説明

内部熱交換器を有する熱電気エネルギー貯蔵システム及び熱電気エネルギーを蓄えるための方法

熱電気エネルギー貯蔵システム(TEES)及び方法が開示される。この方法によれば、改善された往復効率で、電気エネルギーが、熱エネルギーに変換されて蓄えられ、次いで電気エネルギーに変換されて戻される。このTEESは、作業流体を第一の熱交換器(18)及び第二の熱交換器(20)を通して循環させるための作業流体回路と、蓄熱媒体を循環させるための蓄熱媒体回路と、を有していて、この蓄熱媒体回路は、第一の熱交換器(18)を介して低温貯蔵タンク(22)に結合された、少なくとも一つの高温貯槽タンク(24)を有している。この装置は、与えられた作業流体の最大圧力及び最大温度に対して、チャージ及びディスチャージの間に、サイクルにより行われる仕事を最大化する。好ましくも、これはシステムの往復効率を最大化する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般的に、電気エネルギーの貯蔵に係る。本発明は、特に、熱エネルギー貯槽の中に、熱エネルギーの形態で電気エネルギーを蓄えるためのシステム及び方法に係る。
【背景技術】
【0002】
原子力発電所などのようなベースロード発電機、及び、風力タービン及び太陽光発電機などのような、確率論的な、間歇的なエネルギー源を有する発電機は、低い電力需要の時間の間に過剰な電力を発生させる。大規模な電気的なエネルギー貯蔵システムは、この過剰なエネルギーをピーク需要の時間に転用する手段であって、全体的な発電と消費を均衡させる。
【0003】
先の特許出願EP1577548において、出願人は、熱電気(thermoelectric)エネルギー貯蔵(TEES)システムのコンセプトについて説明した。TEESは、チャージ・サイクルにおいて過剰な電気を熱に変換して、この熱を蓄え、そして必要なときに、ディスチャージ・サイクルにおいて、熱を変換して電気に戻す。そのようなエネルギー貯蔵システムは、頑丈で、コンパクトで、サイトに依存せず、大量の電気的なエネルギー貯蔵に適している。熱エネルギーは、温度の変化を介して顕熱の形態で、または、相の変化を介して潜熱の形態で、または、両方の組み合わせで、蓄えられることが可能である。顕熱のための貯蔵媒体は、固体、液体、または気体であることが可能である。潜熱のための貯蔵媒体は、相の変化を介して生ずる、これらの相の何れかを、またはこれらの相の組み合わせを直列にまたは並列に、含むことが可能である。
【0004】
電気的なエネルギー貯蔵システムの往復効率は、ディスチャージの後のエネルギー貯蔵システムの状態が、貯槽のチャージの前のその初期の条件に戻ると仮定した場合における、貯槽をチャージするために使用される電気的なエネルギーと比較した、貯槽から排出されることが可能である電気的なエネルギーのパーセンテージとして規定されることが可能である。このようにして、高い往復効率を実現するために、両方のモードの効率が、互いの依存性が可能にする限りにおいて、最大化されることが必要である。
【0005】
ここで指摘されるべきことは、全ての電気エネルギー貯蔵技術は、本来、限られた往復効率を有していると言うことである。このようにして、貯槽をチャージするために使用される電気的なエネルギーの全ての単位に対して、特定のパーセンテージのみが、ディスチャージの際に電気的なエネルギーとして回収されることになる。残りの電気的なエネルギーは、失われる。もし、例えば、TEESシステムに中に蓄えられる熱が抵抗ヒーターによりもたらされる場合には、このシステムは、約40%の往復効率を有している。TEESシステムの往復効率は、チャージ効率及びディスチャージ効率から構成される。
【0006】
TEESシステムの往復効率は、熱力学の第二の法則に基づく様々な理由のために限定される。第一の理由は、システムの性能係数(coefficient of performance:COP)に関係している。システムがチャージ・モードにあるとき、その理想的な効率は、性能係数(COP)により支配される。このCOPは、低温側(Tc)及び高温側(Th)の温度に依存していて、下記の式により与えられる:
COP=Th/(Th−Tc)
このようにして、ヒート・ポンプのCOPは、インプット温度レベルとアウトプット温度レベルとの間の差が増大するに伴い、減少することが分かる。
【0007】
第二に、熱機関における熱から機械的な仕事への変換は、カルノー効率により限定される。システムがディスチャージ・モードあるとき、効率(η)は、下記の式により与えられる:
η=(Th−Tc)/Th
このようにして、低温側の温度が低下するとき、効率が増大することが分かる。
【0008】
第三に、作業流体から熱貯槽への熱の流れ、及びその逆方向の熱の流れは、それが生じるために温度差を必要とする。この事実は、不可避的に温度レベルを低下させ、それにより、熱の仕事をする能力を低下させる。
【0009】
ここで留意すべきことは、多くの産業プロセスは、熱エネルギーの施設及び熱エネルギーの貯槽を含んでいると言うことである。それらの例は、冷凍装置、ヒート・ポンプ、空調、及びプロセス産業などである。太陽熱発電プラントにおいて、熱が供給され、恐らくは蓄えられ、そして、電気的なエネルギーに変換される。しかしながら、これらの適用の全ては、TEESシステムとは明確に異なっている。その理由は、それらが専ら電気を蓄える目的のための熱に関係していないからである。
【0010】
ここで留意すべきことは、TEESシステムのチャージ・サイクルは、ヒート・ポンプ・サイクルとも呼ばれ、また、TEESシステムのディスチャージ・サイクルは、熱機関サイクルとも呼ばれることである。TEESのコンセプトにおいて、熱は、チャージ・サイクルの間に、高温作業流体から蓄熱媒体へ移送され、ディスチャージ・サイクルの間に、蓄熱媒体から作業流体へ戻されることが必要である。ヒート・ポンプは、低温源からより暖かいヒート・シンクへ熱エネルギーを移動させるために、仕事を必要とする。高温側(即ち、TEESの蓄熱媒体部分)に蓄えられるエネルギーの量は、圧縮仕事と比べて、低温側から抜き出されるエネルギーと等しい量(即ち、低い圧力で作業流体により吸収される熱)だけ大きいので、ヒート・ポンプは、抵抗加熱と比較して、仕事のインプット当りより多くの熱を高温貯槽に蓄える。仕事のインプットに対する熱のアウトプットの比は、性能係数と呼ばれ、それは、1よりも大きい値である。このようにして、ヒート・ポンプの使用は、TEESシステムの往復効率を増大させることになる。
【0011】
既知のTEESシステムのチャージ・サイクルは、仕事を回収する膨張器、蒸発器、圧縮器及び熱交換器を有していて、それらの全てが作業流体回路により直列に接続されている。更に、流体の蓄熱媒体を収容する低温貯蔵タンク及び高温貯槽タンクが、上記熱交換器を介して一緒に接続されている。作業流体が蒸発器の中を通過する間に、作業媒体は、環境からまたはヒート・バスから熱を吸収して気化する。既知のTEESシステムのディスチャージ・サイクルは、ポンプ、凝縮器、タービン及び熱交換器を有していて、それらの全てが作業流体回路により直列に接続されている。再び、流体の蓄熱媒体を収容する低温貯蔵タンク及び高温貯槽タンクは、熱交換器を介して一緒に接続されている。作業流体が凝縮器の中を通過する間に、作業媒体は、環境からまたはヒート・バスと熱エネルギーを交換して凝縮する。同じヒート・バス(例えば、川、湖、または水と氷の混合物のプールなど)が、チャージ及びディスチャージ・サイクルの両方に使用される。
【0012】
図1は、既知のTEESシステムにおけるサイクルからの、熱移送のエンタルピ対圧力の図を示している。実線の四角形は、チャージ及びディスチャージ・サイクルの両方を示している。チャージ・サイクルは、左下隅(Iで示されている)で始まり、反時計回り方向に辿ると考えられることが可能である。ポイントIは、蒸発器14から熱を受け取る前の、作業流体の状態に対応している。一般的に、この状態で、作業流体の温度は、約−5℃から10℃までの範囲である。作業流体は、一定の圧力及び温度で気化され、図1のポイントIIに到達する。作業流体は、次いで、等エントロピー過程で、ポイントIIIとして示された状態まで圧縮される。作業流体の温度は、この状態で約90℃から120℃までの範囲である。この状態で、作業流体の圧力は、臨界点への近接に起因して、20MPaのオーダーまでになることがある。作業流体からの熱は、向流熱交換器の中で、ポイントIIIとIVとの間の等圧プロセスの中で、蓄熱媒体に移送される。作業流体は、次いで、等エントロピー膨張デバイスの中で、ポイントIVとIとの間で膨張され、それが、加圧された作業流体の中に含まれるエネルギーの回収を可能にする。
