説明

内燃エンジンの異常燃焼を検出し特徴付ける方法

【課題】燃焼指標を使用して、火花点火型内燃エンジンの異常燃焼の検出および特徴づけの方法を提供する。
【解決手段】燃焼状態を表す信号から推測可能な燃焼指標が選択される。各次元が燃焼指標の1つに対応している多次元空間が定められ、閉じた面が、正常な燃焼に対応する点を囲み、異常な燃焼に対応する点を囲まないように、空間内で定められる。それから、エンジン周期の各燃焼について、周期の燃焼がこの多次元空間内の点で表される。面に対するこの点の位置が求められ、燃焼の異常な特性がこれらから推測される。この点と面との間の距離が求められ、異常な特性の深刻さがこれらから推測される。最後に、異常な特性の深刻さの関数として検出される異常燃焼の進行が制御される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃エンジンの燃焼段階の制御の分野に関する。本発明は、低速度で高負荷時のそのようなエンジンの燃焼室内の過早着火型の異常燃焼を検出する方法に特に関する。
【0002】
本発明は、特に、非常に高負荷の下で作動する小型化された火花点火型エンジンに適用される方法に関するが、しかしこれには限定されない。
【背景技術】
【0003】
火花点火エンジンは、(濃さ1での)動作モードとその簡易で低コストの後処理システムとの間の良好な調和のおかげで局所的な排気物(HC、CO、およびNOx)を制限する利点がある。この重要な利点以外では、これらのエンジンは、当該エンジンと競合しているディーゼルエンジンが平均で20%少ないCO2の排出を達成できるため、温室ガス排出に関して悪く位置づけられる。
【0004】
小型化と過給との組み合わせは、火花点火エンジンの燃費を低減するためのますます普及しつつある解決策の1つである。残念なことに、これらのエンジンにおける従来の燃焼機構は、異常燃焼によって乱されることがある。この種類のエンジンは、シリンダの内部の側壁と、このシリンダ内を摺動するピストンの上部と、シリンダヘッドとによって定められた燃焼室を有する少なくとも1つのシリンダを含む。一般的に、燃料混合気はこの燃焼室に入れられ、圧縮ステージ、そして点火プラグによる火花点火の効果の下での燃焼ステージを経る。これらのステージは、本明細書の以降の部分では、「燃焼段階」という用語の下で1つにまとめられている。
【0005】
この燃料混合気は様々な種類の燃焼を経ること、および、これらの燃焼の種類は様々な圧力レベル、場合によってはエンジンに深刻な損傷を与えることのある機械的ストレスおよび熱的ストレスの少なくとも一方の原因であることが観察されてきた。
【0006】
従来の燃焼または正常な燃焼と呼ばれる第1の種類の燃焼は、前の圧縮段階中に圧縮された燃料混合気の燃焼の伝搬の結果である。この燃焼は通常、プラグで発生した火花から火炎前面において伝搬し、エンジンを損傷する危険はない。
【0007】
他の種類の燃焼は、燃焼室内の望ましくない自己着火に起因するノッキング燃焼である。したがって、燃料混合気の圧縮段階後に、この燃料混合気に着火できるようにプラグが作動する。ピストンによって発生する圧力と燃料混合気の燃焼の開始によって放出される熱との効果の下で、圧縮されている燃料混合気の突然で局所的な自己着火は、点火プラグによる燃料混合気の点火に起因する火炎前面が近づく前に発生する。このメカニズムは、エンジンノックと呼ばれ、局所的な圧力と温度との上昇につながり、反復して発生すると、エンジン、特にピストンに破壊的な影響を及ぼす。
【0008】
最後に、他の種類の燃焼は、点火プラグが燃焼室内に存在している燃料混合気に点火する前の、燃料混合気の過早着火による異常燃焼である。
【0009】
この異常燃焼は特に小型化されているエンジンに影響する。この小型化は、従来のエンジンと同じ出力および同じトルクの少なくとも一方を維持しながら、エンジンの大きさおよび排気量の少なくとも一方を減少させることを意図している。一般的にこの種類のエンジンは本質的にガソリン形式であって、非常に過給されている。
【0010】
この異様燃焼は、エンジンノックのせいで燃料混合気の燃焼のタイミングが最適にできないときに、高負荷でそして一般的に低エンジン回転数で発生することが観察されてきた。過給の結果として燃焼室内で達する高圧と高温とを考慮すると、異常燃焼は、燃料混合気の点火プラグによる点火のかなり前に、散発的にまたは連続的に始まる可能性がある。この燃焼は、従来の燃焼の最初の火炎伝搬に対して始まるのが早過ぎる最初の火炎伝搬段階によって特徴付けられる。この伝搬段階は、エンジンノックの場合よりもはるかに多く燃焼室内に存在している燃料混合気の大部分(深刻なノックの極端な場合には5から10%であるのに対し、最大50%)が関わる自己着火によって遮られる可能性がある。
