説明

内視鏡スコープおよび内視鏡装置

【課題】操作性に優れていて簡素な構造を有し、さらに安全性を確保できるスコープおよび内視鏡装置を実現する。
【解決手段】内視鏡装置のスコープは、挿入部20を含む。挿入部20の先端面20Tの周囲には、照明光を出射する光源24が設けられている。光源24は、矢印Aの示すように、先端面20Tの円周に沿って移動可能である。CCD22により生成された被写体像に基づいて、スコープにより内視鏡観察可能な領域における、低輝度領域が検出される。光源24は、低輝度領域に対する照明光の照射量が増加するように、先端面20Tに沿って移動される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内視鏡スコープおよび内視鏡装置に関する。
【背景技術】
【0002】
内視鏡装置においては、光源、光学系等を備えたヘッド部が、スコープの先端部に着脱自在なものが知られている(例えば特許文献1参照)。このような内視鏡装置においては、照明範囲、照度を調整するために、スコープが被検体内に挿入されている状態で、ヘッド部が、スコープの先端部から所望の位置まで移動される。
【0003】
一方、観察の対象となる領域の局部的な明暗に対応するために、スコープの先端に多くの光源を設け、それらの光源の光量を個別に調整する内視鏡装置が知られている(例えば特許文献2および3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−13359号公報
【特許文献2】特開平11−225952号公報
【特許文献3】特開2008−48905号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ヘッド部がスコープの先端に設けられた上述の内視鏡装置においては、使用前にヘッド部をスコープの先端部に取付け、被検体内においてはヘッド部を先端部から移動させるといった煩雑な操作が必要とされる。さらに、体内でスコープの先端からヘッド部を突出させる動作により、ヘッド部が体内組織に接触する可能性もあり、安全性の問題を生じ得る。また、ヘッド部に光源等が内蔵されており、ヘッド部をスコープの先端から移動させるための機構も必要であるため、内視鏡装置の構造が複雑化、大型化してしまう。
【0006】
また、スコープの先端に多くの光源を設けた場合、光源から生じる熱によりスコープ先端の温度が上昇し、安全上の問題を生じるおそれがある。さらに、スコープの先端という比較的狭い領域内に多くの光源を設けることは、スコープの構造の複雑化、大型化を招き、細径化の妨げとなる。
【0007】
本発明は、操作性に優れていて簡素な構造を有し、さらに安全性を確保できるスコープおよび内視鏡装置の実現を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のスコープは、内視鏡装置のスコープである。スコープは、先端に設けられた光源と、スコープにより内視鏡観察される観察領域において、周囲よりも暗い低輝度領域を検出する輝度検出手段とを備えている。そしてスコープにおいては、検出された低輝度領域に対して光源から照射される照明光の光量が増加するように、スコープの先端面に沿った光源の移動と、光源からの照明光の出射方向の調整との少なくともいずれかが可能である。
【0009】
スコープは、被写体像を形成する画像形成手段をさらに有し、輝度検出手段が、被写体像に基づいて低輝度領域を検出することが好ましい。
【0010】
また、スコープは、光源からの照明光の出射方向を調整する出射方向調整手段をさらに有することが好ましい。この場合、出射方向調整手段は、スコープの先端面に対する光源の傾き角度を調整することがより好ましい。また、光源が電極を有し、電極に電力が供給されることにより、光源の移動および出射方向の調整が可能であることが好ましい。スコープは、光源をスコープの先端面に沿って移動させる光源移動手段をさらに有することが好ましく、この場合、移動手段および出射方向調整手段は、例えば、光源が移動するための凹部が設けられたレールと、凹部の表面から延び、電極に接触すると電力を供給するブラシ接点とを有する。
【0011】
