説明

内燃機関の制御装置

【課題】本発明は、内燃機関の制御装置に関し、異常燃焼の発生時におけるピストンの温度上昇を精度良く推定することを目的とする。
【解決手段】本発明の内燃機関の制御装置は、内燃機関10において異常燃焼が発生した場合に筒内圧に関する情報を取得する筒内圧情報取得手段と、筒内圧情報取得手段により取得された情報に基づいて、異常燃焼による内燃機関10のピストン12の温度上昇を推定するピストン温度上昇推定手段とを備える。ピストン温度上昇推定手段は、異常燃焼の1回当たりのピストン12の温度上昇幅を取得し、その温度上昇幅を積算する。ピストン温度上昇推定手段の推定結果に基づいて、異常燃焼の発生を抑制する異常燃焼抑制制御の実行の要否を判断する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
内燃機関において、プレイグニション等の異常燃焼が発生することがある。異常燃焼時には、通常燃焼時と比べて、筒内圧が異常に高くなり、ピストンの温度が上昇する。
【0003】
特許文献1には、異常燃焼が検出されたときに、異常燃焼の発生を抑制するための制御として、内燃機関に接続される自動変速機の動力伝達要素を制御する(摩擦締結要素を滑らせる)ことにより機関回転速度を上昇させる制御を行う技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2011−112115号公報
【特許文献2】特開2010−71284号公報
【特許文献3】特開平9−273436号公報
【特許文献4】特開2009−30545号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
異常燃焼を抑制する制御としては、他に、筒内に追加燃料を噴射する制御や点火時期を遅角する制御が知られている。異常燃焼を抑制する制御は、何れの方法にしても、燃費、エミッション、ドライバビリティ等の何れかに影響を及ぼすので、必要以上に実施することは好ましくない。その一方で、例えば低オクタン価燃料など指定燃料以外の燃料が使用されたような場合には、異常燃焼の発生時にピストンの温度が設計で想定した以上に上昇し、異常燃焼を抑制する制御が開始されるより前にピストン温度が許容限度を超えて上昇するおそれがある。ピストンを確実に保護するためには、どのような条件の場合であってもピストン温度を精度良く推定し、ピストン温度が許容限度を超えることを未然に防止することが望まれる。
【0006】
本発明は、上記の点に鑑みてなされたものであり、異常燃焼の発生時におけるピストンの温度上昇を精度良く推定することのできる内燃機関の制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
第1の発明は、上記の目的を達成するため、内燃機関の制御装置であって、
内燃機関において異常燃焼が発生した場合に筒内圧に関する情報を取得する筒内圧情報取得手段と、
前記筒内圧情報取得手段により取得された情報に基づいて、前記異常燃焼による前記内燃機関のピストンの温度上昇を推定するピストン温度上昇推定手段と、
を備えることを特徴とする。
【0008】
また、第2の発明は、第1の発明において、
前記ピストン温度上昇推定手段は、
前記情報に基づいて、前記異常燃焼の1回当たりの前記ピストンの温度上昇幅を取得する温度上昇幅取得手段と、
前記異常燃焼が連続して発生した場合に、前記温度上昇幅取得手段により取得された温度上昇幅を積算する積算手段と、
を含むことを特徴とする。
【0009】
また、第3の発明は、第1または第2の発明において、
前記ピストン温度上昇推定手段の推定結果に基づいて、前記異常燃焼の発生を抑制する異常燃焼抑制制御の実行の要否を判断する判断手段を備えることを特徴とする。
