説明

内燃機関の制御装置

【課題】シリンダヘッドが断熱されることでシリンダヘッドにおける冷却損失の発生が抑制可能な構造を有する内燃機関における燃費向上を図ることができる内燃機関の制御装置を提供する。
【解決手段】内燃機関(10)の制御装置(100)は、内燃機関の吸気行程における第1時期および圧縮行程における第2時期に燃料が噴射されるように燃料噴射弁(50)の燃料の噴射時期を制御する制御部(104)を備え、第1時期は、タンブル流の渦中心(301)よりもシリンダヘッド(20)に近い部分に向けて燃料噴射弁から燃料が噴射される時期であり、第2時期は、タンブル流の渦中心よりもピストン(22)に近い部分に向けて燃料噴射弁から燃料が噴射される時期であり、燃料噴射弁は、第1時期に燃料噴射弁から噴射された燃料によってタンブル流の流速が増大する内燃機関の所定箇所に配置されていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は内燃機関の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、内燃機関の燃費改善手法の一つとして、内燃機関の冷却損失の発生を抑制することが知られている。例えば特許文献1には、シリンダヘッドを燃焼室から断熱することでシリンダヘッドにおける冷却損失の発生を抑制する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平11−270404号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで内燃機関の燃費改善を図る他の手法として、燃焼室にタンブル流を生成させて内燃機関の燃焼性を向上させることが考えられる。そこで、シリンダヘッドが断熱されることでシリンダヘッドにおける冷却損失の発生が抑制可能な構造を有する内燃機関の燃焼室にタンブル流を発生させることで、さらなる燃費向上を図ることが考えられる。しかしながら、この場合、タンブル流によって燃焼室における燃焼速度が上昇して、燃焼ガス温度が上昇するおそれがある。その結果、燃焼室の温度が上昇するおそれがある。また、気流の強さが増すため温度境界層が薄くなり、熱伝達係数が増加するおそれがある。その結果、燃焼室の温度が上昇するおそれがある。燃焼室の温度が上昇した場合、ピストンへの熱伝達が増加することから、内燃機関の熱損失が増加してしまう。その結果、燃費の向上を図ることが困難となるおそれがある。
【0005】
本発明は、シリンダヘッドが断熱されることでシリンダヘッドにおける冷却損失の発生が抑制可能な構造を有する内燃機関における燃費向上を図ることができる内燃機関の制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る内燃機関の制御装置は、ピストンとシリンダヘッドとの間に形成された燃焼室に吸気行程から圧縮行程にかけてタンブル流が形成される構造と、前記シリンダヘッドが断熱されることで前記シリンダヘッドにおける冷却損失の発生が抑制可能な構造と、燃料を前記燃焼室に直接噴射する燃料噴射弁と、を備える内燃機関の前記吸気行程における第1時期および前記圧縮行程における第2時期に前記燃料が噴射されるように前記燃料噴射弁の前記燃料の噴射時期を制御する制御部を備え、前記第1時期は、前記タンブル流の渦中心よりも前記シリンダヘッドに近い部分に向けて前記燃料噴射弁から前記燃料が噴射される時期であり、前記第2時期は、前記タンブル流の渦中心よりも前記ピストンに近い部分に向けて前記燃料噴射弁から前記燃料が噴射される時期であり、前記燃料噴射弁は、前記第1時期に前記燃料噴射弁から噴射された前記燃料によって前記タンブル流の流速が増大する前記内燃機関の所定箇所に配置されていることを特徴とする。
【0007】
本発明に係る内燃機関の制御装置によれば、第1時期に燃料噴射弁から噴射された燃料によって、吸気行程におけるタンブル流の流速を増大させることができる。このようにタンブル流の流速が増大された状態で圧縮行程における第2時期に燃料が噴射されることで、圧縮行程におけるタンブル流のピストン近傍の部分の流速を減少させることができる。これにより、圧縮上死点近傍におけるタンブル流の流速を、シリンダヘッド側を高く、ピストン側を低くすることができる。その結果、燃焼室における燃焼を促進しつつ燃焼室の熱がピストンへ伝達することを抑制することができる。それにより、燃焼を促進しつつ熱損失を低減させることができる。その結果、シリンダヘッドが断熱されることでシリンダヘッドにおける冷却損失の発生が抑制可能な構造を有する内燃機関における燃費向上を図ることができる。
