説明

内燃機関用組合せオイルリング及びその組付構造

【課題】低回転・高負圧状態においてオイル消費を低減する内燃機関用組合せオイルリングの組付構造を提供する。
【解決手段】径方向外方X1に突出する上下2つのレール部1,2を連結部3で連結したオイルリング本体11と、その連結部3の径方向内方中央に形成された内周溝4に配置されて前記オイルリング本体11を径方向外方X1に押圧付勢するコイルエキスパンダ12とからなる組合せオイルリング10を、リング溝21に装着してシリンダ内に組み付けた組付構造50において、組合せオイルリング10の張力をシリンダ内径で除した張力比が0.05〜0.3N/mmの範囲であり、リング溝下面の径方向外周端部に設けられた面取部24又は下側レール部下面の径方向外周端部に設けられた切欠部を有し、リング溝下面22と下側レール部1との径方向の当接長さb2を、リング溝上面23と上側レール部2との径方向の当接長さb1の60〜98%とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関用組合せオイルリング及びその組付構造に関し、更に詳しくは、低回転・高負圧状態においてオイル消費を低減することができる内燃機関用組合せオイルリング及びその組付構造に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、内燃機関においては、複数のシリンダが設けられ、各シリンダにピストンが上下動可能に支持されている。ピストンの外周面には複数のリング溝が設けられ、そのリング溝にピストンリングが装着されている。そうしたピストンリングには、上方側に装着されるトップリング及びセカンドリング等の圧力リングと、圧力リングの下方側に装着されるオイルリングとがある。圧力リングは、ガスシール機能及び熱伝達機能を有し、一方、オイルリングは、シリンダ内壁面に適切なオイルの膜を形成するため、シリンダ内壁面に付着したオイルの余剰分を掻き落とす機能や、オイルシール性を維持する機能を有する。
【0003】
オイルリングをピストンのリング溝に装着したオイルリングの組付構造において、そのオイルリングは、圧力リングに対して張力(リングを径方向外方に拡張する力)を高くすることにより、オイルを必要最小限の量だけシリンダ内壁面に供給し、余分なオイルを掻き落として回収するする機能(オイルコントロール機能)を担っている。オイルリングには、2ピースタイプのオイルリングや3ピースタイプのオイルリング等、各種の形態が知られている(例えば特許文献1,2)。
【0004】
2ピースタイプのオイルリングは、例えば特許文献1に示すように、一対のレール部が一体に形成されたリング本体と、そのリング本体の内側の軸方向中央に配置されてリング本体を径方向外方に付勢するコイルエキスパンダとからなり、一対のレール部の外周端がシリンダ内壁面に摺接するオイルリングである。この2ピースタイプのオイルリングをピストンのリング溝に装着したオイルリングの組付構造において、シリンダ内のピストンが工程中央から上死点に行き、工程中央に戻ってくる間は、オイルリングの上側レール部がリング溝上面に当接し、上側レール部がリング溝上面に当接した状態で摺動し、一方、シリンダ内のピストンが工程中央から下死点に行き、工程中央に戻ってくる間は、オイルリングの下側レール部がリング溝下面に当接し、下側レール部がリング溝下面に当接した状態で摺動する。
【0005】
なお、特許文献2に記載の2ピースタイプのオイルリングを参考までに示す。この2ピースタイプのオイルリングは、上側レール部が常時リング溝の上面に押し当てられ、コイルエキスパンダが常時リング溝の下面に押し当てられているものである。このような構成とすることで、リング本体の上面とリング溝の上側面との間に生じる隙間を閉じて、その隙間を介して生じるオイル上がりを軽減させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭61−45172号公報
【特許文献2】特開2002−310002号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
