説明

内燃機関

【課題】クランクケースとシリンダブロックとが相対的に移動する圧縮比可変機構を備え、クランクケースからシリンダブロックに潤滑油を供給可能な内燃機関を提供する。
【解決手段】内燃機関は、クランクケース79に対してシリンダブロック2が相対移動するように形成されている圧縮比可変機構と、クランクケース79の油路をシリンダブロック2の油路に接続する油路接続機構60とを備える。油路接続機構60は、シリンダブロック2の油路に連通するブロック側オイル管76と、クランクケース79の油路に連通するクランクケース側オイル管75とを有する。ブロック側オイル管76およびクランクケース側オイル管75は、互いに対向して嵌合し、クランクケース79に対するシリンダブロック2の相対移動に応じて互いに摺動するように形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関に関する。
【背景技術】
【0002】
内燃機関の燃焼室においては、空気および燃料の混合気が圧縮された状態で点火される。混合気を圧縮するときの圧縮比は、出力されるトルクおよび燃料消費量に影響を与えることが知られている。圧縮比を高くすることにより出力されるトルクを大きくしたり、燃料消費量を少なくしたりすることができる。一方で、圧縮比を高くしすぎると、ノッキング等の異常燃焼が生じることが知られている。従来の技術においては、運転期間中に圧縮比を変更することができる圧縮比可変機構を備える内燃機関が知られている。また、内燃機関の所定の部位には潤滑油が供給される。
【0003】
特開2005−140090号公報においては、シリンダブロックとクランクケースとの間にカム機構を備え、クランクケースとシリンダブロックとを相対的に移動させることにより圧縮比を変更する可変圧縮比の内燃機関が開示されている。カム機構は、偏心軸を有し、偏心軸を回転させることによりクランクケースとシリンダブロックとを相対的に移動させる。この内燃機関において、オイルパンに貯留した潤滑油をシリンダヘッドに供給する潤滑油供給通路は、クランクケース内を通過するクランクケース通過部と、シリンダブロック内を通過するシリンダブロック通過部と、これらの通過部同士の間においてカム機構内を通過するカム機構通過部とを有する。カム機構通過部においては、カム軸の内部や表面に潤滑油の流路を設け、潤滑油がカム機構内を通過することによりクランクケース通過部からシリンダブロック通過部に潤滑油が供給されることが開示されている。
【0004】
特開2005−69181号公報においては、軸受部で支持され、かつ内燃機関の機械要素と連結された制御軸を駆動させることにより、内燃機関の圧縮比を変更する可変圧縮比の内燃機関が開示されている。この公報には、内燃機関の圧縮比を変更する直前に、制御軸または軸受部に供給する潤滑油を増量することが開示されている。また、オイルパンに貯留する潤滑油をポンプによって加圧し、加圧された潤滑油が送られる潤滑油供給本管は、内燃機関の機関本体の外側に配置されている。潤滑油供給本管に送られた潤滑油は、クランク軸の軸受け部等に供給されることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−140090号公報
【特許文献2】特開2005−69181号公報
【特許文献3】特開2010−185393号公報
【特許文献4】特開2005−90270号公報
【特許文献5】特開2009−24656号公報
【特許文献6】特開2009−62865号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
内燃機関の機関本体においては、クランクシャフトの支持部分やカムシャフトの支持部分等に潤滑油が供給される。クランクケースとシリンダブロックとの相対的な距離が変動する可変圧縮比機構を備える内燃機関においては、クランクケースの下側のオイルパンに貯留されている潤滑油を、シリンダブロックやシリンダヘッド等に供給する必要がある。すなわち、互いの距離が変動する部材に対して潤滑油を供給する必要がある。
【0007】
特開2005−140090号公報に開示されている内燃機関においては、圧縮比可変機構に含まれるシリンダブロックの支持軸(カム軸)に油路を形成して、クランクケースからシリンダブロックに潤滑油を供給している。この公報には支持軸の軸受けとして滑り軸受けが開示されている。この内燃機関において、支持軸の軸受けを転がり軸受けに変更すると、軸受け部での潤滑油の漏れ量が多くなり油圧が大きく低下する。このために軸受け部を転がり軸受けに変更すると、各部位に対して潤滑油を十分に供給することができない虞がある。または、潤滑油を供給するためのポンプの吐出流量を大きくするために、大型のポンプを取り付ける必要性が生じる。
