説明

内面磨耗検知ホース

【課題】ホース外部からは検知することができない様なホース内面の磨耗・劣化による突然の破裂を予知する機能を持ったホースを提供する。
【解決手段】ゴム若しくは合成樹脂またはこれらの複合材料からなるホースにおいて、使用中に内面からの摩耗によりホース壁面が薄くなったり、或いは内部から劣化によりホース壁面がもろくなり、突然内圧に負けて破裂することを防止するために、ホース断面の同一深さ部に、ホース内部を流れる物質を着色させる材料を含有する層を存在させたことを特徴とする磨耗・劣化感知能を有するホース。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
ゴムや合成樹脂からなるホースの場合、ホース使用中に、内部を流れる流体のために、ホース内面が磨耗し、薄くなったり、弱くなったり、または内部を流れる流体によりホース構成樹脂が劣化したりして、磨耗または劣化した部分から、突然破裂する危険性がある。本発明は、このように、ホース外部からは検知することができないホース内面の磨耗・劣化による突然の破裂を予知する機能を持ったホースに関する。
【背景技術】
【0002】
ホースを使用中に内面から磨耗によりホース壁面が薄くなったり、或いは内部から劣化によりホース壁面がもろくなり(以下、両者を併せて磨耗と称す)、突然内圧に負けてホースが破裂することが時々発生する。これを防止するために、定期的にホースを新しいホースに変更することは通常広く行われている。変更サイクルについては経験等によって設定されているために、まだ十分に使用が可能であるにもかかわらず、ホースを取り替えにより廃棄される場合がある。
【0003】
このような無駄な廃棄を防ぐために、内面の磨耗程度を感知する方法が考えられ、その具体的手段として、ホース内に導電性の材料を埋設し、磨耗による断線によって通電が阻止されることを感知する方法が提案されている(特開平5−272469号公報)。また+極用と−極用の一対の導電材をホース断面の同一半径方向かつ軸方向に所定距離隔てた位置に埋設し、それら一対の感知体間の導通に基づいて磨耗を感知する方法が提案されている(特開平9−119584号公報)。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】

