説明

共鳴音発生装置

【課題】ダンパーペダルが押鍵前後のいずれで操作されたかに応じて2種類の共鳴音のうち一方を発生させる共鳴音発生装置を提供する。
【解決手段】第1楽音成分信号発生部53はキーオンに応答して第1の楽音成分信号を発生し、第2楽音成分信号発生部54はキーオンに応答して第2の楽音成分信号を発生する。加算器57は第1の楽音成分信号と第2の楽音成分信号とを加算して通常音信号を生成する。楽音波形選択部59は乗算器55でレベル制御された第1の楽音成分信号および乗算器56でレベル制御された第2の楽音成分信号のいずれかを、ペダル状態に応じて共鳴用楽音発生部51に入力する。共鳴音発生部52は第1の楽音成分信号または第2の楽音成分信号に基づいて共鳴音信号を発生する。共鳴音信号のレベルはペダルの操作量に応じて共鳴音レベル制御部22で制御される。通常音信号および共鳴音信号は加算部24で混合される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、共鳴音発生装置に関し、特に、アコースティックピアノでダンパーペダルを操作したとき等に生じる弦共鳴音を模擬する共鳴音発生装置に関する。
【背景技術】
【0002】
アコースティックピアノでは、弦を押さえているダンパーをダンパーペダルで弦から外す操作を行い、実際に弾かれた弦だけでなく他の全ての弦を共鳴によって振動させる演奏手法がとられる。電子ピアノや電子オルガン等の電子楽器においては、このダンパーペダル操作による弦共鳴音を模擬する機能が要求される。
【0003】
例えば、ダンパーペダルを操作しない通常のピアノ音と、ダンパーペダルを操作した場合の共鳴音を含むピアノ音とを録音してそれぞれの波形データを記憶し、ダンパーペダルの操作の有無に応じて波形を選択して楽音を発生する方法が行われている。
【0004】
また、ダンパーペダルを操作した場合の共鳴音を含むピアノ音を録音した後、このピアノ音からピアノの倍音成分のみを除去した共鳴音成分を生成してこの波形データを記憶し、ダンパーペダルが操作された際には通常の楽音とともに共鳴音成分を発生する方法も行われている。
【0005】
特許文献1には、基準音による共鳴音を伴う楽音から該基準音を除いた楽音の波形データを記憶する共鳴音メモリを備え、ダンパーペダルによる指示に応じて、前記共鳴音メモリから読み出された波形データの振幅を制御するようにした電子楽器が提案されている。
【0006】
さらに、予め記憶した波形データをもとに楽音を発生するのではなく、デジタル・シグナル・プロセッサ(DSP)を使って共鳴回路を構成し、ダンパーペダルが操作された場合にのみ、共鳴回路を通じて共鳴音を形成する信号を出力する方法も行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平09−127941号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ダンパーペダルを使用する演奏には、ダンパーペダルを操作した後に押鍵する場合と、押鍵後にダンパーペダルを操作する場合とが考えられるが、DSPを使って共鳴回路を構成する従来技術では、押鍵後にダンパーペダルが操作された場合に十分な共鳴音が得られないという問題があった。
【0009】
これに対して、特許文献1に開示されたような、予め記憶した波形データを使用する電子楽器では、ダンパーペダルによって指示されたタイミングに応じて波形データの振幅を制御しているので、ダンパーペダルの操作が押鍵後であった場合にダンパー操作から押鍵までの経過時間に応じて共鳴音の波形データの振幅を小さくして出力することができる。
【0010】
しかし、ダンパーペダルの操作後に押鍵した場合は、打鍵の衝撃音による強度の大きい共鳴音が発生する一方、押鍵後にダンパーペダルを操作した場合は打鍵の衝撃音を含まない弱い振動による強度の小さい共鳴音が発生する。これら2種類の共鳴音は互いにエンベロープが異なるので、単一の共鳴音データをダンパーペダルの操作タイミングに応じた時間で読み出すようにしただけでは精度の高い共鳴音を再現することはできないという問題点があった。
【0011】
本発明は、上記問題点に鑑み、ダンパーペダルを操作した後に押鍵した場合、および押鍵後にダンパーペダルを操作した場合のいずれの場合にも適した共鳴音を発生することができる共鳴音発生装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記問題点を解決し、目的を達成するための本発明は、発音指示に応答して第1の楽音成分信号を発生する第1楽音成分信号発生手段と、発音指示に応答して第2の楽音成分信号を発生する第2楽音成分信号発生手段と、前記第1の楽音成分信号と第2の楽音成分信号とを加算して通常音信号を生成する通常音信号混合手段と、 前記第1の楽音成分信号および第2の楽音成分信号のレベルを発音指示時のダンパー操作子の操作状態に応じてそれぞれ制御する共鳴用楽音レベル制御手段と、前記共鳴用楽音レベル制御手段でレベル制御された前記第1の楽音成分信号および第2の楽音成分信号に基づいて共鳴音信号を発生する共鳴音発生手段と、前記共鳴音信号のレベルを前記ダンパー操作子の操作量に応じて制御する共鳴音レベル制御手段と、前記通常音信号、および前記レベル制御された共鳴音信号を加算する共鳴音信号混合手段とを具備した点を特徴とする。
【0013】
また、本発明は、上記特徴を有する発明において、次の(1)〜(17)のいずれかを有する点に特徴がある。
(1)前記第1の楽音成分信号は倍音成分からなり、前記第2の楽音成分信号は非周期成分からなること
(2)前記第1の楽音成分信号は非周期成分および倍音成分からなり、前記第2の楽音成分信号は前記第1の楽音成分から非周期成分を除いた倍音成分からなること
(3)前記共鳴音発生手段が、複数の共鳴回路群と、各共鳴回路群に対応した複数の入力系列とで構成され、前記各共鳴回路群の共鳴音出力を加算して出力する加算器とからなること
(4)前記第1楽音成分信号発生手段および第2楽音成分信号発生手段は、複数のチャンネルを有し、前記チャンネル毎に全音名数分設けられ、発音指示に含まれる楽音制御情報に基づいて楽音の振幅を調整する乗算器であって、少なくとも発生された前記第1の楽音成分信号および第2の楽音成分信号と同じ音名の乗算器には他と異なる乗算係数を乗算される乗算器とを備え、前記加算器が、前記乗算器のうち同じ音名に対応するチャンネル毎の乗算器から出力されてきた信号同士を加算するとともに、前記各加算器の出力が前記共鳴音レベル制御手段に入力されるように構成されたこと
(5)前記共鳴回路群を形成する共鳴回路が、楽音の倍音周波数を共振周波数としており、かつ倍音数分だけ複数並列に接続されていること
(6)前記共鳴回路はデジタルフィルタを有しており、そのインパルス応答が、倍音の振動波形を1自由度粘性減衰系モデルで模擬したものであり、前記デジタルフィルタで使用されるフィルタ係数が、1自由度粘性減衰系モデルの振る舞いを決めるためのモデルパラメータとして質量、減衰固有振動数、および減衰率を与えて、該モデルの運動方程式の係数となる粘性係数と剛性係数を求め、前記モデルの運動方程式をラプラス変換し、s表現の伝達関数式を得ると共に、これに求めた粘性係数、剛性係数及び質量を代入し、双一次変換を行って、z表現のフィルタ係数を求め、前記質量は任意の値とし、前記減衰固有振動数は模擬しようとする倍音の振動数であり、前記減衰率は倍音の減衰を指数関数で近似したときの指数として、その値を求めることによって決定されること
(7)前記共鳴回路のデジタルフィルタにそれぞれ直列に接続された乗算器を備え、該乗算器では、該デジタルフィルタで模擬しようとする倍音を含む楽音の、各倍音の振幅比を所定倍するものであること
(8)前記第1楽音成分信号発生手段および第2楽音成分信号発生手段が、記憶された楽音波形を使用して楽音発生するものであり、模擬しようとする倍音は、記憶された楽音波形より抽出された倍音であること
(9)前記第1楽音成分信号発生手段および第2楽音成分信号発生手段が、楽音合成により楽音発生するものであり、模擬しようとする倍音は、楽音合成され、出力された楽音波形より抽出された倍音であること
(10)1つの共鳴回路の共振周波数を1つの倍音周波数に対応させる一方、倍音周波数が等しいか非常に近い倍音周波数の倍音が複数存在する場合は、該複数の倍音周波数の1つで他を代表させること
(11)1つの共鳴回路の共振周波数を1つの倍音周波数に対応させる一方、予定の倍音周波数に対応する共鳴回路の共振周波数が、該予定の倍音周波数から所定量だけずらされていること
(12)前記共鳴音発生手段は、その出力を所定倍して、通常音信号と加算し、該共鳴音発生手段にフィードバックして入力するフィードバック経路を有すること
(13)前記フィードバック経路には、共鳴音発生手段の出力を遅らせる遅延回路及び/又は前記出力の振幅−周波数特性を変更するフィルタを備えたこと
(14)前記乗算器が、前記チャンネル1チャンネルあたり共鳴回路群の各音名に対応した数だけ設けられ、これら乗算器の乗算係数は、楽音制御情報に含まれる音高情報によって決定されると共に、この中の1つの乗算器の乗算係数が他の乗算器の乗算係数より小さく、残りの乗算器の乗算係数同士は等しいこと
(15)前記共鳴音発生手段の入力系列数は、共鳴回路群の各音名に対応した数であり、楽音分配手段の出力チャンネルの分配系列も同数であること
(16)前記共鳴回路群は、その対応する音名の楽音の倍音に対応した共鳴回路が複数並列に接続されてなること
(17)電子鍵盤楽器に組み込まれ、前記発音指示は、キー情報に含まれるキーオンデータであること
【発明の効果】
【0014】
上記特徴を有する本発明によれば、押鍵前(一般には発音指示前)にダンパーペダルが操作されているとき、および押鍵後(一般には発音指示後)にダンパーペダルが操作されたときのいずれの場合にも対応して共鳴音を発生させることができる。
【0015】
特に、押鍵前にダンパーペダルが操作されているときは、直接音には押鍵の衝撃音である非周期成分と倍音成分とを含むが、押鍵後にダンパーペダルが操作されたときは、押鍵の衝撃音による非周期成分が減衰している。共鳴音には、このような直接音の変化が影響を及ぼすが、本発明によれば、この影響を考慮した精度の高い共鳴音をダンパーペダルの操作タイミングに応じて発生させることができる。
【0016】
また、本発明によれば、1自由度粘性減衰系モデルのパラメータを適宜設定することにより、任意の振動波形を再現して所望の共鳴音を発生させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】参考例としての共鳴音発生装置の要部機能を示すブロック図である。
【図2】共鳴音発生装置を有する電子ピアノのハード構成部分を示すブロック図である。
【図3】共鳴音発生装置のメイン処理を示すフローチャートである。
【図4】鍵盤イベント処理を示すフローチャートである。
【図5】ペダルイベント処理を示すフローチャートである。
【図6】共鳴音発生部の要部構成を示すブロック図である。
【図7】1自由度粘性減衰系モデルを示すモデル説明図である。
【図8】FFT分析による振幅−周波数特性を示すグラフである。
【図9】A0の1倍音を示す波形図である。
【図10】A0の1倍音の近似波形を示す波形図である。
【図11】倍音を切り出す帯域幅の例を示すグラフである。
【図12】C2、C3、C4の倍音をFFT分析した振幅−周波数特性を示すグラフである。
【図13】C2の楽音を、C2、C3、G♯2の各1倍音共鳴回路へ入力した時の共鳴音の状態を示すグラフである。
【図14】C2の楽音を、C2、C3、C♯2の各1倍音から数Hzずらした共鳴周波数のそれぞれの共鳴回路へ入力した時の共鳴音の状態を示すグラフである。
【図15】共鳴音発生部にフィードバック経路を付加した構成を示す図である。
【図16】共鳴音発生手段にフィードバック経路、遅延回路、および振幅−周波数特性を変更するフィルタを付加した構成を示す図である。
【図17】第2実施形態に係る共鳴音発生装置の要部機能を示すブロック図である。
【図18】共鳴回路群Cに、音名C3、D♯3、G3の波形を入力した時の出力波形である共鳴音の波形を示す図である。
【図19】共鳴回路群Cに、音名C3、D♯3、G3の波形を入力した際、C3波形のみ振幅を小さくした時の共鳴音を示す図である。
【図20】共鳴音発生部に備えた音名Aに対応する共鳴回路群の構成を示すブロック図である。
【図21】第1実施形態における鍵盤処理を示すフローチャートである。
【図22】第2実施形態に係る共鳴音発生装置の要部機能を示すブロック図である。
【図23】F6の楽音を、C6に含まれる倍音の共振周波数を持った複数の共鳴回路、D♯6に含まれる倍音の共振周波数を持った複数の共鳴回路、及びF6に含まれる倍音の共振周波数を持った複数の共鳴回路に入力した時の出力の合計を示すグラフである。
【図24】C6の共鳴桝路とD♯6の共鳴回路の出力レベルは1で、F6の共鳴回路の出力レベルを0.1とした場合の出力の合計を示すグラフである。
【図25】第2実施形態に係る鍵盤処理を示すフローチャートである。
【図26】変形例に係る波形データの一例を示す図である。
【図27】変形例に係る共鳴音発生装置の機能ブロック図である。
【図28】第1実施形態に係るリアルタイム共鳴音発生装置の機能を示すブロック図である。
【図29】図28に示したリアルタイム共鳴音発生装置の変形例に係る機能ブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照して本発明を詳細に説明する。図2は共鳴音発生装置を含む電子ピアノのハードウェア構成の一例を示すブロック図である。なお、このハードウェア構成は、後述する本発明の実施形態に共通である。同図において、CPU1は、システムバス2を介して図中に示した各部を制御する。ROM3はCPU1において用いられるプログラムを記憶するプログラムメモリ3aや少なくとも音色データを含む各種データを記憶するデータメモリ3bを有している。RAM4はCPU1による制御において発生する各種のデータ等を一時的に記憶する。
【0019】
電子ピアノには、操作パネル(以下、単に「パネル」と呼ぶ)5、MIDIインタフェース6、およびダンパーペダル(以下、単に「ペダル」と呼ぶ)7が設けられる。パネル5は、発生すべき楽音の音色を選択する音色スイッチ5aを含む各種状態設定のためのスイッチ等によって構成され、このパネル5から設定された情報はCPU1に供給される。ペダル7は該ペダル7の操作(踏込)状態を検出して、そのペダル情報をCPU1に供給するペダルセンサ7aを含んでいる。ペダルセンサ7aは、可変抵抗器であり、この可変抵抗による電圧の変動などをペダル7の踏み込み量として検出する。検出されたペダル7の踏み込み量データは、CPU1に送られる。CPU1は踏み込み量データを受けた場合、RAM4上に共鳴設定フラグを「1」に設定する。そして、この踏み込みが無くなれば、踏み込み量が「0」としてCPU1に送られ、RAM4上の共鳴設定フラグは、「0」に設定される。
【0020】
