説明

内周面検査装置の測定ヘッド

【課題】探傷センサのセンサ面と被検査物の内周面との距離を簡単な構造で一定に維持して、前記内周面の表面及び内部の欠陥を高精度に検出できること。
【解決手段】シリンダブロックのシリンダボアを臨むシリンダ内周面の表面及び内部の欠陥を検査する内周面検査装置の測定ヘッド13であって、フレーム24、ムービングベース25、渦流探傷センサ26及びガイドローラ27を備えた測定ヘッド本体29を有し、ムービングベース25は、フレーム24に対してシリンダ内周面の直径方向に移動可能に設けられ、渦流探傷センサ26は、ムービングベース25に取り付けられて、センサ面36がシリンダ内周面に対向して前記欠陥を検出し、前記ガイドローラ27は、ムービングベース27に取り付けられて、測定ヘッドの回転時にムービングベース25と共にシリンダ内周面の半径方向外側へ移動し、このシリンダ内周面に押圧されて転動するものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被検査物のボアを臨む内周面における表面及び内部の欠陥を検査する内周面検査装置の測定ヘッドに係り、特に、エンジンのシリンダまたはシリンダブロックのシリンダボアを臨むシリンダ内周面における表面及び内部の欠陥を検査する内周面検査装置の測定ヘッドに関する。
【背景技術】
【0002】
エンジンのシリンダまたはシリンダブロックのシリンダボアを臨むシリンダ内周面における表面及び内部の欠陥を検査する内周面検査装置では、図10に示すように、測定ヘッド100の先端部に、例えば渦流探傷センサ101が、センサ面を外方に向けて設置されている。この測定ヘッド100は、図示しない昇降ユニットによりシリンダボア内に挿入され、図示しないに回転ユニットにより回転される間に、シリンダ内周面の表面及び内部に存在する欠陥、例えば鋳巣や傷などを検査する。
【0003】
ところで、渦流探傷センサ101では、センサ面とシリンダ内周面との距離が検出中に変化すると、その距離変化が検出結果に大きな影響を及ぼしてしまう。例えば、シリンダブロックが固定され、このシリンダブロックに対して測定ヘッド100が常に同一軌跡で運動する場合であっても、このシリンダブロックのシリンダボア位置や、シリンダ内周面の直径、シリンダ内周面の傾き等のばらつきによって、渦流探傷センサ101とシリンダ内周面との距離が渦流探傷センサ101の検出中に変化してしまい、欠陥の検出が不可能になる場合がある。
【0004】
そこで、特許文献1に記載のように、測定ヘッドに変位センサを追加して設置し、この変位センサとシリンダ内周面との距離を測定し、この測定値に基づきXYテーブルを駆動して測定ヘッドの位置を補正し、これにより、探傷センサとシリンダ内周面との距離を一定に維持する検査装置が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−294710号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載の検査装置では、例えば800rpmの回転速度で回転する測定ヘッドを、XYテーブルによりX方向及びY方向にリアルタイムで位置補正することになる。しかし、このような位置補正は、処理時間やXYテーブル駆動部の応答性などから制御が困難であり、これを実現するためには、複雑で高価な検査装置になってしまう。
【0007】
本発明の目的は、上述の事情を考慮してなされたものであり、探傷センサのセンサ面と被検査物の内周面との距離を簡単な構造で一定に維持して、前記内周面の表面及び内部の欠陥を高精度に検出できる内周面検査装置の測定ヘッドを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、被検査物のボア内に挿入されて、このボアを臨む内周面の周方向に回転し、この内周面の表面及び内部の欠陥を検査する内周面検査装置の測定ヘッドであって、フレーム、ムービングベース、探傷センサ及びガイドローラを備えた測定ヘッド本体を有し、前記ムービングベースは、前記フレームに対して前記被検査物の内周面の直径方向に移動可能に設けられ、前記探傷センサは、前記ムービングベースに取り付けられて、センサ面が前記被検査物の内周面に対向し、この内周面の表面及び内部の欠陥を検出し、前記ガイドローラは、前記ムービングベースに取り付けられ、測定ヘッドの回転時に前記ムービングベースと共に前記内周面の半径方向外側へ移動し、この内周面に押圧されて転動するよう構成されたことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、測定ヘッドの回転時に、ムービングベースが被検査物の内周面の半径方向外側へ移動し、このムービングベースに取り付けられたガイドローラが前記内周面に押圧された状態で転動し、これにより、ムービングベースに取り付けられた探傷センサが前記内周面に追従して位置づけられる。