【0013】
ディスチャージの間に、図1の熱移送サイクルは、時計回り方向を辿り、ポイントIからVIまでの間の遷移が、ポンプ28を用いて実施される。更に、ディスチャージの間に、ポイントIIからIIIまでの間の遷移が、タービン32の中で実施される。
【0014】
当業者であれば分かるように、図1の中で円で示されている状態のポイントの相対的な位置は、例であって、特定の熱力学的マシンに関係する実際的な問題を克服するために、変更されることが可能である。
【0015】
関係するシステム・コストを最小にしながら、高い往復効率を有する、効率の良い熱電気エネルギー貯蔵を提供することに対するニーズがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【特許文献1】欧州特許出願公開第EP1577548号明細書
【発明の概要】
【0017】
本発明の目的は、熱電気エネルギー貯蔵システムを提供することにあり、このシステムによれば、改善された往復効率で、電気エネルギーが熱エネルギーに変換されて蓄えられ、次いで、電気エネルギーに変換されて戻される。この目的は、請求項1に基づく熱電気エネルギー貯蔵システム、及び請求項6に基づく方法により、実現される。好ましい実施形態は、従属請求項から明らかである。
【0018】
本発明の第一のアスペクトによれば、熱電気エネルギー貯蔵システムが設けられ、このシステムは、熱エネルギーを熱貯槽に供給するためのチャージ・サイクル、及び、熱貯槽から熱エネルギーを回収することにより電気を発生させるためのディスチャージ・サイクルを有している。この熱電気エネルギー貯蔵システムは、第一の熱交換器及び第二の熱交換器の中を通して作業流体を循環させるための作業流体回路、及び、蓄熱媒体を循環させるための蓄熱媒体回路を有している。蓄熱媒体回路は、第一の熱交換器を介して低温貯蔵タンクに結合された、少なくとも一つの高温貯槽タンクを有している。第二の熱交換器は、チャージ・サイクルの間に、第一の熱交換器の出側で作業流体を更に冷却するように構成され、蓄熱媒体の中に蓄えられる熱エネルギーの量は、チャージ・サイクル及びディスチャージ・サイクルの間に、同様な蓄熱媒体温度を確保するために調整される。第二の熱交換器は、ディスチャージ・サイクルの間に、第一の熱交換器の入側で作業流体を更に予熱するように構成され、蓄熱媒体から抜き出される熱エネルギーの量は、チャージ・サイクル及びディスチャージ・サイクルの間に、同様な蓄熱媒体温度を確保するために調整される。
【0019】
換言すれば、蓄えられる熱エネルギーの量は、チャージ及びディスチャージの間に、高温貯槽タンクの中の蓄熱媒体温度がほぼ同じになるように、且つ、チャージ及びディスチャージの間に、低温貯蔵タンクの中の蓄熱媒体温度がほぼ同じになるように、調整される。代表的な実施形態において、高温貯槽タンクの中の温度は、120℃であり、低温貯蔵タンクの中の温度は、10℃である。
【0020】
好ましくも、本発明は、低コストの貯蔵材料を使用し、第一熱交換器及び第二の熱交換器が高い効率で運転される。蓄熱媒体は、液体であり、好ましくは水である。本発明の作業流体は、好ましくは二酸化炭素である。
【0021】
好ましい実施形態において、チャージ・サイクルの間に、第二の熱交換器は、膨張器に進む第一のアウトプットに接続された第一の熱交換器からの第一のインプット、及び、圧縮器に進む第二のアウトプットに接続された凝縮器からの第二のインプットを有している。
【0022】
