説明

内燃機関の点火制御装置

【課題】この発明は、点火プラグの磨耗状態を正確に検出することを目的とする。
【解決手段】ECU50は、点火時筒内圧Pspk等に基いて算出した点火プラグ32の要求電圧Vrを算出する。そして、要求電圧Vrと電極磨耗量Xとの関係を表す電圧磨耗相関パラメータPと、各燃焼サイクルiにおける要求電圧Vrの算出値とに基いて、電極磨耗量を燃焼サイクル毎に算出する。さらに、この電極磨耗量を初期状態から時点tまで積算することにより、任意の時点tにおける電極磨耗量Xtを算出する。これにより、電極32a,32bの磨耗量を正確かつ容易に検出することができ、磨耗の進行状態に応じて適切な制御を実行することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関の点火制御装置に係り、特に、点火プラグの磨耗状態を推定する構成とした内燃機関の点火制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来技術として、例えば特許文献1(特開2008−300278号公報)に開示されているように、点火プラグの中心電極が磨耗した場合でも、放電に必要な要求電圧が高くなるのを抑制するようにした内燃機関の点火制御装置が知られている。従来技術では、磨耗した中心電極にエッジ部が出現する構成とし、このエッジ部により要求電圧を低く抑えるようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−300278号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、従来技術では、点火プラグの電極構造を工夫することにより、プラグが磨耗した場合の要求電圧を低く抑えるようにしている。この場合、仮に磨耗状態を検出することができれば、より有効な対策を行うことが可能となる。しかしながら、プラグの磨耗状態は、単に点火系統の仕様や走行距離に比例するのではなく、運転条件等に応じて複雑に変化する。このため、従来技術では、プラグの磨耗状態を正確に検出したり、磨耗状態に応じて適切な対策を行うのが難しいという問題がある。
【0005】
本発明は、上述のような課題を解決するためになされたもので、本発明の目的は、点火プラグの磨耗状態を正確かつ容易に検出することができ、磨耗状態に応じて適切な制御を実行することが可能な内燃機関の点火制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1の発明は、一対の電極間に所定の電極間距離をもつ放電ギャップが形成され、これらの電極間に要求電圧以上の電圧を印可することにより放電が生じる点火プラグと、
前記点火プラグにより点火を行う時点の筒内圧を点火時筒内圧として取得する筒内圧取得手段と、
前記電極の磨耗により前記電極間距離が拡大した量である電極磨耗量と前記要求電圧との関係を表す第1の特性データと、前記電極間距離が一定の状態における前記点火時筒内圧と前記要求電圧との関係を表す第2の特性データと、前記筒内圧取得手段により取得した点火時筒内圧とに基いて、前記電極磨耗量を算出する電極磨耗量算出手段と、
を備えることを特徴とする。
【0007】
第2の発明は、個々の燃焼サイクルにおける点火時筒内圧及び電極間距離と、前記第2の特性データであって前記点火時筒内圧と前記要求電圧との関係を表す一次関数とに基いて、燃焼サイクル毎に要求電圧を算出する要求電圧算出手段を備え、
前記電極磨耗量算出手段は、前記第1の特性データであって前記電極磨耗量と前記要求電圧との関係を表す電圧磨耗相関パラメータと、前記点火プラグの作動時間にわたって各燃焼サイクルの前記要求電圧を積算した要求電圧積算値とに基いて、任意の時点における電極磨耗量を算出する構成としている。
【0008】
第3の発明によると、前記要求電圧算出手段は、前記電極間距離の初期値と、前回の燃焼サイクルの前記電極磨耗量とに基いて、最新の燃焼サイクルの電極間距離を算出する構成としている。
【0009】
第4の発明は、内燃機関の運転情報に基いて推定した前記電極の温度である電極温度と、前記電極温度と前記電極の磨耗量との関係を表す温度磨耗相関パラメータとに基いて、前記電極の温度に依存した磨耗量である温度依存磨耗量を算出する温度補正量算出手段を備え、
前記電極磨耗量算出手段は、前記温度依存磨耗量を前記電極磨耗量の算出値に反映させる構成としている。
【0010】
第5の発明は、前記点火プラグにより1燃焼サイクル中に再放電が行われた回数である再放電回数と、再放電時に前記電極間に生じた電圧である再放電電圧と、前記再放電電圧と前記電極の磨耗量との関係を表す再放電磨耗相関パラメータとに基いて、前記再放電に依存した磨耗量である再放電依存磨耗量を算出する再放電補正量算出手段を備え、
前記電極磨耗量算出手段は、前記再放電依存磨耗量を前記電極磨耗量の算出値に反映させる構成としている。
【0011】
第6の発明は、前記電極磨耗量が点火系統の性能に応じて設定される許容限度を超えた場合に、機関負荷を所定の負荷上限値以下に制限する機関負荷制限手段を備える構成としている。
【0012】
第7の発明は、前記電極磨耗量が増大するほど、前記負荷上限値を減少させる上限値可変手段を備える構成としている。
【0013】
第8の発明は、前記電極磨耗量が点火系統の性能に応じて設定される許容限度を超えた場合に、前記電極磨耗量の温度依存性が高くなる運転領域で燃料噴射量を増量させる燃料増量手段を備える構成としている。
【0014】