出射方向調整手段は、例えば配光特性の異なる複数の配光レンズを有しており、この場合、照明光を複数の配光レンズのいずれかに通過させることにより、出射方向を調整することが好ましい。また、この場合、出射方向調整手段が、複数の配光レンズを保持する保持部材と、複数の配光レンズのいずれかが照明光の通過する通過位置にあるように、保持部材を移動させる保持部材移動手段とをさらに有することが好ましい。出射方向調整手段は、例えば、流体により配光特性を調整可能な流体レンズを有する。
【0012】
スコープは、被写体像を形成する画像形成手段と、被写体像を拡大する画像拡大手段とを備え、被写体像が拡大されると、照明光が観察領域の中心側に向かうように、出射方向調整手段が出射方向を調整することが好ましい。
【0013】
スコープは、被写体像を形成する画像形成手段をさらに有し、画像形成手段が、光源が第1の位置にあるときに形成された第1の被写体像と、第1の位置から移動して第2の位置にあるときに形成された第2の被写体像とを合成可能であることが好ましい。また、この場合、第2の位置は、光源の移動可能な可動領域において、第1の位置から最も離れていることがより好ましい。
【0014】
スコープは、光源により出射される照明光の光量を調整する光量調整手段をさらに有することが好ましい。また、スコープにおいては、単一の光源が設けられていることが好ましい。
【0015】
本発明の内視鏡装置は、上述のスコープを備えたことを特徴とする。内視鏡装置は、被写体像を形成する画像形成手段と、被写体像を拡大する画像拡大手段と、光源からの照明光の出射方向を調整する出射方向調整手段とをさらに有することが好ましい。そしてこの場合、被写体像が拡大されると、照明光が観察領域の拡大中心側に向かうように、出射方向調整手段が出射方向を調整する。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、操作性に優れていて簡素な構造を有し、さらに安全性を確保できるスコープおよび内視鏡装置を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】第1の実施形態の内視鏡装置を示す側面図である。
【図2】第1の実施形態の内視鏡装置のブロック図である。
【図3】挿入部における先端面を拡大して示す斜視図である。
【図4】光源を省略して先端面に設けられたレールを示す、図3に対応した斜視図である。
【図5】光源とレールの一部を拡大して示す斜視図である。
【図6】モニタ上に表示される被写体像を例示する図である。
【図7】拡大された被写体像を例示する図である。
【図8】モニタのタッチパネル上に表示される被写体像を例示する図である。
【図9】中心に円形の窪みを有する被写体を照明して得られる被写体像を例示する平面図である。
【図10】図9の被写体が照明される状態を例示した断面図である。
【図11】異なる方向から図9の被写体を照明して得られた輝度信号を例示する図である。
【図12】第2の実施形態における挿入部の先端面を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の第1の実施形態を説明する。図1は、第1の実施形態の内視鏡装置を示す側面図である。
【0019】
内視鏡装置60は、スコープ10とプロセッサ30とを含む。スコープ10は、ライトガイド可撓管14を介して、プロセッサ30に着脱自在に取り付けられる。スコープ10の先端に設けられた可撓性の挿入部20は、体腔内に挿入され、内視鏡観察に用いられる。
【0020】
体内器官の観察、撮影時には、スコープ10の操作部12が操作される。例えば、操作部12の操作ノブ13、15を回転させると挿入部20の先端が上下、左右に湾曲される。さらに、モニタ(図示せず)上に動画像が表示されているときに操作ボタン18が押下されると、静止画像が生成される。
【0021】
図2は、第1の実施形態の内視鏡装置60のブロック図である。
【0022】
スコープ10の先端、すなわち挿入部20の先端面20Tの内側には、単一のLEDを有する光源24が設けられている。光源24から出射された照明光は、先端面20Tから観察の対象である体内器官に出射される。体内器官からの反射光が、先端面20T近傍のCCD22(画像生成手段)により受光され、画像信号が生成される。なおCCD22は、プロセッサ30側のCCDドライブ32により駆動されている。
【0023】
CCD22により生成された画像信号は、スコープ側画像処理回路16に送られ、所定の処理が施される。さらに画像信号は、プロセッサ側画像信号処理回路34に送られる。画像信号は、プロセッサ側画像信号処理回路34における所定の処理の後に、エンコーダ36を介してモニタ50に送信される。この結果、モニタ50上には、体内器官等の被写体の画像が表示される。
