説明

内燃機関の吸排気弁の弁駆動装置

【課題】内燃機関の少なくとも1つの吸排気弁の弁駆動装置において、エンジンの運転中片側端位置から反対側端位置への調整を、許容し得る弁遊びの変化で可能とする。
【解決手段】可調整揺動レバ(17)が偏心輪軸(16)に次の如くヒンジ結合される。即ち偏心輪角(β)だけ調整できる比較的大きな偏心率(e1)を有する偏心輪(15)によって、構造パラメータとして設定できる最大位相調整角(α)の所望の相変位および設定最大弁行程が形成され、この周辺条件で、可調整レバ(17)上におけるプッシュロッド(13)の支持点(31)がほぼ、相変位中にロッカアーム(12)とプッシュロッド(13)とのヒンジ点である上側回転点を中心とするプッシュロッドの揺動半径(R)において追従して変位し、ロッカアーム(12)とカム(14)におけるローラとの間隔が相変位の調整範囲において同じに保たれるようにヒンジ結合される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、請求項1の前文に記載の、内燃機関の吸排気弁の弁駆動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に、請求項1の前文に記載の特徴を有する内燃機関の吸排気弁の弁駆動装置が開示されている。即ちこの弁駆動装置は、ロッカアームを有し、該アームはその片側端で弁に作用し、反対側端でプッシュロッドにヒンジ結合している。プッシュロッドは調整装置に連動接続されている。特許文献1の調整装置は、各弁の偏心輪上で揺動する揺動レバを有し、該レバは、カム軸のカム上を回転するローラと偏心輪軸とを、偏心輪軸の回転に伴いカム基礎円上でのローラの位置が変化するように結合している。ローラの位置変化は弁開閉時間を変化させ、もって、例えばディーゼルエンジンの種々の負荷状態において有害物質発生量を少なくし、かつ燃費を改善すべく、吸排気過程を最適化する。
【0003】
しかし、特許文献1の弁駆動装置は、そこに開示された調整装置による弁開閉時間の変化時に、弁の遊びの変化を十分に補償できないという欠点がある。そのため、特許文献1の弁駆動装置は、偏心輪軸の回転両端位置でしか作動しない。特許文献1の弁駆動装置の場合、その偏心輪の両端位置間では、弁の残留開口或いは拡大した弁の遊びが生ずる。このため、エンジンの運転中、ピストンを損傷する恐れなしに、偏心輪をその少なくとも回転片側端位置から回転反対側端位置に変位調整することは簡単ではない。
【特許文献1】独国特許出願公開第4330913号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の課題は、エンジンの運転中、片側端位置から反対側端位置への調整が、許容し得る弁遊びの変化で可能な、内燃機関の吸排気弁の弁駆動装置を提供することにある。
【0005】
(課題を解決するための手段)
この課題は、冒頭に述べた形式の内燃機関の吸排気弁の弁駆動装置を、請求項1に記載の特徴に従い改善することによって解決される。
【0006】
本発明に従い、可調整揺動レバが偏心輪軸に次のようにヒンジ結合される。
即ち、偏心輪角だけ調整できる比較的大きな偏心率を有する偏心輪により、構造パラメータとして設定できる最大位相調整角の所望の相変位および設定最大弁行程が形成され、この周辺条件で、可調整レバ上におけるプッシュロッドの支持点が、ほぼ相変位中にロッカアームとプッシュロッドとのヒンジ点である上側回転点を中心とするプッシュロッドの揺動半径において追従して変位し、ロッカアームとカムのローラとの間隔が相変位の調整範囲で同じに保たれる。
【発明の効果】
【0007】
この結果、エンジン運転中に許容できる弁遊びの変化で、片側端位置から反対側端位置迄無段調整を許すような幾何学形状ないし偏心輪軸位置およびカム軸位置の配置、偏心率、偏心輪角、および揺動レバの形成が可能となる。そのパラメータ、即ち最大弁行程、最大相変位および所定の許容できる弁遊び偏差によって、新規の弁駆動装置の幾何学形状を規定するためのあらゆる他のパラメータが設定される。