鍵盤8は88鍵からなり、各鍵にはそれぞれタッチセンサからなるキースイッチ8aが設けられる。キースイッチ8aは、演奏者の鍵盤8に対する演奏操作を検出して、押鍵された鍵の音高を示すキーコードKCや、押鍵・離鍵に対応して楽音の発生・消音タイミングを指示するキーオンKON・キーオフKOFF、押鍵速度に対応するキータッチKTなどのキー情報を出力する。キースイッチ8aから出力される情報はシステムバス2を介してCPU1に供給される。
【0021】
楽音発生部9は、同時に複数の発音を行なうため時分割制御されるチャンネルを備えたトーンジェネレータであり、複数のチャンネルすべての出力信号を累算して出力する。楽音発生部9では、押鍵操作により、いずれかのチャンネルが割り当てられ、該チャンネルにおいて押鍵操作に対応する楽音が生成される。
【0022】
波形メモリ10には、詳細を後述する3種類の楽音情報の波形データが記憶されており、楽音発生部9は、波形メモリ10に記憶されている波形データを読み出し、該波形データに基づいて楽音信号を生成する。前記楽音発生部9は、波形メモリ10から鍵操作に対応して波形データを読み出すものであり、音色スイッチ5aによって設定された音色の波形データを、キーオンに応答して読み出す。読出アドレスの歩進はキーコードKCに対応した速度で行なわれる。すなわち、キーコードKCに対応する読出レートで波形データを読み出す。
【0023】
楽音信号は、デジタルフィルタ11を通し、DA変換器12でアナログ信号に変換された後、サウンドシステム13に入力される。サウンドシステム13は、アンプやスピーカ等から構成されており、DA変換器12の出力信号を電子ピアノの出力として外部に発音させる。
【0024】
共鳴音発生装置を含む電子ピアノの要部機能を説明する。電子ピアノは、ペダル7を操作中に押鍵した場合(以下、「押鍵前操作」ともいう)と、押鍵後にペダル7を操作した場合(以下、「押鍵後操作」ともいう)とで異なる共鳴音を発生できる機能を有する。アコースティックピアノの押鍵前操作では、押鍵時には弦からダンパーが離れているので、押鍵時の衝撃音を含む振動による共鳴音が発生する。これに対して、押鍵後操作では、押鍵時の衝撃音が小さくなるか衝撃音が無くなった後で弦からダンパーが離されるので、この場合の共鳴音には押鍵時の衝撃音の影響は及ばない。本実施形態では、このようなアコースティックピアノの特性に応じて共鳴音を発生させるための楽音情報を2種類設定した。つまり、押鍵による直接音(以下、「通常音」と呼ぶ)の楽音情報と2種類の共鳴音情報、つまり合計3種類の楽音情報に基づいて楽音を発生させるようにした。通常音の波形データを入力されて第1の共鳴音を発生する第1共鳴系統と、通常音から押鍵時の衝撃音である非周期成分を除いた倍音成分のみの波形データを入力されて第2の共鳴音を発生する第2共鳴系統とを設ける。各波形データは波形メモリ10に格納される。
【0025】
図1は、電子ピアノの要部機能の参考例を示すブロック図である。該電子ピアノは、通常音発生部15と共鳴音発生部16とを有する。通常音発生部15および共鳴音発生部16は前記楽音発生部9の機能である。通常音発生部15には、波形メモリ10に設けられる通常音情報供給部としての第1波形記憶部17から通常音波形データが入力される。
【0026】
共鳴音発生部16には、第2波形記憶部18および第3波形記憶部19のうち、切替部20で選択された方から共鳴音発生用の波形データが読み込まれる。第2波形記憶部18に格納された波形データは、押鍵時の衝撃音の影響を受けた押鍵前操作に対応する共鳴音波形データである。他方、第3波形記憶部19に格納された波形データは通常音から押鍵時の衝撃音である非周期成分を除いた倍音成分による共鳴音の波形データ、つまり押鍵後操作に対応する共鳴音の波形データである。
【0027】
切替部20は、ペダル状態判定部21の判定結果に応じて予め設定した側に切り替えられる。ペダル状態判定部21はキースイッチ8aからキーオンKONが入力されたときにペダルセンサ7aの出力を判定する。キーオンKON入力時に、ペダルセンサ7aの出力が、ペダル操作したと判定できる予定値(ペダルオン基準値)以上であれば押鍵前操作検出信号を出力し、キーオン情報入力時に、ペダルセンサ7aの出力が、ペダルオン基準値未満であれば押鍵後操作検出信号を出力する。切替部20は、押鍵前操作検出信号が入力されると第2波形記憶部18を選択するように切り替えられ、押鍵後操作検出信号が入力されると第3波形記憶部19を選択するように切り替えられる。
【0028】
レベル制御部22はペダルセンサ7aの出力に応じた係数Pを乗算部23に入力する。ペダル7が踏み込まれているとき、係数Pは「1」であり、ペダル7が踏み込まれていないとき、係数Pは「0」である。なお、係数Pは「1」と「0」の2値に限らず、ペダル7の踏み込み量に応じてさらに細かく段階を分けてあってもよい。
【0029】
通常音発生部15からの楽音信号と、係数Pによってレベル調整された共鳴音発生部16からの楽音信号とを加算する加算器24が設けられる。
【0030】
上記構成により、押鍵されると、キー情報が通常音発生部15と共鳴音発生部16とに入力される。通常音発生部15および共鳴音発生部16には音色スイッチ5aの操作に応じた音色情報も入力される。キー情報および音色情報に基づいて通常音波形データが通常音発生部15に読み込まれる。切替部20は、ペダル状態判定部21でのキーオンKON検出時のペダルセンサ7aの出力の判定結果に基づいて第2波形記憶部18および第3波形記憶部19のいずれかに切り替えられる。切替部20の切り替えに応じて選択された第2波形記憶部18および第3波形記憶部19からキー情報および音色情報に基づいて共鳴音波形データが共鳴音発生部16に読み込まれる。
【0031】
通常音および選択された共鳴音の波形データに基づいて通常音発生部15および共鳴音発生部16は楽音信号を作成し出力する。通常楽音信号は加算器24に入力され、共鳴楽音信号は乗算部23でペダルの踏み込み(または踏み込み量)に応じてレベル制御された後、加算器24に入力される。加算器24で合成された通常楽音信号および共鳴楽音信号に基づいてサウンドシステム13で楽音が発生される。
【0032】
なお、図1の参考例では、ペダル状態判定部21は、キーオン時にペダルセンサ7aの出力がペダルオン基準値未満のときに押鍵後操作と判定して、第3波形記憶部19から波形データを共鳴音発生部16に読み込むようにした。この場合、通常音が消滅するまでペダルが踏まれなかったときは、レベル制御により、共鳴音は加算器24に入力されないので、結局、共鳴音は発生しない。しかし、ペダル状態判定部21での判定手法を、キーオンKONが持続している間ペダルセンサ7aの出力を監視し、ペダルセンサ7aの出力がペダルオン基準値以上となった時点で押鍵後操作検出信号を出力する構成としてもよい。
【0033】
図3は、電子ピアノの全体処理を示すフローチャートである。ステップS1では、CPU1、RAM4、音源LSI(DSP)等を初期化する。ステップS2では、パネル5のスイッチ等の状態を読み込んで対応の処理を行うパネルイベント処理を行う。ステップS3では、キースイッチ8aの出力に基づいて通常音の楽音信号を発生する鍵盤イベントを実行する。鍵盤イベントにはキータッチKTに応じたエンベロープの設定も含まれる。
【0034】
ステップS4では、ペダルセンサ7aの出力に対応したペダルイベント処理が行われる。なお、ペダルイベント処理には、ペダル(ダンパーペダル)以外のペダルの処理を含むことができる。ステップS5では、その他の処理が行われる。
【0035】
図4は、鍵盤イベント処理(ステップS3)の詳細を示すフローチャートである。ステップS30ではキーオンKONの有無により鍵盤8のオンイベントの有無つまり押鍵の有無を判断する。オンイベントならばステップS31に進み、キー情報に応じて第1波形記憶部17から通常音波形データを読み出す。ステップS32では、読み出した通常音波形データを通常音発生部15に入力する。つまり音源LSIに通常音波形データをロードして通常音発音処理を行う。
【0036】
ステップS33では、ペダル7がオン操作されているか、つまりペダルセンサ7aの出力がペダルオン基準値以上か否かを判断する。ペダル7が操作されていれば押鍵前操作と判断し、ステップS34に進んで第2波形データ記憶部18から波形データを読み出す。ペダル7がオン操作されていなければ押鍵後操作と判断し、ステップS35に進んで第3波形データ記憶部19から波形データを読み出す。ステップS36では、読み出した第2または第3波形データを共鳴音発生部16に入力する。共鳴回路に波形データを入力して共鳴音発音処理を行う。
【0037】
一方、ステップS30でオンイベントと判断されなかった場合は、ステップS37に進み、キーオフKOFFの有無により鍵盤8のオフイベントの有無つまり離鍵の有無を判断する。オフイベントならばステップS38に進み、ペダル7が操作されているか、つまりペダルセンサ7aの出力がペダルオン基準値以上か否かを判断する。ペダル7がオン操作されていれば、発音中の音を維持する(消音処理を行わない)。ペダル7がオン操作されていなければ、ステップS39に進んで音源LSIにリリーススピードをロードして消音処理を行う。つまりリリーススピードに従って、徐々に楽音信号のレベルを低下させていく。
【0038】
図5は、ペダルイベント処理(ステップS4)の詳細を示すフローチャートである。ステップS40では、ペダル7がオン操作されたか否か、つまりペダルセンサ7aの出力がゼロから変化したか否かを判断する。ペダル7が操作されたのであればステップS41に進み、ペダルセンサ7aの出力値に応じた前記係数Pに従って共鳴音系列のゲートレベルを増加させる。つまり乗算部23に係数Pを入力して共鳴音のレベルを設定する。
【0039】
ペダル7がオン操作されたのでなければ、ステップS42に進んでペダル7がオフ操作されたか否か、つまりペダルセンサ7aの出力がゼロに下がったか否かを判断する。ペダル7がオフ操作されたのであれば、ステップS43で共鳴音系列のゲートレベルを増加させる。つまり乗算部23に係数P(=0)を入力して共鳴音のレベルをゼロまで低下させる。
【0040】
ペダル7のオフ操作でなければ、ステップS42からステップS44に移行し、ペダル7以外のペダルが操作されたか否かが判断される。ステップS44が肯定であれば、ステップS45で、操作されたペダルの種類に応じた処理を行う。
【0041】
第2波形記憶部18および第3波形記憶部19に記憶される共鳴音波形データは、予め共鳴音演算装置で生成したものである。図6は、共鳴音演算装置の要部構成を示すブロック図である。この回路に通常音を入力することにより、共鳴音波形データを得る。共鳴音演算装置は、音名毎に、各音名の楽音を構成するn個の倍音の周波数に相当する共振周波数を発生するn個のフィルタ回路を備える。図6は音名A0およびB0に対応する部分を示す。共鳴回路161は、A0の基音に相当する共振周波数を発生するフィルタFA0−1と、n個の倍音に相当する共振周波数を発生するフィルタFA0−2〜FA0−nとを有する。同様に共鳴回路162は、B0の基音に相当する共振周波数を発生するフィルタFB0−1と、n個の倍音に相当する共振周波数を発生するフィルタFB0−2〜FB0−nとを有する。このような共鳴回路は、全ての音名(つまり鍵盤8の全ての鍵)に対応して設けられる。加算器163,164は共鳴回路161および共鳴回路162の出力をそれぞれ合成する。また、加算器165は、共鳴回路161,162を含む、全ての音名に対応して設けられる図示しない共鳴回路の出力を合成する。
【0042】
共鳴音演算装置では、入力された波形データの倍音の周波数に対応した共振周波数を持つ共鳴回路からは、振幅が大きい共鳴音が発生し、信号の倍音の周波数とは異なる共振周波数を持つ共鳴回路からは、振幅が小さい共鳴音が発生される。即ち倍音の周波数と共振周波数が近ければ近いほど、その共鳴回路の出力の振幅は大きくなり、離れていれば離れているほど、その共鳴回路の出力の振幅は小さくなる。例えばC3とG3の強打に応じた波形を加算したものが入力されると、C3とG3の強打波形の倍音周波数に近い共振周波数の共鳴回路からは、振幅が大きい共鳴音が発生し、C3とG3の強打波形の倍音周波数から離れた共振周波数の共鳴回路からは、小さな振幅の共鳴音が発生する。そして加算器24により、各共鳴回路で発生した共鳴音の全てを加算する。
【0043】
なお、必ずしも鍵盤8の全ての鍵に対応した共鳴回路を設ける必要はない。アコースティックピアノにおいては、ダンパーペダルによって制動を受ける音名が、A0〜F6までの69鍵である。したがって、少なくともこの69鍵に対応した共鳴回路を設ければよい。また、ピアノ以外の他の楽器の楽音を模擬する場合はA0〜F6の範囲に限らない。
【0044】
図6の構成において、例えば、A0の通常音の波形データが入力されると、共鳴回路161の各フィルタが入力された波形データに応答して基音および各倍音の共鳴楽音情報を出力する。但し、A0の通常音の波形データに対して共鳴回路161のみが応答するのではなく、A0の基音および各倍音周波数と同じ共振周波数か、これらから少しずれた共振周波数を有する、他の音名用のフィルタも応答して共鳴楽音情報を出力する。例えば、A4の基音(440Hz)に近似するA3の第2倍音(441Hz)のフィルタ特性を持つフィルタからも共鳴楽音情報が出力される。応答した全てのフィルタから出力された共鳴楽音情報は加算器165で合成されて前記乗算部23(図1参照)に入力される。
【0045】
通常音から押鍵時の衝撃音である非周期成分を除いた倍音成分のみの波形データが入力されたときも共鳴回路は同様に動作して、共鳴音楽音信号を発生する。
【0046】
次に、共鳴回路の各フィルタの設計について述べる。前記各フィルタとして、IIRフィルタを用いるのが好適であり、各倍音周波数に相当する入力周波数に応答して急峻に出力が立ち上がる特性に設計される。つまり、フィルタのインパルス応答は、倍音の振動波形を模擬するものであって、1自由度粘性減衰系モデルで再現できるものとする。1自由度粘性減衰系モデルのため、質量、減衰固有振動数、および減衰率をモデルパラメータとし、これに基づいて1自由度粘性減衰系モデルの運動方程式の係数となる粘性係数と剛性係数とを求める。さらに前記運動方程式をラプラス変換し、s表現の伝達関数式を得る。そして、この伝達関数式に粘性係数、剛性係数および質量を代入し、双一次変換を行ってz表現のフィルタ係数を求める。
【0047】
前記質量は任意の値とし、前記減衰固有振動数は模擬しようとする倍音の振動数であり、前記減衰率は倍音の減衰を指数関数で近似したときの指数としてフィルタ係数を求める。
【0048】
1つのフィルタは、倍音の時間変動を模擬するように設計されるが、共振周波数や振幅の時間変動を十分に模擬すると回路規模が大きくなりすぎるので、概略模擬できるものとする。
【0049】
図7は、1自由度粘性減衰系モデルを示す模式図である。1自由度粘性減衰系モデルは、ばね(剛性係数)K、質量M、およびダッシュポット(粘性係数)Cで表現される。なお、粘性はダンパーとも呼ばれるが、ここでは、ダンパーペダルとの混同をさけるためにダッシュポットという用語を用いる。質M量の変位をx、質量Mにかかる力をf(t)としたときのこのモデルの運動方程式は、数式1のようになる。
【0050】
【数1】