【0008】
更に、潤滑油を供給するための支持軸に形成される穴や溝は、支持軸の径や軸受け部の幅等の制限を受けるために、大きくすることが難しいという問題がある。このために、十分な量の潤滑油を供給することができない場合が生じる。または、支持軸を大きくしたり、潤滑油を供給するポンプを大型にしたりする必要性が生じる。
【0009】
上記の特開2005−69181号公報に開示されているように、機関本体の外部、すなわちクランクケースやシリンダヘッドの外部に潤滑油の供給路を設けることにより、シリンダブロックの支持軸を介さずに、クランクケースからシリンダブロックやシリンダヘッドに潤滑油を供給することができる。しかしながら、この内燃機関においては、潤滑油を供給する配管を機関本体の外側に配設するために、配管を配設する空間が別に必要になるという問題が生じる。
【0010】
本発明は、クランクケースを含む下部構造物とシリンダブロックとが相対的に移動する圧縮比可変機構を備え、下部構造物からシリンダブロックに潤滑油を供給可能な内燃機関を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の内燃機関は、クランクケースを含み、潤滑油が流れる油路を内部に有する下部構造物と、下部構造物の上側に配置され、ピストンが配置される穴部および潤滑油が流れる油路を内部に有するシリンダブロックとを備える。内燃機関は、更に、下部構造物に対してシリンダブロックが相対移動するように形成され、下部構造物に対してシリンダブロックが離れる向きに移動することにより、燃焼室の容積が大きくなって圧縮比が小さくなる圧縮比可変機構と、下部構造物の油路をシリンダブロックの油路に接続する油路接続機構とを備える。油路接続機構は、シリンダブロックの油路に連通する上側接続部と、下部構造物の油路に連通する下側接続部とを有する。上側接続部および下側接続部は、互いに対向して嵌合するように形成されており、下部構造物に対するシリンダブロックの相対移動に応じて互いに摺動し、油路接続機構の長さが可変に形成されている。
【0012】
上記発明においては、油路接続機構は、潤滑油が封入される空間のうち、下部構造物とシリンダブロックとが互いに対向する領域に配置されていることが好ましい。
【0013】
上記発明においては、シリンダブロックの上側に配置され、潤滑油が流れる油路を内部に有するシリンダヘッドを備え、シリンダヘッドの油路は、シリンダブロックの油路に接続されており、圧縮比可変機構は、下部構造物に対してシリンダブロックを支持する支持軸を含み、シリンダブロックの油路は、シリンダブロックの支持軸を通らずに下部構造物の油路からシリンダヘッドの油路に向かって潤滑油を供給するように形成されていることが好ましい。
【0014】
上記発明においては、上側接続部はシリンダブロックに固定されているブロック側オイル管を有し、下側接続部はクランクケースに固定されているクランクケース側オイル管を有し、ブロック側オイル管とクランクケース側オイル管とが互いに嵌合して摺動するように形成することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、クランクケースを含む下部構造物とシリンダブロックとが相対的に移動する圧縮比可変機構を備え、下部構造物からシリンダブロックに潤滑油を供給可能な内燃機関を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】実施の形態における内燃機関の概略図である。
【図2】実施の形態における内燃機関の圧縮比可変機構の概略分解斜視図である。
【図3】実施の形態における内燃機関が高圧縮比になった時のシリンダブロックおよびクランクケースの部分の概略断面図である。
【図4】実施の形態における内燃機関が低圧縮比になった時のシリンダブロックおよびクランクケースの部分の概略断面図である。
【図5】実施の形態における潤滑油供給装置を説明する機関本体の概略断面図である。
【図6】実施の形態におけるクランクケースの油路とシリンダブロックの油路とを接続する油路接続機構の第1の拡大概略断面図である。
【図7】実施の形態におけるクランクケースの油路とシリンダブロックの油路とを接続する油路接続機構の第2の拡大概略断面図である。
【図8】実施の形態におけるクランクケースの油路とシリンダブロックの油路とを接続する他の油路接続機構の拡大概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
図1から図8を参照して、実施の形態における内燃機関について説明する。本実施の形態においては、車両に配置されている内燃機関を例に取り上げて説明する。
【0018】
