説明

内服液剤

【課題】 鉄剤、葉酸及び水を含有する内服液剤において、葉酸の経時的な含量低下が抑制された内服液剤を提供する。
【解決手段】 本発明の内服液剤は、鉄剤、葉酸及び水に加えてエリソルビン酸又はその塩を含有させることで葉酸の経時的な含量低下を抑制した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄剤、葉酸及び水を含有する内服液剤であって、葉酸の経時的な含量低下が抑制された内服液剤に関する。
【背景技術】
【0002】
人体に必要な栄養は、日常的にバランスの良い食事を摂ることで十分な量を摂取できる。しかし現在では嗜好や生活習慣により食事の内容に偏りが生じ、一部の栄養について摂取量が不十分な人が増加している。その中でも鉄と葉酸は造血と関係の深い栄養素であり、生理的な要因のため特に女性にとって不足しがちな栄養素である。
【0003】
葉酸は肝臓を始めとしてあらゆる臓器に存在し、不足すると貧血や胃潰瘍などの症状を引き起こす。また、妊婦が葉酸欠乏症になると胎児に先天性の脊椎奇形が生じるリスクが高まることが知られている。
【0004】
一方、鉄は主に血液中のヘモグロビン、筋肉中のミオグロビン、肝臓のフェリチン等、生体内に広く分布し、不足すると貧血や倦怠感などの症状を引き起こす。また、妊娠中は血液の増加や胎児への鉄分供給のため、妊婦は鉄欠乏症となりやすいことが知られている。
【0005】
こういった症状を予防または改善するためには、鉄と葉酸の両方を十分に摂取する必要がある。既に栄養補助食品として鉄剤と葉酸を含有する内服固形製剤が発売されている。また内服液剤は内服固形製剤と比べて吸収が早く、服用が容易であり、かつ良好な味を付与することもできることから、鉄剤と葉酸を含有する内服液剤についてもその開発が望まれていた。葉酸、鉄剤及び水を含有する内服液剤は既に知られている(特許文献1)。
【特許文献1】特開平11−1436号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、従来の葉酸、鉄剤及び水を含有する内服液剤においては、葉酸の含量低下については全く何の検討もされていない。
本発明者らが鉄剤、葉酸及び水を含有する内服液剤に関する研究を行ったところ、内服液剤中で鉄剤と共存している葉酸は経時的に著しい含量低下を生じることが判明した。
従って本発明の目的は、鉄剤、葉酸及び水を含み、葉酸の経時的な含量低下が抑制された内服液剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決すべく本発明者らが鋭意研究を行ったところ、鉄剤、葉酸及び水を含有する内服液剤に、エリソルビン酸又はその塩を含有させることにより葉酸の経時的な含量低下を顕著に抑制できることを見出し、本発明を完成した。
すなわち、本発明は、鉄剤、葉酸、エリソルビン酸又はその塩及び水を含有する内服液剤を提供するものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明の内服液剤は鉄剤、葉酸、エリソルビン酸又はその塩及び水を含み、なおかつ葉酸の経時的な含量低下が抑制されたものである。したがって本発明の内服液剤は長期間保存後に服用しても、貧血及び神経管閉鎖障害の予防といった葉酸の効果が発現される。また本発明の内服液剤は鉄欠乏症及び葉酸欠乏症を改善又は予防するための内服液剤としても有効である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明でいう鉄剤とは、水溶液中で鉄イオンを生じる物質を意味する。本発明の内服液剤に含有させる鉄剤としては、クエン酸鉄アンモニウム、フマル酸第一鉄、クエン酸第一鉄ナトリウム等が挙げられる。好ましくはクエン酸鉄アンモニウムが挙げられる。鉄剤の含量は内服液剤全量に対して0.005〜1質量%が好ましく、0.01〜0.5質量%がより好ましく、0.02〜0.2質量%が特に好ましい。
【0010】
本発明の内服液剤に含有させる葉酸の含量は内服液剤全量に対して0.00005〜0.004質量%が好ましく、0.0001〜0.002質量%がより好ましく、0.0003〜0.001質量%が特に好ましい。
【0011】
本発明においては、鉄剤と葉酸を含有する内服液剤における葉酸の含量低下を、エリソルビン酸又はその塩を配合させることにより抑制する点に特徴がある。エリソルビン酸は酸化防止剤として知られているが、同様に酸化防止作用を有することが知られているエデト酸ナトリウムでは鉄とキレートを形成して鉄イオンを不活性化してしまうため、鉄剤の効果が減少してしまう。また、クエン酸を配合しても十分な葉酸の含量低下抑制効果がなく、かつ大量に配合すると酸味が強くなるという欠点がある。
