説明

内燃機関の制御装置

【課題】この発明は、プレイグニッションが発生する可能性のある所定の低回転高負荷領域においてプレイグニッションが現実に発生し始める前(もしくは現実に発生するプレイグニッションの頻度が高まる前)に、当該低回転高負荷領域が使用される際のプレイグニッションの発生し易さを判定できるようにすることを目的とする。
【解決手段】プレイグ領域よりも低い中負荷領域もしくはプレイグ領域の使用時において、燃焼速度パラメータの基準頻度分布に対する、燃焼速度が早い側への当該燃焼速度パラメータの頻度分布の偏り度合いが所定レベル以上である場合に、プレイグ領域において内燃機関がプレイグの発生し易い状態にあると判定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、内燃機関の制御装置に係り、特に、火花点火式の内燃機関に用いるうえで好適な内燃機関の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば特許文献1には、内燃機関の燃焼診断方法が開示されている。この従来の燃焼診断方法は、エンジンの着火前の所定クランク角度における筒内圧力の変化の標準偏差を算出し、該標準偏差が標準偏差閾値以上で、かつ基準クランク角度と上死点とにおける筒内圧力の差圧を算出し、該差圧をエンジンによって駆動される被駆動機側の負荷率で除した負荷率筒内差圧が負荷率筒内差圧閾値以上であるときに過早着火(プレイグニッション)が発生していると判定するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−133284号公報
【特許文献2】特開平2−136566号公報
【特許文献3】特開2011−85098号公報
【特許文献4】特開2008−88826号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述した特許文献1に記載の手法は、プレイグニッションの実際の発生に起因する筒内圧力の変化を利用してプレイグニッションを検出するというものであり、プレイグニッションが発生する可能性のある所定の低回転高負荷領域が実際に使用される前に、或いは当該低回転高負荷領域の使用中に、内燃機関が当該低回転高負荷領域においてプレイグニッションが発生し易い状態にあることを、プレイグニッションが現実に発生し始める前に判断できるものではない。
【0005】
この発明は、上述のような課題を解決するためになされたもので、プレイグニッションが発生する可能性のある所定の低回転高負荷領域においてプレイグニッションが現実に発生し始める前(もしくは現実に発生するプレイグニッションの頻度が高まる前)に、当該低回転高負荷領域が使用される際のプレイグニッションの発生し易さを判定できるようにした内燃機関の制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1の発明は、内燃機関の制御装置であって、
内燃機関の燃焼速度と相関のある燃焼速度パラメータを取得するパラメータ取得手段と、
プレイグニッションが発生する可能性のある所定の低回転高負荷領域(以下、「プレイグ領域」と称する)よりも低い負荷領域もしくは前記プレイグ領域の使用時において、前記燃焼速度パラメータの基準頻度分布に対する、燃焼速度が早い側への前記燃焼速度パラメータの頻度分布の偏り度合いに応じて、前記プレイグ領域が使用される際の前記プレイグニッションの発生し易さの程度を判定するプレイグ発生確率予測手段と、
を備えることを特徴とする。
【0007】
また、第2の発明は、第1の発明において、
前記プレイグ発生確率予測手段は、前記基準頻度分布に対する、燃焼速度が早い側への前記燃焼速度パラメータの頻度分布の偏り度合いが所定レベル以上である場合に、前記プレイグ領域において前記内燃機関が前記プレイグニッションの発生し易い状態にあると判定することを特徴とする。
【0008】
また、第3の発明は、第2の発明において、
前記プレイグ発生確率予測手段によって前記プレイグ領域において前記内燃機関が前記プレイグニッションの発生し易い状態にあると判定された場合に、燃焼速度が早い側への前記燃焼速度パラメータの頻度分布の偏り度合いに応じて、前記プレイグ領域の使用制限量を決定する負荷領域制限量決定手段を更に備えることを特徴とする。
【0009】
また、第4の発明は、第2または第3の発明において、
基本点火時期に対する、ノックの発生を抑制するための点火時期の遅角量をノック学習値として学習するノック学習制御手段と、
前記プレイグ発生確率予測手段によって前記プレイグ領域において前記内燃機関が前記プレイグニッションの発生し易い状態にあると判定された場合に、前記ノック学習値の大きさに応じて、前記プレイグ領域の使用制限時間を決定する負荷領域制限時間決定手段と、
を更に備えることを特徴とする。
【0010】
また、第5の発明は、第4の発明において、
前記負荷領域制限時間決定手段は、前記ノック学習値としての点火時期の遅角量が所定値よりも大きい場合には、次に給油が行われる時まで、前記プレイグ領域の使用制限を実行することを特徴とする。
【0011】
また、第6の発明は、第4または第5の発明において、