【0011】
この異常燃焼が、エンジン周期からエンジン周期にわたって反復して、そしてたとえばシリンダの高温の部分から始まる場合、これは「高温表面過早着火」と呼ばれる。この燃焼が無作為に散発的に突然発生する場合、「ランブル」と呼ばれる。
【0012】
後者の異常燃焼は、ピストンやピストンロッドなどのエンジンの可動構成要素の部分的なまたは完全な破壊の原因になる可能性のある、非常に高い圧力レベル(120から250バール)および熱伝導の増加を引き起こす。この過早着火の型式は、現在、火花点火エンジンの小型化を実際に制限している要因である。これは、多くの原因を有する可能性のある非常に複雑な現象である。この発生を説明するためにいくつかの仮定が文献において示唆されてきたが、これまで明確に確認されたものはなく、これらの潜在的な原因のいくつかが同時に発生し、互いに影響し合うようにさえ見える。この相互作用、現象の過激さ、およびその確率的な性質のためにその分析は非常に困難である。さらに、この問題についての全てのさまざまな研究は、これらの異常燃焼に対して固有の識別の問題にぶつかっている。所与のサンプル内の各燃焼の性質を見極めることができない限り、エンジンが過早着火に対して他のエンジンよりも影響を受けやすいかどうかを見分けるのは実際に困難である。
【0013】
これらの異常燃焼を数と強度とにおいて検出し特徴付ける方法がそのため非常に不可欠であって、それは、そのような方法が正確にこの階層構造を確立でき、エンジンの設計と調整を改善できるようにする道筋を特定できるからである。この作業は、台上試験用のエンジンの開発中に特に興味深い。
【0014】
これらの異常燃焼を扱う一般的な方法を図1に模式的に示しており、最初の段階が現象の発生の最大の危険性を制限する防止段階(PP)であり、それから、現象を回避するのに防止が十分でない場合の検出段階(PD)があり、そして過早着火が検出されたまさにその周期において修正段階(PC)によって介入するのが適切かどうかを決定する。
【0015】
検出段階は、信号の取得段階と、過早着火の特徴付けと定量化のための高負荷時の過早着火の発生の検出を可能にする、その次の信号処理段階とを有している。
【0016】
特許文献1には、高負荷時のランブル型の過早着火の発生を検出する方法が記載されている。この方法は、燃焼の進行に関する信号の計測値と閾値信号との比較に基づいている。信号の振幅が閾値信号の振幅を際だって超えているときには、ランブル型の異常燃焼が燃焼室内に存在することが検出される。本方法によれば、閾値信号は、ノッキング燃焼または正常な(従来の)燃焼時に発生する信号の振幅に相当する。
【0017】
しかし、この方法によれば、このようにして達成される検出によって検出周期自体の間に対応することはできない。このような種類の過早着火に対する修正動作は、そのような現象が発生した後で始めて実施可能であり、そしてそれは、エンジンの完全性を大きく損なうかもしれない。
【0018】
他の方法が特許文献2にも記載されている。本方法によれば、過早着火の検出後により素早く動作を行うことが可能で、現象が検出された周期と同じ周期中に動作することができる。そのため閾値信号が最初に、つまりエンジン動作前に計算され、それから計算機の、マップと呼ばれるデータチャートに保存される。
【0019】
しかし、エンジンマップを使用する場合、そのような現象の開始を任意の時間に、つまりリアルタイムで検出することはできない。そのため、検出が遅すぎることがある。さらに、現象の進展の定量化を行うことができない。したがって、修正段階の適用が必要かどうかは、所与の瞬間の2つの振幅の比較のみに基づいている。そのため、そのような現象がエンジンの損傷の原因にならずに始まり終了するかもしれず、そのため修正段階を必要としないこともある。
【0020】
特許文献3では、いくつかの燃焼指標を使用した火花点火型内燃エンジンの異常燃焼検出方法が開示されている。本方法によれば、CA10やMIPなどのいくつかの燃焼指標が求められ、これらの指標は変換されていない通常の燃焼指標の分散よりも小さい分散を有する新しい複数の指標に変換される。それから、進行中の周期に先立つN周期にわたって得られたこれらの新しい燃焼指標のN個の値の分布を特徴付けるパラメータが求められる。その後、このパラメータを閾値と比較することによって異常燃焼の開始が検出され、燃焼室で検出された異常燃焼の進行が制御される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0021】
