説明

内燃機関用エンジンの動弁装置

【課題】カムとシムとバルブリフタとの間のフリクションの低減が十分に図られた内燃機関用エンジンの動弁装置の提供。
【解決手段】バルブリフタ10の上端面11Aには円盤状の凹部11aが形成されている。凹部11aの軸心は、後述するシャフト31の軸方向へバルブリフタ10の軸心から離間して配置されている。シム20は円盤状をなしており、凹部11aの直径はシム20の直径よりも僅かに大きい。シム20は、凹部11aに当該凹部11aと略同軸的な位置関係でバルブリフタ10に対して摺接回転可能に収容されている。シム20の上面20Bに当接するカム30の外周面30Bの部分であってシャフト31の軸方向におけるカム30の外周面30Bの中央部は、バルブリフタ10の軸心上に配置されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は内燃機関用エンジンの動弁装置に関し、特に、バルブリフタ上面に設けられたシムに、カムが当接する構成を有する内燃機関用エンジンの動弁装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より内燃機関用エンジンの動弁装置としては、バルブリフタとシムとカムとを有する構成のものが知られている。内燃機関用エンジンのシリンダヘッドには吸気弁又は排気弁がバルブステムの下端と一体でバルブステムの軸方向へ往復移動可能に設けられており、バルブリフタはバルブステムの上端に設けられている。バルブリフタは、一端が蓋部により閉塞された略円筒状をなしており、バルブステムの上端はバルブリフタの他端側からバルブリフタ内空間へ挿入され、蓋部の中央部に当接している。バルブステムが当接している蓋部の内面は下面をなし、外面はバルブリフタの上端面をなす。下面、上端面はそれぞれ円形状をなし、バルブリフタの軸心に直交する。
【0003】
バルブリフタの上端面には円盤状の凹部が上端面に同軸的に形成されている。シムは、凹部よりも僅かに径の小さな円盤状をしており、バルブリフタ上端面の軸心とシムの軸心とが一致した位置関係で、バルブリフタに対して回転可能に凹部に収容されている。
【0004】
カムは、シャフトに回転可能に支持されており、シャフトは内燃機関用エンジンのクランクシャフトと同期して回転する。凹部の底面を画成しているバルブリフタの蓋部の上端面の部分に対向するシムの面はシムの下面をなすが、このシムの下面に対するシムの上面にカムの外周面は当接可能であり、当接した状態でシャフトと一体でカムが回転することにより、バルブリフタとバルブステムとバルブとが一体でバルブステムの軸方向へ往復移動するように構成されている。このような内燃機関用エンジンの動弁装置は、例えば、特開平11−210415号公報(特許文献1)に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平11−210415号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上述した従来の内燃機関用エンジンの動弁装置ではカムとシムとバルブリフタとの間のフリクションの更なる低減が要求されていた。そこで本発明は、カムとシムとバルブリフタとの間のフリクションの低減が十分に図られた内燃機関用エンジンの動弁装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明は、略円筒状をなし軸心に直交する円形の上端面を有し、エンジンの燃焼室を開閉するバルブと同期して該軸心の方向へ往復移動可能なバルブリフタと、略円盤状をなし該バルブリフタの軸心と平行をなすシム軸心を有し、該シム軸心を中心として該バルブリフタに対して摺接回転可能に該バルブリフタの上端面に設けられたシムと、該上端面に対向する該シムの下面に対する上面に外周面が当接可能であり、該エンジンのクランクシャフトと同期して回転するシャフトに支持され該シャフトと一体で回転するカムとを備え、該カムの外周面と該シムの上面とを当接させることにより該バルブを該クランクシャフトの回転と同期させて往復移動させるエンジンの動弁装置において、該シム軸心は該シャフトの軸方向へ該バルブリフタの軸心から離間して配置され、該シムの上面に当接する該カムの外周面の部分は該バルブリフタの軸心上に配置されている内燃機関用エンジンの動弁装置を提供している。
【0008】