第9の発明は、前記電極磨耗量が許容限度を超えたことを報知する報知手段を備える構成としている。
【発明の効果】
【0015】
第1の発明によれば、電極磨耗量算出手段は、第2の特性データに基いて、点火時筒内圧から点火プラグの要求電圧を算出することができる。そして、第1の特性データに基いて、要求電圧から電極磨耗量を算出することができる。これにより、特別なセンサや検出機構等を用いなくても、点火プラグの磨耗状態を正確かつ容易に把握することができ、磨耗状態に応じて適切な制御を実行することができる。
【0016】
第2の発明によれば、要求電圧算出手段は、個々の燃焼サイクルにおける点火時筒内圧及び電極間距離と、点火時筒内圧と要求電圧との関係を表す一次関数とに基いて、点火プラグの要求電圧を燃焼サイクル毎に算出することができる。これにより、電極磨耗量算出手段は、各燃焼サイクルの要求電圧を積算した要求電圧積算値と、電圧磨耗相関パラメータとに基いて、任意の時点における電極磨耗量をリアルタイムに算出することができる。
【0017】
第3の発明によれば、要求電圧算出手段は、電極間距離の初期値と、前回の燃焼サイクルの電極磨耗量とに基いて、最新の燃焼サイクルの電極間距離を算出することができ、この電極間距離を用いて点火プラグの要求電圧を燃焼サイクル毎に算出することができる。
【0018】
第4の発明によれば、温度補正量算出手段は、点火プラグの電極温度と温度磨耗相関パラメータとに基いて、温度依存磨耗量を算出することができる。そして、電極磨耗量算出手段は、温度依存磨耗量を最終的な電極磨耗量の算出値に反映させることができる。これにより、プラグの温度環境が変化する場合でも、この変化に応じて電極磨耗量の算出値を適切に補正することができ、その算出精度を向上させることができる。
【0019】
第5の発明によれば、再放電補正量算出手段は、点火プラグの再放電回数、再放電電圧及び再放電磨耗相関パラメータとに基いて、再放電依存磨耗量を算出することができる。そして、電極磨耗量算出手段は、再放電依存磨耗量を最終的な電極磨耗量の算出値に反映させることができる。これにより、再放電の発生状態が変化する場合でも、この変化に応じて電極磨耗量の算出値を適切に補正することができる。
【0020】
第6の発明によれば、機関負荷制限手段は、点火プラグの電極磨耗量が許容限度を超えた場合に、機関負荷を適切に制限することができる。これにより、プラグの磨耗が進行して失火が生じるのを防止し、失火による運転性や排気エミッションの悪化を回避することができる。
【0021】
第7の発明によれば、上限値可変手段は、点火プラグの電極磨耗量に応じて負荷上限値を可変に設定することができる。従って、例えば機関負荷が制限された状態で電極の磨耗が進行した場合には、機関負荷を更に小さく制限することができ、磨耗の進行度合いに応じて機関負荷の上限を適切に変更することができる。
【0022】
第8の発明によれば、燃料増量手段は、点火プラグの電極磨耗量が許容限度を超えた場合に、電極磨耗量の温度依存性が高くなる運転領域において燃料噴射量を増量させることができる。これにより、上記運転領域であっても、噴射燃料によりプラグの電極を冷却し、電極の温度を温度依存性が高くなる境界温度よりも低下させることができる。従って、電極の磨耗を抑制し、プラグの寿命を延ばすことができる。
【0023】
第9の発明によれば、報知手段は、点火プラグの電極磨耗量が許容限度を超えた場合に、プラグの交換時期が到来したことを使用者等に報知することができ、メンテナンス性を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の実施の形態1のシステム構成を説明するための全体構成図である。
【図2】点火プラグの電極部を示す部分拡大図である。
【図3】点火プラグで放電が生じるときの放電電圧、2次電流値及び放電エネルギの時間的な変化を示す特性線図である。
【図4】点火プラグの要求電圧と電極磨耗量との関係を示す特性図である。
【図5】点火プラグの要求電圧と点火時筒内圧との関係を示す特性線図である。
【図6】本発明の実施の形態1において、ECUにより実行される制御のフローチャートである。
【図7】本発明の実施の形態2において、電極磨耗量と各種のパラメータとの関係を示す説明図である。
【図8】点火プラグにより再放電が行われた場合の放電電圧の変化を示す特性線図である。
【図9】本発明の実施の形態2において、ECUにより実行される制御のフローチャートである。
【図10】本発明の実施の形態3において、点火プラグの電極磨耗量に応じて実行される機関負荷制限制御の内容を示す説明図である。
【図11】本発明の実施の形態3において、ECUにより実行される制御のフローチャートである。
【図12】本発明の実施の形態4において、機関負荷制限制御の内容を示す説明図である。
【図13】ノック制御の制御内容と電極磨耗量との関係を示す説明図である。
【図14】本発明の実施の形態4において、ECUにより実行される制御のフローチャートである。
【図15】本発明の実施の形態5において、点火プラグの電極磨耗量と温度との関係を示す特性線図である。
【図16】内燃機関の運転領域と電極温度との関係を示す特性線図である。
【図17】燃料増量制御が実行される運転領域を示す説明図である。
【図18】本発明の実施の形態5において、ECUにより実行される制御のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0025】
実施の形態1.
