説明

内燃機関のピストン構造

【課題】内燃機関の爆発行程時にピストンがピストンピンを中心にして回転し、シリンダに衝突し、シリンダから受ける反力に対応するようにスラスト、反スラスト方向のトップランド高さを、ピストンピン方向におけるトップランドの高さより高くすると共に、この高い部分の形状がスラスト、反スラスト方向視において山形形状として、トップランド部の高さを最小限に抑制して軽量且つコスト低減を図ると共に、未燃HCの排出量の抑制効果を得ながら強度を確保したピストン得る。
【解決手段】ピストンピン51の軸線と直交する方向に位置する第1トップランド部53をシリンダ側13からの反力に応じて他の部位である第2トップランド部54より厚くすると共に、ピストン5の外周に沿った方向へ滑らかに傾斜した山形形状として、シリンダ13と、トップランド52とのクレビス部23容量を最小限にする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関のシリンダを摺動するピストン構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、図8に示すように内燃機関1には、シリンダ13と、シリンダ13内をシリンダ13の軸線方向に沿って摺動可能に配設されているピストン2と、ピストン2の頂面21に対向した面を有し、シリンダブロック12にガスケット15を介して取付けられたシリンダヘッド11とで囲まれた燃焼室3が形成されている。
ピストン2とシリンダ13との気密性を保持するために、ピストン2の上部の外周部に配設したリング溝にピストンリング22が嵌合されている。
燃料と空気が予混合された予混合ガスが燃焼室3に吸引され、ピストン2で圧縮した時期に、点火プラグ14にて着火し火炎が燃焼室に火炎伝播して予混合ガスが燃焼して、ピストン2を押し下げて内燃機関としての出力をとりだしている。
また、シリンダブロック12には燃焼室3を構成する部分を冷却するウォータジャケット16が形成されている。
【0003】
ところが、ピストン2の頂面21からピストンリング22の間の所謂、トップランド20とシリンダ13との隙間23(以後クレビス部と称す)があるため、ピストン2の圧縮行程時にクレビス部23に予混合ガスが侵入する。
クレビス部23に侵入した予混合ガスは圧縮された状態で維持され、隙間が狭く火炎伝播がされ難く、燃焼され難いので、ピストン2の排気行程時に排気ガスと一緒に未燃焼ガスHCとして燃焼室3から排出される。
未燃焼ガスHCは光化学スモッグや酸性雨の原因になるので、大気への排出量の削減が求められている。
【0004】
その対応策として、トップランド20の高さを減少することにより、クレビス部23の容積を小さくすることが考えられる。
ところが、図9の(イ)及び(ロ)に示すように、トップランド20の高さを大きくするとトップランド20の強度は増大(イ)するが、当該部のクレビス部23は大きくなりHCの排出量は多くなる(ロ)。逆に、トップランド20の高さを小さくすると強度は小さくなる(イ)が、HC排出量は減少する(ロ)背反関係の不具合がある。
尚、トップランド20の高さを変えるピストンに関する技術の一例として、以下の特許文献1が存在する。
【0005】
しかし、特開2006−226232号公報(特許文献1)によると、図10に示すように、シリンダヘッド013とピストンの頂面との間にスキッシュ空間021,023を形成するため、ピストンの頂面に平面状の棚形状をした、吸気側スキッシュ形成部049と排気側スキッシュ形成部051が配設されている。
これは、スキッシュ流SFを形成するための棚部なので、ピストン上死点ではシリンダヘッドとのギャップが僅かになるようにトップランドを厚くしてある。
従って、スキッシュ形成部の面積及び体積も大きくなり、クレビス部23(図8参照)の容積も大きくなり、未燃焼ガスHC排出量が増加する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−226232号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明はかかる従来技術の課題に鑑み、内燃機関の爆発行程時にピストンのトップランド部がピストンピンを中心にして回転し、シリンダに衝突した際に、シリンダから受ける反力に対応するようにピストンピン方向に直角のスラスト、反スラスト方向におけるトップランドの高さを、ピストンピン方向におけるトップランドの高さより高くすると共に、この高い部分の形状を前記スラスト、反スラスト方向視において、山