しかしながら、導電材料の断線を利用して磨耗程度を感知する方法は、導電線材の太さや強さが重要となり、導電線材が強い場合には、断線が起こる前にホースの磨耗が進行して断線が起こる前にホースが破裂する危険性があり、また導電線材が弱い場合は、ホースの屈曲変形やホースに加えられた外圧等により断線が発生して、ホースが磨耗する以前に断線を感知する危険性がある。
【0005】
また+極用と−極用の導線間の通電性を利用する場合には、ホース内部を流れる物体の導電性が影響し、導電性の悪い材料が流れていると、ホースが磨耗していても感知しない危険性がある。また+極用と−極用の両極が同時に磨耗進行する必要があり、+極または−極の一方のみが磨耗により露出しても破裂を予知することは無く、もう一方の極の磨耗が進行するまで感知しないために、一方の極の方から破裂を招く危険性がある。
【0006】
特に工事現場において、コンクリートやモルタル等をミキサー車から高所に送液する際に使用されるホースの一部として、ホースをドラムに沿うように挿入しポンピングローラーを回転させることによりホースを押しつぶしながら順々にホース内のコンクリートやモルタルを送液するいわゆるポンピングチューブが使用されているが、このホースの場合には、ホース内壁が激しく短期間で削り取られ、破裂を来たすことが多い。破裂を生じた場合には、付近にコンクリートやモルタルが撒き散らされることとなり、工事を中断して、撒き散らされたコンクリートやモルタルを直ちに除去することが必要となり、工事の進捗に大きな支障が生じることとなる。従って、ポンピングチューブの磨耗の程度を監視し、破裂が生じる前に換えることができる技術が、強く求められていた。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、この様な課題を解決するためのものである。すなわち本発明は、ゴム若しくは合成樹脂またはこれらの複合材料からなるホースにおいて、ホース断面中に、内部を流れる物質を着色させる材料(以下、感知材と称す)を含有する層を存在させたことを特徴とする磨耗・劣化感知能を有するホースである。
【0008】
そして、好ましくは、このようなホースにおいて、感知材が、ホース内を流れる物質と触れることにより初めて色が発現する物質であり、その具体例としては、pH指示薬が挙げられる。または本発明における好ましい感知材の例として、高発色性染料が挙げられる。更に本発明は、上記ホースにおいて、感知材の使用量が、基材となるゴム若しくは合成樹脂の重量(感知材が添加されているゴム又は合成樹脂の重量)の、又はこの両者が使用されている場合には両者の合計重量の0.1〜20%の範囲にある場合である。
【0009】
本発明では、感知材として特定の発色材料をホース内部に埋設し、ホース内部の磨耗が進行すると、この感知材がホース内壁面に露出し、そしてホース内を流れる物質に感知材が混入し、ホース内を流れる物質を着色させる現象を利用している。
感知材として、好ましくは、ホース内を流れる物質と触れることにより初めて色が発現する物質である。このような、ホース内を流れる物質と触れることにより初めて色が発現する物質を感知材として用いることにより、色が鮮やかに発現することから好ましい。
【0010】
もちろん、感知材は、ホース内壁が磨耗により感知材が露出した場合には、速やかに内部を流れる流体中に、混入・溶解して流体を着色させるようなものであらねばならない。その点から、感知材は、内部を流れる流体の色とは異なる色に流体を着色させるものである必要がある。また、感知材は、練り込まれているゴムや合成樹脂より、内部を流れる流体の方により溶け易いものであるのが好ましい。
【0011】
具体的には、ホース内部を流れる物質が、セメントやモルタル液のように、アルカリ性の物質である場合には、感知材としてpH指示薬が考えられる。例えば、よく知られているフェノールフタレインやチモールフタレインなどがある。フェノールフタレインは、pHが9〜11位の弱アルカリになると無色から赤色に変色する。またチモールフタレインは、pHが10〜12になると無色から青色に変化する。
【0012】
この様な材料を、感知材としてホース内層部の特定深さ部分の層に挿入しておくと、内面磨耗が進行し、感知材を含有する層に到達すると、アルカリ性の内部流出物内に感知材が溶出し、指示薬の変色挙動が示す着色反応を起こし、結果として流出物が少なくとも部分的に着色する現象が見られる。それによって内部の磨耗程度を感知することが可能になる。なお、感知材としては、ホース内部を流れる物質に混入しても実質的に同物質を変質させたりすることのない物質が好ましい。
【0013】
更に本発明に使用する感知材としては、ホース内部を流れる物質が酸性である場合、例えば塩素含有物質や有機酸等の場合には、酸性で変色するpH指示薬を使用すれば良い。例えば、メチルオレンジやブロモチモールブルー等が挙げられる。また中性物質の場合も考えられるので、その場合は着色性の高い、即ち少量の溶解量でも鮮明に色が付く染料等を使用することも考えられる。もちろん、この場合でも、これら感知材が、流体物質に混入しても、流体物質を著しく損なわないものである場合が好ましい。
感知材が、ホース内を流れる物質と触れることにより初めて色が発現する物質である場合には、ホースは、外部から中を流れる流体の色が判別できる程度の透明性を有していてもよいが、ホースから流出した段階で色の変化が判別できるならば、ホースの色は、不透明に着色されていても良い。
【0014】
ホースへの感知材の具体的な挿入方法としては、これら感知材をホースを構成している材料と同一物質または類似物質の中に練り込み、練り込み物をホース製造時にホース内部に埋設することで、目的の破裂を予知できるホースが得られる。具体的には、上記ポンピングチューブは、内層からゴム層−繊維補強層−ゴム層の多層構造を有しているが、外側ゴム層の繊維補強層と接する側に感知材を練り込んだゴム層を挿入する方法が好ましい。
また、感知材をカプセル化し、それを、ゴム層又は繊維補強層に積層して層間に挿入して作製することも可能である。また、繊維補強されたホースの場合には、予め繊維層中に感知材を存在させ、そしてゴム層や合成樹脂層と積層一体化する方法を用いることもできる。
【0015】
ホース内に感知材を埋設する部分については、ホース断面の最外層から1/2〜1/6位の所が適切であるが、埋設場所を決める際の最も重要な判断材料となるのは、内面が磨耗し、ホースの厚味が全体の何分の一になれば破裂するのかということが重要になる。通常は、上記したようにホース断面の最外層から1/2〜1/6位の所が適切である。また、複数の感知材を用い、それらを埋設する深さを変えておけば、磨耗の程度が分かることとなる。また、複数の感知材を用いる場合に埋設する場所を変えておいても、磨耗場所の特定が可能となり、好ましい。