[実施の形態1の構成]
以下、図1乃至図6を参照しつつ、本発明の実施の形態1について説明する。図1は、本発明の実施の形態1のシステム構成を説明するための全体構成図である。本実施の形態のシステムは、ガソリンエンジン等からなる内燃機関10を備えている。内燃機関10の各気筒12には、ピストン14の往復動作により拡大,縮小する燃焼室16が設けられている。ピストン14は、内燃機関10の出力軸であるクランク軸18に連結されている。
【0026】
また、内燃機関10は、各気筒12に吸入空気を吸込む吸気通路20と、各気筒12から排気ガスを排出する排気通路22とを備えている。吸気通路20には、吸入空気量を検出するエアフローセンサ24と、電子制御式のスロットルバルブ26とが設けられている。スロットルバルブ26は、アクセル開度等に基いてスロットルモータ28により駆動され、吸入空気量を増減させる。また、各気筒12には、吸気ポートに燃料を噴射する燃料噴射弁30と、燃焼室16内の混合気に点火する点火プラグ32と、吸気通路20を燃焼室16に対して開,閉する吸気バルブ34と、排気通路22を燃焼室16に対して開,閉する排気バルブ36とが設けられている。
【0027】
ここで、図2を参照して点火プラグの構造について説明する。図2は、点火プラグの電極部を示す部分拡大図である。点火プラグ32は、例えば特開2008−300278号公報等に記載されているように、中心電極32aと接地電極32bとを備えている。これらの電極32a,32bは、所定の電極間距離Lをもつ放電ギャップを挟んで互いに対向している。そして、点火プラグ32は、中心電極32aと接地電極32bとの間に要求電圧以上の電圧を印可することにより、これらの電極32a,32b間に火花放電が生じる構成となっている。
【0028】
また、本実施の形態のシステムは、図1に示すように、クランク角センサ38、筒内圧センサ40等を含むセンサ系統と、内燃機関10の運転状態を制御するためのECU(Electronic Control Unit)50とを備えている。クランク角センサ38は、クランク軸18の回転に同期した信号を出力するもので、ECU50は、この出力に基いて機関回転数を検出したり、クランク角を検出することができる。また、筒内圧センサ40は、圧電素子や歪みゲージ等を用いた一般的な圧力センサにより構成され、燃焼室16内の圧力(筒内圧)を検出する。なお、本発明では、筒内圧センサ40を用いずに、内燃機関の運転状態(例えば機関回転数、吸入空気量、点火時期等)に基いて筒内圧を推定する構成としてもよい。
【0029】
センサ系統には、前記センサ24,38,40に加えて、車両や内燃機関の制御に必要な各種のセンサ(例えば内燃機関の冷却水温を検出する水温センサ、アクセル開度を検出するアクセル開度センサ、排気空燃比を検出する空燃比センサ等)が含まれており、これらのセンサはECU50の入力側に接続されている。また、ECU50の出力側には、スロットルモータ28、燃料噴射弁30、点火プラグ32等を含む各種のアクチュエータが接続されている。
【0030】
そして、ECU50は、内燃機関の状態をセンサ系統により検出し、その検出結果に基いて各アクチュエータを駆動することにより、運転制御を行う。具体的には、クランク角センサ40の出力に基いて機関回転数とクランク角とを検出し、エアフローセンサ24により検出した吸入空気量と、前記機関回転数とに基いて機関負荷を算出する。また、クランク角の検出値に基いて燃料噴射時期、点火時期等を決定する。そして、吸入空気量、機関負荷等に基いて燃料噴射量を算出し、燃料噴射弁30を駆動すると共に、点火プラグ32を駆動する。また、ECU50は、以下に述べるように、筒内圧センサ40により検出した点火直前の筒内圧(点火時筒内圧)Pspk等に基いて、点火プラグ32の電極磨耗量Xを算出し、その算出結果に応じて適切な制御を行うように構成されている。
【0031】
[実施の形態1の特徴]
図3は、点火プラグで放電が生じるときの放電電圧、2次電流値及び放電エネルギの時間的な変化を示す特性線図である。図3に示すように、点火プラグの放電時には、瞬間的に大きな突入電流が流れる。このため、2次電流値は、定常的な電流値I0に対して突入電流の分だけ増大し、これに伴って放電エネルギも瞬間的に上昇する。従来において、電極の磨耗量は、上記電流値I0に依存する量として求められていた。しかし、本願発明者は、電極の磨耗量が突入電流の大きさ(プラグの要求電圧)にも依存しており、電極の磨耗量とプラグの要求電圧との間に強い相関があることを見出した。この点を踏まえて、本実施の形態では、プラグの要求電圧に基いて電極の磨耗量を推定する構成としている。
【0032】
図4は、点火プラグの要求電圧と電極磨耗量との関係を示す特性図である。この図に示すデータは、例えば何種類かの機関回転数(rpm)と機関負荷(負荷率kl%)の組合わせについて、実機等で計測することにより得ることができる。図4に示すように、要求電圧と電極磨耗量との間には強い相関があり、この相関は、例えば特性線Lpのような一次関数により表すことができる。なお、図4に示すデータでは、要求電圧に相当するパラメータとして、例えば要求電圧に点火回数を乗算したものを使用している。また、プラグの要求電圧とは、電極間で放電が生じるのに必要な最小の電圧値として定義される。さらに、電極磨耗量とは、中心電極と接地電極のうち少なくとも一方が磨耗することにより電極間距離Lが拡大した量として定義される。
【0033】
一方、図5は、点火プラグの要求電圧と、点火時筒内圧との関係を示す特性線図である。両者の関係は、例えばパッシェンの法則において電極間距離Lを一定とすれば、図5に示すように一次関数で表すことができる。即ち、プラグの要求電圧Vrは、点火時筒内圧Pspk、電極間距離L及び所定の定数K,αに基いて、下記(1)式のように表すことができる。なお、定数Kは、図5中に示す特性線の傾きに対応しており、定数αは、この特性線の切片に対応している。
【0034】
Vr=K*L*Pspk+α ・・・(1)
【0035】
このように、前記(1)式によれば、点火時筒内圧Pspkとプラグの要求電圧Vrとの関係を得ることができる。また、要求電圧Vrと電極磨耗量Xとの関係は、図4中に示す特性線Lpにより得ることができる。そこで、本実施の形態では、前記特性線Lpの傾きとして定義される電圧磨耗相関パラメータPと、前記(1)式に示す一次関数と、点火時筒内圧Pspkとに基いて、電極磨耗量Xを算出する構成としている。なお、電圧磨耗相関パラメータPは、実験等により得られる一定値であり、請求項1,2における第1の特性データに対応している。また、前記(1)式に示す一次関数は、請求項1,2における第2の特性データに対応している。