近年、低フリクション化の要請から、2ピースタイプのオイルリングは軽量化し、さらに低張力化の傾向になっている。こうした2ピースタイプのオイルリングの軽量化・低張力化の状況下、内燃機関を低回転・高負圧の条件で運転した際におけるオイル消費量は、慣性力が小さいために、オイルの付着力の影響により、オイルリングが本来リング溝上面に着座しているべき吸入・爆発行程でリング溝下面に着座するため、高〜中回転・高負圧の条件で運転した場合に比べて高まる傾向(オイルを消費しやすい傾向)にあると予想されるものの、十分な検討が行われていなかった。
【0008】
本発明は、上記問題を解決するためになされたものであり、その目的は、低回転・高負圧状態においてオイル消費量を低減することができる内燃機関用2ピースタイプのオイルリング(以下、「組合せオイルリング」という。)の組付構造を提供することにある。また、本発明の他の目的は、低回転・高負圧状態においてオイル消費量を低減することができる内燃機関用組合せオイルリングを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するための本発明に係る内燃機関用組合せオイルリングの組付構造は、径方向外方に突出する上下2つのレール部を連結部で連結したオイルリング本体と、該連結部の径方向内方中央に形成された内周溝に配置されて前記オイルリング本体を径方向外方に押圧付勢するコイルエキスパンダとからなる内燃機関用組合せオイルリングを、ピストンの外周面に形成されたリング溝に装着してシリンダ内に組み付けてなる内燃機関用組合せオイルリングの組付構造において、前記組合せオイルリングの張力を前記シリンダ内径で除した張力比が0.05〜0.3N/mmの範囲であり、前記ピストンのリング溝下面の径方向外周端部に設けられた面取部、又は、前記オイルリング本体の下側レール部下面の径方向外周端部に設けられた切欠部を有し、前記リング溝の下面と下側レール部との径方向の当接長さが、前記リング溝の上面と上側レール部との径方向の当接長さの60%〜98%であることを特徴とする。
【0010】
本発明に係る内燃機関用組合せオイルリングの組付構造において、前記オイルリング本体の軸方向幅が2mm以下であることが好ましい。
【0011】
上記課題を解決するための本発明に係る内燃機関用組合せオイルリングは、径方向外方に突出する上下2つのレール部を連結部で連結したオイルリング本体と、該連結部の径方向内方中央に形成された内周溝に配置されて前記オイルリング本体を径方向外方に押圧付勢するコイルエキスパンダとからなり、ピストンの外周面に形成されたリング溝に装着される内燃機関用組合せオイルリングにおいて、前記組合せオイルリングの張力を前記ピストンが組み付けられるシリンダ内径で除した張力比が0.05〜0.3N/mmの範囲であり、前記2つのレール部のうち前記リング溝の下面側に当接する下側レール部の径方向幅が、前記リング溝の上面側に当接する上側レール部の径方向幅の60%〜98%であることを特徴とする。
【0012】
本発明に係る内燃機関用組合せオイルリングにおいて、前記オイルリング本体の軸方向幅が2mm以下であることが好ましい。
【0013】
(作用)
組合せオイルリングをピストンのリング溝に装着してシリンダ内に組み付けてなる本発明に係る内燃機関用組合せオイルリングの組付構造は、オイル消費量を低減することができる。この理由は以下のとおりである。すなわち、低回転・高負圧状態である低速域(例えば2000rpm/min未満)では、シリンダ内のピストンが上死点に向かって移動する排気・圧縮行程における負圧作用時において、軽量で低張力化した組合せオイルリングを構成する下側レール部がリング溝の下面にオイルを介して張り付いて離れにくくなる。そのため、オイルリングの移動タイミングが遅れる。その結果、負圧作用時における上面側のオイルシールが不十分となり、過大なオイル上がりを引き起こしてしまう。
【0014】
本発明に係る内燃機関用組合せオイルリングの組付構造では、リング溝下面の径方向外周端部に設けられた面取部又は下側レール部下面の径方向外周端部に設けられた切欠部を有し、リング溝の下面と下側レール部との径方向の当接長さを、前記リング溝の上面と上側レール部との径方向の当接長さの60%〜98%と短くしているので、低回転・高負圧状態であっても、下側レール部がリング溝の下面からの離れにくさを小さくすることができる。その結果、オイルリングの移動タイミングが遅れず、負圧作用時における上面側のオイルシールを適正化することができる。
【0015】