図1は、本実施の形態における内燃機関の概略図である。本実施の形態における内燃機関は、火花点火式である。内燃機関は、機関本体1を備える。機関本体1は、シリンダブロック2とシリンダヘッド4とを含む。シリンダブロック2の内部には、ピストン3が配置されている。ピストン3は、シリンダブロック2の内部で往復運動する。
【0019】
燃焼室5は、それぞれの気筒ごとに形成されている。燃焼室5には、機関吸気通路および機関排気通路が接続されている。機関吸気通路は、燃焼室5に空気または燃料と空気との混合気を供給するための通路である。機関排気通路は、燃料の燃焼により生じた排気を燃焼室5から排出するための通路である。
【0020】
シリンダヘッド4には、吸気ポート7および排気ポート9が形成されている。吸気弁6は吸気ポート7の端部に配置され、燃焼室5に連通する機関吸気通路を開閉可能に形成されている。排気弁8は、排気ポート9の端部に配置され、燃焼室5に連通する機関排気通路を開閉可能に形成されている。シリンダヘッド4には、点火装置としての点火プラグ10が固定されている。点火プラグ10は、燃焼室5にて燃料を点火するように形成されている。
【0021】
本実施の形態における内燃機関は、燃焼室5に燃料を供給するための燃料噴射弁11を備える。本実施の形態における燃料噴射弁11は、吸気ポート7に燃料を噴射するように配置されている。燃料噴射弁11は、この形態に限られず、燃焼室5に燃料を供給できるように配置されていれば構わない。たとえば、燃料噴射弁は、燃焼室に直接的に燃料を噴射するように配置されていても構わない。
【0022】
燃料噴射弁11は、電子制御式の吐出量可変な燃料ポンプ29を介して燃料タンク28に接続されている。燃料タンク28内に貯蔵されている燃料は、燃料ポンプ29によって燃料噴射弁11に供給される。
【0023】
各気筒の吸気ポート7は、対応する吸気枝管13を介してサージタンク14に連結されている。サージタンク14は、吸気ダクト15およびエアフローメータ16を介してエアクリーナ(図示せず)に連結されている。吸気ダクト15には、吸入空気量を検出するエアフローメータ16が接続されている。吸気ダクト15の内部には、ステップモータ17によって駆動されるスロットル弁18が配置されている。一方、各気筒の排気ポート9は、対応する排気枝管19に連結されている。排気枝管19は、排気処理装置21に連結されている。本実施の形態における排気処理装置21は、酸化触媒20を含む。排気処理装置21は、排気管22に接続されている。
【0024】
本実施の形態における内燃機関は、電子制御ユニット31を備える。本実施の形態における電子制御ユニット31は、デジタルコンピュータを含む。電子制御ユニット31は、双方向バス32を介して相互に接続されたRAM(ランダムアクセスメモリ)33、ROM(リードオンリメモリ)34、CPU(マイクロプロセッサ)35、入力ポート36および出力ポート37を含む。
【0025】
エアフローメータ16は、燃焼室5に吸入される吸入空気量に比例した出力電圧を発生する。この出力電圧は、対応するAD変換器38を介して入力ポート36に入力される。アクセルペダル40には、負荷センサ41が接続されている。負荷センサ41は、アクセルペダル40の踏込量に比例した出力電圧を発生する。この出力電圧は、対応するAD変換器38を介して入力ポート36に入力される。
【0026】
クランク角センサ42は、クランクシャフトが、例えば所定の角度を回転する毎に出力パルスを発生し、この出力パルスは入力ポート36に入力される。クランク角センサ42の出力により、機関回転数を検出することができる。また、クランク角センサ42の出力により、クランク角度を検出することができる。機関排気通路において、排気処理装置21の下流には、排気処理装置21の温度を検出する温度検出器としての温度センサ43が配置されている。温度センサ43の出力は、対応するAD変換器38を介して入力ポート36に入力される。
【0027】
電子制御ユニット31の出力ポート37は、それぞれの対応する駆動回路39を介して燃料噴射弁11および点火プラグ10に接続されている。本実施の形態における電子制御ユニット31は、燃料噴射制御や点火制御を行うように形成されている。すなわち、燃料を噴射する時期および燃料の噴射量が電子制御ユニット31により制御される。更に点火プラグ10の点火時期が電子制御ユニット31により制御されている。また、出力ポート37は、対応する駆動回路39を介して、スロットル弁18を駆動するステップモータ17および燃料ポンプ29に接続されている。これらの機器は、電子制御ユニット31により制御されている。
【0028】
