内燃機関のピストン
【課題】圧縮行程において、ピストンの上昇に伴ってシリンダ内のタンブル流が横方向へ傾くことによって誘発されるノッキングの発生を防止できるようにする。
【解決手段】シリンダ内に吸気のタンブル流を生成させる手段を備える内燃機関に用いられるピストンにおいて、ピストン冠面12の中央部に形成される凹部20のピストンピン中心軸と直交する方向の両側部にそれぞれ略中央からピストン中心へ向けて内側へ突出する凸部25を設ける。
【解決手段】シリンダ内に吸気のタンブル流を生成させる手段を備える内燃機関に用いられるピストンにおいて、ピストン冠面12の中央部に形成される凹部20のピストンピン中心軸と直交する方向の両側部にそれぞれ略中央からピストン中心へ向けて内側へ突出する凸部25を設ける。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、内燃機関のピストンに関する。
【背景技術】
【0002】
内燃機関においては、燃焼性状を改善するため、ピストン冠面の中央部に凹部(ピストンキャビティ)を設け、吸気行程で吸気ポートからシリンダ内に吸入される吸気のタンブル流(縦方向の渦流)が、ピストンの圧縮上死点付近においても、勢力を保持しやすくしたものがある(特許文献1、特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2000−186556号公報
【特許文献2】特開2007−192186号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、圧縮行程においては、ピストンの上昇に伴ってシリンダ内のタンブル流が横方向へ付勢され、横方向の渦成分が発生する。そのため、ピストンの上死点付近において、横方向の渦成分により、凹部の周辺の流速が増し、点火プラグにて形成された初期火炎核が流されることで、火炎伝播が偏り、ノッキングを発生させやすい、という不具合が考えられる。
【0005】
この発明は、このような不具合に注目してなされたものであり、タンブル流以外の渦成分を抑える手段の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明は、シリンダ内に吸気のタンブル流を生成させる手段を備える内燃機関に用いられるピストンにおいて、ピストン冠面の中央部に形成される凹部のピストンピン中心軸と直交する方向の両側部にそれぞれ略中央からピストン中心へ向けて内側へ突出する凸部を設けたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
この発明によれば、シリンダ内のタンブル流(縦方向の渦流)は、ピストンの上昇に伴って横方向へ付勢され、横方向の渦流が発生するが、凹部のピストンピン中心軸と直交する方向の両側部の略中央からそれぞれピストン中心へ向けて内側へ突出する凸部により、横方向への渦成分が堰き止められ、その渦の流れが崩壊させられるようになる。従って、ピストン上死点付近において、燃焼室中央に配された点火プラグ着火部における流速が抑えられ、初期火炎核の形成が阻害されたり、火炎伝播に偏りが発生するようなこともなく、ノッキングの発生を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】この発明の実施形態に係る内燃機関の構成を説明する概要図である。
【図2】同じくピストン冠面の斜視図である。
【図3】同じくピストン冠面の凸部と各バルブリセスとの関係を説明する平面図である。
【図4】同じく(a)はピストン冠面の平面図、同じく(b)はそのA−A断面図である。
【図5】同じく(a)は燃焼室の平面図、同じく(b)はそのB−B断面図を含む説明図である。
【図6】同じく(a)はピストン冠面の平面図、同じく(b)はC−C断面図である
【図7】別の実施形態に係るピストン冠面の斜視図である。
【図8】同じく(a)はピストン冠面の平面図、同じく(b)はD−D断面図である。
【図9】同じく燃焼室の断面図を含む説明図である。
【図10】この発明の前提技術に係るピストン冠面の説明図である。
