説明

内燃機関制御装置

【課題】昇圧回路の過昇圧の解消をインジェクタの駆動条件に適したように行うこと、昇圧実施中に電流回生が発生し、過昇圧解消動作と昇圧動作が同時に発生して、昇圧回路内で昇圧コンデンサと電源グランドのショートが発生して、昇圧回路の破損を防止すること、過昇圧を解消するために発生する、発熱、部品追加、ノイズ発生も少なくできる昇圧回路を備えた内燃機関制御装置を提供すること。
【解決手段】昇圧コイルによりバッテリ電圧を昇圧して昇圧コンデンサに高電圧充電する昇圧回路と、内燃機関に燃料を直接噴射するためのインジェクタを駆動するためのインジェクタ駆動回路と、前記インジェクタへ燃料を加圧して圧送する高圧燃料ポンプを通電して駆動するためのポンプ駆動回路と、を備え、前記ポンプ駆動回路による通電電流を下降させるときに、電気エネルギーを前記昇圧回路の昇圧コンデンサへ単発で回生するための回生回路を有すること。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガソリンや軽油等を燃料とする、自動車、オートバイ、農耕機、工機、船舶機等において、バッテリ電圧を昇圧した高電圧を使って、負荷を駆動する内燃機関制御装置に関し、特に、気筒内直接噴射型インジェクタを駆動するのに好適な内燃機関制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ガソリンや軽油等を燃料とする自動車、オートバイ、農耕機、工作機械、船舶機等の内燃機関制御装置において、燃費や出力向上の目的により、気筒内に直接燃料を噴射するインジェクタを備えたものが用いられており、このようなインジェクタは、「気筒内直接噴射型インジェクタ」、又は、「直噴インジェクタ」、単に「DI」と呼ばれている。現在ガソリンエンジンでは主流である、空気と燃料の混合気をつくってシリンダー内に噴射する方式と比較して、気筒内直接噴射型インジェクタを用いたエンジンでは、高圧に加圧された燃料を使用する必要があるので、インジェクタの開弁動作に高いエネルギーを必要とする。また、制御性を向上させ高速回転に対応するためには、この高いエネルギーを短時間にインジェクタに供給する必要がある。
【0003】
図9は、インジェクタを制御する従来の内燃機関制御装置の一例を示す。ここでは、バッテリ電圧(1)よりも高い電圧に昇圧する昇圧回路(100)を設け、ここで発生する昇圧電圧(100A)により、短時間にインジェクタ(3)への通電電流を上昇させる方式を採用しているが、内燃機関のインジェクタを制御する従来の制御装置は、この方式のものが多い。
【0004】
代表的な直噴インジェクタの電流波形は、図2の一番下に示されたインジェクタ電流(3A)である。通電初期のピーク電流通電期間(463)に昇圧電圧(100A)を使って、インジェクタ電流(3A)を予め定められたピーク電流停止電流(460)まで短時間に上昇させる。このピーク電流は、現在ガソリンエンジンで主流である燃料と空気との混合気をつくってシリンダー内に噴射する方式のインジェクタ電流と比較して、5〜20倍程度大きいものである。
【0005】
上記のピーク電流通電期間(463)終了後は、インジェクタ(3)へのエネルギー供給源は、昇圧電圧(100A)からバッテリ電源へ移行し、ピーク電流に比べ1/2〜1/3程度の保持1停止電流(461)で制御される保持電流1を経て、更にその2/3〜1/2程度の保持2停止電流(462)で制御される保持電流2へと移行する。ピーク電流と保持電流1によってインジェクタ(3)は開弁して燃料を気筒内に噴射する。
【0006】
噴射終了時にインジェクタの閉弁を速やかに行うため、インジェクタ通電電流(3A)の通電電流下降期間(466)を短時間にしてインジェクタ電流(3A)を遮断する必要がある。しかし、インジェクタ(3)には、インジェクタ電流(3A)が流れていることで高いエネルギーが蓄積されており、電流を下降させるには、このエネルギーをインジェクタ(3)から消滅されることが必要である。これを短時間の通電電流下降期間(466)内に実現させるために、インジェクタ電流を駆動する駆動回路(200)の駆動素子でツェナーダイオード効果を使用してエネルギーを熱エネルギーに変換する方式や、インジェクタ電流(3A)を電流回生ダイオード(2)を通じて、昇圧回路(100)の昇圧電圧(100A)を蓄積する昇圧コンデンサ(111)に回生させる方式等、様々な方式が取られている。
【0007】
上記の熱エネルギーに変換する方式では、駆動回路(200)を簡略化することができるが、インジェクタ(3)の通電エネルギーを熱エネルギーに変換させるので、大電流の駆動回路には適していない。これに対し、上記の昇圧コンデンサに回生させる方式では、インジェクタ(3)に大電流を流しても駆動回路(200)の発熱を比較的抑えることができるため、特にインジェクタ(3)への通電電流が大きい軽油を使用する直噴インジェクタを使用したエンジン(「コモンレールエンジン」と呼ばれることもある。)や、燃料にガソリンを使用する気筒内直接噴射型インジェクタを使用したエンジンでも広く使用される。
【0008】
ところが、昇圧電圧(100A)は、インジェクタ(3)の開弁特性に応じて予め設定された電圧範囲となるよう昇圧制御回路(120)によって制御されるものであるが、電流回生ダイオード(2)を通じてインジェクタ電流(3A)を昇圧回路(100)の昇圧コンデンサ(111)に還流させると、この昇圧電圧(100A)が予め設定された電圧範囲より高い過昇圧状態となり、インジェクタ(3)の開弁特性に悪影響を及ぼす危険性があるし、更にインジェクタの電源ショート等の故障によって、昇圧電圧(100A)が昇圧回路(100)の駆動素子や昇圧コンデンサ(111)の耐圧を越えて、回路を破壊する危険性もある。このような事態を防止するため、特開2002−303185公報に示されているように、充電過電圧検出回路を設けて、充電電圧が過電圧となった場合には充電動作を停止させるようにしているが、実際に過昇圧状態となると、その状態を解消することができないので、次のインジェクタ通電電流のピーク電流通電では、インジェクタの開弁特性に悪影響を及ぼしてしまう状態を生じていた。
【0009】
また、インジェクタ以外の用途として、昇圧電圧を使用する電動パワーステアリング装置では、特開2003−319699公報に示されているように、回生電流による過昇圧を防止するために、充電ダイオード(110−1)に相当するダイオード(D2)と並列にスイッチ素子であるnチャンネル形のMOSFET(Q2)を設け、バッテリ電源へ回生電流を戻す方式が紹介されている。しかし、電動パワーステアリング装置は、モータを駆動する装置であり、電流回生はモータ減速時に連続して発生し、その間は電流回生制御中であることに基づいて昇圧電圧をバッテリ電源へ電流を戻す制御を連続して行い、昇圧電圧を使用した駆動は行わないものである。これに対し、インジェクタを駆動する内燃機関制御装置は、インジェクタ駆動時に昇圧電圧を使用した駆動を行い、その通電終了時に回生を行うということを交互に行うものであり、更に、一般的な内燃機関は、1気筒だけでなく、2〜8気筒、更にそれ以上の気筒を有するものであり、直噴インジェクタを使用したエンジンは、それぞれの気筒に1本以上のインジェクタを使用する。