吸気弁6は、吸気カム51が回転することにより開閉するように形成されている。排気弁8は、排気カム52が回転するようことにより開閉するように形成されている。本実施の形態における内燃機関は、可変動弁機構を備える。可変動弁機構は、吸気弁6の開閉時期を変更する可変バルブタイミング装置53を含む。本実施の形態における可変バルブタイミング装置53は、吸気カム51の回転軸に接続されている。可変バルブタイミング装置53は、電子制御ユニット31により制御されている。
【0029】
本実施の形態における内燃機関は、圧縮比可変機構を備える。本発明においては、ピストンが圧縮上死点に達したときにピストンの冠面とシリンダヘッドとに囲まれる気筒内の空間を燃焼室と称する。内燃機関の圧縮比は、燃焼室の容積等に依存して定まる。本実施の形態における圧縮比可変機構は、燃焼室の容積を変更することにより圧縮比を変更するように形成されている。内燃機関の圧縮比は、(圧縮比)=(燃焼室の容積+吸気弁が閉じている期間のピストンの行程容積)/(燃焼室の容積)で示される。
【0030】
図2は、本実施の形態における内燃機関の圧縮比可変機構の分解斜視図である。図3は、内燃機関の燃焼室の部分の第1の概略断面図である。図3は、圧縮比可変機構により高圧縮比になったときの概略図である。本実施の形態における内燃機関は、クランクケースを含む下部構造物と、下部構造物の上側に配置されているシリンダブロックとが互いに相対移動する。本実施の形態における下部構造物は、圧縮比可変機構を介してシリンダブロックを支持している。また、本実施の形態における下部構造物は、クランクシャフトを支持している。
【0031】
図2および図3を参照して、シリンダブロック2の両側の側壁の下方には複数個の突出部80が形成されている。突出部80には、断面形状が円形のカム挿入孔81が形成されている。クランクケース79の上壁には、複数個の突出部82が形成されている。突出部82には、断面形状が円形のカム挿入孔83が形成されている。クランクケース79の突出部82は、シリンダブロック2の突出部80同士の間に嵌合する。
【0032】
本実施の形態における圧縮比可変機構は、シリンダブロック2の支持軸としての一対のカムシャフト84,85を含む。それぞれのカムシャフト84,85は、カム挿入孔81内に回転可能に挿入される円形カム86を含む。これらの円形カム86は、カムシャフト84,85の回転軸と同軸状に配置される。
【0033】
一方で、図3に示すように、円形カム86同士の間には、それぞれのカムシャフト84,85の回転軸に対して偏心して配置された偏心軸87が延びている。偏心軸87には、円形カム88が偏心して回転可能に取付けられている。円形カム88は、それぞれの円形カム86同士の間に配置されている。これらの円形カム88は、対応するカム挿入孔83内にて回転可能に支持される。
【0034】
圧縮比可変機構は、モータ89を含む。モータ89の回転軸90には、螺旋方向が互いに逆向きの2つのウォームギヤ91,92が取付けられている。それぞれのカムシャフト84,85の端部には、歯車93,94が固定されている。歯車93,94は、ウォームギヤ91,92と噛み合うように配置されている。モータ89が回転軸90を回転させることにより、カムシャフト84,85を、互いに反対方向に回転させることができる。
【0035】
図3を参照して、それぞれのカムシャフト84,85上に配置された円形カム86を、矢印96に示すように互いに反対方向に回転させると、偏心軸87が下端に向けて移動する。円形カム88は、カム挿入孔83内において、矢印97に示すように円形カム86と反対方向に回転する。
【0036】
図4に、本実施の形態における内燃機関の燃焼室の部分の第2の概略断面図を示す。図4は、圧縮比可変機構により低圧縮比になったときの概略図である。図4に示されるように偏心軸87が下端まで移動すると、円形カム88の中心軸が偏心軸87よりも下方に移動する。図3および図4を参照して、クランクケース79とシリンダブロック2との相対位置は、円形カム86の中心軸と円形カム88の中心軸との距離によって定まる。円形カム86の中心軸と円形カム88の中心軸との距離が大きくなるほどシリンダブロック2はクランクケース79から離れる。矢印98に示すようにシリンダブロック2がクランクケース79から離れるほど、ピストン3が圧縮上死点に達したときの燃焼室5の容積が大きくなる。
【0037】
本実施の形態における圧縮比可変機構は、クランクケースに対してシリンダブロックが相対的に移動することにより、燃焼室の容積が可変に形成されている。図3ではピストン3が圧縮上死点に到達しており、燃焼室5の容積が小さくなっている。この状態では、圧縮比が大きくなる。これに対して、図4ではピストン3が圧縮上死点に到達しており、燃焼室5の容積が大きくなっている。この状態では、圧縮比が小さくなる。このように、本実施の形態における内燃機関は、運転期間中に圧縮比を変更することができる。たとえば、内燃機関の運転状態に応じて、圧縮比可変機構により圧縮比を変更することができる。