【図11】同じく(a)はピストン冠面の平面図、同じく(b)はそのE−E断面図である。
【図12】燃焼室内のガス流動(流速)の解析結果を例示する説明図である
【発明を実施するための形態】
【0009】
図1において、10はシリンダヘッド下面11とピストン冠面12とシリンダ側壁13とから画成される燃焼室であり、燃焼室10はペントルーフ型に形成される。燃焼室10の上面において、ピストンピン中心軸と平行な仮想直線(図示せず)を挟む一方の傾斜面(ルーフ面)に2つの吸気弁15が配置され、同じく他方の傾斜面(ルーフ面)に2つの排気弁16(図5、参照)が配置される。燃焼室10の上面の各1対の吸排気弁15,16で囲まれる略中央部に点火プラグ17(図5、参照)が配置される。
【0010】
吸気ポート18は、吸気行程でシリンダ内に吸入される吸気が縦方向(シリンダ中心軸線方向)の旋回流(タンブル流)を生成しえるように構成される。ピストン冠面12は、その周縁部に環状の基準平面21(図2、参照)を残して隆起する凸形状に形成され、その隆起面の略中央部にタンブル流がピストンの圧縮上死点付近においても勢力を保持しえるように凹部20(図2〜図6、参照)が設けられる。
【0011】
凹部20(ピストンキャビティ)は、ピストン冠面12を上から見ると、略矩形状に形成され、ピストン冠面12に凹部20を囲む隆起面22,23が残される。凹部20の底面の中央部20aは、深さが一定の平面に形成される。凹部20の底面のピストンピン中心軸と直交する方向の両側部20bは、シリンダ内のタンブル流(図1、参照)に沿って湾曲する曲面に形成される。凹部の底面の中央部20a(平面)は、この緩やかな湾曲面(両側部20b)を介して隆起面22に接続する。
【0012】
凹部20の底面のピストン中心軸方向の両側部20cは、略中央からピストン中心へ向けて突出する凸部25が設けられる。凸部25は、両側の隆起面23を凹部20(ピストンキャビティ)の内側へ略水平に延長するように形成される(図4、参照)。両側部は、複数の傾斜面によって構成され、凹部20の底面の中央部20a(平面)は、これら傾斜面を介して凸部の上面を含む隆起面23に接続する。
【0013】
ピストン冠面20は、各吸気弁15のバルブリセスおよび各排気弁16のバルブリセスが備えられる。図3の破線Iは、吸気弁15のバルブリセスの底面の輪郭を表示する仮想円であり、図3の破線Eは、排気弁16のバルブリセスの底面の輪郭を表示する仮想円であり、各吸気弁15および各排気弁16のバルブリセスの底面は、吸気弁15および排気弁16のバルブ面と略平行な傾斜面26,27に形成されるが、仮想円I,Eが凹部20(ピストンキャビティ)とオーバラップするため、凹部20の底面の方がバルブリセスの底面(傾斜面26,27)よりも深くなる領域においては、バルブリセスの傾斜面26,27(底面)は、凹部20の底面に吸収され、底面(傾斜面26,27)の一部分が形になって残される。吸気弁15は排気弁16よりもバルブ径が大きく、1対の吸気弁15のバルブリセスにおいては、これらの仮想円Iが隣接するため、両者の底面(傾斜面26)が仮想円の接線方向に繋がるように延長される。
【0014】
凹部20(ピストンキャビティ)の凸部25については、吸排気弁15,16のバルブリセスの外周に沿ってこれらバルブリセスの間をピストン中心へ向けて突き出るように形成される(図3の細かい破線、参照)。
【0015】
図1において、吸気行程で吸気ポート18からシリンダ内に吸入される吸気は、シリンダ中心軸方向(縦方向)への旋回流(タンブル流)を生成しつつ、ピストン冠面12の凹部20(ピストンキャビティ)のピストンピン中心軸と直交する方向へ凹部20の底面の湾曲面(両側部20b)に沿って流れ、凸部25を含む傾斜面(両側部20c)の整流作用によって吸気流g(タンブル流以外の渦流を含む)が勢力の強いタンブル流Gになって巻き上げられる。
【0016】