形形状として、トップランド部の高さを最小限に抑制して軽量且つコスト低減を図ると共に、未燃焼ガスHCの排出量の抑制効果を得ながら強度を確保したピストン得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明はかかる目的を達成するもので、内燃機関のシリンダブロックに形成されるシリンダと、該シリンダ内部を摺動するピストンと、該ピストンの頂部に対向して配設されたシリンダヘッドと、前記ピストン上部の側面外周に形成されたリング溝に嵌入するピストンリングとで燃焼室を構成する内燃機関の燃焼室構造において、前記ピストンのスラスト、反スラスト方向に位置する第1トップランド部の前記ピストンリングから前記ピストンの頂部までのトップランド高さを、前記内燃機関の爆発行程時に前記第1トップランド部が前記ピストンピンを中心にして回転し、前記シリンダに衝突して前記シリンダから受ける反力に応じた強度を有する高さとして、前記ピストンピン方向の部位である第2トップランド部より厚くすると共に、第1トップランド部のスラスト、反スラスト方向視が山形形状としたことを特徴とする。
【0009】
かかる発明において、ピストンピンの軸線と直交する方向に位置する第1トップランド部を爆発行程時のシリンダ側からの反力に応じて補強(トップランドの高さを増加)する構造としたので、ピストンのトップランドとシリンダとの隙間部分(クレビス部)の全体容積を少なくすることにより、隙間部分(クレビス部)に侵入する予混合燃料ガスの量を少なくして、燃焼室から排出されるHCを減少させる効果を有している。
また、トップランドの高さをシリンダ側からの反力に応じて高さとし且つ、ピストンの外周に沿った山形形状としたのでピストン重量を軽減すると共に、シリンダからの反力がピストンの外周部に滑らかに伝わり高応力の発生を防止する効果を有している。
【0010】
また、本願発明において好ましくは、前記第1トップランド部は外周部だけを厚くするとよい。
【0011】
このような構成にすることにより、燃焼室での燃焼行程時、燃焼圧力が作用する方向(スラスト方向)以外の部分はシリンダとの当接面圧が小さいので、シリンダとの当接面積を減少させることにより、ピストンの重量軽減による内燃機関の出力アップと、材料費軽減によるコスト低減が可能となり、クレビス部)の全体容積を少なくすることにより、排出ガスの環境負荷低減も可能となる。
【0012】
また、本願発明において好ましくは、前記ピストンの頂面には前記第1トップランドの山形形状がスラスト、反スラスト方に沿って前記ピストンの直径全域にわたり延設するとよい。
【0013】
このような構成にすることにより、燃焼室での燃焼行程時及び、排気行程時に燃焼圧力及び排気圧力が作用するピストンの頂面にはピストンピンの軸線と直交する方向に山形形状の補強用凸条をピストンの直径全域にわたり配設することにより、ピストンピンの軸線方向に位置する第2トップランド部の高さを減少させて、燃焼室から排出されるHCを減少させる効果を有すると共に、ピストンの重量軽減による内燃機関の出力アップと、材料費軽減によるコスト低減が可能となり、クレビス部)の全体容積を少なくすることにより、排出ガスの環境負荷低減効果を有する。
【0014】
また、本願発明において好ましくは、前記第2トップランド部には前記ピストンの母材より熱伝導率の高い材料を配設するとよい。
【0015】
このような構成にすることにより、第2トップランド部は肉厚が薄くなった分、燃焼による熱吸収容量が少なく、当該部の温度上昇が高くなるため、ピストン全体への熱移動を促進させて、ピストンのトップランドの温度を下げて、機械的強度の維持、熱応力不均一による機械的なストレス発生を防止して、ピストンの耐久性向上が可能となる。
更に、燃焼室から排出されるHCを減少させる効果を有している。
【0016】
また、本願発明において好ましくは、前記第2トップランド部の前記シリンダとの対向面は表面粗さが他の部分より面粗さを緻密にするとよい。
【0017】
このような構成にすることにより、第2トップランド部は肉厚が薄くなった分、燃焼による熱吸収容量が少なく、当該部の温度上昇が高くなるため、シリンダとの実質の接触面積を大きくして、シリンダへの熱移動を促進させてピストンの温度を下げることにより、機械的強度の維持、熱応力不均一による機械的なストレス発生を防止して、ピストンの耐久性向上が可能となる。
【0018】
また、本願発明において好ましくは、前記ピストン内空部の前記第2トップランドの裏側部分には冷却用オイルジェットの噴出量を他の部分より多するとよい。