【0024】
また、プロセッサ側画像信号処理回路34において処理された画像信号は、被写体像の画像データとして画像メモリ38に記憶されるとともに、調光回路40にも送られる。調光回路40(輝度検出手段)では、画像データが示す被写体像における輝度分布が検出される。すなわち、調光回路40では、画像信号の輝度成分に基づいて、スコープ20の内視鏡観察の対象である観察領域における輝度の高い領域、および低い領域が検出される。
【0025】
こうして検出された、観察領域における輝度分布を示す輝度データが、光源駆動回路42に送信される。光源駆動回路42により、輝度の低い領域、すなわち観察領域中で周囲よりも暗い領域(以下、低輝度領域という)に対して、光源24から照射される照明光の光量が増すように、光源24が駆動される。このとき光源駆動回路42は、後述するように、必要に応じて光源24を移動させるとともに、光源24から出射される照明光の出射方向を調整する。
【0026】
なおプロセッサ30においては、制御回路31が設けられている。制御回路31により、CCDドライブ32、プロセッサ側画像信号処理回路34を含むプロセッサ30内の様々な回路が制御される。
【0027】
図3は、挿入部20における先端面20Tを拡大して示す斜視図である。図4は、光源24を省略して先端面20Tに設けられたレールを示す、図3に対応した斜視図である。図5は、光源24とレールの一部を拡大して示す斜視図である。
【0028】
先端面20Tには、CCD22、送気送水チャンネル23、鉗子チャンネル25が設けられている。送気送水チャンネル23からは、先端面20T等に付着した汚物を除去するために、空気、あるいは水が噴射される。鉗子チャンネル25からは、患部の処置等のために鉗子などの処置具(図示せず)が進退可能である。
【0029】
光源24は、円形の先端面20Tの周辺部、すなわち先端面20Tの輪郭付近に設けられている。光源24は、矢印Aの示すように、先端面20Tの円周に沿って移動可能である。このように光源24を移動可能にするために、先端面20Tにおいては、内側レール27と外側レール28(レール・図4参照)が設けられている。一対の内側および外側レール27、28は同心円状である。光源24は、内側、外側レール27、28上で、例えば図3の実線で示された第1の位置から、破線で示された第2の位置まで移動する。
【0030】
図5に示すように、光源24は、照明光の出射面24Lが設けられた基板24Pと、両端に設けられた一対の電極24A、24Bを含む。内側、外側レール27、28の中心には、内側凹部27U、外側凹部28U(凹部)がそれぞれ設けられており、内側、外側レール27、28の断面形状は略コの字型である。電極24A、24Bは、基板24Pから、内側、外側凹部27U、28Uに向かって湾曲しながら延びている。
【0031】
内側、外側凹部27U、28Uの表面27S、28Sからは、多数のブラシ接点35が延びている。ブラシ接点35は適度な強度を有し、一対の電極24A、24Bを支持しつつ、電極24A、24Bに電力を供給する。こうして電極24A、24Bに電力が供給されることにより、電磁力が生じ、光源24は所定の位置まで移動される。
【0032】
さらに、電極24A、24Bと、凹部27U、28Uの表面27S、28Sとの間には、適度な隙間が設けられている。このため、電磁力で、光源24の先端面20Tに対する傾き角度も調整できる。例えば、図5においては、基板24Pが先端面20T(図3、4参照)に対して平行であり、光源24は傾いていない状態であるものの、矢印Bの示すように、電極24A、24Bの一方が凹部27Uあるいは28Uの底面側に近づき、電極24A、24Bの他方が凹部27Uあるいは28Uの底面から離れるように、光源24を傾けることができる。このように光源24を先端面20Tに対して傾けることにより、出射面24Lから出射される照明光の出射方向が調整される。
【0033】
なお、光源24の移動量、照明光の出射方向、および出射される照明光の光量は、いずれも光源駆動回路42(光源移動手段・出射方向調整手段・光量調整手段)により制御、調整される。すなわち、光源駆動回路42により、電極24A、24Bに対して供給される電力量と、生じる電磁力の大きさが制御されて光源24の移動量と傾き角度(出射方向)が調整されるとともに、PWM(パルス幅変調)制御により、出射される照明光の光量が調整される。本実施形態においては、光源24の位置、照明光の出射方向および光量の調整は、所定のアルゴリズムにより適宜組み合わせられるものの、これらのうちのいずれか一つのみが調整可能であっても良い。