前記負荷領域制限時間決定手段は、前記ノック学習値としての点火時期の遅角量が所定値以下である場合には、前記プレイグ領域よりも高回転側の所定の高負荷領域を使用する前記内燃機関の運転が所定時間以上行われるまで、前記プレイグ領域の使用制限を実行することを特徴とする。
【0012】
また、第7の発明は、第1乃至第6の発明の何れかにおいて、
前記パラメータ取得手段は、
燃焼ガスの圧力振動に基づいてノックを検出するノックセンサを含み、
前記ノックセンサにより検出される前記ノックの発生時期と点火時期との差分を前記燃焼速度パラメータとして用い、かつ、当該差分が小さいことをもって燃焼速度が早い側に前記燃焼速度パラメータが変化したものとして扱う手段であることを特徴とする。
【0013】
また、第8の発明は、第1乃至第6の発明の何れかにおいて、
前記パラメータ取得手段は、
筒内圧力を検出する筒内圧センサを含み、
前記筒内圧センサにより検出される燃焼時の筒内圧波形に基づいて算出する熱発生の速度を前記燃焼速度パラメータとして用い、かつ、当該熱発生の速度が早いことをもって燃焼速度が早い側に前記燃焼速度パラメータが変化したものとして扱う手段であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
筒内に何らかの着火源が存在することによってポストイグニッションが多発的に発生するようになると、燃焼速度パラメータの頻度分布が燃焼速度が早い側に偏ることとなる。また、ポストイグニッションの発生頻度が高いほど、燃焼速度が早い側に燃焼速度パラメータの頻度分布がより大きく偏ることになる。上記プレイグ領域よりも低い負荷領域においてポストイグニッションが多発的に発生している場合には、その後に高負荷側のプレイグ領域が使用されることになった際に、着火遅れが小さくなることによってプレイグニッションが発生し易いであろうと考えられる。また、上記プレイグ領域においてポストイグニッションが多発的に発生している場合には、そのようなポストイグニッションを発生させる筒内の着火源の存在によってプレイグニッションも発生し易い状況にあると考えられる。このため、第1の発明によれば、これらのプレイグ領域などの使用時において、基準頻度分布に対する、燃焼速度が早い側への燃焼速度パラメータの頻度分布の偏り度合いに応じて、ポストイグニッションの発生頻度を判断することによって、プレイグ領域が使用される際のプレイグニッションの発生し易さの程度を良好に判定することが可能となる。
【0015】
基準頻度分布に対する、燃焼速度が早い側への燃焼速度パラメータの頻度分布の偏り度合いが所定レベル以上である場合には、ポストイグニッションが多発的に発生している状況にあるといえる。このため、第2の発明によれば、燃焼速度が早い側への燃焼速度パラメータの頻度分布の偏り度合いが所定レベル以上である場合に、プレイグ領域において内燃機関が前記プレイグニッションの発生し易い状態にあることを良好に判定できるようになる。
【0016】
第3の発明によれば、プレイグニッションの発生確率が高まっていることを事前に判別したうえで、使用する運転領域の必要最小限の制限によってプレイグニッションの発生を予防できるようになる。
【0017】
第4の発明によれば、点火時期の遅角の要因を判別し、その要因に応じてプレイグ領域の使用制限時間を適切に設定できるようになる。
【0018】
ノック学習値としての点火時期の遅角量が大きい場合には、点火時期の遅角の要因が燃料性状による影響であると判断することができる。第5の発明によれば、このような場合にプレイグ領域の使用制限を行う期間を次の給油時までとすることにより、適切な期間での使用制限を行えるようになる。
【0019】
ノック学習値としての点火時期の遅角量がそれほど大きくない場合であれば、点火時期の遅角の要因は筒内へのデポジットの蓄積によるものであると判断することができる。筒内に堆積したデポジットは、高回転高負荷領域を使用した走行を行うことにより、燃焼による除去が促進される。第6の発明によれば、このような場合にプレイグ領域の使用制限を行う期間を、上記高負荷領域を使用する内燃機関の運転が所定時間以上行われるまでとすることにより、適切な期間での使用制限を行えるようになる。
【0020】
第7の発明によれば、ノックセンサにより検出されるノックの発生時期と点火時期との差分を利用して、燃焼速度のばらつきを良好に把握できるようになる。
【0021】
第8の発明によれば、筒内圧センサにより検出される燃焼時の筒内圧波形に基づいて算出する熱発生の速度を利用して、燃焼速度のばらつきを良好に把握できるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の実施の形態1における内燃機関のシステム構成を説明するための図である。
【図2】通常燃焼時とプレイグ発生時とで、着火時期とエンジン負荷との関係を比較して表した概念図である。
【図3】通常時とポスイグ多発時とで、燃焼速度パラメータの頻度分布を表した図である。
【図4】本発明の実施の形態1において実行されるルーチンのフローチャートである。
【図5】本発明の実施の形態1において実行されるルーチンのフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
実施の形態1.