【0010】
また、第4の発明は、第1乃至第3の発明の何れかにおいて、
前記内燃機関の筒内圧を検出する筒内圧検出手段を備え、
前記筒内圧情報取得手段は、前記筒内圧検出手段の出力に基づいて前記情報を取得することを特徴とする。
【0011】
また、第5の発明は、第1乃至第4の発明の何れかにおいて、
前記筒内圧情報取得手段は、前記異常燃焼時の筒内圧波形の振幅に関する情報と、前記異常燃焼時の筒内圧波形を平滑化した平滑化筒内圧の最大値に関する情報との一方または両方を取得することを特徴とする。
【0012】
また、第6の発明は、第1乃至第5の発明の何れかにおいて、
前記筒内圧情報取得手段は、前記内燃機関の運転状態に基づいて、前記異常燃焼時の筒内圧波形を平滑化した平滑化筒内圧の最大値に関する情報を取得する手段を含むことを特徴とする。
【0013】
また、第7の発明は、第1乃至第6の発明の何れかにおいて、
燃料の性状を判定する燃料性状判定手段を備え、
前記筒内圧情報取得手段は、前記燃料性状判定手段により判定された燃料性状に基づいて、前記異常燃焼時の筒内圧波形の振幅に関する情報を取得する手段を含むことを特徴とする手段を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
第1の発明によれば、燃料性状や吸気温度等の条件にかかわらず、異常燃焼の発生時におけるピストンの温度上昇を精度良く推定することができる。このため、ピストンの温度が許容限度に達する前に適切に対処することが可能となる。
【0015】
第2の発明によれば、異常燃焼が連続して発生した場合のピストンの温度上昇を精度良く推定することができる。
【0016】
第3の発明によれば、ピストン温度が許容限度に達する前に異常燃焼抑制制御を確実に実行し、ピストンを確実に保護することができるとともに、異常燃焼抑制制御が必要以上に実行されることを回避し、異常燃焼抑制制御が燃費、エミッション、ドライバビリティ等の何れかに及ぼす影響を最小限に抑制することができる。
【0017】
第4の発明によれば、筒内圧を実測することにより異常燃焼時の筒内圧に関する情報を精度良く取得することができる。
【0018】
第5の発明によれば、異常燃焼時の筒内圧波形の振幅に関する情報と、異常燃焼時の筒内圧波形を平滑化した平滑化筒内圧の最大値に関する情報との一方または両方を用いることにより、ピストンの温度上昇をより高い精度で推定することができる。
【0019】
第6の発明によれば、筒内圧検出手段を用いることなしに、異常燃焼時の筒内圧波形を平滑化した平滑化筒内圧の最大値に関する情報を取得することができるので、制御装置の計算負荷を軽減することができる。
【0020】
第7の発明によれば、筒内圧検出手段を用いることなしに、異常燃焼時の筒内圧波形の振幅に関する情報を取得することができるので、制御装置の計算負荷を軽減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の実施の形態1のシステム構成を説明するための図である。
【図2】異常燃焼の場合と通常燃焼(正常な燃焼)の場合における、圧縮行程および膨張行程での筒内圧の変化を示すグラフである。
【図3】本発明の実施の形態1において実行されるルーチンのフローチャートである。
【図4】ピストンの温度上昇幅Tを算出するためのマップである。
【図5】燃料の種類と、異常燃焼時の筒内圧振幅ΔPの上限値との関係を定めたマップである。
【図6】内燃機関の運転状態(エンジン回転数およびトルク)と、なまし最大筒内圧Pmaxの上限値との関係を定めたマップである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
実施の形態1.
