説明

円形鍛造品の据え込み形状予測方法

【課題】 円形鍛造品の据え込み加工時の試作時間の短縮並びにNG品削減を図る。
【解決手段】 複数の品種の円形素材の各々について、据込鍛造時の直径と高さとの関係を有限要素法により所定の数求める第1の工程と、直径と高さとの関係から、対応する荒地の径拡大率と据込率との関係を所定の数求める第2の工程と、所定の数の径拡大率と据込率を用いて多項式近似を行い、複数の品種の円形素材の各々について予測式を求める第3の工程と、複数の予測式から最も信頼できる近似式を選択する第4の工程と、を有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、円形鍛造品の据え込み形状予測方法に関し、特に、据え込み径を予測することにより、効率的な据え込み高さの設定を可能とした円形鍛造品の据え込み形状予測方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
車輪、ギヤ、リングなどの円盤状または環状の鋼鍛造製品あるいはその中間製品としての荒地など、外径が円形である鍛造品(以下、単に「円形鍛造品」と記す)の鍛造加工では、素材に数工程の鍛造加工を施して所望の形状に成形を行う。例えば、車輪の荒地成形においては、円柱状の素材を加熱し、1工程目の鍛造により半径方向の体積配分をおこない、2工程目の鍛造で製品の概略形状に成形する。リングなどの環状品の鍛造においては、まず、荒地成形工程として素材の据え込み鍛造をおこなう。このようにして得られた荒地は圧延や仕上鍛造により製品形状に仕上げられる。
【0003】
荒地加工段階での荒地の形状精度が劣る場合には、後工程の圧延や仕上鍛造においてこれを完全に除去することが難しく、結果として製品の寸法精度を損ない、品質不良の原因となる。また、充満度の不足を補うために、最終機械加工代を大きくするなどの対策がとられるが、これによる歩留ロスが増すなどの問題が生じる。したがって、荒地の寸法精度の向上が重要となる。
【0004】
例えば、特許文献1には、被加工材の側面を拘束する側壁がない上下金型を用いて円形素材を軸方向に圧下する鍛造加工方法において、軸方向圧下の途中または下死点まで圧下した時点において、被加工材の上下面を上下金型で拘束し、側面押圧用工具を用いて被加工材の側面に押圧成形を施すことにより、荒地成形時に発生する偏肉を矯正して、周方向に均一な形状の荒地を得ることを可能とした円形鍛造品の鍛造加工方式が開示されている。
【特許文献1】特開2002−35881号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来、縦型鍛造プレスの第1工程(据え込み加工)での荒地径(据え込み径)を決める際には、本番前の試作時に数回(2〜3回)の間座調整を行い、試行錯誤を繰り返して、据え込み率と据え込み径との関係を求め、据え込み率を決定し、荒地の寸法精度の向上を図っていた。そのため、試作時間ロスならびに試作NGが発生していた。
【0006】
また、特許文献1の方式によれば、周方向に均一な形状の荒地を得ることも可能となるが、据え込み径の変更に伴い複数の種類の側面押圧用工具が必要となる。したがって、金型のコストが上昇し、製品に応じた段取り変更等の作業が必要となる。
【0007】
本発明は、このような従来の問題を解決するためになされたもので、試作時間の短縮並びにNG品削減による歩留まりアップを可能とした円形鍛造品の据え込み形状予測方法を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本願請求項1に記載の発明は、複数の品種の円形素材の各々について、据込鍛造時の直径と高さとの関係を有限要素法により所定の数求める第1の工程と、直径と高さとの関係から、対応する荒地の径拡大率と据込率との関係を所定の数求める第2の工程と、所定の数の径拡大率と据込率を用いて多項式近似を行い、複数の品種の円形素材の各々について予測式を求める第3の工程と、複数の予測式から最も信頼できる予測式を選択する第4の工程と、を有することを特徴とする円形鍛造品の据え込み形状予測方法である。
【発明の効果】
【0009】
本発明の円形鍛造品の据え込み形状予測方法によれば、現状把握できている据込みデータを使ったCAE解析を行い、得られた解析結果から据込み時のワーク高さとワーク外径の近似曲線を求め予測式を作成することにより、効率的な据え込み高さの設定が可能となるため、荒地試作の回数が減少し、試作時間の短縮並びにNG品削減による歩留まりアップが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態である円形鍛造品の据え込み形状予測方法について、図を参照して詳細に説明をする。
【0011】
図1(a)は、据え込み加工前のワークの形状を示す正面図である。略円筒状の形態を有するワーク1は、ワーク径φAとワーク高さBの形状からなる。ワーク径φAとワーク高さBは、使用する素材や品種等により相異なる数値を有するものである。
【0012】
図1(b)は、据え込み加工後の荒地の形状を示す正面図である。略円盤状の形態である荒地2は、荒地径φCと、荒地高さDの形状からなる。荒地径φCと荒地高さDは、使用するワークや加工条件により異なる値となる。
【0013】
図1に示すように、据え込み加工により、径φAと高さBを有するワーク1は、縦方向にプレスされ荒地となり、その高さはBからDへ圧縮されるとともに、その径はφAからφCへ拡大することとなる。
【0014】
ここで、C/Aを径拡大率Yとし、(B−D)/Bを据え込み率Xと定義することとする。
【0015】
(CAE解析)
ワーク1の形状をCADデータ化し、コンピュータに入力後、有限要素法により鍛造のシミュレーションを行う。CAE解析の入力データとしては、上記ワーク1の形状の他に、材料の温度や、金型とワーク1との潤滑状態(摩擦状態)などがある。
【0016】
CAE解析においては、据え込み加工途中における荒地径φCと荒地高さDの情報も求めることが可能であるため、一つのワーク1に対して、(C、D)、(C、D)、・・・、(C、D)の任意のn個のCAE解析データを得ることができる。
【0017】
なお、本実施形態においては、(C、D)をCAE解析により得ているが、例えば、実測により(C、D)を得るということも可能である。ただし、実測にて(C、D)の情報を得る場合には、プレス設定の変更、金型調整を行う必要があり、膨大な時間を要することとなる。本実施形態のCAE解析の利点は、実際に機械・金型を準備し、動かすことなく、コンピュータ上での検討が可能であることである。
【0018】
(近似曲線)
CAE解析データ(C、D)から、まず、径拡大率Y(=C/A)と据込率X(=(B−D)/B)との関係を任意のn個のCAE解析データに応じて求める。すなわち、一つのワーク1に対して、(X、Y)、(X、Y)、・・・、(X、Y)の、n個の関係を求めることができる。
【0019】
表1は、ワーク径φAが90mm、ワーク高さBが150mmのワークについてCAE解析を行いCAE解析データ(C、D)を求め、据込率Xと径拡大率Yとの関係(X、Y)を求めた結果を示す図である。
【0020】
【表1】