[実施の形態1のシステム構成]
図1は、本発明の実施の形態1における内燃機関10のシステム構成を説明するための図である。図1に示すシステムは、火花点火式の内燃機関(一例としてガソリンエンジン)10を備えている。内燃機関10の筒内には、ピストン12が設けられている。筒内におけるピストン12の頂部側には、燃焼室14が形成されている。燃焼室14には、吸気通路16および排気通路18が連通している。
【0024】
吸気通路16の入口近傍には、吸気通路16に吸入される空気の流量に応じた信号を出力するエアフローメータ20が設けられている。エアフローメータ20よりも下流側の吸気通路16には、ターボ過給機22のコンプレッサ22aが配置されている。更に、コンプレッサ22aよりも下流側の吸気通路16には、電子制御式のスロットルバルブ24が設けられている。
【0025】
内燃機関10の各気筒には、燃焼室14内(筒内)に直接燃料を噴射するための燃料噴射弁26、および、混合気に点火するための点火プラグ28がそれぞれ設けられている。更に、排気通路18には、ターボ過給機22のタービン22bが配置されている。
【0026】
また、図1に示すシステムは、ECU(Electronic Control Unit)30を備えている。ECU30の入力部には、上述したエアフローメータ20に加え、クランク角度やエンジン回転数を検出するためのクランク角センサ32、燃焼ガスの圧力振動に基づいてノックを検出するためのノックセンサ34、および、筒内圧力を検出するための筒内圧センサ36等の内燃機関10の運転状態を検出するための各種センサが接続されている。更に、ECU30の入力部には、燃料タンク(図示省略)内の燃料の液面高さを検出するための液面レベルセンサ38が電気的に接続されている。また、ECU30の出力部には、上述したスロットルバルブ24、燃料噴射弁26および点火プラグ28等の内燃機関10の運転を制御するための各種のアクチュエータが接続されている。ECU30は、それらのセンサ出力に基づいて、所定のプログラムに従って上記各種のアクチュエータを駆動することにより、内燃機関10の運転状態を制御するものである。
【0027】
[実施の形態1の制御]
内燃機関10では、運転中にノックの発生を抑制するために、以下のような点火時期についてのノック学習制御が実行されている。ECU30のメモリーには、内燃機関10の運転状態(例えば、負荷率KLとエンジン回転数とで規定)に応じて基本点火時期を定めた基本点火時期マップが記憶されている。ノック学習制御は、ノックセンサ34の出力信号に基づいてノックが検出された際に、点火時期を基本点火時期から遅角させることにより、ノックの発生を抑制するというものである。尚、ノックセンサ34によってノックが検出されない場合には、点火時期を徐々に進角させて点火時期を最適化する点火時期制御が行われる。このようなノック学習制御においては、点火時期の遅角制御を実行する毎に点火時期の遅角量を「ノック学習値」として学習している。尚、この遅角量は、ノックが検出されるときには点火時期が遅角されるように学習され、また、ノックが検出されないときには点火時期が徐々に進角されるように学習される量である。
【0028】
火花点火式の内燃機関にて発生する異常燃焼としては、ノック以外に、プレイグニッション(以下、「プレイグ」と略する)やポストイグニッション(以下、「ポスイグ」と略する)が知られている。より具体的には、ノックは、点火プラグによる火花点火後に燃焼室内を伝播していく火炎が到達する前に、点火プラグから遠い場所にある未燃混合気が圧縮され、高温になって自己着火する現象である。プレイグは、高温の点火プラグや筒内のデポジットなどを着火源として、点火プラグによる火花点火の前に混合気が自己着火する現象であり、ポスイグは、上記のような高温の着火源の存在によって、点火プラグによる火花点火の後に混合気が自己着火する現象のことである。
【0029】
プレイグが発生する可能性のある運転領域は、全負荷トルクライン近傍の所定の低回転高負荷領域(以下、単に「プレイグ領域」と称する)である。従来から知られているプレイグの抑制制御は、実際にプレイグの発生を検出した後に、プレイグの連発を防止するための対策(フューエルカットなど)を行うというものである。しかしながら、このような従来の手法は、上記プレイグ領域においてプレイグが現実に発生し始める前に、当該プレイグ領域において内燃機関がプレイグの発生し易い状態にあるか否かを判定できるものではない。このため、実際に上記プレイグ領域において内燃機関がプレイグの発生し易い状態であった場合には、プレイグの連発を防止するための制御が頻繁に実行されることにより、内燃機関のドライバビリティの悪化や排気エミッションの悪化等を招くこととなる。また、プレイグは大きな音を伴って発生するため、官能性能も悪化してしまう。