更に好ましい実施形態において、ディスチャージ・サイクルの間に、第二の熱交換器は、第一の熱交換器に進む第一のアウトプットに接続されたポンプからの第一のインプット、及び、凝縮器に進む第二のアウトプットに接続された熱力学的マシンからの第二のインプットを有している。
【0023】
本発明の好ましい実施形態において、チャージ・サイクルまたはディスチャージ・サイクルの少なくとも一方は、トランスクリティカルに(transcritically)行われる。
【0024】
本発明の代替的な実施形態において、チャージ・サイクルまたはディスチャージ・サイクルの何れかは、第二の熱交換器無しで行われても良い。
【0025】
本発明の第二のアスペクトにおいて、熱電気エネルギー貯蔵システムの中に、エネルギーを蓄えて回収するための方法が提供される。この方法は、蓄熱媒体を加熱することによりシステムをチャージすることを有していて、ここで、蓄熱媒体は、少なくとも一つの高温貯槽タンクと低温貯蔵タンクとの間を循環し、蓄熱媒体からの熱を用いて、作業流体回路の中で作業流体を加熱することにより、システムをディスチャージし、熱力学的マシンにより作業流体を膨張させる。この方法は、第二の熱交換器により、チャージの間に第一の熱交換器から排出される作業流体を更に冷却することを、更に有していて、チャージ・サイクル及びディスチャージ・サイクルの間に、蓄熱媒体の中に蓄えられる熱エネルギーの量が、同様な蓄熱媒体温度を確保するために調整されることを可能にし、第二の熱交換器により、ディスチャージの間に、第一の熱交換器の中に導入される作業流体を予熱し、チャージ・サイクル及びディスチャージ・サイクルの間に、蓄熱媒体から抜き出される熱エネルギーの量が、同様な蓄熱媒体温度を確保するために調整されることを可能にする。
【0026】
好ましくも、高温タンク及び低温タンク中の蓄熱媒体の、チャージとディスチャージとの間の温度差の最小化は、システムのより往復効率をもたらす。
【0027】
好ましい実施形態において、チャージの間に、第一の熱交換器から排出される作業流体を更に冷却する工程は、第一の熱交換器から出る作業流体から、蒸発器から排出される作業流体へ熱を伝達することを、更に有している。
【0028】
好ましい実施形態において、ディスチャージの間に、第一の熱交換器の中に導入される作業流体を予熱する工程は、前記熱力学的マシンから出る作業流体から、第一の熱交換器の中に導入される作業流体へ熱を伝達することを、更に有している。当業者は、この熱力学的マシンがタービンとも呼ばれることもあることが分かるであろう。
【0029】
更に好ましい実施形態において、チャージ・サイクルまたはディスチャージ・サイクルの少なくとも一方は、トランスクリティカルに行われる。
【0030】
本発明の代替的な実施形態において、チャージ・サイクルまたはディスチャージ・サイクルの何れかが、第二の熱交換器無しで行われる。
【0031】
好ましくも、本発明は、チャージ及びディスチャージために、貯蔵媒体温度の調整のために要求される熱エネルギーの量を最小化し、それにより要求される熱貯槽のサイズを最小化する。
【0032】
本発明は、サイクルの中の図4のポイントIVで、与えられた作業流体の最大圧力及び最大温度に対して、チャージ及びディスチャージの間に、サイクルにより行われる仕事を最大化する。好ましくも、これは、システムの往復効率を最大化する。
【0033】
更なる優位性は、システムの高い電力密度の中に得られる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】図1は、既知のTEESシステムにおける、サイクルからの熱移送のエンタルピ対圧力の図を示している。
【図2】図2は、本発明に基づく、熱電気エネルギー貯蔵システムのチャージ・サイクルの単純化された概略図を示す。
【図3】図3は、本発明に基づく、熱電気エネルギー貯蔵システムのディスチャージ・サイクルの単純化された概略図を示す。
【図4】図4は、内部熱交換器を有する本発明のTEESシステムにおける、サイクルからの熱移送のエンタルピ対圧力の図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0035】