【0008】
上記構成は、前記第1時期および前記第2時期が前記内燃機関のクランク角に関連づけて規定されたマップを記憶した記憶部を備え、前記制御部は、前記内燃機関の前記クランク角を取得し、取得された前記クランク角に基づいて前記記憶部の前記マップを参照することで、前記第1時期および前記第2時期を取得し、取得された前記第1時期および前記第2時期に前記燃料が噴射されるように前記燃料噴射弁の前記噴射時期を制御してもよい。
【0009】
上記構成において、前記燃焼室は、吸気を前記燃焼室に流入させるための吸気開口部と、排気を前記燃焼室から排出させるための排気開口部と、を備え、前記タンブル流は、前記吸気開口部を通過して前記燃焼室に流入した前記吸気が前記排気開口部を経て前記ピストンの方に向かって流動する正タンブル流であり、前記燃料噴射弁が配置されている前記内燃機関の前記所定箇所は、前記シリンダヘッドの前記吸気開口部の近傍である構成としてもよい。この構成によれば、第1時期に噴射された燃料によって吸気行程における正タンブル流の流速を増大させることができる。また、第2時期に噴射された燃料によって圧縮行程における正タンブル流のピストン近傍の部分の流速を減少させることができる。
【0010】
上記構成において、前記燃焼室は、吸気を前記燃焼室に流入させるための吸気開口部と、排気を前記燃焼室から排出させるための排気開口部と、を備え、前記タンブル流は、前記吸気開口部を通過して前記燃焼室に流入した前記吸気が前記ピストンを経て前記排気開口部の方に向かって流動する逆タンブル流であり、前記燃料噴射弁が配置されている前記内燃機関の前記所定箇所は、前記シリンダヘッドの前記排気開口部の近傍である構成としてもよい。この構成によれば、第1時期に噴射された燃料によって吸気行程における逆タンブル流の流速を増大させることができる。また、第2時期に噴射された燃料によって圧縮行程における逆タンブル流のピストン近傍の部分の流速を減少させることができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、シリンダヘッドが断熱されることでシリンダヘッドにおける冷却損失の発生が抑制可能な構造を有する内燃機関における燃費向上を図ることができる内燃機関の制御装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】図1は、実施例1に係る制御装置および内燃機関を備える内燃機関システムを示す模式図である。
【図2】図2(a)は燃料噴射弁を示す模式図である。図2(b)は制御装置の機能ブロック図である。
【図3】図3は、制御装置による気流制御弁および燃料噴射弁の制御を説明するための模式図であり、吸気行程における内燃機関システムを模式的に示している。
【図4】図4は、制御装置による気流制御弁および燃料噴射弁の制御を説明するための模式図であり、圧縮行程における内燃機関システムを模式的に示している。
【図5】図5(a)は、制御装置が燃料噴射弁を制御する際に参照するマップの一例を説明するための図である。図5(b)は、制御装置のフローチャートの一例を示す図である。
【図6】図6は、内燃機関の圧縮行程の圧縮上死点近傍における正タンブル流の流速分布を示す模式図である。
【図7】図7は、燃焼室に逆タンブル流が形成される場合の内燃機関システムを説明するための模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を実施するための形態を説明する。
【実施例1】
【0014】
本発明の実施例1に係る内燃機関10の制御装置100(以下、制御装置100と略称する)について説明する。図1は、本実施例に係る制御装置100および内燃機関10を備える内燃機関システム5を示す模式図である。内燃機関10は、シリンダヘッド20、シリンダブロック21、ピストン22、吸気通路30、排気通路31、吸気弁40、排気弁41、燃料噴射弁50、気流制御弁60およびクランク角センサ70を備えている。なお、図1の内燃機関10の断面図は、内燃機関10をクランク軸の軸線方向から見た断面図である。
