた六方晶フェライト磁性粉末を、以下の方法で評価した。
【0067】
1.粒子中のAl含有量
実施例6、7、比較例5〜8で得られた六方晶フェライト磁性粉末0.01gを10mLの4N−HCl溶液に浸漬し、ホットプレートにて80℃で3時間加熱することで溶解させた。溶解液を希釈後、ICPにてFeとAlを定量することで、粒子総量に対するAl23換算のAl含有量を求めた。
【0068】
2.磁性粒子の粒径、板状比
透過型電子顕微鏡(TEM)で40万倍の粒子写真を撮影し、粒子写真から500個の粒子の板径の算術平均として求めた値を粒径とし、同500個の粒子の(板径/板厚)の算術平均として求めた値を板状比とした。
【0069】
3.磁気特性(保磁力)
得られた磁性粉末の保磁力を、振動試料型磁束計(東栄工業社製)を用い、23℃で印加磁界1194kA/m(15kOe)で測定した。
【0070】
4.比表面積
得られた磁性粉末の比表面積をBET法により求めた。
【0071】
ガラス結晶化法においてAl23が保磁力調整成分としてフェライト組成に取り込まれた場合、同成分の添加により保磁力は低下することとなるが、ガラス形成成分として添加されてAl含有被着物として粒子表面に存在するのであれば、保磁力の低下は起こらない。実施例6は、比較例7の原料混合物においてガラス形成成分(B23成分)の一部をAl23成分に置換したものであるが、比較例7との対比において保磁力の低下は見られない。このことは、実施例6ではAl23成分がガラス形成成分として働いたことを示すものである。実施例6で作製した磁性粉末は、比較例7で作製した磁性粉末と同程度の粒子サイズ(板径、板状比、比表面積)であるが、比較例7と比べて大きな保磁力の向上を示している。同様の事実は、実施例7と比較例8との対比においても確認できる。これは、実施例6、7ではガラス結晶化法の工程において所定量のAlを粒子表面に被着した結果、微粒子であり高い保磁力を有する、高密度記録用磁性粒子として好適な六方晶フェライト磁性粒子が得られたことを示す結果である。
【0072】
5.Al存在状態の確認(1)
実施例6、7で作製した磁性粉末について、高分解能TEM観察により粒子の断面を観察したところ、粒子表層に被膜が形成されていることが確認された。代表例として、実施例6で得た磁性粉末中の粒子のTEM写真を図6上図に示す。図6下図は、比較例7で作製した六方晶フェライト磁性粉末中の粒子のTEM写真である。図6上図と下図とを対比すると、上図において粒子表層部分に被膜が存在することがわかる。
これとは別に、実施例6、7で作製した磁性粉末について、XPS(X線光電子分光)分析により粒子表面から深さ約0.5nmのAl/Fe比を測定したところ、上記1.で得たICPによる測定値の1.5〜2.0倍の値が得られ、Alが表層に局在していることが確認された。
更に、実施例6で作製した磁性粉末について、粒子表面をスパッタしながらAES(オージェ電子分光法)分析によりAl量の深さ方向分析を行った。スパッタ時間1分では粒子表面から0.7nmの位置におけるAlを分析することができ、スパッタ時間10分では粒子表面から7nmの位置におけるAlを分析することができる。AES分析の結果(AlのAES微分スペクトル)を、図7に示す。
AES分析においてスパッタ時間10分でのAl由来のピーク強度が、スパッタ前の粒子最表面におけるAl由来のピークおよびスパッタ時間1分でのAl由来のピーク強度よりも低かったことから、粒子表層部分にAlが局在していることが確認できる。
以上の結果から、実施例6、7で作製した磁性粉末は、粒子表面にAlが被着していることが確認できる。また、上記のTEMによる観察により、実施例5、6で得た磁性粉末においては、一次粒子上に被膜が形成されていることが確認された。
【0073】
6.Al存在状態の確認(2)
実施例6において得られた加熱処理物を高分解能TEMにより観察しエネルギーフィルタ像の取得およびSTEM−EDS元素マッピングを行った。結果を図8に示す。図8の上図の左からBのエネルギーフィルタ像、Oのマッピング像、Alのマッピング像、Feのマッピング像、Baのマッピング像である。
