説明

内燃機関における燃料性状判定装置

【課題】内燃機関における燃料性状判定装置において、高精度な燃料性状判定を可能とする。
【解決手段】吸気ポート19に燃料を噴射可能な第1インジェクタ45と、燃焼室18に燃料を噴射可能な第2インジェクタ46とを設け、ECU71によりエンジンの運転状態に応じて第1インジェクタ45と第2インジェクタ46との燃料噴射割合を変更可能とし、ECU71は、第2インジェクタ46の燃料噴射割合が大きくなるように変更し、第1インジェクタ45の燃料噴射割合が小さくなるように変更したとき、エンジン回転数変化率が予め設定された閾値より大きいときに重質燃料であると判定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関の駆動中に、この内燃機関に使用される燃料の性状を判定する内燃機関における燃料性状判定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的なエンジン(内燃機関)では、燃料を吸気ポートや燃焼室に噴射して空気と混合し、ピストンの圧縮行程時にこの混合気を圧縮してから火花着火して爆発し、燃焼ガス(排気ガス)を外部に排出して浄化処理している。この場合、吸入空気量に対して空燃比が所定値(理論空燃比=ストイキ)となるように基本燃料噴射量を設定し、この基本燃料噴射量をエンジン冷却水温、吸気温、エンジン回転数、スロットル開度、アクセル開度などにより補正して燃料噴射量を設定している。
【0003】
ところが、エンジンに供給される燃料の種類には、重質から軽質まで性状が異なる燃料とがあり、このような燃料は沸点が異なり、所定温度での蒸発量が相違する。そのため、エンジンの停止後に性状の異なる燃料が追加された場合、エンジン始動時の空燃比がばらつき、回転に影響を与えて始動性が低下してしまう。そのため、従来は、エンジンの始動時に、燃料量を若干増量して噴射して始動性を確保し、排気系に設けられた空燃比センサが活性化した後は、この空燃比センサの検出結果に基づいて、内燃機関の空燃比が目標空燃比となるようにフィードバック制御している。
【0004】
なお、内燃機関の燃料性状を判定するものとしては、例えば、下記特許文献1に記載されたものがある。この特許文献1に記載された内燃機関の燃料性状取得装置は、機関が定常運転状態にある場合に、総噴射量を基本燃料噴射量に維持したまま、筒内噴射割合を所定期間だけ強制的に「0」に固定し、その後、強制的に「1」に変更し、筒内噴射割合が「1」に変更された直後において発生する排気空燃比の乱れの程度が燃料の重質度に依存することを利用し、燃料の重質度(燃料性状)を取得するものである。
【0005】
【特許文献1】特開2006−161788号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところが、空燃比フィードバック制御を行う場合、エンジンを始動させて空燃比センサが活性化した後、この空燃比センサを用いて空燃比フィードバック制御を開始する。つまり、活性化前の空燃比センサは空燃比を検出するセンサとして機能せず、エンジンの始動直後から空燃比センサの活性前までの間は、空燃比フィードバック制御が困難となる。そのため、上述したように、この空燃比フィードバック制御を行うことができない間は、エンジンが失火しないように、燃料噴射量を若干増量して噴射しており、炭化水素(NOx)が増加すると共に、燃費が悪化してしまう。
【0007】
また、上述した特許文献1に記載された内燃機関の燃料性状取得装置にあっては、筒内噴射割合を変更した直後において発生する排気空燃比の乱れを利用して燃料の重質度(燃料性状)を取得するものである。そのため、空燃比センサが活性化するまでの間は十分な検出精度を確保することができず、高精度な燃料性状の判定ができない。
【0008】
本発明は、このような問題を解決するためのものであって、高精度な燃料性状判定を可能とする内燃機関における燃料性状判定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明の内燃機関における燃料性状判定装置は、内燃機関の吸気ポートに燃料を噴射可能な第1燃料噴射弁と、前記内燃機関の燃焼室に燃料を噴射可能な第2燃料噴射弁と、前記内燃機関の運転状態に応じて第1燃料噴射弁と第2燃料噴射弁との燃料噴射割合を変更可能な燃料噴射制御手段とを備える内燃機関において、前記燃料噴射制御手段により前記第2燃料噴射弁の燃料噴射割合が徐々に大きくなるように変更したとき、前記内燃機関に対する操作量の変化または前記内燃機関における制御量の変化が予め設定された閾値より大きいときに重質燃料であると判定する、ことを特徴とするものである。
【0010】
本発明の内燃機関における燃料性状判定装置では、前記燃料噴射制御手段により前記第2燃料噴射弁の燃料噴射割合が徐々に大きくなるように変更したとき、前記操作量の変化率または前記制御量の変化率が予め設定された閾値より大きいときに重質燃料であると判定することを特徴としている。
【0011】
本発明の内燃機関における燃料性状判定装置では、前記燃料噴射制御手段により前記第2燃料噴射弁の燃料噴射割合が徐々に大きくなるように変更したとき、前記操作量または前記制御量が予め設定された判定操作量または予め設定された判定制御量まで到達する経過時間が予め設定された閾値より短いときに重質燃料であると判定することを特徴としている。
【0012】
また、本発明の内燃機関における燃料性状判定装置は、内燃機関の吸気ポートに燃料を噴射可能な第1燃料噴射弁と、前記内燃機関の燃焼室に燃料を噴射可能な第2燃料噴射弁と、前記内燃機関の運転状態に応じて第1燃料噴射弁と第2燃料噴射弁との燃料噴射割合を変更可能な燃料噴射制御手段とを備える内燃機関において、前記燃料噴射制御手段により前記第2燃料噴射弁の燃料噴射割合を一定量だけ大きくなるように変更したとき、前記内燃機関に対する操作量の平衡値または前記内燃機関における制御量の平衡値が予め設定された閾値より大きいときに重質燃料であると判定する、ことを特徴とするものである。
【0013】
本発明の内燃機関における燃料性状判定装置では、前記操作量は、前記内燃機関における点火時期であることを特徴としている。
【0014】
本発明の内燃機関における燃料性状判定装置では、前記制御量は、前記内燃機関におけるエンジン回転速度または出力トルクであることを特徴としている。
【0015】
本発明の内燃機関における燃料性状判定装置では、前記内燃機関の始動時に、使用燃料の性状判定を実行することを特徴としている。
【0016】
本発明の内燃機関における燃料性状判定装置では、前記内燃機関における排気系に設けられる空燃比センサが未暖機であるときに、使用燃料の性状判定を実行することを特徴としている。
【発明の効果】
【0017】
本発明の内燃機関における燃料性状判定装置によれば、吸気ポートに燃料を噴射可能な第1燃料噴射弁と燃焼室に燃料を噴射可能な第2燃料噴射弁とを設け、燃料噴射制御手段により第2燃料噴射弁の燃料噴射割合が徐々に大きくなるように変更したとき、内燃機関に対する操作量の変化または内燃機関における制御量の変化が予め設定された閾値より大きいときに重質燃料であると判定している。また、本発明の内燃機関における燃料性状判定装置によれば、燃料噴射制御手段により第2燃料噴射弁の燃料噴射割合が一定量だけ大きくなるように変更したとき、操作量の平衡値または制御量の平衡値が予め設定された閾値より大きいときに重質燃料であると判定している。
【0018】
従って、吸気ポートに噴射された燃料と燃焼室に噴射された燃料との気化状態と、重質燃料と軽質燃料との気化性状を考慮することで、使用燃料の性状を高精度に判定することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下に、本発明に係る内燃機関における燃料性状判定装置の実施例を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施例により本発明が限定されるものではない。
【実施例1】
【0020】
図1は、本発明の実施例1に係る内燃機関における燃料性状判定装置が適用されたエンジンの概略構成図、図2は、実施例1の内燃機関における燃料系を表す概略構成図、図3は、実施例1の内燃機関における燃料性状判定装置の燃料性状判定制御を表すフローチャート、図4は、実施例1の内燃機関における燃料性状判定装置の燃料性状判定制御を表すタイムチャートである。
【0021】
実施例1では、内燃機関として、ポート噴射式燃料噴射装置と筒内噴射式燃料噴射装置を有する直列4気筒ガソリンエンジンを適用している。このエンジンにおいて、図1に示すように、シリンダブロック11上にシリンダヘッド12が締結されており、このシリンダブロック11に形成された複数のシリンダボア13にピストン14がそれぞれ上下移動自在に嵌合している。そして、シリンダブロック11の下部にクランクケース15が締結され、このクランクケース15内にクランクシャフト16が回転自在に支持されており、各ピストン14はコネクティングロッド17を介してこのクランクシャフト16にそれぞれ連結されている。
【0022】