【0015】
シリンダヘッド20はシリンダブロック21の上方に配置されている。ピストン22はシリンダブロック21の気筒内に配置されている。なお、本実施例において上方および下方は、必ずしも重力方向における上方および下方と一致している必要はない。例えば、本実施例における上方および下方は水平方向であってもよい。
【0016】
シリンダヘッド20には、冷却媒体が通過するための冷却媒体流路80が形成されている。シリンダブロック21には、冷却媒体が通過するための冷却媒体流路81が形成されている。ピストン22とシリンダヘッド20とシリンダブロック21とによって囲まれた空間に、燃焼室23が形成されている。すなわち、燃焼室23は、ピストン22とシリンダヘッド20との間に形成されている。
【0017】
燃焼室23は、吸気を燃焼室23に流入させるための吸気開口部24と、排気を燃焼室23から排出させるための排気開口部25とを備えている。吸気通路30は、吸気が吸気開口部24に到達するまでに流動する通路である。排気通路31は、排気開口部25から排出された排気が通過するための通路である。吸気弁40は、吸気開口部24を開閉するための弁である。排気弁41は、排気開口部25を開閉するための弁である。
【0018】
燃料噴射弁50は、制御装置100に制御されて、燃焼室23に燃料を直接噴射する弁である。すなわち、本実施例に係る内燃機関10は筒内噴射式の内燃機関である。なお、本実施例において燃焼室23には点火プラグ(図示せず)が配置されている。すなわち、本実施例に係る内燃機関10は火花点火式の内燃機関でもある。
【0019】
気流制御弁60は、制御装置100に制御されて、吸気通路30を通過する吸気の流動方向を制御する弁である。気流制御弁60が吸気の流動方向を制御することで、燃焼室23に吸気行程から排気行程にかけてタンブル流を形成することができる。すなわち、本実施例に係る内燃機関10は、吸気行程から排気行程にかけて燃焼室23にタンブル流が形成される構造として、気流制御弁60を備える構造を有している。
【0020】
但し、燃焼室23にタンブル流が形成される内燃機関10の構造は、気流制御弁60を備える構造に限定されるものではない。例えば、吸気通路30の形状を調整することによっても燃焼室23にタンブル流を形成することができる。したがって、内燃機関10は、燃焼室23にタンブル流が形成される構造として、気流制御弁60を備える構造に代えてまたは気流制御弁60を備える構造とともに、燃焼室23にタンブル流が形成されるように吸気を燃焼室23に導く吸気通路を有する構造を備えていてもよい。
【0021】
ピストン22の頂面にはキャビティ26が形成されている。キャビティ26は、燃焼室23に形成されたタンブル流をピストン22の頂面に沿って滑らかに流動させる機能を有している。但し、本実施例に係る制御装置100は、キャビティ26を備えないピストンを有する内燃機関に適用することもできる。
【0022】
クランク角センサ70は、内燃機関10のクランク軸の角度(クランク角)を検出し、検出結果を制御装置100に伝える。なお、内燃機関10の吸気行程、圧縮行程等の各種行程、ピストン22の位置等は、クランク角を基準にして設定されている。したがって制御装置100は、クランク角を取得することで、内燃機関10が吸気行程にあるか圧縮行程にあるか、ピストン22の位置がどこにあるか等、内燃機関10の運転状態に関する情報を取得することができる。
【0023】
制御装置100は、CPU(Central Processing Unit)101と、ROM(Read Only Memory)102と、RAM(Random Access Memory)103とを備える電子制御装置(Electronic Control Unit)である。制御装置100は、燃料噴射弁50および気流制御弁60を制御する。
【0024】
本実施例に係る内燃機関10は、冷却損失の発生を抑制するための構造を有している。具体的には内燃機関10は、シリンダヘッド20が断熱されることでシリンダヘッド20における冷却損失の発生が抑制可能な構造(以下、冷却損失発生抑制構造と略称する場合がある)を有している。
【0025】
