説明

内容物付着防止蓋材およびその製造方法

【課題】主としてヨーグルト包装用の容器に適用される蓋材であって、ヒートシール性、密封性を良好に維持しながら、蓋の裏面に内容物であるヨーグルトが付着するのを効果的に防止しうるものとする。
【解決手段】基材層1に積層された熱封緘層5の外面に別途付着防止層6を形成し、該付着防止層6は酸変性ポリオレフィン樹脂を主成分とするバインダーと疎水性無機微粒子との混合組成物で構成したものとする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主として食品類の包装用容器に適用されるヒートシール蓋材、更に具体的には、ヨーグルト、ゼリー、プリン、ジャム、カフェラッテ、ポーションミルク等の包装用のカップ状容器に適用される内容物付着防止性を備えた蓋材およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の熱封緘用の蓋材は、一般に基材フィルムとアルミニウム箔との積層からなる基材層のアルミ箔面側に、中間樹脂層を介してヒートシール層、即ち熱封緘層を設けたものとなされ、ヨーグルト等の被包装物を充填したカップ状の容器本体の上面開口に被せて、周縁部を容器本体の上縁フランジ部上に熱融着することによって密封包装物を形成するものとなされている。
【0003】
従って、かかる蓋材においては、良好なヒートシール性、密封性と、開封時のための適当な易剥離性が求められるのと同時に、内容物の非付着性、即ち容器の内面側の蓋材裏面に内容物が付着するのを防止しうるものであることが望まれる。蓋材の裏面に内容物が付着すると、開封時に手指や衣服、あるいは周辺を汚すおそれがあると共に、内容物の棄損による無駄を生じ、あるいは付着物を剥がし取る手間がかかり、更には不潔感を催す等の不利益を生じるためである。
【0004】
そこで、従来、内容物付着防止性能を備えた蓋材について、下記特許文献1〜6に示されるような種々の提案がなされてきた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−37310号公報
【特許文献2】特開2007−153385号公報
【特許文献3】特開2008−100736号公報
【特許文献4】特開2009−73523号公報
【特許文献5】特開2009−241943号公報
【特許文献6】特許第4348401号公報
【0006】
上記特許文献1〜3に示す先行技術は、基材の片面の熱封緘層に、付着防止効果を有する非イオン界面活性剤又は疎水性添加物、あるいはワックス等を添加するものであり、熱封緘層そのものに付着防止性能を付与しようとしているものであるが、いずれも未だ所期する内容物付着防止効果の点で不満足なものでしかなかった。
【0007】
また、特許文献4〜5の先行技術は、熱封緘層の外面(容器側の面)に、別途内容物付着防止層を付加形成するというものであり、該付着防止層をワックスと、その中に分散された固体微粒子充填剤との組成物で構成するものである。これらの先行技術は、前記特許文献1〜3の先行技術に比べて内容物付着防止効果は一段と改善されるが、それでも未だ十分とはいえないのに加えて、ワックス中に充填剤を分散させているものであるため、熱封緘層のヒートシール性に悪影響を及ぼして密封性が不安定なものになりやすい懸念があった。
【0008】
更に、特許文献6に示される先行技術は、熱封緘層の外面に、極めて微細な疎水性シリカ等の酸化物微粒子による三次元網目状構造の多孔質層を形成するというものである。
【0009】
この先行提案技術では、上記多孔質層のもつ超撥水レベルの極めて優れた撥水性により、内容物付着防止効果の点では非常に優れた効果を奏するものの、極めて微細な疎水性シリカ等の酸化物微粒子による三次元網目状構造の多孔質層のそれ自体が組織的に脆い上に、隣接する下地側の熱封緘層との密着力にも劣るため、多孔質層の部分剥離や脱落を生じ易く、包装内容物への異物混入のおそれを生じ衛生上も好ましいものではなかった。