【0030】
そこで、本実施形態では、プレイグ領域が使用されていない状況下(例えば、プレイグ領域よりも低い中負荷領域の使用時)、或いは、プレイグ領域の使用中において、以下に示すような手法によって、プレイグ領域において内燃機関10がプレイグの発生し易い状態になっているか(プレイグの発生確率が高まっているか)否かを判定するようにした。そのうえで、内燃機関10が上記状態にあると判断した場合には、プレイグの発生を回避(予防)するためにプレイグ領域の使用を制限するようにした。
【0031】
図2は、通常燃焼時とプレイグ発生時とで、着火時期とエンジン負荷との関係を比較して表した概念図である。
プレイグ領域においてプレイグが発生し易くなる要因としては、例えば、筒内のデポジット堆積量が多い状況や、RON(リサーチ法オクタン価)の低い燃料が使用されている状況が考えられる。このようにプレイグが発生し易くなる状況において実際にプレイグが発生する場合には、図2に示すように、エンジン負荷が高くなるにつれ、通常燃焼時に対して着火時期のより早いプレイグが発生し易くなる。より具体的には、図2中に「プレイグ」と付した実線は、各エンジン負荷において発生し得るプレイグのうちで最も着火時期の早いプレイグのラインを表している。
【0032】
一方に、エンジン負荷が低くなるにつれ、混合気の着火遅れが大きくなる。このため、内燃機関がプレイグの発生し易い状態にあった場合において、エンジン負荷が低い時には、異常着火の発生前に通常燃焼が行われることになるため、この時の異常着火は、図2中に破線で表したようにプレイグにはならずにポスイグとなる。つまり、プレイグの発生し易い状況下において、低負荷側の運転領域では、図2中に破線で示すようにプレイグは発生しないが、着火源がないわけではなく、着火遅れが大きいためにプレイグになっていないだけであり、上記着火源の存在によってポスイグが発生していると考えられる。
【0033】
そこで、本実施形態では、プレイグ領域よりも低負荷側の所定の中負荷領域、およびプレイグ領域の使用中において、燃焼速度のばらつきを把握し、当該燃焼速度のばらつきから多発的なポスイグの発生を推定するようにした。具体的には、以下の図3を参照して説明する手法によって、所定の燃焼速度パラメータの頻度分布(後述の基準頻度分布)に対する、燃焼速度が早い側への燃焼速度パラメータの頻度分布の偏り度合いが所定レベル以上である場合に、多発的なポスイグが起きており、その結果として、プレイグ領域において内燃機関10がプレイグの発生し易い状態にあると判定するようにした。
【0034】
図3は、通常時とポスイグ多発時とで、燃焼速度パラメータの頻度分布を表した図である。
本実施形態では、ノックセンサ34により検出されるノックの発生時期と点火時期との差分Xを、燃焼速度と相関のある燃焼速度パラメータとして用いるようにしている。この差分Xは、ノックの発生時期が早まると小さくなる。このため、ここでは、当該差分Xが小さくなることをもって燃焼速度が早い側に燃焼速度パラメータが変化したものとして扱うようにしている。
【0035】
図3中に示す「通常時の分布」は、内燃機関10がプレイグの発生し易い状態になっていない状況下(より具体的には、例えば、内燃機関10が筒内にデポジットの堆積されていない新品状態にあって、予定された適切なRONの燃料が使用されている状況下)において、ノックが発生する際の差分Xの頻度分布である。以下、この場合の頻度分布を、「基準頻度分布」と称する。
【0036】
筒内に何らかの着火源が存在することによってポスイグが発生すると、正規の火花点火による燃焼以外にも当該着火源の存在によって他の場所で燃焼が生ずる。従って、通常時に対して燃焼速度が早くなり、また、ポスイグの発生によって誘発されてノックが発生する場合のノックの発生時期が早くなる。このため、ポスイグが多発的に発生する状況下では、差分Xの頻度分布は、図3中に破線で示すように、基準頻度分布に対し、差分Xが小さい側(すなわち、燃焼速度が早い側)に偏ったものとなる。
【0037】