【特許文献1】欧州特許出願公開第1,828,737号明細書
【特許文献2】仏国特許発明第2,897,900号明細書
【特許文献3】仏国特許出願公開第2,952,678号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0022】
これらの従来の方法の目標は、検出された現象の強烈さ(強度)の良好な指標を提供することなく、過早着火の発生頻度を定量化することである。ここでは、潜在的な過早着火の頻度と強度とが既知の場合にのみ、シリンダヘッドの寸法が適切に設定される。
【0023】
したがって、本発明の目的は、検出周期と同じ周期中に以降の動作段階で異常燃焼が発生しないようにできる措置を取るように、エンジンで一般的に使用される装置およびシステムを使用して、リアルタイムで異常燃焼の発生を検出し、発生頻度とその強度とを特徴付けることできる方法である。本方法は、各次元が燃焼指標に対応している多次元空間の定義と、この空間内で、正常な燃焼と異常な燃焼とを区分する閉じた面の定義とに基づいている。この面に対する燃焼に対応する点の位置および距離によって、この燃焼の異常な性質ばかりでなくこの異常な性質の深刻さを認定することができる。
【課題を解決するための手段】
【0024】
本発明は、火花点火型内燃エンジンの燃焼を制御する方法であって、燃焼の状態を表す少なくとも1つの信号がエンジン内に配置された少なくとも1つの検出器によって記録される方法に一般的に関する。本方法は、
信号から推測可能な燃焼指標を選択するとともに、各次元が複数の指標の1つに対応しかつ任意の燃焼がある点によって表される多次元空間を定めるステップと、
複数の正常な燃焼に対応している複数の点を囲み、複数の異常な燃焼に対応している複数の点を囲まないように、空間内で閉じた表面を定めるステップと、を有する。
【0025】
それから、エンジン周期の各燃焼について、
その周期の燃焼を、この燃焼について複数の指標を求めることによって、多次元空間内の点で表すステップと、
面に対して点の位置を求め、それから燃焼の異常な特性を推測するステップと、
点と面との間の距離を求め、それから異常な特性の深刻さを推定するステップと、
異常な特性の深刻さの関数として検出される異常燃焼の進行を制御するステップと、を有している。
【0026】
一実施態様によれば、面は、
面を定める方程式であって、少なくとも1つのパラメータを有する方程式を選択するステップと、
正常な燃焼と異常な燃焼とがわかる一揃いの燃焼を実施し、一揃いの燃焼を複数の点の群を構成するように多次元空間内で表すステップと、
主成分分析によって複数の点の群の複数の主方向を求め、各主方向における複数の点の分散を求めるステップと、
各主方向における表面の範囲がこの方向の分散に等しくなるようにパラメータを修正するステップと、を実行することによって定義される。
【0027】
本実施態様によれば、パラメータを修正する前に、乗算係数を定義し各分散に対して適用できる。この乗算係数は2.4と2.6との間で選択され、好ましくは2.5とすることができる。
【0028】
本発明によれば、面は新しい燃焼から得られた点から更新することができる。この表面は2次型式の面とすることができる。
【0029】
最後に、一実施態様によれば、複数の指標は正規化されている。
【0030】
本発明のその他の特徴と利点は、添付の図面を参照して、以降の説明を読むことで明らかになろう。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】過早点火型の異常燃焼の処理の一般的な方法を示す図である。
【図2】本発明の検出方法を使用しているエンジンの図である。
【図3】過早着火を伴う動作点上で計算されたデータの3次元表現の例である。
【図4】さまざまな動作点で得られた正規化されたデータの重ね合わせを示す図である。
【図5】複数の主方向の識別の例であって、右側の図にズームしている図である(尺度が異なるため主軸は直交している様に見えないかもしれない)。
【図6】正常な面の最適な厚さの決定を示す図である。
【図7】乗算係数2.5を使用する2次面によって正常な燃焼の包絡面の予測を示す図である。
【図8】正常な燃焼までの過早着火の距離(円の大きさで表している)を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