埋設場所は、破裂する直前に危険を予知することが最も重要であることから、ホース全体に埋設する方法も考えられるが、用途によっては特に内面磨耗が激しい部分がのみ感知材を存在させることも可能であり、その場合には特定部分を中心にある程度の範囲をカバーする様な部分に埋設すれば、より少量の材料で感知が可能になる。
【0016】
前記したポンピングチューブの場合には、チューブ全体は通常長さ1.5メートル程度の長さを有しており、出口から約50cmの部分(すなわち入口から約1メートル位の部分)が最も磨耗されやすい。従って出口から約50cm位の部分に感知材を埋設したものが好ましい。ただ、入口側と出口側が逆に使用されることや逆に流す場合もあることから、ポンピングチューブの出口側から50cm付近と入り口側から50cm付近の部分に感知材を埋設するのが好ましい。
【0017】
もちろん、ホースの長さ方向において、磨耗の生じるところが予め分かっている場合には、磨耗の激しい部分のみに感知材を埋設したホースを用い、感知材が内部を流れる物質に混入していることを確認した時点で、そのような部分のみ新しいホースと取り替えることも可能で、これによりホース全体を廃棄する無駄が防ぐことができる。
【0018】
埋設する材料に使用する感知材の量は、基材重量(練りこむゴムや樹脂の重量)に対して0.1〜20%の範囲が好ましい。0.1重量%未満になると溶出量が少ないために発色性が少なく、十分に異常を感知できない。また20重量%を超えると基材の物性が悪くなり、ホースとしての性能が悪くなる。
【0019】
染料を使用する場合には、練り込み量の数分の一程度しか実際には溶出しないために、流出物に溶解した染料の量が0.01重量%〜1重量%程度の濃度で十分に変色が認識できる様な染料であることが好ましい。具体的には、直接染料やカチオン染料などの水溶性の染料が好ましく、その具体例として、例えば、KCL Rhodamine FB (日本化薬(株)製)、KCL Rhodamine BL-ED(日本化薬(株)製)等が挙げられる。
【0020】
感知材を基材に練り込む場合の基材としては、NBRやEPDMなどのゴム材料、塩ビやポリプロピレンなどの合成樹脂が考えられる。これらの材料は、一般的にホース材料として使用されているもので良く、ホース物性から判断して、ホース本体と同じ材料が使用されることが望ましい。
【0021】
また、ホースに補強用の繊維が中間層として挿入されている場合には、この中間層構成繊維の一部として、感知材を配合した繊維や繊維の中空部に感知材を挿入した中空繊維等を用いることもできる。
本発明のホースとしては、内径2cm〜15cm程度のもの、特に内径3〜10cmのものが好ましく、またホースを構成するゴム層や樹脂層、補強用繊維層の合計厚さで3〜30mm、特に5〜20mmのものが好ましい。
【発明の効果】
【0022】
本発明のホースを使用している時に、ホースから流出する内容物に感知材に基く異常な着色が認められれば、ホース内面の磨耗が進行していることを示す。それによりホースの突然の破裂が予知でき、切り替えの時期が明確になる。
本発明の対象となるホースの適用分野としては、セメントやモルタル等を流すコンクリートミキサー車用ホースや工事現場等で使用するコンクリート打設用ホース、等が挙げられ、特にコンクリートやモルタルをミキサー車から高所に送液するのに用いられるポンピングチューブに好適に使用される。
【実施例】
【0023】
以下に本発明を実施例により説明する。
実施例1
NBRゴム材料にpH指示薬としてフェノールフタレインを5重量%練り込んだ厚さ3mmのシートをまず準備した。次に、ホース本体となるNBRゴムシートを、内層となるゴム層(厚さ10mm)―感知材含有ゴム層―補強糸層(ポリエステル繊維層目付け100g/m)―外層となるゴム層(厚さ5mm)の順に積層し、内径50mmの棒に巻き付けた。そして巻き付けたものを150℃〜160℃、減圧(−700mmHg)した釜に中に入れて、40分加硫処理を行い、ゴム製のホースを作製した。このホースに添加されているフェノールフタレインは、この時点では発色していない。
【0024】
このホースをモルタルを高圧で放出する機械に設置した後、実際にモルタルを平均流速5m/時間の速度で流し使用した(いわゆるポンピングチューブとして使用した)。その結果、約3日間使用した時点で、モルタルに赤色に着色している異常が見つかった。これはモルタルが弱アルカリ性であるところに、感知材であるフェノールフタレインがモルタルに溶出して赤色に着色したことによる。すなわち、破裂の危険性のある部分にまで内面磨耗が進行したことを示している。
直ちにホースを外して磨耗している部分を観察した所、感知材を含有した層部分にまで磨耗が進行しており、糸補強層にまで磨耗が到達していた。そのまま使用していれば、あと1〜2日の使用で、糸補強層も磨耗され、ホースの破裂に至ったと考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明のホースの一例の断面図である。
【符号の説明】
【0026】
1 内層のゴム層
2 感知材含有ゴム層
3 繊維補強層
4 外層のゴム層


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゴム若しくは合成樹脂またはこれらの複合材料からなるホースにおいて、ホース断面中に、ホース内部を流れる物質を着色させる材料を含有する層を存在させたことを特徴とする磨耗・劣化感知能を有するホース。
【請求項2】
内部を流れる物質を着色させる材料が、ホース内を流れる物質と触れることにより初めて色が発現する物質である請求項1に記載のホース。
【請求項3】
内部を流れる物質を着色させる材料が、pH指示薬または高発色性染料である請求項1又は2に記載のホース。
【請求項4】
ホースがコンクリートやモルタルを高所に送り込むために用いられるポンピングチューブである請求項1〜3に記載のホース。
【請求項5】
内部を流れる物質を着色させる材料の使用量が、基材となるゴムまたは合成樹脂の重量の0.1重量%〜20重量%の範囲にある請求項1〜4のいずれかに記載のホース。

【図1】
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【公開番号】特開2008−69917(P2008−69917A)
【公開日】平成20年3月27日(2008.3.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−250974(P2006−250974)
【出願日】平成18年9月15日(2006.9.15)
【出願人】(000104906)クラレプラスチックス株式会社 (52)
【Fターム(参考)】