従って、差分Xの頻度分布が基準頻度分布に対して当該差分Xの小さい側に偏っている場合には、何らかの原因によってポスイグが発生していると推定することができる。そこで、本実施形態では、基準頻度分布に対する、差分Xの小さい側(燃焼速度が早い側)への差分Xの頻度分布の偏り度合いが所定レベル以上である場合に、ポスイグが多発的に発生していると判断し、その結果として、プレイグ領域において内燃機関10がプレイグの発生し易い状態にあると判定するようにした。
【0038】
そして、本実施形態では、上記のようにプレイグ領域において内燃機関10がプレイグの発生し易い状態にあると判定された場合には、差分Xの頻度分布の偏り度合いに応じて、プレイグ領域の使用制限量を決定するという態様で、プレイグ領域の使用制限を行うようにした。
【0039】
更に、本実施形態では、ノック学習値の大きさに応じて、プレイグ領域の使用制限を行う時間を決定するようにした。より具体的には、ノック学習値としての点火時期の遅角量が所定値よりも大きい場合には、次に給油が行われる時まで、プレイグ領域の使用制限を実行するようにし、一方、ノック学習値としての点火時期の遅角量が上記所定値以下である場合には、高回転高負荷側の運転領域(プレイグ領域よりも高回転側の領域)を使用した内燃機関10の運転が所定時間以上(積算で)行われるまで、プレイグ領域の使用制限を実行するようにした。
【0040】
図4は、プレイグの発生し易さを予測して事前にプレイグの発生を回避する制御を実現するために、ECU30が実行する制御ルーチンを示すフローチャートである。尚、本ルーチンは、所定の制御周期毎に繰り返し実行されるものとする。
【0041】
図4に示すルーチンでは、先ず、内燃機関10の現在の運転領域(エンジン負荷とエンジン回転数とで規定)が、異常燃焼領域(すなわち、上記プレイグ領域)および当該異常燃焼領域よりも少し負荷の軽い所定の中負荷領域の何れか一方であるか否かが判定される(ステップ100)。尚、内燃機関10の現在の運転領域は、クランク角センサ32の出力を利用して算出されるエンジン回転数と、エアフローメータ20により検出される吸入空気量および上記エンジン回転数に基づいて算出される負荷率(エンジン負荷を示す指標)とに基づいて把握することができる。
【0042】
次に、燃焼速度パラメータ(本実施形態では、上記差分X)の頻度分布の計算が実行される(ステップ102)。具体的には、差分Xの頻度分布は、上記ステップ100における異常燃焼領域(プレイグ領域)および中負荷領域の中の所定の負荷領域毎に分けて差分Xのデータが集められたうえで、個々の負荷領域毎に作成されるようになっている。本ステップ102では、今回の(現在の運転領域における)差分Xが算出されたうえで、現在の運転領域が属する負荷領域についての最新の差分Xの頻度分布が算出されることになる。尚、差分Xを算出するためのノック発生時期は、ノックセンサ34とクランク角センサ32とを利用して、例えば、ノックセンサ34の出力がピーク値を示すクランク角度位置を求めることによって取得することができる。また、ノックセンサ34によってノックが検出されない場合には、本ステップ102における差分Xの頻度分布の算出(更新)は行われない。
【0043】
次に、上記ステップ102において算出された差分Xの頻度分布が基準頻度分布に対して燃焼速度の早い側(差分Xの小さい側)に所定レベル以上偏っているか否かが判定される(ステップ104)。ECU30には、図3に示すような基準頻度分布が、個別に差分Xの頻度分布の算出を行う各負荷領域における基準値として予め設定されたうえで記憶されている。本ステップ104の処理は、具体的には、例えば、次のようにして実行される。すなわち、基準頻度分布の平均値と、上記ステップ102において算出された差分Xの頻度分布の平均値との差が算出される。そして、この差が所定の閾値以上であるか否かの判断を行うことによって、今回の判断対象の頻度分布が燃焼速度の早い側に所定レベル以上偏っているか否かが判定される。尚、上記の頻度分布の平均値の差を用いた判定に代え、例えば、算出された差分Xの頻度分布と基準頻度分布の両者の形状の相関性を評価するような手法を用いてもよい。
【0044】
上記ステップ104において、差分Xの頻度分布が基準頻度分布に対して燃焼速度の早い側(差分Xの小さい側)に所定レベル以上偏っていると判定された場合には、ポスイグが多発的に発生している状況であり、プレイグ領域において内燃機関10がプレイグの発生し易い状態になっていると判定される(ステップ106)。
