説明

内燃機関の制御装置

【課題】イグニッションキー36の操作を介してエンジン10の始動指示がなされてからドライバの車両を前進させたり後退させたりする要求(発進要求)が生じるまでの期間はエンジン10のトルク生成が要求されないにもかかわらず、アイドルストップ制御によってエンジン10を停止させることができないため、エンジン10の燃費低減効果の向上の余地があること。
【解決手段】水温センサ29の出力値から算出される冷却水温と、外気温センサ60の出力値から算出される外気温との差が所定以下であるか否かに基づき、触媒31の温度が外気温と略同一の温度まで低下する状態(冷間状態)であるか否かを判断する。そして、冷間状態であると判断された場合、イグニッションキー36の操作を介してエンジン10の始動指示がなされたと判断されてからアクセルセンサ56の出力値に基づきドライバの発進要求があると判断されるまでエンジン10の始動を待機させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、内燃機関の運転中に所定の停止条件が成立すると内燃機関を自動停止させる処理(自動停止処理)を実行し、その後、所定の再始動条件が成立すると内燃機関を自動始動させる処理(自動始動処理)を実行する、いわゆるアイドルストップ制御が知られている。アイドルストップ制御によれば、内燃機関の燃費低減効果を得ることが可能となる。
【0003】
ここで、下記特許文献1には、内燃機関から排出される排気を浄化する排気浄化用触媒(以下、触媒)の温度等に基づきアイドルストップ制御を行う技術が開示されている。ここでは、排気によって触媒温度を上昇させ、触媒を活性状態とすることで排気浄化効率が高くなることに鑑み、触媒が活性状態でないと判断されること及び排気温度が触媒温度よりも低いと判断されることの双方に基づき、上記自動停止処理の実行を禁止している。これにより、触媒を極力速やかに活性状態とすることができ、エミッションの増大を抑制することが可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第3785938号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、一般に、従来のアイドルストップ制御では、内燃機関が停止してもよい期間に稼動状態にあるケースが存在することが発明者によって見出されている。すなわち、例えば上記技術の場合、エミッションの増大を抑制できる範囲で自動停止処理によって燃費低減効果を得ることができるとはいえ、内燃機関が停止してもよいにもかかわらず稼動状態にあるケースが存在する。
【0006】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、その目的は、内燃機関の燃費低減効果を好適に向上させることのできる内燃機関の制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
以下、上記課題を解決するための手段、及びその作用効果について記載する。
【0008】
請求項1記載の発明は、内燃機関の始動を指示すべくドライバにより操作される専用の指示手段の操作状態に基づき、前記内燃機関の始動指示を判断する始動指示判断手段と、前記内燃機関が搭載される車両の走行を制御すべくドライバにより操作される操作部材の操作状態に関する情報に基づき、ドライバの発進要求を判断する発進要求判断手段と、前記始動指示判断手段によって前記内燃機関の始動指示がなされると判断されてから前記発進要求判断手段によって前記発進要求があると判断されるまで該内燃機関の始動を待機させる待機手段とを備えることを特徴とする。
【0009】
ドライバによる上記指示手段の操作を介して内燃機関の始動が指示される場合であっても、ドライバの車両を前進させたり後退させたりする要求(発進要求)がすぐには生じないことがある。この点に鑑み、上記発明では、内燃機関の始動指示がなされてからドライバによる操作部材の操作を介して上記発進要求があると判断されるまで内燃機関の始動を待機させる。これにより、上記発進要求があると判断されるまで内燃機関を停止させることができ、ひいては内燃機関の燃費低減効果を好適に向上させることができる。