【0010】
この問題は、殊に熱封緘層にラッカータイプのヒートシール剤が用いられたポリスチレン製容器あるいはポリプロピレン製容器等に適する蓋材である場合に特に強く懸念される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、従来技術における上記のような問題点に鑑み、その更なる改善をはかること、具体的には、特に熱封緘層にラッカータイプのヒートシール剤を用いた蓋材である場合においても、常に安定した良好なヒートシール性能を維持しつつ、内容物付着防止性能に優れ、しかも該付着防止効果を発現する疎水性無機微粒子層の熱封緘層との密着性、蓋材と容器との密着性を高めて上記内容物付着防止効果の安定持続性を向上しうる新たな改善技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、上記の目的を達成するべく発明者らにおいて種々実験と研究を重ねたところ、バインダーとして特定の樹脂、即ち酸変性ポリオレフィン樹脂を用い、熱封緘層上に形成する付着防止層を、撥水性付与成分としての疎水性無機微粒子と、上記の酸変性ポリオレフィン樹脂を主成分とするバインダーとの混合組成物をもって構成することにより、所期目的を効果的に達成しうることを見出すに至り、このような知見に基づいて完成し得たものである。
【0013】
そこで、先ず内容物付着防止蓋材を対象物とする発明として次の[1]〜[7]項の手段を提示する。
【0014】
[1]少なくとも基材層と熱封緘層とを有する蓋材において、
前記熱封緘層の外面に付着防止層を有し、
該付着防止層は、疎水性無機微粒子と酸変性ポリオレフィン樹脂を主成分とするバインダーとの混合組成物からなることを特徴とする内容物付着防止蓋材。
【0015】
[2]前記熱封緘層が、ポリエステル系樹脂、アクリル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、酸変性ポリオレフィン系樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体系樹脂、およびスチレン系樹脂のうちの1種または2種以上を主成分とするラッカータイプのヒートシール剤からなる前項[1]に記載の内容物付着防止蓋材。
【0016】
[3]前記酸変性ポリオレフィン系樹脂に含有される不飽和カルボン酸又はその無水物の量が、0.001〜3重量%である前項[1]または[2]に記載の内容物付着防止蓋材。
【0017】
[4]前記疎水性無機微粒子は、平均粒径1nm〜5,000nmである前項[1]〜[3]のいずれか1項に記載の内容物付着防止蓋材。
【0018】
[5]前記疎水性無機微粒子が疎水性シリカである前項[1]〜[4]のいずれか1項に記載の内容物付着防止蓋材。
【0019】
[6]前記疎水性無機微粒子は、平均粒径500nm〜5,000nmの疎水性湿式シリカである前項[5]に記載の内容物付着防止蓋材。
【0020】
[7]前記混合組成物は、前記酸変性ポリオレフィン系樹脂を主成分とするバインダーより疎水性無機微粒子を相対的に多く含む前項[1]〜[6]のいずれか1項に記載の内容物付着防止蓋材。
本発明はまた、上記内容物付着防止蓋材の製造方法について、コート液の調製、溶媒の選択、塗膜の乾燥条件等に特徴を有する下記[8]〜[12]項の手段を提示する。
【0021】
[8]少なくとも基材層と熱封緘層とを有する蓋材の前記熱封緘層の外面に、酸変性ポリオレフィン樹脂を主成分とするバインダーのエマルジョンまたは溶液に疎水性無機微粒子を分散させて調製したコート液を、乾燥後重量で0.1〜5.0g/mとなるように塗布したのち、温度80〜220℃、時間5〜180秒の乾燥条件で乾燥させて付着防止層を形成することを特徴とする内容物付着防止蓋材の製造方法。
【0022】