このため、探傷センサのセンサ面と被検査物の内周面との距離を簡単な構造で一定に維持でき、この結果、探傷センサにより被検査物の内周面における表面及び内部の欠陥を高精度に検出できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明に係る内周面検査装置の測定ヘッドにおける一実施の形態が適用されたシリンダ内周面欠陥検査装置を示し、(A)は正面図、(B)は図1(A)のIB矢視図。
【図2】図1の測定ヘッドを示す斜視図。
【図3】図2の測定ヘッドを斜め下方から目視して示す斜視図。
【図4】(A)は図2の測定ヘッドを示す側面図、(B)は図4(A)の部分拡大図。
【図5】図2の測定ヘッドを示す底面図。
【図6】図2の測定ヘッドの組付け斜視図。
【図7】図6における2種類のスペーサをそれぞれ示す底面図。
【図8】セッティングゲージを用いた渦流探傷センサの位置調整状況を示す斜視図。
【図9】図8のセッティングゲージを示す組付け斜視図。
【図10】従来の内周面検査装置の測定ヘッドを示す斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を実施するための最良の形態を、図面に基づき説明する。
【0012】
図1は、本発明に係る内周面検査装置の測定ヘッドにおける一実施の形態が適用されたシリンダ内周面欠陥検査装置を示し、(A)が正面図、(B)が図1(A)のIB矢視図である。この図1に示す内周面検査装置としてのシリンダ内周面欠陥検査装置10は、被検査物としてのシリンダまたはシリンダブロック1の複数のシリンダボア2を臨むそれぞれのシリンダ内周面3における表面及び内部の欠陥(例えば鋳巣や傷など)を検査するものであり、昇降ユニット11、回転ユニット12及び測定ヘッド13を有して構成される。
【0013】
昇降ユニット11は、架台14に固定された固定プレート15に、昇降駆動源としての例えばサーボモータ16が固定して取り付けられ、このサーボモータ16の回転軸にボールねじ17が鉛直下向きに延在され、スライドプレート18の裏面に設置されたナット19が前記ボールねじ17に螺合されて構成される。
【0014】
また、回転ユニット12は、スライドプレート18の表面にモータ20が回転駆動源として設置され、このモータ20にタイミングベルト21等を介して回転シャフト22が連結されたものである。この回転シャフト22は、スライドプレート18に設置されたベアリングユニット23によって、スライドプレート18に回転自在に支持される。そして、回転シャフト22の下部先端に前記測定ヘッド13が取り付けられる。
【0015】
従って、サーボモータ16の駆動により、ボールねじ17及びナット19を介してスライドプレート18が昇降する。また、モータ20の駆動により、タイミングベルト21を介して回転シャフト22が回転する。これらにより、測定ヘッド13は、シリンダブロック1のシリンダボア2内に挿入され、シリンダ内周面3の周方向に沿って回転して、このシリンダ内周面3の表面及び内部の欠陥を検査する。この検査時に、測定ヘッド13は、シリンダ内周面3に対して例えば1回転する毎にシリンダ内周面3の軸方向に一定距離だけ昇降または下降し、これを繰り返してシリンダ内周面3の全面に対して欠陥を検査する。
【0016】
測定ヘッド13は、図2〜図4に示すように、フレーム24、ムービングベース25、渦流探傷センサ26、ガイドローラ27及び渦電流変位センサ28を備えた測定ヘッド本体29と、この測定ヘッド本体29を回転シャフト22に結合させるためのスペーサ30とを有して構成される。回転シャフト22からの回転力及び昇降移動力がスペーサ30を介して測定ヘッド本体29へ付与される。
【0017】