【0034】
このように、光源駆動回路42により光源24の位置、照明光の出射方向、光量が調整されることにより、低輝度領域に対する光源24からの照明光の照射量が増加される。この結果、調光回路40において、低輝度領域の輝度が所定量だけ向上し、あるいはスコープ10により観察可能な領域においてほぼ均等な明るさが実現して低輝度領域が消滅したと判断されると、光源24の位置および照明光の出射状態が維持される。そして再び、低輝度領域が生じると、光源駆動回路42による照明光の出射制御が繰り返される。
【0035】
図6は、モニタ50(図2参照)上に表示される被写体像を例示する図である。図7は、拡大された被写体像を例示する図である。
【0036】
モニタ50上の被写体像52においては、例えば、体腔内の窪み54が、低輝度領域に含まれると判断され得る。この結果、図6の例においては、被写体像52の中心よりもやや上方の領域に対して照明光がより多く照射されるように、光源24の位置等が制御される。
【0037】
この被写体像52の中心部分が、プロセッサ側画像処理回路34(画像拡大手段・図2参照)における電子(デジタル)ズーム処理により、あるいは光学ズームにより拡大され、新たな拡大被写体像53が生成、表示される場合がある(図7参照)。この場合、被写体像52が生成されたときに内視鏡観察可能であった被写体の領域のうち、中心部のみが新たな拡大被写体像53の生成時に観察される。このように、被写体像が拡大されると観察可能な領域が中心付近に狭められるため、光源駆動回路42は、照明光の照射方向を調整する。
【0038】
より具体的には、元の状態、すなわち被写体像52(図6参照)が生成されたときの出射方向よりも、観察領域の中心側に向かって照明光が進むように、出射方向が変更される。例えば、被写体像52の生成時に、照明光の出射方向が先端面20Tに対して垂直であった場合(図5等参照)、拡大被写体像53(図7参照)の生成時には、先端面20Tに対して鋭角で交わるように出射方向が変更される。
【0039】
この結果、倍率が変更された拡大被写体像53においても、適度な明るさが自動的に維持される。なお、拡大被写体像53の生成時においても、上述の出射方向の変更に加えて、体腔内の窪み54による低輝度領域に対し照明光をより多く照射するための制御は継続される。また、画像が縮小された場合においては、拡大時とは反対に、照明光が観察領域のより外側に向かって進むように、出射方向が調整される。
【0040】
図6および7の例においては、被写体像52の中心を拡大することにより拡大被写体像53が形成されていたものの、電子ズーム処理によっては、ユーザが選択した被写体像における任意の領域、すなわち中心以外の領域を拡大することも可能である。例えば、図8に示されたように、モニタ50のタッチパネル上に被写体像55が表示されているとき、被写体像55中の拡大枠55Aに触れた状態のユーザの指を動かすことにより、拡大枠55Aの位置を移動することができる。
【0041】
そして拡大枠55Aを新たな位置まで移動させた状態で、操作ボタン18(図1参照)、あるいはタッチパネル周辺の様々なモニタ操作ボタンが操作されると、拡大被写体像(図示せず)が生成、表示される。この拡大被写体像においては、被写体58のうち、元の被写体像55の拡大枠55Aにより囲まれていた領域が含まれている。
【0042】
このように、プロセッサ側画像処理回路34(図2参照)の電子ズーム処理により被写体像が拡大される場合、照明光が、元の被写体像55における拡大中心側に向かって進むように、出射方向が調整される。この例においては、被写体像55における拡大中心とは、被写体像55の中心点である55Cではなく、拡大枠55Aの中心点55Pである。よって図8の状態で拡大被写体像が生成される場合、照明光の出射方向は、被写体像を拡大する直前の出射方向よりも中心点55P側に向かうように、調整される。この結果、拡大被写体像の明るさが良好なレベルに保たれる。
【0043】
図9は、中心に円形の窪みを有する被写体を照明して得られる被写体像を例示する平面図である。図10は、図9の被写体が照明される状態を例示した断面図である。図11は、異なる方向から図9の被写体を照明して得られた輝度信号を例示する図である。