【0010】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の発明において、前記内燃機関の排気系には、該内燃機関から排出される排気を浄化する排気浄化用触媒が備えられ、前記内燃機関の前回の稼動に伴って発生した排気熱が前記排気浄化用触媒に蓄えられているものの該排気浄化用触媒が未だ活性状態に至らない場合に前記待機手段による前記始動を待機させる処理を禁止する禁止手段を更に備えることを特徴とする。
【0011】
上記発明では、内燃機関の前回の稼動に伴って発生した排気熱が排気浄化用触媒(以下、触媒)に蓄えられているものの触媒が未だ活性状態に至らない場合に、内燃機関の始動を待機させる処理を禁止し、内燃機関の始動指示と同期させて内燃機関を始動させる。これにより、始動指示がなされてから極力早期に触媒を活性状態とすることができ、ひいてはエミッションの増大を好適に抑制することができる。
【0012】
請求項3記載の発明は、請求項1又は2記載の発明において、前記内燃機関の自動停止処理および該自動停止処理の後、該内燃機関の自動始動処理を実行するアイドルストップ制御手段を更に備え、前記待機手段は、前記始動を待機させる処理の完了後、前記自動始動処理の実行によって前記内燃機関を始動させることを特徴とする。
【0013】
上記発明では、内燃機関の始動を待機させる処理の完了後、従来のアイドルストップ制御手段の処理に関する制御ロジックの一部を流用して内燃機関を始動させることも可能となる。
【0014】
請求項4記載の発明は、請求項1〜3のいずれか1項に記載の発明において、前記待機手段により前記内燃機関の始動が待機させられると判断されることに基づき、前記発進要求があると判断されることを条件として前記内燃機関が始動される旨をドライバへ報知する報知手段を更に備えることを特徴とする。
【0015】
上記指示手段の操作を介してドライバが内燃機関の始動を指示したにもかかわらず、始動指示と同期して内燃機関が始動されない場合、ドライバに違和感を与えるおそれがある。この点、上記発明では、上記内燃機関が始動される旨をドライバへ報知することで、ドライバに与える違和感を好適に抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】一実施形態にかかるシステム構成図。
【図2】同実施形態にかかるエンジン始動の待機処理を示すフローチャート。
【図3】同実施形態にかかるエンジン始動の待機処理を示すタイムチャート。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明にかかる内燃機関の制御装置を車載主機として内燃機関(エンジン)のみを搭載した車両(自動車)に適用した一実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0018】
図1に本実施形態にかかるエンジンシステムの全体構成を示す。
【0019】
図示されるエンジン10は、火花点火式内燃機関である。エンジン10の吸気通路12には、吸入される空気量(吸気量)を検出するエアフローメータ14が設けられている。吸気通路12のうち、エアフローメータ14の下流側は、吸気マニホールドを介してエンジン10の各気筒の燃焼室16とつながっている。吸気マニホールドには、燃焼室16に燃料を供給するための燃料噴射弁18が備えられている。一方、エンジン10の各気筒の燃焼室16には、供給された燃料と吸気との混合気を燃焼させるための放電火花を発生させる点火プラグ20が備えられている。
【0020】
エンジン10の各気筒に設けられた吸気ポート及び排気ポートのそれぞれは、吸気バルブ22及び排気バルブ24のそれぞれにより開閉される。ここでは、吸気バルブ22の開弁によって燃焼室16内に導入された吸気と燃料噴射弁18から噴射された燃料との混合気が、点火プラグ20の放電火花によって着火され燃焼に供される。燃焼によって発生したエネルギは、ピストン25を介して、エンジン10の出力軸(クランク軸26)の回転エネルギとして取り出される。なお、エンジン10には、クランク軸26近傍でクランク軸26の回転角度を検出するクランク角度センサ28や、エンジン10を冷却する冷却水の温度(冷却水温)を検出する水温センサ29等が設けられている。
【0021】