【0051】
さらに前記数式1をラプラス変換し、その伝達関数を求めると数式2で示すようになる。数式2の伝達関数式は分子が定数項のみであり、分母がsの2次の多項式となっている。したがって、2次のローパスフィルタとして実現できる。
【0052】
【数2】

【0053】
1自由度粘性減衰系モデルの振る舞いを表すための係数、およびそれらの関係式は一般に知られており、不減衰固有角振動数ω、臨界減衰計数cc、減衰比ζ、減衰係数σ、減衰角振動数ωdとしたとき、数式3〜数式7で示すようになる。
【0054】
【数3】

【0055】
【数4】

【0056】
【数5】

【0057】
【数6】

【0058】
【数7】

【0059】
減衰角振動数ωdは、模擬しようとする倍音周波数に2πを乗じたものとし、減衰率σは、模擬しようとする倍音の得ぬ異を指数関数で近似した時の指数とする。また、質量Mは任意の値とし、ここでは「1」とする。このように、減衰固有角振動数ωd、減衰率σ、質量Mを既知とすれば、伝達係数G(s)の分母の多項式の係数である、粘性係数Cおよび構成係数Kは、数式6を変形したものと数式4とを数式5に代入した数式8で求められる。
【0060】
【数8】

【0061】
したがって、粘性係数Cは数式9で示すようになる。
【0062】
【数9】

【0063】
また、減衰固有角振動数ωdは共鳴回路部分の共振周波数に2πを乗じた値である(すなわち、減衰固有角振動数(rad)=共振周波数(Hz))。数式7に数式4を代入すると数式10が得られる。
【0064】
【数10】

【0065】
数式10をΩについて解くと、数式11が得られる。
【0066】
【数11】

【0067】
さらに数式3に数式11を代入すると、数式12によって剛性係数が求められる。
【0068】
【数12】

【0069】
以上により、s表現の伝達係数の全ての係数が求まった。
【0070】
さらにこれをデジタルフィルタで実現するためには、双一次変換によりz表現の伝達関数式を得る。双一次変換とはsを数式13のように置き換えることである。数式13において、Tはサンプリング時間であり、zは単位遅延を表す。
【0071】
【数13】

【0072】
数式13を数式2に代入して数式14を得る。
【0073】
【数14】

【0074】
ここで、質量M、粘性係数C、剛性係数Kについて整理すると、数式15〜数式17のようになる。
【0075】
【数15】

【0076】
【数16】

【0077】
【数17】

【0078】
ここで、伝達関数式を示す数式2を数式18のように表現する。
【0079】
【数18】

【0080】
分母多項式の係数は、数式15〜数式17より、数式19のように求められる。
【0081】
【数19】

【0082】
上述のように、減衰固有角振動数ωd、減衰率σ、質量Mを既知として、共鳴回路のフィルタは実現できる。
【0083】
続いて、減衰固有角振動数ωdと減衰率σの求め方を説明する。減衰固有角振動数ωdは、模擬しようとする倍音周波数に2πを乗じたものとするが、この倍音周波数はFFT分析で特定するか、楽音からバンドパスフィルタを使って抽出する方法など、周知の手法で得ることができる。
【0084】
図8は、A0の楽音のFFT分析による振幅−周波数特性を示す模式図である。図中f1がA0の1倍音(基音)の周波数、f2が2倍音の周波数、fN1が最高次倍音の周波数である。図6におけるフィルタFA0−1の減衰固有角振動数ωdはf1×2πである。同様に、フィルタFA0−2の固有角振動数ωdはf2×2π、フィルタFA0−nの固有角振動数ωdはfN1×2πとなる。
【0085】
減衰率σは、倍音の波形と数式20による最小二乗誤差が最も小さくなる減衰率σを用いている。A0の楽音では、1倍音の波形(図9参照)と数式20によって図9の波形に近似した波形(図10参照)との差が最も小さくなるように減衰率σを設定する。
【0086】
【数20】