この冷却損失発生抑制構造としては特に限定されるものではないが、一例として、シリンダヘッド20の燃焼室23に面した部分に断熱部材を例えば膜状に配置した構造を用いることができる。断熱部材としてはシリンダヘッド20を構成する材料(金属)よりも熱伝達率の小さい部材であれば、特に限定されるものではない。この構造によれば、断熱部材によってシリンダヘッド20を燃焼室23から断熱することができる。その結果、シリンダヘッド20における冷却損失の発生を抑制することができる。
【0026】
あるいは、内燃機関10は、断熱部材によってシリンダヘッド20が燃焼室23から断熱された構造に代えてまたはこの構造とともに、シリンダヘッド20のシリンダブロック21側の界面に、断熱部材を配置した構造を用いることができる。この構造によれば、断熱部材によってシリンダヘッド20をシリンダブロック21から断熱することができる。その結果、シリンダヘッド20における冷却損失の発生を抑制することができる。
【0027】
また、冷却損失発生抑制構造は、上述した断熱部材を用いる構造に代えてまたは断熱部材を用いる構造とともに、冷却媒体流路80における冷却媒体の流量を冷却媒体流路81における冷却媒体の流量よりも小さくする構造を用いることもできる。このような構造の一例として、冷却媒体流路80と冷却媒体供給装置(例えば冷却媒体用のポンプ)とを連通する流路に流量調整弁を配置し、この流路を流通する冷却媒体の流量を流量調整弁によって停止させる又は減少させることで、冷却媒体流路80における冷却媒体の流量を冷却媒体流路81における流量よりも小さくする構造を用いることができる。この場合、シリンダヘッド20と冷却媒体との熱伝導がシリンダブロック21と冷却媒体との熱伝導に比較して抑制される。その結果、シリンダヘッド20が断熱されることでシリンダヘッド20における冷却損失の発生を抑制した構造が得られる。
【0028】
上記のように、内燃機関10がシリンダヘッド20における冷却損失の発生が抑制可能な構造を有することで、内燃機関10の冷却損失を低減させることができることから、内燃機関10の燃費向上を図ることができる。また、冷却媒体流路81によってシリンダブロック21の冷却が確保されていることから、燃焼室23の温度上昇が抑制されている。それにより、ノッキングの発生が抑制されている。ノッキングの発生が抑制されることで、内燃機関10のトルクを向上させることができる。
【0029】
続いて燃料噴射弁50の構成について説明する。図2(a)は燃料噴射弁50を示す模式図である。燃料噴射弁50は、その先端に燃料200を噴射する噴射口51を有している。本実施例において、噴射口51はスリット形状になっている。燃料噴射弁50から噴射された燃料200の噴霧形状は、ファン形(扇形)である。すなわち、本実施例に係る燃料噴射弁50はファン噴霧を行う燃料噴射弁である。但し、燃料噴射弁50の構成は、これに限定されるものではない。例えば燃料噴射弁50として、ホロコーン噴霧を行う燃料噴射弁を用いてもよい。
【0030】
続いて制御装置100の詳細について説明する。図2(b)は制御装置100の機能ブロック図である。制御装置100の機能は、制御部104および記憶部105によって実現することができる。制御部104は、クランク角センサ70の検出結果を受けて、気流制御弁60および燃料噴射弁50を制御する機能を有している。記憶部105は、制御部104の動作に必要なデータ等を記憶する機能を有している。制御部104は、記憶部105の記憶したデータ等を適宜参照しながら、各種制御を行う。制御部104の機能はCPU101によって実現することができる。記憶部105の機能はROM102およびRAM103によって実現することができる。
【0031】
図3および図4は、制御装置100による気流制御弁60および燃料噴射弁50の制御を説明するための模式図である。図3は吸気行程における内燃機関システム5を模式的に示し、図4は圧縮行程における内燃機関システム5を模式的に示している。なお、図3および図4において吸気弁40、排気弁41、気流制御弁60およびクランク角センサ70の図示は省略されている。
【0032】
本実施例において燃焼室23に形成されるタンブル流は、正タンブル流300である。正タンブル流300の流動方向は、吸気開口部24を通過して燃焼室23に流入した吸気が排気開口部25を経てピストン22の方に向かって流動する方向であり、図3および図4において紙面に向かって時計回りである。制御装置100の制御部104は、吸気行程から圧縮行程にかけて燃焼室23に正タンブル流300が形成されるように、気流制御弁60を制御する。
