説明

内燃機関の潤滑装置、および、内燃機関

【課題】小型、且つ、廉価で、内燃機関の状態に応じて適切な量のマイクロバブルを生成してオイルに混入することが可能なマイクロバブル生成器を備える。
【解決手段】内燃機関30の潤滑装置10は、潤滑用のオイル148を貯溜するオイル溜まり50dからオイル148を吸い出すオイルポンプ80と、オイル溜まり50dからオイルポンプ80にオイル148を供給するオイル供給通路100と、オイル供給通路100にエアを供給するエア供給通路102と、オイル148及びエアに基づいて、オイル148の潤滑性能を向上させるマイクロバブルを生成するマイクロバブル生成器106と、を備えた内燃機関30の潤滑装置10において、エア供給通路102に、内燃機関30の状態に応じて当該エア供給通路102を開閉する機械的開閉手段103を設けた構成とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイクロバブルを生成して潤滑用のオイルに混入する内燃機関の潤滑装置、および、内燃機関に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、内燃機関においては、潤滑装置によって潤滑用のオイルを内燃機関内に循環させている。この潤滑用のオイルは、摺動部の摩擦を低減することができる。一方、潤滑用のオイルは、オイルの温度が低い場合には、オイルの温度が高い場合と比較して摺動部の摩擦低減に課題がある場合がある。
【0003】
そこで、内燃機関の潤滑装置にマイクロバブルを生成するマイクロバブル生成器を設け、このマイクロバブル生成器で生成したマイクロバブルをオイルに混入し、それを内燃機関の摺動部に供給する技術が提案されている。マイクロバブルが混入されたオイルは、マイクロバブルが混入されていないオイルと比較して、見掛けの粘度を低くすることができる。この潤滑装置では、オイルにマイクロバブルを混入して、オイルの見掛けの粘度を低下させることにより、摺動部の摩擦による損失を低減するようにしている。
この潤滑装置は、マイクロバブルの生成に用いられるエアを、エアバルブ(電磁バルブ)を介してマイクロバブル生成器に供給するよう構成されている。このエアバルブは、制御手段から出力されるエアバルブ開閉信号に基づいて開閉されるようになっている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2007―9900号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述のように、オイルの粘度は、内燃機関の状態、すなわち、オイルの温度により変化するため、内燃機関の潤滑装置は、その変化に対応して適切な量のマイクロバブルの生成を行うことのできる構成が望まれる。上記従来の内燃機関の潤滑装置は、オイルの温度を検知する油温センサを備えており、制御手段は、油温センサが検知したオイルの温度に応じてオイルへのエアの供給量を制御することにより、オイルの温度に応じて適切な量のマイクロバブルをオイルに混入できるようにしている。
しかしながら、上記従来の潤滑装置は、油温センサ、エアバルブ、及び、制御手段を設けることで構成が複雑になり、部品点数の増加やコストアップを招くという問題がある。
そこで、本発明の目的は、上述した従来の技術が有する課題を解消し、小型、且つ、廉価で、内燃機関の状態に応じて適切な量のマイクロバブルを生成してオイルに混入することが可能なマイクロバブル生成器を備える内燃機関の潤滑装置、および、内燃機関を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するため、本発明の内燃機関の潤滑装置は、潤滑用のオイルを貯溜するオイル溜まりからオイルを吸い出すオイルポンプと、前記オイル溜まりから前記オイルポンプにオイルを供給するオイル供給通路と、前記オイル供給通路にエアを供給するエア供給通路と、前記オイル及び前記エアに基づいて、マイクロバブルを生成して前記オイルの潤滑性能を向上させるマイクロバブル生成器と、を備えた内燃機関の潤滑装置において、前記エア供給通路に、前記内燃機関の状態に応じて当該エア供給通路を開閉する機械的開閉手段を設けたことを特徴とする。
上記構成によれば、内燃機関の状態に応じてエア供給通路を開閉する機械的開閉手段を設けたことで、内燃機関の状態の情報を入力し、その情報に応じた開閉信号を開閉手段に出力するための制御手段を設ける必要がなくなる。
【0006】