図1は、本発明の実施の形態1のシステム構成を説明するための図である。図1に示すように、本発明の実施の形態1のシステムは、火花点火式の内燃機関10を備えている。内燃機関10の気筒数および気筒配置は特に限定されない。図1には、一つの気筒のみが代表して描かれている。
【0023】
内燃機関10の各気筒には、ピストン12と、吸気弁14と、排気弁16と、点火プラグ18と、筒内(燃焼室内)に直接に燃料を噴射する燃料インジェクタ20とが設けられている。
【0024】
内燃機関10の各気筒は、図示しない吸気マニホールドを介して吸気通路22に接続されている。また、内燃機関10の各気筒は、図示しない排気マニホールドを介して排気通路24に接続されている。
【0025】
本実施形態の内燃機関10は、過給機としてのターボチャージャ26を有している。ターボチャージャ26は、コンプレッサ26aとタービン26bとを有している。コンプレッサ26aは、吸気通路22の途中に配置されており、タービン26bは、排気通路24の途中に配置されている。
【0026】
コンプレッサ26aより上流側の吸気通路22には、エアクリーナ28と、吸入空気量を検出するエアフローメータ30とが設置されている。コンプレッサ26aより下流側の吸気通路22には、インタークーラ32と、スロットル弁34とが設けられている。
【0027】
タービン26bの近傍には、タービン26bの上流側の排気通路24と下流側の排気通路24とを連通するバイパス通路38と、このバイパス通路38を開閉することのできるバイパス弁40(ウェイストゲート弁)とが設置されている。バイパス弁40が開くと、排気ガスの一部は、タービン26bを通らずにバイパス通路38を通って流れる。タービン26bより下流側の排気通路24には、排気ガスを浄化する排気浄化触媒42(触媒コンバータ)が設置されている。
【0028】
本実施形態のシステムは、内燃機関10のクランク軸の回転角度を検出するクランク角センサ44と、筒内圧を検出する筒内圧センサ46と、吸気弁14を駆動する吸気可変動弁装置47と、排気弁16を駆動する排気可変動弁装置48と、内燃機関10の運転状態を制御するECU(Electronic Control Unit)50とを更に備えている。ECU50には、上述した各種のセンサおよびアクチュエータが電気的に接続されている。吸気可変動弁装置47は、吸気弁14の開閉タイミングを変更可能に構成されている。排気可変動弁装置48は、排気弁16の開閉タイミングを変更可能に構成されている。
【0029】
ECU50は、各センサにより検出した情報に基いて各アクチュエータを駆動することにより、内燃機関10の運転を制御する。例えば、クランク角センサ44により検出されるエンジン回転数(機関回転速度)と、エアフローメータ30により検出される吸入空気量とに基いて燃料噴射量を算出し、クランク角に基いて燃料噴射時期、点火時期等を決定した後に、燃料インジェクタ20および点火プラグ18を駆動する。
【0030】
内燃機関10において、例えばプレイグニションのような異常燃焼が発生する場合がある。異常燃焼では、正常な着火タイミング(点火プラグ18による点火)よりも前に筒内の混合気が自着火する。異常燃焼は、エンジン回転数が低く機関負荷の高い領域、すなわち低速高負荷領域において発生し易い傾向がある。
【0031】
本実施形態では、ECU50は、筒内圧センサ46で検出される筒内圧に基づいて、異常燃焼の発生を検出可能な操作(以下、「異常燃焼検出操作」と称する)を実行することができる。以下、異常燃焼検出操作の一例について説明する。ECU50は、筒内圧センサ46で検出される筒内圧をP、筒内容積をV、筒内ガスの比熱比をκとしたとき、発熱量指標値としてのPVκを演算することができる。なお、筒内容積Vの値は、クランク角θの関数であり、ECU50に予め記憶されている。比熱比κの値もECU50に予め記憶されている。PVκの値は、筒内で発生した熱量と相関する。異常燃焼によって混合気が着火すると、筒内で熱が発生するので、PVκの値が上昇する。ECU50は、PVκの値を単位クランク角毎または単位時間毎に繰り返し演算する。そして、算出されたPVκの値が所定の閾値を超えた場合には、異常燃焼が発生したと判定する。ECU50は、このような異常燃焼検出操作をサイクル毎に実行することができる。なお、本発明では、異常燃焼検出操作は、筒内圧センサ46を用いるものに限定されるものではなく、例えば、点火プラグの電極間に流れるイオン電流を検出することによって異常燃焼を検出するものなどであってもよい。