【0010】
このため、直噴インジェクタを使用した内燃機関制御装置では、複数のインジェクタを駆動し、昇圧電圧(100A)を使用したインジェクタ電流(3A)の駆動による昇圧電圧の低下と、インジェクタ電流からの回生電流による昇圧電圧の上昇がそれぞれ連続して発生するのではなく、交互又は複雑なパターンで発生することになる。このような昇圧電圧の変動の中で、この昇圧電圧を予め設定された電圧範囲内に制御し続けることが重要となる。昇圧電圧が低下したのを補う昇圧復帰期間(405)中に上記電流回生が発生した場合、昇圧を補うエネルギーとしてこの電流回生を用いることができるので、この分の回生電流をバッテリ電源へ戻すことは却って非効率となる。そのため、インジェクタを駆動する内燃機関制御装置では、電動パワーステアリング装置と異なり、電流回生の有無により昇圧回路(100)からバッテリ電源へ戻す制御を行うことはできない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2002−303185号公報
【特許文献2】特開2003−319699号公報
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】清水和男、続 安定化電源回路の設計(選書シリーズ7)、CQ出版、1970年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、昇圧回路の過昇圧の解消をインジェクタの駆動条件に適したように行うことを目的としたものであり、更に、昇圧実施中に電流回生が発生し、過昇圧解消動作と昇圧動作が同時に発生して、昇圧回路内で昇圧コンデンサと電源グランドのショートが発生して、昇圧回路の破損を防止することを目的としている。
加えて、過昇圧を解消するために、発生する、発熱、部品追加、ノイズ発生も少なくすることが出来る昇圧回路を持った内燃機関制御装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、インジェクタ駆動を行う為に使用する昇圧回路において、インジェクタ電流の回生によって昇圧電圧が所定の過昇圧解消開始電圧よりも高くなった場合に、昇圧コイルに発生する高電圧をコンデンサに通電する昇圧ダイオードと並列に設けた放電スイッチ素子を通電させることにより、昇圧で用いる上記昇圧コイルを通して、バッテリ電源へ放電するようにし、この過昇圧解消動作実施の判定を昇圧電圧を監視することで行い、更に昇圧実施期間と重なった場合には、この昇圧実施期間が終了するのを待って行うようにしたものである。
【0015】
上記の課題を解決するため、本発明の内燃機関制御装置は、バッテリ電源電圧から昇圧コイルにスイッチング電流を通電し、該スイッチング電流を下降させる時に該昇圧コイルに発生する高電圧を、充電ダイオードを通して昇圧コンデンサに蓄える昇圧回路と、該昇圧コンデンサに蓄えられた高電圧を利用して、インジェクタ電流を制御し、該インジェクタ電流を下降させる時にインジェクタが有している電気エネルギーを該昇圧回路の該昇圧コンデンサに回生させる回路と、該充電ダイオードと並列に放電スイッチ素子を設け、該昇圧回路内に蓄えられた高電圧が所定の過昇圧解消開始電圧よりも高くなった場合に、該放電スイッチ素子を通電させて、該高電圧を、該昇圧コイルを通して、該バッテリ電源に放電すること、及び上記インジェクタに加えて、上記高電圧を利用しない第2の負荷装置を有し、該負荷装置の通電を下降させる時に該負荷装置が有している電気エネルギーを上記昇圧回路の上記昇圧コンデンサに回生させる回路を有すること、を特徴としている。
【0016】
また、本発明の内燃機関制御装置は、バッテリ電源電圧から昇圧コイルにスイッチング電流を通電し、該スイッチング電流を下降させる時に該昇圧コイルに発生する高電圧を、充電ダイオードを通して昇圧コンデンサに蓄える昇圧回路と、該昇圧コンデンサに蓄えられた高電圧を利用して、インジェクタ電流を制御し、該インジェクタ電流を下降させる時にインジェクタが有している電気エネルギーを該昇圧回路の該昇圧コンデンサに回生させる回路と、該充電ダイオードと並列に放電スイッチ素子を設け、該昇圧回路内に蓄えられた高電圧が所定の過昇圧解消開始電圧よりも高くなった場合に、昇圧スイッチング動作の実施中は、該放電スイッチ素子の通電を抑制し、該昇圧スイッチング動作の終了後に、該放電スイッチ素子を通電させて、該高電圧を、該昇圧コイルを通して、該バッテリ電源に放電すること、及び上記インジェクタに加えて、上記高電圧を利用しない第2の負荷装置を有し、該負荷装置の通電を下降させる時に該負荷装置が有している電気エネルギーを上記昇圧回路の上記昇圧コンデンサに回生させる回路を有すること、を特徴としている。
【0017】
また、本発明の内燃機関制御装置は、昇圧スイッチ素子による昇圧スイッチング動作により、バッテリ電源電圧から昇圧コイルにスイッチング電流を通電し、該スイッチング電流を下降させる時に該昇圧コイルに発生する高電圧を、充電ダイオードを通して昇圧コンデンサに蓄える昇圧回路と、該昇圧コンデンサに蓄えられた高電圧を利用して、インジェクタ電流を制御し、該インジェクタ電流を下降させる時にインジェクタが有している電気エネルギーを該昇圧回路の該昇圧コンデンサに回生させる回路と、該充電ダイオードと並列に放電スイッチ素子を設け、該昇圧回路内に蓄えられた高電圧が所定の過昇圧解消開始電圧よりも高くなった場合に、該昇圧スイッチング動作の実施中は、該放電スイッチ素子の通電を抑制し、該昇圧スイッチング動作の終了後に、放電スイッチ素子を通電させる際に、該昇圧スイッチ素子が遮断するために必要な遅れ時間を考慮したデットタイムを設けて該放電スイッチ素子を通電させるようにして、該昇圧コンデンサから該バッテリ電源に放電すると共に、該昇圧回路内に蓄えられた高電圧が所定の昇圧開始電圧よりも低くなった場合に、該放電スイッチ素子の通電終了後に、該昇圧スイッチ素子を通電させて昇圧動作に移行する際に、該放電スイッチ素子が遮断するために必要な遅れ時間を考慮したデットタイムを設けて該昇圧スイッチ素子を通電させるようにすること、及び上記インジェクタに加えて、上記高電圧を利用しない第2の負荷装置を有し、該負荷装置の通電を下降させる時に該負荷装置が有している電気エネルギーを上記昇圧回路の上記昇圧コンデンサに回生させる回路を有すること、を特徴としている。
【0018】