【0019】
このような構成にすることにより、第2トップランド部は肉厚が薄くなった分、燃焼による熱吸収容量が少なく、当該部の温度上昇が高くなるため、ピストン内空部の第2トップランド裏側部分に噴射する冷却用オイルジェットの噴出量を他の部分より多くして、当該部分を油冷却することにより、ピストン温度を下げて、機械的強度の維持、熱応力不均一による機械的なストレス発生を防止して、ピストンの耐久性の維持が可能となる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、ピストンピンの軸線と直交する方向に位置する第1トップランド部の高さを爆発行程時のシリンダ側からの反力に応じた強度を有する高さに抑制して、第2トップランドは薄くする構造としたので、ピストンのトップランドとシリンダとの隙間部分(クレビス部)に侵入する予混合燃料ガスの量を少なくして、燃焼室から排出されるHCを減少させる効果を有している。
また、トップランドの高さをシリンダ側からの反力に応じて高くし且つ、ピストンの外周に沿った山形形状としたのでピストン重量を軽減できると共に、シリンダからの反力がピストンの外周部に滑らかに伝わり高応力の発生を防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】は本発明の第1実施形態にかかる説明図であり、(A)はピストンピンの軸線方向視で、(B)は(A)の側面視及び(C)は(B)のZ矢視図を示す。
【図2】は本発明の第2実施形態にかかる説明図であり、(A)はピストンピンの軸線方向視で、(B)は(A)の側面視及び(C)は(B)のZ矢視図を示す。
【図3】は本発明の第3実施形態にかかる説明図であり、(A)はピストンピンの軸線方向視で、(B)は(A)の側面視及び(C)は(B)のZ矢視図を示す。
【図4】は本発明の第4実施形態にかかる説明図であり、(A)はピストンピンの軸線方向視で、(B)は(A)の側面視及び(C)は(B)のZ矢視図を示す。
【図5】は本発明にかかる説明図であり、(A)は熱伝達率の高い金属の概略配置を示す平面視で、(B)は(A)の側面視を示す。
【図6】は本発明にかかる、第2トップランドの裏面に冷却用オイルジェットの噴霧状況のイメージ図を示す。
【図7】は本発明の第4実施形態にかかる説明図であり、(A)は熱伝達率の高い金属の概略配置を示す平面視で、(B)は(A)の側面視を示す。
【図8】は内燃機関の燃焼室を形成する概略構成図を示す。
【図9】はトップランド部の大小による効果の比較図を示す。
【図10】は従来技術の燃焼室を形成する概略構成図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明を図に示した実施形態を用いて詳細に説明する。
但し、この実施形態に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対配置などは特に特定的な記載がない限り、この発明の範囲をそれのみに限定する趣旨ではなく、単なる説明例にすぎない。
尚、従来技術と変わらない部材及び箇所は従来技術と同じ符号を使用する。
【0023】
(第1実施形態)
図1は本発明の第1実施形態における、ピストン5の模式的な形状を示し、(A)はピストン5のピストンピン51の軸線方向視を示し、(B)はその側面視を示す。
ピストン5はシリンダブロック12(図8参照)内に形成されたシリンダ13(図8参照)内を摺動するもので、その頂面59とシリンダヘッド11(図8参照)とで燃焼室3(図8参照)を形成している。
シリンダヘッド11に設けられた吸気ポート(図示省略)から、燃料と空気とを予混合した吸気ガスがシリンダ13内に供給され、ピストン5によって圧縮され、点火プラグ14にて爆発的に燃焼される。
【0024】
ピストン5には頂面59から下方に位置した部分の側面全周に亘ってリング溝が下方方向に3本形成されている。該リング溝には上側からピストンリングであるトップリング55、セカンドリング56及びサ−ドリング(オイルリング)57が嵌着されており、シリンダ13内周面とピストン5との気密を保持している。
特に、トップリング55はコンプレッションリングと称され、燃焼室3内の予混合ガスの圧縮及び予混合ガスの燃焼圧力の気密を保持する作用をしている。
【0025】
ピストン5は内燃機関1(図8参照)の稼動中においては、燃焼室3における予混合ガスの圧縮行程時と爆発行程時には特に強い圧力でピストンピン51の軸線に対し直交する方向(以後この方向を「スラスト/半スラスト方向」と称す)へ回動してシリンダ13壁を押圧する。