本発明の主題が、添付図面に示されている好ましい代表的な実施形態を参照しながら、以下のテキストにおいて、より詳細に説明される。
【0036】
統一性のために、同じ参照符号が、これらの図面の全体に亘って示された同様な要素を表すために使用されている。
【0037】
図2及び3は、本発明の実施形態に基づくTEESシステムの、チャージ・サイクル・システム及びディスチャージ・サイクル・システムを、それぞれ、概略的に示している。
【0038】
図2に示されたチャージ・サイクル・システム10は、仕事を回収する膨張器12、蒸発器14、圧縮器16、高温度の熱交換器18、及び内部熱交換器20を有している。作業流体は、図2の中の矢印付きの実線で示されているように、コンポーネントの中を循環する。特に、蒸発器14からのアウトプット及び高温度の熱交換器18からのアウトプットの両方が、内部熱交換器20の中を通る。更に、液体の蓄熱媒体を含んでいる低温貯蔵タンク22及び高温貯槽タンク24は、熱交換器18を介して一緒に接続されている。熱貯槽の液体は、矢印付きの破線で示されているように、低温貯蔵タンク22と高温貯槽タンク24との間を流れる。
【0039】
運転の際に、チャージ・サイクル・システム10は、熱力学的サイクルを行い、作業流体は、以下のやり方でTEESシステムの周りを流れる。蒸発器14から出る気化された作業流体は、内部熱交換器20を介して、圧縮器16に循環される。蓄えられた過剰な電気的なエネルギーは、圧縮器16の中で、作業流体を圧縮して加熱するために使用される。圧縮器16から出るとき、作業流体は、サイクルの最も高い温度及び圧力にある。作業流体は、高温度の熱交換器18の中に導かれ、そこで、作業流体が蓄熱媒体に熱を放出する。
【0040】
圧縮された作業流体は、熱交換器18から出て、内部熱交換器20の中に入り、そこで、残っている熱が、圧縮された作業流体から移送され、蒸発器14の出側で作業流体の中に移送される。冷却された作業流体は、次いで、膨張器12の中に入る。ここで、作業流体は、蒸発器の入口圧力に対応するより低い圧力まで膨張される。作業流体は、膨張器12から流れ、蒸発器14に戻る。
【0041】
流体の蓄熱媒体は、低温貯蔵タンク22から、熱交換器18の中を通って、高温貯槽タンク24へ送り出される。蓄熱媒体の中へ作業流体から放出された熱エネルギーは、顕熱の形態で蓄えられる。
【0042】
図3に示されたディスチャージ・サイクル・システム26は、ポンプ28、凝縮器30、タービン32、高温度の熱交換器18、及び内部熱交換器20を有している。作業流体は、図3の中で矢印付きの点線で示されているように、これらのコンポーネントの中を通って循環する。更に、流体の蓄熱媒体を含む低温貯蔵タンク22及び高温貯槽タンク24は、高温度の熱交換器18を介して一緒に接続されている。蓄熱媒体(図3の中で破線で示されている)は、高温貯槽タンク24から、熱交換器の中を通って、低温貯蔵タンク22へ送り出される。
【0043】
運転の際、ディスチャージ・サイクル・システム26は、チャージ・サイクルの逆の熱力学的サイクルを行い、作業流体は、以下のやり方で、TEESシステムの周りを流れる。液体の形態の作業流体は、ポンプ28により高い圧力まで昇圧される。作業流体は、次いで内部熱交換器20の中に入り、そこで、作業流体は、タービン32から出る作業流体により予熱される。作業流体は、次いで高温度の熱交換器18に流れ、その中で、熱エネルギーが蓄熱媒体から作業流体へ移送され、作業流体は、サイクルの中のその最も高い温度レベルに到達する。作業流体は、次いで高温度の熱交換器18から出て、タービン32の中に入り、そこで、作業流体は、膨張され、それにより、発電機(図示されていない)に結合されたタービン32に電気的なエネルギーを発生させる。
【0044】
次に、作業流体は、凝縮器30の中に入り、そこで、作業流体は、更なる蓄熱媒体(図示されていない)と熱エネルギーを交換することにより凝縮される。凝縮された作業流体は、流出口を介して、凝縮器30から出て、ポンプ28を介して内部熱交換器20の中に再び送り出される。
