説明

内燃機関の吸入空気量補正方法

【課題】エアフロメータの検出誤差を時系列で補正することにより、吸入空気量の測定精度を向上させる。
【解決手段】内燃機関が吸入空気量を測定する薄膜式のエアフロメータを備えてなり、エアフロメータが出力する出力信号に基づいて吸入空気量を測定するものであって、エアフロメータの出力信号に基づいて吸入空気量の脈動率を算出し、脈動率が増加することで生じる吸入空気量の測定誤差の、脈動が生じていない吸入空気の吸入空気量をエアフロメータが出力する無脈動出力信号に基づいて測定した基準吸入空気量に対する割合である誤差率を設定し、算出された脈動率と設定された誤差率とに基づいて測定した吸入空気量を補正する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薄膜式のエアフロメータを備える内燃機関における吸入空気量補正方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば自動車に搭載される内燃機関では、吸入空気量を測定するのにエアフロメータを用いている。近年において多用されるエアフロメータとして、熱式のものが知られている。熱式のエアフロメータは、吸気通路内を流れる吸入空気が当たる位置に、発熱抵抗体と温度補償抵抗体とを組み合わせたブリッジ回路を配置し、吸入空気によって発熱抵抗体の温度が奪われることでその抵抗値が変化し、ブリッジ回路に電流が流れることで吸入空気量の測定を行うものである。
【0003】
このようなエアフロメータにあっては、内燃機関の燃焼室に向かって流れる吸入空気以外に、機関の外部、言い換えればエアクリーナの方向に向かって流れる吸入空気により生じる吸気脈動により、出力が実際の吸入空気量より大きくなる傾向にある。このような不具合を解消するために、例えば特許文献1のものでは、スロットル弁の開度、機関回転数、スワールコントロール弁の開度、及びカム角に基づいて、エアフロメータの検出誤差を補償するための係数を設定し、エアフロメータの出力に係数を乗じて同出力を補正するように構成している。
【0004】
ところで、最近の内燃機関では、排気ガスの一部を吸入空気に混入させる排気ガス再循環制御(以下、EGR制御と称する)を実施しているが、上記の構成において、EGR制御を実施するあるいは加速を行う場合は、脈動の状態が、定常運転状態やEGR制御を実施していない場合とは変化する。このため、上述のように、スルットル弁の開度や機関回転数などにより設定した係数でエアフロメータの出力を補正しても、補正に過不足を生じ、吸入空気量の測定精度が低下するものとなった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004‐19450号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで本発明は以上の点に着目し、エアフロメータの測定誤差を時系列で補正することにより吸入空気量の測定精度を向上させることを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
すなわち、本発明の内燃機関の吸入空気量補正方法は、内燃機関が吸入空気量を測定するための薄膜式のエアフロメータを備えてなり、エアフロメータが出力する出力信号に基づいて吸入空気量を測定するものであって、エアフロメータの出力信号に基づいて吸入空気量の脈動率を算出し、脈動率が増加することで生じる吸入空気量の測定誤差の、脈動が生じていない吸入空気の吸入空気量をエアフロメータが出力する無脈動出力信号に基づいて測定した基準吸入空気量に対する割合である誤差率を設定し、算出された脈動率と設定された誤差率とに基づいて測定した吸入空気量を補正することを特徴とする。
【0008】
このような構成によれば、薄膜式のエアフロメータを用いることで、逆流空気量も検知することが可能で、逆流空気等を含めて内燃機関の運転中に発生する吸入空気量の脈動に応じて生じる測定誤差に、それらの要因を含めて誤差率を設定することが可能になる。しかも、脈動率の変動によるエアフロメータの測定誤差を、脈流率と誤差率とによる時系列を加味した補正量で補正することが可能であるため、例えばEGR制御を実行している場合や過渡時であっても、吸入空気量の測定精度を向上させることが可能になる。
【発明の効果】
【0009】
本発明は、以上説明したような構成であり、吸入空気量が脈動した場合の測定誤差の誤差率を加味することにより、吸入空気の脈動率の変化に追従して、吸入空気量を正確に測定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の実施形態における一気筒の断面を示してエンジンの全体構成を概略的に示す構成図。
【図2】同実施形態における制御手順を示すフローチャート。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の一実施形態を、図面を参照して説明する。
【0012】
図1に1気筒の構成を概略的に示した多気筒例えば2気筒のエンジン100は、例えば自動車に搭載されるものである。このエンジン100は、吸気系1、及び排気系2を備えている。吸気系1には、図示しないアクセルペダルに応じて開閉するスロットル弁3が設けてあり、そのスロットル弁3の上流には吸入空気量を測定するためのエアフロメータ22が、またその下流には、サージタンク4を一体に有する吸気マニホルド5が取り付けてある。エアフロメータ22は、吸気系1において逆流する空気をも測定できる薄膜式のものである。