従って、ピストン5のトップリング54と頂面59との間の部分、所謂トップランド52のスラスト/半スラスト方向に位置する第1トップランド53を爆発行程によってシリンダ13側を押圧した作用力の反作用力に応じた強度を有する高さM1(図1参照)になっている。ピストンピン51の軸線方向に沿ったトップランド52の部分に位置する第2トップランド54は燃焼室3における予混合ガスの圧縮行程時と爆発行程時には特に強い圧力でシリンダ13の側壁に当接しないので、第1トップランド53の高さM1より小さくして、爆発行程時に頂面59へ作用する圧力に耐えることができる高さN1になっている。
【0026】
また、図5(A)、(B)及び(C)に示すように、第1トップランド53はトップランド52の外周部でスラスト/半スラスト方向の両端に位置する部分の外周部に沿って半径方向に幅Sを有し、シリンダ13からの反力受ける部分を円弧状に形成した突出部531とし、該突出部531はスラスト/半スラスト方向視における突出部531の上面から第2トップランド54の上面へと滑らかに変化する山形形状となっている。
第1トップランド53をスラスト/半スラスト方向視において台形状の高さM1と上辺幅Kは爆発行程によって、ピストン5の第1トップランド53がピストンピン51を中心にシリンダ13に衝突し、その衝突力によるシリンダ13側からの反作用力に応じた強度と、第2トップランド54の高さN1からトップランド52の全体強度を考慮しながら決めればよい。
このような形状にすることにより、クレビス部23(図8参照)の容量を小さくして、
排気行程時に排気ガスと一緒に未燃焼ガスHCが燃焼室3からの排出量を減少できる。
【0027】
一方、図5に示す通り、高さNが小さい第2トップランド54部分には予混合ガスの燃焼による熱が蓄積され、熱による機械的強度が減少するのを防ぐ目的で、ピストン母材より熱伝導率の高い金属材541を鋳込んだ構造となっている。
熱伝導率の高い金属材541はピストンピン51の軸線方向両端部の第2トップランド部54に鋳込まれている。形状はピストン5の外周に沿い、半径方向に幅Pを有し、円弧状に且つ、第1トップランド53の近傍まで延在している。
これにより、第2トップランド54部分の熱はピストン5全体に速やかに伝わり、トップランド52の高蓄熱を防止して、ピストン5全体の耐久性を確保することができる。
熱伝導率の高い金属材としてはアルミ青銅、ネパール黄銅、リン青銅等が考えられる。
【0028】
また、第2トップランド54部分の蓄熱を防止する方法としては、図6に示すように、ピストン5の内側空間部で、第2トップランド54部分の裏側59の相当する部分にオイルジェットノズル9からの冷却用オイルの噴出量を、他の部分より多く吹付けて冷却を促進することにより、トップランド52の高蓄熱化を防止して、ピストン5全体の耐久性を確保することができる。
この場合、ピストン5の製造方法に特殊な操作を必要としないので、ピストン5のコスト上昇を抑制できる効果を有する。
【0029】
更に、第2トップランド54部分の蓄熱を防止する方法としては、ピストンピン51に沿った方向に位置するトップランド52のシリンダ13と対向する面の粗さを他の部分より緻密にすることにより、シリンダ13との実質接触面積を増加させ、第2トップランド54の熱をシリンダ13側に伝達させ、ウォータジャケット16により間接的に第2トップランド54の冷却を促進させることも可能である。
尚、第2トップランド54の冷却構造においては、上述の方法を適宜併用することで、更に効果的な冷却ができ、第2トップランド54の高さを少なくして、クレビス部23の容積を減少させることができる。
【0030】
第1トップランド部53を燃焼室3内で一番高い圧力がピストン5に作用する爆発行程時を想定して、シリンダ13側からの反力に応じてトップランドの高さM1を抑制する構造としたので、クレビス部23の全体容積を少なくして、燃焼室3から排出される未燃焼ガスHCを減少させる効果が得られる。
また、トップランド52の高さをシリンダ13側からの反力に応じた高さに抑制し且つ、ピストン5の外周に沿った山形形状としたので重量を軽減できると共に、シリンダからの反力がピストン5の外周部全体に滑らかに伝わり高応力の発生を防止する効果を有している。
【0031】
(第2実施形態)
本実施形態は、ピストン6のトップランド62部分の形状が変わる以外第1実施形態と同じなので、トップランド61部分の形状以外の説明は省略する。
図2は本発明の第2実施形態にかかる説明図であり、(A)はピストンピンの軸線方向視で、(B)は(A)の側面視及び(C)は(B)のZ矢視図を示す。