図2において、特にガソリン型の火花点火型過給内燃エンジン10は、過給された空気と燃料との混合気の燃焼が発生する燃焼室14を備える少なくとも1つのシリンダ12を有する。
【0033】
シリンダ12は、加圧されている燃料を供給する、たとえば燃焼室14内に開口している弁20によって制御されている燃料噴射ノズル18の形態の少なくとも1つの手段16と、プレナム26b(不図示)によって終わっている吸気パイプ26に付属している弁24を備える少なくとも1つの空気供給手段22と、弁30および排気パイプ32を備える少なくとも1つの燃焼気体排気手段28と、燃焼室14内に存在している点火される燃料混合気に点火することができる1つまたは2つ以上の火花を発生できる点火プラグなどの少なくとも1つの点火手段34と、を有する。
【0034】
このエンジン10の排気手段28の排気パイプ32は排気ライン38にそれ自体が接続されている排気マニフォールド36に接続されている。例えばターボ過給器といった過給装置40が、この排気ライン38上に配置されており、排気ライン38内を循環している排気によって掃気されるタービンを備える駆動場所42と、加圧された吸気を複数の吸気パイプ26を通して燃焼室14に供給できるようにしている圧縮場所44とを有している。
【0035】
エンジン10は、エンジン10のシリンダ12の中に配置された、シリンダ圧力を計測する手段46aを有している。これらの計測手段は、一般にシリンダ12内の圧力の変化を表す信号を生成可能な圧力検出器からなる。
【0036】
エンジン10は、プレナム26b内に配置された、吸気圧力を計測する手段46bも有することができる。これらの複数の計測手段は、一般に、吸気プレナム26b内の吸気圧力の変化を表す信号を生成可能な圧電型の絶対圧力検出器からなる。
【0037】
エンジン10は、エンジン計算機と呼ばれる計算と制御のユニット48も有している。ユニット48は、エンジン10の様々な装置と検出器に導線(そのうちいくつかは双方向)によって接続されている。そして、ユニット48は、水温または油温などの、検出器から出力される様々な信号を受信し、計算によってそれらを処理し、それからエンジン10が確実に円滑に動作するようにエンジン10の構成要素を制御する。
【0038】
したがって、図2に示している例の場合では、点火プラグ34は、燃料混合気の点火の時刻を制御するように導線50によってエンジン計算機48に接続されている。シリンダ圧力検出器46aは、シリンダ12内の圧力の変化を表す信号をエンジン計算機48に送信するように線52によってこのエンジン計算機48に接続されている。複数のインジェクタ18を制御する弁20は、燃焼室14内の燃料噴射を制御するように導線54によって計算機48に接続されている。手段46bは線53によってエンジン計算機48にも接続されている。
【0039】
そのようなエンジンにおいて、本発明の方法によって、いくつかの燃焼指標(CA10、MIP等)の値の同時の特徴付けを使用して、(ランブル型の)高負荷時の過早着火現象の発生を検出し、過早着火現象の発生の頻度と強度とを特徴付けることができる。
【0040】
異常燃焼を扱う一般的な方法は、いくつかのステップを有している。
【0041】
第1のステップは、過早着火の発生の危険性を最大に限定するように構成されている防止動作に関連している。
【0042】
この防止ステップが十分でない場合、過早着火の物理的な検出の第2のステップをたとえば検出器の選択によって実施しなければならない。
【0043】
データ処理の次のステップは過早着火の特徴付けを可能にしなければならない。そして、最後に、
過早着火が検出された周期内でまたは続く周期内で介入するのが適切かどうかを決めるために補正動作の最後のステップが実施される。
【0044】
本発明は第3のステップの範囲に該当する。実施態様によれば、本方法は以下のステップを有している。すなわち、
燃焼の状態を表している少なくとも1つの信号(シリンダ内の圧力)をエンジン内に配置された少なくとも1つの検出器によって記録するステップと、
この信号から推測される複数の燃焼指標を選択するとともに、各次元が複数のその指標の1つに対応し、かつ任意の燃焼がある点によって表される多次元空間を定めるステップと、
複数の正常な燃焼に対応している複数の点を囲み、複数の異常な燃焼に対応している複数の点を囲まないように、前記空間内で閉じた面を定めるステップと、を有し、
それから、エンジン周期の各燃焼について、
進行中の周期の燃焼をこの燃焼について複数の指標を求めることによって、多次元空間内のある点で表すステップと、
面に対して点の位置を求め、それから進行中の燃焼の異常な特性を推測するステップと、