【0036】
次に、電極磨耗量Xの算出方法について具体的に説明する。以下の説明において、電極磨耗量Xtは、任意の時点tにおける電極磨耗量Xの値を表し、磨耗増分ΔXiは、内燃機関の各燃焼サイクルiでそれぞれ生じる電極の磨耗量を表すものとする。また、電極間距離Li及び点火時筒内圧Pspkiは、それぞれ各燃焼サイクルiにおける電極間距離L及び点火時筒内圧Pspkの値を表すものとする。
【0037】
まず、個々の燃焼サイクルにおける磨耗増分ΔXiと要求電圧Vriとの関係は、前述の電圧磨耗相関パラメータPを用いて下記(2)式のように表すことができる。
【0038】
ΔXi=P*Vri ・・・(2)
【0039】
任意の時点tの電極磨耗量Xtは、個々の燃焼サイクルで生じる磨耗増分ΔXiを、点火プラグの作動時間(初期状態から時点tまでの期間)にわたって積算したものと考えられる。従って、電極磨耗量Xtは、前記(2)式を初期状態(i=1)から時点tまで積算することにより、下記(3)式のように表すことができる。なお、下記(3)式の右辺では、各燃焼サイクルの要求電圧Vriを初期状態から時点tまで積算した要求電圧積算値ΣVriと、電圧磨耗相関パラメータPとを乗算している。
【0040】
【数1】

【0041】
次に、要求電圧積算値ΣVriの算出方法について説明する。各燃焼サイクルの要求電圧Vriは、前記(1)式に基いて下記(4)式のように表すことができる。
【0042】
Vri=K*Li*Pspki+α ・・・(4)
【0043】
また、前記(4)式中に含まれる最新の燃焼サイクルiの電極間距離Liは、電極間距離Lの初期値L0と、前回の燃焼サイクル(i−1)に相当する時点で算出された電極磨耗量Xi-1とに基いて、下記(5)式のように算出される。
【0044】
i=L0+Xi-1 ・・・(5)
【0045】
この(5)式を前記(4)式に代入することより、下記(6)式を得ることができる。
【0046】
Vri=K*(L0+Xi-1)*Pspki+α ・・・(6)
【0047】
従って、本実施の形態によれば、燃焼サイクル毎に点火時筒内圧Pspkiを検出し、この検出値に基いて前記(6)式により要求電圧Vriを算出することができる。そして、要求電圧Vriを積算した要求電圧積算値ΣVriと、電圧磨耗相関パラメータPとを乗算することにより、任意の時点tの電極磨耗量Xtをリアルタイムに算出することができる。なお、上記演算において、電圧磨耗相関パラメータP、定数K,α及び電極間距離Lの初期値L0は、ECU50に予め記憶されている。
【0048】
[実施の形態1を実現するための具体的な処理]
図6は、本発明の実施の形態1において、ECUにより実行される制御のフローチャートである。この図に示すルーチンは、内燃機関の燃焼サイクル毎に繰返し実行されるものとする。図6に示すルーチンでは、まず、各燃焼サイクルで点火を行う毎に、筒内圧センサ40により検出した点火時筒内圧Pspkiを読み込む(ステップ100)。そして、前記(6)式に基いて各燃焼サイクルの要求電圧Vriを算出し(ステップ102)、初期状態から最新の時点までの要求電圧積算値ΣVriを算出する(ステップ104)。
【0049】
次の処理では、要求電圧積算値ΣVriと電圧磨耗相関パラメータPとに基いて、前記(3)式により電極磨耗量Xtを算出する(ステップ106)。これにより、点火プラグ32の磨耗状態を把握することができるので、次の処理では、電極磨耗量Xtの算出値に基いて各種の磨耗対応制御を実行する(ステップ108)。なお、磨耗対応制御の具体例については、実施の形態3乃至5で詳細に説明する。
【0050】
以上詳述した通り、本実施の形態によれば、点火時筒内圧Pspkと、電圧磨耗相関パラメータPと、前記(6)式に示す一次関数とに基いて、点火プラグ32の電極磨耗量を正確に算出することができる。これにより、特別なセンサや検出機構等を用いなくても、電極32a,32bの磨耗状態を容易に把握することができる。従って、プラグの磨耗状態に応じて適切な制御を実行することができる。
【0051】
なお、前記実施の形態1では、図6中のステップ100が請求項1における筒内圧取得手段の具体例を示している。また、ステップ102は、請求項2,3における要求電圧算出手段の具体例を示し、ステップ104,106は、請求項1,2における電極磨耗量算出手段の具体例を示している。
【0052】
実施の形態2.
次に、図7乃至図9を参照して、本発明の実施の形態2について説明する。本実施の形態では、前記実施の形態1と同様のシステム構成(図1及び図2)を採用しているものの、電極の温度や再放電による影響を電極磨耗量に反映する構成としており、この点において実施の形態1と構成が異なっている。なお、本実施の形態では、実施の形態1と同一の構成要素に同一の符号を付し、その説明を省略するものとする。
【0053】
[実施の形態2の特徴]
図7は、本発明の実施の形態2において、電極磨耗量と各種のパラメータとの関係を示す説明図である。この図に示すように、電極磨耗量は、要求電圧だけでなく、他のパラメータ(電極の温度、再放電回数及び再放電圧)にも影響される。そこで、本実施の形態では、電極の温度Tplgに依存した電極磨耗量である温度依存磨耗量X1と、プラグの再放電回数n及び再放電圧Rvrに依存した電極磨耗量である再放電依存磨耗量X2とを算出し、これらの算出結果を最終的な電極磨耗量Xの算出値に反映させる構成としている。
【0054】
まず、温度依存磨耗量X1の算出方法について説明する。以下の説明において、電極温度Tplgiは、各燃焼サイクルiにおける電極温度Tplgを表し、磨耗増分ΔX1iは、各燃焼サイクルiで電極温度Tplgiに応じて生じる電極の磨耗量を表すものとする。電極の磨耗量は、電極温度Tplgが高くなるほど増大する傾向がある。ECU50には、電極磨耗量と電極温度Tplgとの関係を表す温度磨耗相関パラメータQが予め記憶されている。この温度磨耗相関パラメータQは、例えば実機等を用いて電極磨耗量と電極温度との関係を計測することにより、前述した電圧磨耗相関パラメータPの場合とほぼ同様の方法で決定することができる。
【0055】
