説明

再剥離型自己粘着性フィルム

【課題】高温環境下に晒された保護フィルムを被着面から再剥離する際に、貼り付け時と略同じ剥離強度で剥離することができ、且つ被着面に粘着剤が残存することを防止することができ、これにより、剥離後の拭き取り、清浄が不要となるばかりか、再貼付けする際の粘着性を良好に保持することができる、ならびに貼り付けの際にフィルムと被着面との境界面においてエア抜けを効率よく行うことができる再剥離型自己粘着性フィルムを提供すること。
【解決手段】基材層、及び前記基材層表面に設けられる粘着剤層を備える再剥離型自己粘着性フィルムであって、前記粘着剤層が、アクリル系ポリマー、光重合開始剤、及び可塑剤を含むことを特徴とする再剥離型自己粘着性フィルムとする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、テレビ、パソコン、携帯電話、及びカーナビゲーションシステムなどのディスプレイ画面といった保護することが求められる面を効率的に保護するために好適に使用することができる再剥離型自己粘着性フィルムに関するものである。より具体的には、本発明は、貼付けと剥離の繰り返しに対しても自己粘着性を維持することができ、貼付け時のフィルムと被着面の境界面におけるエア抜けを効率よく行うことができ、且つ高温環境下においても貼付け時と略同じ剥離強度で被着面から剥離することができる再剥離型自己粘着性フィルムに関するものである。この明細書において、エア抜けとは、フィルムを被着面に貼り付けた際にフィルムと被着面の境界面に生じるエアをその境界面から逃がすことを言い、エアだまりとは、その境界面に残存するエアのことを言う。
【背景技術】
【0002】
保護フィルムは、テレビ、パソコン、及び携帯電話などのディスプレイ画面などの保護に用いられている。これらの保護フィルムは、貼付け作業及びフィルムの交換のために、貼付けと剥離を繰り返しても自己粘着性を維持することが求められている。再剥離の際には、剥離しやすく、被着面に粘着剤が残らないことが求められる。
【0003】
被着面への貼付け作業時にフィルムと被着面の境界面においてエア抜けを効率よく行うことができるフィルムが求められる。エアだまりがフィルムと被着面の間に存在すると、物性上、外観上から見て好ましくない。エアだまりの発生を防止するには、貼り合わせ作業を慎重に行うか、特定の貼り合わせ装置を用いなければならない。それには、作業時間が長くなる、あるいは貼り合わせ装置のための投資が必要となる等の問題がある。
【0004】
近年、カーナビゲーションシステムを搭載した車両が一般的になりつつあり、そのカーナビゲーションシステムのディスプレイの保護など、車載用にも保護フィルムが用いられている。車中は夏場には非常に高温となるため、一度高温環境下に晒されたフィルムは、粘着剤が融解し、再剥離の際に大きな剥離強度が必要となる。そのため、再剥離し辛く、また粘着剤が被着面に残存するという問題点がある。
【0005】
粘着剤のベースポリマーとして、スチレンエチレンブタジエンスチレン(SEBS)やシリコンを用いたフィルムが知られている。SEBSをベースポリマーとする粘着剤は、耐熱性の点で問題を有している。シリコンをベースポリマーとする粘着剤は、シリコンに含まれる低分子シロキサンが揮発し、モータやリレー・スイッチなどの電子部品の接点部に付着することで、その分解生成物であるSiOが電気絶縁物として作用し接点不良を引き起こすということが問題視されている。アクリル系ポリマーをベースポリマーとする粘着剤もまた知られている。特許文献1には、各種半導体の製造工程のうち半導体ウエハの裏面を研削する研削工程においてウエハの表面を保護するために用いる保護シートや、半導体ウエハを素子小片に切断・分割し、該素子小片をピックアップ方式で自動回収するダイシング工程においてウエハの裏面に貼付するダイシング用粘着テープなどとして有用な再剥離型粘着シートが開示されている。