【0045】
図2のチャージ・サイクル・システムと、図3のディスチャージ・サイクル・システムは、別個に示されているが、内部熱交換器20、凝縮器14,30、高温度の熱交換器18、低温貯蔵タンク22、高温貯槽タンク24、及び蓄熱媒体は、両方に対して共通である。凝縮器14,30は、チャージ及びディスチャージ・サイクル・システムの両方に対して共通でも良い。チャージ及びディスチャージ・サイクルは、同時にではなく、相続いて行われても良い。
【0046】
この実施形態において、高温度の熱交換器は、向流熱交換器であり、サイクルの作業流体は、好ましくは二酸化炭素である。内部熱交換器は、向流熱交換器である。更に、蓄熱媒体は液体であり、好ましくは水である。この実施形態の圧縮器は、電力で駆動される圧縮器である。
【0047】
本発明の熱力学的サイクルは、超臨界(supercritical)範囲の中での熱交換とともに、臨海未満の(subcritical)範囲の中での熱交換を含んでいる。それ故に、プロセスは、トランスクリティカル(transcritical)・サイクルを辿る。
【0048】
図4は、内部熱交換器を有する本発明のTEESシステムにおける、サイクルからの熱移送のエンタルピ対圧力の図を示している。実線で表されている四角形は、チャージ及びディスチャージ・サイクルの両方を示している。チャージ・サイクルは、左下隅(Iで示されている)で始まり、反時計回り方向を辿ると考えられることが可能である。ポイントIは、蒸発器14から熱を受け取る前の作業流体の状態に対応している。一般的に、作業流体の温度は、この状態で約−5℃から10℃までの範囲にある。作業流体は、一定の圧力及び温度で気化され、図4のポイントIIに到達する。作業流体は、次いで、内部熱交換器20の中で加熱され、ポイントIIIに到達する。
【0049】
作業流体は、次いで、等エントロピー過程で、ポイントIVとして示された状態まで圧縮される。作業流体の温度は、この状態で約100℃から180℃までの範囲にある。この状態で、作業流体の圧力は、臨界点への近接に起因して、20MPaのオーダーまでになることがある。作業流体からの熱は、向流熱交換器の中で、ポイントIVとVとの間の等圧プロセスの中で、蓄熱媒体に移送される。作業流体の中の残りの熱は、内部熱交換器の中に放出され、それは、ポイントVからVIまでに示されている。この残りの熱は、ポイントIIとIIIとの間で、作業流体を加熱するために使用される熱エネルギーを提供する。作業流体は、次いで、等エントロピー膨張デバイスの中で、ポイントVIとIとの間で膨張され、それが、蓄えられたエネルギーの回収を可能にする。
【0050】
ディスチャージの間に、図4の熱移送サイクルは、時計回り方向を辿り、ポイントIからIVまでの間の遷移は、ポンプ28で実施される。更に、ディスチャージの間に、ポイントIIIからIVまでの間の遷移は、タービン32の中で実施される。
【0051】
当業者であれば分かるように、図4の中で円により示されている状態ポイントの相対的な位置は、例であって、特定の熱力学的マシンに関係する実際的な問題を克服するために、変更されることが可能である。
【0052】
作業流体回路の中に内部熱交換器を備えたTEESシステムは、運転のチャージ・モードとディスチャージ・モードのマッチングを好ましくも容易にする。そのようなマッチングは、高い程度の可逆性を実現するために要求される。このTEESシステムにおいて、可逆性の程度(熱損失の最小化)は、高温度の熱交換器(蓄熱媒体を有している)の中に入りまたそこから出る作業流体の流れの、流入温度及び流出温度に依存する。
【0053】