【0013】
シリンダ6上部に形成される燃焼室7の天井部には、点火プラグ8が取り付けてある。吸気マニホルド5の吸気ポート側端部9には、燃料噴射弁10が取り付けてある。この燃料噴射弁10は、後述する電子制御装置11により制御される。さらに、サージタンク4と、O2センサ12、三元触媒13及び排気マニホルド14を備える排気系2との間には、排気ガス再循環装置(以下、EGR装置と称する)15が接続される。
【0014】
EGR装置15は、サージタンク4に連通するように一方の端部が接続され、かつ他方の端部が三元触媒13の下流において排気マニホルド14に接続される排気ガス還流管路(以下、EGR管路と称する)16と、そのEGR管路16に設けられてEGR管路16を通過する排気ガスの流量を制御する排気ガス還流制御弁(以下、EGR弁と称する)17とを備えて構成される。還流される排気ガス(以下、EGRガスと称する)の流量は、EGR弁17の開度に依存するもので、EGR弁17の開度の制御は、電子制御装置11により行われる。
【0015】
電子制御装置11は、マイクロコンピュータ18と、メモリ19と、入力インターフェース20と、出力インターフェース21とを備えて構成されている。マイクロコンピュータ18は、メモリ19に格納された、以下に説明する種々のプログラムを実行して、エンジン100の運転を制御するものである。マイクロコンピュータ18には、エンジン100の運転制御に必要な情報が入力インターフェース20を介して入力されるとともに、マイクロコンピュータ18は、燃料制御弁10、EGR弁17、点火プラグ8などに対して制御信号を、出力インターフェース21を介して出力する。
【0016】
具体的には、入力インターフェース20には、吸気マニホルド5に流入する空気流量を測定するためのエアフロメータ22から出力される空気流量信号a、エンジン回転数を検出するための回転数センサ23から出力される回転数信号b、車速を検出するための車速センサ24から出力される車速信号c、スロットルバルブ3の開閉状態を検出するためのアイドルスイッチ25から出力されるLL信号e、エンジン100の冷却水温度を検出するための水温センサ26から出力される水温信号f、O2センサ12から出力される電圧信号hなどが入力される。一方、出力インターフェース21からは、点火プラグ8に対して点火信号m、燃料制御弁10に対して燃料噴射信号n、EGR弁17に対して開閉信号oなどが出力される。
【0017】
このような構成において、電子制御装置11は、エアフロメータ22から出力される空気流量信号aと回転数センサ23から出力される回転数信号bとを主な情報として、運転状態に応じて設定される係数を用いて燃料噴射量を演算し、燃料噴射量に対応する燃料噴射時間つまり燃料噴射弁10に対する通電時間を決定し、その決定された通電時間により燃料噴射弁10を制御して、燃料を吸気系1に噴射させる。このような燃料噴射制御自体は、この分野で知られているものを適用するものであってよい。
【0018】
また、エンジン100の運転状態に応じて、EGR弁17の開度を制御してEGR制御を実施するEGR制御プログラムが電子制御装置11に格納してある。このEGR制御プログラムは、この分野で広く知られているものであってよい。
【0019】
さらに、電子制御装置11には、吸入空気量補正制御プログラムが格納してある。この吸入空気量補正制御プログラムは、所定時間毎に実行されるもので、エアフロメータ22の出力信号である空気流量信号aに基づいて吸入空気量の脈動率Gを算出し、脈動率Gが増加することで生じる吸入空気量の測定誤差の、脈動が生じていない吸入空気の吸入空気量をエアフロメータ22が出力する無脈動出力信号に基づいて測定した基準吸入空気量に対する割合である誤差率を設定し、算出された脈動率と設定された誤差率とに基づいて測定した吸入空気量を補正するようにプログラムしてある。この吸入空気量補正プログラムを、図2を交えて説明する。
【0020】
まず、ステップS1において、エアフロメータ22から出力される空気流量信号aに基づいて、吸入空気量を測定する。吸入空気量は、この吸入空気量補正プログラムを実行する時点におけるエアフロメータ22が出力する空気流量信号aをA/D変換し、得られたデジタル信号でマップを参照することによってその時点の吸入空気量を測定する。
【0021】
次に、ステップS2において、クランク1周期における空気流量信号aの振幅の最大値Gmax及び最小値Gminを測定する。測定した最大値Gmax及び最小値Gminは、次に説明する空気流量信号aの振幅の平均値Gave及び吸入空気量の脈動率Gを演算するために、一次的に記憶する。
【0022】
ステップS3において、今回、ステップS2において測定した最大値Gmax及び最小値Gminを含めて、この時点までに記憶してある複数の所定個の最大値Gmax及び最小値Gminに基づいて、空気流量信号aの振幅の平均値Gaveを演算する。振幅の平均値Gaveは、最新の最大値Gmax及び最小値Gminを含んで計算する移動平均値である。
【0023】