ここで、該シム軸心から該バルブリフタの軸心までの距離をeとし、該シムの直径をdとしたときに、1/20 ≦ e/d ≦ 1/5であることが好ましい。また、該バルブリフタの該上端面には該シムを収容可能な円盤状の凹部が形成され該シムは該凹部に収容され、該凹部の底面には潤滑油を溜めるための油溜め凹部が形成されていることが好ましい。
【0009】
また、該油溜め凹部は略円盤形状をなし該油溜め凹部には、油を供給するための潤滑油流路が連通し、該油溜め凹部の軸心は該シム軸心に略一致し、該潤滑油流路は該バルブリフタの軸心位置において該油溜め凹部に接続されていることが好ましい。
【0010】
また、該シムの直径をdとし、該シムの周面と該凹部の周面を画成している該バルブリフタの部分との隙間をcとしたときに、1/500 ≧c/d≧ 1/2000であることが好ましい。
【0011】
また、該シムの厚さをTとし、該バルブリフタの軸心方向における凹部の高さをhとしたときに、1 ≧h/T≧ 0.9であることが好ましい。また、該シムの直径をdとし、該バルブリフタの軸心方向における凹部の高さをhとしたときに、 1/5 ≧ h/d ≧ 1/20であることが好ましい。
【0012】
また、該バルブリフタの軸心を中心として該バルブリフタが回転しないようにするための回転止めが設けられていることが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
請求項1記載の内燃機関用エンジンの動弁装置によれば、シム軸心はシャフトの軸方向へバルブリフタの軸心から離間して配置され、シムの上面に当接するカムの外周面の部分はバルブリフタの軸心上に配置されているため、バルブリフタの軸心が指向する方向を安定させることができ、バルブリフタが傾こうとする力の発生を極力小さくすることができ、安定してバルブリフタを往復移動させることができる。
【0014】
この結果、カムの外周面とシムの上面との接触でシムが回転するので、シムの下面及び周面とバルブリフタの上端面との間では液体潤滑油の動的流体潤滑の作用による油膜形成を利用して、シムをバルブリフタに対して僅かに浮かせて回転させることができる。この結果、バルブリフタとシムとの滑り流体摩擦と、シムとカムとの転がり摩擦との相互作用により、バルブリフタ、シム、及びカムの全体のフリクションを低減することができる。
【0015】
請求項2記載の内燃機関用エンジンの動弁装置によれば、該シム軸心から該バルブリフタの軸心までの距離をeとし、該シムの直径をdとしたときに、1/20 ≦ e/d ≦ 1/5であるため、バルブリフタの寸法との関係でシムの上面に当接するカムの外周面の部分をシム軸心から十分にオフセットした状態にすることができ、バルブリフタに対してシムをより効果的に回転させることができる。
【0016】
請求項3記載の内燃機関用エンジンの動弁装置によれば、バルブリフタの上端面にはシムを収容可能な円盤状の凹部が形成されシムは凹部に収容され、凹部の底面には潤滑油を溜めるための油溜め凹部が形成されているため、シムの下面及び周面と凹部の底面及び周面を画成するバルブリフタの部分との間に十分に潤滑油を巡らせることができる。
【0017】
請求項4記載の内燃機関用エンジンの動弁装置によれば、油溜め凹部は略円盤形状をなし油溜め凹部には、油を供給するための潤滑油流路が連通し、油溜め凹部の軸心はシム軸心に略一致し、潤滑油流路はバルブリフタの軸心位置において油溜め凹部に接続されているため、潤滑油流路から油溜め凹部へ供給された潤滑油を油溜め凹部内に容易且つ十分に行き渡らせることができ、凹部を画成しているバルブリフタの部分とシムとの間に容易且つ十分に行き渡らせることができる。
【0018】
請求項5記載の内燃機関用エンジンの動弁装置によれば、シムの直径をdとし、シムの周面と凹部の周面を画成しているバルブリフタの部分との隙間をcとしたときに、1/500 ≧c/d≧ 1/2000であるため、凹部を画成しているバルブリフタの部分とシムとの間に潤滑油を容易且つ十分に行き渡らせて、シムの回転に利用することができる。
【0019】
請求項6記載の内燃機関用エンジンの動弁装置によれば、該シムの厚さをTとし、該バルブリフタの軸心方向における凹部の高さをhとしたときに、1 ≧h/T≧ 0.9であるため、シムの回転により、凹部を画成しているバルブリフタの部分とシムとの間に潤滑油を容易且つ十分に行き渡らせ、シムの周面と凹部を画成しているバルブリフタの部分との間に、動的潤滑による油膜を形成することができる。
【0020】