さらに、本発明の内燃機関制御装置は、バッテリ電源電圧から昇圧コイルにスイッチング電流を通電し、該スイッチング電流を下降させる時に該昇圧コイルに発生する高電圧を、充電ダイオードを通して昇圧コンデンサに蓄える昇圧回路と、該昇圧コンデンサに蓄えられた高電圧を利用して、インジェクタ電流を制御し、該インジェクタ電流を下降させる時にインジェクタが有している電気エネルギーを該昇圧回路の該昇圧コンデンサに回生させる回路と、該充電ダイオードと並列に放電スイッチ素子を設け、該昇圧回路内に蓄えられた高電圧が所定の過昇圧解消開始電圧よりも高くなった場合に、該放電スイッチ素子を通電させて、該高電圧を、該昇圧コイルを通して、該バッテリ電源に放電すること、及び上記インジェクタに加えて、単発の電流回生を行う第2の負荷装置を有し、該負荷装置の通電を下降させる時に該負荷装置が有している電気エネルギーを上記昇圧回路の上記昇圧コンデンサに回生させる回路を有すること、を特徴とする。
さらに、本発明の内燃機関制御装置は、上記に加えて、前記第2の負荷装置は、内燃機関に燃料を供給するための燃料ポンプであることを特徴とする。
【0019】
さらに、本発明の内燃機関制御装置は、上記に加えて、アナログ電圧をデジタル化するA/D変換器と、メモリに蓄えられたプログラムにしたがって動作する演算器と、該演算器とスイッチ素子の間に駆動信号を出力するインターフェイス部を有する制御回路を設け、該メモリに蓄えられたソフトウェアによって、汎用の制御回路を昇圧制御及び過昇圧解消制御に適用することを特徴としている。
【0020】
さらに、本発明の内燃機関制御装置は、上記に加えて、上記放電スイッチ素子としてFETを使用し、該FETに含まれる寄生ダイオードで上記充電ダイオードを代用することを特徴としている。
【0021】
さらに、本発明の内燃機関制御装置は、上記に加えて、上記放電スイッチ素子として、バイポーラ型トランジスタを使用したことを特徴としている。
【0022】
さらに、本発明の内燃機関制御装置は、上記に加えて、上記放電スイッチ素子として、IGBTを使用したことを特徴としている。
【発明の効果】
【0023】
本発明は、上記の手段により、昇圧電圧の過昇圧状態を解消するために昇圧電圧からバッテリ電源に電流を戻す場合に、インジェクタの駆動に適するように昇圧回路の過昇圧を解消し、昇圧動作中にインジェクタから電流回生が発生した場合の昇圧回路のショート等の破損を防止すること、昇圧動作で用いる昇圧コイルを電流回生に兼用すること、部品点数の増加を抑えること、バッテリ電源に与えるノイズ発生も抑えること等の顕著な効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の内燃機関制御装置の実施例1を示す図である。
【図2】本発明の内燃機関制御装置の実施例1における通常の昇圧動作の場合の動作波形の一例を示す図である。
【図3−1】本発明の内燃機関制御装置の実施例1において、昇圧動作中に電流回生が発生した場合の動作波形の一例を示す図である。
【図3−2】本発明の内燃機関制御装置の実施例1において、昇圧動作中に電流回生が発生した場合のデッドタイムの一例を示す図である。
【図3−3】本発明の内燃機関制御装置の実施例1において、過昇圧解消動作中にインジェクタピーク電流通電が発生した場合のデッドタイムの一例を示す図である。
【図4】本発明の内燃機関制御装置の実施例2を示す図である。
【図5】本発明の内燃機関制御装置の実施例2における通常の昇圧動作の場合の動作波形の一例を示す図である。
【図6】本発明の内燃機関制御装置の実施例3を示す図である。
【図7】本発明の内燃機関制御装置の実施例4を示す図である。
【図8】本発明の内燃機関制御装置の実施例5を示す図である。
【図9】従来の内燃機関制御装置の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明を実施するための最良の形態である実施例1〜5について、順次説明する。
【0026】
〔実施例1〕
図1は、本発明の内燃機関制御装置の実施例1の構成を示し、図2は、その通常の昇圧動作の場合の動作波形の一例を示す。
【0027】
図1に示すように、実施例1の内燃機関制御装置は、バッテリ電源(1)とその電源グランド(4)によって電源供給を受ける昇圧回路(100)と、この昇圧回路(100)で高電圧に昇圧された昇圧電圧(100A)を使ってインジェクタ(3)を駆動する駆動回路(200)があり、インジェクタ(3)の回生電流を昇圧回路(100)に回生するための電流回生ダイオード(2)を搭載している。内燃機関制御装置は、その他にエンジン回転センサを始めとする各種センサの入力回路を搭載し、それらの入力信号に応じてインジェクタ(3)の通電タイミングを演算する演算装置や、点火コイル駆動回路、スロットル駆動回路やその他の駆動回路を搭載し、他の制御装置との通信回路、各種診断やフェールセーフに対応した制御回路、それらに電源供給する電源回路などで構成されることもある。
【0028】
昇圧回路(100)は、バッテリ電源(1)の電圧を昇圧するためのインダクタンス成分を持った昇圧コイル(101)を有し、この昇圧コイルに通電する電流を通電/遮断する昇圧スイッチ素子(102−2)と、この昇圧スイッチ素子をマイナスサージから保護するスイッチング側ダイオード(102−1)と、昇圧コイルから昇圧スイッチ素子に流れる昇圧スイッチング電流(103A)を電圧に変換する昇圧スイッチング電流検出抵抗(103)と、昇圧スイッチ素子を遮断することによって、昇圧コイルに蓄えられたエネルギーが発生させる高電圧を昇圧コンデンサ(111)に充電させる経路を設け、また、昇圧コンデンサ(111)からバッテリ電源(1)への逆流を防止する充電ダイオード(110−1)と、該逆流の電流を通電/遮断する放電スイッチ素子(110−2)と、昇圧制御回路(120)から構成される。この昇圧制御回路は、昇圧制御部(124)、過昇圧解消制御部(123)、電圧検出部(122)及び電流検出部(121)から構成されている。
【0029】
通常の昇圧動作の場合、駆動回路(200)が昇圧電圧(100A)を使ってインジェクタ(3)に対しインジェクタ電流(3A)の通電を行い、その結果、図2に示すように、昇圧電圧(100A)が昇圧開始電圧(401)以下に低下したことを電圧検出部(122)が検出すると、昇圧制御部(124)が昇圧動作を開始する。昇圧動作を開始すると、昇圧制御部(124)は、昇圧スイッチ素子(102−2)を通電させるための昇圧制御信号(124B)をLOWからHIGHにする。これにより、昇圧コイル(101)にバッテリ電源(1)から電流が流れ、昇圧コイル(101)にエネルギーが蓄積される。昇圧コイルに流れる電流は、昇圧スイッチング電流(103A)として、昇圧スイッチング電流検出抵抗(103)によって電圧に変換され、電流検出部(121)によって検出される。
【0030】