フレーム24は、フレーム平面部24Aの底面から一対のフレーム垂下部24Bが一体に垂下されてなる。これら一対のフレーム垂下部24Bのそれぞれの先端部にガイドブッシュ31Aが嵌装される。そして、各ガイドブッシュ31A内に、一端が前記ムービングベース25のアーム部25Aに固定された一対のガイドバー31のそれぞれが挿通される。
【0018】
これらのガイドバー31は、図4及び図5に示すように、前記渦流探傷センサ26の両側にこの渦流探傷センサ26と平行して、且つこの渦流探傷センサ26と同一高さに配置される。これらのガイドバー31により、ムービングベース25は、渦流探傷センサ26の軸方向、つまりシリンダ内周面3の直径方向にのみ移動可能にフレーム垂下部24Bに取り付けられる。
【0019】
また、図2及び図3に示すように、ムービングベース25の両アーム部25Aとフレーム垂下部24Bとの間に圧縮スプリング32が、ガイドバー31と同軸に配置されると共に、このガイドバー31の他端にストッパ33が固定されている。このストッパ33がガイドブッシュ31Aに当接することで、圧縮スプリング32のばね力によるムービングベース25の移動が規制(制止)される。
【0020】
渦流探傷センサ26は、シリンダブロック1のシリンダ内周面3の表面及び内部の欠陥を検出するものであり、センサハウジング34に取り付けられる。このセンサハウジング34は、ムービングベース25に取付ビス35を用いて固定されるが、この取付ビス35を緩めることで、ムービングベース25に対して渦流探傷センサ26の軸方向(つまりシリンダ内周面3の直径方向)に微調整可能に設けられる。このセンサハウジング34は、渦流探傷検出への影響を回避するために、例えばプラスチックにて構成されている。渦流探傷センサ26がセンサハウジング34を介してムービングベース25に取り付けられた状態で、渦流探傷センサ26のセンサ面36は、図5に示すように、シリンダブロック1のシリンダ内周面3に対向して設けられる。
【0021】
図4及び図5に示すように、ムービングベース25における一対のアーム部25Aのそれぞれの前方に、前記ガイドローラ27が回転自在に設置される。これら一対のガイドローラ27は、平面視または底面視(図5)において渦流探傷センサ26の両側に配置され、側面視(図4)において渦流探傷センサ26と同一高さに位置付けられる。これらのガイドローラ27は、測定ヘッド13がシリンダブロック1のシリンダボア2内に挿入されたときにシリンダ内周面3に接触し、このときの渦流探傷センサ26のセンサ面36とシリンダ内周面3との距離Mは、図12に示すセッティングゲージ47(後述)を用いて、例えば0.3mmの適性値になるように、センサハウジング34がムービングベース25に対して位置調整される。
【0022】
更に、図5に示すように、シリンダボア2の中心(即ちシリンダ内周面3の中心O)と測定ヘッド13の回転中心Pとがずれている場合、一対のガイドローラ27は、測定ヘッド13におけるシリンダ内周面3の周方向に沿う回転時(例えば図5の矢印A方向の回転時)に、ムービングベース25に作用する遠心力と圧縮スプリング32によるばね力によって、ムービングベース25と共にシリンダ内周面3の半径方向外側へ移動し、このシリンダ内周面3に押圧されて転動する。従って、ムービングベース25は、シリンダ内周面3の位置に追従して動き、この結果、ムービングベース25にセンサハウジング34を介して取り付けられた渦流探傷センサ26も、シリンダ内周面3に追従して位置付けられる。このため、シリンダ内周面3の中心Oと測定ヘッド13の回転中心Pとがずれている場合にも、渦流探傷センサ26のセンサ面36とシリンダ内周面3との距離Mが前述の適性な一定値(例えば0.3mm)に維持される。
【0023】
ここで、ガイドローラ27はプラスチックにて構成されて、シリンダ内周面3への接触時にこのシリンダ内周面3を傷つけることが防止される。
【0024】
これら一対のガイドローラ27のそれぞれには、図4及び図5に示すように、測定ヘッド13をシリンダブロック1のシリンダボア2内に挿入する際に、シリンダ内周面3の周縁部4に当接して、ムービングベース25をシリンダ内周面3の半径方向において内側(シリンダ内周面3の中心O側)へ移動させるためのテーパ面37が形成されている。
【0025】