【0032】
図2は、異常燃焼の場合と通常燃焼(正常な燃焼)の場合における、圧縮行程および膨張行程での筒内圧の変化を示すグラフである。図2に示す例において、点火時期は圧縮上死点より後である。このため、通常燃焼の場合、圧縮上死点を過ぎて筒内圧が低下に転じた後に燃焼が開始して筒内圧が再上昇する。これに対し、異常燃焼の場合には、点火時期より前に筒内圧が上昇し、通常燃焼時の最大筒内圧より高くなるとともに、筒内圧が高周波で大きく振動する。以下では、図2に示すように、異常燃焼時の筒内圧波形の振幅(最大振幅)を「筒内圧振幅」と称し、記号ΔPで表す。また、図2中の太い破線で示す曲線は、異常燃焼時の筒内圧波形を平滑化処理(なまし処理)した筒内圧を表している。以下では、この平滑化した平滑化筒内圧の最大値(極大値)を「なまし最大筒内圧」と称し、記号Pmaxで表す。
【0033】
異常燃焼が発生すると、ピストン12の温度が上昇する。このため、異常燃焼が複数サイクル連続して発生すると、ピストン12が高温となる場合がある。特に、指定燃料以外の低オクタン価燃料が使用された場合や、吸気温度が高い場合などには、異常燃焼時のピストン12の温度上昇幅が大きいため、ピストン12の温度が、強度保証のできる許容限度を超えて上昇する可能性がある。本発明者らの研究によれば、異常燃焼1回当たりの温度上昇幅は、その異常燃焼時の筒内圧波形(ノック波形)の大きさと深く関連しており、特に上述した筒内圧振幅ΔPおよびなまし最大筒内圧Pmaxと深く関連している。そこで、本実施形態では、異常燃焼時の筒内圧振幅ΔPおよびなまし最大筒内圧Pmaxの値を取得し、それらの値に基づいて、その異常燃焼によるピストン12の温度上昇幅Tを算出し、異常燃焼が複数サイクル連続して発生した場合には各回の異常燃焼による温度上昇幅Tを積算した温度上昇積算値ΣTを算出することにより、ピストン12の温度上昇を推定することとした。
【0034】
前述したように、指定燃料以外の低オクタン価燃料が使用された場合や吸気温度が高い場合などには、異常燃焼時のピストン12の温度上昇幅が大きい。そして、低オクタン価燃料が使用された場合や吸気温度が高い場合などには、その影響が異常燃焼時の筒内圧波形の大きさに現れる。このため、低オクタン価燃料が使用された場合や吸気温度が高い場合などにおいても、筒内圧振幅ΔPおよびなまし最大筒内圧Pmaxに基づいてピストン12の温度上昇を推定することにより、ピストン12の温度上昇を高精度に推定することが可能となる。
【0035】
図3は、本実施形態においてECU50が実行するルーチンのフローチャートである。本ルーチンは、クランク角に同期してサイクル毎に実行される。図3に示すルーチンによれば、まず、内燃機関10が始動されているかどうか(運転中であるかどうか)が判断される(ステップ100)。内燃機関10が運転中である場合には、ピストン12の温度上昇積算値ΣTを、ΣT=0としてリセットする(ステップ102)。
【0036】
続いて、異常燃焼が複数サイクル連続して発生しているか否かが判断される(ステップ104)。ECU50は、前述した異常燃焼検出操作をサイクル毎に実行し、各サイクルで異常燃焼の有無を判定している。このステップ104では、異常燃焼検出操作での判定結果の履歴に基づいて、異常燃焼が複数サイクル連続して発生しているか否かを判断する。異常燃焼が複数サイクル連続して発生していない場合には、ピストン12の温度が許容限度を超えるおそれはないと判断できる。このため、異常燃焼が複数サイクル連続して発生していない場合には、ピストン12の温度上昇の推定を実行することなく、ステップ100に戻り、ステップ100以下の処理を再度実行する。
【0037】
これに対し、異常燃焼が複数サイクル連続して発生している場合には、以下のようにして、ピストン12の温度上昇の推定を実行する。まず、筒内圧センサ46により検出された異常燃焼時の筒内圧波形を平滑化処理し、なまし最大筒内圧Pmaxを算出する(ステップ106)とともに、異常燃焼時の筒内圧波形に基づいて筒内圧振幅ΔPを算出する(ステップ108)。