【0038】
本実施の形態における圧縮比可変機構は、回転軸を偏心させた円形カムを回転させることにより、クランクケースに対してシリンダブロックを相対的に移動させているが、この形態に限られず、クランクケースに対してシリンダブロックを移動させて圧縮比を変更できる任意の圧縮比可変機構を採用することができる。
【0039】
本実施の形態における圧縮比可変機構は、図示しない覆い部材で覆われており、シリンダボアおよびクランクケースの内部の空間が密閉されるように形成されている。すなわち、内燃機関は、潤滑油が機関本体の内部に封入され、機関本体の外部に漏れないように形成されている。
【0040】
内燃機関は、一般的に機関負荷が低いほど熱効率が悪くなる。従って、内燃機関の運転時における熱効率を向上させるためには、負荷が低いときの熱効率を向上させることが好ましい。本実施の形態における圧縮比可変機構にて圧縮比を高くすることにより熱効率を向上させることができる。特に、圧縮比を高くすると、ピストンが上死点から下死点に向かうときの膨張比が大きくなるために熱効率が向上する。ところが、圧縮比可変機構により圧縮比を上昇させると、所定の圧縮比でノッキング等の異常燃焼が発現する。
【0041】
本実施の形態における内燃機関は、可変動弁機構を備え、吸気弁の開閉時期が可変に形成されている。吸気弁を閉じる時期を遅くすることにより、燃焼室に流入する空気量を少なくすることができる。すなわち、吸気弁を閉じる時期を遅くすることにより、燃焼室において混合気が圧縮される実際の圧縮比を小さくすることができる。
【0042】
本実施の形態の内燃機関では、低負荷のときには圧縮比可変機構により機械的な圧縮比が高くなるように制御している。すなわち、ピストンが圧縮上死点に到達したときの燃焼室の容積が小さくなるように制御している。一方で、可変動弁機構により吸気弁を閉じる時期を遅くし、実際の圧縮比が高くなり過ぎない様に制御して、ノッキング等の発生を抑制することができる。吸気弁を閉じる時期を遅くしても、膨張比は大きくなったままであるために、熱効率の向上を図ることができる。このように、本実施の形態における内燃機関は、燃焼室における実際の圧縮比を異常燃焼の発現する圧縮比未満に維持しながら、膨張比を大きくして熱効率を向上させることができる。
【0043】
図5に、本実施の形態における機関本体の各部位に潤滑油を供給する油路を説明する機関本体の概略断面図を示す。本実施の形態における内燃機関は、機関本体の各部位に潤滑油を供給する潤滑油供給装置を備える。
【0044】
本実施の形態における下部構造物は、クランクケース79に固定されているオイルパン66を含む。オイルパン66の底部には、潤滑油が貯留される。ピストン3は、コネクティングロッド62を介してクランクシャフト62に支持されている。クランクケース79とオイルパン66とに囲まれる空間の内部において、クランクシャフト62が回転する。
【0045】
本実施の形態における潤滑油供給装置は、オイルパン66に貯留する潤滑油を吸い上げて加圧するオイルポンプ64を備える。本実施の形態におけるオイルポンプ64は、ドライブチェーン65を介してクランクシャフト62の回転力が伝達されている。オイルポンプ64は、ドライブチェーン65により伝達された回転力により潤滑油を加圧する。オイルポンプとしては、この形態に限られず、潤滑油を加圧できるように形成されていれば構わない。
【0046】
本実施の形態における潤滑油供給装置は、オイルストレーナ63とオイルフィルタ67とを有する。オイルストレーナ63は、潤滑油に含まれる大きな異物を除去する。オイルフィルタ67は、潤滑油に含まれる小さな異物を除去する。
【0047】
オイルポンプ64が駆動することにより、オイルパン66の底部に貯留する潤滑油は、矢印101に示すように、オイルストレーナ63を通ってオイルポンプ64に流入する。オイルポンプ64により加圧された潤滑油は、矢印102に示すように、オイルフィルタ67に流入する。
【0048】
シリンダブロック2の内部には、潤滑油が流れる油路が形成されている。本実施の形態におけるシリンダブロック2の油路には、主油路としてのメインオイルギャラリ71が含まれる。オイルフィルタ67を流通した潤滑油は、矢印103に示すように、メインオイルギャラリ71に供給される。
【0049】
本実施の形態の内燃機関では、潤滑油は、メインオイルギャラリ71から機関本体1の各部位に供給される。例えば、クランクケース79の内部に配置される部材においては、矢印104に示すように、クランクシャフト62を回転可能に支持するクランクジャーナル部に潤滑油が供給される。また、コネクティングロッド62の大端部や、オイルポンプ64を駆動するドライブチェーン65などに潤滑油が供給される。