図2に示すように、昇圧スイッチング電流(103A)が所定のスイッチング停止電流(410)を超えると、昇圧制御部(124)は、昇圧スイッチ素子(102−2)の開閉を制御する昇圧制御信号(124B)をHIGHからLOWにして、昇圧スイッチング電流を遮断する。これにより、昇圧コイル(101)に流れている電流は、昇圧スイッチ素子(102−2)を通じて電源グランドへ流れることができなくなり、昇圧コイル(101)のインダクタンス成分によって蓄えられたエネルギーは高電圧を発生する。そして、この電圧が、昇圧コンデンサ(111)に蓄えられた昇圧電圧(100A)と充電ダイオード(110−1)の順方向電圧を加えた電圧より高くなると、昇圧コイル(101)に蓄えられたエネルギーは、充電ダイオード(110−1)を通じて、充電電流(110A)として昇圧コンデンサ(111)に移行する。
【0031】
この際、充電電流(110A)は、昇圧スイッチ素子(102−2)が遮断する直前にコイルに流れていたスイッチング停止電流(410)から始まり、昇圧コンデンサ(111)へのエネルギー移行に伴って急速に減少する。昇圧電圧(100A)を検出する電圧検出部122が上記の動作により上昇した昇圧電圧(100A)が所定の昇圧停止電圧(402)に満たないことを検出する場合、昇圧制御部(124)は、通常、充電電流(110A)を検出することなく、予め定められた充電期間又は予め定められたスイッチング周波数に従って、昇圧スイッチ素子(102−2)を通電させるために昇圧制御信号(124B)をLOWからHIGHにする。この動作は、昇圧電圧が所定の昇圧停止電圧(402)になるまで、繰り返される。
【0032】
一方、駆動回路(200)によるインジェクタ電流(3A)の遮断が始まると、インジェクタ(3)からの回生電流が図2に示す通電電流下降期間(466)の間、電流回生ダイオード(2)を通じて昇圧コンデンサ(111)に流れることにより、上記の昇圧動作と同様に、インジェクタのインダクタンス成分に蓄えられていたエネルギーが、昇圧コンデンサ(111)に移行するので、昇圧コンデンサ(111)に蓄えられる昇圧電圧(100A)は上昇する。そして、昇圧電圧が所定の過昇圧解消開始電圧(403)を超えたことを電圧検出部(122)が検出すると、過昇圧解消制御部(123)は、昇圧制御部(124)が出力する昇圧実施信号(124B)がLOWであること、すなわち、昇圧動作が実施されていないことを確認し、更に、図3−2に示すように、昇圧動作が終了して、放電スイッチ素子(110−2)を通電させる際に、昇圧スイッチ素子(102−2)が遮断するために必要な昇圧スイッチ素子(102−2)固有の遅れ時間を考慮した放電デットタイム(480)を経過したことを確認して、昇圧コンデンサから電源グランドへの回路ショートを防止するために、過昇圧解消信号(123A)をLOWからHIGHにする。これにより、充電ダイオード(110−1)に並列に接続されている放電スイッチ素子(110−2)が通電し、昇圧コンデンサから昇圧コイル(101)を通じて余剰となったエネルギーを、充電電流(110A)の逆電流である放電電流(440)として、バッテリ電源(1)へ安全に戻す。昇圧電圧が所定の過昇圧解消停止電圧以下に低下したことを電圧検出部(122)が検出するまで、又は予め定められた過昇圧解消期間(452)を経過すると、過昇圧解消制御部は、過昇圧解消信号をHIGHからLOWにする。これにより、放電スイッチ素子(110−2)が遮断し、過昇圧解消動作は終了する。
【0033】
もし、この過昇圧解消動作中に、インジェクタ(3)へのピーク電流通電期間(463)が発生し、昇圧電圧(100A)が昇圧開始電圧(401)を下回った場合、過昇圧解消動作から昇圧動作に移行することになるが、図3−3に示すように、過昇圧解消動作が終了して、昇圧スイッチ素子(102−2)を通電させる際に、放電スイッチ素子(110−2)が遮断するために必要な放電スイッチ素子(110−2)固有の遅れ時間を考慮した昇圧デットタイム(481)が経過したことを確認して、昇圧コンデンサから電源グランドへの回路ショートを防止するために、昇圧実施信号(124A)をLOWからHIGHにする。
【0034】
なお、上記昇圧スイッチ素子(102−2)固有の遅れ時間を考慮した放電デットタイム(480)は、昇圧電圧(100A)を必要とする一般的なインジェクタ駆動回路の昇圧回路(100)で使用する昇圧スイッチ素子(102−2)としてNchFETを使用した場合、1〜10μs程度とするとよい。また、上記放電スイッチ素子(110−2)固有の遅れ時間を考慮した昇圧デットタイム(481)は、昇圧電圧(100A)を必要とする一般的なインジェクタ駆動回路の昇圧回路(100)で使用する放電スイッチ素子(110−2)としてPchFETを使用した場合には、1〜50μs程度とするとよい。
【0035】
次に、図3−1は、昇圧動作中に電流回生が発生した場合の動作波形の一例を示す。
昇圧動作中に電流回生が発生し、更に昇圧電圧(100A)が所定の過昇圧解消開始電圧(403)を超えたことを電圧検出部(122)が検出する場合、昇圧制御部(124)が出力する昇圧実施信号(124A)により過昇圧解消制御部(123)は昇圧動作が実施中であることを検出し、過昇圧解消動作の実施を保留する。
【0036】
昇圧電圧(100A)が所定の昇圧停止電圧(402)を超えたことを電圧検出部(122)が検出すると、昇圧制御部(124)は、図3−1に示すように、昇圧制御信号(124B)がLOWであることを確認するとこれを維持して昇圧動作を停止すると共に、昇圧実施信号(124A)をHIGHからLOWにする。これにより過昇圧解消制御部(123)は、保留されていた過昇圧解消動作を実施する。その実施の方法は、前記と同様である。
【0037】
他方、昇圧動作中に電流回生が発生した場合であって、昇圧電圧が所定の過昇圧解消開始電圧(403)を超えていることを電圧検出部(122)が検出しない場合には、過昇圧解消動作を実施しないので従来の昇圧回路と同様に、インジェクタ(3)からの電流回生によって昇圧コンデンサ(111)に蓄えられたエネルギーは、昇圧動作を補助するエネルギーとして使用され、昇圧復帰期間(405)を短縮することができる。
【0038】
なお、上記の実施例1において、ピーク電流下降期間(464)、保持1電流下降期間(465)でも、通電電流下降期間(466)と同様に、昇圧回路へ電流回生を行うと共に、昇圧コンデンサ(111)に蓄えられた昇圧電圧(100)が所定の過昇圧解消開始電圧(403)を超えた場合には、該昇圧コンデンサから昇圧コイル(101)を通じて、バッテリ電源に電流を戻して、昇圧電圧を所定の過昇圧解消停止電圧(404)まで下げる動作を行なうようにすることもできる。
【0039】
〔実施例2〕
図4は、本発明の内燃機関制御装置の実施例2の構成を示し、図5は、その通常の昇圧動作の場合の動作波形の一例を示す。
【0040】
図4に示すように、実施例2の内燃機関制御装置は、実施例1と比較し、駆動回路(200)によって、インジェクタ(3)とは異なる第2の負荷装置(5)を駆動するものであり、実施例1で説明したインジェクタ(3)の回生電流と同様に、第2の負荷装置(5)の回生電流を電流回生ダイオード(6)を通じてインジェクタ(3)を駆動する昇圧回路(100)に回生するものである。第2の負荷装置(5)は、インジェクタ(3)と同様に、インダクタンス成分によって駆動するものを例に説明する。なお、この第2の負荷装置(5)の具体例としては、例えば、燃料ポンプのような単発の電流回生を昇圧回路(100)へ行うものであれば、特に限定されるものではない。