しかしこれは、上記エアだまりの発生の問題は解消されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2000−355678号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、前記問題点を解決すべく達成されたものであり、高温環境下に晒された保護フィルムを被着面から再剥離する際に、貼り付け時と略同じ剥離強度で剥離することができ、且つ被着面に粘着剤が残存することを防止することができ、これにより、剥離後の拭き取り、清浄が不要となるばかりか、再貼付けする際の粘着性を良好に保持することができる、ならびに貼り付けの際にフィルムと被着面との境界面においてエア抜けを効率よく行うことができる再剥離型自己粘着性フィルムを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1に係る発明は、基材層、及び前記基材層表面に設けられる粘着剤層を備える再剥離型自己粘着性フィルムであって、前記粘着剤層が、アクリル系ポリマー、光重合開始剤、及び可塑剤を含むことを特徴とする再剥離型自己粘着性フィルムに関する。
【0009】
請求項2に係る発明は、前記可塑剤が、カルボン酸エステル、パラフィンオイル及びナフテンオイルからなる群から選択されるいずれか一つであることを特徴とする請求項1記載の再剥離型自己粘着性フィルムに関する。
【0010】
請求項3に係る発明は、前記基材層が、ポリエチレンテレフタレート(PET)又はトリアセチルセルロース(TAC)であることを特徴とする請求項1又は2記載の再剥離型自己粘着性フィルムに関する。
【発明の効果】
【0011】
請求項1に係る発明によれば、高温環境に晒された保護フィルムを被着面から再剥離する際に、貼り付け時と略同じ剥離強度で剥離することができ、且つ被着面に粘着剤が残存することを防止することができ、これにより、剥離後の拭き取り、清浄が不要となるばかりか、再貼付けする際の粘着性を良好に保持することができる、ならびに貼り付けの際にフィルムと被着面との境界面においてエア抜けを効率よく行うことができる再剥離型自己粘着性フィルムを提供することができる。
【0012】
請求項2に係る発明によれば、低温柔軟性と耐熱性に優れ、且つ貼り付けの際にフィルムと被着面との境界面においてエア抜けを効率よく行うことができるとともに自己粘着性に優れた再剥離型自己粘着性フィルムを提供することができる。
【0013】
請求項3に係る発明によれば、耐熱性に優れ、被着面の傷つきを防止することができる再剥離型自己粘着性フィルムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】エア抜け性の評価方法の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明に係る再剥離型自己粘着性フィルムについて説明する。
【0016】
本発明における用語“自己粘着性”とは、被着面への貼付けが、他の如何なる粘着剤を使用しなくとも、また更なる圧力や熱をかけることなしに、また画鋲、ビス、ホッチキス、釘、針金などの機械的手段を使用しなくとも行うことができるフィルムの性質を意味する。
【0017】
本発明の再剥離型自己粘着性フィルム全体の厚さは、求められる耐久性・柔軟性などを考慮して適宜決定し得るが、例えば、21〜500μmであるのが好ましく、より好ましくは51〜135μmである。また本発明の再剥離型自己粘着性フィルムは、被着面がテレビやコンピュータのディスプレイ画面である場合には、それらを視認するために透明性を有するのが好ましく、例えば無色透明とすることが望ましいが、有色透明又は不透明であっても良い。
【0018】
本発明における基材層は、被着面に本発明のフィルムを貼り付けた際に、外部へ露出する面を有し、被着面を引掻き、剥離などの外的負荷から保護するために機能し得る。基材層を製造する際に用いられる材料は、プラスチックであるのが好ましく、例えばポリエチレンテレフタレート(PET)、トリアセチルセルロース(TAC)などが用いられ、特にポリエチレンテレフタレート(PET)を用いることが望ましい。基材層の厚みは限定されるものではなく、適宜決定することができるが、例えば10〜350μmであるのが好ましく、より好ましくは25〜70μmである。基材層の貼付け時に外側に露出する面、すなわち粘着剤層が設けられる反対側の面には、必要に応じてハードコート処理を行うことができ、耐スクラッチ性及び耐薬品性の向上、並びに防指紋、並びに反射防止などの機能を付加することができる。
基材層には、他の添加剤、例えば顔料、染料、酸化防止剤、充填剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、及び/又は電磁波防止剤などを含むことができる。