【0008】
即ち本発明は、エンジン運転中、無段階で、回転数および負荷に無関係な弁開閉時間の調整ないし相変位が、上述した従来技術に比べ小さく、従って是認できる弁遊びの変化で可能となる弁駆動装置を提供する。
【0009】
本発明の有利な実施態様を、従属請求項および以下の説明から明らかにする。
【0010】
特にロッカアームと、プッシュロッドと、カム軸と、可調整揺動レバと、偏心輪軸と、偏心輪との配置構造を、運動学的に、所定の最大弁行程および弁開閉時間の所定の相変位時に、偏心率、偏心輪角、所定のカム行程および可調整揺動レバの幾何学形状、特にその位置と長さを、請求項1記載の特徴の意味で規定すべく設計する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下図示の実施例を参照し本発明を詳細に説明するが、本発明はこれに限定されない。
【実施例1】
【0012】
図1は、内燃機関、特にディーゼルエンジンのシリンダヘッド11と共に本発明に基づく弁駆動装置10を示す。
【0013】
図1の弁駆動装置10はロッカアーム12を備える。該アーム12は片側端が吸排気弁に作用し、反対側端がプッシュロッド13にヒンジ結合している。該ロッド13は弁開閉時間の相変位調整装置に接続している。この調整装置は、カム軸と、該軸上に置かれたカム14と、偏心輪軸16と、該偏心輪軸16上に置かれた偏心輪15と、可調整揺動レバ17とを備える。可調整揺動レバ17は、可調整揺動レバ17の片側端22のカム14上を転がるローラ18と偏心輪軸16とを、偏心輪軸16の回転によりカム14の基礎円19上におけるローラ18の位置が変化し(図3参照)、かくして相変位αの範囲にわたり弁開閉時間が変化する(図3参照)ように結合している。
【0014】
本発明に従い、可調整揺動レバ17は偏心輪軸16に次の如くヒンジ結合している。即ち最大約60°の偏心輪度βだけ調整できる比較的大きな偏心率e1(図3参照)を有する偏心輪15で、構造的周辺条件として設定できる約15°の最大位相調整角α(図3参照)を持つ所望の相変位と、約28mmの所定の最大弁行程を形成でき、かくして可調整レバ17上でのプッシュロッド13の支持点31が、ほぼ相変位α中にロッカアーム12とプッシュロッド13とのヒンジ点である上側回転点を中心とするプッシュロッド13の揺動半径R内で追従して変位し、相変位αの調整範囲においてロッカアーム12とカム14におけるローラ18との間隔がほぼ一定に保たれるようヒンジ結合している。
【0015】
また、図2と3から、可調整揺動レバ17の反対側端23を偏心輪軸16の偏心輪15にヒンジ結合していること解る。
【0016】
更に、図3から、図2と関連して次のことも明らかである。即ちロッカアーム12と、プッシュロッド13と、カム14付きカム軸と、揺動レバ17と、偏心輪軸16と、偏心輪15との配置構造が、互いに運動学的に、所定の最大弁行程および弁開閉時間の所定の相変位時、偏心率e1、偏心輪角βおよび可調整揺動レバ17の幾何学形状、特にその位置と長さを規定できるように設計していることが解る。
【0017】
即ち、配置構造の運動学設計は、約28mmの最大弁行程とα=15°の最大相変位が設定されている際、偏心率e1=約21mm、偏心輪角β=約60°、カム行程=約19mmを規定すると共に、最小弁行程=約24mmと所定の最大弁行程=28mmとの約4mmの弁行程差、約19mmのプッシュロッド転位並びに必ず許容される最大約0.03mmの弁遊びの差を許す揺動レバ17の幾何学形状、即ちその位置と長さを規定する。
【0018】
この結果、弁開閉時間の両端位置間における休止位置からの発進は無段階にできる。
【0019】