[9]前記熱封緘層が、ポリエステル系樹脂、アクリル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、酸変性ポリオレフィン系樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体系樹脂、およびスチレン系樹脂のうちの1種または2種以上を主成分とするラッカータイプのヒートシール剤からなる前項[8]に記載の内容物付着防止蓋材の製造方法。
【0023】
[10]前記酸変性ポリオレフィン系樹脂に含有される不飽和カルボン酸又はその無水物の量が、0.001〜3重量%である前項[8]または[9]に記載の内容物付着防止蓋材の製造方法。
【0024】
[11]前記コート液は、酸変性ポリオレフィン樹脂を溶解できる溶媒を用いたものである前項[8]〜[10]のいずれか1項に記載の内容物付着防止蓋材の製造方法。
【0025】
[12]溶媒がn−ヘプタン、n−ヘキサン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、アセトン、メチルエチルトルエン、トルエン、酢酸エチル、メタノール、およびエタノールのうちの1種または2種以上からなる前項[11]に記載の内容物付着防止蓋材の製造方法。
【発明の効果】
【0026】
本発明は、前記[1]項の構成において、熱封緘層の外面に付加して設けられた内容物付着防止層に疎水性無機微粒子が配合されていることにより、その配合割合に対応した所望される必要かつ十分な程度の内容物付着防止効果を発現せしめ得るのはもとより、併せて該付着防止層に酸変性ポリオレフィン樹脂を主成分とするバインダーが含まれていることにより、付着防止効果を損なうことなく、元来結合性に乏しい疎水性無機微粒子の一次粒子相互間及び二次粒子相互間の結合力を補うと同時に、それらの熱封緘層に対する密着性をも向上し、不本意な粒子の脱落、付着防止層の剥落を防いで長期に亘り安定した内容物付着防止効果を維持しうる。加えて、付着防止層への上記酸変性ポリオレフィン樹脂を主成分とするバインダーの含有により、これが熱封緘層のヒートシール性を補うべく作用し、疎水性無機微粒子群の介在にかかわらず蓋材の容器本体に対する良好で安定した、強固なヒートシール性、密封性を確保しうる。
【0027】
また、前記[2]項に記載のように、熱封緘層がラッカータイプのヒートシール剤からなる蓋材であって、特にポリスチレン製容器あるいはポリプロピレン製容器に適し、更にはポリエステル製、ポリエチレン製(内層に貼合わされたものを含む)等の容器にも適合する蓋材である場合にあっても、上記効果を遺憾なく発現しうる。
【0028】
また、前記[3]項に記載のように、酸変性ポリオレフィン系樹脂に含有される不飽和カルボン酸又はその無水物の量が、0.001〜3重量%であることで、疎水性無機微粒子の熱封緘層への密着力を必要かつ十分な程度に高めることが可能となり、容器との良好なヒートシール特性を発現することができる。とくに疎水性の無機微粒子からなる付着防止層が熱封緘層とこれがヒートシールされる容器本体側の被着面との間に夾雑物として介在することにより、元来ヒートシール性を損なうことが予見されるが、上記不飽和カルボン酸又はその無水物による変性率を最適化することにより付着防止層の影響を考慮したヒートシール特性を容易に調節可能であり、最良のシール状態を実現できる。
【0029】
また、前記[4]項に記載のような平均粒径を有する疎水性無機微粒子を用いることにより、市場から入手しやすい比較的安価な材料を用いて、前記のような内容物付着防止効果を確実に実現することができる。
【0030】
また、前記[5]項に記載のように、疎水性無機微粒子に疎水性シリカを選択使用するときは、愈々市場から入手し易い比較的安価な材料をもって、優れた内容物付着防止効果を達成することができる。
【0031】
また、前記[6]項に記載のように、特定範囲の平均粒径を有する疎水性湿式シリカを使用するときは、より確実に優れた内容物付着防止効果を達成することができる。
【0032】
また、前記[7]項に記載のように、バインダーより疎水性無機微粒子の配合量を相対的に多く設定した混合組成物をもって付着防止層を形成することにより、付着防止層に常に良好な内容物付着防止性能を付与することができる。