上記構成において、前記機械的開閉手段は、内燃機関の温度に応じて自動開閉することが好ましい。
上記構成によれば、内燃機関の温度に応じてエア供給通路を機械的に自動開閉する機械的開閉手段を設けたことで、内燃機関の温度の情報を入力し、その情報に応じた開閉信号を開閉手段に出力するための制御手段を設ける必要がなくなる。
【0007】
上記構成において、前記機械的開閉手段は、前記オイル供給通路内の温度に応じて自動開閉することが好ましい。
上記構成によれば、オイル供給通路内の温度に応じて自動開閉する機械的開閉手段を設けたことで、オイル供給通路内の温度の情報を入力し、その情報に応じた開閉信号を開閉手段に出力するための制御手段を設ける必要がなくなる。
特に、オイル供給通路の温度を感知するように、機械的開閉手段を設けたことにより、オイル供給通路を介してオイルポンプに供給されるオイルに対して適切な量のマイクロバブルを混入することができる。
【0008】
上記構成において、前記機械的開閉手段は、クランクケースの温度に応じて自動開閉することが好ましい。
上記構成によれば、クランクケースの温度に応じて自動開閉する機械的開閉手段を設けたことで、クランクケースの温度の情報を入力し、その情報に応じた開閉信号を開閉手段に出力するための制御手段を設ける必要がなくなる。
特に、内燃機関の摺動部に近いクランクケースの温度を感知するように、機械的開閉手段を設けたことにより、摺動部に対して適切な量のマイクロバブルを混入することができる。
【0009】
上記構成において、前記エア供給通路と前記オイル供給通路との間の連結部を、前記オイルポンプの下方に設けることが好ましい。
上記構成によれば、エア供給通路とオイル供給通路との間の連結部をオイルポンプの下方に設けることで、エア供給通路からオイル供給通路に供給されたエアは、その浮力によってオイル供給通路をオイルポンプの方へ浮上する。
【0010】
上記課題を解決するため、本発明の内燃機関は、摺動部に潤滑用のオイルを供給する内燃機関において、マイクロバブルを生成して前記オイルに混入し、前記オイルの潤滑性能を向上させるマイクロバブル生成器を備え、前記オイルの温度に応じてマイクロバブル生成器に導入するエア量を自動的に調整する機械的開閉手段を設けたことを特徴とする。
上記構成によれば、オイルの温度に応じてマイクロバブル生成器に導入するエア量を自動的に調整する機械的開閉手段を設けたことで、オイルの温度の情報を入力し、その情報に応じた開閉信号を開閉手段に出力するための制御手段を設ける必要がなくなる。
【発明の効果】
【0011】
本発明の内燃機関の潤滑装置によれば、内燃機関の状態の情報を入力し、その情報に応じた開閉信号を開閉手段に出力するための制御手段を設ける必要がなくなるため、小型、且つ廉価で、内燃機関の状態に応じて適切な量のマイクロバブルを生成してオイルに混入することができる。
また、内燃機関の温度の情報を入力し、その情報に応じた開閉信号を開閉手段に出力するための制御手段を設ける必要がなくなるため、小型、且つ廉価で、内燃機関の温度に応じて適切な量のマイクロバブルを生成してオイルに混入することができる。
【0012】
また、オイル供給通路内の温度の情報を入力し、その情報に応じた開閉信号を開閉手段に出力するための制御手段を設ける必要がなくなるため、小型、且つ廉価で、オイル供給通路内の温度に応じて適切な量のマイクロバブルを生成してオイルに混入することができる。
特に、オイル供給通路を介してオイルポンプに供給されるオイルに対して適切な量のマイクロバブルを混入することができ、その結果、オイルポンプの摩擦を効果的に低下させることができる。
【0013】
さらに、クランクケースの温度の情報を入力し、その情報に応じた開閉信号を開閉手段に出力するための制御手段を設ける必要がなくなるため、小型、且つ廉価で、クランクケースの温度に応じて適切な量のマイクロバブルを生成してオイルに混入することができる。
特に、摺動部に対して適切な量のマイクロバブルを混入することができ、その結果、摺動部の摩擦を効果的に低下させることができる。
【0014】
さらにまた、エア供給通路から供給されたエアは、その浮力によってオイル供給通路をオイルポンプの方へ浮上するため、オイルポンプにエアを取り込みやすくすることができる。
本発明の内燃機関によれば、オイルの温度の情報を入力し、その情報に応じた開閉信号を開閉手段に出力するための制御手段を設ける必要がなくなるため、小型、且つ廉価で、オイルの温度に応じて適切な量のマイクロバブルを生成してオイルに混入することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、図面を参照して本発明の好適な実施の形態について説明する。