燃焼室18は、シリンダブロック11におけるシリンダボア13の壁面とシリンダヘッド12の下面とピストン14の頂面により構成されており、この燃焼室18は、上部(シリンダヘッド12の下面)の中央部が高くなるように傾斜したペントルーフ形状をなしている。そして、この燃焼室18の上部、つまり、シリンダヘッド12の下面に吸気ポート19及び排気ポート20が対向して形成されており、この吸気ポート19及び排気ポート20に対して吸気弁21及び排気弁22の下端部がそれぞれ位置している。この吸気弁21及び排気弁22は、シリンダヘッド12に軸方向に沿って移動自在に支持されると共に、吸気ポート19及び排気ポート20を閉止する方向(図1にて上方)に付勢支持されている。また、シリンダヘッド12には、吸気カムシャフト23及び排気カムシャフト24が回転自在に支持されており、吸気カム及び排気カムが吸気弁21及び排気弁22の上端部に接触している。
【0023】
なお、図示しないが、クランクシャフト16に固結されたクランクシャフトスプロケットと、吸気カムシャフト23及び排気カムシャフト24にそれぞれ固結された各カムシャフトスプロケットとは、無端のタイミングチェーンが掛け回されており、クランクシャフト16と吸気カムシャフト23と排気カムシャフト24が連動可能となっている。
【0024】
従って、クランクシャフト16に同期して吸気カムシャフト23及び排気カムシャフト24が回転すると、吸気カム及び排気カムが吸気弁21及び排気弁22を所定のタイミングで上下移動することで、吸気ポート19及び排気ポート20を開閉し、吸気ポート19と燃焼室18、燃焼室18と排気ポート20とをそれぞれ連通することができる。この場合、この吸気カムシャフト23及び排気カムシャフト24は、クランクシャフト16が2回転(720度)する間に1回転(360度)するように設定されている。そのため、エンジンは、クランクシャフト16が2回転する間に、吸気行程、圧縮行程、膨張行程、排気行程の4行程を実行することとなり、このとき、吸気カムシャフト23及び排気カムシャフト24が1回転することとなる。
【0025】
また、このエンジンの動弁機構は、運転状態に応じて吸気弁21及び排気弁22を最適な開閉タイミングに制御する吸気可変動弁機構(VVT:Variable Valve Timing-intelligent)25となっている。この吸気可変動弁機構25は、吸気カムシャフト23の軸端部にVVTコントローラ26が設けられて構成され、オイルコントロールバルブ27からの油圧をこのVVTコントローラ26の図示しない進角室及び遅角室に作用させることによりカムスプロケットに対する吸気カムシャフト23の位相を変更し、吸気弁21の開閉時期を進角または遅角することができるものである。この場合、吸気可変動弁機構25は、吸気弁21の作用角(開放期間)を一定としてその開閉時期を進角または遅角する。また、吸気カムシャフト23には、その回転位相を検出するカムポジションセンサ28が設けられている。
【0026】
吸気ポート19には、吸気マニホールド29を介してサージタンク30が連結され、このサージタンク30に吸気管31が連結されており、この吸気管31の空気取入口にはエアクリーナ32が取付けられている。そして、このエアクリーナ32の下流側にスロットル弁33を有する電子スロットル装置34が設けられている。また、吸気管31には、スロットル弁33を迂回するバイパス通路35が設けられ、このバイパス通路35にアイドルスピードコントロールバルブ36が設けられている。
【0027】
排気ポート20には、排気マニホールド37を介して排気管38が連結されており、この排気管38には排気ガス中に含まれる有害物質を浄化処理する三元触媒39及びNOx吸蔵還元型触媒40が装着されている。この三元触媒39は、空燃比(排気空燃比)がストイキのときに排気ガス中に含まれるHC、CO、NOxを酸化還元反応により同時に浄化処理するものである。NOx吸蔵還元型触媒40は、空燃比(排気空燃比)がリーンのときに排気ガス中に含まれるNOxを一旦吸蔵し、排気ガス中の酸素濃度が低下したリッチ燃焼領域またはストイキ燃焼領域にあるときに、吸蔵したNOxを放出し、添加した還元剤としての燃料によりNOxを還元するものである。
【0028】
吸気管31におけるサージタンク30の下流側と、排気管38における三元触媒39の上流側との間には、排気ガス再循環通路(EGR通路)41が設けられており、このEGR通路41には、排気ガス再循環制御弁(EGR弁)42と排気ガス再循環クーラ(EGRクーラ)43が設けられている。また、このEGR通路41におけるEGR弁42より吸気管31側に、EGRガスの温度を検出するEGRガス温度センサ44が設けられている。
【0029】
シリンダヘッド12には、吸気ポート19に燃料を噴射する第1インジェクタ(第1燃料噴射弁)45が装着されると共に、燃焼室18に直接燃料を噴射する第2インジェクタ(第2燃料噴射弁)46が装着されている。第1インジェクタ45は、吸気マニホールド29に各吸気ポート19に対応して複数設けられており、吸気弁21の開放時に吸気ポート19から燃焼室18に向けて燃料を噴射することができる。第2インジェクタ46は、シリンダヘッド12に各吸気ポート19に対応して複数設けられており、各吸気ポート19側に位置し、先端部が下方に所定角度傾斜(図1では水平に記載されている。)して配置されている。
【0030】
本実施例の直列4気筒ガソリンエンジンでは、図1及び図2に示すように、低圧燃料を第1インジェクタ45に移送する低圧燃料供給系47と、この低圧燃料供給系47から分岐して高圧燃料を第2インジェクタ46に移送する高圧燃料供給系48を有している。従って、低圧燃料供給系47は、燃料を所定の低圧まで昇圧して第1インジェクタ45に移送し、この第1インジェクタ45により吸気ポート19に低圧燃料を噴射する。一方、高圧燃料供給系48は、この低圧燃料を所定の高圧まで昇圧して第2インジェクタ46に移送し、この第2インジェクタ46により燃焼室18に高圧燃料を噴射する。
【0031】
即ち、低圧燃料供給系47において、燃料を貯留する燃料タンク49にはフィードポンプ50が設けられており、このフィードポンプ50には、低圧燃料供給配管51が連結され、この低圧燃料供給配管51は2つの低圧燃料分岐配管51a,51bに分岐し、一方の低圧燃料分岐配管51aが第1デリバリパイプ52に連結されている。このフィードポンプ50は、燃料タンク49内の燃料を所定圧力(低圧)まで加圧し、低圧燃料供給配管51に吐出するための電動式の低圧燃料ポンプである。そして、第1デリバリパイプ52には、4つの第1インジェクタ45が直列に装着されている。また、低圧燃料供給配管51の基端部側には低圧燃料戻し配管53が分岐して設けられ、この低圧燃料戻し配管53にレギュレータ54が装着されている。そのため、低圧燃料供給系47の燃料の圧力が所定圧力よりも高くなったときに、フィードポンプ50から吐出された低圧燃料の一部を低圧燃料戻し配管53及びレギュレータ54を通して燃料タンク49に戻し、低圧燃料供給系47、つまり、第1デリバリパイプ52内の燃料の圧力を所定の低圧に維持することができる。
【0032】
一方、高圧燃料供給系48において、低圧燃料供給系47における低圧燃料供給配管51から分岐した低圧燃料分岐配管51bには、高圧燃料ポンプ55が連結されている。そして、この高圧燃料ポンプ55は、高圧燃料供給配管56を介して第2デリバリパイプ57に連結され、この高圧燃料供給配管56には、高圧燃料逆止弁58が装着されている。この高圧燃料ポンプ55は、エンジンの排気カムシャフト24の回転により駆動するものであり、低圧燃料供給系47における低圧燃料供給配管51の低圧燃料を所定圧力まで加圧して高圧燃料とし、高圧燃料供給配管56を通して第2デリバリパイプ57に供給するための調量式の高圧燃料ポンプである。高圧燃料逆止弁58は、高圧燃料ポンプ55により第2デリバリパイプ57に供給された高圧燃料が低圧燃料供給系47に逆流するのを防止するためのものである。
【0033】
この高圧ポンプ55において、筒形状をなすケーシング101にプランジャ102が移動自在に支持され、ケーシング101とプランジャ102により燃料を加圧するための圧力室103が形成されている。このプランジャ102は、スプリング104により圧力室103が拡大する方向(図2にて下方)に付勢支持されている。排気カムシャフト24には、駆動カム24aが形成され、プランジャ102の下端部が常時接触しており、排気カムシャフト24が回転することで、駆動カム24aによりプランジャ102を上下動して圧力室103を拡大、縮小することができる。
【0034】
ケーシング101の上部には、低圧燃料分岐配管51bに連通する吸入口105が形成されると共に、圧力室103と高圧燃料供給配管56とを連通する吐出口106が形成されている。この場合、吐出口106は高圧燃料逆止弁58を介して高圧燃料供給配管56に連結されている。また、ケーシング101の上部には、吸入口105を開閉する調量弁としての電磁式スピル弁107が上下移動自在に支持されている。この電磁式スピル弁107は、付勢スプリング108により吸入口105を開放する方向に付勢支持され、電磁ソレノイド109に通電することで上昇し、吸入口105を閉止することができる。