【0038】
次いで、上記ステップ106,108で算出されたなまし最大筒内圧Pmaxおよび筒内圧振幅ΔPの値に基づいて、異常燃焼1回当たりのピストン12の温度上昇幅Tを算出する(ステップ110)。図4は、ピストン12の温度上昇幅Tを算出するためのマップである。本実施形態では、なまし最大筒内圧Pmaxおよび筒内圧振幅ΔPと、ピストン12の温度上昇幅Tとの関係が、実験や理論、経験則等に基づいて予め調査され、図4に示すようなマップにまとめられている。ECU50には、図4に示すようなマップが予め記憶されている。ステップ110では、このようなマップに従い、なまし最大筒内圧Pmaxおよび筒内圧振幅ΔPの値に基づいて、異常燃焼1回当たりのピストン12の温度上昇幅Tが算出される。今回のサイクルで発生した異常燃焼により、ピストン12の温度は、この算出された温度上昇幅Tだけ上昇すると予測できる。
【0039】
続いて、上記ステップ110で算出された温度上昇幅Tを温度上昇積算値ΣTに加算することにより、温度上昇積算値ΣTが更新される(ステップ112)。次いで、その更新された温度上昇積算値ΣTと所定の基準値(クライテリア)とが比較される(ステップ114)。その結果、温度上昇積算値ΣTが上記基準値未満である場合には、現在のピストン12の温度は、許容限度までにはまだ余裕があり、異常燃焼抑制制御をまだ実行しなくても問題ないと判断できる。この場合には、ステップ104に戻り、ステップ104以下の処理を再度実行する。
【0040】
一方、ステップ114で、温度上昇積算値ΣTが上記基準値以上である場合には、現在のピストン12の温度は、許容限度に近づいており、これ以上の温度上昇を防止するために、異常燃焼抑制制御を実行すべきであると判断される。そこで、この場合には、所定の異常燃焼抑制制御を実行する(ステップ116)。
【0041】
ステップ116の異常燃焼抑制制御としては、各種の方法があるが、例えば次のような制御を、単独で、または組み合わせて行うことができる。
(1)燃料インジェクタ20から筒内に燃料を追加して噴射する制御。この制御によれば、異常燃焼が発生した場合であっても、筒内に追加噴射された燃料により異常燃焼による火炎を消火または鎮静化することができるので、筒内圧の異常な上昇を抑制し、ピストン12の温度の上昇を抑制することができる。
(2)圧縮比を低下させる制御。圧縮比を低下させる方法としては、吸気弁14と排気弁16との少なくとも一方の開閉タイミングを変更することにより、実質的圧縮比を低下させることができる。また、内燃機関10に機械的圧縮比を可変とする機構(図示せず)が備えられている場合には、当該機構により機械的圧縮比を低下させてもよい。圧縮比を低下させることにより、異常燃焼の発生を抑制することができる。
(3)点火時期を遅角する制御。点火時期を遅角することにより、筒内温度が低下し、異常燃焼の発生を抑制することができる。
【0042】
以上説明した本実施形態の制御によれば、異常燃焼が発生した場合のピストン12の温度上昇幅Tを精度良く推定(予測)することができる。このため、異常燃焼が連続して発生した場合に、ピストン12の温度が許容限度を超える前に、異常燃焼抑制制御を確実に実行させることにより、ピストン12の温度が許容限度を超えて上昇することを確実に防止し、ピストン12を保護することができる。特に、指定外の低オクタン価燃料が使用された場合や吸気温度が高い場合などの特殊な条件により、異常燃焼時のピストン12の温度上昇が大きくなり易い場合であっても、ピストン12の温度上昇を精度良く推定することができる。このため、そのような特殊な条件下でも、ピストン12の温度が許容限度を超えて上昇することを確実に防止することができる。
【0043】
また、異常燃焼抑制制御は、何れの方法にしても、燃費、エミッション、ドライバビリティ等の何れかに影響を及ぼすので、必要以上に実施することは好ましくない。本実施形態によれば、ピストン12の温度上昇を精度良く推定(予測)し、ピストン12を保護するために必要な場合に限って異常燃焼抑制制御を実行するようにしているので、異常燃焼抑制制御が燃費、エミッション、ドライバビリティ等の何れかに及ぼす影響を最小限に抑制することができる。
【0044】