【0044】
中心に円形の窪み56を有し、窪み56の周囲が隆起している隆起部57を有する被写体58に対し、一方向から照明光を照射すると、照明光の一部が隆起部57により遮られる。このため、窪み56と隆起部57との境界において、低輝度領域59が生じ得る(図9(A)、(B)参照)。
【0045】
例えば、隆起部57における左側の領域の上方から照明光が照射されると(図10(A)参照)、図9(A)に示されたように、隆起部57の左側の領域と窪み56との境界部分に低輝度領域59が生じ得る。このとき、隆起部57の右側の領域では、隆起部57の斜面に対して照明光Lが垂直に近い角度で照射されるため、低輝度領域59は生じない。これと同様に、隆起部57の右側の上方から照明光が照射されると(図10(B)参照)、図9(B)に示されたように、隆起部57の右側の領域と窪み56との境界部分に低輝度領域59が生じ得る。
【0046】
これに対し、上述のように異なる方向から照明光が照射されたときに生成された被写体像を合成すると、低輝度領域59の発生が防止され、立体感により優れた被写体像を得ることができる(図9(C)、図10(C)参照)。この被写体像の合成においては、光源24が図10(A)の位置にあるときに生成された輝度信号(図11(A)参照)と、光源24が図10(B)の位置にあるときに生成された輝度信号(図11(B)参照)との平均値である平均輝度信号(図11(C)参照)が算出される。
【0047】
より具体的には、図9(A)の低輝度領域59に相当する輝度信号S1と、図9(B)において対応する輝度信号S1’との平均値であるS1avが算出される。同様に、図9(B)の低輝度領域59に相当する輝度信号S2と、図9(A)にて対応する輝度信号S2’との平均値であるS2avが算出される。そしてこれらの平均輝度信号S1av、S2avに基づく被写体像では、低輝度領域59が消去されている(図9(C)参照)。なお、輝度信号の値が所定の最大値である閾値Vmaxを越えた場合、その輝度値に所定の重み付け係数を乗ずることにより、輝度信号に混在したノイズの影響を抑えることができる。
【0048】
以上のように第1の実施形態では、光源24の位置が移動する前後で生成した被写体像を合成することができる。この場合、例えば、光源24が図3において実線で示された第1の位置で照明光を出射したときと、破線で示された第2の位置で照明光を出射したときに得られた、同じ被写体の被写体像が合成される。
【0049】
第1の位置と第2の位置とは、先端面20の円周状で互いに対向するように設定されている。このように、光源24が移動可能な可動領域において、互いに最も離れた第1の位置と第2の位置とで生成された被写体像を合成すると、上述の低輝度領域59の発生防止効果が最大となるためである。また、光源24の位置を変更せずに、あるいは位置の変更に加えて、光源24における照明光の出射方向を変更させても良い。
【0050】
なお被写体像を合成する動作は、上述のように自動的に低輝度領域の輝度を補う制御とは異なるため、ユーザの指示によりマニュアルモードが選択されると実施される。マニュアルモードは、例えば、スコープ10の操作部12(図1、2参照)の操作により生じた指示信号が、プロセッサ30の制御回路31に送信されることにより、設定される。
【0051】
このように、被写体像を合成するためのマニュアルモードの他にも、光源24の位置を指示するためのモードが設定可能であっても良い。例えば、鉗子などの処置具(図示せず)により照明光の光路が遮られる場合、処置具が進退する鉗子チャンネル25(図3、4等参照)から可能な限り離れるように、光源24の位置を制御するモードである。
【0052】
以上のように第1の実施形態によれば、特別な操作無しに低輝度領域を自動的に解消できるため、スコープ10は操作性に優れている。また、スコープ10の先端に設けた数少ない光源24により低輝度領域を解消するため、ライトガイド、多数の光源、および光源をスコープ10の先端から突出させる機構等は不要である。このため本実施形態では、スコープ10の構造を簡素化できる。
【0053】
さらに本実施形態では、光源24が可動式であり、様々な位置に多くの光源を配置する必要がないため、光源24からの発熱量を抑制できる。また、先端面20Tから光源24を突出させるとった体内組織の安全を脅かし得る動作も不要である。よって本実施形態の内視鏡装置60では、被検者の安全性が確保される。また、複数の光源を用いると、光源間の照明光の色のばらつきにより、被写体像における色バランスが崩れる恐れがあるのに対し、本実施形態では色バランスを良好に保つことができる。