本発明に係る内燃機関用組合せオイルリングも同様に、リング溝の下面に張り付きやすい下側レール部の径方向幅を、上側レール部の径方向幅の60%〜98%と短くしているので、低回転・高負圧状態であっても、下側レール部がリング溝の下面からの離れにくさを小さくすることができる。その結果、オイルリングの移動タイミングが遅れず、負圧作用時における上面側のオイルシールを適正化することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係る内燃機関用組合せオイルリングの組付構造及び内燃機関用組合せオイルリングによれば、低回転・高負圧状態において、オイル消費量を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の第1実施例(組合せオイルリングの組付構造)を示す模式的な断面図である。
【図2】本発明の第2実施例(組合せオイルリングの組付構造)を示す模式的な断面図である。
【図3】本発明の第3〜第5実施例(組合せオイルリングの組付構造)を示す模式的な断面図である。
【図4】本発明の第6,第7実施例(組合せオイルリングの組付構造)を示す模式的な断面図である。
【図5】本発明に係る内燃機関用組合せオイルリングの代表例を示す模式的な斜視図である。
【図6】本発明の第8実施例(組合せオイルリング)を示す模式的な断面図である。
【図7】図6に示す第8実施例の組合せオイルリングをピストンのリング溝に装着し、シリンダ内に取り付けた第9実施例(組合せオイルリングの組付構造)を示す模式的な断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に、本発明を図面に基づいて詳細に説明する。なお、本発明はその技術的特徴を包含する限り、以下の説明及び図面の形態に限定されるものではない。
【0019】
[内燃機関用組合せオイルリングの組付構造]
本発明に係る内燃機関用組合せオイルリングの組付構造50は、図1等に示すように、内燃機関用組合せオイルリング10を、ピストン20の外周面に形成されたリング溝21に装着してシリンダ30内に組み付けてなる組付構造である。
【0020】
内燃機関用組合せオイルリング10は、2ピースタイプのオイルリングと呼ばれ、図1等に示すように、径方向外方X1に突出する上下2つのレール部1,2を連結部3で連結したオイルリング本体11と、その連結部3の径方向内方X2の中央又は略中央に形成された内周溝4に配置されて前記オイルリング本体11を径方向外方X1に押圧付勢するコイルエキスパンダ12とで構成されている。なお、本願では、「中央又は略中央」を略して「中央」と呼ぶこともある。
【0021】
オイルリング本体11は、合い口(図示しない)を有する円環形状をなしており、シリンダ30の内壁面31と摺動する外周端6,7を径方向外方X1に有するレール部1,2を、軸方向Yで向かい合うように一対有している。
【0022】
一対のレール部1,2は、径方向外方X1に外周端6,7が突出する態様で構成されている。さらに、この一対のレール部1,2は、径方向Xに延びるレール部1,2に直交する柱状の連結部3(図5も参照。ウエブ部ともいう。)で連結されている。連結部3には、図1等に示すように、オイル戻し穴5が任意の間隔で設けられている。なお、摺動中に内部空間13からオイル戻し穴5を通過したオイルは、ピストン20のリング溝21に設けられたオイルドレイン穴25から排出される。この一対のレール部1,2の外周端6,7は、その軸方向Yの外側に必要に応じて外周側テーパー部16,17を有していてもよい。こうした外周側テーパー部16,17は、オイルリング本体11の外周端6,7を細くした態様でシリンダ30の内壁面31に接触する。
【0023】
オイルリング本体11の径方向内方X2の中央又は略中央には、内周溝4が形成されている。内周溝4は、図1の例では、コイルエキスパンダ12の直径よりも大きい円弧で形成されていることが好ましいが、必ずしもそうした形態で形成されていなくてもよく、コイルエキスパンダ12の直径と同じでも構わない。また、内周溝4の形態は円弧でなくてもよく、矩形溝であっても三角溝であってもよい。こうした内周溝4は、オイルリング本体11の径方向内方X2であって、軸方向Yの中央又は略中央に設けられている。この内周溝4に接触してオイルリング本体11を径方向外方X1に押圧付勢するコイルエキスパンダ12は、内周溝4により、軸方向Yの中央又は略中央に保持される。この点、既述した特許文献2に記載の態様とは大きく異なる。特許文献2の態様では、リング溝上面にオイルリング本体が接した状態で維持されるため、サードランドに上がってしまったオイルを掻き取ることが困難になる。
