説明

円筒形スパッタリングターゲット

【課題】ロウ材を使用することなく、円筒形スパッタリングターゲットを製造する方法を提供する。
【解決手段】円筒形ターゲット材3の内径側に、該円筒形ターゲット材3の内径よりも小さい外径を有するバッキングチューブ2を挿入し、この状態で、たとえば棒状の芯金4を挿通して、該バッキングチューブ2を拡管することにより、ロウ材を使用することなく、該円筒形ターゲット材3を該バッキングチューブ2に接合する。円筒形ターゲット材3とバッキングチューブ2の間に、溶融および凝固した後に塑性加工された低融点金属の緩衝材を介在させてもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転カソード用の円筒形スパッタリングターゲットに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、新しいタイプの回転カソード型のスパッタリング装置が用いられるようになり、その高い使用効率、高い冷却効率、そして高い成膜速度で注目を集めている。このような回転カソード型のスパッタリング装置には、平板形のものではなく、円筒形のスパッタリングターゲットが用いられる。
【0003】
この円筒形スパッタリングターゲットは、円筒形のバッキングチューブの外周にターゲット材が形成された構造を有する。この円筒形スパッタリングターゲットは、その長さが2〜3mのものも実用化されているように、大型化が可能であり、その使用により、大型の被スパッタリング材への成膜を長時間にわたって安定して行うことが可能となっている。
【0004】
このような円筒形スパッタリングターゲットは、従来の平板形のものとは全く異なる製造工程を経て製造される。たとえば、その構造上、バッキングチューブの外周に円筒形ターゲット材を形成する工程が必要とされる。この工程にはさまざまな手段が用いられている。これらの手段としては、たとえば溶射法などを用いて、バッキングチューブの上にターゲット材を直接的に形成する方法があるが、この手段では、バッキングチューブとターゲット材との膨張率の差などにより、ターゲット材の割れやはく離などが生ずるといった問題や、ターゲット材の組成を制御しにくいといった問題がある。
【0005】
このため、現在、円筒形ターゲット材を、ロウ材を用いてバッキングチューブの外周に接合させる手段が主に採用されている。この接合手段としては、半田浴中にターゲット材とバッキングチューブを浸漬し、両者を重ねて引き上げる方法や、その改良として、特許文献1に記載されている、ロウ材をターゲット材とバッキングチューブの間に這い上がらせる方法などが知られている。
【0006】
しかしながら、いずれの方法でも、ロウ材を使用して、円筒形ターゲット材とバッキングチューブを接合するという点では同じである。このロウ材を用いた接合では、スパッタリングターゲットの周方向および長さ方向のいずれにもロウ材が均一に存在することが要求される。ロウ材が均一に存在しない場合、ターゲット材とバッキングチューブの同心度が十分に得られず、また、長さ方向にたわみが生じてしまう場合がある。このような円筒形スパッタリングターゲットにおける形状の不均一性は、その使用効率や成膜後の膜の性状に悪影響をもたらすという問題がある。
【0007】
また、この接合に用いるロウ材としては、半田材料として用いられる低融点金属や樹脂材料なども利用可能であるが、従来の平板形ターゲットにおける実績に由来する、ターゲット材とバッキングチューブの濡れ性や接合性に対する信頼度などから、インジウムが主に利用されている。しかしながら、インジウムはレアメタルに属し、高価な材料である。
【0008】
さらに、円筒形スパッタリングターゲットはターゲット材を最後まで使用できる点で有利であるが、ロウ材を用いた場合、使用後のバッキングチューブを再利用することができないという問題がある。このような問題は、特にインジウムのロウ材としての使用と相まって、円筒形スパッタリングターゲットの低コスト化の阻害要因となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特許第3618005号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、従来のロウ材を用いたスパッタリングターゲットの問題点に鑑み、ロウ材を使用することなく、円筒形スパッタリングターゲットを低コストで提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、バッキングチューブの外周に円筒形ターゲット材が形成されている、円筒形スパッタリングターゲットおよびその製造方法に関する。
【0012】