このようにして、運転のチャージ・モードにおけるTEESシステムの運転温度は、最小の要求される温度範囲で最小の要求される熱の量が蓄熱媒体の中に蓄えられ、ディスチャージ・モードの運転を可能にすると言うことを確保するように選択される。それ故に、チャージ・サイクルにおいて、高温度の熱交換器から出て内部熱交換器の中に入る作業流体の流れの温度は、この最小化の条件に基づいて選択されるべきである。同様に、ディスチャージ・サイクルにおいて、タービンから出る作業流体の流れの中に残っている過熱分は、高温度の熱交換器の中に入る作業流体の流れを予熱するために、最大限まで使用されるべきである。このようにして、蓄熱媒体から必要とされる熱エネルギーの量が最小化され、それは、次に、要求される蓄熱媒体の量を最小化することになる。内部熱交換器の運転温度は、次いで、運転のチャージ・モード及びディスチャージ・モードから、結合された条件に基づいて決定される。内部熱交換器のサイズは、チャージ・モード及びディスチャージ・モードからの熱エネルギー負荷のより大きい方を収容するように選択されても良い。
【0054】
そのような内部熱交換器の使用は、“再生TEESスキーム”(regenerative TEES scheme)と呼ばれることがある。再生チャージ及びディスチャージ・サイクルは、運転のチャージ・モード及びディスチャージ・モードの両方において、二つの競合する効果をもたらすように考慮されても良い。運転のチャージ・モードにおいて、ポジティブな効果は、蒸発器14を介して増大された熱インプットであり、ネガティブな効果は、より高い圧縮器流入温度に起因する増大された圧縮仕事である。ここで留意すべきことは、蒸発器14が、氷または低温水などのような、低い温度の熱源から熱を抜き出し、それを用いて蒸発器の中を通過する作業流体を気化することである。
【0055】
運転のディスチャージ・モードにおいて、ポジティブな効果は、システムの高い圧力の側への増大される熱のインプットであり、ネガティブな効果は、システムのより低い圧力のステージからの作業流体の気体の一部の抜き出しに起因して、回収される仕事の損失である。トランスクリティカルな二酸化炭素サイクルに対して、ポジティブな効果がネガティブな効果を上回り、そのような再生運転は、効率のネットのゲインをもたらす。
【0056】
本発明の代替的な実施形態において、内部熱交換器20がチャージ・モードまたはディスチャージ・モードの間の何れかで使用され、他のモードの間にはバイパスされても良い。そのような実施形態は、運転条件、及び蒸発器14及び凝縮器30の相対温度に依存する。
【0057】
更に代替的な実施形態において、内部熱交換器20のサイズ及びタイプは、特定のTEESデザインに依存して変化しても良い。例えば、もし、付加的な低いグレードの廃熱源が利用可能である場合には、チャージ・サイクルが変形されても良く、内部熱交換器の性質が、最小の熱損失で可逆性の高い程度を確保するために、再び適合されなければならない。
【0058】
蓄熱媒体は、一般的に水(もし必要な場合には、加圧された容器の中の水)であるが、油または溶融塩などのような、他の材料が使用されても良い。
【0059】
当業者であれば分かるように、TEESシステムの中の凝縮器及び蒸発器は、両方の役割を担うことが可能な多目的熱交換デバイスで置き換えられても良い。その理由は、チャージ・サイクルにおける蒸発器の使用、及びディスチャージ・サイクルにおける凝縮器の使用は、異なる期間に実施されることになるからでる。同様に、タービン及び圧縮器の役割が、両方のタスクを実現することが可能な同一の機械(ここで熱力学的マシンと呼ばれる)により実施されることも可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱電気エネルギー貯蔵システムであって、
熱エネルギーを熱貯槽に供給するためのチャージ・サイクル(10)、及び、熱エネルギーを熱貯槽から回収することにより電気を発生させるためのディスチャージ・サイクル(26)を有し、
当該熱電気エネルギー貯蔵システムは、
第一の熱交換器(18)及び第二の熱交換器(20)の中を通して作業流体を循環させるための作業流体回路と、蓄熱媒体を循環させるための蓄熱媒体回路と、を有し、
この蓄熱媒体回路は、第一の熱交換器(18)を介して低温貯蔵タンク(22)に結合された少なくとも一つの高温貯槽タンク(24)を有し、