圧縮行程においては、ピストン12Aの上昇に伴ってタンブル流が横方向へ付勢され、容積が縮小するシリンダ11a内のタンブル流が横方向へ傾くようになる。つまり、ピストン12Aの上昇に伴って横方向への渦成分が次第に大きくなるが、ピストン上死点付近においては、凹部20の凸部25により、横方向への渦成分が堰き止められ、その渦の流れが崩壊させられる。従って、ピストン上死点付近において、点火プラグ17の着火に先立ち、凹部20の周辺(隆起面22、23と燃焼室11の上面との狭い空間)に早期着火が発生しても、その火炎が流されて火炎伝播に偏りが発生するようなこともなくなり、ノッキングの発生を防止することができる。
【0017】
図10は、この発明に係るピストンの前提技術を説明するものである。ピストン50Aは、この発明に係るピストン12Aと同じく、シリンダヘッド下面とピストン冠面とシリンダ側壁とから画成される燃焼室と、燃焼室の上面のピストンピン中心軸方向の一側に配置される2つの吸気弁と、同じく他側に配置される2つの排気弁と、ピストン上死点におけるピストン冠面とシリンダヘッド下面との中心間距離を確保すべくピストン冠面の中央部に形成される凹部と、ピストン冠面に配設される各吸気弁のバルブリセスおよび各排気弁のバルブリセスと、を備える内燃機関(図1、参照)に用いられる。
【0018】
ピストン冠面50は、その略中央部にタンブル流がピストンの圧縮上死点付近においても勢力を保持しえるように凹部51(ピストンキャビティ)が設けられる。
【0019】
凹部51は、ピストン冠面50を上から見ると、略矩形状に形成され、ピストン冠面50に凹部51を囲む隆起面52,53が形成される。凹部51の底面の中央部51aは、深さが一定の平面に形成される。凹部51の底面のピストン中心軸と直交する方向の両側部51bは、シリンダ内のタンブル流に沿って湾曲する曲面に形成される。凹部の底面の中央部51a(平面)は、この緩やかな湾曲面(両側部51b)を介して隆起面52に接続する。
【0020】
図10の破線Iは、吸気弁のバルブリセスの底面の輪郭を表示する仮想円であり、図10の破線Eは、排気弁のバルブリセスの底面の輪郭を表示する仮想円であり、各吸気弁および各排気弁のバルブリセスの底面は、吸気弁および排気弁のバルブ面と略平行な傾斜面56,57に形成されるが、凹部51の底面の方がバルブリセスの底面(傾斜面)が深くなる領域においては、バルブリセスの傾斜面56,57(底面)は、凹部51の底面に吸収され、底面(傾斜面56,57)の一部が残る形になっている。1対の吸気弁のバルブリセスにおいては、これらの仮想円が隣接するため、両者の底面(傾斜面56)が仮想円の接線方向に繋がり、凹部51の底面の側部51に沿ってその両隅部を囲うように形成される。
【0021】
このような前提技術によると、吸気行程で吸気ポートからシリンダ内に吸入される吸気は、シリンダ中心軸方向(縦方向)への旋回流(タンブル流)を生成しつつ、凹部(ピストンキャビティ)の底面の湾曲面(両側部51b)に沿って流れ、傾斜面(両側部51cによって整流されるが、圧縮行程においては、ピストン50Aの上昇に伴ってタンブル流が横方向へ付勢され、横方向への渦成分が大きくなり、ピストン上死点付近においては、燃焼室中央に配された点火プラグ着火部の流速が増大するため、初期火炎核が流され、火炎伝播が偏り、ノッキングの発生を誘発しやすくなる。
【0022】
図12は、ピストン上死点付近における、燃焼室内のガス流動(流速)の解析結果を例示するものであり、流速が高い2つの渦流yが発生しており、点火プラグが配置される燃焼室中央部にはノッキングを誘発させる排気側への流れを確認できる。矢印はタンブル流であり、ピストン50Aの上昇に伴って横方向へ付勢され、タンブル流以外の渦成分を含む2つの流れに分かれて旋回する。
【0023】
この発明に係るピストンは、ピストン冠面12の凹部20に凸部25を備えるので、前記の如く、ピストン上死点付近において、燃焼室11内の横方向への渦成分が堰き止められ、その渦の流れを崩壊させることにより、ノッキングを誘発する原因となる渦流の発生を未然に防止できるのである。図10においては、凸部25の適用により、x領域の渦流が崩壊してガス流動の流速が抑制されることになる。
【0024】