【0041】
昇圧回路(100)は、過昇圧解消動作を昇圧電圧(100A)と昇圧実施信号(124A)のみで判定できるので、本来、インジェクタ(3)を駆動するための昇圧回路であっても、その回路構成を変えることなく、インジェクタ以外の第2の負荷装置(5)からの電流回生を受け入れることができるものである。第2の負荷装置を駆動する駆動回路において、図5に示す第2の負荷装置電流(5A)が、保持電流停止電流(470)で電流制御された電流を通電電流下降期間(471)内に短時間に立ち下げる場合に、通電電流下降に伴う第2の負荷装置を駆動する駆動回路の発熱を容易に抑制すること、更には、昇圧回路の昇圧復帰期間(405)を短縮することができる。
【0042】
昇圧回路(100)の回路構成が実施例1と同じであるので、昇圧回路(100)の動作も変わらないが、図4、図5に示す2種類の負荷から電流回生する昇圧動作の場合を説明する。インジェクタ(3)の通電に伴って発生する昇圧動作中に第2の負荷装置(5)からの電流回生が発生する場合、昇圧電圧(100A)が所定の過昇圧解消開始電圧(403)を超えたことを電圧検出部(122)が検出すると、過昇圧解消制御部(123)は、昇圧制御部(124)が出力する昇圧実施信号(124A)によって昇圧復帰期間(405)中であることを検出し、過昇圧解消動作の実施を保留する。
【0043】
昇圧電圧(100A)が所定の昇圧停止電圧(402)を超えたことを電圧検出部(122)が検出すると、昇圧制御部(124)は、図5に示すように、昇圧制御信号(124B)がLOWであることを確認して昇圧動作を停止すると共に、昇圧動作が終了して、放電スイッチ素子(110−2)を通電させる際に、昇圧スイッチ素子(102−2)が遮断するために必要な昇圧スイッチ素子(102−2)固有の遅れ時間を考慮した放電デットタイム(480)が経過したことを確認して昇圧実施信号(124A)をHIGHからLOWにする。これにより過昇圧解消制御部(123)は、保留されていた過昇圧解消動作を実施する。
【0044】
もし、この過昇圧解消動作中に、インジェクタ(3)へのピーク電流通電期間(463)が発生し、昇圧電圧(100A)が昇圧開始電圧(401)を下回った場合、過昇圧解消動作から昇圧動作に移行することになるが、過昇圧解消動作が終了して、昇圧スイッチ素子(102−2)を通電させる際に、放電スイッチ素子(110−2)が遮断するために必要な放電スイッチ素子(110−2)固有の遅れ時間を考慮した昇圧デットタイム(481)が経過したことを確認して、昇圧コンデンサから電源グランドへの回路ショートを防止するために、昇圧実施信号(124A)をLOWからHIGHにする。
【0045】
実施の方法は実施例1と同様である。
他方、昇圧動作中に電流回生が発生し、更に昇圧電圧(100A)が所定の過昇圧解消開始電圧(403)を超えたことを電圧検出部(122)が検出しない場合には、過昇圧解消動作を実施しないので従来の昇圧回路と同様に、第2の負荷装置(5)からの電流回生により昇圧コンデンサ(111)に蓄えられたエネルギーは、昇圧動作を補助するエネルギーとして使用され、昇圧復帰期間(405)を短縮することができる。
【0046】
その後、本来のインジェクタ電流(3A)を通電電流下降期間(466)内に短時間に立ち下げ、昇圧電圧(100A)が所定の過昇圧解消開始電圧(403)を超えたことを電圧検出部(122)が検出すると、過昇圧解消制御部(123)は、昇圧コンデンサ(111)から電源グランドへの回路ショートを防止するために、昇圧制御部(124)が出力する昇圧実施信号(124A)がLOWであり、昇圧動作が実施されていないことを確認し、過昇圧解消信号(123A)をLOWからHIGHにする。これにより、充電ダイオード(110−1)に並列に接続されている放電スイッチ素子(110−2)が通電し、昇圧コンデンサ(111)から昇圧コイル(101)を通じて余剰となったエネルギーを、充電電流(110A)の逆電流である放電電流(440)として、バッテリ電源(1)へ安全に戻すことができる。
【0047】
昇圧電圧(100A)が所定の過昇圧解消停止電圧(404)以下に低下したことを電圧検出部(122)が検出、又は予め定められた過昇圧解消期間(452)を過ぎると、過昇圧解消制御部(123)は、過昇圧解消信号(123A)をHIGHからLOWにし、これにより、放電スイッチ素子(110−2)を遮断し、一連の過昇圧解消動作を終了する。
【0048】
他方、昇圧動作中に電流回生が発生した場合であって、昇圧電圧が所定の過昇圧解消開始電圧(403)を超えていることを検出しない場合には、過昇圧解消動作を実施しないので従来の昇圧回路と同様に、インジェクタ(3)からの電流回生によって昇圧コンデンサ(111)に蓄えられたエネルギーは、昇圧動作を補助するエネルギーとして使用し、昇圧復帰期間(405)を短縮することができる。
【0049】
なお、上記の実施例2において、ピーク電流下降期間(464)、保持1電流下降期間(465)でも、通電電流下降期間(466)と同様に、昇圧回路へ電流回生を行うと共に、昇圧コンデンサ(111)に蓄えられた昇圧電圧(100)が所定の過昇圧解消開始電圧(403)を超えた場合には、該昇圧コンデンサから昇圧コイル(101)を通じて、バッテリ電源に電流を戻して、昇圧電圧を所定の過昇圧解消停止電圧(404)まで下げる動作を行なうようにすることもできる。
【0050】
〔実施例3〕
図6は、本発明の内燃機関制御装置の実施例3の構成を示す。
実施例3は、実施例1及び実施例2における昇圧制御回路(120)を、制御回路(300)で置き換えたものである。ここでは、実施例1を置き換えた場合を説明する。
【0051】
実施例3の制御回路(300)は、メモリ(304)に蓄えられたソフトウェアに従って演算器(303)が動作し、専用のハードウェアがなくても、汎用のマイクロコンピュータ等で実施例1の昇圧制御回路(120)と同等の機能を実現させるものである。
【0052】
制御回路(300)は、メモリ(304)と演算器(303)に加えて、実施例1における昇圧電圧を検出する電圧検出部と昇圧スイッチング電流を検出する電流検出部に代えて、それぞれ電圧をデジタル変換するA/D変換器(302)に直接的に又は増幅器(104)等を介して間接的に入力するようにし、これら入力信号を用いて演算器(303)が演算した結果に基づいて、インターフェイス部を介して、昇圧スイッチ素子(102−2)を制御する昇圧制御信号(124B)と放電スイッチ素子(110−2)を制御する過昇圧解消信号(123A)が出力される。
【0053】