なお、本発明でいう葉酸の経時的な含量低下の抑制とは、製造後一定期間経過しても内服液剤中の葉酸が分解等により減少する量が少なく、葉酸が保持されていることを意味する。通常、該内服液剤製造後、例えば60℃で2週間経過後の葉酸の残存率は80%以上、特に90%以上が望ましい。
【0012】
本発明の内服液剤に含有させるエリソルビン酸又はその塩としては、例えばエリソルビン酸、エリソルビン酸ナトリウムが挙げられる。特に好ましくはエリソルビン酸ナトリウムが挙げられる。エリソルビン酸又はその塩の含量は葉酸の含量低下防止の点から、内服液剤全量に対して0.03〜2.7質量%が好ましく、0.07〜1.4質量%がより好ましく、0.1〜0.7質量%が特に好ましい。
【0013】
本発明の内服液剤に含有させる水の含量は内服液剤全量に対して80〜99.96質量%が好ましく、85〜99.9質量%がより好ましく、90〜99.9質量%が特に好ましい。
【0014】
本発明の内服液剤のpHは、葉酸の含量低下防止及び味の点から、4.5〜7の範囲内であるのが好ましい。更に好ましくはpH4.5〜6.5の範囲内であり、特にpH5〜6の範囲内であることが好ましい。鉄剤と葉酸を含有する水溶液における葉酸の含量低下は、pH4.5未満で特に著しい。また、pHが7を超えると味が悪化する傾向がある。
【0015】
本発明の内服液剤のpH調節には酸又は塩基あるいはそれらの塩を用いることができる。また、これらのうち1種または2種類以上を組み合わせて用いても良い。酸としては風味等の点から有機酸を用いるのが好ましい。好ましい有機酸としてはクエン酸、リンゴ酸、酒石酸などが挙げられ、クエン酸が特に好ましい。塩基としては水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム等が挙げられる。塩としてはクエン酸ナトリウム、リン酸水素ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム等が挙げられる。
【0016】
本発明の内服液剤には、上記成分の他にも通常内服液剤に配合可能な成分、例えばアミノ酸類、ビタミン、生薬、カフェイン類、ミネラル、各種添加剤等を所望に応じて配合させることが出来る。
アミノ酸類としては、アスパラギン酸、アルギニン、タウリン等が挙げられる。
ビタミンとしては、ビタミンE、ビタミンB6、ビタミンB12、ビオチン、パントテン酸カルシウム、ニコチン酸アミド、ビタミンP、及びこれらの誘導体等が挙げられる。
【0017】
生薬としてはホップ、ヨクイニン、大蒜、ロクジョウ、ニンジン、カンゾウ、タイソウ、シャクヤク、ショウキョウ、トウキ、エゾウコギ、ケイヒ等が挙げられる。
【0018】
カフェイン類としては、カフェイン、無水カフェイン、安息香酸ナトリウムカフェイン等が挙げられる。
【0019】
ミネラルとしては、アスパラギン酸マグネシウム、塩化ナトリウム、塩化カルシウム等が挙げられる。
【0020】
添加剤としては、矯味剤、甘味剤、安定化剤、増粘剤、着色剤、可溶化剤、香料等を例示することができる。
矯味剤としては、例えばメントール、グリチルリチン酸二カリウム等が挙げられる。
甘味剤としては、例えば白糖、マルチトール、ソルビトール、キシリトール、エリスリトール、マンニトール、サッカリンナトリウム、ステビア等が挙げられる。
安定化剤としては、例えばポビドン等が挙げられる。
増粘剤としては、例えばカルメロースナトリウム、寒天、ゼラチン、ポビドン、ポリビニルアルコール等が挙げられる。
着色剤としては、例えばタール色素、カラメル等が挙げられる。
可溶化剤としては、例えばポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ショ糖脂肪酸エステル等の非イオン系界面活性剤、レシチン、ポビドン等が挙げられる。
香料としては、例えばコウチャフレーバー、ジンジャーフレーバー、シソエッセンス、アップルフレーバー、パイナップルフレーバー等が挙げられる。
【0021】
本発明の内服液剤は通常の方法で製造することが可能であり、製造方法は特に限定されない。鉄剤と、エリソルビン酸又はその塩及びその他の原料を含有する水溶液をpH4.5〜7に調節した後に、葉酸を配合し、必要に応じて水を加えてさらにpHを調節することにより製造するのが好ましい。より詳細には、例えば、鉄剤、エリソルビン酸及びその他の原料を適量の精製水で溶解させる。続いて該溶液をpH4.5〜7に調節した後、葉酸を溶解させた上で必要に応じてpHを調節する。残りの精製水を加えて該溶液の容量調整を行い、必要に応じて濾過、加熱殺菌処理することにより目的の内服液剤が得られる。