エンジン10の燃焼室16で燃焼に供された混合気は、排気バルブ24の開弁によって排気として排気通路30に排出される。排気通路30には、排気浄化を行うための排気後処理システムとして、排気中のNOx、HC及びCOを浄化する三元触媒(以下、触媒31)が設けられている。
【0022】
上記クランク軸26には、スタータ34が接続されている。スタータ34は、ドライバのイグニッションキー36の操作によってイグニッションキー36が「START」位置にされると、図示しないスタータスイッチのオンにより始動し、エンジン10を始動させるべくクランク軸26に初期回転を付与する(クランキングを行う)。
【0023】
クランク軸26の回転力は、自動変速装置(AT38)へと伝達される。AT38は、クランク軸26の回転力が伝達される入力回転軸や、出力回転軸40等を備えて構成される有段変速装置である。AT38では、ドライバによって操作されるセレクトレバー42の位置(シフト位置)が非駆動状態(P及びNレンジ)にされると、入力回転軸から出力回転軸40までのクランク軸26の回転力の伝達経路が遮断される。一方、シフト位置が駆動状態(R、D、2速及び1速レンジ)にされると、上記伝達経路が接続されるとともに、入力回転軸の回転速度が変速比に従った出力回転軸40の回転速度に変換される。なお、上記出力回転軸40の回転力は、駆動輪44へと伝達される。また、上記出力回転軸40近傍には、車両の走行速度を検出する車速センサ46が設けられている。
【0024】
駆動輪44及び図示しない操舵輪近傍には、ブレーキペダル48の踏み込み量に応じて駆動輪44及び操舵輪に対して制動力を付与する図示しないブレーキアクチュエータが設けられている。詳しくは、ブレーキペダル48の踏み込み量が大きくなると、ブレーキの油圧系統の油圧(ブレーキ油圧)が高くなることで、上記ブレーキアクチュエータが駆動輪44等に付与する制動力が大きくなる。なお、ブレーキの油圧系統には、ブレーキ油圧を検出するブレーキ油圧センサ50が設けられている。
【0025】
ブレーキペダル48には、このペダルの踏み込み量を検出するブレーキセンサ52が設けられている。一方、アクセルペダル54には、このペダルの踏み込み量を検出するアクセルセンサ56が設けられている。これらの各種センサや、シフト位置を検出するシフト位置センサ58、外気温を検出する外気温センサ60、エアフローメータ14、クランク角度センサ28、水温センサ29、ブレーキ油圧センサ50等の出力信号、更にはイグニッションキー36の操作状態についての信号は、電子制御装置(以下、ECU62)に入力される。
【0026】
ECU62は、周知のCPU、ROM、RAM等よりなるマイクロコンピュータを主体として構成されている。ECU62は、上記各センサからの入力信号に基づき、ROMに記憶された各種の制御プログラムを実行することで、燃料噴射弁18による燃料噴射制御処理や、スタータ34による始動制御処理等を実行する。
【0027】
特にECU62は、上記イグニッションキー36の操作とは独立に、所定の停止条件が成立する場合にエンジン10を自動停止させる処理(自動停止処理)を実行し、所定の再始動条件が成立する場合にエンジン10を自動始動させる処理(自動始動処理)を実行するいわゆるアイドルストップ(Idling stop)制御を行う。これにより、エンジン10の燃費低減効果を得ることが可能となる。ここで、本実施形態では、上記停止条件として、触媒31が活性状態であるとの条件を含む。これは、自動停止処理によってエミッションが増大する事態を回避するための処理である。つまり、触媒31の排気浄化効率は、エンジン10の稼動に伴って発生する排気熱によって触媒31の温度が活性温度以上(活性状態)となることで高くなる。このため、触媒31が活性状態とならない状況下において自動停止処理によってエンジン10が停止されると、触媒31に排気熱が供給されず、触媒31が活性状態となるまでの時間が長くなり得る。この場合、エンジン10の運転によって排出される排気が十分に浄化されなくなる時間が長くなることに起因して、エミッションが増大するおそれがある。このため、触媒31が活性状態であるとの条件を上記停止条件に含むことで、エミッションが増大する事態を回避する。一方、上記再始動条件は、エンジン10のトルクを生成させる要求がある旨の条件とする。
【0028】