測定ヘッド13がシリンダボア2内に存在しないとき(つまり、ムービングベース25の動作がストッパ33によって制止されているとき)には、測定ヘッド13の回転中心Pからガイドローラ27のシリンダ内周面3への接触点までの距離Lは、シリンダ内周面3の精度のばらつきに対応させるために、シリンダ内周面3の半径よりも例えば0.5mm程度大きく設定されている。この測定ヘッド13がシリンダボア2に近づいたとき、測定ヘッド13のガイドローラ27のテーパ面37がシリンダ内周面3の周縁部4に当接し、この周縁部4からテーパ面37へ作用する力Fの半径方向分力Fx(図4(B))は、ムービングベース25を渦流探傷センサ26の軸方向内側(即ちシリンダ内周面3の半径方向内側)へ、圧縮スプリング32の付勢力に抗して移動させる。これにより、測定ヘッド13は、ガイドローラ27のテーパ面37に案内されて、シリンダボア2内に挿入される。この測定ヘッド13がシリンダボア2内に挿入された状態を図4及び図5に示す。
【0026】
前記ガイドローラ27のテーパ面37を形成するテーパ角度θは、シリンダ内周面3の周縁部4からテーパ面37へ作用する力Fのうち、半径方向分力Fxが軸方向分力Fyよりも大きくなるように微小な角度に設定される。
【0027】
また、ガイドローラ27のテーパ面37は、ガイドローラ27の下部に設けられるが、更に測定ヘッド13の側面視において、渦流探傷センサ26の下端26Aよりも下方の領域に形成される。従って、測定ヘッド13がガイドローラ27のテーパ面37に案内されてシリンダボア2内に挿入されるときに、渦流探傷センサ26がシリンダ内周面3に干渉(衝突)することがなく、更に、測定ヘッド13がシリンダボア2内に挿入されたときには、渦流探傷センサ26のセンサ面36とシリンダ内周面3との距離Mは、前述の一定値(例えば0.3mm)に設定される。
【0028】
図3及び図4に示すように、ムービングベース25に固定されたセンサハウジング34には、渦流探傷センサ26と同軸上で、且つこの渦流探傷センサ26と反対位置に、前記渦電流変位センサ28がセンサブラケット39を用いて設定される。この渦電流変位センサ28は、渦流探傷センサ26のセンサ面36とシリンダ内周面3との距離Mの変化を求めるためのものであり、そのセンサ面38とシリンダ内周面3との距離N(図5)を測定する。この距離Nは、測定ヘッド13がシリンダボア2内に挿入されてガイドローラ27がシリンダ内周面3に接触したときに、例えば1.0mmの適性な一定値に設定される。
【0029】
シリンダボア2の中心(シリンダ内周面3の中心O(図5))と測定ヘッド13の回転中心Pとがずれた状態で測定ヘッド13がシリンダボア2内に挿入され、測定ヘッド13がシリンダ内周面3の周方向に沿って回転したとき、渦電流変位センサ28は、センサハウジング34に取り付けられることで、渦流探傷センサ26と共にシリンダ内周面3の位置に追従して移動する。このとき、渦流探傷センサ26と渦電流変位センサ28とが180度反対位置に配置されたので、渦流探傷センサ26がシリンダ内周面3に接近したときには、同じ量だけ渦電流変位センサ28がシリンダ内周面3から離反することになる。従って、渦電流変位センサ28のセンサ面38とシリンダ内周面3との距離Nの変化を測定することで、この測定値とシリンダ内周面3の直径の値とから、渦流探傷センサ26のセンサ面36とシリンダ内周面3との距離Mの変化を算出することが可能になる。
【0030】
渦流探傷センサ26はそのセンサ面36とシリンダ内周面3との距離Mの変化によって、検出精度が大きな影響を受けるという特性を有する。この距離Mは、前述のように適性な一定値(例えば0.3mm)に維持されるが、何らかの理由で変化することがある。このため、上述のように渦電流変位センサ28の測定値に基づいて渦流探傷センサ26のセンサ面36とシリンダ内周面3との距離Mの変化を求め、この値を元に渦流探傷センサ26の検出データを補正することで、渦流探傷センサ26による欠陥の検出精度を安定化でき、且つ向上させることが可能になる。
【0031】
次に、上述の渦流探傷センサ26、ガイドローラ27及び渦電流変位センサ28等を備えた測定ヘッド本体29を回転シャフト22に結合させるスペーサ30について、特に図6及び図7を用いて説明する。
【0032】