【0045】
次に、燃焼速度が早い側への差分Xの頻度分布の偏り度合いに応じて、プレイグ領域の使用制限量が決定される(ステップ108)。燃焼速度が早い側への差分Xの頻度分布の偏り度合いは、基準頻度分布の平均値と差分Xの頻度分布の平均値との差(上記ステップ104にて算出)が大きいほど大きいと判断することができる。本ステップ106では、この偏り度合いが大きいほど、プレイグ領域内のより高い負荷領域まで使用が制限されるように、プレイグ領域内の負荷の使用制限量が決定される。
【0046】
次に、上記ステップ108において決定された負荷の使用制限量に基づいて、内燃機関10が使用する負荷の制限が実行される(ステップ110)。本ステップ110における負荷制限は、例えば、スロットルバルブ24の開度調整によって吸入空気量を制限することによって実行することができる。
【0047】
図5は、プレイグ回避のための負荷制限の実行時間を制御するために、ECU30が実行する制御ルーチンを示すフローチャートである。尚、本ルーチンは、上記図4に示すルーチンのステップ110の処理が実行された際に起動され、負荷制限が解除されるまで、所定の制御周期毎に繰り返し実行されるものとする。
【0048】
図5に示すルーチンでは、先ず、ノック学習値としての点火時期の遅角量(KCS(ノックコントロールシステム)遅角量)が所定値よりも大きいか否かが判定される(ステップ200)。このKCS遅角量は、ノックが発生し易い状況下で大きくなる。
【0049】
上記ステップ200において、KCS遅角量が上記所定値よりも大きいと判定された場合には、上記ステップ110における負荷制限の実施後に、燃料の給油が実行されたか否かが判定される(ステップ202)。燃料が給油されたか否かは、例えば、液面レベルセンサ38を用いて、燃料タンク内の燃料量の変化を検知することによって判断することができる。
【0050】
上記ステップ202において、燃料の給油が未だ実行されていないと判定される間は、上記ステップ110における負荷制限が続行される(ステップ204)。一方、上記ステップ202において、負荷制限の実施後に燃料の給油が実行されたと判定された場合には、上記ステップ110における内燃機関10の負荷制限が解除される(ステップ206)。
【0051】
一方、上記ステップ200において、KCS遅角量が上記所定値以下であると判定された場合には、上記ステップ110における負荷制限の実施後に、プレイグ領域よりも高回転側の所定の高回転高負荷領域を使用する内燃機関10の運転が所定の積算時間以上行われたか否かが判定される(ステップ208)。その結果、本ステップ208の判定が未だ不成立である間は、上記ステップ110における負荷制限が続行される(ステップ204)。一方、本ステップ208の判定が成立した場合には、上記ステップ110における内燃機関10の負荷制限が解除される(ステップ206)。
【0052】
先に説明した図4に示すルーチンによれば、異常燃焼領域(プレイグ領域)および当該異常燃焼領域よりも少し負荷の軽い所定の中負荷領域の使用中に、基準頻度分布に対して差分Xの頻度分布が燃焼速度の早い側に所定レベル以上偏っていると判定された場合には、多発的なポスイグが発生していると判断され、その結果として、プレイグ領域において内燃機関10がプレイグの発生し易い状態になっていると判定される。より具体的には、上記中負荷領域の使用中(すなわち、プレイグ領域が使用されていない状況下)においてポスイグが多発的に起きていると判断した場合には、その後に高負荷側のプレイグ領域が使用されることになった際に着火遅れが小さくなることによってプレイグが発生し易いであろうと判断することができる。また、上記プレイグ領域の使用中においてポスイグが多発的に起きていると判断した場合には、そのようなポスイグを発生させる筒内の着火源の存在によってプレイグも発生し易い状況にあると判断することができる。
【0053】
そして、上記図4に示すルーチンによれば、プレイグ領域において内燃機関10がプレイグの発生し易い状態になっていると判定された場合には、プレイグを回避するために内燃機関10が使用する負荷領域が制限される。このような制御によれば、プレイグの発生確率が高まっていることを事前に判別し、プレイグの発生を予防できるようになる。また、差分Xの頻度分布の偏り度合いに応じて負荷制限量を決定することにより、使用する運転領域の必要最小限の制限によって、このようなプレイグの発生の予防を実現できるようになる。