点と面との間の距離を求め、それから異常な特性の深刻さを推定するステップと、
異常な特性の深刻さの関数として検出される異常燃焼の進行を制御するステップと、を有する。
【0045】
燃焼の状態を表している少なくとも1つの信号は、エンジン内に配置された検出器によって記録される。一実施形態によれば、シリンダ圧力が選択される。シリンダ圧力はシリンダ圧力計測手段46aを使用して計測される。シリンダに圧力計測装置を設けることは乗り物においてますます一般的になっている。
【0046】
本発明によって、瞬間トルク、瞬間エンジン回転数、振動レベル(加速検出器)、イオン化信号などの、シリンダ圧力以外の計測値を使用することが可能になる。
【0047】
それから予備段階(以降の1と2)が異常燃焼の実時間検出に先立って実行される。
【0048】
(1−燃焼指標の選択と多次元空間の定義)
この段階において、計測された信号から推測される複数の燃焼指標が選択される。そして、各次元が複数の指標の1つに対応し、かつ任意の燃焼がある点によって表される多次元空間が定められる。
【0049】
一実施形態によれば、CA10が選択される。CA10は、送られた供給物の10%だけが消費されるクランク角度位置を表している。したがって、過早着火などの燃焼の開始時に発生する異常を明確にするのに非常に適している。
【0050】
しかし、単純な過早着火の特定は十分ではなく、それは目指している目標がこれらの異常燃焼の危険性を特徴付けることでもあるからである。したがって、過早着火の強度を明示的に表す複数の変数も選択する必要がある。
【0051】
図3は過早着火を伴う動作点上で計算されたデータの3次元表現の例である。CA10に加えて、CA10における圧力(PCA10)と圧力微分値(DPCA10)の値が選択されている。直感的に、CA10の位置での圧力と圧力微分が取る値が、周期中で以降にそれらが取る値、特にそれらの最大値の決定因子であることが理解される(言い換えると、開始時に強い燃焼は終了時にも強い確率が高い)。
【0052】
本発明は、他の燃焼指標も使用することができる
シリンダ圧力から:MIP、最大シリンダ圧力、最大圧力でのクランク角度、CAxx、最大エネルギー放出量
瞬間トルクから:最大トルク、最大トルク導関数
瞬間エンジン回転数から:最大回転数、最大加速度
燃焼室の容積、特定の時点(たとえばCA10の時点)での容積勾配
様々な動作点の位置で、そして、様々なエンジンと様々な燃料で、図3のような3次元データ表現のために5〜6回の試験が実施された。これらの試験は、様々な変数の相関を明確にし、データの正規化によってこれらの傾向が反復可能であることを系統的に示すことができた。図4は、様々な動作点で得られた、正規化されたデータ(CA10n、PCA10n、DPCA10n)の重ね合わせを示している。正常な燃焼は、空間のかなり小さい領域を占めており、密集しているデータの群を構成しているのに対して、過早着火はこの群から離れる傾向にある(遅い燃焼のようであるが、より低い程度で)。
【0053】
(2−正常な燃焼を区分する閉じた面の定義)
本発明の1つの目標は、正常な燃焼に対する距離の点から異常な燃焼についての情報を後でより容易に抽出できるように、正常な燃焼を区分することである。
【0054】
そのため、閉じた面は、複数の正常な燃焼に対応している複数の点を囲み、かつ複数の異常な燃焼に対応している複数の点を囲まないように多次元空間内で定められる。
【0055】
したがって、正常なエンジン燃焼に対応している点の第1の集合と、異常なエンジン燃焼に対応している第2の集合とを使用することができる。これらの集合は多次元空間内で表されており、第1の集合に該当する複数の点を囲みかつ第2の集合の点を避ける面が調整される。
【0056】
区分が2段階で実施される実装例を以下に示す。すなわち、
i.まず、データの集合内に存在している複数の主方向を識別することによって(図5の複数の白抜き矢印によって表されている複数の方向)、
ii.それから、正常な燃焼の適切なモデル化を決めることによって(図7)実施される。
【0057】
各燃焼は、座標が前の段階で計算された指標の複数の値である多次元空間内の点で表される。5〜6回の繰り返しの後、燃焼はこの表現空間内で複数の群を構成する。
【0058】
まず、複数の点のこの群の複数の主方向、つまり群が延びている複数の方向、言い換えると分散が最大の複数の方向が求められる。例によれば、複数の主方向の識別は、主成分分析(Principal Component Analysis:PCA)アルゴリズムによる堅牢な方法によって実施される。他のアルゴリズムを使用してもよい。