ところで、上記アイドルストップ制御によっては、エミッションの増大が懸念されない状況においてエンジン10のトルクの生成が要求されないにもかかわらずエンジン10が停止状態とされないことがある。すなわち、イグニッションキー36の操作を介してエンジン10の始動指示がなされてから、ドライバの車両を前進させたり後退させたりする要求(発進要求)が生じるまでの期間は、エンジン10のトルクの生成が要求されないにもかかわらず、この期間については上記アイドルストップ制御によってエンジン10を停止状態に保つことはできない。そこで本実施形態では、イグニッションキー36の操作を介してエンジン10の始動指示がなされてからドライバの発進要求が生じるまでエンジン10の始動を待機させる。
【0029】
図2に、本実施形態にかかるエンジン10の始動を待機させる処理の手順を示す。この処理は、ECU62によって、例えば所定周期で繰り返し実行される。
【0030】
この一連の処理では、まずステップS10において、ドライバによるイグニッションキー36の操作を介したエンジン10の始動指示がなされたか否かを判断する。ここで上記始動指示がなされたか否かは、イグニッションキー36が「START」位置にされたか否かに基づき判断すればよい。
【0031】
ステップS10において始動指示がなされたと判断された場合には、ステップS12、S14において、エンジン10の始動を待機させる処理の禁止条件が成立するか否かを判断する。すなわち、ステップS12では、触媒31の温度が外気温と略同一の温度まで低下する状態(冷間状態)であるか否かを判断する。この処理は、エンジン10の前回の稼動に伴って発生した排気熱が触媒31に蓄えられていないか否かを判断するための処理である。ここで冷間状態であるか否かは、水温センサ29の出力値から算出される冷却水温と、外気温センサ60の出力値から算出される外気温との差が所定以下であるか否かで判断すればよい。ここでは、冷却水温は、触媒31の温度と相関を有するパラメータであり、触媒31が外気と熱的な平衡状態を実現する際には冷却水も外気と熱的な平衡状態を実現しているものとして扱っている。
【0032】
また、ステップS14では、触媒31が活性状態であるか否かを判断する。この処理は、エンジン10の前回の稼動に伴って発生した排気熱によって触媒31の活性状態が維持されているか否かを判断するための処理である。つまり、エンジン10を停止させることで触媒31に排気熱が供給されなくなる場合であっても触媒31の温度は急激に低下しない。このため、触媒31が活性状態となった後にエンジン10を停止させる場合、ある程度の時間は触媒31の活性状態が維持される。ここで本実施形態では、触媒31が活性状態であるか否かを、推定された触媒31の温度に基づき判断する。詳しくは、触媒31の温度は、エアフローメータ14の出力値に基づく吸気量から推定された排気量や、燃料噴射弁18からの燃料噴射量と点火プラグ20による点火時期とに基づき推定される排気温度、触媒31の熱容量等から推定すればよい。
【0033】
そして、ステップS12、S14のいずれか一方で肯定判断される場合には、上記待機させる処理の禁止条件が成立しないと判断し、ドライバの発進要求が生じるまでエンジン10の始動を待機させるべく、ステップS16において、上記発進要求があるか否かをブレーキ操作がなされていないか否かに基づき判断する。これは、ドライバに車両を前進又は後退させる要求がある場合には通常、シフト位置がDレンジ又はRレンジに操作された後、ブレーキペダル48の踏み込み操作が解除され、アクセルペダル54が踏み込まれることに基づくものである。なお、ブレーキ操作がなされていないか否かは、ブレーキ油圧センサ50の出力値から算出されるブレーキ油圧が所定値BP0(>0)以下であるか否かに基づき判断すればよい。これは、ブレーキ操作がなされていないことを的確に把握するための設定である。つまり、ドライバは駆動輪44等に付与される制動力を調節するためにブレーキペダル48の踏み込み量を調節する。ここで例えばブレーキパッドの取り付け位置のばらつきやブレーキパッドの磨耗度合い等に起因して、上記制動力がブレーキペダル48の踏み込み量によっては一義的に定まらないことがある。このため、上記制動力を一義的に定めることが可能なパラメータであるブレーキ油圧を用いることで、ブレーキ操作がなされていないことを的確に把握する。
【0034】