凸部25については、吸排弁15,16のバルブリセスの外周に沿って形成することにより、凹部25の底面がバルブリセスに沿って拡張される。この拡張部30(図6、参照)により、バルブリセスの傾斜面26,27(底面)として残る部分(面積)が小さくなり、図6のC−C断面において、バルブリセスの傾斜面26が凹部20の底面に吸収される。この点、図11のE−E断面においては、凹部51の底面からバルブリセスの底面(傾斜面56)になり、その傾斜面56の最深部からバルブリセスの側面が立ち上がり、隆起面25,26に繋がる形になり、図6のC−C断面と較べると、拡張部30に対応する部位60の表面積が大きくなる。つまり、この発明に係るピストンによれば、凸部25を吸排弁のバルブリセスの外周に沿って形成することより、燃焼室のSV比(燃焼室の表面積/燃焼室の容積)が低減され、エンジンの排気性能や熱効率を改善しえるという効果も得られる。
【0025】
図7〜図9は、この発明に係る別の実施形態を表すものであり、凸部25は、シリンダヘッド下面(燃焼室の上面)に対向する上面が略水平な平面でなく、ピストン中心側が高くなる傾斜面25aに形成される。この例においては、ピストン冠面12の凹部20(ピストンキャビティ)を囲む隆起面22a,23aは、燃焼室10の上面に対応する傾斜角度の円錐面に加工され、凸部25の上面25aは、その円錐面をピストン中心側へ延長する形に形成される。
【0026】
このような構成により、ピストン上死点において、ピストン冠面12の隆起面22aおよび凸部25を含む隆起面23bがシリンダヘッド側の燃焼室10に進入可能となり、内燃機関の圧縮比を高めることができる(図9、参照)。また、傾斜面25aを持つ凸部25は、図1〜図6の凸部25(上面が略水平な平面に形成される)に較べると、凹部20へ突き出る先端側の高さが大きくなり、その分、横方向の渦流を堰き止める面積が増えるので、ノッキングを防止する上から、タンブル流以外の渦流を崩壊させる作用効果の向上が得られるのである。図7〜図9において、図1〜図6と同一の部位は、同一の符号を付け、重複説明は、省略する。
【0027】
この発明は、以上説明した実施形態に限定されることなく、その技術的思想の範囲内において、種々の変形や変更が可能である。
【符号の説明】
【0028】
10 燃焼室
11 シリンダヘッド下面
12 ピストン冠面
13 シリンダ側壁
15 吸気弁
16 排気弁
18 吸気ポート
20 凹部(ピストンキャビティ)
25 凸部
25a 凸部の上面
30 凹部(ピストンキャビティ)の拡張部
【技術分野】
【0001】
この発明は、内燃機関のピストンに関する。
【背景技術】
【0002】
内燃機関においては、燃焼性状を改善するため、ピストン冠面の中央部に凹部(ピストンキャビティ)を設け、吸気行程で吸気ポートからシリンダ内に吸入される吸気のタンブル流(縦方向の渦流)が、ピストンの圧縮上死点付近においても、勢力を保持しやすくしたものがある(特許文献1、特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2000−186556号公報
【特許文献2】特開2007−192186号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、圧縮行程においては、ピストンの上昇に伴ってシリンダ内のタンブル流が横方向へ付勢され、横方向の渦成分が発生する。そのため、ピストンの上死点付近において、横方向の渦成分により、凹部の周辺の流速が増し、点火プラグにて形成された初期火炎核が流されることで、火炎伝播が偏り、ノッキングを発生させやすい、という不具合が考えられる。
【0005】
この発明は、このような不具合に注目してなされたものであり、タンブル流以外の渦成分を抑える手段の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明は、シリンダ内に吸気のタンブル流を生成させる手段を備える内燃機関に用いられるピストンにおいて、ピストン冠面の中央部に形成される凹部のピストンピン中心軸と直交する方向の両側部にそれぞれ略中央からピストン中心へ向けて内側へ突出する凸部を設けたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