特に、本発明の円筒形スパッタリングターゲットの製造方法は、円筒形ターゲット材の内径側に、該円筒形ターゲット材の内径よりも小さい外径を有するバッキングチューブを挿入し、この状態で、該バッキングチューブを拡管することにより、ロウ材を使用することなく、該円筒形ターゲット材を該バッキングチューブに接合することを特徴としている。
【0013】
上記拡管の手段は、特に限定されることはないが、たとえば、前記バッキングチューブの内径よりも大きな外径を有する棒状の芯金を用意し、前記円筒形ターゲット材の内径側に前記バッキングチューブを挿入した状態で、該棒状の芯金を、前記バッキングチューブの内径側に挿通することにより、前記バッキングチューブの拡管を行う手段を用いることができる。
【0014】
このような拡管を用いた製造方法により、円筒形ターゲット材と、その内径側に、ロウ材を用いることなく、該円筒形ターゲット材と接合しているバッキングチューブとを備える、円筒形スパッタリングターゲットが得られる。
【0015】
このような円筒形スパッタリングターゲットは、より具体的には、円筒形ターゲット材を外管として、バッキングチューブを内管として備え、該円筒形ターゲット材の内周面と該バッキングチューブの外周面が圧接状態で一体化している構造を備えている。
【0016】
なお、本発明においては、前記円筒形ターゲット材として、単一の円筒形タイルからなるターゲット材を用いることのほか、複数の円筒形タイルを用いて、該円筒形タイルを、スペーサを介して同軸上に配置し、その状態で、前記バッキングチューブを該複数の円筒形タイルの内径側に挿入する製造方法を用いることもできる。この場合、軸方向に連続して近接配置された複数の円筒形タイルにより構成される、円筒形スパッタリングターゲットが得られる。
【0017】
また、前記バッキングチューブの外周に緩衝材を配置し、その状態で、該緩衝材付きバッキングチューブを前記円筒形ターゲット材の内径側に挿入することも可能である。これにより、前記円筒形ターゲット材と前記バッキングチューブとが、前記緩衝材を介して接合されている、円筒形スパッタリングターゲットが得られる。
【0018】
なお、前記緩衝材として、低融点金属を一度溶解し、該溶融金属を冷却および凝固させた後に、圧延や伸線などの塑性加工が施すことにより得た材料を用いることができる。具体的には、インジウムのシートまたはワイヤをあげることができる。
【0019】
このような円筒形スパッタリングターゲットは、より具体的には、円筒形ターゲット材を外管として、バッキングチューブを内管として備え、該円筒形ターゲット材と該バッキングチューブとの間に、溶融および凝固した後に塑性加工された低融点金属の緩衝材が圧接状態で介在した状態で、該円筒形ターゲット材の内周面と該バッキングチューブの外周面が圧接状態で一体化している構造を備えている。
【発明の効果】
【0020】
本発明では、円筒形ターゲット材とバッキングチューブを接合するために、ロウ材が必要とされない。このため、ロウ材にかかるコストを削減することができる。特に、従来、ロウ材として高価なインジウムが主として使用されており、円筒形スパッタリングターゲットの大型化に伴い、高価なインジウムの大量な使用による、高コスト化が問題であったが、本発明は、回転カソード用の円筒形スパッタリングターゲットを低コストで提供することを可能とするものであり、スパッタリング法による成膜を必要とするさまざまな分野において、製品の低コスト化に大いに寄与するものといえる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】図1は、本発明の円筒形スパッタリングターゲットを示す概略斜視図である。
【図2】図2は、本発明の円筒形スパッタリングターゲットの製造方法を示す概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明を適用した円筒形スパッタリングターゲットの製造方法およびこの製造方法により得られた円筒形スパッタリングターゲットについて、詳細に説明する。なお、本発明は、特に限定がない限り、以下の詳細な説明に限定されるものではない。
【0023】
図1に示すように、本発明の円筒形スパッタリングターゲット1は、従来の円筒形スパッタリングターゲットと同様に、バッキングチューブ2の外周に円筒形ターゲット材3が形成されている基本構造を備える。
【0024】
円筒形ターゲット材としては、その材質が制限されることはなく、金属や金属酸化物からなるターゲット材に広く適用される。具体的には、金属ターゲット材としては、アルミニウム、ニッケル、モリブデンなどの金属からなるものが、金属酸化物ターゲットとしては、ITO(スズ添加酸化インジウム)、AZO(アルミニウム添加酸化亜鉛)などの複合酸化物をあげることができるが、これらには限られない。