【0021】
そして、これらn個の(X、Y)データに基づいて多項式近似を行い、予測式を作成する。
【0022】
本実施形態においては、荒地径φCと荒地高さDとの関係から、直接予測式を求めるのではなく、径拡大率Yと据込率Xとの無次元の関係から予測式を求め、荒地径φCと荒地高さDの予測を行っている。これは、予測式を求めるにあたり、数十種の条件での結果を、同一グラフ上にプロットして評価する必要があるためである。
【0023】
予測式は、以下のように表すことが可能である。なお、本実施形態では、4次式で多項式近似を行った。
【0024】
(数式1)
Y=aX−bX+cX+dX+e
Yは、径拡大率(C/A)
Xは、据え込み率((B−D)/B)
【0025】
4次式とした理由は、1次〜3次式だと、精度の良い近似ができないからであり、5次式以上にしなかった理由は、本発明者らの評価の結果、4次の多項式近似で十分に近似可能であることが判明したためである。
【0026】
図2は、表1の(X、Y)データに基づいて多項式近似を行い、予測式を作成した結果を示す図である。また、予測式は
(数式2)
Y=0.0000000516X4-0.0000056679X3+0.0002701085X2+0.0039011020X+1.0173325299
となった。
【0027】
単一の品種について予測式を求める方法は上述した通りであるが、実際には、ワーク1のワーク径φAとワーク高さBは、鍛造する品番・品種によって異なる。そこで、本実施形態では、ワーク1の品種W〜Wごとに、ワーク径とワーク高さの関係である(A、B)、(A、B)、・・・、(A、B)をワーク1の形状データとして入力し、CAE解析を行う。これにより、ワーク1の品種W〜Wごとに、(X、Y)〜(X、Y)を求めることとなる。そして、ワークの品種W〜Wごとに予測式を求め、結果として複数のm個の予測式を求めるものとする。
【0028】
複数のm個の予測式をもとに、最も信頼できる予測式を導き出す。これにより、ワークの品種に依存しない、振込加工の予測式を導き出すことが可能となる。
【0029】
表2に、ワーク1の形状(表の第1列及び第2列)と、ワーク1を据え込み加工した場合の荒地2の形状の実測値(表の第3列及び第4列)と、最も信頼できる近似式に基づく荒地長の予測値(補正前)(表の第5列及び第6列)と、最も信頼できる近似式に基づく荒地長の予測値(補正後)(表の第7列及び第8列)が示されている。
【0030】
【表2】



【0031】
実測値(第3列及び第4列)と予測値(第5列及び第6列)とを比較した場合は、若干の誤差が生じていることがわかる。これは、上記で求めた予測式はあくまでCAE解析の結果をもとにしたものであるため、実際の値とは異なる可能性があるためである。
【0032】
また、実際の鍛造を行う場合、据込後の外径が大きすぎると、次工程の金型に入らないという不具合が生じることがある。この場合ワークは使用不可となるため、予測式で得られる寸法を小さめに見積もっておく必要がある。そこで、本実施形態においては予測式の誤差分を補正値3mmとして組み込むものとする。
【0033】
表2の第8列は、荒地長の予測値に補正値3mmを組み込んだ数値を表すものである。実測値(第4列)と予測値(第8列)とは、ほぼ一致しており、本実施形態の円形鍛造品の据え込み形状予測方法の妥当性が証明された。
【0034】
以上説明したように本実施形態の円形鍛造品の据え込み形状予測方法によれば、現状把握できている据込みデータを使ったCAE解析を行い、得られた解析結果から据込み時のワーク高さとワーク外径の近似曲線を求め予測式を作成することにより、荒地試作の回数が減少し、試作時間の短縮並びにNG品削減による歩留まりアップが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本実施形態の円形鍛造品の据え込み形状予測方法における、据え込み加工前のワークの形状と据え込み加工後の荒地の形状を示す正面図である。
【図2】表1の(X、Y)データに基づいて多項式近似を行い、予測式を作成した結果を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の品種の円形素材の各々について、据込鍛造時の直径と高さとの関係を有限要素法により所定の数求める第1の工程と、
前記直径と高さとの関係から、対応する荒地の径拡大率と据込率との関係を前記所定の数求める第2の工程と、
前記所定の数の前記径拡大率と前記据込率を用いて多項式近似を行い、前記複数の品種の円形素材の各々について予測式を求める第3の工程と、
前記複数の予測式から最も信頼できる予測式を選択し、円形素材の品種に依存しない予測式とする第4の工程と、
を有することを特徴とする円形鍛造品の据え込み形状予測方法。

【図1】
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【図2】
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