【0033】
また、前記[8]項に記載の内容物付着防止蓋材の製造方法によれば、前記[1]項による作用効果を奏する蓋材を得ることができる。殊に、コート液の塗布層の塗布量、乾燥条件は、その特定範囲を逸脱すると、良好な内容物付着防止効果を発現させることができない。あるいはまた蓋材の生産性の低下、生産コストの増大を招く。
【0034】
前記[9]項および[10]項に記載の製法においては、それぞれ前記[2]および[3]項に記載の優れた効果を有する蓋材を得ることができる。
【0035】
前記[11]項に記載のように、コート液の調整に酸変性ポリオレフィン樹脂を溶解できる溶媒を用いるものとすることにより、一層良好な付着防止性能を有する付着防止層を形成することができる。
【0036】
また、前記[12]項に記載のようにシクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、アセトン、メチルエチルトルエン、トルエン、酢酸エチル、メタノール、エタノールのうちの1種または2種以上からなる溶媒を用いるときは、前記[11]項の対応効果をより一層確実に得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】図1は本発明による内容物付着防止蓋材の積層構成の概要を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0038】
図1は、本発明に係る内容物付着防止蓋材の積層構成の一例を示す。
【0039】
該蓋材は、例えばヨーグルト包装用容器に適する蓋材の一例として、印刷(7)面をコート剤(2a)で保護被覆したコート紙(2)と、金属蒸着フィルム(3)とを一般的な接着剤で貼合わせた積層体をもって基材(1)とし、この基材(1)の金属蒸着フィルム(3)側の外面にアンカーコート(4)を介して熱封緘層(5)が設けられたものである。この積層構成は従来公知の蓋材のそれと同様であり、上記基材(1)と熱封緘層(5)とを含む積層体をここでは「蓋材本体」と称する。
【0040】
なお、例えばカフェラッテのような液体飲料の包装容器用の蓋材にあっては、蓋材本体は、図示を省略するが一般的に外面側の一方の面に所要の印刷を施したアルミニウム箔をもって基材とし、この基材の他方の面に、必要に応じて中間樹脂層を介して熱封緘層を設けたものとなされる。
【0041】
本発明に係る内容物付着防止蓋材は、上記蓋材本体の熱封緘層(5)の外面に、更に付加的に付着防止層(6)を設けたものとなされる。
【0042】
金属蒸着フィルム(3)は、ガスバリヤ性、遮光性などを付与するものであり、多くはアルミ蒸着ポリエステルフィルムが用いられる。特にヨーグルトの容器用の蓋材にあっては、遮光性、軽量性を満足するものとして厚さ12〜16μm程度のアルミ蒸着ポリエステルフィルムが好適に用いられる。また、コート紙(2)との積層接着には一般的な接着剤が用いられる。
【0043】
熱封緘層(5)は、容器側との接着性が良好なものであれば、その材料は、特に限定されない。例えば、ホットメルト剤、ラッカータイプヒートシール剤あるいは公知のシーラントフィルムを用いることができる。特にヨーグルト等包装用のポリスチレン製容器の蓋材にあっては、ラッカータイプのヒートシール剤を用いるのが一般的であり好適である。例えばポリエステル系樹脂、アクリル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、酸変性ポリオレフィン系樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体系樹脂、およびスチレン系樹脂のうちの1種または2種以上を主成分とするラッカータイプのヒートシール剤を用いるのが好適である。また熱封緘層(5)の厚みは特に限定されるものではないが、コスト、密封性、生産性等の点から、厚さ1〜30μm程度とするのが一般的であり、好適には、2〜20μmの範囲とするのが良い。