この発明によれば、シリンダ内のタンブル流(縦方向の渦流)は、ピストンの上昇に伴って横方向へ付勢され、横方向の渦流が発生するが、凹部のピストンピン中心軸と直交する方向の両側部の略中央からそれぞれピストン中心へ向けて内側へ突出する凸部により、横方向への渦成分が堰き止められ、その渦の流れが崩壊させられるようになる。従って、ピストン上死点付近において、燃焼室中央に配された点火プラグ着火部における流速が抑えられ、初期火炎核の形成が阻害されたり、火炎伝播に偏りが発生するようなこともなく、ノッキングの発生を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】この発明の実施形態に係る内燃機関の構成を説明する概要図である。
【図2】同じくピストン冠面の斜視図である。
【図3】同じくピストン冠面の凸部と各バルブリセスとの関係を説明する平面図である。
【図4】同じく(a)はピストン冠面の平面図、同じく(b)はそのA−A断面図である。
【図5】同じく(a)は燃焼室の平面図、同じく(b)はそのB−B断面図を含む説明図である。
【図6】同じく(a)はピストン冠面の平面図、同じく(b)はC−C断面図である
【図7】別の実施形態に係るピストン冠面の斜視図である。
【図8】同じく(a)はピストン冠面の平面図、同じく(b)はD−D断面図である。
【図9】同じく燃焼室の断面図を含む説明図である。
【図10】この発明の前提技術に係るピストン冠面の説明図である。
【図11】同じく(a)はピストン冠面の平面図、同じく(b)はそのE−E断面図である。
【図12】燃焼室内のガス流動(流速)の解析結果を例示する説明図である
【発明を実施するための形態】
【0009】
図1において、10はシリンダヘッド下面11とピストン冠面12とシリンダ側壁13とから画成される燃焼室であり、燃焼室10はペントルーフ型に形成される。燃焼室10の上面において、ピストンピン中心軸と平行な仮想直線(図示せず)を挟む一方の傾斜面(ルーフ面)に2つの吸気弁15が配置され、同じく他方の傾斜面(ルーフ面)に2つの排気弁16(図5、参照)が配置される。燃焼室10の上面の各1対の吸排気弁15,16で囲まれる略中央部に点火プラグ17(図5、参照)が配置される。
【0010】
吸気ポート18は、吸気行程でシリンダ内に吸入される吸気が縦方向(シリンダ中心軸線方向)の旋回流(タンブル流)を生成しえるように構成される。ピストン冠面12は、その周縁部に環状の基準平面21(図2、参照)を残して隆起する凸形状に形成され、その隆起面の略中央部にタンブル流がピストンの圧縮上死点付近においても勢力を保持しえるように凹部20(図2〜図6、参照)が設けられる。
【0011】
凹部20(ピストンキャビティ)は、ピストン冠面12を上から見ると、略矩形状に形成され、ピストン冠面12に凹部20を囲む隆起面22,23が残される。凹部20の底面の中央部20aは、深さが一定の平面に形成される。凹部20の底面のピストンピン中心軸と直交する方向の両側部20bは、シリンダ内のタンブル流(図1、参照)に沿って湾曲する曲面に形成される。凹部の底面の中央部20a(平面)は、この緩やかな湾曲面(両側部20b)を介して隆起面22に接続する。
【0012】
凹部20の底面のピストン中心軸方向の両側部20cは、略中央からピストン中心へ向けて突出する凸部25が設けられる。凸部25は、両側の隆起面23を凹部20(ピストンキャビティ)の内側へ略水平に延長するように形成される(図4、参照)。両側部は、複数の傾斜面によって構成され、凹部20の底面の中央部20a(平面)は、これら傾斜面を介して凸部の上面を含む隆起面23に接続する。
【0013】