【0024】
コイルエキスパンダ12は、前記のように、オイルリング本体11の径方向内方X2の中央又は略中央に形成された内周溝4に接触するように配置される。このコイルエキスパンダ12は、図5の例で示すように、コイル巻きされた円環状部材であり、オイルリング本体11を径方向外方X1に押圧付勢する。
【0025】
なお、軸方向の「軸」とは、円環形状からなる組合せオイルリング10の中心軸(仮想中心)のことであり、「軸方向Y」とは、その中心軸が延びる方向(図1の例では上下に延びる方向)のことである。また、図1及び図5に示すように、「径方向X」とは、円環形状からなる組合せオイルリング10の中心軸(仮想中心)から見たときの半径方向のことであり、「径方向外方X1」とは、例えば組合せオイルリング10の摺動面である外周端6,7が摺動接触するシリンダ内壁面の側(外周縁方向)のことであり、「径方向内方X2」とは、例えば組合せオイルリング10を構成するコイルエキスパンダ12が配置されるオイルリングの中心軸側のことである。
【0026】
組合せオイルリング10を構成するオイルリング本体11の材質やコイルエキスパンダ12の材質は特に限定されず、各種のものを採用できる。一例としては、8Cr鋼、10Cr鋼、13Cr鋼等の鋼材を挙げることができる。
【0027】
また、組合せオイルリング10を構成するオイルリング本体11の軸方向Yの最大幅h1が2mm以下であることが好ましい。こうしたオイルリング本体11を備える組合せオイルリング10は、軽量化と低フリクション化を実現できる。なお、h1の下限値は特に限定されないが、1.0mmとすることができる。
【0028】
本発明においては、組合せオイルリング10の張力比が0.05〜0.3N/mmの範囲であることに特徴がある。張力比が0.05〜0.3N/mmの組合せオイルリング10は、フリクションが小さくなって燃費向上をもたらすので好ましく、特に0.05〜0.20N/mmの範囲が好ましい。
【0029】
なお、「張力比」(N/mm)とは、組合せオイルリング10の張力(すなわち、リングを径方向外方に拡張する力)をシリンダの内径(mm)で除した値であり、その値の測定は、張力測定機にて張力を測定し、その後計算して求めることができる。
【0030】
本発明においては、ピストン20が備えるリング溝21の下面22とその下面22側に配置される下側レール部1とが当接してオイルシールする「当接長さb2」が、そのリング溝21の上面23とその上面23側に配置される上側レール部2とが当接してオイルシールする「当接長さb1」の60%〜98%であることに特徴がある。
【0031】
なお、当接長さb2は、下側レール部1とリング溝下面22とが実際に当接する幅であり、図1等の例では、下側レール部1の内周端8とリング溝下面22の外周端部26との間の長さである。一方、当接長さb1は、上側レール部2とリング溝上面23とが実際に当接する幅であり、図1等の例では、上側レール部2の内周端9とリング溝上面23の外周端部27との間の長さである。
【0032】
後述する第1〜第5実施例では、図1〜図3に示すように、リング溝21の下面22の径方向外周端部及び/又は下側レール部1の下面の径方向外周端部に面取部24を設けることにより、[当接長さb2]を[当接長さb1]の60%〜98%としている点に特徴がある。
【0033】
また、後述する第6,第7実施例では、図4に示すように、リング溝21の下面22に向かい合う下側レール部1に切欠部29を設けることにより、[当接長さb2]を[当接長さb1]の60%〜98%としている点に特徴がある。
【0034】
後述する第8,第9実施例では、下側レール部1の内周端8をカット等して上側レール部2の内周端9よりも短くすることにより、[当接長さb2]を[当接長さb1]の60%〜98%としている点に特徴がある。なお、前記した第7実施例は、リング溝21の下面22に向かい合う下側レール部1に切欠部29を設け、且つ下側レール部1の内周端8をカット等して、上側レール部2の内周端9よりも短くしている。
【0035】