【0044】
ところで、本発明の主要構成要素をなす付着防止層(6)は、酸変性ポリオレフィン樹脂を主成分とするバインダーと、疎水性無機微粒子との混合組成物からなるものである。
【0045】
酸変性ポリオレフィン系樹脂は、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)、低密度ポリエチレン(LDPE)、超低密度ポリエチレン(VLDPE)、中密度ポリエチレン(MDPE)、高密度ポリエチレン(HDPE)、エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)、アイオノマー、エチレン−プロピレン(ブロックまたはランダム)共重合体、エチレン−アクリル酸エステル共重合体、ポリプロピレン、プロピレン−α−オレフィン(炭素数4〜20のα−オレフィン)共重合体、ポリブテン、ポリペンテン等のオレフィンの単独又は共重合体等のポリオレフィン系樹脂を不飽和カルボン酸またはその無水物等の酸で変性したもので、具体的には不飽和カルボン酸またはその無水物をポリオレフィン系樹脂に付加反応やグラフト反応等により化学的に結合させて得られるカルボキシル基を含有する変性ポリオレフィン系樹脂を挙げることができ、特に、酸グラフト変性ポリオレフィン系樹脂が好ましく、より具体的には、無水マレイン酸グラフト変性ポリエチレン、無水マレイン酸グラフト変性ポリプロピレン、無水マレイン酸グラフト変性エチレン−プロピレン(ブロックまたはランダム)共重合体、無水マレイン酸グラフト変性エチレン−エチルアクリレート共重合体、無水マレイン酸グラフト変性エチレン−酢酸ビニル共重合体等から選ばれた1種または2種以上の混合物が好適なものとして挙げられる。このときの酸変性ポリオレフィン樹脂の変性率、即ち酸変性ポリオレフィン系樹脂に含有される不飽和カルボン酸又はその無水物の量は、0.001〜3重量%の範囲とすることが好ましく、更に好ましくは0.01〜2重量%、特に好ましくは0.03〜1重量%である。該変性ポリオレフィン系樹脂中の変性量が少ないと、接着性が不充分となることがあり、逆に多いと架橋反応を起こし、均一な塗膜を得難くなることがあり好ましくない。
【0046】
疎水性無機微粒子は、蓋材の内容物付着防止性能の支配的役割を担うものであり、20mN/m以上の表面エネルギーを有する疎水性物質からなるものであればその材料は特に限定されない。具体的に例示すれば、疎水性のシリカ、アルミナ、酸化カルシウム、炭酸カルシウム、硫酸カルシウム、ケイ酸カルシウム等を挙げることができる。なかでも、疎水性能、コスト、超微粒子材料の市場からの入手のし易さ等の観点から、疎水性シリカやアルミナの使用が好適である。疎水性シリカを用いる場合、乾式シリカおよび湿式シリカのいずれも使用可能であるが、付着防止性能の点で相対的には湿式シリカの使用の方が有利である。
【0047】
疎水性無機微粒子の平均粒径は、1〜5,000nmの範囲のものを用いるべきである。平均粒径1nmの未満の超微粒子は、市場からの入手が困難であり、またコストの面からも不利である。他方、平均粒径5,000nmを超えるものでは、ヒートシール性を阻害するおそれがあると共に、付着防止効果が低下するおそれがあるため不適である。特に好ましくは、平均粒径500~5000nmの疎水性湿式シリカ粒子を用いるのが良い。
【0048】
次に、酸変性ポリオレフィン樹脂を主成分とするバインダーと疎水性無機微粒子との好ましい配合割合は、バインダー(固形分):微粒子の重量比において、5〜49重量%:95〜51重量%である。疎水性無機微粒子の配合量が、51重量%以上含有されれば、比較的容易に良好な付着防止性能を得ることができる。即ち、疎水性無機微粒子を酸変性ポリオレフィン樹脂を主成分とするバインダーより相対的に多く含むものとするのが好ましく、具体的には60〜85重量%の範囲に設定するのが特に好ましい。
【0049】