第二の熱交換器(20)は、チャージ・サイクル(10)の間、第一の熱交換器(18)の出側で、作業流体を更に冷却するように構成されていること、
第二の熱交換器(20)は、ディスチャージ・サイクル(26)の間、第一の熱交換器(18)の入側で、作業流体を更に予熱するように構成されていること、
を特徴とする熱電気エネルギー貯蔵システム。
【請求項2】
下記特徴を有する請求項1に記載のシステム、
チャージ・サイクル(10)の間、第二の熱交換器(20)は、
膨張器(12)に進む第一のアウトプットに接続された第一の熱交換器(18)からの第一のインプットと、
圧縮器(16)に進む第二のアウトプットに接続された凝縮器(14)からの第二のインプットと、
を有している。
【請求項3】
下記特徴を有する請求項1に記載のシステム、
ディスチャージ・サイクル(26)の間、第二の熱交換器(20)は、
第一の熱交換器(18)に進む第一のアウトプットに接続されたポンプ(28)からの第一のインプットと、
凝縮器(30)に進む第二のアウトプットに接続された熱力学的マシン(32)からの第二のインプットと、
を有している。
【請求項4】
下記特徴を有する請求項1から3の何れか1項に記載のシステム、
チャージ・サイクルまたはディスチャージ・サイクルの少なくとも一方が、トランスクリティカルに行われる。
【請求項5】
下記特徴を有する請求項1から4の何れか1項に記載のシステム、
チャージ・サイクル(10)またはディスチャージ・サイクル(26)の何れかが、第二の熱交換器(20)無しで行われる。
【請求項6】
熱電気エネルギー貯蔵システムにおいてエネルギーを蓄えて回収するための方法であって、
蓄熱媒体を加熱することによりシステムチャージし、
蓄熱媒体は、少なくとも一つの高温貯槽タンク(24)と低温貯蔵タンク(22)との間を循環し、
蓄熱媒体からの熱を用いて、作業流体回路の中で作業流体を加熱することにより、システムをディスチャージし、熱力学的マシン(32)により作業流体を膨張させ、
第二の熱交換器(20)により、チャージの間に第一の熱交換器(18)から排出される作業流体を更に冷却し、
第二の熱交換器(20)により、ディスチャージの間に第一の熱交換器(18)の中に導入される作業流体を予熱すること、
を特徴とする方法
【請求項7】
下記特徴を有する請求項6に記載の方法、
チャージの間に、第一の熱交換器(18)から排出される作業流体を更に冷却する前記工程は、第一の熱交換器(18)から出る作業流体から、蒸発器(14)から排出される作業流体へ熱を伝達することを、更に有している。
【請求項8】
下記特徴を有する請求項6に記載の方法、
ディスチャージの間に、第一の熱交換器(18)の中に導入される作業流体を予熱する工程は、前記熱力学的マシン(32)から出る作業流体から、第一の熱交換器(18)の中に導入される作業流体へ熱を伝達することを、更に有している。
【請求項9】
下記特徴を有する請求項6から8の何れか1項に記載の方法、
チャージ・サイクルまたはディスチャージ・サイクルの少なくとも一方が、トランスクリティカルに行われる。
【請求項10】
下記特徴を有する請求項6から9の何れか1項に記載の方法、
チャージ・サイクル(10)またはディスチャージ・サイクル(26)の何れかが、第二の熱交換器(20)無しで行われる。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2013−507559(P2013−507559A)
【公表日】平成25年3月4日(2013.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−532631(P2012−532631)
【出願日】平成22年10月11日(2010.10.11)
【国際出願番号】PCT/EP2010/065217
【国際公開番号】WO2011/045282
【国際公開日】平成23年4月21日(2011.4.21)
【出願人】(594075499)アーベーベー・リサーチ・リミテッド (89)
【氏名又は名称原語表記】ABB RESEARCH LTD.
【Fターム(参考)】