【0033】
正タンブル流300は、渦中心301を中心に縦方向に旋回する。ピストン22の移動に伴って、渦中心301も移動する。例えば図3と図4とを比較した場合、図4の方が図3よりもピストン22は上方に位置しており、渦中心301も上方に位置している。
【0034】
図3に示すように、制御部104は、吸気行程における所定の時期(以下、第1時期と称する)に燃料200が噴射されるように燃料噴射弁50の燃料200の噴射時期を制御する。第1時期は、正タンブル流300の渦中心301よりもシリンダヘッド20に近い部分(図3においては渦中心301よりも上側の部分)に向けて燃料噴射弁50から燃料200が噴射される時期である。すなわち、制御部104は、燃料噴射弁50が正タンブル流300の渦中心301よりもシリンダヘッド20に近い部分に向けて燃料200を噴射するように、吸気行程における燃料噴射弁50の燃料200の噴射時期を制御している。
【0035】
図4に示すように、制御部104は、圧縮行程における所定の時期(以下、第2時期と称する)に燃料200が噴射されるように燃料噴射弁50の燃料200の噴射時期を制御する。第2時期は、正タンブル流300の渦中心301よりもピストン22に近い部分(図4においては渦中心301よりも下側の部分)に向けて燃料噴射弁50から燃料200が噴射される時期である。すなわち、制御部104は、燃料噴射弁50が正タンブル流300の渦中心301よりもピストン22に近い部分に向けて燃料200を噴射するように、圧縮行程における燃料噴射弁50の燃料200の噴射時期を制御している。
【0036】
ここで、燃料噴射弁50は、第1時期に燃料噴射弁50から噴射された燃料200によって正タンブル流300の流速が増大する内燃機関10の所定箇所に配置されている。本実施例においては、この内燃機関10の所定箇所はシリンダヘッド20の吸気開口部24の近傍である。より具体的には、内燃機関10の所定箇所はシリンダヘッド20の吸気開口部24の下側である。燃料噴射弁50がこのような所定箇所に配置されることで、第1時期に噴射された燃料200によって、吸気行程における正タンブル流300の流速を増大させることができる。また、第2時期に噴射された燃料200によって、圧縮行程における正タンブル流300のピストン22近傍の部分の流速を減少させることができる。
【0037】
制御装置100が第1時期および第2時期を取得する具体的な手法は、特に限定されるものではない。本実施例に係る制御装置100は、一例として、マップを用いた演算によって第1時期および第2時期を取得する。図5(a)は、制御装置100が燃料噴射弁50を制御する際に参照するマップの一例を説明するための図である。横軸はクランク角を示し、縦軸は噴射の有無を示している。吸気行程においてハッチングが施された領域は第1時期に対応し、圧縮行程においてハッチングが施された領域は第2時期に対応している。
【0038】
マップは、第1時期および第2時期をクランク角に関連づけて規定している。第1時期は、吸気行程における正タンブル流300の渦中心301よりもシリンダヘッド20に近い部分に向けて燃料噴射弁50から燃料200が噴射されるクランク角である。第2時期は、圧縮行程における正タンブル流300の渦中心301よりもピストン22に近い部分に向けて燃料噴射弁50から燃料200が噴射されるクランク角である。
【0039】
マップは、記憶部105が記憶しておく。制御部104は、クランク角センサ70の検出結果に基づいて内燃機関10のクランク角を取得し、取得されたクランク角に基づいて記憶部105のマップを参照することで、第1時期および第2時期を取得する。
【0040】
図5(b)は、制御装置100のフローチャートの一例を示す図である。制御装置100の制御部104は、図5(b)のフローチャートを所定の周期で繰り返し実行する。まず、制御部104は、内燃機関10のクランク角に基づいて記憶部105のマップを参照することで第1時期を取得し、取得された第1時期に燃料200が噴射されるように燃料噴射弁50の噴射時期を制御する(ステップS10)。
【0041】
次いで、制御部104は、内燃機関10のクランク角に基づいて記憶部105のマップを参照することで第2時期を取得し、取得された第2時期に燃料200が噴射されるように燃料噴射弁50の噴射時期を制御する(ステップS20)。次いで制御部104はフローチャートの実行を終了する。