【0019】
本発明における粘着剤層は、前記基材層表面に設けられ、被着面に接着するために機能し得る。粘着剤層を製造する際に用いられるベースポリマーは、アクリル系ポリマーであるのが好ましく、例えばアクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチルなどのアクリル酸エステルの重合物と、酢酸ビニル、塩化ビニリデン、メタアクリル酸エステル、アクリル酸、メタアクリル酸などのビニル系ポリマーとの共重合物である。アクリル系ポリマーは耐熱性に優れていることから、高温環境下においても融解せずフィルムの再剥離がしやすいという利点を有する。粘着剤層の厚みは、限定されるものではなく適宜決定することができるが、例えば10〜100μmであるのが好ましく、より好ましくは25〜50μmである。
【0020】
本発明における粘着剤層は、光重合開始剤を含む。光重合開始剤は、アクリル系ポリマーを含む粘着剤層に紫外線を照射することによってポリマーを硬化させ、粘着剤層をシート状に形成するために機能し得る。光重合開始剤としては、水素引き抜き型光重合開始剤、及び開裂型光重合開始剤が用いられる。水素引き抜き型光重合開始剤の種類としては、これらに限定されないが例えば、ベンゾフェノン系化合物、チオキサントン系化合物などのいずれか或いはこれらの二種類以上の組合せからなる混合物を挙げることができる。開裂型光重合開始剤の種類としては、これらに限定されないが例えば、ベンゾインエーテル系化合物、ベンジルケタール系化合物、アセトフェノン系化合物などのいずれか或いはこれらの二種類以上の組合せからなる混合物を挙げることができる。光重合開始剤の添加量は、限定されるものではなく適宜決定することができるが、例えば、ベースポリマー100重量部に対し0.05〜5重量部、特に0.1〜3.0重量部の割合の範囲内とするのが好ましい。
【0021】
本発明における粘着剤層は可塑剤を含む。可塑剤は、柔軟性、エア抜け性及び対候性などを改善するために機能し得る。可塑剤の材料としては、例えばカルボン酸エステル、パラフィン、ナフテンなどが挙げられるが、特にカルボン酸エステルを用いることが好ましい。カルボン酸エステルとしては、これらに限定されないが例えば、アジピン酸エステル、フタル酸エステル、トリメリット酸エステル、正リン酸エステル、リシノール酸エステル、酢酸エステルなどが挙げられるが、好ましくはアジピン酸エステルを用いることが望ましい。可塑剤の添加量は、限定されるものではなく適宜決定することができるが、例えば、ベースポリマー100重量部に対し5〜95重量部、特に10〜90重量部の割合の範囲内とするのが好ましい。これは、可塑剤の含有量がベースポリマー100重量部に対し5重量部未満であると、効率の良いエア抜けが達成できないからであり、一方ベースポリマー100重量部に対し95重量部を超えると、可塑剤がブリードアウトしてしまうからである。
【0022】
粘着剤層に含まれる可塑剤が、フィルムを被着面に貼り付ける際、フィルムと被着面との境界面においてエア抜けを効率よく行うことに役立つ。具体的には、フィルムが被着面に接触する際に、フィルム表面の可塑剤が被着面に拡散することでエアを外側に押出し、エア抜けを効率よく行う。
【0023】
(製造例)
(開裂型光重合開始剤の場合)
2−エチルヘキシルアクリレート1.2モル及び2−ヒドロキシエチルアクリレート0.3モルからなるアクリル酸エステルのポリマーと、2−メタクリロイルオキシエチルイソシアネート0.28モルを反応させ、アクリル酸エステル系共重合ポリマーを得た。
このアクリル酸エステル系共重合ポリマー:100重量部に対し、光重合開始剤として1−ヒドロキシ−シクロヘキシル−フェニル−ケトン:0.1重量部と、可塑剤としてアジピン酸ビス(2−エチルヘキシル):60重量部を添加し、溶融攪拌して粘着剤組成物を調製した。この粘着剤組成物を、アクリル系の接着層が2μmで塗布された厚さ50μmのPETフィルムに塗布し、30μmの粘着層を形成した。その粘着剤層に離型処理された厚さ25μmPETフィルムを貼り合わせた。その後この粘着剤層に300mJ/cmの紫外線を照射することにより、再剥離型自己粘着性フィルムを得た。
【0024】
(水素引き抜き型光重合開始剤の場合)