Feのマッピング像においてFeの局在が確認される部分(濃淡が薄い(白く表示されている)部分)は析出した六方晶フェライトが存在する部分である。
Bのエネルギーフィルタ像およびBaのマッピング像、ならびにFeのマッピング像とBaのマッピング像との重ね合わせの結果(図8の下図中、最右)から、六方晶フェライトが存在する部分の周りにBaとBが存在することが確認できる(濃淡が薄い部分)。これは結晶化したガラス成分(BaO・B23)の存在を示すものである。
Alのマッピング像とFeのマッピング像を重ね合わせたところ(図8の下図中、中央)、Alの局在が観察される部分(濃淡が薄い部分)とFeの局在が観察される部分とが一致した。この結果から、Alが六方晶フェライト上に局在していることが確認できる。
Oのマッピング像では全体的にOの存在が確認されたが、部分的にOが多く存在している部分が見られた。そこでFeのマッピング像と重ね合わせたところ(図8の下図中、最左)、Feの局在が確認される部分にOが多く存在することが確認された。Alが局在する部分とOが局在している部分がいずれも六方晶フェライト上であったことから、AlがOとの化合物、即ち酸化物の状態で六方晶フェライト上に存在していることが明らかとなった。実施例6で作製した磁性粉末は、この加熱処理物からガラス形成成分を除去したものであるため、表層に存在するAl被着物はAl酸化物であることがわかる。前述の各実施例でも同様の方法で磁性粉末を作製したため、得られた磁性粉末において粒子表面にはAlが酸化物の状態で存在していると言える。
【0074】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0075】
本発明によれば、高密度記録用磁気記録媒体を、高い生産性をもって提供することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Alを含む原料混合物を溶融し、得られた溶融物を急冷し非晶質体を得ること、
上記非晶質体を加熱処理することにより六方晶フェライト磁性粒子を析出させること、および、
上記加熱処理により得られた物質に酸処理および洗浄処理を施すことにより、粒径が15〜30nmの範囲であって表面にAlが被着した、粒子総量に対するAl含有量がAl23換算で0.6〜8.0質量%である六方晶フェライト磁性粒子を捕集すること、
を含む、六方晶フェライト磁性粒子の製造方法。
【請求項2】
前記原料混合物は、ガラス形成成分としてAl化合物を含むものである、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載の製造方法により得られた六方晶フェライト磁性粒子。
【請求項4】
159〜318kA/mの保磁力を有する、請求項3に記載の六方晶フェライト磁性粒子。
【請求項5】
Alが粒子表面に酸化物として存在する、請求項3または4に記載の六方晶フェライト磁性粒子。
【請求項6】
六方晶フェライトの一次粒子表面にAlが被着してなる、請求項3〜5のいずれか1項に記載の六方晶フェライト磁性粒子。
【請求項7】
50〜100m2/gの範囲の比表面積を有する、請求項3〜6のいずれか1項に記載の六方晶フェライト磁性粒子。
【請求項8】
バリウムフェライト磁性粒子である、請求項3〜7のいずれか1項に記載の六方晶フェライト磁性粒子。
【請求項9】
請求項3〜8のいずれか1項に記載の六方晶フェライト磁性粒子からなる磁気記録媒体用磁性粉。
【請求項10】
非磁性支持体上に強磁性体と結合剤とを含む磁性層を有する磁気記録媒体であって、
前記強磁性体として、請求項3〜8のいずれか1項に記載の六方晶フェライト磁性粒子を含む磁気記録媒体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−225417(P2011−225417A)
【公開日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−233775(P2010−233775)
【出願日】平成22年10月18日(2010.10.18)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】