なお、本実施形態では、異常燃焼時の筒内圧波形の筒内圧振幅ΔPを、筒内圧センサ46により検出された実測データから求めるようにしている(上記ステップ108)が、本発明では、筒内圧センサ46によらず、次のようにして筒内圧振幅ΔPを求めるようにしてもよい。図5は、燃料の種類と、筒内圧振幅ΔPとの関係を定めたマップである。ECU50は、例えばトレースノック点火時期等の情報に基づいて、燃料性状(例えばオクタン価)を判定し、その判定された燃料性状に応じて燃料の種類を判別することができる。異常燃焼時の筒内圧振幅ΔPの範囲は、燃料性状に応じて、一定の範囲をとる。このため、燃料の種類毎に、その燃料が使用された場合の、異常燃焼時の筒内圧振幅ΔPの上限値を調べておくことが可能である。図5のマップは、燃料の種類と、異常燃焼時の筒内圧振幅ΔPの上限値との関係を予め調べて作成されたものであり、ECU50に予め記憶されている。そして、ECU50は、トレースノック点火時期に基づいて判別された燃料の種類を図5のマップと照合することにより、異常燃焼時の筒内圧振幅ΔPの上限値を求めることができる。このようにして算出した筒内圧振幅ΔPの上限値を用いてピストン12の温度上昇を推定することにより、異常燃焼が最も厳しい場合を想定した推定となるので、ピストン12を確実に保護することができる。また、筒内圧センサ46を用いることなく筒内圧振幅ΔPの上限値を算出することができるので、ECU50の計算負荷を低減することができる。なお、トレースノック点火時期に基づいて燃料性状を判定する方法に代えて、燃料性状センサを設け、燃料性状センサによって燃料性状を検出するようにしてもよい。
【0045】
また、本実施形態では、異常燃焼時のなまし最大筒内圧Pmaxを、筒内圧センサ46により検出された実測データから求めるようにしている(上記ステップ106)が、本発明では、筒内圧センサ46によらず、次のようにしてなまし最大筒内圧Pmaxを求めるようにしてもよい。図6は、内燃機関10の運転状態(エンジン回転数およびトルク)と、なまし最大筒内圧Pmaxの上限値との関係を定めたマップである。ECU50は、例えば吸入空気量および燃料噴射量に基づいて、トルクを算出することができる。異常燃焼時のなまし最大筒内圧Pmaxの範囲は、内燃機関10の運転状態(エンジン回転数およびトルク)に応じて、一定の範囲をとる。このため、内燃機関10の運転状態(エンジン回転数およびトルク)と、異常燃焼時のなまし最大筒内圧Pmaxの上限値との関係を予め調べておくことが可能である。図6のマップは、内燃機関10の運転状態(エンジン回転数およびトルク)と、異常燃焼時のなまし最大筒内圧Pmaxの上限値との関係を予め調べて作成されたものであり、ECU50に予め記憶されている。そして、ECU50は、現在のエンジン回転数およびトルクを図6のマップと照合することにより、異常燃焼時のなまし最大筒内圧Pmaxの上限値を求めることができる。このようにして算出したなまし最大筒内圧Pmaxの上限値を用いてピストン12の温度上昇を推定することにより、異常燃焼が最も厳しい場合を想定した推定となるので、ピストン12を確実に保護することができる。また、筒内圧センサ46を用いることなしに、なまし最大筒内圧Pmaxの上限値を算出することができるので、ECU50の計算負荷を低減することができる。
【0046】
本実施形態によれば、異常燃焼発生時に、なまし最大筒内圧Pmaxと筒内圧振幅ΔPとの双方の情報に基づいてピストン12の温度上昇を推定することにより、ピストン12の温度上昇を特に高い精度で推定(予測)することができる。ただし、本発明では、なまし最大筒内圧Pmaxと筒内圧振幅ΔPとの何れか一方の情報に基づいてピストン12の温度上昇を推定してもよく、その場合であっても十分な精度でピストン12の温度上昇の推定が可能である。また、なまし最大筒内圧Pmaxおよび筒内圧振幅ΔP以外の筒内圧情報(例えば、なまし最大筒内圧Pmaxと通常燃焼時の最大筒内圧との偏差)に基づいてピストン12の温度上昇を推定することもできる。
【0047】