[当接長さb2]/[当接長さb1]を60%〜98%の範囲内とする理由は以下のとおりである。
【0036】
すなわち、組合せオイルリング10の張力比が0.05〜0.3N/mmの範囲のように低くなると、フリクションが小さくなって燃費向上をもたらすので好ましいが、一方、オイルを掻き落とす機能が低くなってオイル消費が増大してしまうという懸念がある。本発明では、こうした懸念に対し、オイルの掻き落としに主に寄与する上側の[当接長さb1]については特に改良せず、下側の[当接長さb2]を小さくした点に特徴がある。
【0037】
低回転・高負圧状態である低速域(例えば2000rpm未満)では、シリンダ30内のピストン20が上死点に向かって移動する排気・圧縮行程における負圧作用時において、軽量で低張力化した組合せオイルリング10を構成する下側レール部1がリング溝21の下面22にオイルを介して張り付いて離れにくくなる。そのため、オイルリングの移動タイミングが遅れ易くなる。その結果、負圧作用時における上面側のオイルシールが不十分となり、過大なオイル上がりを引き起こしてしまう。こうした問題に対し、本発明では、リング溝21の下面22とその下面22に張り付きやすい下側レール部1とでオイルシールする「当接長さb2」を、リング溝21の上面23と上側レール部2とでオイルシールする「当接長さb1」の60%〜98%となるように短くしている。こうすることにより、低回転・高負圧状態であっても、下側レール部1がリング溝21の下面22からの離れにくさを低減することができ、その結果、オイルリングの移動タイミングが遅れず、負圧作用時における上面側のオイルシールを適正化することができる。
【0038】
なお、より好ましい範囲は60%〜75%である。この範囲内とすることにより、さらにオイル消費量を低減することができる。
【0039】
本発明の組合せオイルリング10及びその組付構造50は、張力比と[当接長さb2]/[当接長さb1]とが上記の特徴を有するので、低フリクション化の要請から軽量化し、さらに0.05〜0.3N/mmの範囲に低張力化した組合せオイルリング10及びその組付構造50であっても、内燃機関を低回転・高負圧の条件で運転した際におけるオイル消費量を低減することができる。
【0040】
特に、組合せオイルリングの組付構造50においてはb2/b1を60%〜98%の範囲とし、また、組合せオイルリング10においてはa2/a1を60%〜98%の範囲とすることにより、下側レール部1が接触するリング溝21の下面22との付着力を軽減することができる。組合せオイルリング10の動きは、シリンダ30の内壁面31との間のフリクション(摩擦力)と、組合せオイルリング10自体の慣性力とに大きく依存するが、慣性力が小さい低回転域では、シリンダ30の内壁面31とのフリクションが主となり、軸方向に往復する。下側レール部1がリング溝21の下面22に付着する力は、摩擦力・慣性力に逆らう力である。したがって、本発明では、a2/a1又はb2/b1を上記範囲内にしてその付着力を軽減することにより、上死点と下死点でフリクションの向きが入れ替わるのと同時に、組合せオイルリング10をリング溝から離間させることができるようになる。その結果、負圧作用時における上面側のオイルシールを適正化することができるのである。
【実施例】
【0041】
以下、本発明の実施例を説明するが、各実施例は少なくとも上記した共通する特徴を有しつつ下記の具体的な特徴を備えている。なお、下記の第1〜第9実施例の説明では、共通する特徴については特に断らない限り省略する。
【0042】
[第1,第2実施例]
図1及び図2は、第1、第2実施例(内燃機関用組合せオイルリングの組付構造)を示す模式的な断面図である。この第1,第2実施例は、レール部1,2の径方向幅a1,a2を同じ長さとしている点で、径方向幅a2が径方向幅a1より短い後述の第7〜第9実施例とは異なる。この第1,第2実施例は、リング溝21の下面22の径方向外周端部に面取部24を設けることにより、[当接長さb2]を[当接長さb1]の60%〜98%としている点に特徴がある。その他の点は既述した通りである。
【0043】
図1の第1実施例は、リング溝21の下面22の径方向外周端部に設けられた面取部24が段差を有する例であり、詳しくは、リング溝21の下面22の外周端部26から直角に下方に切り込んだ後に傾斜を設けた面取部24を設けた例である。なお、図1において、符号28はスカート部であり、符号cはリング溝21の下面22の外周端部26からピストン20のスカート部28までの径方向幅である。