ピストン冠面20は、各吸気弁15のバルブリセスおよび各排気弁16のバルブリセスが備えられる。図3の破線Iは、吸気弁15のバルブリセスの底面の輪郭を表示する仮想円であり、図3の破線Eは、排気弁16のバルブリセスの底面の輪郭を表示する仮想円であり、各吸気弁15および各排気弁16のバルブリセスの底面は、吸気弁15および排気弁16のバルブ面と略平行な傾斜面26,27に形成されるが、仮想円I,Eが凹部20(ピストンキャビティ)とオーバラップするため、凹部20の底面の方がバルブリセスの底面(傾斜面26,27)よりも深くなる領域においては、バルブリセスの傾斜面26,27(底面)は、凹部20の底面に吸収され、底面(傾斜面26,27)の一部分が形になって残される。吸気弁15は排気弁16よりもバルブ径が大きく、1対の吸気弁15のバルブリセスにおいては、これらの仮想円Iが隣接するため、両者の底面(傾斜面26)が仮想円の接線方向に繋がるように延長される。
【0014】
凹部20(ピストンキャビティ)の凸部25については、吸排気弁15,16のバルブリセスの外周に沿ってこれらバルブリセスの間をピストン中心へ向けて突き出るように形成される(図3の細かい破線、参照)。
【0015】
図1において、吸気行程で吸気ポート18からシリンダ内に吸入される吸気は、シリンダ中心軸方向(縦方向)への旋回流(タンブル流)を生成しつつ、ピストン冠面12の凹部20(ピストンキャビティ)のピストンピン中心軸と直交する方向へ凹部20の底面の湾曲面(両側部20b)に沿って流れ、凸部25を含む傾斜面(両側部20c)の整流作用によって吸気流g(タンブル流以外の渦流を含む)が勢力の強いタンブル流Gになって巻き上げられる。
【0016】
圧縮行程においては、ピストン12Aの上昇に伴ってタンブル流が横方向へ付勢され、容積が縮小するシリンダ11a内のタンブル流が横方向へ傾くようになる。つまり、ピストン12Aの上昇に伴って横方向への渦成分が次第に大きくなるが、ピストン上死点付近においては、凹部20の凸部25により、横方向への渦成分が堰き止められ、その渦の流れが崩壊させられる。従って、ピストン上死点付近において、点火プラグ17の着火に先立ち、凹部20の周辺(隆起面22、23と燃焼室11の上面との狭い空間)に早期着火が発生しても、その火炎が流されて火炎伝播に偏りが発生するようなこともなくなり、ノッキングの発生を防止することができる。
【0017】
図10は、この発明に係るピストンの前提技術を説明するものである。ピストン50Aは、この発明に係るピストン12Aと同じく、シリンダヘッド下面とピストン冠面とシリンダ側壁とから画成される燃焼室と、燃焼室の上面のピストンピン中心軸方向の一側に配置される2つの吸気弁と、同じく他側に配置される2つの排気弁と、ピストン上死点におけるピストン冠面とシリンダヘッド下面との中心間距離を確保すべくピストン冠面の中央部に形成される凹部と、ピストン冠面に配設される各吸気弁のバルブリセスおよび各排気弁のバルブリセスと、を備える内燃機関(図1、参照)に用いられる。
【0018】
ピストン冠面50は、その略中央部にタンブル流がピストンの圧縮上死点付近においても勢力を保持しえるように凹部51(ピストンキャビティ)が設けられる。
【0019】
凹部51は、ピストン冠面50を上から見ると、略矩形状に形成され、ピストン冠面50に凹部51を囲む隆起面52,53が形成される。凹部51の底面の中央部51aは、深さが一定の平面に形成される。凹部51の底面のピストン中心軸と直交する方向の両側部51bは、シリンダ内のタンブル流に沿って湾曲する曲面に形成される。凹部の底面の中央部51a(平面)は、この緩やかな湾曲面(両側部51b)を介して隆起面52に接続する。
【0020】
図10の破線Iは、吸気弁のバルブリセスの底面の輪郭を表示する仮想円であり、図10の破線Eは、排気弁のバルブリセスの底面の輪郭を表示する仮想円であり、各吸気弁および各排気弁のバルブリセスの底面は、吸気弁および排気弁のバルブ面と略平行な傾斜面56,57に形成されるが、凹部51の底面の方がバルブリセスの底面(傾斜面)が深くなる領域においては、バルブリセスの傾斜面56,57(底面)は、凹部51の底面に吸収され、底面(傾斜面56,57)の一部が残る形になっている。1対の吸気弁のバルブリセスにおいては、これらの仮想円が隣接するため、両者の底面(傾斜面56)が仮想円の接線方向に繋がり、凹部51の底面の側部51に沿ってその両隅部を囲うように形成される。