【0050】
本実施の形態におけるシリンダブロック2は、潤滑油が流れるブロック内油路72を含む。ブロック内油路72は、シリンダブロック2の内部に形成されている。本実施の形態におけるブロック内油路72は、シリンダブロック2の下面から上面に向かって貫通している。
【0051】
本実施の形態における内燃機関は、クランクケース79に形成されている油路と、シリンダブロック2に形成されている油路とを接続する油路接続機構60を備える。本実施の形態における油路接続機構60は、クランクケース79に形成されているメインオイルギャラリ71とシリンダブロック2に形成されているブロック内油路72とを接続する。油路接続機構60は、シリンダブロック2とクランクケース79とが互いに対向する領域に配置されている。図2および図5を参照して、本実施の形態における油路接続機構60は、クランクケース79に形成された切欠き部79aの部分に配置されている。
【0052】
図6に、本実施の形態における油路接続機構の拡大概略断面図を示す。油路接続機構60は、下部構造物の内部の油路に連通する下側接続部としてのクランクケース側オイル管75を含む。クランクケース側オイル管75は、クランクケース79に固定されている。クランクケース側オイル管75は、メインオイルギャラリ71と連通するように配置されている。クランクケース側オイル管75は、クランクケース79の表面からシリンダブロック2に向かって突出するように配置されている。
【0053】
油路接続機構60は、シリンダブロック2の内部の油路に連通する上側連通部としてのブロック側オイル管76を含む。ブロック側オイル管76は、シリンダブロック2に固定されている。ブロック側オイル管76は、ブロック内油路72と連通するように配置されている。ブロック側オイル管76は、シリンダブロック2の表面からクランクケース79に向かって突出するように配置されている。クランクケース側オイル管75と、ブロック側オイル管76とは、同軸状に配置されており、互いに対向して嵌合している。圧縮比可変機構により、たとえば、矢印98に示すように、クランクケース79に対してシリンダブロック2が移動するときに、クランクケース側オイル管75とブロック側オイル管76とは、互いに摺動するように形成されている。
【0054】
クランクケース側オイル管75とブロック側オイル管76との接触部分には、潤滑油が漏れないように密閉する密閉部材が配置されている。本実施の形態においては、クランクケース側オイル管75とブロック側オイル管76とが互いに摺動する部分には、Oリング77が配置されている。密閉部材としてはOリングに限られず、上側接続部と下側接続部とが摺動する部分から潤滑油の漏れを抑制する任意の部材を採用することができる。
【0055】
図5および図6を参照して、メインオイルギャラリ71に供給された潤滑油は、矢印105に示すように、クランクケース側オイル管75およびブロック側オイル管76を通って、シリンダヘッド4のヘッド内油路73に供給される。
【0056】
図7に、圧縮比可変機構が駆動して、クランクケースからシリンダブロックが離れる向きに移動したときの油路接続機構の拡大概略断面図を示す。矢印98に示すように、クランクケース79に対してシリンダブロック2が離れる向きに移動した場合には、クランクケース側オイル管75に対して、ブロック側オイル管76が摺動する。クランクケース79に対してシリンダブロック2が近づく向きに移動した場合においても同様に、クランクケース側オイル管75に対して、ブロック側オイル管76が摺動する。このために、圧縮比可変機構が駆動してもメインオイルギャラリ71とブロック内油路72との接続を維持することができる。このように、本実施の形態における内燃機関は、油路接続機構60の長さが可変に形成されている。
【0057】
本実施の形態における油路接続機構は、クランクケースに対してシリンダブロックが移動して互いの距離が変化しても潤滑油をクランクケースの油路からシリンダブロックの油路に供給することができる。本実施の形態における油路接続機構は、クランクケースに対するシリンダブロックの相対的な位置に関わらず、潤滑油を連続的にシリンダブロックに供給することができる。例えば、圧縮比可変機構が駆動してシリンダブロックがクランクケースに対して相対的に移動している期間中においても潤滑油を供給することができる。
【0058】