そして、ドライバの発進要求が生じるまでエンジン10の始動を待機させ、ステップS18において報知処理を実行する。この処理は、エンジン10の始動が可能である旨をドライバへ報知する処理である。つまり、イグニッションキー36の操作を介してドライバがエンジン10の始動を指示したにもかかわらず、エンジン10が始動されない場合、ドライバに違和感を与えるおそれがある。このため、上記報知処理を実行することで、ドライバに与える違和感を抑制することが可能となる。ここで報知処理は、具体的には、車両のインスツルメントパネルに設けられた表示手段(警告灯が表示される表示部やナビゲーション装置の画面)に表示される所定の表示や、所定の音声によって、ブレーキペダル48の踏み込み操作の解除によってエンジン10の始動が可能である旨をドライバへ報知する処理とすればよい。
【0035】
これに対し、上記ステップS16においてドライバの発進要求があると判断された場合や、上記ステップS14において触媒31が活性状態でないと判断された場合には、ステップS20においてエンジン10の始動処理を実行する。詳しくは、上記ステップS16において肯定判断される場合には、エンジン10の自動始動処理を実行する。これにより、イグニッションキー36の操作を介してエンジン10の始動指示がなされると判断されてからドライバの発進要求があると判断されるまでエンジン10の始動を待機させることができ、燃費低減効果を向上させることが可能となる。
【0036】
一方、上記ステップS14において触媒31が活性状態でないと判断された場合には、エンジン10の前回の稼動に伴って発生した排気熱が触媒31に蓄えられているものの触媒31が未だ活性状態に至らないと判断し、上記ステップS16においてイグニッションキー36の操作を介した始動指示と同期させてエンジン10を始動させる。この処理は、エンジン10の始動を待機させる処理を禁止し、エミッションの増大の抑制を優先するための処理である。つまり、触媒31が未だ活性状態に至らないものの、排気熱が触媒31に蓄えられている場合には、触媒31が活性状態となるまでに要する排気の熱量が上記冷間状態の場合と比較して少ない。このため、上記始動指示と同期させてエンジン10を始動させることで、触媒31を極力早期に活性状態とし、その後のエミッションの増大を好適に抑制することが可能となる。なお、上記始動指示と同期させたエンジン10の始動の後、触媒31の温度を迅速に昇温させるべく触媒暖機制御処理を実行するのが望ましい。ここで触媒暖機制御処理は、例えば点火時期を遅角させることで排気温度を上昇させる処理となる。
【0037】
なお、上記ステップS10で否定判断された場合や、ステップS18、S20の処理が完了する場合には、この一連の処理を一旦終了する。
【0038】
図3に、本実施形態におけるエンジン10の始動を待機させる処理の一例を示す。詳しくは、図3(a)に、冷却水温THWの推移を示し、図3(b)に、イグニッションキー36の操作状態の推移を示し、図3(c)に、ブレーキ油圧BPの推移を示し、図3(d)に、エンジン回転速度NEの推移を示す。なお、図3では、冷間状態を想定している。
【0039】
図示されるように、時刻t1において、ドライバによってイグニッションキー36が「START」位置にされることで、エンジン10の始動指示がなされるが、エンジン10は始動されない。その後、時刻t2において、ブレーキペダル48の踏み込み操作の解除によってブレーキ油圧BPが所定値BP0以下となることでドライバの発進要求があると判断され、自動始動処理の実行によってエンジン10が始動される。これに対し、従来技術では、エンジン10の始動指示と同期させてエンジン10を始動させるため、エンジン10を停止させることができる期間が減少する。
【0040】
このように、本実施形態では、イグニッションキー36の操作を介してエンジン10の始動が指示されても、ドライバの発進要求があるまでエンジン10の始動を待機させることで、燃費の低減を図ることができる。特に本実施形態では、イグニッションキー36の操作を介したエンジン10の始動指示時における触媒31の状態に基づきエンジン10の始動制御処理を行うことで、エミッションの増大を極力抑制しつつ、燃費低減効果を好適に向上させることができる。このため、例えば触媒31の状態にかかわらず一律に上記始動指示と同期させてエンジン10を始動させる場合と比較して、エンジン10を停止させる期間を長くすることもできる。