個々の燃焼サイクルにおける磨耗増分ΔX1iと電極温度Tplgiとの関係は、前述の温度磨耗相関パラメータQを用いて下記(7)式のように表される。なお、電極温度Tplgiは、内燃機関の運転情報(例えば機関回転数、機関負荷、点火時期、空燃比等)に基いて燃焼サイクル毎に推定することができる。
【0056】
ΔX1i=Q*Tplgi ・・・(7)
【0057】
任意の時点tにおける温度依存磨耗量X1は、個々の燃焼サイクルで電極温度Tplgiに応じて生じる磨耗増分ΔX1iを、点火プラグの作動時間にわたって積算したものと考えられる。従って、温度依存磨耗量X1は、前記(7)式を初期状態から時点tまで積算することにより、下記(8)式のように算出することができる。なお、下記(8)式の右辺では、各燃焼サイクルの電極温度Tplgiを初期状態から時点tまで積算した電極温度積算値ΣTplgiと、温度磨耗相関パラメータQとを乗算している。
【0058】
【数2】

【0059】
次に、再放電依存磨耗量X2の算出方法について説明する。以下の説明において、磨耗増分Xrvriは、個々の燃焼サイクルiにおいて、n回の再放電により生じる電極の総磨耗量を表すものとする。また、再放電圧Rvrzは、全n回のうちz回目(z=1,2,・・・,n)の再放電時に電極間に生じた再放電圧Rvrを表すものとする。
【0060】
筒内に強い気流が生じている状態で点火が行われた場合には、放電の火花が吹き消され、何回かの放電が断続的に行われる現象(吹き消えによる再放電)が生じ易い。この再放電は、プラグの放電エネルギが消費されるまで繰り返される。電極の磨耗量は、再放電の回数及び電圧が増えるほど増大する傾向がある。
【0061】
図8は、点火プラグにより再放電が行われた場合の放電電圧の変化を示す特性線図である。この図では、1燃焼サイクル中に6回の再放電が行われた場合を例示している。ECU50は、上述した再放電時の電圧及び電流を含めてプラグの通電状態を検出する機能を備えている。このため、プラグの放電時には、例えば図8に示すような検出電圧の波形に基いて、再放電の回数nと、全n回のうち任意のz回目の再放電が行われたときの再放電圧Rvrzとを検出することができる。
【0062】
1燃焼サイクル中において、z回目の再放電で生じる電極の磨耗量(磨耗増分)ΔXzは、この放電時の再放電電圧Rvrzと、再放電磨耗相関パラメータSとに基いて、下記(9)式のように表すことができる。ここで、再放電磨耗相関パラメータSは、再放電電圧と電極磨耗量との関係を示すもので、ECU50に予め記憶されている。再放電磨耗相関パラメータSは、例えば実機等を用いて電極磨耗量と再放電電圧との関係を計測することにより、前述した電圧磨耗相関パラメータPの場合とほぼ同様の方法で決定することができる。
【0063】
ΔXz=S*Rvrz ・・・(9)
【0064】
1燃焼サイクルにおいて、1〜n回目の再放電により生じる磨耗増分ΔXzを総計した磨耗増分Xrvriは、前記(9)式をn回の再放電にわたって積算することにより、下記(10)式のように算出することができる。なお、下記(10)式の右辺では、再放電電圧Rvrzを再放電回数n分だけ積算した再放電電圧積算値ΣRvrzと、再放電磨耗相関パラメータSとを乗算している。
【0065】
【数3】

【0066】
任意の時点tにおける再放電依存磨耗量X2は、個々の燃焼サイクルで再放電回数n及び再放電電圧Rvrzに応じて生じる磨耗増分Xrvriを、点火プラグの作動時間にわたって積算したものと考えられる。従って、再放電依存磨耗量X2は、前記(10)式を初期状態から時点tまで積算することにより、下記(11)式のように算出することができる。
【0067】
【数4】

【0068】
このように算出された温度依存磨耗量X1と再放電依存磨耗量X2とは、下記(12)式に示すように、実施の形態1で算出された要求電圧依存磨耗量(P*ΣVri)に加算され、最終的な電極磨耗量Xtの算出値に反映される。
【0069】
【数5】

【0070】
このように構成される本実施の形態でも、前記実施の形態1とほぼ同様の作用効果を得ることができる。そして、特に本実施の形態では、点火プラグの温度や通電状態に基いて温度依存磨耗量X1と再放電依存磨耗量X2とを算出し、これらの算出値を最終的な電極磨耗量Xtの算出値に反映させることができる。これにより、プラグの温度環境や再放電の発生状態が変化する場合でも、これらの変化に応じて電極磨耗量Xtの算出値を適切に補正することができ、その算出精度を向上させることができる。
【0071】
なお、上記説明では、温度依存磨耗量X1と再放電依存磨耗量X2の両方を最終的な電極磨耗量Xtに反映させる場合を例示した。しかし、本発明はこれに限らず、必要に応じて上記磨耗量X1,X2のうち何れか一方のみを最終的な電極磨耗量Xtに反映させる構成としてもよい。
【0072】
[実施の形態2を実現するための具体的な処理]
図9は、本発明の実施の形態2において、ECUにより実行される制御のフローチャートである。この図に示すルーチンは、実施の形態1の図6に示すルーチンと並列に実行され、燃焼サイクル毎に繰返されるものである。図9に示すルーチンでは、まず、センサ系統により検出した運転情報に基いて、各燃焼サイクルでの電極温度Tplgiを算出する(ステップ200)。そして、各燃焼サイクルの電極温度Tplgiを初期状態から時点tまで積算した電極温度積算値ΣTplgiを算出し(ステップ202)、この算出値に基いて前記(8)式により温度依存磨耗量X1を算出する(ステップ204)。
【0073】
次の処理では、点火プラグ32の通電状態(通電時の電圧波形等)に基いて、再放電回数nと再放電電圧Rvrzとを検出し(ステップ206)、その検出結果に基いて再放電電圧積算値ΣRvrzを算出する(ステップ208)。そして、前記(10),(11)に基いて再放電依存磨耗量X2を算出する(ステップ210)。一方、前記図6中に示すステップ106では、プラグの要求電圧に依存した電極磨耗量Xtが算出されるので、本実施の形態では、この電極磨耗量Xtに対して、前記(12)式により温度依存磨耗量X1と再放電依存磨耗量X2とを反映させる(ステップ212)。
【0074】
なお、前記実施の形態2では、図9中のステップ200,202,204が請求項4における温度補正量算出手段の具体例を示し、ステップ206,208,210が請求項5における再放電補正量算出手段の具体例を示している。また、ステップ212は、請求項4,5における電極磨耗量算出手段の具体例を示している。
【0075】
実施の形態3.