図4に示すように、測定ヘッド13がシリンダボア2内に存在せず、ムービングベース25の動作がストッパ33によって制止されているときには、測定ヘッド13の回転中心P(図5)からガイドローラ27のシリンダ内周面3への接触点までの距離Lは、前述の如く、シリンダ内周面3の半径よりも例えば0.5mm程度大きく設定されている。従って、測定ヘッド13(測定ヘッド本体29)をシリンダボア2内へ挿入するための測定ヘッド13(測定ヘッド本体29)の半径方向の余裕は例えば0.5mm程度である。このため、測定ヘッド本体29自体で対応可能なシリンダ内周面3の半径範囲は、例えば±0.25mm程度と少ない。それ故、この測定ヘッド本体29を用いて、半径が広い範囲で異なるシリンダ内周面3の欠陥を検査するためには、この測定ヘッド本体29の中心と測定ヘッド13の回転中心P(即ち回転シャフト22の回転中心)との距離を変更する必要がある。
【0033】
本実施の形態では、測定ヘッド本体29の中心と測定ヘッド13の回転中心Pとの距離を変更させるために、シリンダ内周面3の直径に応じて異なる複数種類のスペーサ30(例えば図6及び図7に示すスペーサ30A、30B)を用いる。
【0034】
つまり、スペーサ30(30A、30B)の底面には、回転シャフト22の係合凸部40に係合するインロー部41が設けられる。これらの係合凸部40とインロー部41とが係合することで、回転シャフト22に対しスペーサ30(30A、30B)が位置決めされる。また、スペーサ30(30A、30B)の天面には、測定ヘッド本体29のフレーム平面部24Aに係合する溝42と、測定ヘッド本体29の位置決めピン43に嵌合するピン孔44とが形成されている。フレーム平面部24Aが溝42に係合し、位置決めピン43がピン孔44に嵌合することで、スペーサ30(30A、30B)に対し測定ヘッド本体29が位置決めされる。
【0035】
スペーサ30Aとスペーサ30Bでは、図7に示すように、係合部としてのインロー部41の中心と、位置決め部としてのピン孔44との寸法Sが異なり、スペーサ30Aの寸法SAは、スペーサ30Bの寸法SBよりも大きく設定されている。従って、直径の大きなシリンダ内周面3に対してはスペーサ30Aを介して測定ヘッド29を回転シャフト29に結合させ、直径の小さなシリンダ内周面3に対してはスペース30Bを介して測定ヘッド29を回転シャフト22に結合させる。これにより、測定ヘッド本体29の中心と測定ヘッド13の回転中心P(回転シャフト22の回転中心)との距離を、シリンダ内周面3の直径に応じて異ならせることが可能になる。ここで、測定ヘッド本体29は、締結ボルト48を用いてスペーサ30(30A、30B)に結合され、スペーサ30(30A、30B)は、締結ボルト49を用いて回転シャフト22に結合される。
【0036】
このようにスペーサ30(30A、30B)を用いて、測定ヘッド本体29の中心と測定ヘッド13の回転中心Pとの距離をシリンダ内周面3の直径に応じて変更することで、測定ヘッド本体29における渦流探傷センサ26のセンサ面36とシリンダ内周面3との距離Mが、例えば0.3mmの適正な一定値に保持される。
【0037】
また、測定ヘッド本体29の渦電流変位センサ28においても、センサブラケット39をシリンダ内周面3の直径に応じて複数種類(例えば直径の大きなシリンダ内周面3用のセンサブラケット39Aと、直径の小さなシリンダ内周面3用のセンサブラケット39B)用意する。シリンダ内周面3の直径に応じてセンサブラケット39(39A、39B)を変更することで、測定ヘッド本体29における渦電流変位センサ28のセンサ面38とシリンダ内周面3との距離Nが、例えば1.0mmの適正な一定値に保持される。
【0038】
上述のように、スペーサ30(30A、30B)を用いて、測定ヘッド本体29の中心と測定ヘッド13の回転中心Pとの距離をシリンダ内周面3の直径に応じて変更すると、特にシリンダ内周面3の直径が大きな場合には、測定ヘッド本体29の中心が測定ヘッド13の回転中心Pから大きく離れて、この測定ヘッド13では、回転中心Pまわりのアンバランスが過大になり振動が発生してしまう。そこで、スペーサ30(30A、30B)のウェイト取付部45に、インロー部41の中心とピン孔44との寸法S(SA、SB)に応じて増減されるバランスウェイト46が取り付けられる。このバランスウェイト46の重量を調整することで、上述の測定ヘッド13のアンバランスが解消される。
【0039】
次に、渦流探傷センサ26のガイドローラ27に対する位置調整を実施するためのセッティングゲージ47について、図8及び図9を用いて説明する。
【0040】