【0035】
従って、電磁式スピル弁107により吸入口105が開放された状態で、排気カムシャフト24が回転して駆動カム104によりプランジャ102が下降すると、低圧燃料供給系47における低圧燃料分岐配管51bの低圧燃料を吸入口105から圧力室103に吸入することができる。そして、排気カムシャフト24が回転して駆動カム24aによりプランジャ102が上昇するとき、電磁ソレノイド109に通電して電磁式スピル弁107を上昇させると、この電磁式スピル弁107により吸入口105が閉止され、圧力室103内の低圧燃料が所定圧力まで加圧された後、この加圧された高圧燃料を吐出口106から高圧燃料逆止弁58を開弁して高圧燃料供給系48における高圧燃料供給配管56に吐出することができる。
【0036】
この場合、第2デリバリパイプ57内の高圧燃料圧力に応じて電磁ソレノイド109への通電時期を制御することで、電磁式スピル弁107により吸入口105を閉止する時期を調整し、高圧燃料供給配管56側への燃料の吐出量を調節することができる。また、この電磁式スピル弁107は、所謂、ノーマリオープン式のスピル弁であり、電磁ソレノイド109への非通電状態では、付勢スプリング108により吸入口105を開放した状態に支持され、低圧燃料分岐配管51bの低圧燃料が吸入口105、圧力室103、吐出口106を通して高圧燃料供給配管56側に流通可能となる。そのため、電磁ソレノイド109の故障時でも、吸入口105が開放状態で維持されことで、燃料の供給不良や燃料系の破損が最小限に抑制される。
【0037】
また、第2デリバリパイプ57は、高圧燃料戻し配管59を介して燃料タンク49に連結され、この高圧燃料戻し配管59にリリーフ弁60が装着されている。そのため、高圧ポンプ55により第2デリバリパイプ57に供給された燃料の圧力を、リリーフ弁60により一定に保つことができると共に、燃料の圧力が所定圧力よりも高くなったときに、余剰燃料を高圧燃料戻し配管59を介して燃料タンク49に戻すことができる。この場合、第2デリバリパイプ57内の燃料圧力は、リリーフ弁60の開弁圧力に作用されるため、第2インジェクタ46が必要とする燃料の噴射圧力に応じてリリーフ弁60の開弁圧力を設定する必要がある。
【0038】
また、シリンダヘッド12には、燃焼室18の上方に位置して混合気に着火する点火プラグ61が装着されている。
【0039】
車両には、図1に示すように、電子制御ユニット(ECU)71が搭載されており、このECU71は、各インジェクタ45,46の燃料噴射タイミング、点火プラグ61の点火時期、高圧燃料ポンプ55の吐出量などを制御可能となっており、検出した吸入空気量、吸気温度、スロットル開度、アクセル開度、エンジン回転数、冷却水温、燃料圧力などのエンジン運転状態に基づいて燃料噴射量、燃料噴射圧力、燃料噴射時期、点火時期などを決定している。
【0040】
即ち、吸気管31の上流側にはエアフローセンサ72及び吸気温センサ73が装着され、計測した吸入空気量及び吸気温度をECU71に出力している。電子スロットル装置34にはスロットルポジションセンサ74が設けられ、アクセルペダルにはアクセルポジションセンサ75が設けられており、現在のスロットル開度及びアクセル開度をECU71に出力している。クランクシャフト16にはクランク角センサ76が設けられ、検出したクランク角度をECU71に出力し、ECU71はクランク角度に基づいて各気筒における吸気行程、圧縮行程、膨張行程、排気行程を判別すると共に、エンジン回転数を算出する。また、シリンダブロック11には水温センサ77が設けられており、検出したエンジン冷却水温をECU71に出力している。シリンダブロック11にはノックセンサ78が設けられており、検出したノッキング信号をECU71に出力している。
【0041】
また、排気管38における三元触媒39より上流側に、空燃比(A/F)センサ79が設けられ、三元触媒39より下流側に、酸素(O)センサ80が設けられている。このA/Fセンサ79及びOセンサ80は、燃焼室18から排気ポート20及び排気マニホールド37を通して排気管38に排気された排気ガスの排気空燃比(酸素量)を検出し、検出した排気空燃比をECU71に出力している。ECU71は、A/Fセンサ79及びOセンサ80が検出した排気空燃比をフィードバックし、エンジン運転状態に応じて設定された目標空燃比と比較することで、燃料噴射量を補正している。この場合、A/Fセンサ79には、これを暖機する図示しないヒータが設けられており、エンジンの冷間始動時などに、ECU71は、このヒータによりA/Fセンサ79を加熱することで、早期活性化を可能としている。また、第2インジェクタ55に連通する第2デリバリパイプ57には、高圧燃料圧力を検出する燃圧センサ81(図2参照)が設けられており、検出した燃料圧力をECU71に出力している。
【0042】
そして、本実施例の直列4気筒エンジンでは、低圧燃料供給系47及びポート噴射式の第1インジェクタ45、高圧燃料供給系48及び筒内噴射式の第2インジェクタ46を有していることから、エンジン運転状態に応じて燃料供給系47,48及びインジェクタ45,46を使い分けている。一般的に、エンジンの低負荷運転領域では、高圧燃料供給系48及び筒内噴射式の第2インジェクタ46を使用し、エンジンの中・高負荷運転領域では、低圧燃料供給系47及びポート噴射式の第1インジェクタ45と高圧燃料供給系48及び筒内噴射式の第2インジェクタ46を併用している。
【0043】
また、ECU71は、エンジン運転状態に基づいて吸気可変動弁機構25を制御可能となっている。即ち、低温時、エンジン始動時、アイドル運転時や軽負荷時には、排気弁22の閉止時期と吸気弁21の開放時期のオーバーラップをなくすことで、排気ガスが吸気ポート19または燃焼室18に吹き返す量を少なくし、燃焼安定及び燃費向上を可能とする。また、中負荷時には、このオーバーラップを大きくすることで、内部EGR率を高めて排ガス浄化効率を向上させると共に、ポンピングロスを低減して燃費向上を可能とする。更に、高負荷低中回転時には、吸気弁21の閉止時期を進角することで、吸気が吸気ポート19に吹き返す量を少なくし、体積効率を向上させる。そして、高負荷高回転時には、吸気弁21の閉止時期を回転数にあわせて遅角することで、吸入空気の慣性力に合わせたタイミングとし、体積効率を向上させる。
【0044】
ところで、エンジンに供給される燃料の種類には、一般的に、重質から軽質まで性状が異なる燃料があり、このような燃料は沸点が異なり、所定温度での蒸発量が相違する。そのため、エンジンの停止後に性状の異なる燃料が追加されると、エンジン始動時の空燃比がばらつき、回転に影響を与えて始動性が低下してしまう。本実施例では、排気系に空燃比センサ79が設けられているものの、始動直後は、この空燃比センサ79がまだ活性化しておらず、空燃比フィードバック制御が困難である。
【0045】
そこで、実施例1の内燃機関では、ポート噴射式の第1インジェクタ45と筒内噴射式の第2インジェクタ46とを設け、燃料噴射制御手段としてのECU71は、エンジン運転状態に応じてこの第1インジェクタ45と第2インジェクタ46との燃料噴射割合を変更可能とし、特に、エンジンの冷間始動時における燃料性状を判定可能な燃料性状判定装置を搭載している。この燃料性状判定装置は、第2インジェクタ46の燃料噴射割合が徐々に大きくなるように変更したとき、エンジンに対する操作量の変化またはエンジンにおける制御量の変化が予め設定された閾値より大きいときに重質燃料であると判定する。
【0046】
実施例1の燃料性状判定装置では、ECU71により第2インジェクタ46の燃料噴射割合が徐々に大きくなるように変更したとき、制御量の変化率が予め設定された閾値より大きいときに重質燃料であると判定する。この場合、制御量を、エンジン回転数(エンジン回転速度)としている。
【0047】
そして、実施例1の燃料性状判定装置では、エンジンの始動時に、使用燃料の性状判定を実行する。即ち、空燃比センサ79が未活性(未暖機)であるときに、使用燃料の性状判定を実行する。
【0048】
なお、実施例1にて、燃料性状判定装置の機能は、ECU71が有している。
【0049】
ここで、実施例1の内燃機関における燃料性状判定装置によりエンジンに使用される燃料性状を判定する制御について、図3のフローチャートに基づいて説明する。
【0050】
本実施例の内燃機関における燃料性状判定装置における燃料性状判定制御において、図3に示すように、ステップS11にて、ECU71は、前提条件が成立したかどうか、ここでは、エンジン回転数Neが予め設定された基準エンジン回転数を超えているかどうかを判定する。ここで、エンジン回転数Neが基準エンジン回転数を超えていないと判定されたら、ステップS19に移行し、エンジン回転数Neが基準エンジン回転数を超えていると判定されたら、エンジンが既に始動していると判断してステップS12に移行する。
【0051】
ステップS12にて、ECU71は、第1インジェクタ45と第2インジェクタ46との燃料噴射割合の時系列配列、つまり、第1インジェクタ45の燃料噴射割合を「1」とし、第2インジェクタ46の燃料噴射割合を「0」としてから、第1インジェクタ45の燃料噴射割合を減少する一方、第2インジェクタ46の燃料噴射割合を増加するための燃料噴射量制御マップを、現在のエンジン運転状態に基づいて作成、または、記憶されたものから選択する。