上述した実施の形態1においては、筒内圧センサ46が前記第4の発明における「筒内圧検出手段」に、なまし最大筒内圧Pmaxが前記第5および第6の発明における「平滑化筒内圧の最大値」に、筒内圧振幅ΔPが前記第5および第7の発明における「筒内圧波形の振幅」に、それぞれ相当している。また、ECU50が、上記ステップ106,108の処理を実行することにより前記第1の発明における「筒内圧情報取得手段」が、上記ステップ110,112の処理を実行することにより前記第1の発明における「ピストン温度上昇推定手段」が、上記ステップ110の処理を実行することにより前記第2の発明における「温度上昇幅取得手段」が、上記ステップ112の処理を実行することにより前記第2の発明における「積算手段」が、上記ステップ114,116の処理を実行することにより前記第3の発明における「判断手段」が、図6のマップに基づいてなまし最大筒内圧Pmaxの上限値を取得することにより前記第6の発明における「平滑化筒内圧の最大値に関する情報を取得する手段」が、トレースノック点火時期または燃料性状センサの信号に基づいて燃料性状を判定することにより前記第7の発明における「燃料性状判定手段」が、図5のマップに基づいて筒内圧振幅ΔPの上限値を取得することにより前記第7の発明における「筒内圧波形の振幅に関する情報を取得する手段」が、それぞれ実現されている。
【符号の説明】
【0048】
10 内燃機関
12 ピストン
14 吸気弁
16 排気弁
18 点火プラグ
20 燃料インジェクタ
22 吸気通路
24 排気通路
26 ターボチャージャ
30 エアフローメータ
32 インタークーラ
34 スロットル弁
42 排気浄化触媒
46 筒内圧センサ
47 吸気可変動弁装置
48 排気可変動弁装置
50 ECU

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関において異常燃焼が発生した場合に筒内圧に関する情報を取得する筒内圧情報取得手段と、
前記筒内圧情報取得手段により取得された情報に基づいて、前記異常燃焼による前記内燃機関のピストンの温度上昇を推定するピストン温度上昇推定手段と、
を備えることを特徴とする内燃機関の制御装置。
【請求項2】
前記ピストン温度上昇推定手段は、
前記情報に基づいて、前記異常燃焼の1回当たりの前記ピストンの温度上昇幅を取得する温度上昇幅取得手段と、
前記異常燃焼が連続して発生した場合に、前記温度上昇幅取得手段により取得された温度上昇幅を積算する積算手段と、
を含むことを特徴とする請求項1記載の内燃機関の制御装置。
【請求項3】
前記ピストン温度上昇推定手段の推定結果に基づいて、前記異常燃焼の発生を抑制する異常燃焼抑制制御の実行の要否を判断する判断手段を備えることを特徴とする請求項1または2記載の内燃機関の制御装置。
【請求項4】
前記内燃機関の筒内圧を検出する筒内圧検出手段を備え、
前記筒内圧情報取得手段は、前記筒内圧検出手段の出力に基づいて前記情報を取得することを特徴とする請求項1乃至3の何れか1項記載の内燃機関の制御装置。
【請求項5】
前記筒内圧情報取得手段は、前記異常燃焼時の筒内圧波形の振幅に関する情報と、前記異常燃焼時の筒内圧波形を平滑化した平滑化筒内圧の最大値に関する情報との一方または両方を取得することを特徴とする請求項1乃至4の何れか1項記載の内燃機関の制御装置。
【請求項6】
前記筒内圧情報取得手段は、前記内燃機関の運転状態に基づいて、前記異常燃焼時の筒内圧波形を平滑化した平滑化筒内圧の最大値に関する情報を取得する手段を含むことを特徴とする請求項1乃至5の何れか1項記載の内燃機関の制御装置。
【請求項7】
燃料の性状を判定する燃料性状判定手段を備え、
前記筒内圧情報取得手段は、前記燃料性状判定手段により判定された燃料性状に基づいて、前記異常燃焼時の筒内圧波形の振幅に関する情報を取得する手段を含むことを特徴とする手段を含むことを特徴とする請求項1乃至6の何れか1項記載の内燃機関の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−104298(P2013−104298A)
【公開日】平成25年5月30日(2013.5.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−246191(P2011−246191)
【出願日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】