図5を参照して、本実施の形態における内燃機関は、シリンダブロックの支持軸としてのカムシャフト84,85を介さずに、クランクケース79の油路からシリンダブロック2の油路に潤滑油を供給することができる。このために、潤滑油を供給する油路の流路断面積が小さくなることを回避でき、クランクケース79の油路からシリンダブロック2の油路に向かって十分な量の潤滑油を供給することができる。または、オイルポンプの大きな吐出圧力を必要とせずに、シリンダブロック2の油路に十分な量の潤滑油を供給することができる。また、機関本体の外側に配管を配設しなくても、シリンダブロック2に十分な量の潤滑油を供給することができる。
【0059】
または、本実施の形態におけるシリンダブロック2のブロック内油路72は、シリンダヘッド4の内部に形成されているヘッド内油路73に接続されている。本実施の形態における内燃機関は、クランクケース79の油路からシリンダヘッド4の油路に十分な量の潤滑油を供給することができる。または、オイルポンプの大きな吐出圧力を必要とせずに、クランクケースからシリンダヘッドに潤滑油を供給することができる。
【0060】
または、本実施の形態における内燃機関は、シリンダブロックの支持軸の軸受けとして、転がり軸受けを採用することができる。転がり軸受けの部分を通して、クランクケースからシリンダブロックに潤滑油を供給する内燃機関の場合には、転がり軸受けの部分で潤滑油の漏れが大きくなり、油圧が大幅に低下する。このために、各部位に十分な量の潤滑油を供給することができなくなる虞がある。本実施の形態の油路接続機構を採用することにより、シリンダブロックの支持軸を通らずに、クランクケース79の油路からシリンダブロック2の油路に潤滑油を供給できるために、転がり軸受けを採用しても、各部位に十分な量の潤滑油を供給することができる。
【0061】
本実施の形態の内燃機関において、シリンダブロック2の支持軸の軸受け部には、メインオイルギャラリ71およびブロック内油路72のうち少なくとも一方の油路から潤滑油を供給することができる。また、シリンダブロックの軸受けとして、転がり軸受けを採用することにより、圧縮比可変機構が駆動するときの抵抗が小さくなり、圧縮比可変機構の応答性が向上する。または、圧縮比可変機構を駆動するための駆動トルクが小さくなり、圧縮比可変機構の駆動装置を小型にすることができる。
【0062】
さらに、本実施の形態における機関本体は、潤滑油が外部に漏れないように、覆い部材で各部分が覆われており、潤滑油が封入されている。本実施の形態における油路接続機構は、潤滑油が封入される空間のうち、クランクケースとシリンダヘッドとが互いに対向する領域に配置されている。この領域に油路接続機構を配置することにより、油路接続機構を外気から遮断することができる。一方で、油路接続機構を機関本体の外部に配置することも可能である。すなわち、大気中に油路接続機構を配置することも可能である。しかしながら、この場合には油路接続機構の摺動する部分に埃などの異物が侵入し、摺動特性が悪化したり、潤滑油が多量に漏れたりする虞がある。本実施の形態の油路接続機構は、外気から遮断された空間に配置されているために、摺動する部分への異物の混入を回避することができる。更に、オイルストレーナ及びおよびオイルフィルタを通った潤滑油が油路接続機構に供給されているために、摺動部への異物の混入を抑制することができる。
【0063】
本実施の形態における潤滑油供給装置は、シリンダブロック2の内部に形成されたブロック内油路72を介してシリンダヘッド4のヘッド内油路73に潤滑油を供給している。ヘッド内油路73に供給された潤滑油は、シリンダヘッド4に配置されている各部材に供給することができる。例えば、吸気弁や排気弁を駆動するカムを含むカムシャフトを支持するカムジャーナル部、または可変動弁機構などに潤滑油を供給することができる。
【0064】
シリンダブロック2に形成されているブロック内油路72は、機関本体の各部材に潤滑油を供給するように形成されていても構わない。例えば、ブロック内油路72は、シリンダブロック2の支持軸としてのカムシャフト84,85に潤滑油を供給する供給管、またはピストン3とシリンダボアとの摺動部分に潤滑油を噴射するオイルジェット管に接続されていても構わない。
【0065】
本実施の形態における油路接続機構において、シリンダブロックに配置されている上側接続部および下部構造物に配置されている下側接続部は、それぞれが管状に形成されているが、この形態に限られず、上側接続部および下側接続部は、互いに嵌合し、シリンダブロックと下部構造物との相対移動に応じて摺動するように形成されていれば、任意の構造を採用することができる。
【0066】
図8に、本実施の形態における他の油路接続機構の概略断面図を示す。他の油路接続機構60は、シリンダブロック2に形成されている凹部78を含む。凹部78は、上側接続部として機能する。クランクケース側オイル管75は、クランクケース79に固定されている。他の油路接続機構60においては、クランクケース側オイル管75が、シリンダブロック2の内部まで延びるように長く形成されている。