【0087】
数式20において、x(t)は正弦波の瞬時値であり、Aは振幅である。振幅Aは近似しようとする倍音の最大振幅とする。
【0088】
上記方法以外にも、倍音のエンベロープを抽出し、それを対数関数で近似する等の方法を用いても良い。図9に、A0の1倍音の実際の波形を示し、図10に数式20によって近似したA0の1倍音の波形を示す。
【0089】
なお、最小二乗誤差を求める方法、FFTによる分析方法等は周知であるので、説明は省略する。
【0090】
共鳴回路161,162に設けた各フィルタには、乗算器を直列接続して音色を設定することができる。この場合の乗算係数は、楽音波形のFFT分析の結果に基づいて求めることができる。一例として図8に示した振幅−周波数特性を有するA0の楽音波形について説明する。
【0091】
図8において、1倍音は、周波数がf1Hzで振幅レベルが0dBであり、2倍音は、周波数がf2Hzで振幅レベルが−20dBである。N1倍音(最高次倍音)は、周波数がfN1Hzであり振幅レベルは−40dBである。
【0092】
したがって、振幅比は1倍音を1(基準)とすると、2倍音は10(-20/20)=0.1となり、N1倍音は10(-40/20)=0.01となる。したがって、図6のフィルタFA0−1に接続される乗算器の乗算係数は「1」、フィルタFA0−2に接続される乗算器の乗算係数は「0.1」、フィルタFA0−nに接続される乗算器の乗算係数は「0.01」となる。
【0093】
次に、模擬しようとする倍音について述べる。電子ピアノでは、アコースティックピアノの楽音波形を収音し、その収音された波形を波形メモリ10に記憶する。したがって、共鳴回路の共振周波数を特定したり、減衰率を決定したりする場合は、収音した波形に基づいて、模擬しようとする倍音を抽出して利用する。
【0094】
例えば、A0の1倍音を模擬しようとする場合、A0楽音波形から、f1倍音を中心とし、f1未満の帯域幅を持つバンドパスフィルタで切り出して、ゼロクロス分析による共振周波数の特定を行ったり、減衰の近似を行ったりする。
【0095】
図11は、バンドパスフィルタの帯域幅を示す図である。図中矢印で示す範囲がバンドパスフィルタの通過域である。
【0096】
楽音発生部9を、波形読み出しでなく、楽音合成方式とすることができる。この場合、キー情報を楽音制御情報として楽音発生部9から発生した楽音を収音して、これについてFFT分析あるいはゼロクロス分析による共振周波数の特定を行ったり、減衰の近似を行ったりする。すなわち、模擬しようとする倍音は、所定の楽音制御情報で楽音合成されて出力された楽音波形から抽出された倍音である。
【0097】
実際のピアノ音から各倍音を抽出して共振周波数および減衰率を決定する本実施形態では、従来の遅延ループによる共鳴音を発生させる場合に比べ、次のような利点がある。
【0098】
実際のピアノの倍音は厳密には基音の整数倍の周波数を有しておらず、多少のずれを有している。また、倍音の次数が高くなると、基音の整数倍からより高い方に周波数がずれることが知られている。また、あるべきところに倍音が存在しない場合がある。その逆に倍音が立たない場所に倍音が存在する場合がある。このように、ピアノは1台1台個性を有している。
【0099】
従来の遅延ループによる共鳴回路は、遅延時間の逆数の整数倍の周波数に正確に共鳴するため、上記ピアノの個性に対応できない。一方、本実施形態では、実際のピアノの倍音を1本1本抽出して共鳴回路を設計するので、実際のピアノ倍音を正しく再現することができる。
【0100】
上記共鳴回路では、入力された楽音に対し、それを基音としてその倍音構成となるフィルタ回路を倍音構成分だけ用意する。しかし、1つのフィルタの共振周波数は1つの倍音周波数に相当するが、倍音周波数が等しいか非常に近い倍音周波数の倍音が複数存在する場合は、1つの倍音周波数でこれら複数の倍音周波数を代表させることができる。
【0101】
例えば、ある音名の楽音基音周波数がf1Hzであるとすると、2倍音は(f1×2)Hz、3倍音は(f1×3)Hz、4倍音は(f1×4)Hzとなる。そして、この1オクターブ上の楽音の基音周波数は、(f1×2)Hz、2倍音は(f1×4)Hzとなる。さらに2オクターブ上の楽音の基本周波数は(f1×4)Hzとなる。したがって、ある音名の楽音の2倍音と1オクターブ上の基音周波数はほぼ重なる。同様に、ある音名の楽音の4倍音と1オクターブ上の2倍音と2オクターブ上の基音周波数が重なる。また、オクターブの関係にない場合でも、異なる音名の異なる次数の倍音周波数が非常に近い場合がある。
【0102】
このように、周波数がほぼ等しい倍音については、個々の周波数毎にフィルタを持たずに、1つの倍音の周波数、またはそれらの平均の周波数の共振周波数とするフィルタを1つ持てばよい。これにより共鳴回路の規模を縮小することができる。
【0103】
図12は複数の音名の楽音について、その倍音をFFT分析した結果を示す図である。図12において、上段はC2の倍音、中段はC3の倍音、下段はC4の倍音である。図中四角形の枠で囲んだ倍音の部分は、それぞれ、1つのフィルタで作ることができる。
【0104】
フィルタに入力する楽音に含まれる倍音の周波数と入力されるフィルタの共振周波数とが極めて近い場合、フィルタに入力する楽音に含まれる倍音の周波数と入力されるフィルタの共振周波数とが異なる場合に比べ、前者のフィルタから出力される共鳴音が大きくなる。つまり楽音の倍音周波数とフィルタの共振周波数が近いとフィルタ出力の振幅が大きくなりすぎる。その場合、本来得たい共鳴音らしい響きではなく、その共振周波数を持った安定した楽音のような聞こえとなってしまう。次に例を挙げる。
【0105】
図13は、C2の1倍音フィルタ、C3の1倍音フィルタ、G♯2の1倍音フィルタへ、C2の楽音をそれぞれ入力した時に各フィルタから出力される共鳴音の楽音信号を上から順に示している。この図に示したように、C2の1倍音フィルタとC3の1倍音フィルタから出力される共鳴音の楽音信号が大きい。これは、C2の楽音が、C2の1倍音とC3の1倍音の周波数に極めて近い周波数の倍音を持つためである。この場合、共鳴音はC2の楽音が鳴っているような聞こえとなってしまう。
【0106】
このような不自然さをなくすため、特定の倍音周波数に対応するフィルタの共振周波数を所定量ずらした構成とする。図13に示す共鳴音の振幅をほぼ同じ大きさに揃えるためには、フィルタの共振周波数を倍音周波数から少しずらせばよい。
【0107】
フィルタの共振周波数を倍音周波数から少しずらした結果を図14に示す。図14は、C2の1倍音から数Hzずらした共振周波数のフィルタ、C3の1倍音から数Hzずらした共振周波数のフィルタ、およびG♯2の1倍音から数Hzずらした共振周波数のフィルタへ、C2の楽音をそれぞれ入力したときの共鳴音を上から順に示した図である。この図から明らかなように、フィルタの共振周波数を少しずらすことによって、共鳴音の振幅をほぼ同じ大きさに揃えることができる。
【0108】
ピアノは、弦振動が響板等に伝わり、それが放音される。同時にその振動は、駒を通して他の弦にも伝わる。さらに他の弦に伝わった振動は、再び駒を通って元の弦に伝わる。このフィードバック回路を電子ピアノで再現するために共鳴回路にフィードバック経路を設ける。図15は、フィードバック経路を有する共鳴回路の一例を示す図である。なお、この例では、各フィルタの後段に乗算器を有する場合を示す。共鳴回路16Nの各フィルタの出力は、乗算器M11−1〜M11−nでレベル制御され、さらに、加算器AD11−2により、元の入力楽音と加算され、再度この共鳴回路16Nにフィードバックされる。
【0109】
また、共鳴回路へフィードバックする上記構成を持つと共に、そのフィードバック経路に共鳴回路の出力を所定時間遅延させる回路および/または共鳴回路の出力の振幅−周波数特性を変更する第2のフィルタを備えるようにしてもよい。
【0110】
例えば、図16に示すように、共鳴回路16Nに対するフィードバック経路に、共鳴回路16Nの出力を所定時間遅らせる遅延器D11−1及び共鳴回路16Nの出力の振幅−周波数特性を変更する第2のフィルタFlt11−1を備える。この場合、遅延回路は振動の伝播遅延を模擬し、第2のフィルタFlt11−1は駒の伝達特性を模擬する。
【0111】
本発明の実施形態を説明する。図28は、本発明の第1実施形態に係る共鳴音リアルタイム生成方式を採用した共鳴音発生装置の要部機能を示すブロック図であり、図1と同符号は同一または同等部分である。同図において、通常音発生部15と共鳴用楽音発生部51および共鳴音発生部52とが設けられる。共鳴音発生部52の出力側には共鳴用楽音レベル制御手段としての乗算器23が設けられ、乗算器23および通常音発生部15の出力側には加算器24が設けられる。
【0112】
第1の楽音成分信号として倍音成分が予め記憶された第1楽音成分信号発生部53と、第2の楽音成分信号として非周期成分が予め記憶された第2楽音成分信号発生部54とが設けられる。第1楽音成分信号発生部53および第2楽音成分信号発生部54の出力側にはそれぞれキータッチKTに応じて入力信号のレベルを制御する乗算器55,56が設けられる。乗算器55,56の出力側には加算器57が設けられ、加算器57の出力側は通常音発生部15に接続される。
【0113】
また、乗算器55,56の出力側は楽音波形選択部59を介して共鳴用楽音発生部51に接続される。
【0114】
図28の構成において、キーセンサ8aから発音指示としてのキー情報が入力されると、第1楽音成分信号発生部53から読み出されて乗算器55でレベル制御された第1の楽音成分信号と、第2楽音成分信号発生部54から読み出されて乗算器56でレベル制御された第2の楽音成分信号とが加算器57で加算合成され、通常音発生部15に入力される。通常音発生部15は入力された楽音成分信号に基づいて通常楽音信号を発生する。
【0115】
一方、第1楽音成分信号発生部53から読み出されて乗算器55でレベル制御された第1の楽音成分信号、および第2楽音成分信号発生部54から読み出されて乗算器56でレベル制御された第2の楽音成分信号が、楽音波形選択部59の切り替えに応じて共鳴用楽音発生部51に入力される。ペダル状態判定部21でペダル7の押鍵前操作と判断されたときは、第1の楽音成分信号および第2楽音成分信号の双方が共鳴用楽音発生部51に読み出され、押鍵後操作と判断されたときは、第1楽音成分信号のみが選択されて共鳴用楽音発生部51に読み出される。共鳴用楽音発生部51は、入力された楽音成分信号に基づいて共鳴用楽音信号を発生する。共鳴用楽音信号は共鳴音発生部52に供給され、共鳴音発生部52は入力された共鳴楽音信号に従って、共鳴音信号を発生する。共鳴楽音信号は乗算器23でペダル7の踏み込み量に応じてレベル制御された後、加算器24に入力され、通常楽音信号と合成して出力される。なお、通常音発生部15と共鳴用楽音発生部51とは周知の楽音発生手段からなり、共鳴音発生部52は上述の共鳴音発生回路で構成される。
【0116】