請求項7記載の内燃機関用エンジンの動弁装置によれば、該シムの直径をdとし、該バルブリフタの軸心方向における凹部の高さをhとしたときに、1/5 ≧ h/d ≧ 1/20であるため、シムの回転により、凹部を画成しているバルブリフタの部分とシムとの間に潤滑油をより確実に容易且つ十分に行き渡らせ、シムの周面と凹部を画成しているバルブリフタの部分との間に、より確実に動的潤滑による油膜を形成することができる。
【0021】
請求項8記載の内燃機関用エンジンの動弁装置によれば、バルブリフタの軸心を中心としてバルブリフタが回転しないようにするための回転止めが設けられているため、バルブリフタがバルブリフタの軸心を中心として回転することを防止することができ、安定してバルブリフタを往復移動させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の実施の形態による内燃機関用エンジンの動弁装置を示す図であり、(a)は平面図、(b)は前方断面図、(c)側面図。
【図2】本発明の実施の形態による内燃機関用エンジンの動弁装置のシムを示す図であり、(a)は底面図、(b)は正面図。
【図3】本発明の実施の形態による内燃機関用エンジンのバルブリフタを示す斜視図。
【図4】本発明の実施の形態による内燃機関用エンジンの動弁装置の変形例を示す図であり、(a)は平面図、(b)は前方断面図、(c)側面図。
【図5】本発明の実施の形態による内燃機関用エンジンのバルブリフタの変形例を示す斜視図。
【図6】本発明の実施の形態による内燃機関用エンジンの動弁装置のシムの変形例を示す図であり、(a)は底面図、(b)は正面図。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明の実施の形態による内燃機関用エンジンの動弁装置について図1乃至図2に基づき説明する。図1に示すように、内燃機関用エンジンの動弁装置1はバルブリフタ10とシム20とカム30とを備えている。動弁装置1が設けられている内燃機関用エンジンのシリンダヘッドには、エンジンの燃焼室を開閉する図示せぬ吸気弁又は排気弁のバルブが、バルブステム19(図1(b)等)の下端と一体でバルブステム19の軸方向へ往復移動可能に設けられている。バルブリフタ10はバルブステム19の上端に設けられている。
【0024】
バルブリフタ10は、一端が蓋部11により閉塞された略円筒状をなしており、図1(a)に示すように、蓋部11は略円盤形状をなしている。バルブリフタ10の直径は20mm〜40mm程度である。バルブステム19の上端はバルブリフタ10の他端側からバルブリフタ10内空間へ挿入されており、蓋部11の中央部に当接している。バルブステム19の上端近傍部には、フランジ状のスプリングリテーナ19Aが設けられており、スプリングリテーナ19Aの図1に示される下面には、スプリング19Bの上端が当接している。バルブステム19が当接している蓋部11の内面は下面11Bをなし、外面はバルブリフタ10の上端面11Aをなす。上端面11A及び下面11Bはバルブリフタ10の軸心に直交する。以上の構成によりバルブリフタ10は、図示せぬ吸気弁又は排気弁のバルブと同期して軸心の方向へ往復移動可能である。
【0025】
バルブリフタ10の上端面11Aには円盤状の凹部11aが形成されている。凹部11aの直径は上端面11Aの直径よりも小さく、凹部11a全体が上端面11A上に配置されている。凹部11aの直径は、後述するシム20の直径よりも僅かに大きく、バルブリフタ10の軸方向における凹部11aの高さは、後述するシム20の軸方向におけるシム20の高さよりも僅かに低い。
【0026】
凹部11aの軸心は、後述するシャフト31の軸方向へバルブリフタ10の軸心から離間して配置されている。凹部11aの軸心の位置と後述するシム20の軸心の位置とは略一致する位置関係をなすのであるが、該シム20の軸心からバルブリフタ10の軸心までの距離をe(図1(a))とし、シム20の直径をdとすると、e/dは20分の1以上5分の1以下となるような値である。このような値であるため、後述するシム20の上面20Bに当接する後述のカム30の外周面30Bの部分をシム20の軸心から十分にオフセットさせることができ、後述のようにカム30をシャフト31と一体で回転させているときに、バルブリフタ10に対してシム20をより効果的に回転させることができる。20分の1以上としたのは、これよりも小さい場合にはシム20の効果的な回転を期待できないからである。5分の1以下としたのは、凹部11a全体を上端面11A上に配置するためである。また、バルブリフタ10の軸心方向における凹部11aの高さhは2.0mm〜4.0mm程度である。