【0041】
以上詳述した本実施形態によれば、以下の効果が得られるようになる。
【0042】
(1)冷間状態であると判断された場合、イグニッションキー36の操作を介してエンジン10の始動指示がなされたと判断されてからドライバの発進要求があると判断されるまでエンジン10の始動を待機させた。これにより、実際に車両を前進させたり後退させたりするまでエンジン10を停止させることができ、ひいては燃費低減効果を好適に向上させることができる。
【0043】
(2)触媒31が活性状態であると判断された場合、イグニッションキー36の操作を介してエンジン10の始動指示がなされたと判断されてからドライバの発進要求があると判断されるまでエンジン10の始動を待機させた。これにより、エミッションの増大を好適に抑制しつつも燃費低減効果を好適に向上させることができる。
【0044】
(3)エンジン10の前回の稼動に伴って発生した排気熱が触媒31に蓄えられているものの触媒31が未だ活性状態に至らないと判断された場合、イグニッションキー36の操作を介したエンジン10の始動指示と同期させてエンジン10を始動させた。これにより、触媒31を極力早期に活性状態とすることができ、ひいてはエミッションの増大を好適に抑制することができる。
【0045】
(4)エンジン10の始動が待機させられると判断された場合、報知処理を実行した。これにより、イグニッションキー36の操作を介してドライバがエンジン10の始動を指示したにもかかわらず、エンジン10が始動しない場合であっても、ドライバに与える違和感を好適に抑制することができる。
【0046】
(その他の実施形態)
なお、上記実施形態は、以下のように変更して実施してもよい。
【0047】
・ドライバがエンジン10の始動を指示するための専用の指示手段としてはイグニッションキー36に限らない。例えば、エンジン10の始動又は停止を選択可能なスイッチであってもよい。
【0048】
・ドライバの発進要求を判断する手法としては、上記実施形態に例示したものに限らない。例えば、シフト位置が駆動状態(DレンジやRレンジ)にされていると判断された場合、上記発進要求があると判断してもよい。ここでシフト位置が駆動状態であるか否かは、シフト位置センサ58の出力値に基づき判断すればよい。また例えば、シフト位置が駆動状態(DレンジやRレンジ)にされているとの条件と、ブレーキ操作がなされていないとの条件との論理積が真であると判断された場合、上記発進要求があると判断してもよい。これは、ドライバの発進要求の把握精度を向上させるための設定である。つまり、AT38が備えられる車両では、エンジン10の運転中にシフト位置が駆動状態に操作されることでクリープ現象が生じる。このため、セレクトレバー42の操作によってシフト位置が駆動状態に操作される際は通常、意図しない車両の前進又は後退を回避すべくドライバによってブレーキペダル48の踏み込み操作がなされ、その後ブレーキペダル48の踏み込み操作が解除される。更に例えば、アクセル操作がなされていると判断された場合、上記発進要求があると判断してもよい。ここで、アクセル操作がなされているか否かは、アクセルセンサ56の出力値に基づき判断すればよい。
【0049】
・ブレーキ操作がなされていないか否かを判断する手法としては、上記実施形態に例示したものに限らない。例えば、ブレーキセンサ52や、ブレーキペダル48の踏み込みに応じて、オン状態(ブレーキ操作されている)又はオフ状態(ブレーキ操作されていない)に切り替わるセンサの出力値に基づき判断してもよい。
【0050】
・上記実施形態では、車載動力源として内燃機関のみを備える車両に本発明を適用したがこれに限らない。例えば、内燃機関に加えて、補助的な車載動力源としての電動機を備える車両に適用してもよい。
【0051】
・上記実施形態では、燃料噴射量と点火時期とに基づき排気温度を推定したがこれに限らない。例えば、排気通路30において排気の温度を検出する排気温センサが設けられる場合、このセンサの検出値に基づき排気温度を算出してもよい。
【0052】
・上記実施形態では、推定された触媒31の温度に基づき、触媒31が活性状態であるか否かを判断したがこれに限らない。例えば、冷却水温に基づき判断してもよい。これは、冷却水温が触媒31の温度と略相関を有することに基づくものである。また例えば、触媒31の温度を検出するセンサを更に備え、このセンサの出力値に基づき判断してもよい。