【0052】
ステップS13にて、ECU71は、それまでに判定していた時間をリセットし、再びカウントを開始する。続いて、ステップS14にて、ECU71は、燃料噴射量制御マップにより設定された燃料割合を反映し、第1インジェクタ45及び第2インジェクタ46の燃料噴射割合(燃料噴射量)を変更する。ステップS15にて、ECU71は、第1インジェクタ45及び第2インジェクタ46の燃料噴射割合を徐々に変更していくときのエンジン回転数Neの履歴を保存し、ステップS16にて、各インジェクタ45,46の燃料噴射割合を変更してからの経過時間が予め設定された規定時間を経過したかどうかを判定する。ここで、各インジェクタ45,46の燃料噴射割合を変更してからの経過時間が規定時間を経過していないと判定されたら、ステップS14に戻ってこの処理を継続する。一方、各インジェクタ45,46の燃料噴射割合を変更してからの経過時間が規定時間を経過したと判定したら、ステップS17にて、各インジェクタ45,46の燃料噴射割合を変更してからの経過時間が規定時間を経過するまでの期間におけるエンジン回転数変化率を算出する。
【0053】
ステップS18にて、ECU71は、ステップS17で算出したエンジン回転数変化率に基づいて、現在使用されている燃料の性状、つまり、重質燃料であるか軽質燃料であるかを判定する。そして、燃料性状が判定されると、ステップS19にて、ECU71は、判定された燃料性状を燃料噴射制御に反映させる。
【0054】
ここで、エンジン回転数変化率に基づいた燃料性状の判定方法について、図4のタイムチャートに基づいて説明する。
【0055】
第1インジェクタ45により低圧燃料を吸気ポート19に噴射する場合と、第2インジェクタ46により高圧燃料を燃焼室18に噴射する場合とでは、第2インジェクタ46により高圧燃料を燃焼室18に噴射する場合の方が燃料性状の差異による影響が小さい。即ち、第1インジェクタ45により低圧燃料を吸気ポート19に噴射すると、この吸気ポート19が低圧で、且つ、低温であると共に、噴射流速が低速であることから、燃料噴霧が吸気ポート19の壁面に付着しやすく、噴射した燃料の全量が燃焼室18に導入されにくい。一方、第2インジェクタ46により高圧燃料を燃焼室18に噴射すると、この燃焼室18が高圧で、且つ、高温であると共に、噴射流速が高速であることから、断熱圧縮による温度上昇により燃料噴霧が蒸発しやすい。また、重質燃料と軽質燃料とでは、同一の温度条件で、重質燃料の方が蒸発しにくい。本実施例では、このような特性を利用して燃料性状を判定する。
【0056】
図4に示すように、例えば、エンジンの始動時tにて、第1インジェクタ45のポート燃料噴射割合を「1」とし、第2インジェクタ46の筒内燃料噴射割合を「0」とし、時間tにて、第1インジェクタ45のポート燃料噴射割合を徐々に減少する一方、第2インジェクタ46の筒内燃料噴射割合を増加する。このとき、ポート噴射より筒内噴射の方が燃料蒸発割合が大きいことから、全体の燃料噴射量が増加せずに一定であっても、筒内への燃料噴射量が増加することでエンジン回転数が増加する。そして、ポート燃料噴射に比べて筒内燃料噴射の方が燃料性状の差異による影響が小さく、重質燃料が軽質燃料に比べて蒸発しにくいため、吸気ポート19に噴射されて蒸発しにくかった重質燃料が燃焼室18に噴射されて蒸発しやすくなることから、燃料が重質燃料であったときの方が、軽質燃料であったときに比べてエンジン回転数が増加しやすい。
【0057】
そのため、時間tから時間tまでの規定時間当たりのエンジン回転数の変化量は、軽質燃料における変化量ΔNe1より重質燃料のおける変化量ΔNe2の方が大きい。つまり、軽質燃料におけるエンジン回転数変化率より重質燃料におけるエンジン回転数変化率の方が大きくなることから、この軽質燃料のエンジン回転数変化率と重質燃料のエンジン回転数変化率との間に判定のための閾値を設定することで、使用されている燃料が軽質燃料であるか、重質燃料であるかを判定することができる。
【0058】
なお、規定時間が経過して時間tに到達すると、時間tまでに、第1インジェクタ45のポート燃料噴射割合を「1」に戻すと共に、第2インジェクタ46の筒内燃料噴射割合を「0」に戻す。
【0059】
このように実施例1の内燃機関における燃料性状判定装置にあっては、吸気ポート19に燃料を噴射可能な第1インジェクタ45と、燃焼室18に燃料を噴射可能な第2インジェクタ46とを設け、ECU71によりエンジンの運転状態に応じて第1インジェクタ45と第2インジェクタ46との燃料噴射割合を変更可能とし、ECU71は、第2インジェクタ46の燃料噴射割合が徐々に大きくなるように変更したとき、エンジン回転数変化率が予め設定された閾値より大きいときに重質燃料であると判定している。
【0060】
従って、時間の経過に伴って第2インジェクタ46の燃料噴射割合が大きくなるように変更したとき、エンジン回転数変化率が閾値より大きいときに重質燃料であると判定するため、吸気ポート19に噴射された燃料と、燃焼室18に噴射された燃料との気化状態と、重質燃料と軽質燃料との気化性状を考慮することで、使用燃料の性状を高精度に判定することができる。
【0061】
また、実施例1の内燃機関における燃料性状判定装置では、全体の燃料噴射量を一定とし、第2インジェクタ46の燃料噴射割合が徐々に大きくなるように変更する一方、第1インジェクタ45の燃料噴射割合が小さくなるように変更したとき、エンジン回転数変化率が閾値より大きいときに重質燃料であると判定する。従って、燃料噴射割合を徐々に変更することで、急激なエンジン回転数変動がないためにドライバに違和感を与えることはない。
【0062】
また、実施例1の内燃機関における燃料性状判定装置では、制御量をエンジン回転数(エンジン回転速度)とし、エンジン回転数変化率に基づいて燃料性状を判定する。従って、既に搭載されているクランク角センサ76を用いて燃料性状判定を行うことができ、低コスト化を可能とすることができる。
【0063】
また、実施例1の内燃機関における燃料性状判定装置では、エンジンの始動時に、使用燃料の性状判定を実行する。とくに、空燃比センサ79が未活性であるときに、使用燃料の性状判定を実行する。従って、空燃比センサ79による空燃比フィードバック制御を実施する前に燃料性状が判別されることとなり、始動時における燃料噴射量を燃料性状に応じて設定することができ、余剰燃料を噴射する必要がなくなり、燃費を向上することができると共に、排気浄化特性を向上することができる。
【実施例2】
【0064】
図5は、本発明の実施例2に係る内燃機関における燃料性状判定装置の燃料性状判定制御を表すフローチャート、図6は、実施例2の内燃機関における燃料性状判定装置の燃料性状判定制御を表すタイムチャートである。なお、本実施例の内燃機関の燃料性状判定装置における全体構成は、上述した実施例1とほぼ同様であり、図1を用いて説明すると共に、この実施例で説明したものと同様の機能を有する部材には同一の符号を付して重複する説明は省略する。
【0065】
実施例2の内燃機関の燃料性状判定装置では、図1に示すように、ECU71により第2インジェクタ46の燃料噴射割合が徐々に大きくなるように変更したとき、操作量の変化率が予め設定された閾値より大きいときに重質燃料であると判定する。この場合、操作量を、エンジンの点火時期としている。ECU71は、点火時期のフィードバック制御を実施しており、各インジェクタ45,46の燃料噴射割合が変更されると、エンジン回転数が変動し、点火時期のフィードバック操作量、つまり、点火時期も変動する。そのため、この点火時期の変化率に基づいて燃料性状を判定する。
【0066】
ここで、実施例2の内燃機関における燃料性状判定装置によりエンジンに使用される燃料性状を判定する制御について、図5のフローチャートに基づいて説明する。
【0067】
本実施例の内燃機関における燃料性状判定装置における燃料性状判定制御において、図5に示すように、ステップS21にて、ECU71は、前提条件が成立したかどうか、ここでは、エンジン回転数Neが予め設定された基準エンジン回転数を超えているかどうかを判定する。ここで、エンジン回転数Neが基準エンジン回転数を超えていないと判定されたら、ステップS29に移行し、エンジン回転数Neが基準エンジン回転数を超えていると判定されたら、エンジンが既に始動していると判断してステップS22に移行する。
【0068】
ステップS22にて、ECU71は、第1インジェクタ45と第2インジェクタ46との燃料噴射割合の時系列配列、つまり、第1インジェクタ45の燃料噴射割合を「1」とし、第2インジェクタ46の燃料噴射割合を「0」としてから、第1インジェクタ45の燃料噴射割合を減少する一方、第2インジェクタ46の燃料噴射割合を増加するための燃料噴射量制御マップを、現在のエンジン運転状態に基づいて作成、または、記憶されたものから選択する。
【0069】