ステップS4において、ステップS2において得られた空気流量信号aの振幅の最大値Gmax及び最小値Gminと平均値gaveとに基づいて、次式により吸入空気量の脈動率Gを演算する。したがって、脈動率Gは、クランク1周期(クランク軸1回転)毎に算出する値となる。
G=100×(Gmax−Gmin)/Gave・・・・(1)
【0024】
ステップS5において、式(1)により得られた脈動率Gに基づいて、吸入空気量の測定誤差の誤差率を設定する。誤差率は、エンジン100を車両に搭載するまでに作製される、代表的な脈動率Gに対応する値が設定してあるマップを検索することにより、またマップに対応する脈動率Gがない場合は補間計算を行うことによりそれぞれ設定する。マップは、異なるエンジン回転数毎に脈動率を実測し、実測した脈動率とエンジン回転数とを変数として吸入空気量の測定誤差を実測して得る誤差率の代表値を、脈動率に対応して設定するものである。
【0025】
測定誤差は、吸入空気に脈動が生じた場合に、必ず生じるもので、脈動についても、エンジン100の運転中にあっては、吸入空気が間欠流であるために、常に生じるものである。したがって、エアフロメータ22が出力する空気流量信号aは、エンジン100運転中において、誤差を含んだものとなる。
【0026】
誤差率は、脈動が生じていない吸入空気量を計測する場合に、エアフロメータ22が出力する空気流量信号すなわち無脈動出力信号に基づいて基準吸入空気量を測定し、その測定した基準吸入空気量に対する吸入空気量の測定誤差の割合を演算することにより得るものである。基準吸入空気量は、エアフロメータ22をエンジン100に取り付ける前、つまりエアフロメータ22単体により吸入空気に相当する空気の流量を計測するものである。
【0027】
ステップS6では、ステップS3において演算した脈動率と、ステップS4において演算した誤差率とに基づいて補正量を演算し、演算した補正量によりステップS1において測定した吸入空気量を補正する。補正量は、脈動率から求めた誤差率に基づいて、例えばそのばらつきの平均値により設定する。
【0028】
このような構成において、エンジン100の運転中は、所定時間毎にステップS1〜ステップS6を実行して、エアフロメータ22から出力される空気流量信号aに基づいて測定した吸入空気量を、脈動率と誤差率とに基づいて補正する。そして、補正は、クランク1周期における脈動率とその脈動率に基づく誤差率とにより実施するので、エンジン100の運転中、時間と共に変化する脈動に応じた吸入空気量は、脈動による測定誤差を反映するものとなる。したがって、吸入空気量の補正精度を向上させることができる。
【0029】
すなわち、吸入空気量を補正するにあたっては、脈動率Gをクランク1周期毎に演算し、得られた脈動率Gからエンジン100の運転状態毎の誤差率を設定するので、吸入空気量の補正量を時系列で設定することができる。しかも、誤差率は、基準吸入空気量に対する測定誤差の割合であるので、エンジン毎のばらつきなどにより生じる誤差を抑制することができるため、補正した吸入空気量に含まれる誤差を低減することができる。
【0030】
加えて、誤差率は、エアフロメータ22単体の性能に起因するものであり、その誤差率をエンジン100の運転状態に起因する脈動率に対応させて設定しているので、例えばインテークマニホルドなどの吸気系の構造に依存することがない。したがって、修理などで吸気系の一部を変更しても、再度適合を行って誤差率を設定するためのマップを変更することが不要になる。
【0031】
なお、本発明は、上述の実施形態に限定されるものではない。
【0032】
また、その他、各部の具体的構成についても上述の実施形態に限られるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明の活用例として、EGR装置や可変バルブタイミング機構などを備える、気筒数が少なく脈動が発生しやすいガソリンエンジンに適用することができる。
【符号の説明】
【0034】
11…電子制御装置
18…マイクロコンピュータ
19…メモリ
20…入力インターフェース
21…出力インターフェース
22…エアフロメータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関が吸入空気量を測定する薄膜式のエアフロメータを備えてなり、エアフロメータが出力する出力信号に基づいて吸入空気量を測定するものであって、
エアフロメータの出力信号に基づいて吸入空気量の脈動率を算出し、
脈動率が増加することで生じる吸入空気量の測定誤差の、脈動が生じていない吸入空気の吸入空気量をエアフロメータが出力する無脈動出力信号に基づいて測定した基準吸入空気量に対する割合である誤差率を設定し、
算出された脈動率と設定された誤差率とに基づいて測定した吸入空気量を補正する内燃機関の吸入空気量補正方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−252785(P2011−252785A)
【公開日】平成23年12月15日(2011.12.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−126522(P2010−126522)
【出願日】平成22年6月2日(2010.6.2)
【出願人】(000002967)ダイハツ工業株式会社 (2,560)
【Fターム(参考)】