【0027】
凹部11aの底面には潤滑油を溜めるための油溜め凹部11bが形成されている。油溜め凹部11bは、凹部11aの軸方向における凹部11aの高さよりも同方向における高さがはるかに低く、且つ、凹部11aの直径よりもはるかに直径の小さな略円盤形状をなしている。油溜め凹部11bの軸心は後述のシム20の軸心に略一致するように形成されている。
【0028】
油溜め凹部11bには潤滑油を供給するための潤滑油流路11cが連通している。潤滑油流路11cはバルブリフタ10の軸心位置において油溜め凹部11bに接続され連通しており、当該接続位置から図1(b)、(c)の下方へ延び、直角に折れ曲がり、蓋部11内部において蓋部11の半径方向へ延出しバルブリフタ10の周面に形成された油供給溝10bに開口している。
【0029】
上述のように凹部11aの底面には潤滑油を溜めるための油溜め凹部11bが形成されているため、後述するシム20の下面20C及び周面20Aと、凹部11aを画成する蓋部11の部分11Dとの間に十分に潤滑油を巡らせることができる。また、油溜め凹部11bの軸心はシム20の軸心に略一致し、潤滑油流路11cはバルブリフタ10の軸心位置において油溜め凹部11bに接続されているため、潤滑油流路11cから油溜め凹部11bへ供給された潤滑油を油溜め凹部11b内に容易且つ十分に行き渡らせることができ、凹部11aを画成している蓋部11の部分11Dとシム20との間に容易且つ十分に行き渡らせることができる。
【0030】
また、バルブリフタ10には、図3に示すように、バルブリフタ10の軸心を中心としてバルブリフタ10が回転しないようにするための回転止め部が設けられている。回転止め部は、図3に示すように、バルブリフタ10の周面に、バルブリフタ10の軸方向に延びバルブリフタ10を半径方向に貫通する貫通孔10aが形成されて構成されている。貫通孔10aは、図3においてバルブリフタ10の軸方向における上端面11Aよりも下側へ少し下がった位置から、下端面よりも上側へ少し上がった位置に至るまで形成された長円形状をなしている。貫通孔10aには図示せぬ係合部が常時係合しており、このことにより、バルブリフタ10がバルブリフタ10の軸心を中心として回転することを防止することができ、安定してバルブリフタ10を往復移動させることができる。
【0031】
シム20は円盤状をなしており、バルブリフタ10の上端面11Aの凹部11aに、当該凹部11aと略同軸的な位置関係でバルブリフタ10に対して摺接回転可能に収容されている。シム20の直径は17mm〜37mm程度であり、軸方向の厚さは2.0mm〜4.0mm程度である。ここで、シム20の直径をdとし、シム20の厚さをTとすると、T/dは1/20以上1/5以下である。1/20以上としたのは周面の油膜形成確保のためであり、1/5以下としたのは重量慣性の制限のためである。また、シム20の厚さをTとし、前述のようにバルブリフタ10の軸心方向における凹部11aの高さをhとしたときに、h/Tは0.9以上1以下である。0.9以上としたのはシムの周面の軸受幅径比を大きくするためであり、1以下としたのはカム30が蓋部11に接触することを防ぐためである。上述のようなT/dの値の範囲、h/Tの値の範囲とすることで、凹部11aを画成している蓋部11の部分11Dとシム20との間に潤滑油を容易且つ十分に行き渡らせることができ、効果的にシム20を回転させることができる。
【0032】
また、シム20の直径をdとし、シム20の周面20Aと凹部11aの周面を画成しているバルブリフタ10の部分11Cとの隙間をcとしたときに、cは30μm程度であり、c/dは1/2000以上1/500以下である。このような値の関係とすることで、凹部11aの周面を画成しているバルブリフタ10の部分11Cとシム20の周面20Aとの間に潤滑油を容易且つ十分に行き渡らせることができ、シム20を回転させることができる。1/2000以上としたのはシム20の周面20Aの軸受隙間比を極力小さくして油膜形成に有利とするためであり、1/500以下としたのは油膜形成が不利となることを防ぐためである。
【0033】
図1〜図2には明確に表れていないが、シム20の周面20Aと上面20Bと接続部分、及びシム20の周面20Aと下面20Cと接続部分には、それぞれ面取りが施されている。また、シム20の下面20Cにはオイル溝20aが形成されている。オイル溝20aは、図2(a)に示すように互いに直交し合うように直径方向に2本形成されており、深さは0.3mm程度である。