次に、図10及び図11を参照して、本発明の実施の形態3について説明する。本実施の形態では、前記実施の形態1と同様のシステム構成及び制御(図1、図2及び図6)に加えて、電極磨耗量に応じて機関負荷を制限する構成としており、この点において実施の形態1と構成が異なっている。なお、本実施の形態では、実施の形態1と同一の構成要素に同一の符号を付し、その説明を省略するものとする。
【0076】
[実施の形態3の特徴]
図10は、本発明の実施の形態3において、点火プラグの電極磨耗量に応じて実行される機関負荷制限制御の内容を示す説明図である。プラグの要求電圧は、電極の磨耗が進行するにつれて高くなる。また、高負荷運転時にも、筒内圧が上昇することによりプラグの要求電圧が高くなる傾向がある。このため、電極の磨耗量が許容限度を超えた状態で、高負荷運転が行われると、点火系統の性能に対して要求電圧が過大となる場合があり、この場合には、プラグに印可される電圧が不足し、失火等の虞れが生じる。
【0077】
そこで、機関負荷制限制御では、図10に示すように、前記実施の形態1または2の方法により算出した電極磨耗量Xtが所定の制限開始磨耗量A以上となった場合に、機関負荷を負荷上限値Klmax以下に制限する構成としている。なお、機関負荷を制限する方法としては、例えばスロットルバルブ26を絞って吸入空気量を制限したり、燃料噴射量を減量する等の方法が挙げられる。
【0078】
上述した制限開始磨耗量Aは、点火系統の性能等に応じて設定される電極磨耗量の許容限度であり、例えば全開運転(WOT)が許されなくなるような電極磨耗量の最小値として設定される。即ち、電極磨耗量Xtが制限開始磨耗量A以上となった場合には、全開運転では失火の虞れがあるため、機関負荷を制限する必要が生じる。また、負荷上限値Klmaxは、制限開始磨耗量Aの値に応じて設定されるものであり、例えば制限開始磨耗量Aと等しい量の磨耗が生じた状態で、点火を安定的に行うことが可能な機関負荷の最大値として設定される。これらの制限開始磨耗量A及び負荷上限値Klmaxは、ECU50に予め記憶されている。
【0079】
また、本実施の形態では、電極磨耗量Xtが制限開始磨耗量A以上となった場合に、この状態を車両の使用者等に報知する構成としている。具体的には、例えばインジケータ等を点灯させ、点火プラグの交換を促すものである。この構成によれば、点火プラグの交換時期が到来したことを車両の使用者等に報知することができ、メンテナンス性を高めることができる。なお、上記の報知動作は、インジケータに限らず、モニタ表示、ブザー、音声等により実施する構成としてもよい。
【0080】
[実施の形態3を実現するための具体的な処理]
図11は、本発明の実施の形態3において、ECUにより実行される制御のフローチャートである。この図に示すルーチンは、実施の形態1(図6)のステップ108で実行される磨耗対応制御の一例であり、燃焼サイクル毎に繰返されるものである。図11に示すルーチンでは、まず、燃焼サイクル毎に算出される電極磨耗量Xtが制限開始磨耗量A以上であるか否かを判定する(ステップ300)。この判定が成立した場合には、機関負荷制限制御を実行することにより、運転中の機関負荷を負荷上限値Klmax以下に制限する(ステップ302)。そして、点火プラグの交換を促すインジケータ等を点灯させる(ステップ304)。
【0081】
上述したように、本実施の形態によれば、電極磨耗量Xtが許容限度を超えた場合には、機関負荷を適切に制限することができる。これにより、プラグの磨耗が進行して失火が生じるのを防止し、失火による運転性や排気エミッションの悪化を回避することができる。なお、本実施の形態では、図11中のステップ300,302が請求項6における機関負荷制限手段の具体例を示し、ステップ304が請求項9における報知手段の具体例を示している。
【0082】
実施の形態4.