【0025】
円筒形ターゲット材の大きさについても任意であるが、外径30〜135mm、内径26〜119mm、厚さ2〜8mm、長さ200〜1500mm程度のものから、材質によっては、外径20〜200mm、内径18〜170mm、厚さ1〜15mm、長さ150〜3000mm程度の大型化したものまで、広く本発明の適用が可能である。
【0026】
一方、バッキングチューブについても、その材質は制限されることなく、バッキングチューブとして一般に利用されている金属材を用いることができるが、特に後述するように拡管を行う観点から、延性に優れた材質を用いることが好ましい。具体的には、アルミニウム、銅などの引っ張り強さが90〜320N/mm2である金属をあげることができる。
【0027】
バッキングチューブの大きさについては、円筒形ターゲットに準ずることとなる。具体的には、外径30〜135mm、内径26〜119mm、厚さ2〜8mmの円筒形ターゲット材に対して、外径25〜114mm、内径17〜102mm、厚さ2〜8mm程度の大きさとする。すなわち、バッキングチューブの外径を、円筒形ターゲット材の内径よりも1〜5mm程度小さくする。両者の差が1mm未満では、バッキングチューブを円筒形ターゲット材の内側に挿入することが困難となる。一方、この差が5mmを超えると、円筒形ターゲットとの位置あわせが困難となり、拡管後のバッキングチューブの厚さなどを均一に規制することが困難となる。
【0028】
バッキングチューブの長さについては、長尺の円筒形ターゲット材については、同程度の長さとするが、短尺の円筒形ターゲット材に対しては、複数のターゲット材を合わせた長さに、それぞれの間に設ける間隔を考慮した長さとすることができる。
【0029】
なお、円筒形ターゲット材とバッキングチューブの熱膨張率の差は20×10-6/℃以内であることが好ましい。20×10-6/℃より大きい場合には、スパッタリング時に両者の接合度が低下し、あるいは、円筒形ターゲットに割れや変形が生じる可能性がある。
【0030】
本発明の円筒形スパッタリングターゲットの製造方法は、図2に示すように、円筒形ターゲット材3の内径側に、上述のように円筒形ターゲット材3の内径よりも小さい外径を有するバッキングチューブ2を挿入し、この状態で、該バッキングチューブ2を拡管する。
【0031】
上記拡管の手段としては、図2に示す、棒状の芯金4を挿通する方法のほか、ハイドロプレスのように高圧の液体をバッキングチューブ内側に導入して、内側から圧力を掛ける方法、その他、一般的に知られている、焼き嵌めや冷し嵌めを含む、公知の円筒形の素材を拡管しうる手段を広く用いることができる。ただし、焼き嵌めや冷し嵌めは、円筒形スパッタリングターゲットの長さが100mm以上の長尺となる場合には適用が困難である。
【0032】
拡管の程度は、円筒形ターゲット材の内径とバッキングチューブの外径との差異に応じて、バッキングチューブの外径が1〜6mm程度拡大するように設定する。それぞれの場合の適切な拡管量は試験的に求めることが好ましいが、拡管量が少なすぎる場合には、十分な接合が得られず、一方、拡管量が大きい場合には、円筒形ターゲット材に割れやクラックが生じたり、大きさの制御が困難となったりするため、好ましくない。
【0033】
以下、棒状の芯金を用いた場合についてさらに言及する。棒状の芯金としては、超鋼、ダイス鋼、高速度工具鋼、セラミックなどの、バッキングチューブの材質よりも硬い材質からなるものを用いることができる。このような材質のものを用いることにより、拡管後の除去が可能となる。その大きさとしては、その外径が18〜107mmと、バッキングチューブの大きさに対して、1〜5mm程度大きいものを使用する。なお、芯金の進行方向に対して先細り状のテーパ部を設けることが好ましい。このようなテーパ部を設けることによって、バッキングチューブ内への芯金の挿通を容易にすることができる。
【0034】
このようにバッキングチューブの内径よりも大きな外径を有する棒状の芯金を用意し、円筒形ターゲット材の内径側にバッキングチューブを挿入した状態で、この棒状の芯金を、バッキングチューブの内径側に挿通することにより、バッキングチューブの拡管を行うことが可能である。
【0035】
挿通手段としては、円筒形ターゲット材側を固定して、芯金を引き抜く手段や、反対に芯金を押し込む手段など、公知の手段を用いることができる。円筒形ターゲット材の変形を防止する観点から、図2に示すように、芯金4を固定し、移動可能なクランプ装置(図示せず)に固定された円筒形ターゲット材3およびバッキングチューブ2を、引き抜き装置5を用いて、図に示す矢印の方向に押し抜く手段によって、挿通することが好ましい。円筒形ターゲットには、高い同心度が要求される。特に円筒形ターゲットが長尺となるような場合には、位置合わせの作業が困難になるため、上記手段以外の手段を用いると十分な同心度が得られない可能性がある。