従って本発明の要点は、特に偏心輪軸16とカム軸の位置の幾何学形状に対するパラメータと、偏心率と偏心輪角と揺動レバの構成の設計に対するパラメータを決定することにある。これらパラメータは共同して、下記の運動学的設計、即ち全体として上述のパラメータの最適化を可能とする。即ち可調整レバ17上のプッシュロッド13の支持点31がほぼ弁開閉時間の「早期」位置から「遅延」位置迄の相変位α中に、ロッカアーム12とプッシュロッド13とのヒンジ点である上側回転点を中心とするプッシュロッド13の揺動半径Rの円形軌道上を変位するようにする。この結果、ロッカアーム12とカム14のローラ18との間隔は略同じに保たれ、弁の遊びは全く又はごく僅かしか変化しない。
【0020】
相変位時に普通生ずる弁遊び変化を、上述の構成によって大部分補償できるので、エンジン運転中、所望の調整範囲にわたり、弁開閉時間の無段で回転数および負荷に無関係な調整ないし相変位が、許容できる弁遊びの変化で可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】内燃機関における吸排気弁の本発明に基づく弁駆動装置の斜視図。
【図2】図1における装置の調整装置の側面図。
【図3】本発明に基づく弁駆動装置の弁開閉時間の「早期」位置から「遅延」位置迄の揺動レバ運動についての説明図。
【符号の説明】
【0022】
10 弁駆動装置、11 シリンダヘッド、12 ロッカアーム、13 プッシュロッド、14 カム軸付きカム、15 偏心輪、16 偏心輪軸、17 可調整揺動レバ、18 ローラ、19 カムの基礎円、20 片側端、21 反対側端、31 支持点、α 相変位、β 偏心輪角、e1 偏心率、R 半径

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つのロッカアーム(12)を備え、該ロッカアームないし各ロッカアーム(12)の片側端が各々少なくとも1つの吸排気弁に作用し、反対側端が各々プッシュロッド(13)にヒンジ結合され、該プッシュロッドないし各プッシュロッド(13)が弁開閉時間の相変位調整装置に連動接続され、この調整装置がプッシュロッド(13)毎に可調整揺動レバ(17)を有し、該レバ(17)が一方では偏心輪軸(16)と共働し、他方ではカム軸のカム(14)上を転がるローラ(8)と共働する内燃機関の吸排気弁の弁駆動装置において、
前記可調整揺動レバ(17)が前記偏心輪軸(16)に、
偏心輪角(β)だけ調整できる比較的大きな偏心率(e1)を有する偏心輪(15)によって、構造パラメータとして設定できる最大位相調整角(α)の所望の相変位および設定最大弁行程が形成され、
この周辺条件で、可調整レバ(17)上におけるプッシュロッド(13)の支持点(31)が、ほぼ相変位(α)中にロッカアーム(12)とプッシュロッド(13)とのヒンジ点である上側回転点を中心とするプッシュロッド(13)の揺動半径(R)において追従して変位し、かつ
ロッカアーム(12)とカム(14)におけるローラ(18)との間隔が相変位(α)の調整範囲において同じに保たれる
ようにヒンジ結合されたことを特徴とする弁駆動装置。
【請求項2】
ロッカアーム(12)と、プッシュロッド(13)と、カム軸と、揺動レバ(17)と、偏心輪軸(16)と、偏心輪(15)との配置構造が、運動学的に、所定の最大弁行程および弁開閉時間の所定の相変位(α)の際に、偏心率(e1)、偏心輪角(β)、所定のカム行程および可調整揺動レバ(17)の幾何学形状、特にその位置と長さが規定されるように設計されたことを特徴とする請求項1記載の弁駆動装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−153009(P2006−153009A)
【公開日】平成18年6月15日(2006.6.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−330563(P2005−330563)
【出願日】平成17年11月15日(2005.11.15)
【出願人】(390041520)エムアーエヌ、ベーウントヴエー、デイーゼル、アクチエンゲゼルシヤフト (59)
【氏名又は名称原語表記】MAN B&W DIESEL AKTIENGESELLSCHAFT
【Fターム(参考)】