〔第一の実施の形態〕
図1は、本発明の第一の実施の形態に係る内燃機関の潤滑装置が適用される自動二輪車を示す外観側面図である。
自動二輪車12は、ロードスポーツ型の自動二輪車である。この自動二輪車12は、クレードル型の車体フレーム14と、この車体フレーム14のヘッドパイプ15に取付けたフロントフォーク18と、このフロントフォーク18に取付けた前輪20並びにフロントフェンダ22と、フロントフォーク18に連結したハンドル24と、車体フレーム14の前部上部に跨ぐように取付けた燃料タンク26と、を有する。
【0016】
また、自動二輪車12は、車体フレーム14の後部上部に取付けたシート(運転者席と同乗者席とを有するダブルシート)28と、車体フレーム14の各パイプで囲まれたクレードルスペース内に配置したエンジン(内燃機関)30と、クレードルスペースの後方に且つシート28の下方に配置したエアクリーナ32と、このエアクリーナ32及びエンジン30の吸気口(不図示)に接続した気化器34と、エンジン30の排気口(不図示)に接続した排気管35、集合チャンバ36並びにサイレンサ38とを有する。さらに、自動二輪車12は、エンジン30の前方に配置したラジエータ40と、車体フレーム14の後部にピボット16を介して取付けたスイングアーム42と、このスイングアーム42の後端部と車体フレーム14との間に設けたリヤサスペンション44と、スイングアーム42に取付けた後輪46とを有する。
【0017】
図2は、エンジン30を示す断面側面図である。
エンジン30の外郭は、上方から順にシリンダヘッド50a、シリンダ50b、および、クランクケース50cによって形成されている。
エンジン30は、吸気管52からスロットルバルブ54を介して空気を吸入し、その空気に燃料噴射弁56から燃料を噴出する。そして、エンジン30は、吸気バルブ58が開いているときに、この空気と燃料との混合気を燃焼室60に供給する。シリンダ50b内では、ピストン62が往復運動をすることにより、混合気の吸気動作、圧縮動作、燃焼動作、及び排気動作を行う。燃焼動作は、図示しない点火プラグにより行われる。排気動作は、排気バルブ64が開いているときに行われ、排気が排気管66に排出される。吸気バルブ58及び排気バルブ64は、それぞれ対応するカムシャフト67のカム67aによって開閉駆動される。
【0018】
ピストン62は、コネクティングロッド70によってクランクシャフト72の偏心位置に接続されている。クランクシャフト72は、ピストン62が往復運動をすることによって回転をする。始動時には、クランクシャフト72に接続されたフライホイール74をスタータモータ76によって回転させる。
クランクケース50c内には、クラッチ78及び変速機30aが設けられている。変速機30aは、フライホイール74によって駆動され、クランクシャフト72の回転数を変速して後輪46(図1参照)に回転を伝達する。
【0019】
図3は、エンジン30の潤滑装置を示す図である。
エンジン30の潤滑装置10は、オイルパン(オイル溜まり)50dと、オイルポンプ80と、オイルパン50dとオイルポンプ80とを接続するオイル供給通路100と、を備えている。
オイルパン50dには、エンジン30の摺動部の潤滑を行うためのオイル148が貯溜されている。ここで、摺動部とは、各ピストン62、クランクシャフト72、カムシャフト67のカム67a、バランサ140等、回転や摺動などの運動をするエンジン30の部位である。オイル148は潤滑以外にも防錆、冷却、消浄等の作用も有することはもちろんである。オイルパン50dには、オイル148をろ過するストレーナ112が設けられており、オイルパン50dのオイル148に浸されている。
【0020】
オイルポンプ80は、オイルパン50dの上方に設けられている。このオイルポンプ80は、ドリブンスプロケット130に連動して回転する。ドリブンスプロケット130は、クランクシャフト72に設けられた図示しないドライプスプロケットに対して、図示しないチェーンで接続されて回転する。
オイル供給通路100は、オイルパン50dから上方に延び、オイルパン50dの上方に配置されるオイルポンプ80に接続されている。本実施の形態のオイル供給通路100は、オイルパン50dから垂直に延びている。
【0021】