本発明に係る付着防止蓋材の製造において、上記付着防止層(6)の形成方法もまた、蓋材の内容物付着防止性能に重大な影響をもつ。
【0050】
付着防止層(6)の形成は、バインダーのエマルジョンまたは溶液に疎水性無機微粒子の所定量を均一に分散させてコート液を調整し、これを蓋材本体の熱封緘層の外面に塗布し、乾燥させることによって行われる。
【0051】
コート液の調整には、熱封緘層を膨潤させる溶媒として、前記バインダーに使用した酸変性ポリオレフィン樹脂を溶解できる溶媒を用いることが望ましい。このような溶媒として、n−ヘプタン、n−ヘキサン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、アセトン、メチルエチルケトン、トルエン、酢酸エチル、メタノール、エタノール等の有機溶剤を用いることができるが、特にコスト、安全性、撥水性の発現効果等の面からシクロヘキサン、メチルシクロヘキサンとメチルエチルケトン、トルエンの混合溶媒が好ましい。
【0052】
コート液の塗工は、公知の任意の方法を採用しうる。例えば、グラビアコート法、吹き付け、バーコート法等を任意に採用しうる。
【0053】
コート液の塗布量は、付着防止層の所要の厚みに応じて設定すればよいが、乾燥後重量で0.1〜5.0g/m程度が好ましく、0.3〜3.0g/mがより好ましく、更には0.5〜2.0g/mの範囲に設定するのが最適である。0.1g/m未満の場合には、内容物付着防止効果が不十分になるおそれがある。他方、5.0g/mを超えるとコストアップを招くほか、ヒートシール性を低下させない為にバインダー成分を多くする必要があり、その場合、内容物付着防止効果が充分に得られない恐れが生じる。さりとてバインダー成分が過少である場合は、内容物付着防止層のそれ自体の組織強度、密着力が不十分なものとなり、結果的にその剥離や脱落の可能性が生じるため好ましくない。
【0054】
塗布後の乾燥工程も重要な要素をなす。もとより自然乾燥させても良いが、生産性、熱封緘層との密着性を高めるためには加熱乾燥させるべきであり、その場合の乾燥条件としては、温度80〜220℃、時間5〜180秒の範囲に設定するべきである。温度が上記下限値80℃より低いと乾燥工程に時間がかかり、時間が5秒未満では乾燥が不十分なものとなり、その後の取扱いにおいて付着防止層の部分的剥離や脱落を生じ易い。反面、乾燥温度を220℃を超える高い温度に設定したり、あるいは時間を180秒を超える時間に設定すると、疎水性無機微粒子が熱封緘層に沈み込み付着防止層の疎水性、撥水性が損なわれることが確認されている。
【実施例】
【0055】
次に、本発明の効果を確認するために、その各種の実施例を比較例との対比において示す。
【0056】
(蓋材本体の作製)
コート紙(55g/m2)と厚さ16μmのアルミ蒸着ポリエチレンテレフタレートフィルムを用い、それらをポリウレタン系ドライラミネート接着剤により貼合わせて基材層とした。
【0057】
次に、上記基材層のアルミ蒸着ポリエチレンテレフタレートフィルムにアンカーコート剤を塗布した後、更にその上にグラビアコート法により、ポリスチレン製容器の蓋材に適するものとして下記のラッカー型ヒートシール剤(A)(B)により、いずれも塗布量5g/mの熱封緘層を形成した。これによって得られた基材層/アンカーコート剤/熱封緘層の積層体をもって蓋材本体とした。
【0058】
〈熱封緘層〉
ラッカー型ヒートシール剤A:主成分がアクリル樹脂及びポリエステル樹脂から
なるヒートシールラッカー
ラッカー型ヒートシール剤B:主成分が酸変性ポリプロピレン樹脂(無水マイレ
ン酸グラフト変性 変性率1.0%)であり、こ
れに粘着付与剤、ブロッキング防止剤を加えてな
るヒートシールラッカー
【0059】
(付着防止層の形成)
付着防止層の材料として、下記のバインダー及び疎水性無機微粒子を用意した。
【0060】
〈バインダー〉
酸変性ポリオレフィン樹脂
酸変性PO(I):酸変性ポリプロピレン樹脂(無水マイレン酸グラフト変性