図28の構成は次のように変形することができる。図29は、共鳴音信号をリアルタイムで作成する変形例に係る電子ピアノの要部機能を示すブロック図であり、図1、図28と同符号は同一または同等部分を示す。同図において、楽音信号発生部60は、第1楽音成分信号発生部53と第2楽音成分信号発生部54を備え、第1楽音成分信号に基づいて倍音成分のみの第1楽音信号を生成すると共に、第2楽音成分信号に基づいて非周期成分のみの第2楽音信号を生成する。これらの楽音信号は単一のトーンジェネレータからなる通常楽音信号発生部63によって発生される。第1および第2楽音成分信号は、乗算器64,65で互いの振幅比率を変化させた後、加算器66で合成されて通常音信号となり、加算器24に入力される。
【0117】
一方、第1および第2楽音成分信号は、共鳴音信号発生のため、乗算器67,68にそれぞれ入力される。乗算器67,68は楽音波形選択部59の選択によって第1楽音成分信号および第2楽音成分信号の振幅比を制御する。楽音波形選択部59がペダル状態判定部21から押鍵前操作の判定結果を入力されたときは、第1および第2楽音成分信号の双方を所定の振幅に制御して加算器69に入力する。また、押鍵後操作の判定がなされた場合は、乗算器68に付与する乗算係数をゼロにして、倍音成分から生成された第1楽音成分信号のみを加算器69に入力する。
【0118】
加算器69で加算された第1楽音成分信号および第2楽音成分信号もしくは第1楽音成分信号は、共鳴音発生部52に入力される。共鳴音発生部52は共鳴音信号を生成し乗算器23に入力する。乗算器23はペダル踏み込み量に応じて共鳴音信号をレベル制御し、加算器24に入力する。加算器24では、通常音信号と共鳴音信号とが加算され、合成楽音信号として出力される。
【0119】
この実施形態では、楽音成分信号は同音名の共鳴回路群へは小さな振幅で、異音名の共鳴回路へは大きな振幅で入力することで、同音名の共鳴回路群の出力が、他の共鳴回路群の出力と比べて著しく大きくなることを防いでおり、バランスの良い共鳴音を得ることができる。
【0120】
図17は、前記楽音信号発生部60と共鳴音発生部52の詳細なブロック図である。共鳴音発生装置25は、楽音発生部26と共鳴音発生部52とを有する。楽音発生部26の、第1楽音生成部28と第2楽音生成部29は、前記第1楽音成分信号発生部53および第2楽音成分信号発生部54(図29)に相当し、それらの出力側は、楽音生成チャンネルCH1〜CHNを備えている。切替部30は、前記楽音波形選択部59(図29)に相当する。
【0121】
共鳴音発生部52の共鳴回路群の各共鳴回路は図6に関して説明した共鳴音波形生成回路と同等のデジタルフィルタを有している。
【0122】
各楽音生成チャンネルは2つに分岐されており、第1楽音生成部28から出力された楽音成分信号は、その一方が、加算器AD_3_14で加算され、前記加算器24に相当する共鳴音合成部に入力され、共鳴音発生部52の加算器AD_3_13を経由して出力される共鳴音信号と混合される。
【0123】
他方、各楽音生成チャンネルCH1〜CHNの1つ1つは、それぞれ音名に対応した数の乗算器(本実施例では電子ピアノであるからC(ド)、C#(ド#)、D(レ)、D#(レ#)、E(ミ)、F(ファ)、F#(フア#)、C(ソ)、G#(ソ#)、A(ラ)、A#(ラ#)、B(シ)の12個分)と接続され、更に各チャンネルで同じ音名のものは(同様に夫々の音名に対応する)加算器(本実施例では音名C〜Bに対応する12個)の1つに集合して接続されている。この各加算器の出力が、各音名に対応して設けられた共鳴音発生部52の各共鳴回路群(本実施例ではC〜Bの12個)に送られる。
【0124】
このような構成を採用したのは以下のような理由による。共鳴回路の共振周波数とそれに入力される楽音の周波数が近ければ、近いほどその出力波形(共鳴音)の振幅が大きくなる。このため、入力楽音の周波数と共振周波数が離れた共鳴回路の出力波形と、入力楽音の周波数と共振周波数が極めて近い共鳴回路の出力波形の音量バランスがとれなくなる。そうすると、本来得たい共鳴音らしい響きではなく、その共振周波数を持った安定した楽音のような聞こえとなってしまう。
【0125】
例えば、図18は、図17の共鳴回路群Cに、音程C3、D#3、G3の波形を入力した時の出力波形(共鳴音)である。共鳴回路群Cの共鳴音はC3が著しく大きい。このままでは、C3、G3の響きが大きすぎて、ピアノのペダル7の操作時のような響きは得られない。
【0126】
そこで、楽音を、その周波数と共振周波数が極めて近い周波数の共鳴回路へ入力する時は、楽音の振幅を他の共鳴回路へ入力するときと比べて、小さくする必要がある。
【0127】
図18の出力波形の例によれば、共鳴回路群Cへ入力する時は、C3の波形のみ振幅を小さくすると、その共鳴音は図19に示すように、どの音程の共鳴音もほぼ同じような振幅になる。これによって、ペダル7の操作時の響きを得ることができる。
【0128】
すなわち、楽音発生部26の各チャンネルの乗算器以下の構成は、元々後段の共鳴音発生部52側のために引き出されたものであり、共鳴回路群で共鳴音を作り出す際に、入力楽音の周波数と共振周波数が極めて近い共鳴回路の出力波形の音量バランスがとれなくなるような元となる楽音の振幅を、各楽音生成チャンネルCH1〜CHNのそれぞれの音名に対応したC〜Bの12個の乗算器のうち、入力楽音の周波数と共振周波数が極めて近い楽音が入力される乗算器を使用して、他の共鳴回路へ入力する時と比べて小さくするものである。
【0129】
楽音発生部26の楽音生成チャンネルCH1〜CHNは、発音する楽音数分使用される。例えば、楽音C1だけ発音する場合は、チャンネルCH1からのみ楽音C1が出力される。楽音C1とE1とG1を発生する場合は、C1をチャンネルCH1から、E2をチャンネルCH2から、G1をチャンネルCH3から出力させる。
【0130】
乗算器M3_1_C〜M3_1_Bは、本実施例では、音名に対応した12個が一組となり、楽音生成チャンネル毎に1組ずつ装備されている。したがって、乗算器の総数は、N(楽音生成チャンネル数)×12(全音名数)となる。
【0131】
1つのチャンネル出力は、音名に対応したM3_x_C、M3_x_C♯、……、M3_x_B(xは楽音生成チャンネルの番号、末尾のアルファベットは共鳴回路に対応する音名を示す)の12個の乗算器に入力される。各乗算器により、共鳴回路C〜Bへの楽音の振幅が制御される。この乗算器による振幅制御については後述する。
【0132】
例えば、楽音生成チャンネルCH1から発音があった場合、M3_1_C〜M3_1_Bの12個の乗算器全てに楽音生成チャンネルCH1からの楽音が入力される。
【0133】
また、加算器AD_3_C、AD_3_C♯、AD_3_D、……、AD_3_Bは、音名に対応して、12個備えられている。音名に対応した前記乗算器は、同様に音名に対応した加算器にそれぞれ接続される。これは同様に音名に対応して設けられた共鳴回路に、同じ音名に対応した複数の乗算器の出力を加算し、対応する共鳴回路群へ出力するからである。すなわち、振幅制御された(乗算器を通った)各楽音生成チャンネルの出力を、共鳴回路毎に加算するものである。例えば乗算器、M3_1_C、M3_2_C、……M3_N_Cは、同じ音名(C)の加算器AD_3_Cへ接続され、乗算器M3_1_C♯、M3_2_C#、……、M3_N_C#は、同じ音名(C#)の加算器AD_3_C#へ接続される。
【0134】
さらに共鳴回路群は、それぞれ音名(本実施例ではC(ド)、C#(ド#)、D(レ)、D#(レ#)、E(ミ)、F(フア)、F#(フア#)、G(ソ〉、C#(ソ#)、A(ラ)、A#(ラ#)、B(シ)の12個分)に対応して設けられている(C、C#、……、B)。
【0135】
そして、1つの共鳴回路群は、その音名の全倍音に対応した共鳴回路で構成される。例えば、共鳴回路群Cは、楽音C1の全倍音、C2の全倍音、C3の全倍音、……及びC8の全倍音に対応した共鳴回路で構成される。あるいは、ダンバーが装備された音域である楽音C1の全倍音、C2の全倍音、C3の全倍音、……及びC6の全倍音に対応した共鳴回路で構成してもよい。
【0136】
例えば、図20に示した共鳴音発生回路のように、1つのフィルタとそれに接続される乗算器M4−A0−1は1組で、1つの音名(鍵)の楽音の、1つの倍音の周波数に相当する共振周波数を持つ共鳴回路となっている。この実施例ではフィルタfilterA0−1と乗算器M4−A0−1は、音名A0の1倍音の周波数に相当する共振周波数を持つ共鳴回路であり、同様にフィルタfilterA0−2と乗算器M4−A0−2は、音名A0の2倍音に相当し、フィルタfilterA0−N1と乗算器M4−A0−N1は、A0の最高次倍音に相当する共振周波数を持つ共鳴回路である。同様に、フィルタfilterA1−1と乗算器M4−A1−1、フィルタfilterA1−2と乗算器M4−A1−2、フィルタfilterA1−N2と乗算器M4−A1−N2は、それぞれ音名A1の1倍音、2倍音、最高次倍音に相当する共振周波数を持つ共鳴回路である。
【0137】
またフィルタfilterA7、……についても同様である。本実施例ではA0、A1、A2、……、A7の8音程における全倍音に相当する共鳴回路を並列に結合している。そして、各共鳴回路の乗算器MA−A0−1〜M4−A0−N7の乗算係数を任意に設定することにより、共鳴音の音色を自由に設定することが可能である。装備された音域であるA0、A1、A2、……、A5の6音程における全倍音に相当する共鳴回路を並列に結合してもよい。
【0138】
さらに、全ての共鳴回路の出力を加算する加算器AD4−1により、1つの楽音に対する共鳴音の出力が1つになる。
【0139】
図20において、入力信号は、通常音の波形データおよび通常音から押鍵時の衝撃音である非周期成分を除いた倍音成分のみの波形データのうち、ペダルセンサ7aとキースイッチ8aのオンタイミングにより、いずれか一方が選択されるのは、第1実施形態(図1,図6)と同様である。
【0140】
次に、上記構成における、信号の流れを説明する。まず、楽音生成チャンネルから単音だけが生成される場合について説明する。ここで、鍵盤の音名C1の鍵を押した場合を想定する。楽音生成部28の楽音生成チャンネルCH1から楽音信号C1が出力される。楽音信号C1は、昔名Cに対応する乗算器M3_1_Cを通って、音名Cに対応する加算器AD_3_Cへ出力される。また、楽音信号C1は、音名C#に対応する乗算器M3_1_C♯を通って、音名C#に対応する加算器AD_3_C#へも出力される。
【0141】
同様に楽音信号C1は、他のD〜Bの10音名に対応する乗算器M3_1_D〜M3_1_Bを通って、D〜Bの10音名に対応する加算器AD_3_D〜AD_3_Bへも入力される。
【0142】
この時、入力された楽音信号がC1なので、乗算器M3_1_Cの乗算係数のみ、他の乗算器M3_1_D〜M3_1_Bより小さい係数がセットされる。他の乗算器M3_1_D〜M3_1_Bにはそれぞれ同じ乗算係数がセットされる(例えば他の乗算器が「1」で、乗算器M3_1_Cの乗算係数のみを「0.1」とするなど)。したがって、乗算器M3_1_Cを通った楽音の振幅のみが小さくなる。