【0044】
図2の第2実施例は、図1の第1実施例の面取部24を縮小して当接長さb2を長く構成した例である。リング溝21の下面22の外周端部26からピストン20のスカート部28までの径方向幅c’を、図1の径方向幅cよりも小さくした例である。
【0045】
なお、この第1,第2実施例では、例えばa1,a2を2mmとし、下側レール部1とリング溝21の下面22とが実際に当接する当接長さb2(下側レール部1の内周端8とリング溝下面22の外周端部26との間の長さ)を第1実施例では1.2mm、第2実施例では1.25mmとし、上側レール部2と上面23とが実際に当接する当接長さb1(上側レール部2の内周端9とリング溝上面23の外周端部27との間の長さ)を1.36mmとした。
【0046】
さらに、実際の組合せオイルリング10の装着においては、下側レール部1の径方向幅a2のうち、少なくともその50%〜70%の長さ割合がリング溝21の下面22に当接して径方向Xの当接長さb2を構成していることが望ましい。その長さ割合は、[{a2−(D2−D1)/2}/a2×100](%)で表される。その長さ割合の好ましい範囲は、50%〜60%である。なお、符号D1はリング溝の下面の外周端部間の直径であり、符号D2はシリンダの内径である。上記のように、オイルリング本体11の径方向幅は2mm以下が好ましいので、例えばa1を2mm、a2を1.5mm、D1を87.14mm、D2を88.5mmとした場合には、当接長さb1は1.0〜1.4mmが好ましい範囲となる。
【0047】
[第3〜第5実施例]
図3は、第3〜第5実施例(内燃機関用組合せオイルリングの組付構造)を示す模式的な断面図である。この第3〜第5実施例に係る組付構造50も上記第1,第2実施例に係る組付構造50と同様の態様であり、リング溝21の下面22の径方向外周端部に面取部24を設けることにより、[当接長さb2]を[当接長さb1]の60%〜98%としている点に特徴がある。この第3〜第5実施例に係る組付構造50は面取部24の形態の変形例である。その他の点は既述した通りである。
【0048】
図3(A)の第3実施例は、面取部24を矩形段差とした例であり、リング溝21の下面22の外周端部26から直角に下方に切り込み段差を設けた例である。
【0049】
図3(B)の第4実施例は、面取部24をテーパー状の斜面とした例であり、リング溝21の下面22の外周端部26から斜めに10°〜80°のテーパー形状を設けた例である。
【0050】
図3(C)の第5実施例は、面取部24を曲面状の斜面とした例であり、リング溝21の下面22の外周端部26から曲率半径が0.6〜1.0mm程度又は楕円状のなだらかな曲面を設けた例である。
【0051】
[第6,第7実施例]
図4は、第6,第7実施例(内燃機関用組合せオイルリングの組付構造)を示す模式的な断面図である。このうち、図4(A)に示す第6実施例は、レール部1,2の径方向幅a1,a2を同じ長さとしている点は第1〜第5実施例と同じであるが、オイルリング本体11の下側レール部1の外周端6側に凹み(切欠部29)を形成した点が、リング溝下面22の径方向外周端部に面取部を設けた第1〜第5実施例とは異なっている。こうすることにより、[当接長さb2]を[当接長さb1]の60%〜98%としている点に特徴がある。
【0052】
一方、図4(B)に示す第7実施例は、後述する第8,第9実施例と同様に下側レール部1の径方向幅a2を上側レール部2の径方向幅a2よりも短くしているとともに、第6,第7実施例と同様にリング溝21の下面22の径方向外周端部に凹み(切欠部29)を設けることにより、[当接長さb2]を[当接長さb1]の60%〜98%としている点に特徴がある。
【0053】
[第8実施例]
図6は、第8実施例(内燃機関用組合せオイルリング)を示す模式的な断面図である。この組合せオイルリング10は、2つのレール部11,12のうち、ピストン20が備えるリング溝21の下面側に配置される下側レール部1の径方向幅a2が、そのリング溝21の上面側に配置される上側レール部2の径方向幅a1の60%〜98%であることに特徴がある。
【0054】