このセッティングゲージ47は、測定ヘッド13のガイドローラ27がシリンダ内周面3に接触したときに、渦流探傷センサ26のセンサ面36とシリンダ内周面3との距離Mを例えば0.3mmの適正な一定値に設定するものであり、図9に示すように、ダイヤルゲージ50、ゲージベース51及びゲージマスタ52を備えて構成される。
【0041】
ダイヤルゲージ50は、ゲージ取付ブラケット53に固定して取り付けられる。ゲージベース51は、ゲージ取付ブラケット53に交換可能に取り付けられ、シリンダ内周面3の半径と同一半径に形成された湾曲凹面54を備える。ゲージマスタ52は、シリンダ内周面3の半径と同一半径に形成された湾曲凸面55備えると共に、結合孔56が形成される。ゲージベース51に突設された結合ボルト57をゲージマスタ52の結合孔56に挿入して結合することで、ゲージマスタ52の湾曲凸面55がゲージベース51の湾曲凹面54に接触した状態で、ゲージマスタ52がゲージベース51に装着される。
【0042】
ダイヤルゲージ50がゲージ取付ブラケット53を介してゲージベース51に取り付けられ、このゲージベース51にゲージマスタ52が装着された状態で、ダイヤルゲージ50の測定子58をゲージマスタ52の湾曲凸面55に接触させて、ダイヤルゲージ50を0点合せする。
【0043】
次に、ゲージマスタ52をゲージベース51から離脱させ、図8に示すように、このゲージベース51の湾曲凹面54に測定ヘッド13のガイドローラ27を接触させる。このとき、ダイヤルゲージ50の測定子58を測定ヘッド13の渦流探傷センサ26のセンサ面36に垂直になるようにセットする。この状態で、渦流探傷センサ26が取り付けられたセンサハウジング34をムービングベース25に対して渦流探傷センサ26の軸方向に微小移動させ、ダイヤルゲージ50の数値が例えば−0.3mmとなるように、渦流探傷センサ26のセンサ面36の位置を調整する。
【0044】
尚、このセッティングゲージ47では、検査対象となるシリンダブロック1のシリンダ内周面3の半径が異なった場合には、このシリンダ内周面3の半径と同一半径の湾曲凹面54、湾曲凸面55をそれぞれ備えたゲージベース51、ゲージマスタ52が用いられる。
【0045】
以上のように構成されたことから、本実施の形態によれば、次の効果(1)〜(10)を奏する。
【0046】
(1)シリンダブロック1のシリンダボア2内に挿入された測定ヘッド13の回転時には、ムービングベース25がシリンダ内周面3の半径方向外側へ移動し、このムービングベース25に取り付けられたガイドローラ27がシリンダ内周面3に押圧された状態で転動し、これによりムービングベース25に取り付けられた渦流探傷センサ26がシリンダ内周面3の位置に追従して移動する。このため、渦流探傷センサ26のセンサ面36とシリンダ内周面3との距離Mを、簡単な構造で適正な一定値に維持できるので、渦流探傷センサ26によりシリンダブロック1のシリンダ内周面3における表面及び内部の欠陥を高精度に検出できる。
【0047】
(2)渦流探傷センサ26が一対のガイドローラ27と同一高さに設置されているので、渦流探傷センサ26のセンサ面36をガイドローラ27と同一高さで、シリンダ内周面3の位置に正確に追従されることができる。
【0048】
(3)シリンダブロック1のシリンダボア2内に挿入された測定ヘッド13の回転時には、ムービングベース25に作用する遠心力及び圧縮スプリング32のばね力の作用で、ガイドローラ27がムービングベース25と共にシリンダ内周面3の半径方向外側へ移動し、シリンダ内周面3に押圧されて転動する。このため、ムービングベース25がシリンダ内周面3の位置に追従して動き、このムービングベース25にセンサハウジング34を介して取り付けられた渦流探傷センサ26も、シリンダ内周面3の位置に追従する。この結果、測定ヘッド13の回転時にムービングベース25に作用する遠心力のみによって渦流探傷センサ26をシリンダ内周面3の位置に追従させる場合に比べ、この渦流探傷センサ26の追従性を安定化できる。
【0049】
(4)ガイドローラ27には、測定ヘッド13をシリンダボア2内に挿入する際に、シリンダ内周面3の周縁部4に当接してムービングベース25をシリンダ内周面3の半径方向内側へ移動させるためのテーパ面37が形成されている。このため、シリンダボア2の中心(シリンダ内周面3の中心O)と測定ヘッド13の回転中心P(回転シャフト22の回転中心)とがずれている場合にも、測定ヘッド13をシリンダボア2内に容易に挿入でき、測定ヘッド13の回転中心Pをシリンダ内周面3の中心Oに一致させる動作を行なう機構を装備する必要がない。