【0143】
各加算器は、入力された振幅制御後の楽音信号C1を、加算器と同じ音名に対応した共鳴回路群に出力する。すなわち、加算器AD_3_C〜AD_3_Bは、それぞれ共鳴回路群C〜共鳴回路群Dへ楽音信号C1を出力する。
【0144】
続いて、楽音生成チャンネルから複数音が生成される場合について説明する。ここで、鍵盤8の音名C1の鍵と音名E1の鍵が押された場合を想定する。楽音生成部28のチャンネルCH1から楽音信号C1が、チャンネルCH2から楽音信号E1が出力される。
【0145】
楽音信号C1は音名Cに対応する乗算器M3_1_Cを通って、音名Cに対応する加算器AD_3_Cへ出力される。また楽音信号C1は音名C#に対応する乗算器M3_1_C#を通って、音名C#に対応する加算器AD_3_C#へ出力される。同様に、楽音信号C1は他のD〜Bの10音名に対応する乗算器M3_1_D〜M3_1_Bを通って、D〜Bの10音名に対応する加算器AD_3_D〜AD_3_Bへ入力される。
【0146】
この時、入力楽音信号がC1なので、乗算器M3_1_Cの乗算係数のみ、他の乗算器M3_1_D〜M3_1_Bより小さい係数がセットされる。他の乗算器M3_1_D〜M3_1_Bには同じ乗算係数がセットされる。したがって、乗算器M3_1_Cを通った楽音の振幅のみが小さくなる。
【0147】
同様に、楽音信号E1は、音名Cに対応する乗算器M3_2_Cを通って、音名Cに対応する加算器AD_3_Cへ出力される。また楽音信号E1は、音名C#に対応する乗算器M3_2_D♯を通って、音名C#に対応する加算器AD_3_C#へ出力される。同様に、楽音信号E1は、他のD〜Bの10音名に対応する乗算器M3_1_D〜M3_1_Bを通って、D〜Bの10音名に対応する加算器AD_3_D〜AD_3_Bへ入力される。
【0148】
この時、入力楽音信号がE1なので、乗算器M3_2_Eの乗算係数のみ他の乗算器M3_2_C〜M3_2_D#、M3_2_F〜M3_2_Bより小さい係数がセットされる。他の乗算器M3_2_C〜M3_2_D#、M3_2_F〜M3_2_Bは同じ係数がセットされる。したがって、乗算器M3_2_Eを通った楽音の振幅のみが小さくなる。
【0149】
各加算器AD_3_C〜AD_3_Bは、振幅制御された(乗算器を通った)楽音信号C1と振幅制御された楽音信号E1を加算し、それぞれ、対応する共鳴回路群C〜Bへ出力する。
【0150】
共鳴回路に入力する楽音に含まれる倍音の周波数と入力される共鳴回路の共振周波数が極めて近い場合、それら周波数が異なる場合に比べて、共鳴回路から出力される共鳴音は極めて大きくなる場合があり、入力楽音の周波数と共振周波数が離れた共鳴回路の出力波形と、入力楽音の周波数と共振周波数が極めて近い共鳴回路の出力波形との音量バランスがとれなくなり、本来得たい共鳴音らしい響きではなくなってしまう。
【0151】
しかし、本実施形態では、楽音信号を、その周波数と共振周波数が極めて近い周波数の共鳴回路へ入力する場合は、その楽音信号の振幅を他の共鳴回路へ入力する場合と比べて小さくしている。したがって、共鳴回路群Cへ楽音信号を入力する時は、C3の波形のみ振幅が小さくされる。このために、その共鳴音は、図19のように、どの音程の共鳴音もほぼ同じような振幅になる。これによって、本実施形態の電子ピアノでは、アコースティックピアノでダンパペダルを操作した時の響きを得ることができる。
【0152】
本発明の実施形態における電子ピアノの動作処理フローを説明する。ただし、メイン処理フローおよびペダル処理フローは第1実施形態の処理と同様であるので、これらの説明は省略する。図21は、本発明の実施形態の電子ピアノにおける鍵盤処理を示すフローチャートである。
【0153】
図21において、ステップS400では、鍵盤8の操作状況がスキャンされる。ステップS402では、鍵盤8の操作状況に変化があるか否かがチェックされる。
鍵盤8の操作状況に変化がなければ、鍵盤処理を終了してメインフローのペダル処理へ移行する。鍵盤8の操作状況に変化があれば、ステップS404に進んで、その変化のあった操作が押鍵か否かがチェックされる。
【0154】
ステップS404で押鍵でないと判断されれば、ステップS408に進み、楽音発生部26へ楽音制御情報が書き込まれると共に、発音停止の指示が出力され、次のステップS416へ移行する。ステップS404で押鍵と判断されれば、ステップS406に進んで楽音生成チャンネルが指定される。続くステップS410では楽音発生部26へ楽音制御情報が書き込まれる。
【0155】
ステップS412では、楽音発生部26の、指定された楽音生成チャンネルに接続された乗算器に、発音する音名に応じた乗算係数が書き込まれる。その後、ステップS414では、発音開始の指示が出力される。
【0156】
最後に、ステップS416で、操作状況が変化した全ての鍵盤の処理が終了したか否かがチェックされる。
【0157】
操作状況が変化した全ての鍵盤の処理が終了していなければ、ステップS416からステップS404に復帰する。他方、ステップS416で操作状況が変化した全ての鍵盤の処理が終了したと判断されれば、鍵盤処理が終了してメインフローのペダル処理へ移行する。
【0158】
本実施形態では、第1楽音生成部28により楽音を発生させると共に、第1楽音生成部28または第2楽音生成部29から出力される楽音の各音名(ピアノなどの一般的な楽器ではC、C#、D、……B)に対応した複数系列(ピアノなどの一般的な楽器では12系列)の共鳴回路群C〜Bで構成された共鳴音発生部52に楽音信号を入力することで共鳴音を得ている。
【0159】
本実施形態では、発生した楽音信号は同じ音名の共鳴回路群へは(その周波数と共振周波数が極めて近い周波数の共鳴回路へ入力する時)小さな振幅で(上述の例によれば、共鳴回路群Cへ入力する時は、C3の波形のみ振幅を小さくすると、その共鳴音は図19のように、どの音程の共鳴音もほぼ同じような振幅になる。異なる音名の共鳴回路へは大きな振幅で入力するようにしているため、同音名の共鳴回路畔の出力が、他の共鳴回路群の出力と比べて著しく大きくなることを防いでおり、バランスの良い共鳴音を得るようにしている。これによって、ペダル7の操作時の響きを得ることができる。
【0160】
本実施形態においては、図12で説明したように、周波数が略等しい倍音については、個別に共鳴回路を持たずに、1つの倍音の周波数、またはそれらの平均の周波数を共振周波数とする共鳴回路を1つ持つようにしてもよい。
【0161】
また、本実施形態においては、図15に関して説明したように、共鳴音発生部52の出力を所定倍して、入力楽音と加算し、再度この共鳴音発生部52にフィードバックして入力する構成としたり、図17に関して説明したように、図15のような構成を有すると共に、そのフィードバック経路に、共鳴音発生部52の出力を所定時間遅らせる遅延器D11−1及び共鳴音発生部27の出力の振幅−周波数特性を変更するフィルタFilt11−1を備えるようにしたりしてもよい。
【0162】
次に本発明の第2実施形態を説明する。第2実施形態では、第1実施形態の共鳴音発生部で作成された共鳴音信号を、予め押鍵前操作および押鍵後操作に対応してそれぞれ共鳴音波形記憶手段に記憶しておく。そして、演奏(操作子の操作情報)に応じてその波形を読み出すことで、ペダル7を踏みながら演奏した時の響きを再現する。
【0163】
図22は第2実施形態に係る共鳴音発生装置の要部機能を示すブロック図である。共鳴音発生装置は、通常音発生部34、第1共鳴音発生部35、および第2共鳴音発生部36を有する。通常音発生部34は通常音信号を、第1共鳴音発生部35は第1の共鳴音信号を、第2共鳴音発生部36は、第2の共鳴音信号をそれぞれ個別に発生し、これら楽音対応の乗算器M1−1、M1−2、M1−3でそれぞれ乗算係数を乗算した後、加算器A1で加算され、サウンドシステム13へ出力される。つまり、乗算器M1−1,M1−2,M1−3は入力された楽音の振幅に予定の乗算係数を掛け、加算器A1は、それぞれ所定倍された共鳴音と楽音を加算し、合成する。
【0164】
第1の共鳴音信号はスイッチ37を、第2の共鳴音信号はスイッチ38を介して、これらスイッチがそれぞれオンのときに乗算器M1−2またはM1−3に入力される。スイッチ37,38は、ペダル状態判定部39によるキースイッチ8aとペダルセンサ7aの状態に基づく判定信号によってオンにされる。ペダル状態判定部39が押鍵前操作を検出すればスイッチ37をオンにし、押鍵後操作を検出したときはスイッチ38をオンにする。スイッチ37,38は、ペダルセンサ7aがオフに切り替わればオフに切り替わる。つまり、ペダル状態判定部39は、図1のペダル状態判定部21と同様に動作する。
【0165】
第1の共鳴音信号は通常音に基づく共鳴音の楽音信号であり、第2の共鳴音は通常音から押鍵時の衝撃音である非周期成分を除いた倍音成分のみの楽音情報(波形データ)に基づく共鳴音の楽音信号である。
【0166】
乗算器M1−1、M1−2、M1−3、および加算器A1によって共鳴音混合部40を構成する。共鳴音混合部37は、デジタルシグナルプロセッサによって構成されることができる。第1共鳴音発生部35、第2共鳴音発生部36は、後述の共鳴音演算装置41によって作成された共鳴音波形を記憶した波形メモリからの波形読み出しによって行われる。
【0167】
通常音発生部34の構成は、上述の他の実施形態の構成と同様であるので、ここではその説明を省略する。
【0168】
第1共鳴音発生部35と第2共鳴音発生部36とは、読み出し方式の楽音発生装置と共鳴音波形を記憶した波形メモリによって構成される。通常音発生部34と第1共鳴音発生部35および第2共鳴音発生部36とは同一の楽音発生装置で構成してもよいし、それぞれ個別に楽音発生装置を有していてもよい。
【0169】
乗算器M1−1、M1−2、M1−3の乗算係数は楽音制御情報のペダル7の踏み込み量に応じて決定される。
【0170】
上述のように、第1および第2共鳴音発生部35,36は、読み出し方式の音源と共鳴音波形を記憶した波形メモリによって構成されている。電子ピアノ本体としては、共鳴音波形を作り出すわけではなく、電子ピアノとは別構成の共鳴音演算装置により共鳴音波形が予め作成され、共鳴音波形記憶手段としての波形メモリに記憶されて使用される。
【0171】
共鳴音演算装置は、電子ピアノとは別体である信号処理装置と、該信号処理装置の信号処理手続を記述したプログラムとによって実現される。信号処理装置は図20に関して説明した構成と同様に構成することができる。
【0172】
図22において、通常音の楽音信号を入力信号としたときの出力信号(波形データ)を第1共鳴音発生部35の波形メモリに記憶させる。一方、通常音から押鍵時の衝撃音である非周期成分を除いた倍音成分のみの波形データを入力信号として図20の信号処理装置で作成した波形データを第2の共鳴音を発生する第2共鳴音発生部36の波形メモリに記憶させる。波形データは音名毎に図20の信号処理装置で作成される。
【0173】