次に、図12乃至図14を参照して、本発明の実施の形態4について説明する。本実施の形態では、前記実施の形態1と同様のシステム構成及び制御(図1、図2及び図6)を採用している。また、本実施の形態では、前記実施の形態3と同様の機関負荷制限制御において、負荷上限値を電極磨耗量に応じて可変に設定する構成としており、この点において実施の形態1と構成が異なっている。なお、本実施の形態では、実施の形態1と同一の構成要素に同一の符号を付し、その説明を省略するものとする。
【0083】
[実施の形態4の特徴]
図12は、本発明の実施の形態4において、機関負荷制限制御の内容を示す説明図である。本実施の形態では、実施の形態3と同様に、電極磨耗量Xtが制限開始磨耗量A以上となった場合に、機関負荷を負荷上限値Pklmax以下に制限する構成としている。しかし、電極磨耗量が更に増大した場合には、その分だけプラグの要求電圧が高くなるので、最初に制限したレベルの高負荷運転であっても、失火を生じる虞れがある。このため、本実施の形態では、図12に示すように、電極磨耗量Xtが増大するほど、負荷上限値Pklmaxを減少させ、高負荷運転の許容レベルを低くする構成としている。
【0084】
また、本実施の形態では、内燃機関にノック制御を行うシステム(KCS)が搭載されている場合に、ノック制御の内容を電極磨耗量Xtに応じて変更する構成としている。図13は、ノック制御の制御内容と電極磨耗量との関係を示す説明図である。ノック制御では、ノッキングが発生した場合に、点火時期を遅角させる。しかし、点火時期を遅角させると、筒内圧が上昇した上死点後のタイミングで点火を行うことになるので、プラグの要求電圧が高くなる。この場合、電極磨耗量が許容限度を超えていると、失火の虞れが生じる。そこで、本実施の形態では、電極磨耗量Xtが制限開始磨耗量A以上となった場合に、ノック制御による点火時期の遅角量が小さくなるように制限する。また、この点火時期の遅角制限を補うために、スロットルバルブ(TH)や過給機のウェイストゲートバルブ(WGV)の協調制御を実施し、これらのバルブの制御量を増大させることによりノッキングの抑制を図る。これにより、点火プラグの磨耗が進行した場合でも、ノック制御を円滑に行うことができる。
【0085】
[実施の形態4を実現するための具体的な処理]
図14は、本発明の実施の形態4において、ECUにより実行される制御のフローチャートである。この図に示すルーチンは、実施の形態1(図6)のステップ108で実行される磨耗対応制御の一例であり、燃焼サイクル毎に繰返されるものである。図14に示すルーチンでは、まず、燃焼サイクル毎に算出される電極磨耗量Xtが制限開始磨耗量A以上であるか否かを判定する(ステップ400)。
【0086】
ステップ400の判定が成立した場合には、点火プラグの交換を促すインジケータ等を点灯させる(ステップ402)。また、ECU50に予め記憶された図12のデータを参照することにより、電極磨耗量Xtに応じて負荷上限値Pklmaxを算出する(ステップ404)。そして、機関負荷制限制御を実行することにより、運転中の機関負荷を負荷上限値Pklmax以下に制限する(ステップ406)。なお、本実施の形態では、図14中のステップ400,406が請求項6,7における機関負荷制限手段の具体例を示し、ステップ404が請求項7における上限値可変手段の具体例を示している。また、ステップ402は、請求項9における報知手段の具体例を示している。
【0087】
このように構成される本実施の形態でも、前記実施の形態3とほぼ同様の作用効果を得ることができる。そして、特に本実施の形態では、電極磨耗量Xtに応じて負荷上限値Pklmaxを可変に設定することができる。従って、例えば機関負荷が制限された状態で電極の磨耗が進行した場合には、機関負荷を更に小さく制限することができ、磨耗の進行度合いに応じて機関負荷の上限を適切に変更することができる。
【0088】
実施の形態5.
次に、図15乃至図18を参照して、本発明の実施の形態5について説明する。本実施の形態では、前記実施の形態1と同様のシステム構成及び制御(図1、図2及び図6)に加えて、特定の運転領域で電極温度を低下させるために燃料噴射量を増量させる構成としており、この点において実施の形態1と構成が異なっている。なお、本実施の形態では、実施の形態1と同一の構成要素に同一の符号を付し、その説明を省略するものとする。
【0089】
[実施の形態5の特徴]
図15は、本発明の実施の形態5において、点火プラグの電極磨耗量と温度との関係を示す特性線図である。この図に示すように、電極磨耗量は、一定温度以上の温度領域において、温度に対する感度(温度依存性)が大きくなる傾向がある。この温度領域では、温度が少し上昇しただけでも磨耗量が大きく増えるので、特に電極の磨耗が進行している場合には、電極温度が上記温度領域に達するのを避ける必要がある。
【0090】
このため、本実施の形態では、電極磨耗量Xtが所定の磨耗上限値B以上となった場合に、点火プラグの温度を低下させるために後述の燃料増量制御を実行する構成としている。ここで、磨耗上限値Bは、前記実施の形態3における制御開始磨耗量Aとほぼ同様に、点火系統の性能に応じて設定される許容限度であり、ECU50に予め記憶されている。また、磨耗上限値Bは、例えば燃費性能を犠牲にしても、プラグの温度上昇を抑える必要があるような重度の磨耗状態を判定するための判定値であり、前記制限開始磨耗量Aよりも大きな値に設定される。
【0091】
燃料増量制御は、電極磨耗量の温度依存性が高くなる特定の運転領域で、燃料噴射量を増量させる構成としている。この特定の運転領域は、電極温度が前述した一定温度以上となる領域に対応しており、図16及び図17に基いて設定されている。図16は、内燃機関の運転領域と電極温度との関係を示す特性線図であり、図17は、燃料増量制御が実行される運転領域を示す説明図である。図16では、特性線が太い領域ほど、電極温度が高いことを示している。
【0092】
図16に示すように、電極温度は、基本的に機関回転数及び機関負荷が増大するほど、高温となる傾向がある。しかし、高回転高負荷領域では、図17に示すように、排気浄化触媒の過熱を防止するために燃料噴射量を増量させる制御(OT増量)が実行されるので、このOT増量により点火プラグの電極温度も低下する。この結果、OT増量の制御領域以外で高回転または高負荷となる特定の運転領域では、電極温度が前述の一定温度以上に上昇し、電極磨耗量の温度依存性が高くなる傾向がある。従って、燃料増量制御は、この特定の運転領域で実行され、噴射燃料によりプラグの温度を低下させることができる。
【0093】
[実施の形態5を実現するための具体的な処理]