【0053】
・冷間状態であるか否かを判断する手法としては、上記実施形態に例示したものに限らない。例えば、エンジン停止時間を計測する手段を更に備え、この手段によって計測されたエンジン停止時間が所定の閾値以上であることに基づき判断してもよい。
【0054】
・エンジン10の始動を待機する処理を禁止する禁止手段としては、触媒31の状態を入力パラメータとするものに限らない。例えば車載空調装置の起動が要求されている場合にエンジン10の始動を待機する処理を禁止してもよい。これにより、エンジン10の駆動力によって車載空調装置を駆動することができ、ひいては車載空調装置の起動要求に迅速に応じることができる。
【0055】
・車両の走行速度を検出するセンサとしては上記実施形態に例示したものに限らない。例えば駆動輪44や操舵輪近傍に設けられるセンサ(車輪速センサ)であってもよい。
【0056】
・出力回転軸40の回転力が伝達される車輪としては駆動輪44のみに限らない。例えば操舵輪のみ(又は操舵輪と駆動輪との双方)であってもよい。
【0057】
・AT38としては、有段変速装置に限らず、無段変速装置であってもよい。また、変速装置としては自動変速装置に限らず、手動変速装置であってもよい。
【0058】
・内燃機関としては、火花点火式内燃機関に限らない。例えばディーゼルエンジン等の圧縮着火式内燃機関であってもよい。この場合、触媒31として排気中のNOxを吸蔵するNOx吸蔵触媒等が備えられていてもよい。
【符号の説明】
【0059】
10…エンジン、30…排気通路、31…触媒、34…スタータ、36…イグニッションキー、42…セレクトレバー、48…ブレーキペダル、54…アクセルペダル、62…ECU(内燃機関の制御装置の一実施形態)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関の始動を指示すべくドライバにより操作される専用の指示手段の操作状態に基づき、前記内燃機関の始動指示を判断する始動指示判断手段と、
前記内燃機関が搭載される車両の走行を制御すべくドライバにより操作される操作部材の操作状態に関する情報に基づき、ドライバの発進要求を判断する発進要求判断手段と、
前記始動指示判断手段によって前記内燃機関の始動指示がなされると判断されてから前記発進要求判断手段によって前記発進要求があると判断されるまで該内燃機関の始動を待機させる待機手段とを備えることを特徴とする内燃機関の制御装置。
【請求項2】
前記内燃機関の排気系には、該内燃機関から排出される排気を浄化する排気浄化用触媒が備えられ、
前記内燃機関の前回の稼動に伴って発生した排気熱が前記排気浄化用触媒に蓄えられているものの該排気浄化用触媒が未だ活性状態に至らない場合に前記待機手段による前記始動を待機させる処理を禁止する禁止手段を更に備えることを特徴とする請求項1記載の内燃機関の制御装置。
【請求項3】
前記内燃機関の自動停止処理および該自動停止処理の後、該内燃機関の自動始動処理を実行するアイドルストップ制御手段を更に備え、
前記待機手段は、前記始動を待機させる処理の完了後、前記自動始動処理の実行によって前記内燃機関を始動させることを特徴とする請求項1又は2記載の内燃機関の制御装置。
【請求項4】
前記待機手段により前記内燃機関の始動が待機させられると判断されることに基づき、前記発進要求があると判断されることを条件として前記内燃機関が始動される旨をドライバへ報知する報知手段を更に備えることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の内燃機関の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−102552(P2011−102552A)
【公開日】平成23年5月26日(2011.5.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−257638(P2009−257638)
【出願日】平成21年11月11日(2009.11.11)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】