ステップS23にて、ECU71は、それまでに判定していた時間をリセットし、再びカウントを開始する。続いて、ステップS24にて、ECU71は、燃料噴射量制御マップにより設定された燃料割合を反映し、第1インジェクタ45及び第2インジェクタ46の燃料噴射割合(燃料噴射量)を変更する。ステップS25にて、ECU71は、第1インジェクタ45及び第2インジェクタ46の燃料噴射割合を徐々に変更していくときの点火時期の履歴を保存し、ステップS26にて、各インジェクタ45,46の燃料噴射割合を変更してからの経過時間が予め設定された規定時間を経過したかどうかを判定する。ここで、各インジェクタ45,46の燃料噴射割合を変更してからの経過時間が規定時間を経過していないと判定されたら、ステップS24に戻ってこの処理を継続する。一方、各インジェクタ45,46の燃料噴射割合を変更してからの経過時間が規定時間を経過したと判定したら、ステップS27にて、各インジェクタ45,46の燃料噴射割合を変更してからの経過時間が規定時間を経過するまでの期間における点火時期変化率を算出する。
【0070】
ステップS28にて、ECU71は、ステップS27で算出した点火時期変化率に基づいて、現在使用されている燃料の性状、つまり、重質燃料であるか軽質燃料であるかを判定する。そして、燃料性状が判定されると、ステップS29にて、ECU71は、判定された燃料性状を燃料噴射制御に反映させる。
【0071】
ここで、点火時期変化率に基づいた燃料性状の判定方法について、図6のタイムチャートに基づいて説明する。
【0072】
図6に示すように、例えば、エンジンの始動時tにて、第1インジェクタ45のポート燃料噴射割合を「1」とし、第2インジェクタ46の筒内燃料噴射割合を「0」とし、時間tにて、第1インジェクタ45のポート燃料噴射割合を徐々に減少する一方、第2インジェクタ46の筒内燃料噴射割合を増加する。このとき、ポート噴射より筒内噴射の方が燃料蒸発割合が大きいことから、全体の燃料噴射量が増加せずに一定であっても、筒内への燃料噴射量が増加することでエンジン回転数が増加し、点火時期が遅角する。そして、ポート燃料噴射に比べて筒内燃料噴射の方が燃料性状の差異による影響が小さく、重質燃料が軽質燃料に比べて蒸発しにくいため、吸気ポート19に噴射されて蒸発しにくかった重質燃料が燃焼室18に噴射されて蒸発しやすくなることから、燃料が重質燃料であったときの方が、軽質燃料であったときに比べて点火時期が遅角しやすい。
【0073】
そのため、時間tから時間tまでの規定時間当たりの点火時期遅角量は、軽質燃料における遅角量より重質燃料における遅角量の方が大きい。つまり、軽質燃料における点火時期変化率より重質燃料における点火時期変化率の方が大きくなることから、この軽質燃料の点火時期変化率と重質燃料の点火時期変化率との間に判定のための閾値を設定することで、使用されている燃料が軽質燃料であるか、重質燃料であるかを判定することができる。
【0074】
なお、規定時間が経過して時間tに到達すると、時間tまでに、第1インジェクタ45のポート燃料噴射割合を「1」と戻すと共に、第2インジェクタ46の筒内燃料噴射割合を「0」に戻す。
【0075】
このように実施例2の内燃機関における燃料性状判定装置にあっては、吸気ポート19に燃料を噴射可能な第1インジェクタ45と、燃焼室18に燃料を噴射可能な第2インジェクタ46とを設け、ECU71によりエンジンの運転状態に応じて第1インジェクタ45と第2インジェクタ46との燃料噴射割合を変更可能とし、ECU71は、第2インジェクタ46の燃料噴射割合が大きくなるように変更したとき、点火時期変化率が予め設定された閾値より大きいときに重質燃料であると判定している。
【0076】
従って、吸気ポート19に噴射された燃料と、燃焼室18に噴射された燃料との気化状態と、重質燃料と軽質燃料との気化性状を考慮することで、使用燃料の性状を高精度に判定することができる。
【0077】
また、実施例2の内燃機関における燃料性状判定装置では、全体の燃料噴射量を一定とし、第2インジェクタ46の燃料噴射割合が徐々に大きくなるように変更する一方、第1インジェクタ45の燃料噴射割合が小さくなるように変更したとき、点火時期変化率が閾値より大きいときに重質燃料であると判定する。従って、燃料噴射割合を徐々に変更することで、急激なエンジン回転数変動がないためにドライバに違和感を与えることはない。
【0078】
また、実施例2の内燃機関における燃料性状判定装置では、制御量を点火時期(点火時期フィードバック操作量)とし、点火時期変化率に基づいて燃料性状を判定する。従って、既に制御で使用している点火時期フィードバック操作量を用いて燃料性状判定を行うことができ、低コスト化を可能とすることができる。
【実施例3】
【0079】
図6は、本発明の実施例3に係る内燃機関における燃料性状判定装置の燃料性状判定制御を表すフローチャートである。なお、本実施例の内燃機関の燃料性状判定装置における全体構成は、上述した実施例1とほぼ同様であり、図1を用いて説明すると共に、この実施例で説明したものと同様の機能を有する部材には同一の符号を付して重複する説明は省略する。
【0080】
実施例3の内燃機関の燃料性状判定装置では、図1に示すように、ECU71により第2インジェクタ46の燃料噴射割合が徐々に大きくなるように変更したとき、制御量の変化率が予め設定された閾値より大きいときに重質燃料であると判定する。この場合、制御量を、出力トルクとしている。ECU71が各インジェクタ45,46の燃料噴射割合を変更すると、エンジン回転数が変動し、出力トルクも変動する。そのため、この出力トルクの変化量または変化率に基づいて燃料性状を判定する。
【0081】
ここで、実施例3の内燃機関における燃料性状判定装置によりエンジンに使用される燃料性状を判定する制御について、図7のフローチャートに基づいて説明する。
【0082】
本実施例の内燃機関における燃料性状判定装置における燃料性状判定制御において、図7に示すように、ステップS31にて、ECU71は、前提条件が成立したかどうかを判定する。ここで、前提条件が成立していないと判定されたら、ステップS40に移行し、前提条件が成立していると判定されたら、エンジンが既に始動していると判断してステップS32に移行する。
【0083】
ステップS32にて、ECU71は、第1インジェクタ45と第2インジェクタ46との燃料噴射割合の時系列配列、つまり、第1インジェクタ45の燃料噴射割合を「1」とし、第2インジェクタ46の燃料噴射割合を「0」としてから、第1インジェクタ45の燃料噴射割合を減少する一方、第2インジェクタ46の燃料噴射割合を増加するための燃料噴射量制御マップを、現在のエンジン運転状態に基づいて作成、または、記憶されたものから選択する。
【0084】
ステップS33にて、ECU71は、それまでに判定していた時間をリセットし、再びカウントを開始する。続いて、ステップS34にて、ECU71は、燃料噴射量制御マップにより設定された燃料割合を反映し、第1インジェクタ45及び第2インジェクタ46の燃料噴射割合(燃料噴射量)を変更する。ステップS35にて、ECU71は、第1インジェクタ45及び第2インジェクタ46の燃料噴射割合を徐々に変更していくときのエンジンの出力トルクを推定し、ステップS36にて、出力トルクの履歴を保存し、ステップS37にて、各インジェクタ45,46の燃料噴射割合を変更してからの経過時間が予め設定された規定時間を経過したかどうかを判定する。この場合、エンジンの出力トルクは、クランク角センサ76が検出したクランク角に基づいて推定したり、筒内圧センサを設け、この筒内圧センサが検出した筒内圧に基づいて推定してもよい。
【0085】
そして、ステップS37にて、各インジェクタ45,46の燃料噴射割合を変更してからの経過時間が規定時間を経過していないと判定されたら、ステップS34に戻ってこの処理を継続する。一方、各インジェクタ45,46の燃料噴射割合を変更してからの経過時間が規定時間を経過したと判定したら、ステップS38にて、各インジェクタ45,46の燃料噴射割合を変更してからの経過時間が規定時間を経過するまでの期間における出力トルクの変化量(または、出力トルクの変化率)を算出する。
【0086】
ステップS39にて、ECU71は、ステップS38で算出した点火時期変化率に基づいて、現在使用されている燃料の性状、つまり、重質燃料であるか軽質燃料であるかを判定する。そして、燃料性状が判定されると、ステップS40にて、ECU71は、判定された燃料性状を燃料噴射制御に反映させる。
【0087】
即ち、規定時間当たりの出力トルクの変化量は、軽質燃料における変化量より重質燃料における変化量の方が大きい。つまり、軽質燃料における出力トルクの変化量より重質燃料における出力トルクの変化率の方が大きくなることから、この軽質燃料の出力トルクの変化率と重質燃料の出力トルクの変化率との間に判定のための閾値を設定することで、使用されている燃料が軽質燃料であるか、重質燃料であるかを判定することができる。
【0088】
このように実施例3の内燃機関における燃料性状判定装置にあっては、吸気ポート19に燃料を噴射可能な第1インジェクタ45と、燃焼室18に燃料を噴射可能な第2インジェクタ46とを設け、ECU71によりエンジンの運転状態に応じて第1インジェクタ45と第2インジェクタ46との燃料噴射割合を変更可能とし、ECU71は、第2インジェクタ46の燃料噴射割合が大きくなるように変更したとき、エンジンの出力トルクの変化量(変化率)が予め設定された閾値より大きいときに重質燃料であると判定している。