【0036】
芯金を挿通する速度は150〜1800mm/sとすることが好ましい。1800mm/sより速い場合には、瞬間的な変形量が大きくなり、寸法制御が困難になるという問題が生じ、150mm/sより遅い場合には生産性が悪化する。
【0037】
また、バッキングチューブ内面と芯金表面の間に、引き抜き油などの潤滑剤を塗布することで、挿通を容易とすることが可能となる。
【0038】
このような拡管を用いた製造方法により、円筒形ターゲット材と、その内径側に、ロウ材を用いることなく、該円筒形ターゲット材と接合しているバッキングチューブとを備える、円筒形スパッタリングターゲットを得ることが可能となる。
【0039】
なお、上述のように、円筒形ターゲット材として、単一の円筒形タイルからなるターゲット材のほか、複数の円筒形タイルを用いることができる。この場合、この円筒形タイルを、スペーサを介して同軸上に配置し、その状態で、バッキングチューブをこれら複数の円筒形タイルの内径側に挿入し、それぞれのターゲット材およびバッキングチューブを保持しながら、棒状の芯金をこのバッキングチューブの内側に挿通することによって、複数の円筒形タイルが所定間隔で軸方向に連続的に近接配置された円筒形スパッタリングターゲットを得ることができる。
【0040】
これにより、円筒形タイルの長さに制限がある材料についても、その長さが2〜3m以上の大型化した円筒形スパッタリングターゲットを得ることができる。
【0041】
この場合、円筒形タイルの材質や厚さにもよるが、拡管後の円筒形タイル同士の間隔は、0.1〜0.5mmとなるように調整することが好ましい。0.1mmより小さい場合には、スパッタリング時に熱膨張により、円筒形タイル同士が干渉してしまう可能性がある。0.5mmより大きい場合には、この隙間の影響により均一に成膜することが困難となり、膜質が低下する可能性がある。したがって、このような条件を満たすために、スペーサの厚さを0.2〜0.3mmとすることが好ましい。
【0042】
また、本発明では、ロウ材を用いることなく、円筒形ターゲット材とバッキングチューブとを接合させる点に特徴を有するが、両者の間に緩衝材を配することも本発明の範囲に含まれる。このような緩衝材を配することによって、円筒形ターゲット材の材質が、金属酸化物など脆い材料で、拡管により割れなど問題が生じやすいものに対しても、本発明を適用することが可能となる。
【0043】
このような緩衝材としては、軟質性であって導電性および熱伝導性を有する金属材料を一度溶解し、冷却および凝固させた後に、圧延や伸線などの塑性加工が施された材料、特に、インジウム、スズ、金を含む低融点金属のシート材やワイヤ材を用いることができる。この場合、このシートの厚さは0.1〜1mm程度、ワイヤの外径は0.1〜1mm程度とする。これらがそれぞれ下限値未満の場合、緩衝材としての機能が不十分となり、一方、それぞれの上限値を超えると、インジウムなどの金属材料の量が多くなりすぎて、低コスト化に反することとなる。また、緩衝材の厚さおよび外径はターゲットの同心度に影響を及ぼすため、冷間圧延や伸線を行った塑性加工された組織を有する材料を用いることが好ましい。
【0044】
緩衝材は、たとえば冷間圧延または伸線加工により得られたシートまたはワイヤの状態で、バッキングチューブの外周に巻き付けることで、円筒形ターゲット材とバッキングチューブの間に介在させることが可能である。
【0045】
なお、本発明において、緩衝材を用いた態様では、得られた円筒形スパッタリングターゲットにおいて、緩衝材を構成する金属が塑性加工後の組織を備えるのに対して、従来のロウ材を用いた構造では、外管と内管の間に存在するインジウムは、ロウ付けに起因して、溶融後凝固した組織を備えることになる。これにより、本発明の緩衝材を適用した製品と、従来の製品とでは、構造上区別することができる。
【0046】
最終的に得られる円筒形スパッタリングターゲットにおいて、円筒形ターゲット材の外径は30〜140mm、内径は26〜124mm、厚さは1〜8mm程度となり、外径は0〜5mm、内径は0〜5mm程度、それぞれ拡大する。一方、バッキングチューブについては、その外径は26〜119mm、内径は18〜107mm、厚さは1〜8mm程度となり、外径は1〜5mm、内径は1〜5mm程度、それぞれ拡大する。なお、緩衝材の厚さは、0.1〜1mmとなる。