【0067】
シリンダブロック2の凹部78は、クランクケース側オイル管75に対向して嵌合している。また、矢印98に示すように、クランクケース79に対してシリンダブロック2が相対的に移動したときに、クランクケース側オイル管75に対して凹部78が摺動するように形成されている。油路接続機構60の長さが変化するように形成されている。このように、上側接続部および下側接続部のうち、いずれか一方が凹部を含んでいても構わない。
【0068】
本実施の形態における上側接続部は、シリンダブロックを貫通するブロック内油路に接続されているが、この形態に限られず、上側接続部はシリンダブロックの任意の油路に接続することができる。また、本実施の形態における下側接続部は、クランクケースのメインオイルギャラリに接続されているが、この形態に限られず、下側接続部は下部構造物の任意の油路に接続することができる。
【0069】
本実施の形態における内燃機関は、ピストンが圧縮上死点に到達したときの燃焼室の容積を変更する圧縮比可変機構に加えて、吸気弁の閉弁時期を変更する可変動弁機構を備えるが、この形態に限られず、可変動弁機構を備えていない内燃機関にも本発明を適用することができる。
【0070】
上述のそれぞれの図において、同一または相当する部分には同一の符号を付している。なお、上記の実施の形態は例示であり発明を限定するものではない。また、実施の形態においては、特許請求の範囲に示される変更が含まれている。
【符号の説明】
【0071】
1 機関本体
2 シリンダブロック
3 ピストン
4 シリンダヘッド
5 燃焼室
60 油路接続機構
64 オイルポンプ
71 メインオイルギャラリ
72 ブロック内油路
73 ヘッド内油路
75 クランクケース側オイル管
76 ブロック側オイル管
77 Oリング
78 凹部
79 クランクケース
84,85 カムシャフト
86 円形カム
87 偏心軸
88 円形カム
89 モータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
クランクケースを含み、潤滑油が流れる油路を内部に有する下部構造物と、
下部構造物の上側に配置され、ピストンが配置される穴部および潤滑油が流れる油路を内部に有するシリンダブロックと、
下部構造物に対してシリンダブロックが相対移動するように形成され、下部構造物に対してシリンダブロックが離れる向きに移動することにより、燃焼室の容積が大きくなって圧縮比が小さくなる圧縮比可変機構と、
下部構造物の油路をシリンダブロックの油路に接続する油路接続機構とを備え、
油路接続機構は、シリンダブロックの油路に連通する上側接続部と、下部構造物の油路に連通する下側接続部とを有し、
上側接続部および下側接続部は、互いに対向して嵌合するように形成されており、下部構造物に対するシリンダブロックの相対移動に応じて互いに摺動し、油路接続機構の長さが可変に形成されていることを特徴とする、内燃機関。
【請求項2】
油路接続機構は、潤滑油が封入される空間のうち、下部構造物とシリンダブロックとが互いに対向する領域に配置されていることを特徴とする、請求項1に記載の内燃機関。
【請求項3】
シリンダブロックの上側に配置され、潤滑油が流れる油路を内部に有するシリンダヘッドを備え、
シリンダヘッドの油路は、シリンダブロックの油路に接続されており、
圧縮比可変機構は、下部構造物に対してシリンダブロックを支持する支持軸を含み、
シリンダブロックの油路は、シリンダブロックの支持軸を通らずに下部構造物の油路からシリンダヘッドの油路に向かって潤滑油を供給するように形成されていることを特徴とする、請求項1または2に記載の内燃機関。
【請求項4】
上側接続部はシリンダブロックに固定されているブロック側オイル管を有し、下側接続部はクランクケースに固定されているクランクケース側オイル管を有し、ブロック側オイル管とクランクケース側オイル管とが互いに嵌合して摺動することを特徴とする、請求項1から3のいずれか一項に記載の内燃機関。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−163007(P2012−163007A)
【公開日】平成24年8月30日(2012.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−22417(P2011−22417)
【出願日】平成23年2月4日(2011.2.4)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】