なお、上記の実施例3において、ピーク電流下降期間(464)、保持1電流下降期間(465)でも、通電電流下降期間(466)と同様に、昇圧回路へ電流回生を行うと共に、昇圧コンデンサ(111)に蓄えられた昇圧電圧(100)が所定の過昇圧解消開始電圧(403)を超えた場合には、該昇圧コンデンサから昇圧コイル(101)を通じて、バッテリ電源に電流を戻して、昇圧電圧を所定の過昇圧解消停止電圧(404)まで下げる動作を行なうようにすることができることは、実施例1と同様である。
【0054】
〔実施例4〕
図7は、本発明の内燃機関制御装置の実施例4の構成を示す。
実施例4は、実施例1〜3の昇圧制御回路にある放電スイッチ素子(110−2)を、FETで置き換えたものである。また、FETにはその特有の性質として、そのドレイン、ソース間に寄生ダイオードを有するため、この寄生ダイオードを実施例1〜3の充電ダイオード(110―1)の代替として使用することにより、放電スイッチ素子と充電ダイオードを1つの充電FET(110)に集約し回路の簡略化を図ることができる。
【0055】
ここでは、図7を用いて、実施例1の放電スイッチ素子(110−2)を代替する充電FET(110)として、一般的なPchFETを用いて説明する。
【0056】
実施例4の特有な点は、昇圧制御回路(120)の過昇圧解消制御部(123)が出力する過昇圧解消信号(123A)を放電FETゲート駆動トランジスタ(112)を用いて反転処理し、過昇圧解消信号(123A)の反転信号であって2つの放電FETゲートプルアップ抵抗(113、114)によって分圧された反転信号(123B)を用いて、充電FET(110)を制御している点である。これは、充電FET(110)にPchFETを使用し、そのゲート電圧を簡単な回路構成で駆動する一般的なゲート駆動回路であり、こうしたゲート駆動回路を昇圧制御回路の過昇圧解消制御部(123)に取り込んで構成することも可能である。回路構成によっては、放電スイッチ素子を代替するFETとして、NchFETを使用することも可能であり、実際の用途やコストに応じてどちらを使うか決定される。
【0057】
実施例4では、スイッチング側ダイオード(102−1)と昇圧スイッチ素子(102−2)とを集約して、昇圧スイッチングFET(102)により置き換えるが、この場合、下流側駆動であるので、特性やコスト等の面で、NchFETを用いるのが一般的である。
【0058】
また、上記同様に、放電スイッチ素子(110−2)や昇圧スイッチ素子(102−2)をバイポーラ型トランジスタ、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)等で置き換えると、それぞれの特性を生かして通電電流を可変制御することや通常のFETでは耐えられない高電圧まで昇圧回路(100)で昇圧すること等も可能となる。
【0059】
なお、上記の実施例4において、ピーク電流下降期間(464)、保持1電流下降期間(465)でも、通電電流下降期間(466)と同様に、昇圧回路へ電流回生を行うと共に、昇圧コンデンサ(111)に蓄えられた昇圧電圧(100)が所定の過昇圧解消開始電圧(403)を超えた場合には、該昇圧コンデンサから昇圧コイル(101)を通じて、バッテリ電源に電流を戻して、昇圧電圧を所定の過昇圧解消停止電圧(404)まで下げる動作を行なうようにすることができることは、実施例1と同様である。
【0060】
〔実施例5〕
図8は、本発明の内燃機関制御装置の実施例5の構成を示す。
実施例5は、実施例4のFETを使用した昇圧回路(100)を、複数のインジェクタ(3−1、3−2)と第2の負荷装置(5)を駆動する駆動回路(200)に適用した一例である。
【0061】
バッテリ電圧(1)を昇圧した昇圧電圧(100A)を使用する直噴インジェクタにおいては、駆動回路(200)を2以上のインジェクタ(3−1、3−2)で共有することが一般的である。実際の内燃機関制御装置は、一の装置で4〜8気筒のエンジンに適用するが、駆動回路(200)は、1の回路で複数のインジェクタを駆動することが可能であり、図8では、1の駆動回路が2のインジェクタに適用された場合を図示している。昇圧回路(100)は、更に複数の駆動回路(200)により共有され、通常、エンジン1機に1〜2回路搭載される。昇圧回路が駆動回路を共有する数は、図2におけるインジェクタ電流(3A)のピーク電流通電期間(463)に駆動するための必要なエネルギー、エンジンの最高回転数、同一気筒での1回の燃焼に対するインジェクタ(3)からの燃料噴射回数などで決まる昇圧復帰期間(405)や昇圧回路(100)の自己発熱等によって決まる。
【0062】
昇圧回路(100)は、実施例1〜4の昇圧回路のように独立して動作するものとすることもできるが、制御回路(300)と昇圧回路(100)とを分離して制御回路間信号(300A)によって通信することにより、昇圧電圧を制御回路(300)から可変に制御すること、昇圧回路の自己診断結果を制御回路に返し、昇圧電源を必要としない駆動方法に切り換えて車両を修理店にまで運転するなどのシステムとしてより快適、安全な動作を実施するようにすることができる。
【0063】
昇圧回路(100)で昇圧された昇圧電圧(100A)は、昇圧回路(100)からの流出電流の過電流又はインジェクタ(3−1、3−2)側のハーネス断線等を検出するための昇圧側駆動電流(201A)を電圧に変換する昇圧側電流検出抵抗(201)と、図2におけるインジェクタ電流(3A)のピーク電流通電期間(463)に駆動するための昇圧側駆動FET(202)と、昇圧回路(100)故障時の逆電流を防止するための昇圧側保護ダイオード(203)を介して、インジェクタ(3−1、3−2)の上流側に接続される。
【0064】
インジェクタ(3−1、3−2)の上流側には、バッテリ側電流検出抵抗(211)、バッテリ側駆動FET(212)、バッテリ側保護ダイオード(213)が順次接続される。バッテリ側電流検出抵抗(211)は、バッテリ電源(210)からの過電流又はインジェクタ(3−1、3−2)側のハーネス断線等を検出するために、バッテリ側駆動電流(211A)を電圧に変換するものであり、バッテリ側駆動FET(212)は、図2に示したインジェクタ電流(3A)の保持1停止電流(461)と保持2停止電流(462)を駆動するためのものであり、バッテリ側保護ダイオード(213)は、昇圧電圧(100A)からバッテリ電源(210)への逆流を防止するためのものである。
【0065】
複数のインジェクタ(3−1、3−2)にはそれぞれに下流側駆動FETが接続される。実施例5では、下流側駆動FET1(220−1)又は下流側駆動FET2(220−2)のスイッチング操作により、通電されるインジェクタ(3−1、3−2)が決定され、各インジェクタに流れるインジェクタ電流(3−1A、3−2A)は、下流側駆動FETの更に下流においてまとめられ、電流を電圧に変換する下流側電流検出抵抗(221)を介して電源グランド(4)に流れる。
【0066】