【0047】
本発明のように拡管により円筒形ターゲット材とバッキングチューブを接合した場合、その間には、水冷による冷却効率を妨げ、成膜に悪影響を及ぼすような問題を生じうる空隙が発生することはない。
【0048】
このような円筒形スパッタリングターゲットは、回転型カソードとして、マグネトロンスパッタリング法などのスパッタリング法に広汎に適用することができる。この円筒形スパッタリングターゲットのターゲット材は、最後まで使用することができる。最終的には、本発明の円筒形スパッタリングターゲット材の場合、バッキングチューブの外周上にターゲット材が薄く存在するだけで、ロウ材が溶融して、円筒形ターゲット材やバッキングチューブにロウ材の成分が転移して存在することはない。この残存する円筒形ターゲット材に切れ目を入れると、簡単に割れて、バッキングチューブ上から除去することができる。得られたバッキングチューブを縮管することにより、このバッキングチューブを再利用できる点においても、本発明は顕著な効果を奏することができるといえる。
【実施例】
【0049】
(実施例1)
円筒形ターゲット材である円筒形タイルとして、外径121mm、内径115mm、長さ300mmのアルミニウム製タイルを使用した。バッキングチューブとして、外径114mm、内径105mm、長さ400mmのアルミニウム製チューブを使用した。また、棒状の芯金として、外径107mm、長さ250mmであって、進行方向に対して先細り状のテーパ部を設けた棒材を使用した。
【0050】
クランプ装置を用いて、上記円筒形タイルを固定した状態で、この円筒形タイルの内側に、引き抜き装置に固定した上記バッキングチューブを、上記円筒形タイルと同心となるように挿入し、次に、上記棒状の芯金の先端を上記バッキングチューブの内側に圧接した状態で、上記円筒形ターゲット材および上記バッキングチューブを、芯金の挿通速度を500mm/sとして、押し抜くことにより、上記芯金をバッキングチューブに挿通し、このバッキングチューブを内側から拡管して、円筒形スパッタリングターゲットを得た。なお、挿通時に引き抜き油を潤滑剤として用いた。円筒形スパッタリングターゲットの外径は122mm、内径は107mm、円筒形タイルの厚さは3mm、バッキングチューブの厚さは4.5mmであった。
【0051】
得られた円筒形スパッタリングターゲットの円筒形タイルとバッキングチューブの界面について、超音波探傷装置(株式会社日立エンジニアリング・アンド・サービス製、FS−LINE)を用いて、空孔の有無を確認したところ、空孔は皆無であった。
【0052】
(実施例2)
同じ大きさの銅製のバッキングチューブを使用したこと以外は、実施例1と同様の条件で、円筒形スパッタリングターゲットを得た。円筒形スパッタリングターゲットの外径は122mm、内径は107mm、円筒形タイルの厚さは3mm、バッキングチューブの厚さは4.5mmであった。
【0053】
得られた円筒形スパッタリングターゲットの円筒形タイルとバッキングチューブの界面について、実施例1と同様の方法で、空孔の有無を確認したところ、空孔は皆無であった。
【0054】
(実施例3)
同じ大きさの銀製の円筒形タイルを使用したこと以外は、実施例2と同様の条件で、円筒形スパッタリングターゲットを得た。円筒形スパッタリングターゲットの外径は122mm、内径は107mm、円筒形タイルの厚さは3mm、バッキングチューブの厚さは4.5mmであった。
【0055】
得られた円筒形スパッタリングターゲットの円筒形タイルとバッキングチューブの界面について、実施例1と同様の方法で、空孔の有無を確認したところ、空孔は皆無であった。
【0056】
(実施例4)
円筒形のタイルとして、外径121mm、内径115mm、長さ300mmのアルミニウム製のものを3つ使用した。バッキングチューブとして、外径114mm、内径105mm、長さ1000mmのアルミニウム製のものを使用した。また、棒状の芯金として、外径107mm、長さ250mmであって、進行方向に対して先細り状のテーパ部を設けた棒材を使用した。
【0057】
クランプ装置を用いて、上記3つの円筒形タイルを、同心となるように、それぞれの間にステンレス製で厚さ0.2mmのスペーサを挟んだ状態で、軸方向に連続的に配置した。その状態で、直列している円筒形タイルの1つの内側に、上記円筒形タイルと同心となるように挿入して、棒状の芯金を固定し、次に、固定された芯金に対して、円筒形ターゲットおよびバッキングチューブを、芯金が通過する速度を300mm/sとして、押し抜くことにより、この芯金を、上記バッキングチューブの内側に連続的に挿通させ、この3つのバッキングチューブを内側から拡管して、円筒形スパッタリングターゲットを得た。なお、挿通時に引き抜き油を潤滑剤として用いた。