オイルパン50dのオイル148は、オイルポンプ80によって循環される。すなわち、オイル148は、オイル供給通路100を通って出力側管路104からオイルフィルタ132及び潤滑路134を経由してエンジン30の摺動部に供給される。出力側管路104には、過大な圧力がかかることを防止するリリーフ弁136が設けられている。潤滑路134は、分岐点134aから複数に分岐しており、各摺動部にオイル148が供給される。
オイル148は、メインシャフト142及びカウンタシャフト144から変速機30aにも供給される。潤滑路134の圧力は、オイルプレッシャスイッチ146により検出され、所定の圧力が掛かっていることを確認できるようになっている。図3における複数の矢印は、オイル148の移動経路を示している。エンジン30の摺動部に供給されたオイル148は、やがて落下してオイルパン50dに回収される。潤滑装置10には、図示しないオイルクーラが介在してもよい。
【0022】
図4は、サーモスタットの周辺部におけるエンジン30を示す断面側面図である。
潤滑装置10は、さらに、エア供給通路102と、エア供給通路102に設けられるサーモスタット(機械的開閉手段)103と、オイル供給通路100に設けられてマイクロバブルを生成するバブル生成オリフィス(マイクロバブル生成器)106と、を備えている。
エア供給通路102は、エアを吸入し、吸入したエアをオイル供給通路100へ供給するものである。このエア供給通路102は、クランクケース50c内に設けられており、一端にエアを吸入するエア吸入開口102aが形成され、他端にオイル供給通路100が接続されている。
【0023】
エア吸入開口102aは、クランクケース50c内で開口しているため、エア供給通路102内に異物が侵入しにくくなっている。エア吸入開口102aと、その近傍部におけるクランクケース50cの壁面との問には適度な隙間が確保されており、該壁面からオイル148が伝わり、又は跳ね返って侵入することを防止している。
エア供給通路102の一端側は、クラッチ78(図2参照)等の回転体よりも下方に配設されている。エア供給通路102の一端に設けられたエア吸入開口102aは、下方に向けて開口している。これにより、上方から滴下し又は回転体の遠心力により飛散してくるオイル148がエア供給通路102に混入することを防止している。
【0024】
エア供給通路102は、オイル供給通路100に直接接続されるエア終端通路102bと、エア終端通路102bに接続されるエア中間通路102cとを有している。このエア中間通路102cには、エンジン30の状態(本実施の形態では、温度)に応じてエア供給通路102を自動開閉するサーモスタット103が設けられている。このサーモスタット103は、エア供給通路102を開閉する開閉バルブ103aと、この開閉バルブ103aに接続されたロッド103bと、ロッド103bを介して開閉バルブ103aに接続された温度感知アクチュエータ103cと、開閉バルブ103aを閉弁方向(図中矢印C1方向)へ付勢するリセットスプリング103dと、を備えている。
【0025】
温度感知アクチュエータ103c内には、温度によって膨張、収縮するワックス(不図示)が設けられている。また、温度感知アクチュエータ103cの終端(図中右端)には、温度を感知する温度受感部103eが設けられている。この温度受感部103eは、オイル供給通路100内を流れるオイル148と接触して、オイル148の温度(油温)を感知するように、オイル供給通路100の側方に接続された油温受感用開口100a内に配置されている。
温度感知アクチュエータ103c内のワックスは、温度受感部103eと接触しているオイル148の温度が所定温度まで低下すると、固化して収縮する。このワックスの収縮動作は、温度感知アクチュエータ103cに接続されるロッド103bを介して開閉バルブ103aに伝達される。これにより、開閉バルブ103aは、開弁方向(図中矢印O1方向)に移動して、エア供給通路102が開放される。
【0026】
なお、所定温度は、温度感知アクチュエータ103cに設けるワックスの溶融特性に依存する。したがって、ワックスの種類を変えることにより、この所定温度を変更することができる。すなわち、ワックスの種類を指定することにより、結果としてマイクロバブルを生成する温度を規定することができる。
【0027】
一方、温度感知アクチュエータ103c内のワックスは、温度受感部103eと接触しているオイル148の温度が所定温度まで上昇すると、液化して膨張する。このワックスの膨張動作は、ロッド103bを介して開閉バルブ103aに伝達される。これにより、開閉バルブ103aは、閉弁方向に移動して、エア供給通路102が遮蔽される。このように、サーモスタット103は、オイル供給通路100を流れるオイル148の温度に応じて、エア供給通路102を自動開閉する。