この第2実施形態で使用される共鳴演算装置は、共鳴音波形記憶手段に共鳴音波形を記憶させる場合に必要とされるものであり、一旦記憶させてしまうと、電子楽器としては新たな共鳴音を記憶させる場合を除き使用する必要はない。
【0174】
なお、図20における各乗算器M4−A0−1〜M4−A7−N7の乗算係数は、楽音によって変更される。
【0175】
この時、入力する楽音に含まれる倍音の周波数と等しい共振周波数の共鳴回路の出力波形の振幅を、それ以外の共鳴回路の出力波形の振幅より小さくすると良い。すなわち、各フィルタは入力される楽音の倍音と略等しい共振周波数を持つ共鳴回路である。従って、その共振周波数と等しい周波数の倍音が入力されると、その共鳴回路の出力は、他の共鳴回路出力に比べ振幅が非常に大きくなる。
【0176】
入力される楽音に含まれる倍音の周波数と同じ共振周波数を持つ共鳴回路の振幅が、他の共鳴回路に比べて非常に大きくなるのを抑制するためである。
【0177】
従って、入力する楽音に含まれる倍音の周波数と等しい共振周波数の共鳴回路の乗算器の乗算係数は、他の共鳴回路の乗算器の乗算係数に比べ小さくすることが必要である。
【0178】
例えば図23の波形aは、F6の楽音を、C6に含まれる倍音の共振周波数を持った複数の共鳴回路に入力した時の出力の合計である。同様に波形bは、F6の楽音を、D♯6に含まれる倍音の共振周波数を持った複数の共鳴回路に入力した時の出力の合計である。同様に波形Cは、F6の楽音を、F6に含まれる倍音の共振周波数を持った複数の共鳴回路に入力したときの出力の合計である。
【0179】
この時の共鳴回路のレベル(フィルタFA0−1〜F7−N7の直後の乗算器の乗算係数)は、全て「1」である。この時、波形a,bに比べて、波形cの振幅が非常に大きい。したがって、これらの共鳴音を加算しても、共鳴音とは異なるF6の楽音のような聞こえとなる。
【0180】
図24は、C6の共鳴回路とD♯6の共鳴回路の出力レベルは「1」で、F6の共鳴回路の出力レベル(図20の乗算器M3−F6−1〜M3−F6−N69)を「0.1」とした場合の出力波形を示す図である。このような出力レベルにするとF6の共鳴回路出力も、他の共鳴回路出力とほぼ同様の振幅となる。
【0181】
これらの共鳴音を加算すれば、ペダル7を踏みながら演奏した時の響きが得られる(ここでは説明の簡単のため3音としたが、実際は全ての共鳴回路の出力を加算する)。
【0182】
第3実施形態では、上述のように、図22の共鳴回路は、第1共鳴音発生部35、第2共鳴音発生部36にそれぞれ記憶される共鳴音を作成するために使用される。
【0183】
このような構成からなる共鳴音演算装置で算出された共鳴音波形は、共鳴音用波形メモリに記憶させるために、該共鳴音演算装置は電子ピアノの製造段階で使用されるだけであって、電子ピアノには通常含まれない。しかし、電子ピアノに備えて新たな共鳴音を作り、第1共鳴音発生部35や第2共鳴音発生部36の波形メモリに記憶させるようにしてあってもよい。
【0184】
上記共鳴音演算装置によって作成された共鳴音を波形メモリに記憶した本実施形態に係る電子ピアノを使用して演奏する場合の流れを説明する。
【0185】
まず、鍵盤8を押鍵すると、その鍵盤に対応した音高、押鍵速度に対応した強さ(べロシティ)などの楽音制御情報が作成され、通常音発生部34に送られる。また複数の鍵盤を押鍵すると、それらに対応した複数の音高、強さなどの楽音制御情報が作成され、通常音発生部34に送られる。
【0186】
通常音発生部34は、その楽音情報に応じた楽音を読み出し、共鳴音混合部40へ送出する。複数の楽音が発生した場合は、それらの楽音が加算され、共鳴音混合部40に送られる。例えば、C3とG3の鍵が強く操作された場合、C3の強打に応じた楽音波形と、G3の強打に応じた楽音波形が波形メモリから読み出され、それらを加算した波形を楽音として、共鳴音混合部40に送出する。
【0187】
また、キー情報は、押鍵検出と同時に第1共鳴音発生部35と第2共鳴音発生部36へも送られる。第1共鳴音発生部35は、操作された鍵盤の音高と操作強さに応じた共鳴音波形を、共鳴音波形を記憶した波形メモリからそれぞれ読み出し、それらを加算する。同様に、第2共鳴音発生部36も、操作された鍵盤の音高と操作強さに応じた共鳴音波形を、共鳴音波形を記憶した波形メモリからそれぞれ読み出し、それらを加算する。加算された波形データのうち、スイッチ37,38のうち、ペダル状態判定部39による判定結果によってオンとなっている側と接続されている共鳴音発生部から出力されたものが共鳴音混合部40へ入力される。
【0188】
例えば、C3とG3の鍵盤が強く操作された場合、C3の強打に応じた共鳴音波形と、G3の強打に応じた共鳴音波形が、波形メモリから読み出され、それらを加算した波形が、楽音として共鳴音混合手段40に送出される。
【0189】
この場合、ペダル7が操作されていなくても、共鳴音波形の読み出しは行なわれる。このような通常音発生および共鳴音発生はいずれも、鍵盤操作の強さに応じて波形を選択せず、読み出し時の振幅を変更してもよい。またエンベロープを変更してもよい。
【0190】
また共鳴音混合部40は、乗算器M1−2,M1−3で所定倍した共鳴音と、乗算器M1−1で所定倍した楽音を、加算器A1で加算し、サウンドシステムへ出力する。この時乗算器M1−2、M1−3の乗算係数はペダル7の踏み込み量を検知して、その操作がなされる度に、乗算器M1−2,M1−3の乗算係数の値を変更する。踏み込み量が大きいほど乗算係数は大きく、また踏み込み量が小さいほど乗算係数は小さくなる(共鳴音の読み出しは、ペダル7の操作にかかわらず行なわれる。ペダル7の操作で変化するのは、共鳴音混合部40の乗算器M1−1〜M1−3のうち、乗算器M1−2,M1−3の乗算係数のみである。ペダル7が操作されない状態では、乗算器M1−2、M1−3の乗算係数は「0」なので、共鳴音の振幅は「0」となり、見かけ上共鳴音が発生していないことになる)。
【0191】
さらに、踏み込み量が無い状態から所定の踏み込み量までは、乗算係数は「0」で、所定の踏み込み量を超えると、ある一定の値をとるようにしてもよい。
【0192】
ここで、本実施例における電子ピアノの動作処理フローを説明する。ただし、メイン処理フローは図3と、さらにペダル処理フローは図5と同様であるので、これらの説明は省略する。
【0193】
図25は、第2実施形態に係る電子ピアノの鍵盤処理フローチャートである。図25のステップS500では、鍵盤8の操作状況がスキャンされる。ステップS502では、鍵盤8の操作状況に変化があるか否かが判断される。ステップS502で鍵盤8の操作状況に変化がないと判断されれば、鍵盤処理を終了し、メインフローのペダル処理へ移行する。
【0194】
一方、ステップS502で鍵盤8の操作状況に変化があったと判断されれば、ステップS504に進んで、その変化のあった操作が押鍵か否かが判断される。
【0195】
押鍵と判断されれば、ステップS506に進んで、通常音発生部34へ楽音制御情報が書き込まれると共に、発音開始の指示が出力される。さらに、ステップS508で第1共鳴音発生部35へ楽音制御情報が書き込まれると共に、発音開始の指示が出力される。また、ステップS509で第2共鳴音発生部36へ楽音制御情報が書き込まれると共に、発音開始の指示が出力される。
【0196】
押鍵でないと判断されれば、ステップS510に進んで、通常音発生部34へ楽音制御情報が書き込まれると共に、発音停止の指示が出力される。さらに、ステップS512では第1共鳴音発生部35へ楽音制御情報が書き込まれると共に、発音停止の指示が出力される。また、ステップS513では第2共鳴音発生部36へ楽音制御情報が書き込まれると共に、発音停止の指示が出力される。
【0197】
最後に、ステップS514では、操作状況が変化した全ての鍵盤の処理が終了したか否かがチェックされる。操作状況が変化した全ての鍵盤の処理が終了していなければ、ステップS514は否定となり、ステップS504に戻る。操作状況が変化した全ての鍵盤の処理が終了していれば、ステップS514は肯定となり、鍵盤処理が終了し、メインフローのペダル処理へ移行する。
【0198】
本実施形態では、楽音制御情報つまりキー情報を受け取った通常音発生部34により楽音が発生されていると共に、該楽音制御情報を受け取った第1および第2共鳴音発生部35,36のいずれかより共鳴音が発生される。
【0199】
この共鳴音に関しては、予め共鳴音演算装置により、演奏の予定される楽音に対応する共鳴音波形が、ペダル7の押鍵前操作および押鍵後操作用にそれぞれ作成され、波形メモリに記憶されている。該波形メモリは、その生産段階で、第1共鳴音発生部35および第2共鳴音発生部36に対応して電子ピアノに装備される。
【0200】
共鳴音演算装置は、電子ピアノに装備してあってもよい。それにより、電子ピアノ上で新たな共鳴音を作ることが可能となる。
【0201】
第2実施形態においても、図15で説明したように、第1共鳴音発生部35および第2共鳴音発生部36の出力を所定倍して、入力楽音に加算し、再度、それぞれの共鳴音発生部にフィードバックして入力する構成とすることができるし、図16で説明したように、図15のような構成を有すると共に、そのフィードバック経路に、第1共鳴発生部35および第2共鳴音発生部36のそれぞれの出力を所定時間遅らせる遅延器D11−1及び第1共鳴音発生部35および第2共鳴音発生部36の出力の振幅−周波数特性を変更するフィルタFlt11−1を備えるようにしてもよい。
【0202】
続いて、上述の実施形態の変形例を説明する。上述の実施形態では、ペダル7を押鍵後操作または押鍵前操作した場合の共鳴音のうち一方を、ペダル7と鍵盤8上の各鍵のオンタイミングから選択する点に特徴がある。このような選択による共鳴音の発生手法は、特に押鍵時の衝撃音が強いピアノの中高音域で有効である。
【0203】
アコースティックピアノの鍵盤の低音域では、押鍵時の衝撃音が中高音域と比べて小さいために、あまり目立たず、押鍵の衝撃音による共鳴音も小さい。したがって、低音域では、押鍵前操作と押鍵後操作とによって、発生させる共鳴音を異ならせなくてもよい。つまり、低音域では、押鍵後操作時の共鳴音を発生させるため共鳴回路に入力される波形データは押鍵前操作用の波形データを共用できる。これにより、波形メモリの容量を節約することができる。
【0204】
また、波形メモリに記憶させる共鳴音発生用の波形データをペダル7の押鍵前操作用と押鍵後操作用とで共用することもできる。例えば、図22の第1共鳴音発生部35と第2共鳴音発生部36の波形メモリを共用する。つまり、この共用の波形メモリに通常の共鳴音、つまり押鍵時の衝撃音および該衝撃音による共鳴音をも含む共鳴音の波形データを記憶しておく。ペダル7が押鍵前操作されている場合は、その波形データをそのまま読み出して共鳴音を発生させる。一方、ペダル7が押鍵後操作された場合は、この波形データを途中から読み出して共鳴音を発生させる。
【0205】
図26は、変形例に係る波形データの一例を示す図である。波形データは押鍵時の直接音に共鳴して立ち上がり、徐々に減衰していく。押鍵時t0から時間が経過して、例えば、時点t1でペダル7が操作されたときには、その時点t1から、振幅が小さくなっている波形データの読み出しを開始して共鳴音を発生させる。