【0058】
円筒形スパッタリングターゲットの外径は122mm、内径は107mm、円筒形タイルの厚さは3mm、バッキングチューブの厚さは4.5mmであった。
【0059】
得られた円筒形スパッタリングターゲットの円筒形タイルとバッキングチューブの界面について、実施例1と同様の方法で、空孔の有無を確認したところ、空孔は皆無であった。
【0060】
(実施例5)
バッキングチューブの外径が113mmであり、緩衝材として、冷間圧延した厚さ0.5mmのインジウムシートを用意し、このインジウムシートをバッキングチューブの外周に一層巻いた状態で、円筒形タイルの内側にバッキングチューブを挿入したこと以外は、実施例1と同様の条件で、円筒形スパッタリングターゲットを得た。円筒形スパッタリングターゲットの外径は121mm、内径は107mm、円筒形タイルの厚さは3mm、緩衝材層の厚さは0.5mm、バッキングチューブの厚さは4.0mmであった。
【0061】
得られた円筒形スパッタリングターゲットの円筒形タイルと緩衝材の界面、およびこの緩衝材の界面とバッキングチューブの界面について、それぞれ実施例1と同様の方法で、空孔の有無を確認したところ、空孔は皆無であった。
【0062】
【表1】

【符号の説明】
【0063】
1 円筒形スパッタリングターゲット
2 バッキングチューブ
3 円筒形ターゲット材
4 芯金
5 引き抜き装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
円筒形ターゲット材の内径側に、該円筒形ターゲット材の内径よりも小さい外径を有するバッキングチューブを挿入し、この状態で、該バッキングチューブを拡管することにより、ロウ材を使用することなく、該円筒形ターゲット材を該バッキングチューブに接合することを特徴とする、円筒形スパッタリングターゲットの製造方法。
【請求項2】
前記円筒形ターゲット材の内径側に前記バッキングチューブを挿入した状態で、前記バッキングチューブの内径よりも大きな外径を有する棒状の芯金を、該バッキングチューブの内径側に挿通することにより、前記バッキングチューブの拡管を行う、請求項1に記載の円筒形スパッタリングターゲットの製造方法。
【請求項3】
前記円筒形ターゲット材として、複数の円筒形タイルを用い、該円筒形タイルを、スペーサを介して同軸上に配置し、その状態で、前記バッキングチューブを該複数の円筒形タイルの内径側に挿入する、請求項1に記載の円筒形スパッタリングターゲットの製造方法。
【請求項4】
前記バッキングチューブの外周に緩衝材を配置し、その状態で、該緩衝材付きバッキングチューブを前記円筒形ターゲット材の内径側に挿入する、請求項1に記載の円筒形スパ
ッタリングターゲットの製造方法。
【請求項5】
前記緩衝材として、低融点金属のシートまたはワイヤを用いる、請求項4に記載の円筒形スパッタリングターゲットの製造方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかの製造方法により得られ、円筒形ターゲット材と、その内径側に、ロウ材を用いることなく、該円筒形ターゲット材と接合しているバッキングチューブとを備える、円筒形スパッタリングターゲット。
【請求項7】
前記円筒形ターゲット材が、軸方向に連続して近接配置された複数の円筒形タイルにより構成される、請求項3に従属する、請求項6に記載の円筒形スパッタリングターゲット。
【請求項8】
前記円筒形ターゲット材と前記バッキングチューブとが、前記緩衝材を介して接合されている、請求項4に従属する、請求項6に記載の円筒形スパッタリングターゲット。
【請求項9】
円筒形ターゲット材を外管として、バッキングチューブを内管として備え、該円筒形ターゲット材の内周面と該バッキングチューブの外周面が圧接状態で一体化していることを特徴とする、円筒形スパッタリングターゲット。
【請求項10】
前記円筒形ターゲット材と前記バッキングチューブとの間に、溶融および凝固した後に塑性加工された低融点金属の緩衝材が圧接状態で介在していることを特徴とする、請求項9に記載の円筒形スパッタリングターゲット。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−162759(P2012−162759A)
【公開日】平成24年8月30日(2012.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−22494(P2011−22494)
【出願日】平成23年2月4日(2011.2.4)
【出願人】(000183303)住友金属鉱山株式会社 (2,015)
【Fターム(参考)】