【0054】
また、本実施形態では、光源24の移動と、光源24から出射される照明光の出射方向の調整とがいずれも可能であることにより、低輝度領域を効率的に解消することができる。しかしながら、光源24の移動と照明光の出射方向の調整のうち、いずれか一方のみが可能であっても良い。
【0055】
次に、第2の実施形態について、第1の実施形態との相違点を中心に説明する。図12は、第2の実施形態における挿入部20の先端面20Tを示す斜視図である。
【0056】
第2の実施形態では、光源24は固定されており、複数の配光レンズのいずれかを選択的に使用することにより、照明光の出射方向が調整される。本実施形態では、先端面20Tに沿って、第1〜4の配光レンズ45〜48が配置されており、これらの配光特性は互いに異なっている。
【0057】
例えば、第1の配光レンズ44は照明光を広範囲に拡散させ、第2の配光レンズ45は照明光を狭い範囲に集光させる。そして第3の配光レンズ46は、照明光を主として光源24よりも内側に、すなわち挿入部20の中心軸20C側に向かって多くの照明光が進むように拡散させ、第4の配光レンズ47は、主として照明光を光源24よりも外側に進むように拡散させる。
【0058】
第1〜4の配光レンズ44〜47は、同心円状の一対の保持部材48によって保持されている。そして保持部材48は、第1の実施形態において光源24を移動させる光源駆動回路42(図2参照)と同様の保持部材駆動回路(図示せず・保持部材移動手段)により、先端面20Tに沿って移動される。なお図12においては、説明の便宜上、保持部材48が先端面20Tから離れた位置に示されているが、保持部材48は、内側、外側レール27、28に嵌め込まれている。
【0059】
保持部材48の移動は、第1〜4の配光レンズ44〜47のいずれかが、光源24の出射面24Lの上方であって、出射された照明光が通過する通過位置にあるように、保持部材駆動回路により制御される。例えば、図12においては、第1の配光レンズ44が通過位置に配置されている。このように、第1〜4の配光レンズ44〜47のうちで、検出された低輝度領域を解消するために最も適切なものが選択され、必要に応じて保持部材48の移動により通過位置に配置される。その結果、照明光が選択されたいずれかの配光レンズを通過することとなり、照明光の出射方向が調整される。
【0060】
また、本実施形態の変形例として、流体レンズ(図示せず)を用いても良い。流体レンズにおいては、導電性の水溶液と不導体のオイルといった複数の流体の界面の曲率を電圧の供給により変化させ、配光特性が調整される。この場合、照明光の進む向きよりも照射範囲を容易に変更させることができる。また、流体レンズ自体は、上述の第1〜4の配光レンズ44〜47よりも構造が複雑であるものの、保持部材48を用いることなしに、単一の流体レンズのみを通過位置に固定させれば十分であるため、挿入部20の構造を簡素化できる。
【0061】
さらなる本実施形態の変形例として、柔軟な材質で形成されたレンズ中に含まれる流体の量を変化させてレンズの形状を変えることにより、配光特性を調整しても良い。この場合は、流体量の調整機構が必要となるものの、流体レンズを用いる場合と同様に単一のレンズのみが必要であるため、挿入部20の構造は簡素化される。
【0062】
以上のように第2の実施形態によれば、照明光を通過させるレンズによって照明光の出射方向を調整可能にすることにより、スコープ10の構造をさらに簡素化することができる。なお本実施形態では、第1〜4の配光レンズ44〜47を、上述の変形例における流体レンズ等と組み合わせて使用しても良い。
【0063】
内視鏡装置60に含まれる各部材の構造、制御方法等は、いずれの実施形態にも限定されない。例えば、第2の実施形態において光源24の移動も可能にする等、第1および第2の実施形態を適宜組み合わせても良い。さらに、必要とされる照明光の光量が確保できる限り、有機EL等により光源24を形成しても良い。また、上述の理由により、単一の光源24を設けることが好ましいものの、例えば数個程度までの光源を用いても良い。
【符号の説明】
【0064】
10 スコープ
22 CCD(画像生成手段)
24 光源
24A 電極