【0054】
また、後で説明した図5に示すルーチンによれば、ノック学習値としての点火時期のKCS遅角量が所定値よりも大きい場合には、負荷制限の実施後に給油が行われる時まで、負荷制限が実行されることになる。KCS遅角量が大きい場合、すなわち、ノックが発生し易いために点火時期が基本点火時期に対して大きく遅角する必要のある場合には、燃料性状による影響(例えば、低RONの燃料の使用による影響)であると判断することができる。このため、この場合には、負荷制限の実行時間を次の給油時までとすることにより、適切な期間での負荷制限を行えるようになる。
【0055】
また、上記図5に示すルーチンによれば、ノック学習値としての点火時期のKCS遅角量が所定値以下である場合には、プレイグ領域よりも高回転側の高負荷領域が積算で所定時間以上行われるまで、負荷制限が実行される。KCS遅角量がそれほど大きくない場合であれば、点火時期の遅角の要因は筒内へのデポジットの蓄積によるものであると判断することができる。筒内に堆積したデポジットは、高回転高負荷領域を使用した走行を行うことにより、燃焼による除去が促進される。このため、このような手法によれば、KCS遅角量が所定値以下である場合の負荷制限の実行時間を、適切に設定することが可能となる。
【0056】
ところで、上述した実施の形態1においては、ノックセンサ34により検出されるノックの発生時期と点火時期との差分Xを燃焼速度と相関のある燃焼速度パラメータとして用いた例について説明を行った。しかしながら、本発明における燃焼速度パラメータは、上記のものに限定されるものではなく、例えば、内燃機関10のように筒内圧センサ36を備えている場合には、燃焼時の筒内圧波形に基づいて得られる熱発生の速度を示す値であってもよい。より具体的には、そのような熱発生の速度を示す値としては、例えば、燃焼質量割合(MFB)が所定値(例えば、50%)となる時のクランク角度位置を用いることができる。燃焼質量割合は、筒内に供給された燃料の質量に対する燃焼した燃料の質量の比率を表す指標値であって、筒内圧センサ36とクランク角センサ32を併用することにより、燃焼時の筒内圧力波形に基づいて公知の関係式に従って所定クランク角度毎に算出することができる値である。このようにして算出される上記クランク角度位置が進角側の値である場合には、燃焼速度が早いと判断することができる。従って、このようにして算出される上記クランク角度位置の頻度分布を用いて、上述した差分Xの頻度分布の場合と同様の判定を行うようにしてもよい。
【0057】
また、上述した実施の形態1においては、異常燃焼領域(プレイグ領域)などの使用中に、基準頻度分布に対して差分X(燃焼速度パラメータ)の頻度分布が燃焼速度の早い側に所定レベル以上偏っていると判定された場合に、プレイグ領域において内燃機関10がプレイグの発生し易い状態にあると判定する例について説明を行った。しかしながら、本発明は、上記の手法に限定されるものではない。すなわち、本発明は、基準頻度分布に対する、燃焼速度が早い側への燃焼速度パラメータの頻度分布の偏り度合いに応じて、プレイグ領域が使用される際のプレイグの発生し易さの程度を判定するものであればよく、例えば、上記偏り度合いが高いほど、プレイグ領域が使用される際にプレイグがより発生し易い状態にあると判定するものであってもよい。
【0058】
尚、上述した実施の形態1においては、ECU30が、上記ステップ102の処理を実行することにより前記第1の発明における「パラメータ取得手段」が、上記ステップ100〜106の一連の処理を実行することにより前記第1の発明における「プレイグ発生確率予測手段」が、それぞれ実現されている。
また、上述した実施の形態1においては、ECU30が上記ステップ108の処理を実行することにより前記第3の発明における「負荷領域制限量決定手段」が実現されている。
また、上述した実施の形態1においては、ECU30が、ノックセンサ34を利用して上記ノック学習制御を実行することにより前記第4の発明における「ノック学習制御手段」が、上記ステップ200〜206の一連の処理を実行することにより前記第4の発明における「負荷領域制限時間決定手段」が、それぞれ実現されている。
【符号の説明】
【0059】
10 内燃機関
12 ピストン