変性率0.5%)
酸変性PO(II):酸変性ポリプロピレン樹脂(無水マイレン酸グラフト変性 変性率1.0%)
酸変性PO(III):酸変性ポリプロピレン樹脂(無水マイレン酸グラフト変性
変性率2.0%)
未変性PO :ポリプロピレン樹脂(無水マイレン酸グラフト変性
変性率 0%)
【0061】
〈疎水性無機微粒子〉
SP(I):疎水性湿式シリカ 平均粒径 2700nm
SP(II):疎水性湿式シリカ 平均粒径 3900nm
SP(III):疎水性乾式シリカ 一次粒子平均粒径 7nm
【0062】
上記各種バインダーをメチルエチルケトンとメチルシクロヘキサンの50:50の混合溶媒で稀釈した溶液中に、疎水性無機微粒子を表1に示す各種配合割合で混合し、均一分散させてコート液を作製した。
【0063】
そして、これらの各種コート液を、蓋材本体の前記熱封緘層の外面にグラビアコート法により、表1に示すように塗布量、乾燥条件を各種に変えて塗布し、かつ強制乾燥して付着防止層を形成した。
【0064】
(作製試料の種類)
上記により得た表1に示す各種蓋材の試料1〜19のうち、試料1〜4は付着防止層におけるバインダーを変えて、試料5、6は疎水性無機微粒子を変えて、試料7、8、9は塗布量を変えて、試料10、11、12は疎水性無機微粒子とバインダーの配合比率を変えてその影響を調べたものである。試料13から熱封緘層を変更し、疎水性無機微粒子とバインダーの配合比率、塗布量を変えてその影響を調べた。さらに、試料18、19は乾燥条件を変えてその影響を調べたものである。
【0065】
(評価試験)
(1)付着防止性能
各試料No.1〜19の蓋材の裏面、即ち付着防止層の外面上に、アロエヨーグルト(森永乳業株式会社製 商標「森永アロエヨーグルト」)を約0.5ccの液滴として滴下し、試料をゆっくりと傾けたときに上記液滴が「転がりはじめたときの傾斜角度」を測定して、次の基準で判定評価した。
◎・・・30度以下
○・・・31度以上60度以下
△・・・61度以上90度以下
×・・・90度以上
【0066】
(2)シール性
試料No.1〜19の蓋材を、120〜180℃×0.2MPa×1.0secの熱圧シール条件で容器本体(ポリスチレン製容器)のフランジ面上にヒートシールした。
そして、付着防止層を設けていない蓋材本体のままの蓋材におけるシール強度(蓋材の耐剥離強度・密封性)を基準値として、シール強度の低下率を下記の基準で判定評価した。
◎・・・付着防止層なしのものとほぼ同等
○・・・強度低下10%未満
△・・・強度低下10%〜20%未満
×・・・強度低下20%以上
【0067】
(3)密着性
試料No.1〜19の各蓋材の付着防止層の面に、黒い布を巻き付けた重り(500g)を垂直に載せ、ゆっくりと長さ200mm擦り、布に付着したシリカを目視で確認した。
そして、黒い布における疎水性無機微粒子及び付着防止層の転移付着量(剥離量)を目視検査し、下記の評価基準で評価した。
◎・・・ほとんど付着なし
○・・・許容範囲と認められる僅かな付着あり
×・・・明らかに多くの付着あり
【0068】
上記(1)〜(3)の各評価試験の結果を、表2に示す。
【0069】
【表1】

【0070】
【表2】

【0071】
表2の「付着防止の性能」試験の結果に示すように、本発明による内容物付着防止蓋材においては、試料を僅かに傾けるだけでヨーグルト液滴が転がり移動を始める。このことは、ヨーグルト、プリン、ゼリー、カフェラッテ、ポーションミルク等の粘稠な液体成分を含むような内容物に対し、蓋材裏面への該内容物の付着防止効果に優れたものであることを示す。しかも「シール性」試験の結果に示すように、付着防止層の存在によってヒートシール性(シール強度)を大きく損なうことなく、良好な密封性を維持しつつ、上記付着防止性能を付与しうる。加えて、「密着性」試験の結果に見られるように、疎水性粒子及びそれを含む付着防止層の密着性が良好で、不本意な疎水性無機微粒子の分離脱落、付着防止層の部分剥離等のおそれがなく、長期に亘って内容物付着防止性能を安定に維持しうると共に、容器内への異物混入のおそれもない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも基材層と熱封緘層とを有する蓋材において、