【0042】
図6は、本実施例に係る内燃機関10の圧縮行程の圧縮上死点近傍における正タンブル流300の流速分布を示す模式図である。図3、図4および図6を参照しながら、本実施例に係る制御装置100の作用効果を説明する。まず、図3に示すように、制御部104は吸気行程の第1時期に燃料200が噴射されるように燃料噴射弁50の噴射時期を制御することから、第1時期に燃料噴射弁50から噴射された燃料200によって、吸気行程における正タンブル流300の流速を増大させることができる。
【0043】
このように正タンブル流300の流速が増大された状態で、図4に示すように、制御部104は圧縮行程における第2時期に燃料200が噴射されるように燃料噴射弁50の噴射時期を制御することから、圧縮行程における正タンブル流300のピストン22近傍の部分の流速を減少させることができる。これにより、図6に示すように、圧縮上死点近傍における正タンブル流300の流速を、シリンダヘッド20側を高く、ピストン22側を低くすることができる。その結果、燃焼室23における燃焼を促進しつつ燃焼室23の熱がピストン22へ伝達することを抑制することができる。それにより、燃焼を促進しつつ熱損失を低減させることができる。その結果、シリンダヘッド20が断熱されることでシリンダヘッド20における冷却損失の発生が抑制可能な構造を有する内燃機関10における燃費向上を図ることができる。
【0044】
(変形例1)
燃焼室23に形成されるタンブル流は、正タンブル流300に限定されるものではない。燃焼室23に形成されるタンブル流は、逆タンブル流であってもよい。図7は、燃焼室23に逆タンブル流300aが形成される場合の内燃機関システム5を説明するための模式図である。図7の内燃機関10は、タンブル流が逆タンブル流300aである点において図3と異なっている。また図7の内燃機関10は、燃料噴射弁50の配置箇所が図3と異なっている。その他の構成は、図3と同様である。
【0045】
逆タンブル流300aの流動方向は、吸気開口部24を通過して燃焼室23に流入した吸気がピストン22を経て排気開口部25の方に向かって流動する方向であり、図7において紙面に向かって反時計回りである。本変形例に係る制御部104は、吸気行程から圧縮行程にかけて燃焼室23に逆タンブル流300aが形成されるように、気流制御弁60を制御する。
【0046】
本変形例に係る第1時期は、逆タンブル流300aの渦中心301よりもシリンダヘッド20に近い部分に向けて燃料噴射弁50から燃料200が噴射される時期である。すなわち、本変形例に係る制御部104は、燃料噴射弁50が逆タンブル流300aの渦中心301よりもシリンダヘッド20に近い部分に向けて燃料200を噴射するように、吸気行程における燃料噴射弁50の燃料200の噴射時期を制御している。
【0047】
本変形例に係る第2時期は、逆タンブル流300aの渦中心301よりもピストン22に近い部分に向けて燃料噴射弁50から燃料200が噴射される時期である。すなわち、本変形例に係る制御部104は、燃料噴射弁50が逆タンブル流300aの渦中心301よりもピストン22に近い部分に向けて燃料200を噴射するように、圧縮行程における燃料噴射弁50の燃料200の噴射時期を制御している。
【0048】
燃料噴射弁50は、第1時期に燃料噴射弁50から噴射された燃料200によって逆タンブル流300aの流速が増大する内燃機関10の所定箇所に配置されている。本変形例においては、この内燃機関10の所定箇所は、シリンダヘッド20の排気開口部25の近傍である。より具体的には内燃機関10の所定箇所は、シリンダヘッド20の排気開口部25の下側である。燃料噴射弁50がこのような所定箇所に配置されることで、第1時期に噴射された燃料200によって、吸気行程における逆タンブル流300aの流速を増大させることができる。また、第2時期に噴射された燃料200によって、圧縮行程における逆タンブル流300aのピストン22近傍の部分の流速を減少させることができる。
【0049】