【0206】
共鳴音の波形データの先頭には、倍音成分と衝撃音成分との双方による共鳴音が含まれるが、衝撃音成分の共鳴音は倍音成分より早く減衰しているので、この減衰後の共鳴音は倍音成分のみによるものとなる。そこで、押鍵後操作の場合は、衝撃音成分が減衰したところから読み出しを開始することにより、倍音成分のみによる共鳴音を発生させることができる。
【0207】
したがって、図26の時間(t1−t0)が予め設定した衝撃音の減衰時間以上であれば、ペダル7の操作に応答して共鳴音を発生する。また、時間(t1−t0)が予め設定した衝撃音の減衰時間以内であれば、ペダル7の操作から遅延した時間後に共鳴音を発生するようにする。
【0208】
なお、波形データの読み出し開始をすると、急に大きい振幅の波形データが読み出されて、不連続点を読み出すことになってノイズが発生する。そこで、このノイズを抑えるために、読み出した波形データに立ち上がりの緩やかなエンベロープを付与する。これによって、ノイズを抑えることができるだけでなく、共鳴音の自然な立ち上がり感をも再現することができる。
【0209】
これにより、波形メモリに記憶する共鳴音は通常の共鳴音の波形データのみでよくなるので、波形メモリを節約することができる。
【0210】
次に、上記実施形態の変形例を説明する。グランドピアノでダンパーペダルを操作した場合、通常音のレベルが低下することが知られる。共鳴によるエネルギの分散によるものと考えられる。そこで、ペダル7を操作したときに通常音のレベルを低下させてグランドピアノのダンパーペダル操作時の楽音を模擬する。
【0211】
図27は、変形例に係る共鳴音発生装置の機能ブロック図であり、図1と同符号は同一または同等部分を示す。この共鳴音発生装置では、2種類のレベル制御部(第1レベル制御部22および第2レベル制御部22A)とペダルの操作量検出部22Bとを設けた。第2のレベル制御部22Aは、通常音発生部15と加算器24との間に設ける第2の乗算器23Aに乗算係数を供給する。
【0212】
レベル制御部22はペダル7の操作量つまりペダルセンサ7aの出力の大きさに応じて乗算器23に乗算係数P1を供給する。乗算係数P1はペダルセンサ7aの出力が大きい場合に大きい値とし、ペダルセンサ7aの出力が小さい場合は小さい値とする。
【0213】
これに対して、第2レベル制御部22Aはペダル7の操作量つまりペダルセンサ7aの出力の大きさに応じて、ペダルセンサ7aの出力が大きい場合に小さい乗算係数P2を出力し、ペダルセンサ7aの出力が小さい場合は大きい乗算係数P2を出力する。
【0214】
乗算係数P1は「0」から「1.0」の範囲で変化させるようにするが、乗算係数P2は、例えば、「0.9」から「1.0」の範囲で変化させるようにする。通常音が大きく減衰することはないからである。
【0215】
なお、上記各実施形態では共鳴音発生装置を適用した電子楽器の例として電子ピアノを挙げて説明しているが、本発明は電子ピアノにのみ限定されるものではなく、他の楽器でも、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、同様な構成を取ることは可能である。
【0216】
また、本発明の共鳴音発生装置は、楽器を演奏した時の共鳴音を楽音の発生と同時に発音できる構成の他、楽器ではなく、特定の音響効果の得られる音響効果室などで、任意の音を発生させた際又は空気振動を起こさせて、その共鳴音を得ようとする場合にも適用できる。
【符号の説明】
【0217】
1…CPU、 7…ダンパーペダル、 7a…ペダルセンサ、 8…鍵盤、 8a…キーススイッチ、 10…波形メモリ、 11…デジタルフィルタ、 15…通常音発生部、 18…第2波形記憶部、 19…第3波形記憶部、 20…切替部、 21…ペダル状態判定部、 22…レベル制御部、 24…加算器、 52…共鳴音発生部、 53…第1楽音成分信号発生部、 54…第2楽音成分信号発生部、 59…楽音波形選択部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
発音指示に応答して第1の楽音成分信号を発生する第1楽音成分信号発生手段と、
発音指示に応答して第2の楽音成分信号を発生する第2楽音成分信号発生手段と、
前記第1の楽音成分信号と第2の楽音成分信号とを加算して通常音信号を生成する通常音信号混合手段と、
前記第1の楽音成分信号および第2の楽音成分信号のレベルを発音指示時のダンパー操作子の操作状態に応じてそれぞれ制御する共鳴用楽音レベル制御手段と、
前記共鳴用楽音レベル制御手段でレベル制御された前記第1の楽音成分信号および第2の楽音成分信号に基づいて共鳴音信号を発生する共鳴音発生手段と、
前記共鳴音信号のレベルを前記ダンパー操作子の操作量に応じて制御する共鳴音レベル制御手段と、
前記通常音信号、および前記レベル制御された共鳴音信号を加算する共鳴音信号混合手段とを具備したことを特徴とする共鳴音発生装置。
【請求項2】
前記第1の楽音成分信号は倍音成分からなり、前記第2の楽音成分信号は非周期成分からなることを特徴とする請求項1記載の共鳴音発生装置。
【請求項3】
前記第1の楽音成分信号は非周期成分および倍音成分からなり、前記第2の楽音成分信号は前記第1の楽音成分から非周期成分を除いた倍音成分からなることを特徴とする請求項1記載の共鳴音発生装置。
【請求項4】
前記共鳴音発生手段が、複数の共鳴回路群と、各共鳴回路群に対応した複数の入力系列とで構成され、前記各共鳴回路群の共鳴音出力を加算して出力する加算器とからなることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の共鳴音発生装置。
【請求項5】
前記第1楽音成分信号発生手段および第2楽音成分信号発生手段は、複数のチャンネルを有し、
前記チャンネル毎に全音名数分設けられ、発音指示に含まれる楽音制御情報に基づいて楽音の振幅を調整する乗算器であって、少なくとも発生された前記第1の楽音成分信号および第2の楽音成分信号と同じ音名の乗算器には他と異なる乗算係数を乗算される乗算器とを備え、
前記加算器が、前記乗算器のうち同じ音名に対応するチャンネル毎の乗算器から出力されてきた信号同士を加算するとともに、前記各加算器の出力が前記共鳴音レベル制御手段に入力されるように構成されたことを特徴とする請求項4記載の共鳴音発生装置。
【請求項6】
前記共鳴回路群を形成する共鳴回路が、楽音の倍音周波数を共振周波数としており、かつ倍音数分だけ複数並列に接続されていることを特徴とする請求項4または5記載の共鳴音発生装置。
【請求項7】
前記共鳴回路はデジタルフィルタを有しており、そのインパルス応答が、倍音の振動波形を1自由度粘性減衰系モデルで模擬したものであり、
前記デジタルフィルタで使用されるフィルタ係数が、
1自由度粘性減衰系モデルの振る舞いを決めるためのモデルパラメータとして質量、減衰固有振動数、および減衰率を与えて、該モデルの運動方程式の係数となる粘性係数と剛性係数を求め、
前記モデルの運動方程式をラプラス変換し、s表現の伝達関数式を得ると共に、これに求めた粘性係数、剛性係数及び質量を代入し、双一次変換を行って、z表現のフィルタ係数を求め、
前記質量は任意の値とし、前記減衰固有振動数は模擬しようとする倍音の振動数であり、前記減衰率は倍音の減衰を指数関数で近似したときの指数として、その値を求めることによって決定されることを特徴とする請求項6記載の共鳴音発生装置。
【請求項8】
前記共鳴回路のデジタルフィルタにそれぞれ直列に接続された乗算器を備え、
該乗算器では、該デジタルフィルタで模擬しようとする倍音を含む楽音の、各倍音の振幅比を所定倍するものであることを特徴とする請求項7記載の共鳴音発生装置。
【請求項9】
前記第1楽音成分信号発生手段および第2楽音成分信号発生手段が、記憶された楽音波形を使用して楽音発生するものであり、
模擬しようとする倍音は、記憶された楽音波形より抽出された倍音であることを特徴とする7または8記載の共鳴音発生装置。
【請求項10】
前記第1楽音成分信号発生手段および第2楽音成分信号発生手段が、楽音合成により楽音発生するものであり、
模擬しようとする倍音は、楽音合成され、出力された楽音波形より抽出された倍音であることを特徴とする請求項7または8記載の共鳴音発生装置。
【請求項11】
1つの共鳴回路の共振周波数を1つの倍音周波数に対応させる一方、
倍音周波数が等しいか非常に近い倍音周波数の倍音が複数存在する場合は、該複数の倍音周波数の1つで他を代表させることを特徴とする請求項6〜10のいずれかに記載の共鳴音発生装置。
【請求項12】
1つの共鳴回路の共振周波数を1つの倍音周波数に対応させる一方、
予定の倍音周波数に対応する共鳴回路の共振周波数が、該予定の倍音周波数から所定量だけずらされていることを特徴とする請求項6〜10のいずれかに記載の共鳴音発生装置。
【請求項13】
前記共鳴音発生手段は、その出力を所定倍して、通常音信号と加算し、該共鳴音発生手段にフィードバックして入力するフィードバック経路を有することを特徴とする請求項6〜10のいずれかに記載の共鳴音発生装置。
【請求項14】
前記フィードバック経路には、共鳴音発生手段の出力を遅らせる遅延回路及び/又は前記出力の振幅−周波数特性を変更するフィルタを備えたことを特徴とする請求項13記載の共鳴音発生装置。
【請求項15】
前記乗算器が、前記チャンネル1チャンネルあたり共鳴回路群の各音名に対応した数だけ設けられ、これら乗算器の乗算係数は、楽音制御情報に含まれる音高情報によって決定されると共に、この中の1つの乗算器の乗算係数が他の乗算器の乗算係数より小さく、残りの乗算器の乗算係数同士は等しいことを特徴とする請求項5記載の共鳴音発生装置。
【請求項16】
前記共鳴音発生手段の入力系列数は、共鳴回路群の各音名に対応した数であり、楽音分配手段の出力チャンネルの分配系列も同数であることを特徴とする請求項4または15記載の共鳴音発生装置。
【請求項17】
前記共鳴回路群は、その対応する音名の楽音の倍音に対応した共鳴回路が複数並列に接続されてなることを特徴とする請求項4、15、16のいずれかに記載の共鳴音発生装置。
【請求項18】
電子鍵盤楽器に組み込まれ、前記発音指示は、キー情報に含まれるキーオンデータであることを特徴とする請求項1〜17のいずれかに記載の共鳴音発生装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【公開番号】特開2011−28290(P2011−28290A)
【公開日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−223948(P2010−223948)
【出願日】平成22年10月1日(2010.10.1)
【分割の表示】特願2006−11470(P2006−11470)の分割
【原出願日】平成18年1月19日(2006.1.19)
【出願人】(000001410)株式会社河合楽器製作所 (563)
【Fターム(参考)】