2−エチルヘキシルアクリレート1.2モル及び2−ヒドロキシエチルアクリレート0.3モルからなるアクリル酸エステルのポリマーと、2−メタクリロイルオキシエチルイソシアネート0.28モルを反応させ、アクリル酸エステル系共重合ポリマーを得た。
このアクリル酸n−ブチル79重量部、アクリル酸エチル15重量部、アクリル酸1重量部及びアクリル酸2−ヒドロキシエチル5重量部からなるアクリル酸エステルのポリマーと、メタクリル酸2−イソシアネートエチルを反応させ、アクリル酸エステル系共重合ポリマーを得た。
このアクリル酸エステル系共重合ポリマー:100重量部に対し、光重合開始剤としてジエチルチオキサントン:0.1重量部と、可塑剤としてアジピン酸ビス(2−エチルヘキシル):60重量部を添加し、溶融攪拌して粘着剤組成物を調製した。この粘着剤組成物を、アクリル系の接着層が2μmで塗布された厚さ50μmのPETフィルムに塗布し、30μmの粘着層を形成した。その粘着剤層に離型処理された厚さ25μmPETフィルムを貼り合わせた。その後この粘着剤層に300mJ/cmの紫外線を照射することにより、再剥離型自己粘着性フィルムを得た。
【0025】
(実施例)
本発明のフィルムのエア抜け性を評価する。図1に示すようにPET基材と粘着剤層からなるフィルムサンプルを粘着剤層が上面になるように平置きする。125μmPETフィルムの両端をつまむように持ち、それから手を離しフィルムが樹脂面に濡れ広がってエアが抜けきるまでの速度を計測した。サンプルは2点(重合開始剤の異なるもの)を用意し、それぞれ3回ずつ計測した。また比較対照として3種類の一般的なアクリル粘着剤付保護・キャリアフィルムのエア抜け性を、同じ方法で計測した。結果を表1に示す。
【0026】
【表1】

【0027】
この結果から明らかなように、一般的なアクリル粘着剤付保護・キャリアフィルムは速いものでも0.5cm/秒であるのに対し、本発明のフィルムは平均2.6cm/秒であり優れたエア抜け性を示した。
【0028】
次いで、本発明のフィルムの剥離性を評価する。上記製造例で得られるフィルムを25mm幅にカットしたものを被着体188μmPET基材フィルムとソーダガラスそれぞれに貼り付け、2kgの荷重をかけたローラーで一往復し、貼り付け30分後(初期)、80℃24時間後、110℃24時間後の剥離強度を計測した。剥離角度は180°、剥離速度は300mm/min。比較対照として弊社製保護フィルムA、B、市販品保護フィルムAも同様の計測を行った。結果を表2に示す。
【0029】
【表2】

【0030】
この結果から明らかなように、本発明のフィルムは高温環境下にさらされても貼り付け時と略同じ剥離強度で剥離することができることを示した。
【産業上の利用可能性】
【0031】
本発明は、テレビ、パソコン、携帯電話、及びカーナビゲーションシステムなどのディスプレイ画面といった保護することが求められる面を効率的に保護するために好適に用いられ、POP広告の用途にもまた好適に用いられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材層、及び前記基材層表面に設けられる粘着剤層を備える再剥離型自己粘着性フィルムであって、
前記粘着剤層が、アクリル系ポリマー、光重合開始剤、及び可塑剤を含むことを特徴とする再剥離型自己粘着性フィルム。
【請求項2】
前記可塑剤が、カルボン酸エステル、パラフィンオイル及びナフテンオイルからなる群から選択されるいずれか一つであることを特徴とする請求項1記載の再剥離型自己粘着性フィルム。
【請求項3】
前記基材層が、ポリエチレンテレフタレート(PET)又はトリアセチルセルロース(TAC)であることを特徴とする請求項1又は2記載の再剥離型自己粘着性フィルム。

【図1】
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【公開番号】特開2012−149130(P2012−149130A)
【公開日】平成24年8月9日(2012.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−7310(P2011−7310)
【出願日】平成23年1月17日(2011.1.17)
【出願人】(593008427)日本電子精機株式会社 (12)
【Fターム(参考)】