【0050】
(5)ガイドローラ27のテーパ面37が、測定ヘッド13の側面視において、渦流探傷センサ26の下端26Aよりも下方の領域に形成されたので、測定ヘッド13がガイドローラ27のテーパ面37に案内されてシリンダボア2内に挿入されるときに、渦流探傷センサ26がシリンダ内周面3に干渉することを防止できる。
【0051】
(6)渦流探傷センサ26は、そのセンサ面36とシリンダ内周面3との距離Mの変化によって、検出精度が大きな影響を受けるという特性を有する。この距離Mは、前述のように適性な一定値(例えば0.3mm)に維持されるが、何らかの理由で変化することがある。測定ヘッド13には渦電流変位センサ28が設置され、この渦電流変位センサ28は、センサ面38とシリンダ内周面3との距離Nの変化を測定することで、渦流探傷センサ26のセンサ面36とシリンダ内周面3との距離Mの変化を求める。そして、この距離Mの変化に基づいて渦流探傷センサ26の出力データが補正されることから、渦流探傷センサ26によるシリンダ内周面3の欠陥検出精度を安定化でき、且つ向上させることができる。
【0052】
(7)渦電流変位センサ28が、測定ヘッド13のセンサハウジング34において渦流探傷センサ26と同軸上に配置されたので、例えば渦電流変位センサ28が渦流探傷センサ26の上方または下方位置で、渦流探傷センサ26と並列に配置された場合に比べ、シリンダ内周面3に対して同一の位置で、渦電流変位センサ28の測定値(距離Nの変化)から渦流探傷センサ26とシリンダ内周面3との距離Mの変化を求めることができる。従って、この距離Mの変化に基づく渦流探傷センサ26の検出データの補正を適正に実施できる。
【0053】
(8)渦電流変位センサ28が、測定ヘッド13のセンサハウジング34において渦流探傷センサ26と反対位置に配置されている。つまり、渦流探傷センサ26と渦電流変位センサ28とは共に電磁気を利用して検出、測定をそれぞれ実施するものであり、これらの渦流探傷センサ26と渦電流変位センサ28とが反対位置に配置されることは、渦流探傷センサ26の検出時と渦電流変位センサ28の測定時にそれぞれの電磁波が互いに干渉することを防止できる。
【0054】
(9)測定ヘッド13は、測定ヘッド本体29及びスペーサ30を備えてなり、測定ヘッド本体29がスペーサ30を介して回転シャフト22に結合され、このスペーサ30が、検査すべきシリンダブロック1のシリンダ内周面3の直径に対応して複数種類(例えばスペーサ30A、30B)設けられている。従って、欠陥を検査すべきシリンダブロック1のシリンダ内周面3の直径が広い範囲で異なっている場合(例えばシリンダ内周面3の直径が90mm、60mmなどの場合)にも、同一の測定ヘッド本体29を用いて、これらのシリンダ内周面3の欠陥を、コスト上昇させることなく正確に検査することができる。
【0055】
(10)渦流探傷センサ26のガイドローラ27に対する位置調整が、ダイヤルゲージ50、ゲージベース51及びゲージマスタ52を備えた専用のセッティングゲージ47を用いて実施されるので、前記位置調整を正確かつ簡単に実施できる。
【0056】
以上、本発明を上記実施の形態に基づいて説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、本実施の形態では、渦流探傷センサ26のセンサ面36とシリンダ内周面3との距離Mの変化を求めるための変位センサが渦電流変位センサ28の場合を述べたが、他の方式の変位センサ、例えばレーザーや超音波などを利用した変位センサを用いてもよい。
【符号の説明】
【0057】
1 シリンダブロック(被検査物)
2 シリンダボア
3 シリンダ内周面
4 周縁部
10 シリンダ内周面欠陥検査装置(内周面検査装置)
13 測定ヘッド
22 回転シャフト
24 フレーム
25 ムービングベース
26 渦流探傷センサ
26A 下端
27 ガイドローラ
28 渦電流変位センサ
29 測定ヘッド本体
30、30A、30B スペーサ
36 センサ面
37 テーパ面
41 インロー部(係合部)
44 ピン穴(位置決め部)
46 バランスウェイト
47 セッティングゲージ
50 ダイヤルゲージ
51 ゲージベース
52 ゲージマスタ
53 ゲージ取付ブラケット
54 湾曲凹部
55 湾曲凸面
58 測定子
M 距離
S、SA、SB 寸法