【0089】
従って、吸気ポート19に噴射された燃料と、燃焼室18に噴射された燃料との気化状態と、重質燃料と軽質燃料との気化性状を考慮することで、使用燃料の性状を高精度に判定することができる。
【0090】
また、実施例3の内燃機関における燃料性状判定装置では、全体の燃料噴射量を一定とし、第2インジェクタ46の燃料噴射割合が徐々に大きくなるように変更する一方、第1インジェクタ45の燃料噴射割合が小さくなるように変更したとき、出力トルクの変化量が閾値より大きいときに重質燃料であると判定する。従って、燃料噴射割合を徐々に変更することで、急激なエンジン回転数変動がないためにドライバに違和感を与えることはない。
【0091】
また、実施例3の内燃機関における燃料性状判定装置では、制御量を出力トルクとし、出力トルクの変化量に基づいて燃料性状を判定する。従って、既に制御で使用している出力トルクを用いて燃料性状判定を行うことができ、低コスト化を可能とすることができる。
【実施例4】
【0092】
図8は、本発明の実施例4に係る内燃機関における燃料性状判定装置の燃料性状判定制御を表すフローチャート、図9は、実施例4の内燃機関における燃料性状判定装置の燃料性状判定制御を表すタイムチャートである。なお、本実施例の内燃機関の燃料性状判定装置における全体構成は、上述した実施例1とほぼ同様であり、図1を用いて説明すると共に、この実施例で説明したものと同様の機能を有する部材には同一の符号を付して重複する説明は省略する。
【0093】
実施例4の内燃機関の燃料性状判定装置では、図1に示すように、ECU71により第2インジェクタ46の燃料噴射割合が徐々に大きくなるように変更したとき、制御量が予め設定された判定制御量まで到達する経過時間が予め設定された閾値より短いときに重質燃料であると判定する。この場合、制御量を、エンジン回転数及び到達時間としている。ECU71は、各インジェクタ45,46の燃料噴射割合が変更されると、エンジン回転数が変動するため、このエンジン回転数の予め設定された判定エンジン回転数までの到達時間に基づいて燃料性状を判定する。
【0094】
ここで、実施例4の内燃機関における燃料性状判定装置によりエンジンに使用される燃料性状を判定する制御について、図8のフローチャートに基づいて説明する。
【0095】
本実施例の内燃機関における燃料性状判定装置における燃料性状判定制御において、図8に示すように、ステップS41にて、ECU71は、前提条件が成立したかどうかを判定する。ここで、前提条件が成立していないと判定されたら、ステップS49に移行し、前提条件が成立していると判定されたら、エンジンが既に始動していると判断してステップS42に移行する。
【0096】
ステップS42にて、ECU71は、第1インジェクタ45と第2インジェクタ46との燃料噴射割合の時系列配列、つまり、第1インジェクタ45の燃料噴射割合を「1」とし、第2インジェクタ46の燃料噴射割合を「0」としてから、第1インジェクタ45の燃料噴射割合を減少する一方、第2インジェクタ46の燃料噴射割合を増加するための燃料噴射量制御マップを、現在のエンジン運転状態に基づいて作成、または、記憶されたものから選択する。
【0097】
ステップS43にて、ECU71は、それまでに判定していた時間をリセットし、再びカウントを開始する。続いて、ステップS44にて、ECU71は、燃料噴射量制御マップにより設定された燃料割合を反映し、第1インジェクタ45及び第2インジェクタ46の燃料噴射割合(燃料噴射量)を変更する。ステップS45にて、ECU71は、第1インジェクタ45及び第2インジェクタ46の燃料噴射割合を徐々に変更していくとき、判定値(判定エンジン回転数)とエンジン回転数が判定値に到達するまでの経過時間を保存し、ステップS46にて、判定が終了、つまり、エンジン回転数が判定値に到達したかどうかを判定する。ここで、各インジェクタ45,46の燃料噴射割合を変更してからのエンジン回転数が判定値に到達していないと判定されたら、ステップS44に戻ってこの処理を継続する。一方、各インジェクタ45,46の燃料噴射割合を変更してからのエンジン回転数が判定値に到達したと判定したら、ステップS47にて、各インジェクタ45,46の燃料噴射割合を変更してからエンジン回転数が判定値に到達するまでの到達期間を記憶する。
【0098】
ステップS48にて、ECU71は、ステップS47で記憶した各インジェクタ45,46の燃料噴射割合を変更してからエンジン回転数が判定値に到達するまでの到達期間に基づいて、現在使用されている燃料の性状、つまり、重質燃料であるか軽質燃料であるかを判定する。そして、燃料性状が判定されると、ステップS49にて、ECU71は、判定された燃料性状を燃料噴射制御に反映させる。
【0099】
ここで、エンジン回転数が判定値に到達するまでの到達期間に基づいた燃料性状の判定方法について、図9のタイムチャートに基づいて説明する。
【0100】
図9に示すように、例えば、エンジンの始動時tにて、第1インジェクタ45のポート燃料噴射割合を「1」とし、第2インジェクタ46の筒内燃料噴射割合を「0」とし、時間tにて、第1インジェクタ45のポート燃料噴射割合を徐々に減少する一方、第2インジェクタ46の筒内燃料噴射割合を増加する。このとき、ポート噴射より筒内噴射の方が燃料蒸発割合が大きいことから、全体の燃料噴射量が増加せずに一定であっても、筒内への燃料噴射量が増加することでエンジン回転数が増加する。そして、ポート燃料噴射に比べて筒内燃料噴射の方が燃料性状の差異による影響が小さく、重質燃料が軽質燃料に比べて蒸発しにくいため、吸気ポート19に噴射されて蒸発しにくかった重質燃料が燃焼室18に噴射されて蒸発しやすくなることから、燃料が重質燃料であったときの方が、軽質燃料であったときに比べてエンジン回転数が増加しやすい。
【0101】
そのため、時間tからエンジン回転数が規定エンジン回転数に到達するまでの到達時間は、軽質燃料における到達時間tより重質燃料における到達時間tの方が短い。つまり、軽質燃料におけるエンジン回転数の変化量より重質燃料における回転数の変化量の方が大きくなることから、軽質燃料の到達時間tと重質燃料の到達時間tとの間に判定のための閾値を設定することで、使用されている燃料が軽質燃料であるか、重質燃料であるかを判定することができる。
【0102】
なお、エンジン回転数が規定値まで到達すると、時間tまたはtまでに、第1インジェクタ45のポート燃料噴射割合を「1」と戻すと共に、第2インジェクタ46の筒内燃料噴射割合を「0」に戻す。
【0103】
このように実施例4の内燃機関における燃料性状判定装置にあっては、吸気ポート19に燃料を噴射可能な第1インジェクタ45と、燃焼室18に燃料を噴射可能な第2インジェクタ46とを設け、ECU71によりエンジンの運転状態に応じて第1インジェクタ45と第2インジェクタ46との燃料噴射割合を変更可能とし、ECU71は、第2インジェクタ46の燃料噴射割合が大きくなるように変更したとき、エンジン回転数が予め設定された判定値まで上昇する到達時間が予め設定された閾値より短いときに重質燃料であると判定している。
【0104】
従って、吸気ポート19に噴射された燃料と、燃焼室18に噴射された燃料との気化状態と、重質燃料と軽質燃料との気化性状を考慮することで、使用燃料の性状を高精度に判定することができる。
【実施例5】
【0105】
図10は、本発明の実施例5に係る内燃機関における燃料性状判定装置の燃料性状判定制御を表すフローチャートである。なお、本実施例の内燃機関の燃料性状判定装置における全体構成は、上述した実施例1とほぼ同様であり、図1を用いて説明すると共に、この実施例で説明したものと同様の機能を有する部材には同一の符号を付して重複する説明は省略する。
【0106】
実施例5の内燃機関の燃料性状判定装置では、図1に示すように、ECU71により第2インジェクタ46の燃料噴射割合が徐々に大きくなるように変更したとき、操作量が予め設定された判定操作量まで到達する経過時間が予め設定された閾値より短いときに重質燃料であると判定する。この場合、操作量を、点火時期及び到達時間としている。ECU71は、各インジェクタ45,46の燃料噴射割合が変更されると、エンジン回転数が変動し、点火時期のフィードバック操作量、つまり、点火時期も変動する。そのため、この点火時期が予め設定された判定点火時期までの到達時間に基づいて燃料性状を判定する。
【0107】
ここで、実施例5の内燃機関における燃料性状判定装置によりエンジンに使用される燃料性状を判定する制御について、図10のフローチャートに基づいて説明する。
【0108】
本実施例の内燃機関における燃料性状判定装置における燃料性状判定制御において、図10に示すように、ステップS51にて、ECU71は、前提条件が成立したかどうかを判定する。ここで、前提条件が成立していないと判定されたら、ステップS59に移行し、前提条件が成立していると判定されたら、エンジンが既に始動していると判断してステップS52に移行する。
【0109】