【0059】
図5は複数の主方向の識別の例を示している。複数の主方向は白い矢印で示されている。それらは直交しているように見えないかもしれないが、それは尺度が異なるためである。
【0060】
それから、包絡面(面)が正常な燃焼に対応している複数の点の周りに構成される。大き過ぎることもなく(過早着火を含む危険性がある)、小さ過ぎることもない(正常な燃焼を異常と見なして過早着火の数を過大に評価する危険性がある)この最適な面を正しく求めることが必須である。この包絡面を構成するために、包絡面の形状が選択され、それから、群の複数の主方向に沿った複数の点の群に調整される。
【0061】
例によれば、最初の3つの主方向が計算され、2次の型の包絡面が選択される(他の種類の面も使用できる)。2次曲面、すなわち2次の面は、3次元ユークリッド空間の面であって、2次の直角座標方程式を満たす複数の点の軌跡である。例として、楕円面、双曲面、楕円放物面、双曲放物面、円柱(楕円、双曲、または放物)を挙げることができる。
【0062】
それから、2次曲面の中心が群の中心に配置されるように2次曲面の複数のパラメータが調整される。
【0063】
楕円面の場合には、方程式は次のようになる。
【0064】
【数1】

【0065】
x、yおよびzは中心が点の群の中心である正規直交枠を構成している3つの主方向を表しており、
a、bおよびcは調整される2次曲面のパラメータである。
【0066】
それからデータの分散(たとえば標準偏差)が各主方向において予測される。この予測は、PCAの後で、つまり主方向の決定と同時に実行されるのが有利である。各主方向x、yおよびzの分散は2次曲面の範囲を定めており、パラメータa、bおよびcは方向x(それぞれyとz)の2次曲面の範囲が方向x(それぞれyとz)の分散に等しくなるように選択されている。
【0067】
一実施形態によれば、乗算係数は、計算された分散に対して計算される。この乗算係数を徐々に増加させることによって、正常な燃焼を囲んでいる表面の大きさを増加させることができる。したがって、楕円面型の2次曲面の例によれば、パラメータa、bおよびcは、方向x(それぞれyとz)の2次曲面の範囲が方向x(それぞれyとz)の分散と乗算係数との積に等しくなるように選択されている。
【0068】
正常な燃焼と過早着火の燃焼とがわかっている合成データの集合を使用することで、複数の乗算係数を定めることができる。確認された結果を図6に示している。目的は、正常な面内に含まれている点の数(n)を表す曲線(C)の屈曲部分(PI)を乗算係数(CM)の関数として求めることである。実際に、この屈曲部分は、正常な面の大きさを増加させても、この面に入っていく点が少なくなる時点に対応している。正常な燃焼と、分散がはるかに大きく、そのため正常平面に含めるためにはより大きな乗算係数を必要とする異常な燃焼との間の分離が行われる。この図では、2.5の乗算係数によって全ての異常燃焼を含めることができる。手動で生成されたほぼ600のデータの集合に適用されたある手続きも、値が約2.5(2.4と2.6との間)で同じ結果に到達した。
【0069】
図7は乗算係数2.5を使用した2次曲面による正常な燃焼の包絡面の予測を示している。
【0070】
異常燃焼の各周期の検出段階の前に定められるこの面は、進行中の周期より以前の複数の周期の複数の燃焼の点の群に統合することによって各周期で洗練される。
【0071】
いったんこれらの予備段階(多次元空間と基準面との定義)が実行されると、信号から各エンジン周期で異常燃焼を検出することができる。
【0072】
(3−異常燃焼の識別と認定)
各周期中に、信号からそして各燃焼について複数の燃焼指標が計算される。以下のステップが開始される。すなわち、
進行中の周期の燃焼を、この燃焼について複数の指標を求めることによって、多次元空間内の点で表すステップ、
面に対して点の位置を求め、それから進行中の燃焼の異常な特性を推測するステップ、
点と面との間の距離を求め、それから異常な特性の深刻さを推定するステップ、である。
【0073】