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検査物のボア内に挿入されて、このボアを臨む内周面の周方向に回転し、この内周面の表面及び内部の欠陥を検査する内周面検査装置の測定ヘッドであって、
フレーム、ムービングベース、探傷センサ及びガイドローラを備えた測定ヘッド本体を有し、
前記ムービングベースは、前記フレームに対して前記被検査物の内周面の直径方向に移動可能に設けられ、
前記探傷センサは、前記ムービングベースに取り付けられて、センサ面が前記被検査物の内周面に対向し、この内周面の表面及び内部の欠陥を検出し、
前記ガイドローラは、前記ムービングベースに取り付けられ、測定ヘッドの回転時に前記ムービングベースと共に前記内周面の半径方向外側へ移動し、この内周面に押圧されて転動するよう構成されたことを特徴とする内周面検査装置の測定ヘッド。
【請求項2】
前記ガイドローラは、平面視において探傷センサの両側に配置され、側面視において前記探傷センサと同一高さに位置づけらたことを特徴とする請求項1に記載の内周面検査装置の測定ヘッド。
【請求項3】
前記ガイドローラには、測定ヘッドを被検査物のボア内に挿入する際に、このボアを臨む内周面の周縁部に当接して、ムービングベースを前記内周面の半径方向内側へ移動させるためのテーパ面が形成されたことを特徴とする請求項1に記載の内周面検査装置の測定ヘッド。
【請求項4】
前記ガイドローラのテーパ面は、側面視において探傷センサの下端よりも下方の領域に設けられたことを特徴とする請求項3に記載の内周面検査装置の測定ヘッド。
【請求項5】
前記ムービングベースには、探傷センサと同軸上で、且つこの探傷センサと反対位置に、前記探傷センサのセンサ面と被検査物の内周面との距離変化を求めるための変位センサが配置されたことを特徴とする請求項1に記載の内周面検査装置の測定ヘッド。
【請求項6】
前記測定ヘッド本体が、この測定ヘッド本体に回転力を付与する回転シャフトにスペーサを介して結合され、
このスペーサは、前記回転シャフトに係合する係合部と前記測定ヘッド本体に位置決めされる位置決め部との寸法が、被検査物の内周面の直径に応じて異なって複数種類設けられたことを特徴とする請求項1に記載の内周面検査装置の測定ヘッド。
【請求項7】
前記スペーサには、回転シャフトとの結合部と測定ヘッド本体との位置決め部との寸法に応じて増減されるバランスウェイトが取り付けられることを特徴とする請求項6に記載の内周面検査装置の測定ヘッド。
【請求項8】
前記探傷センサのガイドローラに対する位置調整がセッティンググゲージを用いてなされ、
このセッティングゲージは、取付ブラケットに取り付けられたダイヤルゲージと、被検査物の内周面の半径と同一半径に設けられた湾曲凹面を備えると共に、前記取付ブラケットに交換可能に取り付けられるゲージベースと、前記被検査物の内周面の半径と同一半径に設けられた湾曲凸面を備えると共に、この湾曲凸面を前記湾曲凹面に接触させて前記ゲージベースに着脱可能に取り付けられるゲージマスタとを有し、
前記ゲージベースに取り付けられたゲージマスタの前記湾曲凸面に前記ダイヤルゲージの測定子を接触させることで、このダイヤルゲージを0点合せさせ、前記ゲージマスタが取り外された前記ゲージベースの前記湾曲凹面を前記ガイドローラに接触させ、0点合せされた前記ダイヤルゲージの前記測定子を前記探傷センサのセンサ面に接触させて、このセンサ面を位置調整させるよう構成されたことを特徴とする請求項1に記載の内周面検査装置の測定ヘッド。
【請求項9】
前記被検査物がエンジンのシリンダまたはシリンダブロックであり、前記内周面がシリンダ内周面であることを特徴とする請求項1に記載の内周面検査装置の測定ヘッド。
【請求項10】
前記探傷センサが渦流探傷センサであることを特徴とする請求項1に記載の内周面検査装置の測定ヘッド。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−7548(P2011−7548A)
【公開日】平成23年1月13日(2011.1.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−149600(P2009−149600)
【出願日】平成21年6月24日(2009.6.24)
【出願人】(000002082)スズキ株式会社 (3,196)
【Fターム(参考)】