【0028】
エア供給通路102の他端、すなわち、エア終端通路102bは、垂直に延びるオイル供給通路100の側方に略90°で接続されている。エア供給通路102とオイル供給通路100との連結部101は、オイルポンプ80の吸込口80a側に設けられている。これにより、エア吸入開口102aから吸入されたエアは、エア供給通路102が開放されると、オイルポンプ80の吸入負圧によって、エア中間通路102c及びエア終端通路102bを通って、オイル供給通路100を流れるオイル148に混入される。
また、エア供給通路102とオイル供給通路100との連結部101は、オイルポンプ80の下方に設けられている。このため、オイル148に混入したエアは、その浮力によってオイル供給通路100をオイルポンプ80の方へ上昇する。これにより、エアがオイルポンプ80に取り込まれやすくなる。
【0029】
図5は、連結部101を示す断面側面図である。
エア供給通路102のエア終端通路102bに導かれたエアは、図5中に矢印で示すように、エア供給通路102とオイル供給通路100との連結部101に設けられたエア量調整オリフィス108を介してオイル供給通路100に吸い込まれる。これにより、オイル供給通路100を流れるオイル148内にエアが気泡156として混入することになる。この混入した気泡156は、この時点ではある程度大径であるが、連結部101の下流に設けられたバブル生成オリフィス106(図3参照)を通過するときに、マイクロバブルになる。ここで、マイクロバブルとは、直径50μm、好ましくは20〜30μmの気泡である。
エア量調整オリフィス108は、エア終端通路102bの開口面積を小さくすることで、オイル148内に混入するエア量を規制するものである。このエア量調整オリフィス108は、例えば、ねじ込み式であって、交換可能に形成され、オイル148内に混入するエア量の調整が可能となっている。これにより、エア量調整オリフィス108は、結果としてマイクロバブルの生成量が一定量になるように規制している。
【0030】
図6は、バブル生成オリフィス106におけるオイル供給通路100を示す断面図である。
バブル生成オリフィス106は、オイル供給通路100内であって、連結部101(図3参照)の下流に設けられている。このバブル生成オリフィス106は、入力側から出力側に向かって径が小さくなる第1テーパ部150と、第1テーパ部150によって小径になった絞り部152と、出力側で次第に拡径する第2テーパ部154とを有し、いわゆるベンチュリ形状となっている。第1テーパ部150は、出力側に向かって比較的急に径が小さくなっており、第2テーパ部154は、出力側に向かって比較的緩やかに径が大きくなっている。
【0031】
このようなバブル生成オリフィス106では、第1テーパ部150でオイル148及び気泡156が加圧され、増速されることにより、絞り部152で気泡156が潰れてマイクロバブルが発生しやすい。図6中では多数のマイクロバブルMBを点で示している。
第2テーパ部154は、比較的緩やかに径が大きくなっていることから、絞り部152で発生したマイクロバブルは急激な圧力変動などの影響を受けることなく、消滅せずにそのまま下流側へ流れていく。バブル生成オリフィス106は、簡便構成であって、小型、軽量且つ廉価であることはもちろんである。
【0032】
オイル148は、マイクロバブルが混入されると、見かけ上の粘度が低下する。したがって、オイル148は、温度が低い場合にマイクロバブルが混入されると、温度が低い場合であっても、エンジン30の摺動部の摩擦を低減させる。すなわち、マイクロバブルが混入したオイル148は、エンジン30から出力される駆動力に対する損失を抑えている。
また、オイル148の粘度は、図3に示すオイル供給通路100、出力側管路104、潤滑路134等の管路内油圧に与える影響も大きい。そして、管路内油圧は、オイルポンプ80の駆動抵抗(フリクション)に影響する。
【0033】
図7は、マイクロバブルをオイル148に混入した場合と、マイクロバブルをオイル148に混入しない場合における、オイルポンプ80のフリクションを示す図である。なお、図7は、縦軸にオイルポンプ80のフリクション(kW)を、横軸に管路内油圧(kPa)を示している。