ピストン6のトップランド62のスラスト/半スラスト方向に位置する第1トップランド63は爆発行程によってシリンダ13側を押圧した作用力の反作用力に応じた強度を有する高さM2(図2参照)に抑制している。第1トップランド63はピストン6のスラスト/半スラスト方向視において台形状をなし、スラスト/半スラスト方向に沿って、ピストン6の直径略全域に亘って(図C参照)配設されている。
台形形状の上辺の高さM2と長さPは爆発行程によって、ピストン6の第1トップランド63がピストンピン61を中心にシリンダ13に衝突し、その衝突力によるシリンダ13側からの反作用力に応じた強度と、第2トップランド64の高さN2からトップランド62の全体強度を考慮しながら決めればよい。
また、ピストンピン孔61の軸線方向に沿った部分に位置する第2トップランド64は燃焼室3における予混合ガスの圧縮行程時と爆発行程時には特に強い圧力でシリンダ13の側壁に当接しないので、第1トップランド53の高さM2より小さくして、爆発行程時に頂面69へ作用する圧力に耐えることができる程度の高さN2になっている。
尚、第2トップランド64の熱対策については、第1実施形態と同じなので省略する。
【0032】
本実施形態によると、ピストン6の頂面69のスラスト/半スラスト方向全域に第1トップランド形状を延在させた構造としたので、トップランド72全体の頂面69の強度が向上することにより、第2トップランド64の高さN3を薄くできる。
従って、既述の通り、クレビス部23の全体容積を少なくして未燃焼HC排出量減少と、ピストン6軽量化による出力向上、コスト低減が可能となる。
更に、スラスト側(ピストンが上死点直後にシリンダ側から受ける側圧方向)から反スルスト側にむけ高さMを減少させてもよい。
これは、ピストンが上死点直後とは燃焼行程(爆発的燃焼)が始まった直後で、上死点前の側圧方向から反転して、シリンダ13に当たるため、シリンダ13からの反力が一番高い。従って、半スラスト側は、スラスト側に比較してシリンダ13側からの反力が小さいので、高さMを減少させることが可能となる。
この結果、更に、クレビス部23の全体容積縮小、ピストン6の重量軽減が可能となる。
【0033】
(第3実施形態)
本実施形態は、第2実施形態に対し、第1トップランド73のスラスト/半スラスト方向視の山形形状が異なるのみなので、該山形形状の説明を行い、他の部分は第2実施形態に同じなので説明を省略する。
図3は本発明の第3実施形態にかかる説明図であり、(A)はピストンピンの軸線方向視で、(B)は(A)の側面視及び(C)は(B)のZ矢視図を示す。
第1トップランド73の山形形状の頂辺幅Qは第2実施例の頂辺幅Pより小さくし、高さM3>M2として、トップランド72の強度を維持している。頂辺幅Qから第2トップランド74へ接続する傾斜部は円弧状の凹形状〔図3(B)〕参照に形成されている。
これは、既述の効果に加え、予混合された吸気ガスをピストン7が圧縮する際に、予混合ガスのタンブル流を助長させて、より効果的な燃焼を促進させ、出力向上及び省燃費を得ることができる。
台形形状の上辺の高さM3と長さZは爆発行程によって、ピストン7の第1トップランド73がピストンピン71を中心にシリンダ13に衝突し、その衝突力によるシリンダ13側からの反作用力に応じた強度と、第2トップランド74の高さN3からトップランド62の全体強度を考慮しながら決めればよい。
【0034】
(第4実施形態)
本実施形態は第1実施形態に対し、トップランド82の第1トップランド83の高さM4がピストン8のスラスト側(ピストンが上死点直後にシリンダ側から受ける側圧方向)にのみ配置したものである。
即ち、図4は本発明の第4実施形態にかかる説明図であり、(A)はピストンピンの軸線方向視で、(B)は(A)の側面視及び(C)は(B)のZ矢視図を示す。
トップランド82における第1トップランド83はピストン8の外周部でスラスト方向に位置する部分に外周部に沿って半径方向に幅Sを有して、シリンダ13からの作用する反力が一番大きい部分を円弧状に形成した突出形成部831を配設している。該突出形成部831の突出上面から第2トップランド841の上面へと滑らかに変化し、ピストンピン81の軸線方向視において台形状をなしている。
第1トップランド83の該台形状の高さM4と上辺幅Rは爆発行程によって作用するシリンダ13側からの反作用力に応じた強度と、第2トップランド84の高さN4等からトップランド82の全体強度を考慮しながら決めればよい。