ステップS52にて、ECU71は、第1インジェクタ45と第2インジェクタ46との燃料噴射割合の時系列配列、つまり、第1インジェクタ45の燃料噴射割合を「1」とし、第2インジェクタ46の燃料噴射割合を「0」としてから、第1インジェクタ45の燃料噴射割合を減少する一方、第2インジェクタ46の燃料噴射割合を増加するための燃料噴射量制御マップを、現在のエンジン運転状態に基づいて作成、または、記憶されたものから選択する。
【0110】
ステップS53にて、ECU71は、それまでに判定していた時間をリセットし、再びカウントを開始する。続いて、ステップS54にて、ECU71は、燃料噴射量制御マップにより設定された燃料割合を反映し、第1インジェクタ45及び第2インジェクタ46の燃料噴射割合(燃料噴射量)を変更する。ステップS55にて、ECU71は、第1インジェクタ45及び第2インジェクタ46の燃料噴射割合を徐々に変更していくとき、判定値(判定点火時期)と点火時期が判定値に到達するまでの経過時間を保存し、ステップS56にて、判定が終了、つまり、点火時期が判定値に到達したかどうかを判定する。ここで、各インジェクタ45,46の燃料噴射割合を変更してからの点火時期が判定値に到達していないと判定されたら、ステップS54に戻ってこの処理を継続する。一方、各インジェクタ45,46の燃料噴射割合を変更してからの点火時期が判定値に到達したと判定したら、ステップS57にて、各インジェクタ45,46の燃料噴射割合を変更してから点火時期が判定値に到達するまでの到達期間を記憶する。
【0111】
ステップS58にて、ECU71は、ステップS57で記憶した各インジェクタ45,46の燃料噴射割合を変更してから点火時期が判定値に到達するまでの到達期間に基づいて、現在使用されている燃料の性状、つまり、重質燃料であるか軽質燃料であるかを判定する。そして、燃料性状が判定されると、ステップS59にて、ECU71は、判定された燃料性状を燃料噴射制御に反映させる。
【0112】
即ち、点火時期が規定点火時期に到達するまでの到達時間は、軽質燃料における到達時間より重質燃料における到達時間の方が短い。つまり、軽質燃料における点火時期の変化量より重質燃料における点火時期の変化量の方が大きくなることから、軽質燃料の到達時間と重質燃料の到達時間との間に判定のための閾値を設定することで、使用されている燃料が軽質燃料であるか、重質燃料であるかを判定することができる。
【0113】
このように実施例5の内燃機関における燃料性状判定装置にあっては、吸気ポート19に燃料を噴射可能な第1インジェクタ45と、燃焼室18に燃料を噴射可能な第2インジェクタ46とを設け、ECU71によりエンジンの運転状態に応じて第1インジェクタ45と第2インジェクタ46との燃料噴射割合を変更可能とし、ECU71は、第2インジェクタ46の燃料噴射割合が大きくなるように変更したとき、点火時期が予め設定された判定値まで上昇する到達時間が予め設定された閾値より短いときに重質燃料であると判定している。
【0114】
従って、吸気ポート19に噴射された燃料と、燃焼室18に噴射された燃料との気化状態と、重質燃料と軽質燃料との気化性状を考慮することで、使用燃料の性状を高精度に判定することができる。
【実施例6】
【0115】
図11は、本発明の実施例6に係る内燃機関における燃料性状判定装置の燃料性状判定制御を表すフローチャートである。なお、本実施例の内燃機関の燃料性状判定装置における全体構成は、上述した実施例1とほぼ同様であり、図1を用いて説明すると共に、この実施例で説明したものと同様の機能を有する部材には同一の符号を付して重複する説明は省略する。
【0116】
実施例6の内燃機関の燃料性状判定装置では、図1に示すように、ECU71により第2インジェクタ46の燃料噴射割合が徐々に大きくなるように変更したとき、制御量が予め設定された判定制御量まで到達する経過時間が予め設定された閾値より短いときに重質燃料であると判定する。この場合、制御量を、出力トルク及び到達時間としている。ECU71は、各インジェクタ45,46の燃料噴射割合が変更されると、エンジン回転数が変動し、出力トルクも変動する。そのため、この出力トルクが予め設定された判定出力トルクまでの到達時間に基づいて燃料性状を判定する。
【0117】
ここで、実施例6の内燃機関における燃料性状判定装置によりエンジンに使用される燃料性状を判定する制御について、図11のフローチャートに基づいて説明する。
【0118】
本実施例の内燃機関における燃料性状判定装置における燃料性状判定制御において、図11に示すように、ステップS61にて、ECU71は、前提条件が成立したかどうかを判定する。ここで、前提条件が成立していないと判定されたら、ステップS70に移行し、前提条件が成立していると判定されたら、エンジンが既に始動していると判断してステップS62に移行する。
【0119】
ステップS62にて、ECU71は、第1インジェクタ45と第2インジェクタ46との燃料噴射割合の時系列配列、つまり、第1インジェクタ45の燃料噴射割合を「1」とし、第2インジェクタ46の燃料噴射割合を「0」としてから、第1インジェクタ45の燃料噴射割合を減少する一方、第2インジェクタ46の燃料噴射割合を増加するための燃料噴射量制御マップを、現在のエンジン運転状態に基づいて作成、または、記憶されたものから選択する。
【0120】
ステップS63にて、ECU71は、それまでに判定していた時間をリセットし、再びカウントを開始する。続いて、ステップS64にて、ECU71は、燃料噴射量制御マップにより設定された燃料割合を反映し、第1インジェクタ45及び第2インジェクタ46の燃料噴射割合(燃料噴射量)を変更する。ステップS65にて、ECU71は、第1インジェクタ45及び第2インジェクタ46の燃料噴射割合を徐々に変更していくときのエンジンの出力トルクを推定し、ステップS66にて、出力トルクの判定値(判定出力トルク)と出力トルクが判定値に到達するまでの経過時間を保存し、ステップS67にて、判定が終了、つまり、出力トルクが判定値に到達したかどうかを判定する。ここで、各インジェクタ45,46の燃料噴射割合を変更してからの出力トルクが判定値に到達していないと判定されたら、ステップS64に戻ってこの処理を継続する。一方、各インジェクタ45,46の燃料噴射割合を変更してからの出力トルクが判定値に到達したと判定したら、ステップS68にて、各インジェクタ45,46の燃料噴射割合を変更してから出力トルクが判定値に到達するまでの到達期間を記憶する。
【0121】
ステップS69にて、ECU71は、ステップS68で記憶した各インジェクタ45,46の燃料噴射割合を変更してから出力トルクが判定値に到達するまでの到達期間に基づいて、現在使用されている燃料の性状、つまり、重質燃料であるか軽質燃料であるかを判定する。そして、燃料性状が判定されると、ステップS70にて、ECU71は、判定された燃料性状を燃料噴射制御に反映させる。
【0122】
即ち、出力トルクが規定出力トルクに到達するまでの到達時間は、軽質燃料における到達時間より重質燃料における到達時間の方が短い。つまり、軽質燃料における出力トルクの変化量より重質燃料における出力トルクの変化量の方が大きくなることから、軽質燃料の到達時間と重質燃料の到達時間との間に判定のための閾値を設定することで、使用されている燃料が軽質燃料であるか、重質燃料であるかを判定することができる。
【0123】
このように実施例6の内燃機関における燃料性状判定装置にあっては、吸気ポート19に燃料を噴射可能な第1インジェクタ45と、燃焼室18に燃料を噴射可能な第2インジェクタ46とを設け、ECU71によりエンジンの運転状態に応じて第1インジェクタ45と第2インジェクタ46との燃料噴射割合を変更可能とし、ECU71は、第2インジェクタ46の燃料噴射割合が大きくなるように変更したとき、出力トルクが予め設定された判定値まで上昇する到達時間が予め設定された閾値より短いときに重質燃料であると判定している。
【0124】
従って、吸気ポート19に噴射された燃料と、燃焼室18に噴射された燃料との気化状態と、重質燃料と軽質燃料との気化性状を考慮することで、使用燃料の性状を高精度に判定することができる。
【実施例7】
【0125】
図12は、本発明の実施例7に係る内燃機関における燃料性状判定装置の燃料性状判定制御を表すタイムチャートである。なお、本実施例の内燃機関の燃料性状判定装置における全体構成は、上述した実施例1とほぼ同様であり、図1を用いて説明すると共に、この実施例で説明したものと同様の機能を有する部材には同一の符号を付して重複する説明は省略する。
【0126】
実施例7の内燃機関の燃料性状判定装置では、図1に示すように、ECU71により第2インジェクタ46の燃料噴射割合が一定量だけ大きくなるように変更したとき、制御量の平衡値が予め設定された閾値より大きいときに重質燃料であると判定する。この場合、制御量を、エンジン回転数(エンジン回転速度)としている。ECU71は、各インジェクタ45,46の燃料噴射割合が変更されると、エンジン回転数が変動するため、このエンジン回転数の平衡値に基づいて燃料性状を判定する。
【0127】