【0034】
更に、シム20の周面20A及び下面20Cには、超仕上げ(研磨加工)、リン酸塩皮膜処理、DLC、PVD等の表面処理加工が施されている。これらの加工や表面処理は、適宜選択して用いられることが好ましい。また、シム20の上面20Bには、研削仕上げが施されていることが好ましい。
【0035】
図1(b)、(c)に示すように、カム30は、エンジンの図示せぬクランクシャフトと同期して回転するシャフト31に固定されることにより支持されている。カム30は、外周面30Bがシャフト31の軸心と平行となる位置関係となるように配置されており、シャフト31が回転することにより、シャフト31と一体で周方向へ回転するように構成されている。カム30の周方向における一部は、半径方向に突出してリフト量を発生させるノーズ30Aを有しており、カム30の外周面30Bはシム20の上面20Bに当接している。このように当接した状態でシャフト31と一体でカム30が回転することにより、バルブリフタ10とバルブステム19と図示せぬバルブとが一体でバルブステム19の軸方向へクランクシャフトの回転と同期して往復移動するように構成されている。
【0036】
シム20の上面20Bに当接するカム30の外周面30Bの部分であってシャフト31の軸方向におけるカム30の外周面30Bの中央部は、バルブリフタ10の軸心上に配置されている。このため、バルブリフタ10の軸心が指向する方向を安定させることができ、バルブリフタ10が傾こうとする力の発生を極力小さくすることができ、安定してバルブリフタ10を往復移動させることができる。
【0037】
この結果、カム30の外周面30Bとシム20の上面20Bとの接触でシム20が回転するので、シム20の下面20C及び周面20Aと、凹部11aを画成する蓋部11の部分11Dとの間で動的な流体潤滑の作用による油膜の形成を利用して、バルブリフタ10を回転させることなく、シム20をバルブリフタ10に対して僅かに浮かせて回転させることができる。この結果、バルブリフタ10とシム20との間の滑り流体摩擦とシム20とカム30との間の転がり摩擦との相互作用により、バルブリフタ10、シム20、及びカム30の全体のフリクションを低減することができる。なお、本実施の形態の構成は燃料噴射ポンプ等のカム従動子装置にも応用可能である。
【0038】
本発明の内燃機関用エンジンの動弁装置は、上述した実施の形態に限定されず、特許請求の範囲に記載した範囲で種々の変形や改良が可能である。例えば、本実施の形態では、シム20は1つのみ設けられていたが、1つに限定されない。
【0039】
例えば、図4に示すようにシム120、121を2枚重ねの構成とし、同軸的な位置関係で互いに相対的に摺接回転可能としてもよい。本実施の形態のオイル溝20aと同様のオイル溝が、シム120の下面120Cとシム121の下面121Cとにそれぞれ形成される。このような構成の場合には、2枚重ねされたシム120、121の厚さの総和をTとする。
【0040】
また、シム120の軸心位置には潤滑油を流すための貫通孔120bが形成されており、シム120の上面120Bには油溜め凹部11bよりも径の小さな略円盤状の油溜め凹部120cが形成されている。油溜め凹部120cの軸心はシム20の軸心に一致する。従って、油溜め凹部120cの中央位置において、貫通孔120bは油溜め凹部120cに連通している。
【0041】
実際にはバルブリフタ10の凹部11aの加工や、精度出しは難しいので、所望の形状に加工したり、所望の精度としたりするとコスト高となる。しかし、このようにシムを2枚の構成とすることで、バルブリフタ10の凹部11aの部分をラフに加工することができ、これに対しシムを精度よく簡単に加工することができる。従って、このように2枚のシムの構成としても、バルブリフタ10を製造するためのトータルコストを下げることができる可能性がある。更に2次効果として、図4のシム120、121同士の接触部の面粗さを小さくすることで、油膜形成状態がよくなり流体潤滑になることから低フリクション化を図ることができ、シム121が回転しやすくなる。
【0042】
また、回転止め部の溝の形状は、本実施の形態の形状に限定されない。例えば、図5に示すように、溝110aが図5においてバルブリフタ10の軸方向における上端面11Aから下端面に至るまで形成されて構成されてもよい。
【0043】
また、シムの下面に形成されるオイル溝の形状や本数は本実施の形態の形状に限定されない。例えば、シムの直径方向に延びる1本のオイル溝が形成されていてもよい。