図18は、本発明の実施の形態5において、ECUにより実行される制御のフローチャートである。この図に示すルーチンは、実施の形態1(図6)のステップ108で実行される磨耗対応制御の一例であり、燃焼サイクル毎に繰返されるものである。図15に示すルーチンでは、まず、ステップ500〜506において、前記実施の形態4(図14)のステップ400〜406と同様の処理を実行する。これにより、電極磨耗量Xtが制限開始磨耗量A以上となった場合には、機関負荷制限制御を実行することができる。
【0094】
次の処理では、燃焼サイクル毎に算出される電極磨耗量Xtが磨耗上限値B以上であるか否かを判定する(ステップ508)。この判定成立時には、前述した燃料増量制御を実行する(ステップ510)。即ち、ステップ510では、機関回転数と機関負荷とに基いて現在の運転領域が前述した特定の運転領域であるか否かを判定し、この判定が成立した場合には、プラグの温度を低下させるために燃料噴射量を増量する。
【0095】
なお、本実施の形態では、図18中のステップ508,510が請求項8における燃料増量手段の具体例を示している。また、ステップ500,506は請求項6,7における機関負荷制限手段の具体例、ステップ504は請求項7における上限値可変手段の具体例、ステップ502は請求項9における報知手段の具体例をそれぞれ示している。
【0096】
上述したように、本実施の形態によれば、電極磨耗量Xtが許容限度を超えた場合には、電極磨耗量の温度依存性が高くなる運転領域において燃料噴射量を増量させることができる。これにより、上記運転領域であっても、噴射燃料によりプラグの電極を冷却し、電極の温度を温度依存性が高くなる境界温度よりも低下させることができる。従って、電極の磨耗を抑制し、プラグの寿命を延ばすことができる。
【0097】
なお、前記実施の形態2乃至5では、前記実施の形態1の構成に対して、実施の形態2乃至5の特徴となる構成を組合わせるものとした。しかし、本発明はこれに限らず、例えば実施の形態1,2を組合わせた構成に対して、実施の形態3乃至5の特徴となる構成を組合わせてもよい。
【符号の説明】
【0098】
10 内燃機関
12 気筒
14 ピストン
16 燃焼室
18 クランク軸
20 吸気通路
22 排気通路
24 エアフローセンサ
26 スロットルバルブ
28 スロットルモータ
30 燃料噴射弁
32 点火プラグ
32a 中心電極
32b 接地電極
34 吸気バルブ
36 排気バルブ
38 クランク角センサ
40 筒内圧センサ
50 ECU
Pspk 点火時筒内圧
L 電極間距離
0 初期値
P 電圧磨耗相関パラメータ(第1の特性データ)
Vr 要求電圧
ΣVri 要求電圧積算値
X 電極磨耗量
Tplg 電極温度
Q 温度磨耗相関パラメータ
X1 再放電依存磨耗量
n 再放電回数
Rvr 再放電電圧
S 再放電磨耗相関パラメータ
X2 再放電依存磨耗量
A 制限開始磨耗量
Klmax,Pklmax 負荷上限値
B 磨耗上限値

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対の電極間に所定の電極間距離をもつ放電ギャップが形成され、これらの電極間に要求電圧以上の電圧を印可することにより放電が生じる点火プラグと、
前記点火プラグにより点火を行う時点の筒内圧を点火時筒内圧として取得する筒内圧取得手段と、
前記電極の磨耗により前記電極間距離が拡大した量である電極磨耗量と前記要求電圧との関係を表す第1の特性データと、前記電極間距離が一定の状態における前記点火時筒内圧と前記要求電圧との関係を表す第2の特性データと、前記筒内圧取得手段により取得した点火時筒内圧とに基いて、前記電極磨耗量を算出する電極磨耗量算出手段と、
を備えることを特徴とする内燃機関の点火制御装置。
【請求項2】
個々の燃焼サイクルにおける点火時筒内圧及び電極間距離と、前記第2の特性データであって前記点火時筒内圧と前記要求電圧との関係を表す一次関数とに基いて、燃焼サイクル毎に要求電圧を算出する要求電圧算出手段を備え、
前記電極磨耗量算出手段は、前記第1の特性データであって前記電極磨耗量と前記要求電圧との関係を表す電圧磨耗相関パラメータと、前記点火プラグの作動時間にわたって各燃焼サイクルの前記要求電圧を積算した要求電圧積算値とに基いて、任意の時点における電極磨耗量を算出する構成としてなる請求項1に記載の内燃機関の点火制御装置。
【請求項3】
前記要求電圧算出手段は、前記電極間距離の初期値と、前回の燃焼サイクルの前記電極磨耗量とに基いて、最新の燃焼サイクルの電極間距離を算出する構成としてなる請求項2に記載の内燃機関の点火制御装置。
【請求項4】
内燃機関の運転情報に基いて推定した前記電極の温度である電極温度と、前記電極温度と前記電極の磨耗量との関係を表す温度磨耗相関パラメータとに基いて、前記電極の温度に依存した磨耗量である温度依存磨耗量を算出する温度補正量算出手段を備え、
前記電極磨耗量算出手段は、前記温度依存磨耗量を前記電極磨耗量の算出値に反映させる構成としてなる請求項1乃至3のうち何れか1項に記載の内燃機関の点火制御装置。
【請求項5】
前記点火プラグにより1燃焼サイクル中に再放電が行われた回数である再放電回数と、再放電時に前記電極間に生じた電圧である再放電電圧と、前記再放電電圧と前記電極の磨耗量との関係を表す再放電磨耗相関パラメータとに基いて、前記再放電に依存した磨耗量である再放電依存磨耗量を算出する再放電補正量算出手段を備え、
前記電極磨耗量算出手段は、前記再放電依存磨耗量を前記電極磨耗量の算出値に反映させる構成としてなる請求項1乃至4のうち何れか1項に記載の内燃機関の点火制御装置。
【請求項6】
前記電極磨耗量が点火系統の性能に応じて設定される許容限度を超えた場合に、機関負荷を所定の負荷上限値以下に制限する機関負荷制限手段を備えてなる請求項1乃至5のうち何れか1項に記載の内燃機関の点火制御装置。
【請求項7】
前記電極磨耗量が増大するほど、前記負荷上限値を減少させる上限値可変手段を備えてなる請求項6に記載の内燃機関の点火制御装置。
【請求項8】
前記電極磨耗量が点火系統の性能に応じて設定される許容限度を超えた場合に、前記電極磨耗量の温度依存性が高くなる運転領域で燃料噴射量を増量させる燃料増量手段を備えてなる請求項1乃至7のうち何れか1項に記載の内燃機関の点火制御装置。
【請求項9】
前記電極磨耗量が許容限度を超えたことを報知する報知手段を備えてなる請求項1乃至8のうち何れか1項に記載の内燃機関の点火制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【公開番号】特開2011−157904(P2011−157904A)
【公開日】平成23年8月18日(2011.8.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−21460(P2010−21460)
【出願日】平成22年2月2日(2010.2.2)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】