【0021】
このような前提技術によると、吸気行程で吸気ポートからシリンダ内に吸入される吸気は、シリンダ中心軸方向(縦方向)への旋回流(タンブル流)を生成しつつ、凹部(ピストンキャビティ)の底面の湾曲面(両側部51b)に沿って流れ、傾斜面(両側部51cによって整流されるが、圧縮行程においては、ピストン50Aの上昇に伴ってタンブル流が横方向へ付勢され、横方向への渦成分が大きくなり、ピストン上死点付近においては、燃焼室中央に配された点火プラグ着火部の流速が増大するため、初期火炎核が流され、火炎伝播が偏り、ノッキングの発生を誘発しやすくなる。
【0022】
図12は、ピストン上死点付近における、燃焼室内のガス流動(流速)の解析結果を例示するものであり、流速が高い2つの渦流yが発生しており、点火プラグが配置される燃焼室中央部にはノッキングを誘発させる排気側への流れを確認できる。矢印はタンブル流であり、ピストン50Aの上昇に伴って横方向へ付勢され、タンブル流以外の渦成分を含む2つの流れに分かれて旋回する。
【0023】
この発明に係るピストンは、ピストン冠面12の凹部20に凸部25を備えるので、前記の如く、ピストン上死点付近において、燃焼室11内の横方向への渦成分が堰き止められ、その渦の流れを崩壊させることにより、ノッキングを誘発する原因となる渦流の発生を未然に防止できるのである。図10においては、凸部25の適用により、x領域の渦流が崩壊してガス流動の流速が抑制されることになる。
【0024】
凸部25については、吸排弁15,16のバルブリセスの外周に沿って形成することにより、凹部25の底面がバルブリセスに沿って拡張される。この拡張部30(図6、参照)により、バルブリセスの傾斜面26,27(底面)として残る部分(面積)が小さくなり、図6のC−C断面において、バルブリセスの傾斜面26が凹部20の底面に吸収される。この点、図11のE−E断面においては、凹部51の底面からバルブリセスの底面(傾斜面56)になり、その傾斜面56の最深部からバルブリセスの側面が立ち上がり、隆起面25,26に繋がる形になり、図6のC−C断面と較べると、拡張部30に対応する部位60の表面積が大きくなる。つまり、この発明に係るピストンによれば、凸部25を吸排弁のバルブリセスの外周に沿って形成することより、燃焼室のSV比(燃焼室の表面積/燃焼室の容積)が低減され、エンジンの排気性能や熱効率を改善しえるという効果も得られる。
【0025】
図7〜図9は、この発明に係る別の実施形態を表すものであり、凸部25は、シリンダヘッド下面(燃焼室の上面)に対向する上面が略水平な平面でなく、ピストン中心側が高くなる傾斜面25aに形成される。この例においては、ピストン冠面12の凹部20(ピストンキャビティ)を囲む隆起面22a,23aは、燃焼室10の上面に対応する傾斜角度の円錐面に加工され、凸部25の上面25aは、その円錐面をピストン中心側へ延長する形に形成される。
【0026】
このような構成により、ピストン上死点において、ピストン冠面12の隆起面22aおよび凸部25を含む隆起面23bがシリンダヘッド側の燃焼室10に進入可能となり、内燃機関の圧縮比を高めることができる(図9、参照)。また、傾斜面25aを持つ凸部25は、図1〜図6の凸部25(上面が略水平な平面に形成される)に較べると、凹部20へ突き出る先端側の高さが大きくなり、その分、横方向の渦流を堰き止める面積が増えるので、ノッキングを防止する上から、タンブル流以外の渦流を崩壊させる作用効果の向上が得られるのである。図7〜図9において、図1〜図6と同一の部位は、同一の符号を付け、重複説明は、省略する。
【0027】
この発明は、以上説明した実施形態に限定されることなく、その技術的思想の範囲内において、種々の変形や変更が可能である。
【符号の説明】
【0028】
10 燃焼室
11 シリンダヘッド下面
12 ピストン冠面
13 シリンダ側壁
15 吸気弁
16 排気弁