14 燃焼室
16 吸気通路
18 排気通路
20 エアフローメータ
22 ターボ過給機
24 スロットルバルブ
26 燃料噴射弁
28 点火プラグ
30 ECU(Electronic Control Unit)
32 クランク角センサ
34 ノックセンサ
36 筒内圧センサ
38 液面レベルセンサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関の燃焼速度と相関のある燃焼速度パラメータを取得するパラメータ取得手段と、
プレイグニッションが発生する可能性のある所定の低回転高負荷領域(以下、「プレイグ領域」と称する)よりも低い負荷領域もしくは前記プレイグ領域の使用時において、前記燃焼速度パラメータの基準頻度分布に対する、燃焼速度が早い側への前記燃焼速度パラメータの頻度分布の偏り度合いに応じて、前記プレイグ領域が使用される際の前記プレイグニッションの発生し易さの程度を判定するプレイグ発生確率予測手段と、
を備えることを特徴とする内燃機関の制御装置。
【請求項2】
前記プレイグ発生確率予測手段は、前記基準頻度分布に対する、燃焼速度が早い側への前記燃焼速度パラメータの頻度分布の偏り度合いが所定レベル以上である場合に、前記プレイグ領域において前記内燃機関が前記プレイグニッションの発生し易い状態にあると判定することを特徴とする請求項1記載の内燃機関の制御装置。
【請求項3】
前記プレイグ発生確率予測手段によって前記プレイグ領域において前記内燃機関が前記プレイグニッションの発生し易い状態にあると判定された場合に、燃焼速度が早い側への前記燃焼速度パラメータの頻度分布の偏り度合いに応じて、前記プレイグ領域の使用制限量を決定する負荷領域制限量決定手段を更に備えることを特徴とする請求項2記載の内燃機関の制御装置。
【請求項4】
基本点火時期に対する、ノックの発生を抑制するための点火時期の遅角量をノック学習値として学習するノック学習制御手段と、
前記プレイグ発生確率予測手段によって前記プレイグ領域において前記内燃機関が前記プレイグニッションの発生し易い状態にあると判定された場合に、前記ノック学習値の大きさに応じて、前記プレイグ領域の使用制限時間を決定する負荷領域制限時間決定手段と、
を更に備えることを特徴とする請求項2または3記載の内燃機関の制御装置。
【請求項5】
前記負荷領域制限時間決定手段は、前記ノック学習値としての点火時期の遅角量が所定値よりも大きい場合には、次に給油が行われる時まで、前記プレイグ領域の使用制限を実行することを特徴とする請求項4記載の内燃機関の制御装置。
【請求項6】
前記負荷領域制限時間決定手段は、前記ノック学習値としての点火時期の遅角量が所定値以下である場合には、前記プレイグ領域よりも高回転側の所定の高負荷領域を使用する前記内燃機関の運転が所定時間以上行われるまで、前記プレイグ領域の使用制限を実行することを特徴とする請求項4または5記載の内燃機関の制御装置。
【請求項7】
前記パラメータ取得手段は、
燃焼ガスの圧力振動に基づいてノックを検出するノックセンサを含み、
前記ノックセンサにより検出される前記ノックの発生時期と点火時期との差分を前記燃焼速度パラメータとして用い、かつ、当該差分が小さいことをもって燃焼速度が早い側に前記燃焼速度パラメータが変化したものとして扱う手段であることを特徴とする請求項1乃至6の何れか1項記載の内燃機関の制御装置。
【請求項8】
前記パラメータ取得手段は、
筒内圧力を検出する筒内圧センサを含み、
前記筒内圧センサにより検出される燃焼時の筒内圧波形に基づいて算出する熱発生の速度を前記燃焼速度パラメータとして用い、かつ、当該熱発生の速度が早いことをもって燃焼速度が早い側に前記燃焼速度パラメータが変化したものとして扱う手段であることを特徴とする請求項1乃至6の何れか1項記載の内燃機関の制御装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2013−104323(P2013−104323A)
【公開日】平成25年5月30日(2013.5.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−247233(P2011−247233)
【出願日】平成23年11月11日(2011.11.11)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】