オイル148にマイクロバブルを混入しない場合、点Bに示すように、管路内油圧は高くなっており、オイルポンプ80のフリクションも大きくなっている。これに対して、オイル148にマイクロバブルを混入すると、点Aに示すように、管路内油圧は低くなっており、オイルポンプ80のフリクションも小さくなっている。
このように、マイクロバブルが混入されてオイル148の見かけ上の粘度が低下する結果、管路内油圧が下がり、オイルポンプ80のフリクションが抑えられる。
【0034】
以上説明したように、本実施の形態によれば、エンジン30の状態、例えば、温度に応じてエア供給通路102を機械的に自動開閉するサーモスタット103を設けたことで、エンジン30の状態(温度)の情報を入力し、その情報に応じた開閉信号を開閉手段に出力するための複雑且つ高価な制御手段を設ける必要がなくなる。このため、構成の複雑化や大型化を防いでコストアップを抑えつつ、エンジン30の状態(温度)に応じて適切な量のマイクロバブルを生成してオイル148に混入することができる。
エンジン30の温度が低いときにオイル148に混入されたマイクロバブルは、見かけ上の粘度が下がることによりエンジン30の摺動部の摩擦を低下する作用があり、エンジン30の摩擦損失を低減することができる。したがって、例えば、低温時にも適温のオイル148と同程度の粘度が得られ、オイル148の循環抵抗及びオイルポンプ80の駆動抵抗が小さくなり、暖機効果を短時間で得られる。
【0035】
特に、オイル供給通路100内の温度を感知するように、サーモスタット103を設けたことにより、オイル供給通路100を介してオイルポンプ80に供給されるオイル148に対して適切な量のマイクロバブルを混入することができ、その結果、オイルポンプ80のフリクションを効果的に低下させることができる。
【0036】
また、本実施の形態によれば、エア供給通路102とオイル供給通路100との連結部101をオイルポンプ80の下方に設けることで、エア供給通路102からオイル供給通路100に導入されたエアは、その浮力によってオイル供給通路100をオイルポンプ80の方へ浮上するため、オイルポンプ80にエアを取り込みやすくすることができる。
【0037】
なお、マイクロバブルが混入したオイル148は、温度が上昇すると、見た目上マイクロバブルが消滅することが本願発明者により確認されている。したがって、マイクロバブルをオイル148に混入しても高温時の見かけ上の粘度は変わらず、マイクロバブルの混入したオイル148が循環しても、高温時にマイクロバブルがなくなるので、耐久性は維持される。つまり、高温時においてマイクロバブルが消滅することにより、泡噛みの影響を低減させることができるので、オイルパン50dの深さを浅くでき、レイアウトの自由度を向上させることができる。
【0038】
但し、上記実施の形態は本発明の一態様であり、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において適宜変更可能であるのは勿論である。
例えば、本実施の形態では、エア供給通路102の他端側にエア量調整オリフィス108を設ける構成としたが、エア供給通路102自体が適度に細ければ、エア量調整オリフィス108は省路してもよい。
【0039】
また、本実施の形態では、バブル生成オリフィス106をオイルポンプ80の上流側のオイル供給通路100に設ける構成としたが、バブル生成オリフィス106をオイルポンプ80の下流側の出力側管路104に設けてもよい。この場合も、エンジン30の摺動部には、マイクロバブルが混入したオイル148が供給されるので、摺動部の摩擦を低下させ、エンジン30の摩擦損失を低減することができる。
【0040】
さらに、本実施の形態では、温度感知アクチュエータ103c内にワックスを設けたが、温度感知アクチュエータ103c内に、温度によって変形する形状記憶合金やバイメタルを設けてもよい。
【0041】
〔第二の実施の形態〕
以下、本発明の第二の実施の形態に係るエンジン30の潤滑装置210を説明する。
上述した第一の実施の形態では、サーモスタット103を、温度受感部103eがオイル供給通路100内の温度を感知するように配置した。本実施の形態のエンジン30の潤滑装置210では、サーモスタット203を、温度受感部203eがクランクケース50cの温度を感知するように配置する。
但し、本実施の形態の潤滑装置210は、第一の実施の形態で説明した潤滑装置10と略同様の構成を有するため、ここでは、潤滑装置10と同様の構成については同一の符号を用いて説明を省略する。