また、インジェクタ電流(3−1A、3−2A)を通電する間に、上流側の昇圧側駆動FET(202)とバッテリ側駆動FET(212)を同時に遮断し、選択したインジェクタ(3−1又は3−2)側の下流側駆動FET1(220−1)又は下流側駆動FET2(220−2)を通電させることで生じるインジェクタの回生電流を還流させるために、電源グランド(4)から上記インジェクタの上流側に還流ダイオード(222)が接続される。
【0067】
また、インジェクタ電流(3−1A、3−2A)を通電する間に、上流側の昇圧側駆動FET(202)とバッテリ側駆動FET(212)そして下流側駆動FET1(220−1)と下流側駆動FET2(220−2)の全て遮断させることにより、選択したインジェクタ(3−1、3−2)の電気エネルギーを昇圧回路(100)に回生させるために、電流回生ダイオード(2−1、2−2)がインジェクタの下流から昇圧回路の昇圧電圧側に接続される。
【0068】
昇圧側駆動FET(202)、バッテリ側駆動FET(212)、下流側駆動FET1(220−1)及び下流側駆動FET2(220−2)の駆動素子は、エンジン回転数や各種センサからの入力条件に基づいて制御回路(300)から制御回路間信号(300B)を通じて駆動回路に与える通電タイミング信号、並びに昇圧側駆動電流(201A)を昇圧側電流検出抵抗(201)によって検出する昇圧側電流検出回路(241)と、バッテリ側駆動電流(211A)をバッテリ側電流検出抵抗(211)によって検出するバッテリ側電流検出回路(242)と、下流側駆動電流(211A)を下流側電流検出抵抗(221)によって検出する下流側電流検出回路(243)の検出値に基づいて、駆動信号を生成するゲート駆動ロジック回路(240)により制御される。
【0069】
図8に示されたとおり、第2の負荷装置(5)の上流側に上流側駆動FET(231)が接続され、第2の負荷装置(5)の下流側には、下流側駆動FET(232)、下流側駆動電流(233A)を電圧に変換する下流側電流検出抵抗(233)を経て、電源グランド(4)が接続される。第2の負荷装置電流(5A)を通電する間に、上流側駆動FET(231)を閉とし、下流側駆動FET(232)を開としたことで生じる第2の負荷装置(5)の回生電流を還流させるための還流ダイオード(234)が電源グランド(4)から第2の負荷装置(5)の上流側に接続され、更に第2の負荷装置電流(5A)を通電する間に、上流側駆動FET(231)と下流側駆動FET(232)を遮断することで生じる第2の負荷装置(5)の電気エネルギーを昇圧回路(100)に回生させるための電流回生ダイオード(6)が第2の負荷装置(5)の下流側から昇圧電圧(100A)に接続される。
【0070】
実施例5は、インジェクタの回生電流と同様に、第2の負荷装置(5)の回生電流を、電流回生ダイオード(6)を通じて、昇圧回路(100)に還流するものであり、ここで、上流側駆動FET(231)は、図5に示された第2の負荷装置電流(5A)の保持停止電流(470)を駆動し、下流側駆動FET(232)は、第2の負荷装置電流(5A)の回生電流を、還流ダイオード(234)を介して長時間で下降させるか、電流回生ダイオード(6)を介して昇圧回路(100)に電流を還流して短時間で下降させるかを選択することができる。
【0071】
上流側駆動FET(231)と下流側駆動FET(232)の駆動素子は、エンジン回転数や各種センサからの入力条件に基づいて制御回路(300)から制御回路間信号(300B)を通じて駆動回路に与える通電タイミング信号、並びに下流側駆動電流(233A)を下流側電流検出抵抗(233)によって検出する下流側電流検出回路(244)の検出値に基づいて、駆動信号を生成するゲート駆動ロジック回路(240)によって制御される。
【0072】
直噴インジェクタを駆動する内燃機関制御装置では、第2の負荷装置(5)の具体例として高圧に加圧した燃料を直噴インジェクタへ供給する高圧ポンプ制御用ソレノイドが代表的なものとしてあるが、これに限定されるものではない。
【0073】
以上、本発明の実施例を説明したが、本発明は上記の実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲の記載に基づく範囲において、様々な変更が可能なものである。
【0074】
なお、上記の実施例5において、ピーク電流下降期間(464)、保持1電流下降期間(465)でも、通電電流下降期間(466)と同様に、昇圧回路へ電流回生を行うと共に、昇圧コンデンサ(111)に蓄えられた昇圧電圧(100)が所定の過昇圧解消開始電圧(403)を超えた場合には、該昇圧コンデンサから昇圧コイル(101)を通じて、バッテリ電源に電流を戻して、昇圧電圧を所定の過昇圧解消停止電圧(404)まで下げる動作を行なうようにすることができることは、実施例2と同様である。
【産業上の利用可能性】
【0075】
本発明は、ガソリンや軽油等を燃料とする自動車、オートバイ、農耕機、工作機械、船舶機等において、バッテリ電圧を昇圧した高電圧を使って負荷を駆動するものであり、特に、気筒内直接噴射型インジェクタを駆動するのに好適な内燃機関制御装置に関する。本発明は、この気筒内直接噴射型インジェクタについて、ソレノイドを動力源とした電気的にインダクタンス成分を有するものだけでなく、ピエゾ素子を動力源とした電気的にコンデンサ成分を有するものを駆動し、過昇圧を解消し、昇圧回路へエネルギー回生を行う方式にも適用することができるものである。
【符号の説明】
【0076】
1・・・バッテリ電源、2・・・電流回生ダイオード、2−1・・・電流回生ダイオード、2−2・・・電流回生ダイオード、3・・・インジェクタ、3−1・・・インジェクタ1、3−1A・・・インジェクタ1電流、3−2・・・インジェクタ2、3−2A・・・インジェクタ2電流、4・・・電源グランド、5・・・第2の負荷装置、5A・・・第2の負荷装置電流、6・・・電流回生ダイオード、
100・・・昇圧回路、100A・・・昇圧電圧、101・・・昇圧コイル、102・・・昇圧スイッチングFET、102−1・・・スイッチング側ダイオード、102−2・・・昇圧スイッチ素子、103・・・昇圧スイッチング電流検出抵抗、103A・・・昇圧スイッチング電流、104・・・増幅器、110・・・充電FET、110−1・・・充電ダイオード、110−2・・・放電スイッチ素子、110A・・・充電電流、111・・・昇圧コンデンサ、112・・・放電FETゲート駆動トランジスタ、113・・・放電FETゲートプルアップ抵抗、114・・・放電FETゲートプルアップ抵抗、120・・・昇圧制御回路、121・・・電流検出部、122・・・電圧検出部、123・・・過昇圧解消制御部、123A・・・過昇圧解消信号、123B・・・過昇圧解消信号(123A)の反転信号、124・・・昇圧制御部、124A・・・昇圧実施信号、124B・・・昇圧制御信号、