【0044】
また、図6に示すように、シム20´の上面20Bから下面20Cへと貫通する油孔20bをオイル溝20aと合わせて形成してもよい。油孔20bは直径1mm〜2mmの細孔から構成されている。このようにすることで、カム30とシム20´との当接に伴う潤滑油の絞りを利用する油の供給を行うことが可能である。更に油孔の数や油孔が形成されている位置は図6に示す数、位置に限定されない。油孔が形成される位置は、シム20´の中心からの距離が、シム20´の直径dの1/8以上1/4以下の範囲内に形成されていることが好ましい。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明の内燃機関用エンジンの動弁装置は、バルブリフタ上面に設けられたシムに、カムが当接する構成を有する内燃機関用エンジンの動弁装置の分野において特に有用である。
【符号の説明】
【0046】
1 内燃機関用エンジンの動弁機構
10 バルブリフタ
11A 上端面
20C 下面
11a 凹部
11b 油溜め凹部
20、120、121 シム
20A 周面
30 カム
31 シャフト

【特許請求の範囲】
【請求項1】
略円筒状をなし軸心に直交する円形の上端面を有し、エンジンの燃焼室を開閉するバルブと同期して該軸心の方向へ往復移動可能なバルブリフタと、
略円盤状をなし該バルブリフタの軸心と平行をなすシム軸心を有し、該シム軸心を中心として該バルブリフタに対して摺接回転可能に該バルブリフタの上端面に設けられたシムと、
該上端面に対向する該シムの下面に対する上面に外周面が当接可能であり、該エンジンのクランクシャフトと同期して回転するシャフトに支持され該シャフトと一体で回転するカムとを備え、
該カムの外周面と該シムの上面とを当接させることにより該バルブを該クランクシャフトの回転と同期させて往復移動させるエンジンの動弁装置において、
該シム軸心は該シャフトの軸方向へ該バルブリフタの軸心から離間して配置され、該シムの上面に当接する該カムの外周面の部分は該バルブリフタの軸心上に配置されていることを特徴とする内燃機関用エンジンの動弁装置。
【請求項2】
該シム軸心から該バルブリフタの軸心までの距離をeとし、該シムの直径をdとしたときに、
1/20 ≦ e/d ≦ 1/5
であることを特徴とする請求項1記載の内燃機関用エンジンの動弁装置。
【請求項3】
該バルブリフタの該上端面には該シムを収容可能な円盤状の凹部が形成され該シムは該凹部に収容され、該凹部の底面には潤滑油を溜めるための油溜め凹部が形成されていることを特徴とする請求項1記載の内燃機関用エンジンの動弁装置。
【請求項4】
該油溜め凹部は略円盤形状をなし該油溜め凹部には、油を供給するための潤滑油流路が連通し、該油溜め凹部の軸心は該シム軸心に略一致し、該潤滑油流路は該バルブリフタの軸心位置において該油溜め凹部に接続されていることを特徴とする請求項3記載の内燃機関用エンジンの動弁装置。
【請求項5】
該シムの直径をdとし、該シムの周面と該凹部の周面を画成している該バルブリフタの部分との隙間をcとしたときに、
1/500 ≧ c/d ≧ 1/2000
であることを特徴とする請求項3記載の内燃機関用エンジンの動弁装置。
【請求項6】
該シムの厚さをTとし、該バルブリフタの軸心方向における凹部の高さをhとしたときに、
1 ≧ h/T ≧ 0.9
であることを特徴とする請求項3記載の内燃機関用エンジンの動弁装置。
【請求項7】
該シムの直径をdとし、該バルブリフタの軸心方向における凹部の高さをhとしたときに、
1/5 ≧ h/d ≧ 1/20
であることを特徴とする請求項6記載の内燃機関用エンジンの動弁装置。
【請求項8】
該バルブリフタの軸心を中心として該バルブリフタが回転しないようにするための回転止めが設けられていることを特徴とする請求項1記載の内燃機関用エンジンの動弁装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−111999(P2011−111999A)
【公開日】平成23年6月9日(2011.6.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−270363(P2009−270363)
【出願日】平成21年11月27日(2009.11.27)
【出願人】(503361813)学校法人 中村産業学園 (26)
【出願人】(390022806)日本ピストンリング株式会社 (137)
【Fターム(参考)】