前記熱封緘層の外面に付着防止層を有し、
該付着防止層は、疎水性無機微粒子と酸変性ポリオレフィン樹脂を主成分とするバインダーとの混合組成物からなることを特徴とする内容物付着防止蓋材。
【請求項2】
前記熱封緘層が、ポリエステル系樹脂、アクリル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、酸変性ポリオレフィン系樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体系樹脂、およびスチレン系樹脂のうちの1種または2種以上を主成分とするラッカータイプのヒートシール剤からなる請求項1に記載の内容物付着防止蓋材。
【請求項3】
前記酸変性ポリオレフィン系樹脂に含有される不飽和カルボン酸又はその無水物の量が、0.001〜3重量%である請求項1または2に記載の内容物付着防止蓋材。
【請求項4】
前記疎水性無機微粒子は、平均粒径1nm〜5,000nmである請求項1〜3のいずれか1項に記載の内容物付着防止蓋材。
【請求項5】
前記疎水性無機微粒子が疎水性シリカである請求項1〜4のいずれか1項に記載の内容物付着防止蓋材。
【請求項6】
前記疎水性無機微粒子は、平均粒径500nm〜5,000nmの疎水性湿式シリカである請求項5に記載の内容物付着防止蓋材。
【請求項7】
前記混合組成物は、前記酸変性ポリオレフィン系樹脂を主成分とするバインダーより疎水性無機微粒子を相対的に多く含む請求項1〜6のいずれか1項に記載の内容物付着防止蓋材。
【請求項8】
少なくとも基材層と熱封緘層とを有する蓋材の前記熱封緘層の外面に、酸変性ポリオレフィン樹脂を主成分とするバインダーのエマルジョンまたは溶液に疎水性無機微粒子を分散させて調製したコート液を、乾燥後重量で0.1〜5.0g/mとなるように塗布したのち、温度80〜220℃、時間5〜180秒の乾燥条件で乾燥させて付着防止層を形成することを特徴とする内容物付着防止蓋材の製造方法。
【請求項9】
前記熱封緘層が、ポリエステル系樹脂、アクリル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、酸変性ポリオレフィン系樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体系樹脂、およびスチレン系樹脂のうちの1種または2種以上を主成分とするラッカータイプのヒートシール剤からなる請求項8に記載の内容物付着防止蓋材の製造方法。
【請求項10】
前記酸変性ポリオレフィン系樹脂に含有される不飽和カルボン酸又はその無水物の量が、0.001〜3重量%である請求項8または9に記載の内容物付着防止蓋材の製造方法。
【請求項11】
前記コート液は、酸変性ポリオレフィン樹脂を溶解できる溶媒を用いたものである請求項8〜10のいずれか1項に記載の内容物付着防止蓋材の製造方法。
【請求項12】
溶媒がn−ヘプタン、n−ヘキサン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、アセトン、メチルエチルトルエン、トルエン、酢酸エチル、メタノール、およびエタノールのうちの1種または2種以上からなる請求項11に記載の内容物付着防止蓋材の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2013−35559(P2013−35559A)
【公開日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−172186(P2011−172186)
【出願日】平成23年8月5日(2011.8.5)
【出願人】(501428187)昭和電工パッケージング株式会社 (110)
【Fターム(参考)】