200・・・駆動回路、201・・・昇圧側電流検出抵抗、201A・・・昇圧側駆動電流、202・・・昇圧側駆動FET、203・・・昇圧側保護ダイオード、210・・・バッテリ電源、211・・・バッテリ側電流検出抵抗、211A・・・バッテリ側駆動電流、212・・・バッテリ側駆動FET、213・・・バッテリ側保護ダイオード、220−1・・・下流側駆動FET1、220−2・・・下流側駆動FET2、221・・・下流側電流検出抵抗、221A・・・下流側駆動電流、222・・・還流ダイオード、230・・・バッテリ電源、231・・・上流側駆動FET、232・・・下流側駆動FET、233・・・下流側電流検出抵抗、233A・・・下流側駆動電流、234・・・還流ダイオード、240・・・ゲート駆動ロジック回路、241・・・昇圧側電流検出回路、242・・・バッテリ側電流検出回路、243・・・下流側電流検出回路、244・・・下流側電流検出回路、
300・・・制御回路、300A・・・昇圧回路と制御回路間信号、300B・・・駆動回路と制御回路間信号、301・・・インターフェイス部、302・・・A/D変換器、303・・・演算器、304・・・メモリ、
400・・・電源グランド電圧、401・・・昇圧開始電圧、402・・・昇圧停止電圧、403・・・過昇圧解消開始電圧、404・・・過昇圧解消停止電圧、405・・・昇圧復帰期間、410・・・スイッチング停止電流、420・・・スイッチングON信号、421・・・スイッチングOFF信号、430・・・昇圧実施中信号、431・・・昇圧停止中信号、440・・・放電電流、440−1・・・放電電流、440−2・・・放電電流、450・・・過昇圧解消ON信号、450−1・・・過昇圧解消ON信号、450−2・・・過昇圧解消ON信号、451・・・過昇圧解消OFF信号、452・・・過昇圧解消期間、452−1・・・過昇圧解消中期間、452−2・・・過昇圧解消中期間、460・・・ピーク電流停止電流、461・・・保持1停止電流、462・・・保持2停止電流、463・・・ピーク電流通電期間、464・・・ピーク電流下降期間、465・・・保持1電流下降期間、466・・・通電電流下降期間、470・・・保持電流停止電流、471・・・通電電流下降期間、480・・・放電デットタイム、481・・・昇圧デットタイム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
昇圧コイルによりバッテリ電圧を昇圧して昇圧コンデンサに高電圧充電する昇圧回路と、内燃機関に燃料を直接噴射するためのインジェクタを駆動するためのインジェクタ駆動回路と、前記インジェクタへ燃料を加圧して圧送する高圧燃料ポンプを通電して駆動するためのポンプ駆動回路と、を備えた内燃機関の制御装置であって、
前記ポンプ駆動回路による通電電流を下降させるときに、電気エネルギーを前記昇圧回路の前記昇圧コンデンサへ単発で回生するための回生回路を有することを特徴とする内燃機関の制御装置。
【請求項2】
前記昇圧回路は、前記昇圧コイルに発生する高電圧を前記昇圧コンデンサへ充電させる経路を生成する充電ダイオードと、前記充電ダイオードと並列に設けられた放電スイッチ素子と、を有し、前記放電スイッチ素子の切替えによって前記昇圧コンデンサへ充電された高電圧をバッテリに放電することを特徴とする請求項1に記載の内燃機関の制御装置。
【請求項3】
前記昇圧回路の前記昇圧回路内に蓄えられた高電圧が所定の過昇圧解消開始電圧よりも高くなった場合に、前記昇圧コンデンサへ充電された高電圧をバッテリに放電することを特徴とする請求項2に記載の内燃機関の制御装置。
【請求項4】
前記昇圧回路の前記昇圧回路内に蓄えられた高電圧が所定の過昇圧解消開始電圧よりも高くなった場合に、前記放電スイッチ素子の切替え動作の実施中は、前記放電スイッチ素子の通電を抑制し、
前記放電スイッチ素子の切替え動作の終了後に、前記放電スイッチ素子を通電させて、前記高電圧を前記バッテリ電源に放電することを特徴とする請求項2に記載の内燃機関の制御装置。
【請求項5】
前記昇圧回路の前記昇圧回路内に蓄えられた高電圧が所定の過昇圧解消開始電圧よりも高くなった場合に、前記放電スイッチ素子の切替え動作の実施中は、前記放電スイッチ素子の通電を抑制し、前記放電スイッチ素子の切替え動作の終了後に、前記放電スイッチ素子を通電させる際に、前記放電スイッチ素子が遮断するために必要な遅れ時間を考慮したデットタイムを設けて前記放電スイッチ素子を通電させるようにして、前記昇圧コンデンサから前記バッテリ電源に放電すると共に、
前記昇圧回路内に蓄えられた高電圧が所定の昇圧開始電圧よりも低くなった場合に、前記放電スイッチ素子の通電終了後に、昇圧スイッチ素子を通電させて昇圧動作に移行する際に、前記放電スイッチ素子が遮断するために必要な遅れ時間を考慮したデットタイムを設けて前記昇圧スイッチ素子を通電させるようにすることを特徴とする請求項2に記載の内燃機関の制御装置。
【請求項6】
請求項1から5のいずれかの請求項に記載の内燃機関の制御装置において、
アナログ電圧をデジタル化するA/D変換器と、メモリに蓄えられたプログラムにしたがって動作する演算器と、前記演算器と前記スイッチ素子の間に駆動信号を出力するインターフェイス部を有する制御回路を設け、
前記メモリに蓄えられたソフトウェアによって、汎用の制御回路を昇圧制御及び過昇圧解消制御に適用することを特徴とする内燃機関の制御装置。
【請求項7】
請求項1から6のいずれかの請求項に記載の内燃機関の制御装置において、
前記放電スイッチ素子としてFETを使用し、前記FETに含まれる寄生ダイオードで前記充電ダイオードを代用することを特徴とする内燃機関の制御装置。
【請求項8】
請求項1から7のいずれかの請求項に記載の内燃機関の制御装置において、
前記放電スイッチ素子として、バイポーラ型トランジスタを使用したことを特徴とする内燃機関の制御装置。
【請求項9】
請求項1から8のいずれかの請求項に記載の内燃機関の制御装置において、
前記放電スイッチ素子として、IGBTを使用したことを特徴とする内燃機関の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3−1】
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【図3−2】
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【図3−3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−145119(P2012−145119A)
【公開日】平成24年8月2日(2012.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−88535(P2012−88535)
【出願日】平成24年4月9日(2012.4.9)
【分割の表示】特願2007−188659(P2007−188659)の分割
【原出願日】平成19年7月19日(2007.7.19)
【出願人】(509186579)日立オートモティブシステムズ株式会社 (2,205)
【Fターム(参考)】