ここで、実施例7の内燃機関における燃料性状判定装置によりエンジンに使用される燃料性状を判定する制御について、図12のタイムチャートに基づいて説明する。
【0128】
本実施例の内燃機関における燃料性状判定装置における燃料性状判定制御において、図12に示すように、例えば、エンジンの始動時tにて、第1インジェクタ45のポート燃料噴射割合を「1」とし、第2インジェクタ46の筒内燃料噴射割合を「0」とし、時間tにて、第1インジェクタ45のポート燃料噴射割合を一定割合だけ減少する一方、第2インジェクタ46の筒内燃料噴射割合を一定割合だけ増加する。このとき、ポート噴射より筒内噴射の方が燃料蒸発割合が大きいことから、全体の燃料噴射量が増加せずに一定であっても、筒内への燃料噴射量が一定量増加することでエンジン回転数が一定量だけ増加する。そして、ポート燃料噴射に比べて筒内燃料噴射の方が燃料性状の差異による影響が小さく、重質燃料が軽質燃料に比べて蒸発しにくいため、吸気ポート19に噴射されて蒸発しにくかった重質燃料が燃焼室18に噴射されて蒸発しやすくなることから、燃料が重質燃料であったときの方が、軽質燃料であったときに比べてエンジン回転数が増加しやすい。
【0129】
そのため、時間tから時間tまでの規定時間当たりのエンジン回転数の平衡値は、軽質燃料における平衡値より重質燃料のおける平衡値の方が大きい。つまり、軽質燃料のエンジン回転数の平衡値と重質燃料のエンジン回転数の平衡値との間に判定のための閾値を設定することで、使用されている燃料が軽質燃料であるか、重質燃料であるかを判定することができる。
【0130】
なお、規定時間が経過して時間tに到達すると、第1インジェクタ45のポート燃料噴射割合を「1」に戻すと共に、第2インジェクタ46の筒内燃料噴射割合を「0」に戻す。
【0131】
このように実施例7の内燃機関における燃料性状判定装置にあっては、吸気ポート19に燃料を噴射可能な第1インジェクタ45と、燃焼室18に燃料を噴射可能な第2インジェクタ46とを設け、ECU71によりエンジンの運転状態に応じて第1インジェクタ45と第2インジェクタ46との燃料噴射割合を変更可能とし、ECU71は、第2インジェクタ46の燃料噴射割合が大きくなるように変更したとき、エンジン回転数の平衡値が予め設定された閾値より大きいときに重質燃料であると判定している。
【0132】
従って、吸気ポート19に噴射された燃料と、燃焼室18に噴射された燃料との気化状態と、重質燃料と軽質燃料との気化性状を考慮することで、使用燃料の性状を高精度に判定することができる。
【0133】
また、実施例7の内燃機関における燃料性状判定装置では、全体の燃料噴射量を一定とし、第2インジェクタ46の燃料噴射割合が一定量だけ一度に大きくなるように変更する一方、第1インジェクタ45の燃料噴射割合が一定量だけ一度に小さくなるように変更したとき、エンジン回転数の平衡値が閾値より大きいときに重質燃料であると判定する。従って、燃料噴射割合を一定量だけ一度に変更することで、判定期間を短くすることができ、迅速な燃料性状判定を可能とすることができる。
【0134】
なお、上述した実施例では、第2インジェクタ(第2燃料噴射弁)46の燃料噴射割合が大きくなるように変更したとき、エンジン(内燃機関)に対する操作量または制御量の変化が閾値より大きいときに重質燃料であると判定している。この場合、操作量として点火時期を適用し、制御量としてエンジン回転数(エンジン回転速度)、出力トルクを適用したが、これらに限るものではない。例えば、制御量として吸入空気量、筒内圧力などを適用してもよい。また、具体的には、操作量または制御量の変化量、変化率、判定値までの到達時間などを適用したが、この組合せは各実施例に限定されるものではない。
【産業上の利用可能性】
【0135】
以上のように、本発明に係る内燃機関における燃料性状判定装置は、筒内燃料噴射割合を変更するときに内燃機関に対する操作量の変化または制御量の変化に基づいて燃料性状を判定することで、高精度な燃料性状判定を可能とするものであり、いずれの内燃機関にも有用である。
【図面の簡単な説明】
【0136】
【図1】本発明の実施例1に係る内燃機関における燃料性状判定装置が適用されたエンジンの概略構成図である。
【図2】実施例1の内燃機関における燃料系を表す概略構成図である。
【図3】実施例1の内燃機関における燃料性状判定装置の燃料性状判定制御を表すフローチャートである。
【図4】実施例1の内燃機関における燃料性状判定装置の燃料性状判定制御を表すタイムチャートである。
【図5】本発明の実施例2に係る内燃機関における燃料性状判定装置の燃料性状判定制御を表すフローチャートである。
【図6】実施例2の内燃機関における燃料性状判定装置の燃料性状判定制御を表すタイムチャートである。
【図7】本発明の実施例3に係る内燃機関における燃料性状判定装置の燃料性状判定制御を表すフローチャートである。
【図8】本発明の実施例4に係る内燃機関における燃料性状判定装置の燃料性状判定制御を表すフローチャートである。
【図9】実施例4の内燃機関における燃料性状判定装置の燃料性状判定制御を表すタイムチャートである。
【図10】本発明の実施例5に係る内燃機関における燃料性状判定装置の燃料性状判定制御を表すフローチャートである。
【図11】本発明の実施例6に係る内燃機関における燃料性状判定装置の燃料性状判定制御を表すフローチャートである。
【図12】本発明の実施例7に係る内燃機関における燃料性状判定装置の燃料性状判定制御を表すタイムチャートである。
【符号の説明】
【0137】
18 燃焼室
19 吸気ポート
20 排気ポート
21 吸気弁
22 排気弁
45 第1インジェクタ(第1燃料噴射弁)
46 第2インジェクタ(第2燃料噴射弁)
47 低圧燃料供給系
48 高圧燃料供給系
61 点火プラグ
71 電子制御ユニット、ECU(燃料噴射制御手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関の吸気ポートに燃料を噴射可能な第1燃料噴射弁と、
前記内燃機関の燃焼室に燃料を噴射可能な第2燃料噴射弁と、
前記内燃機関の運転状態に応じて第1燃料噴射弁と第2燃料噴射弁との燃料噴射割合を変更可能な燃料噴射制御手段とを備える内燃機関において、
前記燃料噴射制御手段により前記第2燃料噴射弁の燃料噴射割合が徐々に大きくなるように変更したとき、前記内燃機関に対する操作量の変化または前記内燃機関における制御量の変化が予め設定された閾値より大きいときに重質燃料であると判定する、
ことを特徴とする内燃機関における燃料性状判定装置。
【請求項2】
前記燃料噴射制御手段により前記第2燃料噴射弁の燃料噴射割合が徐々に大きくなるように変更したとき、前記操作量の変化率または前記制御量の変化率が予め設定された閾値より大きいときに重質燃料であると判定することを特徴とする請求項1に記載の内燃機関における燃料性状判定装置。
【請求項3】
前記燃料噴射制御手段により前記第2燃料噴射弁の燃料噴射割合が徐々に大きくなるように変更したとき、前記操作量または前記制御量が予め設定された判定操作量または予め設定された判定制御量まで到達する経過時間が予め設定された閾値より短いときに重質燃料であると判定することを特徴とする請求項1に記載の内燃機関における燃料性状判定装置。
【請求項4】
内燃機関の吸気ポートに燃料を噴射可能な第1燃料噴射弁と、
前記内燃機関の燃焼室に燃料を噴射可能な第2燃料噴射弁と、
前記内燃機関の運転状態に応じて第1燃料噴射弁と第2燃料噴射弁との燃料噴射割合を変更可能な燃料噴射制御手段とを備える内燃機関において、
前記燃料噴射制御手段により前記第2燃料噴射弁の燃料噴射割合を一定量だけ大きくなるように変更したとき、前記内燃機関に対する操作量の平衡値または前記内燃機関における制御量の平衡値が予め設定された閾値より大きいときに重質燃料であると判定する、
ことを特徴とする内燃機関における燃料性状判定装置。
【請求項5】
前記操作量は、前記内燃機関における点火時期であることを特徴とする請求項1から4のいずれか一つに記載の内燃機関における燃料性状判定装置。
【請求項6】
前記制御量は、前記内燃機関におけるエンジン回転速度または出力トルクであることを特徴とする請求項1から4のいずれか一つに記載の内燃機関における燃料性状判定装置。
【請求項7】
前記内燃機関の始動時に、使用燃料の性状判定を実行することを特徴とする請求項1から6のいずれか一つに記載の内燃機関における燃料性状判定装置。
【請求項8】
前記内燃機関における排気系に設けられる空燃比センサが未暖機であるときに、使用燃料の性状判定を実行することを特徴とする請求項1から7のいずれか一つに記載の内燃機関における燃料性状判定装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate


【公開番号】特開2010−31800(P2010−31800A)
【公開日】平成22年2月12日(2010.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−196650(P2008−196650)
【出願日】平成20年7月30日(2008.7.30)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】