18 吸気ポート
20 凹部(ピストンキャビティ)
25 凸部
25a 凸部の上面
30 凹部(ピストンキャビティ)の拡張部
【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリンダ内に吸気のタンブル流を生成させる手段を備える内燃機関に用いられるピストンにおいて、ピストン冠面の中央部に形成される凹部のピストンピン中心軸と直交する方向の両側部にそれぞれ略中央からピストン中心へ向けて内側へ突出する凸部を設けたことを特徴とする内燃機関のピストン。
【請求項2】
シリンダヘッド下面とピストン冠面とシリンダ側壁とから画成される燃焼室と、燃焼室の上面のピストンピン中心軸方向の一側に配置される2つの吸気弁と、同じく他側に配置される2つの排気弁と、ピストン上死点におけるピストン冠面とシリンダヘッド下面との中心間距離を確保すべくピストン冠面の中央部に形成される凹部と、ピストン冠面に配設される各吸気弁のバルブリセスおよび各排気弁のバルブリセスと、を備える内燃機関にあって、前記凸部は、吸気弁のバルブリセスと排気弁のバルブリセスとの間をこれらバルブリセスの外周に沿ってピストン中心へ向けて突き出るように形成したことを特徴とする請求項1に記載の内燃機関のピストン。
【請求項3】
前記凸部は、燃焼室の上面を構成するシリンダヘッド下面に対向する上面がピストン中心側が高くなる傾斜面に形成したことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の内燃機関のピストン。
【請求項1】
シリンダ内に吸気のタンブル流を生成させる手段を備える内燃機関に用いられるピストンにおいて、ピストン冠面の中央部に形成される凹部のピストンピン中心軸と直交する方向の両側部にそれぞれ略中央からピストン中心へ向けて内側へ突出する凸部を設けたことを特徴とする内燃機関のピストン。
【請求項2】
シリンダヘッド下面とピストン冠面とシリンダ側壁とから画成される燃焼室と、燃焼室の上面のピストンピン中心軸方向の一側に配置される2つの吸気弁と、同じく他側に配置される2つの排気弁と、ピストン上死点におけるピストン冠面とシリンダヘッド下面との中心間距離を確保すべくピストン冠面の中央部に形成される凹部と、ピストン冠面に配設される各吸気弁のバルブリセスおよび各排気弁のバルブリセスと、を備える内燃機関にあって、前記凸部は、吸気弁のバルブリセスと排気弁のバルブリセスとの間をこれらバルブリセスの外周に沿ってピストン中心へ向けて突き出るように形成したことを特徴とする請求項1に記載の内燃機関のピストン。
【請求項3】
前記凸部は、燃焼室の上面を構成するシリンダヘッド下面に対向する上面がピストン中心側が高くなる傾斜面に形成したことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の内燃機関のピストン。
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図1】
【図12】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図1】
【図12】
【公開番号】特開2010−196685(P2010−196685A)
【公開日】平成22年9月9日(2010.9.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−45850(P2009−45850)
【出願日】平成21年2月27日(2009.2.27)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年9月9日(2010.9.9)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年2月27日(2009.2.27)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】
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