【0042】
図8および図9は、潤滑装置210が設けられるエンジン30を示す断面正面図である。
潤滑装置210は、潤滑装置10と同様に、潤滑用のオイル148をオイルポンプ80によって循環させている。すなわち、オイル148は、オイル供給通路100、出力側管路104、オイルフィルタ132、及び潤滑路134を経由して分岐点134aから複数に分岐し、各ピストン62、クランクシャフト72、カムシャフト67のカム67a等、エンジン30の摺動部に供給される。
【0043】
図10は、サーモスタット203の周辺部におけるエンジン30を示す断面側面図である。
潤滑装置210は、エア供給通路102に相当するエア供給通路202と、サーモスタット103に相当するサーモスタット(機械的開閉手段)203と、を備え、これらのエア供給通路202及びサーモスタット203以外は、潤滑装置10と同様の構成を有している。
エア供給通路202は、オイル供給通路100に直接接続されるエア終端通路202bと、エア終端通路202bに接続されて上方に延びるエア後方通路202cと、エア後方通路202cに接続されるエア中間通路202dと、を有している。エア供給通路202とオイル供給通路100との連結部201には、上述したエア量調整オリフィス108が設けられている。エア中間通路202dには、エンジン30の状態(本実施の形態では、温度)に応じてエア供給通路202を自動開閉するサーモスタット203が設けられている。
【0044】
サーモスタット203は、エア供給通路202を開閉する開閉バルブ203aと、この開閉バルブ203aに接続されたロッド203bと、ロッド203bを介して開閉バルブ203a接続された温度感知アクチュエータ203cと、開閉バルブ203aを閉弁方向(図中矢印C2方向)へ付勢するリセットスプリング203dとを備えて構成されている。
温度感知アクチュエータ203c内には、温度によって膨張、収縮するワックス(不図示)が設けられている。また、温度感知アクチュエータ203cの終端(図中左端)には、温度を感知する温度受感部203eが設けられている。この温度受感部203eは、クランクケース50cの温度を感知するように、エンジン30の摺動部に近い(本実施の形態では、オイルポンプ80の上方の)クランクケース50eに接触するように配置されている。
【0045】
温度感知アクチュエータ203c内のワックスは、温度受感部203eと接触しているクランクケース50eの温度が所定温度まで低下すると、固化して収縮する。なお、所定温度は、温度感知アクチュエータ203cに設けるワックスの溶融特性に依存する。ワックスの収縮動作は、温度感知アクチュエータ203cに接続されるロッド203bを介して開閉バルブ203aに伝達される。これにより、開閉バルブ203aは、開弁方向(図中矢印O2方向)に移動して、エア供給通路202が開放される。
【0046】
一方、温度感知アクチュエータ203c内のワックスは、温度受感部203eと接触しているクランクケース50eの温度が所定温度まで上昇すると、液化して膨張する。このワックスの膨張動作は、ロッド203bを介して開閉バルブ203aに伝達される。これにより、開閉バルブ203aは、閉弁方向に移動して、エア供給通路202が遮蔽される。このように、サーモスタット203は、クランクケース50eの温度に応じて、エア供給通路202を自動開閉する。
【0047】
エア吸入開口202aから吸入されたエアは、エア供給通路202が開放されると、オイルポンプ80の吸入負圧によって、エア中間通路202d、エア後方通路202c及びエア終端通路202bを通り、エア量調整オリフィス108を介して、オイル供給通路100を流れるオイル148に混入される。オイル148に混入したエアは、連結部201の下流に設けられたバブル生成オリフィス106を通過するときにマイクロバブルになる。
【0048】
本実施の形態の潤滑装置210は、クランクケース50cの温度に応じてエア供給通路202を機械的に自動開閉するサーモスタット203を設けたことで、クランクケースの温度の情報を入力し、その情報に応じた開閉信号を開閉手段に出力するための複雑且つ高価な制御手段を設ける必要がなくなる。このため、構成の複雑化や大型化を防いでコストアップを抑えつつ、クランクケース50cの温度に応じて適切な量のマイクロバブルを生成してオイル148に混入することができる。