点から楕円までの距離を計算する方法はたとえば、David Eberly、2011、「Distance from a Point to an ellipse, an ellipsoid or a Hyperellipsoid:点から楕円、楕円体、または超楕円体までの距離」、Geometric Tools、LLCに記載されている。度数がdgの2次曲面の場合、計算モードは、同じパラメータa、bおよびcを使用して点から楕円面までの距離d1を計算することにあり、正確な距離の良好で実用的な近似となる。他の考え得る計算の種類は、2次曲面の中心と対象の点とを接続する半径方向の線を求め、対象の点と、2次曲面と半径方向の線との間の2つの交点(半径方向の線は面と2つの点で一般的に交差し、一方の点は近く、他方の点は遠い(中心の他方の側)。より近い点までの距離を採用するほうがよい)との間の最も短い「半径方向」の距離d2を計算し、2つの距離d1とd2のうち短い方を考慮することにある。したがって、距離はわずかに過大に見積もられており、実現される検出の保護的な局面を維持している。
【0074】
この距離は、各周期の燃焼の指標である。燃焼を特徴付けている点が群の外側にあることをこの距離が表している場合、これは過早着火であり、距離が長くなるほどこの現象の強度が高くなることを表している。
【0075】
5〜6個の変数を同時に考慮することによって、この距離による「組み合わされた」基準を(たとえ、これらのさまざまな変数を部分的に修正しなければならないとしても)構築することができる。
【0076】
図8は、さまざまな周期を表すのに使用されている複数の円の大きさによってこの距離を示している。この図はCA10を周期NbCの関数として示している。したがって、予測される結果が得られ、つまり過早着火が周期内でより早く発生すると(低いCA10)、強度が高くなる(大きな円)可能性が大きくなる。
【0077】
しかし、本発明の方法によって、これらの様々な過早着火をよりよく分類することが可能で、それは正常な燃焼との距離がCA10のみに依存しているのではなく、5〜6個の組み合わされている変数にも依存しているからである。言い換えると、処理手続きによって、様々な大きさの、つまり様々な強度の同様のCA10の値の円を有している周期を分離することができる。図8の下部にある2つの例が、同じCA10(約374CAD)の位置で選択されている650周期と671周期のこの現象を示している。CA10の値は等しくても距離は異なることをはっきり認識することが重要である。
【0078】
特に注意する点:本方法は以下の5〜6個の自由度を有している。
【0079】
使用される変数の数、
主方向の特定方法、
正常な燃焼のモデル化の方法と種類、
点からモデル化された面までの距離の計算方法。
【0080】
本方法の他の利点は、図8の上部からわかるように、遅い燃焼も目立っており、それはそれらの正常な燃焼への距離が異常に長いためである。したがって、この方法は遅い燃焼と燃焼の失火とを特徴付けるのにも使用可能である。「遅い燃焼」は点火プラグによって適切に開始されたが、進行が遅く、効率の低下につながる燃焼と理解される。「燃焼失火」は、(たとえば既定の濃さのせいで)点火プラグによって開始されない燃焼と理解される。シリンダ圧力の見地から、単純な圧縮/膨脹(またはよくても非常に弱い燃焼)が観測される。
【0081】
これら2つの燃焼の型には過早着火のような危険は伴わないが、それらの検出が重要ではないわけではなく、なぜなら、それらは燃焼の失火の結果としての低い効率または高い排出レベルを意味しているからである。
【0082】
(4−異常燃焼の制御)
最後に、その異常な特性の深刻さの関数として検出される異常燃焼の進行は制御される。
【0083】
面に対する位置によって、エンジン計算機48は、燃焼室14内の「過早着火」型の異常燃焼の開始を検出することが可能で、面との距離によって、この異常燃焼の深刻さを検出することができる。
【0084】
異常燃焼の場合、その深刻さが確定されると、それからこの計算機48は、そのような燃焼の継続を避けるために、この燃焼を制御するのに必要な措置を講じる。
【0085】
異常燃焼の制御は、突然の破壊的な圧力の増加を避けるためにこの燃焼の進行を制御する可能性だけではなく、たとえば酸素遮断によってそのような燃焼を完全に止めることも指す。
【0086】
この燃焼制御は、所与のクランク角度での複数のインジェクタ18を通した燃料再噴射によって実行されるのが好ましい。より正確には、対象のシリンダ12のインジェクタ18が液体状のある量の燃料を燃焼室14に供給できるように計算機48は複数の弁20を制御する。再噴射される燃料の量はエンジン10の構成に依存し、燃焼室14に最初に供給された燃料の量の10%から200%の範囲の可能性がある。そのため、再噴射された燃料は異常燃焼の場合に広がり始めている炎に対抗するために使用される。この再噴射は、燃料混合気の濃さを増加させることによって、この炎を吹き消したり、炎への酸素を遮断したりすることができる。さらに、液体状で噴射される燃料はこの炎の周囲の熱を利用して気化し、炎の周囲の温度状態を低下させ、したがって燃料混合気の燃焼、特に自然着火を遅らせる。