本変形例に係る制御装置100においても、第1時期に燃料噴射弁50から噴射された燃料200によって、吸気行程における逆タンブル流300aの流速を増大させることができる。このように逆タンブル流300aの流速が増大された状態で圧縮行程における第2時期に燃料200が噴射されることで、圧縮行程における逆タンブル流300aのピストン22近傍の部分の流速を減少させることができる。これにより、圧縮上死点近傍における逆タンブル流300aの流速を、シリンダヘッド20側を高く、ピストン22側を低くすることができる。その結果、燃焼室23における燃焼を促進しつつ燃焼室23の熱がピストン22へ伝達することを抑制することができる。それにより、燃焼を促進しつつ熱損失を低減させることができる。その結果、シリンダヘッド20が断熱されることでシリンダヘッド20における冷却損失の発生が抑制可能な構造を有する内燃機関10における燃費向上を図ることができる。
【0050】
以上本発明の好ましい実施形態について詳述したが、本発明はかかる特定の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【符号の説明】
【0051】
5 内燃機関システム
10 内燃機関
20 シリンダヘッド
21 シリンダブロック
22 ピストン
23 燃焼室
24 吸気開口部
25 排気開口部
50 燃料噴射弁
60 気流制御弁
70 クランク角センサ
80,81 冷却媒体流路
100 制御装置
104 制御部
105 記憶部
200 燃料
301 渦中心

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ピストンとシリンダヘッドとの間に形成された燃焼室に吸気行程から圧縮行程にかけてタンブル流が形成される構造と、前記シリンダヘッドが断熱されることで前記シリンダヘッドにおける冷却損失の発生が抑制可能な構造と、燃料を前記燃焼室に直接噴射する燃料噴射弁と、を備える内燃機関の前記吸気行程における第1時期および前記圧縮行程における第2時期に前記燃料が噴射されるように前記燃料噴射弁の前記燃料の噴射時期を制御する制御部を備え、
前記第1時期は、前記タンブル流の渦中心よりも前記シリンダヘッドに近い部分に向けて前記燃料噴射弁から前記燃料が噴射される時期であり、
前記第2時期は、前記タンブル流の渦中心よりも前記ピストンに近い部分に向けて前記燃料噴射弁から前記燃料が噴射される時期であり、
前記燃料噴射弁は、前記第1時期に前記燃料噴射弁から噴射された前記燃料によって前記タンブル流の流速が増大する前記内燃機関の所定箇所に配置されていることを特徴とする内燃機関の制御装置。
【請求項2】
前記第1時期および前記第2時期が前記内燃機関のクランク角に関連づけて規定されたマップを記憶した記憶部を備え、
前記制御部は、前記内燃機関の前記クランク角を取得し、取得された前記クランク角に基づいて前記記憶部の前記マップを参照することで、前記第1時期および前記第2時期を取得し、取得された前記第1時期および前記第2時期に前記燃料が噴射されるように前記燃料噴射弁の前記噴射時期を制御する請求項1記載の内燃機関の制御装置。
【請求項3】
前記燃焼室は、吸気を前記燃焼室に流入させるための吸気開口部と、排気を前記燃焼室から排出させるための排気開口部と、を備え、
前記タンブル流は、前記吸気開口部を通過して前記燃焼室に流入した前記吸気が前記排気開口部を経て前記ピストンの方に向かって流動する正タンブル流であり、
前記燃料噴射弁が配置されている前記内燃機関の前記所定箇所は、前記シリンダヘッドの前記吸気開口部の近傍である請求項1または2に記載の内燃機関の制御装置。
【請求項4】
前記燃焼室は、吸気を前記燃焼室に流入させるための吸気開口部と、排気を前記燃焼室から排出させるための排気開口部と、を備え、
前記タンブル流は、前記吸気開口部を通過して前記燃焼室に流入した前記吸気が前記ピストンを経て前記排気開口部の方に向かって流動する逆タンブル流であり、
前記燃料噴射弁が配置されている前記内燃機関の前記所定箇所は、前記シリンダヘッドの前記排気開口部の近傍である請求項1または2に記載の内燃機関の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−219628(P2012−219628A)
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−82687(P2011−82687)
【出願日】平成23年4月4日(2011.4.4)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】