レール部1,2はその外周側にテーパー部16,17を有する場合が多いが、そのテーパー部16,17は上下のレール部1,2で同じ幅で形成されている場合がほとんどである。したがって、図6に示すように、テーパー部16,17の有無にかかわらず、この第8実施例は、a2/a1が上記範囲内であればよい。
【0055】
テーパー部16,17の径方向幅が上下のレール部1,2で異なる場合には、組合せオイルリング10をピストン20のリング溝21に装着した後にシリンダ30に取り付けた組付構造として、上記したように、[当接長さb2]/[当接長さb1]を60%〜98%の範囲として特定できる。なお、既述した第1〜第7実施例では、シリンダ30での組付構造後の当接長さb1と当接長さb2とを評価するが、組み付け前の組合せオイルリング10の段階では当接長さb1と当接長さb2の寸法を正確には評価できない。そのため、リング溝22,23に当接し得る平坦面、すなわち、テーパー部16,17(あってもなくてもよい。)を除く平坦面の「径方向幅b1’」及び「径方向幅b2’」で評価し、b2’/b1’を60%〜98%として定義してもよい。
【0056】
一例として、a1を2.0mm、a2を1.7mm、テーパー部16,17の径方向幅を0.2mm、h1を2.0mm、張力比を0.28N/mmとした8Cr鋼製のオイルリング本体11と、8Cr鋼製のコイルエキスパンダ12とを作製した。
【0057】
[第9実施例]
図7は、上記第8実施例の組合せオイルリング10をピストン20のリング溝21に装着し、シリンダ30内に取り付けた第9実施例(内燃機関用組合せオイルリングの組付構造50)を示す模式的な断面図である。
【0058】
この組付構造50は、第8実施例の組合せオイルリング10を用いたこと、すなわち、2つのレール部11,12のうち、ピストン20が備えるリング溝21の下面側に配置される下側レール部1の径方向幅a2が、そのリング溝21の上面側に配置される上側レール部2の径方向幅a1の60%〜98%である組合せオイルリング10を用いたことに特徴がある。そして、この組合せオイルリング10を有する組付構造50においては、ピストン20のリング溝21の下面22と下側レール部1との径方向Xの当接長さb2が、そのリング溝21の上面23と上側レール部2との径方向Xの当接長さb1の60%〜98%であることを特徴とする。
【0059】
[オイル消費実験]
上記の第1実施例を適用し、下記の実験条件にてオイル消費実験を行った。実験には、排気量が2400ccでシリンダ内径D2が88.5mmの直列4気筒ガソリンエンジンの実機実験を行い、オイル消費量の確認実験を行った。エンジンの運転条件は、軽負荷モータリングで回転数2000r.p.m.で5時間行った。評価は、吸気管絶対圧を10kPa、20kPaとしてオイル消費量を評価した。
【0060】
ピストン20には、下面の外周端部間の直径D1が87.14mmのものを用いた。ピストンリングの組合せは、ファーストリング、セカンドリング、オイルリングとした。ファーストリングとしては、13Cr鋼製で、h1が1.0mm、a1が2.7mm、外周面形状がバレルフェース、表面処理としては上下面を窒化処理し、外周面をPVD処理したものを用いた。セカンドリングとしては、JIS G 3506(1996)で規定されたSWRH62B材製で、h1が1.0mm、a1が2.7mm、外周面形状がテーパーアンダーカットのものを用いた。
【0061】
オイルリングとしては、上記の第1実施例の2ピースタイプのオイルリングを用いた。オイルリング本体11は8Cr鋼製で、h1が2.0mm、a1が2.0mmからなるものとし、コイルエキスパンダ12は外径1.0mmの8Cr鋼の丸線材を加工して用いた。なお、張力比については、第1実施例の2ピースタイプのオイルリング全てにおいて0.28N/mmとした。
【0062】
第1実施例の2ピースタイプのオイルリングの寸法は、a1を2.0mm(a1=a2)とし、b1を1.36mmとし、b2を1.2mm(b2/b1=0.88)とし、さらに、リング溝21の面取部24を外周端部26からピストン20のスカート部28までの径方向幅cを0.55mmとした。
【0063】
従来例としては、上下のレール部1,2を同じ長さ(a1=a2=2.0mm)とし、リング溝と上下のレール部1,2との径方向Xの当接長さb1,b2を同じ長さ(b1=b2=1.36mm)としたオイルリングを、第1実施例の組合せオイルリングと代えたものを用いた。