24B 電極
27 内側レール(レール)
27U 内側凹部(凹部)
28 外側レール(レール)
28U 外側凹部(凹部)
34 プロセッサ側画像処理回路(画像拡大手段)
35 ブラシ接点
40 調光回路(輝度検出手段)
42 光源駆動回路(光源移動手段・出射方向調整手段・光量調整手段)
44〜47 第1〜4の配光レンズ
48 保持部材
60 内視鏡装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内視鏡装置のスコープであって、
前記スコープの先端に設けられた光源と、
前記スコープにより内視鏡観察される観察領域において、周囲よりも暗い低輝度領域を検出する輝度検出手段とを備え、
検出された前記低輝度領域に対して前記光源から照射される照明光の光量が増加するように、前記スコープの先端面に沿った前記光源の移動と、前記光源からの前記照明光の出射方向の調整との少なくともいずれかが可能であることを特徴とするスコープ。
【請求項2】
被写体像を形成する画像形成手段をさらに有し、前記輝度検出手段が、前記被写体像に基づいて前記低輝度領域を検出することを特徴とする請求項1に記載のスコープ。
【請求項3】
前記光源からの前記照明光の出射方向を調整する出射方向調整手段をさらに有することを特徴とする請求項1に記載のスコープ。
【請求項4】
前記出射方向調整手段が、前記先端面に対する前記光源の傾き角度を調整することを特徴とする請求項3に記載のスコープ。
【請求項5】
前記光源が電極を有し、前記電極に電力が供給されることにより、前記光源の移動および前記出射方向の調整が可能であることを特徴とする請求項3に記載のスコープ。
【請求項6】
前記光源を前記スコープの先端面に沿って移動させる光源移動手段をさらに有し、前記光源移動手段および前記出射方向調整手段が、前記光源が移動するための凹部が設けられたレールと、前記凹部の表面から延び、前記電極に接触すると電力を供給するブラシ接点とを有することを特徴とする請求項5に記載のスコープ。
【請求項7】
前記出射方向調整手段が、配光特性の異なる複数の配光レンズを有し、前記照明光を前記複数の配光レンズのいずれかに通過させることにより、前記出射方向を調整することを特徴とする請求項3に記載のスコープ。
【請求項8】
前記出射方向調整手段が、前記複数の配光レンズを保持する保持部材と、前記複数の配光レンズのいずれかが前記照明光の通過する通過位置にあるように、前記保持部材を移動させる保持部材移動手段とをさらに有することを特徴とする請求項7に記載のスコープ。
【請求項9】
前記出射方向調整手段が、流体により配光特性を調整可能な流体レンズを有することを特徴とする請求項3に記載のスコープ。
【請求項10】
被写体像を形成する画像形成手段をさらに有し、前記画像形成手段が、前記光源が第1の位置にあるときに形成された第1の被写体像と、前記第1の位置から移動して第2の位置にあるときに形成された第2の被写体像とを合成可能であることを特徴とする請求項1に記載のスコープ。
【請求項11】
前記第2の位置が、前記光源の移動可能な可動領域において、前記第1の位置から最も離れていることを特徴とする請求項10に記載のスコープ。
【請求項12】
前記光源により出射される前記照明光の光量を調整する光量調整手段をさらに有することを特徴とする請求項1に記載のスコープ。
【請求項13】
単一の前記光源が設けられていることを特徴とする請求項1に記載のスコープ。
【請求項14】
請求項1に記載のスコープを備えたことを特徴とする内視鏡装置。
【請求項15】
被写体像を形成する画像形成手段と、前記被写体像を拡大する画像拡大手段と、前記光源からの前記照明光の出射方向を調整する出射方向調整手段とをさらに有し、前記被写体像が拡大されると、前記照明光が前記観察領域の拡大中心側に向かうように、前記出射方向調整手段が前記出射方向を調整することを特徴とする請求項14に記載の内視鏡装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2011−120646(P2011−120646A)
【公開日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−278814(P2009−278814)
【出願日】平成21年12月8日(2009.12.8)
【出願人】(000113263)HOYA株式会社 (3,820)
【Fターム(参考)】