【実施例】
【0022】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれら実施例により何ら限定されるものではない。
【0023】
実施例1
精製水20mLに、クエン酸鉄アンモニウム(クエン酸鉄アンモニウム・昭和化工製)36mg、エリソルビン酸ナトリウム(エリソルビン酸ナトリウム・和光純薬製)90mg、クエン酸150mgを加え、攪拌溶解する。これに水酸化ナトリウムを加えpH5.0に調節し、葉酸(葉酸・ロシュビタミン製)0.2mgを加え、攪拌溶解する。更に精製水(常温)適量を加えて全量30mLとして内服液剤を製造した。該液剤のpHは5.1であった。
【0024】
実施例2
表1の処方に従い、エリソルビン酸ナトリウムを180mg加える他は実施例1と同様に内服液剤を製造した。該液剤のpHは5.1であった。
【0025】
比較例1
表1の処方に従い、エリソルビン酸ナトリウムを加えない他は実施例1と同様に内服液剤を製造した。該液剤のpHは5.1であった。
【0026】
比較例2
表1の処方に従い、エリソルビン酸ナトリウムを加えずに亜硫酸水素ナトリウムを90mg加える他は実施例1と同様に内服液剤を製造した。該液剤のpHは5.1であった。
【0027】
比較例3
表1の処方に従い、エリソルビン酸ナトリウムを加えずに亜硫酸水素ナトリウムを180mg加える他は実施例1と同様に内服液剤を製造した。該液剤のpHは5.0であった。
【0028】
試験例
実施例1、2及び比較例1〜3で得られた内服液剤を60℃で1週間または2週間暗所保存した後、各内服液剤の葉酸含量をHPLC法により測定した。各内服液剤の製造直後における葉酸含量に対する残存率として算出したものを表1に示す。
【0029】
【表1】

【0030】
以上の結果より、エリソルビン酸ナトリウムを含有する本発明の内服液剤(実施例1、2)は、エリソルビン酸ナトリウムを含有しない内服液剤(比較例1)やエリソルビン酸ナトリウムの代わりに一般的に酸化防止剤として用いられる亜硫酸水素ナトリウムを含有する内服液剤(比較例2、3)と比べて内服液剤に含有される葉酸の残存率が高いことが分かった。よって本発明の内服液剤は葉酸の経時的な含量低下が抑制されることが確認された。
【0031】
pHを4.5未満、特に4以下にした場合、顕著な葉酸含量低下が観察された。
また、エリソルビン酸ナトリウムに代えてエデト酸ナトリウムを配合した場合には、鉄との相互作用が生じ、有効成分としての鉄の含量が低下した。
エリソルビン酸ナトリウムを加えずクエン酸を加えた場合には、クエン酸を内服液剤30mL中1200mgという大量配合しても十分な葉酸含量低下抑制効果が得られなかった。
【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明の内服液剤は鉄剤と葉酸を含有し、葉酸の経時的な含量低下が抑制された内服液剤であり、医薬品、医薬部外品、食品等として提供できる。従って本発明の内服液剤は、産業上有用なものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄剤、葉酸、エリソルビン酸又はその塩及び水を含有する内服液剤。
【請求項2】
内服液剤のpHが4.5〜7である請求項1記載の内服液剤。
【請求項3】
葉酸の経時的な含量低下が抑制された内服液剤である請求項1又は2記載の内服液剤。
【請求項4】
鉄欠乏症及び葉酸欠乏症を改善又は予防するための内服液剤である請求項1〜3のいずれか1項記載の内服液剤。
【請求項5】
鉄剤の含量が内服液剤全量に対し、0.005〜1質量%である請求項1〜4のいずれか1項記載の内服液剤。
【請求項6】
鉄剤が、クエン酸鉄アンモニウムである請求項1〜5のいずれか1項記載の内服液剤。
【請求項7】
葉酸の含量が内服液剤全量に対し、0.00005〜0.004質量%である請求項1〜6のいずれか1項記載の内服液剤。
【請求項8】
エリソルビン酸又はその塩の含量が内服液剤全量に対し、0.03〜2.7質量%である請求項1〜7のいずれか1項記載の内服液剤。
【請求項9】
エリソルビン酸又はその塩が、エリソルビン酸ナトリウムである請求項1〜8のいずれか1項記載の内服液剤。

【公開番号】特開2007−31369(P2007−31369A)
【公開日】平成19年2月8日(2007.2.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−218472(P2005−218472)
【出願日】平成17年7月28日(2005.7.28)
【出願人】(000163006)興和株式会社 (618)
【Fターム(参考)】