クランクケース50cの温度が低いときにオイル148に混入されたマイクロバブルは、見かけ上の粘度が下がることによりエンジン30の摺動部の摩擦を低下させて、エンジン30の摩擦損失を低減することができる。したがって、例えば、低温時にも適温のオイル148と同程度の粘度が得られ、オイル148の循環抵抗及びオイルポンプ80の駆動抵抗が小さくなり、暖機効果を短時間で得られる。
【0049】
特に、摺動部に近いクランクケース50eの温度を感知するように、サーモスタット203を設けたことにより、摺動部に対して適切な量のマイクロバブルを混入することができ、その結果、摺動部の摩擦を効果的に低下させることができる。
【0050】
但し、上記実施の形態は本発明の一態様であり、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において適宜変更可能であるのは勿論である。
例えば、本実施の形態では、サーモスタット203の温度感知アクチュエータ203c内にワックスを設けたが、温度感知アクチュエータ203c内に、温度によって変形する形状記憶合金やバイメタルを設けてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】第一の実施の形態に係る内燃機関の潤滑装置が適用される自動二輪車を示す外観側面図である。
【図2】エンジンを示す断面側面図である。
【図3】エンジンの潤滑装置を示す図である。
【図4】サーモスタットの周辺部におけるエンジンを示す断面側面図である。
【図5】連結部を示す断面側面図である。
【図6】バブル生成オリフィスにおけるオイル供給通路を示すの断面図である。
【図7】マイクロバブルをオイルに混入した場合と、マイクロバブルをオイルに混入しない場合における、オイルポンプのフリクションを示す図である。
【図8】第二の実施の形態に係る潤滑装置が設けられるエンジンを示す断面正面図である。
【図9】第二の実施の形態に係る潤滑装置が設けられるエンジンを示す断面正面図である。
【図10】サーモスタットの周辺部におけるエンジンを示す断面側面図である。
【符号の説明】
【0052】
10 潤滑装置
12 自動二輪車
30 エンジン(内燃機関)
50c、50e クランクケース
50d オイルパン(オイル溜まり)
80 オイルポンプ
100 オイル供給通路
101、201 連結部
102、202 エア供給通路
103、203 サーモスタット(機械式開閉手段)
106 バブル生成オリフィス(マイクロバブル生成器)
148 オイル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
潤滑用のオイルを貯溜するオイル溜まりからオイルを吸い出すオイルポンプと、前記オイル溜まりから前記オイルポンプにオイルを供給するオイル供給通路と、前記オイル供給通路にエアを供給するエア供給通路と、前記オイル及び前記エアに基づいて、マイクロバブルを生成して前記オイルの潤滑性能を向上させるマイクロバブル生成器と、を備えた内燃機関の潤滑装置において、
前記エア供給通路に、前記内燃機関の状態に応じて当該エア供給通路を開閉する機械的開閉手段を設けたことを特徴とする内燃機関の潤滑装置。
【請求項2】
請求項1に記載の内燃機関の潤滑装置において、
前記機械的開閉手段は、内燃機関の温度に応じて自動開閉することを特徴とする内燃機関の潤滑装置。
【請求項3】
請求項2に記載の内燃機関の潤滑装置において、
前記機械的開閉手段は、前記オイル供給通路内の温度に応じて自動開閉することを特徴とする内燃機関の潤滑装置。
【請求項4】
請求項2に記載の内燃機関の潤滑装置において、
前記機械的開閉手段は、クランクケースの温度に応じて自動開閉することを特徴とする内燃機関の潤滑装置。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれか1つに記載の内燃機関の潤滑装置において、
前記エア供給通路と前記オイル供給通路との間の連結部を、前記オイルポンプの下方に設けたことを特徴とする内燃機関の潤滑装置。
【請求項6】
摺動部に潤滑用のオイルを供給する内燃機関において、
マイクロバブルを生成して前記オイルに混入し、前記オイルの潤滑性能を向上させるマイクロバブル生成器を備え、
前記オイルの温度に応じてマイクロバブル生成器に導入するエア量を自動的に調整する機械的開閉手段を設けたことを特徴とする内燃機関。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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