【0087】
この燃料の噴射後、シリンダ12内の圧力が増加するが、より突然ではなくなる。この圧力はその後減少し、従来の燃焼の圧力の程度のレベルに到達する。
【0088】
この機構は、高い燃焼率と高い圧力とを伴った異常燃焼の一切の進展を防止する。もちろん、異常燃焼を制御するように構成されている手段が計算機48によって燃焼が検出される各周期で使用される。
【0089】
前述のような本方法の動作は、燃焼室14内の圧力状態が次の周期で異常燃焼を促進しないようにスロットル弁を閉じるなどの他のより遅い動作と組み合わせることができる。動作の選択は燃焼の異常な性質の深刻さに依存している。
【符号の説明】
【0090】
10 エンジン
12 シリンダ
14 燃焼室
16 燃料供給手段
18 燃料噴射ノズル
20、24、30 弁
22 空気供給手段
26 吸気パイプ
26b プレナム
28 排気手段
32 排気パイプ
34 点火手段
36 排気マニフォールド
38 排気ライン
40 過給装置
42 駆動場所
44 圧縮場所
46a シリンダ圧力を計測する手段
46b 吸気圧力を計測する手段
48 エンジン計算機
50、54 導線
52、53 線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
火花点火型内燃エンジンの燃焼を制御する方法であって、燃焼の状態を表す少なくとも1つの信号が前記エンジン内に配置された少なくとも1つの検出器によって記録される方法において、
前記信号から予測可能な複数の燃焼指標を選択するとともに、各次元が前記複数の燃焼指標の1つに対応しかつ任意の燃焼がある点によって表される多次元空間を定めるステップと、
複数の正常な燃焼に対応する複数の点を囲み、複数の異常な燃焼に対応する複数の点を囲まないように、前記多次元空間内で閉じた面を定めるステップと、を有し、
それから、エンジン周期の各燃焼について、
前記エンジン周期の前記燃焼を、この燃焼について前記複数の燃焼指標を求めることによって前記多次元空間内の点で表すステップと、
前記面に対して前記点の位置を求め、それから前記燃焼の異常な特性を推測するステップと、
前記点と前記面との間の距離を求め、それから前記異常な特性の深刻さを推定するステップと、
前記異常な特性の前記深刻さの関数として検出される前記異常燃焼の進行を制御するステップと、
を有することを特徴とする方法。
【請求項2】
前記面は、
前記面を定める方程式であって、少なくとも1つのパラメータを有する方程式を選択するステップと、
既知である正常な燃焼と異常な燃焼とを含む一揃いの燃焼を実施し、前記一揃いの燃焼を、複数の点の群を構成するように前記多次元空間内で表すステップと、
主成分分析によって前記複数の点の前記群の複数の主方向を求め、各前記主方向における前記複数の点の分散を求めるステップと、
各前記主方向における前記面の範囲がこの方向の前記分散に等しくなるように前記パラメータを修正するステップと、
を実行することによって定められる、請求項1に記載の火花点火型内燃エンジンの燃焼を制御する方法。
【請求項3】
前記パラメータを修正する前に各前記分散に適用される乗算係数を定める、請求項2に記載の火花点火型内燃エンジンの燃焼を制御する方法。
【請求項4】
前記乗算係数は2.4と2.6との間で選択され、好ましくは2.5である、請求項3に記載の火花点火型内燃エンジンの燃焼を制御する方法。
【請求項5】
前記面は新しい燃焼から得られた点から更新される、請求項1ないし4のいずれか1項に記載の火花点火型内燃エンジンの燃焼を制御する方法。
【請求項6】
2次曲面が選択される、請求項1ないし5のいずれか1項に記載の火花点火型内燃エンジンの燃焼を制御する方法。
【請求項7】
前記複数の燃焼指標は正規化される、請求項1ないし6のいずれか1項に記載の火花点火型内燃エンジンの燃焼を制御する方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−24247(P2013−24247A)
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−161695(P2012−161695)
【出願日】平成24年7月20日(2012.7.20)
【出願人】(591007826)イエフペ エネルジ ヌヴェル (261)
【氏名又は名称原語表記】IFP ENERGIES NOUVELLES
【Fターム(参考)】