【0035】
また、本実施形態の場合、第2トップランド84の冷却に関しては、図7に示す通り、高さN4が小さい第2トップランド84部分には、ピストン母材より熱伝導率の高い金属材841を鋳込んだ構造となっている。
熱伝導率の高い金属材841はトップランド82の第1トップランド83部分を除いたピストン8の外周部に円弧状に配設されている。
配設する金属材料としては、第1実施形態と同様の部材を使用する。
さらに、オイルジェットで冷却する場合には、ピストン8の内側空間部で、第2トップランド84の裏側に相当する部分に他の部分より多く冷却オイルを吹付けることで、トップランド82の高蓄熱を防止して、ピストン8全体の耐久性を確保することができる。
【0036】
本実施形態によると、第1トップランド83の厚い部分がスラスト側だけなので、ピストン8の全周におけるクレビス部23の全体容積が第1実施形態に比べて、さらに少なくすることができ、ピストン重量も軽減できるので、より効果的な未燃焼ガスHCの排出量削減と、重量軽減に伴う内燃機関出力向上が可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0037】
ピストンのトップランドとシリンダとの間のクレビス部の容量を小さくして、未燃焼ガスHCの減少をはかる内燃機関に適用できる。
【符号の説明】
【0038】
1 内燃機関
2 ピストン
3 燃焼室
4 右側集合排気管
5 ピストン
6 ピストン
9 オイルジェットノズル
11 シリンダヘッド
13 シリンダ
20 トップランド
23 クレビス部
52 トップランド
53 第1トップランド
54 第2トップランド
59 頂面
62 トップランド
63 第1トップランド
64 第2トップランド
69 頂面
72 トップランド
73 第1トップランド
74 第2トップランド
79 頂面
531 突出部
541 熱伝導率の高い金属材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関のシリンダブロックに形成されるシリンダと、該シリンダ内部を摺動するピストンと、該ピストンの頂部に対向して配設されたシリンダヘッドと、前記ピストン上部の側面外周に形成されたリング溝に嵌入するピストンリングとで燃焼室を構成する内燃機関の燃焼室構造において、前記ピストンのスラスト、反スラスト方向に位置する第1トップランド部の前記ピストンリングから前記ピストンの頂部までのトップランド高さを、前記内燃機関の爆発行程時に前記第1トップランド部が前記ピストンピンを中心にして回転し、前記シリンダに衝突して前記シリンダから受ける反力に応じた強度を有する高さとして、前記ピストンピン方向の部位である第2トップランド部より厚くすると共に、第1トップランド部のスラスト、反スラスト方向視が山形形状としたことを特徴とする内燃機関の燃焼室構造。
【請求項2】
前記第1トップランド部は外周部だけを厚くしたことを特徴とする請求項1記載の内燃機関の燃焼室構造。
【請求項3】
前記ピストンの頂面には前記第1トップランドの山形形状が前記スラスト、反スラスト方向に沿って前記ピストンの直径全域にわたり延設されていることを特徴とする請求項1記載の内燃機関の燃焼室構造。
【請求項4】
前記第2トップランド部には前記ピストンの母材より熱伝導率の高い材料を配設したことを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の内燃機関の燃焼室構造。
【請求項5】
前記第2トップランド部の前記シリンダとの対向面は表面粗さが他の部分より面粗さを緻密にしたことを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の内燃機関の燃焼室構造。
【請求項6】
前記ピストン内空部の前記第2トップランドの裏側部分には冷却用オイルジェットの噴出量を他の部分より多くしたことを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の内燃機関の燃焼室構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−196237(P2011−196237A)
【公開日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−63313(P2010−63313)
【出願日】平成22年3月18日(2010.3.18)
【出願人】(000006286)三菱自動車工業株式会社 (2,892)
【Fターム(参考)】