【0064】
[結果]
従来例の組付構造での吸気管絶対圧を10kPaとしたときのオイル消費量を100としたとき、従来例での吸気管絶対圧を20kPaとしたときのオイル消費量は40.9であったが、第1実施例の組付構造でのオイル消費量は、吸気管絶対圧10kPaでは30.8、20kPaでは2.3となった。したがって、第1実施例の組付構造を構成する組合せオイルリングはオイル消費を抑制することが確認された。表1にこの結果をまとめた。
【0065】
【表1】

【符号の説明】
【0066】
1 下側レール部
2 上側レール部
3 連結部
4 内周溝
5 オイル戻し穴
6,7 外周端
8,9 内周端
10 内燃機関用組合せオイルリング
11 オイルリング本体
12 コイルエキスパンダ
13 内部空間
16,17 外周側テーパー部
20 ピストン
21 リング溝
22 リング溝の下面
23 リング溝の上面
24 面取部
25 オイルドレイン穴
26 リング溝の下面の外周端部
27 リング溝の上面の外周端部
28 スカート部
29 切欠部
30 シリンダ
31 シリンダの内壁面
50 内燃機関用組合せオイルリングの組付構造
【0067】
a1 リング溝の上面側に配置される上側レール部の径方向幅
a2 リング溝の下面側に配置される下側レール部の径方向幅
b1’ a1のうちの平坦面の径方向幅
b2’ a2のうちの平坦面の径方向幅
b1 リング溝の上面と上側レール部との径方向の当接長さ
b2 リング溝の下面と下側レール部との径方向の当接長さ
c,c’ リング溝下面の外周端部からピストンのスカート部までの径方向幅
h1 オイルリング本体の軸方向幅
X 径方向
X1 径方向外方
X2 径方向内方
Y 軸方向
D1 リング溝の下面の外周端部間の直径
D2 シリンダの内径

【特許請求の範囲】
【請求項1】
径方向外方に突出する上下2つのレール部を連結部で連結したオイルリング本体と、該連結部の径方向内方中央に形成された内周溝に配置されて前記オイルリング本体を径方向外方に押圧付勢するコイルエキスパンダとからなる内燃機関用組合せオイルリングを、ピストンの外周面に形成されたリング溝に装着してシリンダ内に組み付けてなる内燃機関用組合せオイルリングの組付構造において、
前記組合せオイルリングの張力を前記シリンダ内径で除した張力比が0.05〜0.3N/mmの範囲であり、
前記ピストンのリング溝下面の径方向外周端部に設けられた面取部、又は、前記オイルリング本体の下側レール部下面の径方向外周端部に設けられた切欠部を有し、
前記リング溝の下面と下側レール部との径方向の当接長さが、前記リング溝の上面と上側レール部との径方向の当接長さの60%〜98%であることを特徴とする内燃機関用組合せオイルリングの組付構造。
【請求項2】
前記オイルリング本体の軸方向幅が2mm以下である、請求項1に記載の内燃機関用組合せオイルリングの組付構造。
【請求項3】
径方向外方に突出する上下2つのレール部を連結部で連結したオイルリング本体と、該連結部の径方向内方中央に形成された内周溝に配置されて前記オイルリング本体を径方向外方に押圧付勢するコイルエキスパンダとからなり、ピストンの外周面に形成されたリング溝に装着される内燃機関用組合せオイルリングにおいて、
前記組合せオイルリングの張力を前記ピストンが組み付けられるシリンダ内径で除した張力比が0.05〜0.3N/mmの範囲であり、
前記2つのレール部のうち前記リング溝の下面側に当接する下側レール部の径方向幅が、前記リング溝の上面側に当接する上側レール部の径方向幅の60%〜98%であることを特徴とする内燃機関用組合せオイルリング。
【請求項4】
前記オイルリング本体の軸方向幅が2mm以下である、請求項3に記載の内燃機関用組合せオイルリング。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−58373(P2011−58373A)
【公開日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−205841(P2009−205841)
【出願日】平成21年9月7日(2009.9.7)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(390022806)日本ピストンリング株式会社 (137)
【Fターム(参考)】