説明

再生ポリエステルの製造方法。

【課題】ポリエステル屑の解重合において、解重合して得られたポリマーの品質、品位を向上させ、かつ、解重合反応時間を遅延することのなく、紡糸時における操業性が良好であるポリエステルの製造方法を提供することにある。
【解決手段】 リサイクルポリエステルとグリコールおよびアルカリ化合物を回分式反応装置に供給して解重合を行い、得られた低重合体を別の回分式反応装置にて重縮合反応を行うことを特徴とする再生ポリエステルの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リサイクルポリエステル、特に好ましくは、繊維やポリエステル製品の製造工程で発生するリサイクルポリエステル(以下、ポリエステル屑という。)を解重合する再生ポリエステルの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えばポリエチレンテレフタレート(PET)は、まず、テレフタル酸(TPA)とエチレングリコール(EG)がエステル化反応装置に送られてエステル化反応をさせた後、生成したポリエステル低重合体を続いて重縮合反応装置に送り、重縮合反応することにより製造される。かかるPETは、その優れた特性により繊維、フイルム、ボトル、プラスチック等として広く用いられている。これらの製造工程において発生する繊維状、フィルム状、樹脂状などのポリエステル屑の有効利用は、コストなどの点で工業的に極めて重要となっている。
【0003】
ポリエステル屑の利用方法としては、例えば、ポリエステル屑を解重合するに際し、酸成分に対するグリコール成分の当量比が1.3〜2.0のビスヒドロキシエチルテレフタレートおよび/またはその低重合体を溶融状態で反応容器に存在させ、EGとポリエステル屑を同時かつ連続的に添加し、かつ攪拌しながらエステル化反応装置を215〜250℃で酸成分に対するグリコール成分の当量比を1.3〜2.0に維持して解重合した後、反応物の一部を重合反応系に供給する方法(特許文献1参照)が開示されている。
【0004】
しかしながら、ポリエステル屑中には水分が多少含有されているため解重合の進行に伴い、この水分が反応系に蓄積し、解重合反応を抑制するという問題があった。また、ポリエステル屑の解再重合を効率的に生産できる技術は、現在のところ未だ確立されていない。
【0005】
TPAとEGよりポリエステルを製造するポリエチレンテレフタレートの工業的製造においては、酸成分に対して、反応性を向上させるため、グリコール成分を過剰に用い、両末端にグリコールが縮合されたオリゴマーとした(エステル化反応)後に、これを高温減圧下のエステル交換による脱グリコール重縮合反応により、高分子量のポリエステルを得る方法が採用されている。
【0006】
例えば、PET屑にメタノールを添加してジメチルテレフタレート(DMT)とEGに分解する方法(特許文献2参照)などが提案されているがこれらの方法では比較的高品位の再生PETが得られるものの、回収装置が複雑であるため経済的に好ましくないという問題点があった。
【0007】
ポリエステル屑をグリコールで解重合して、オリゴマーとした段階でフィルター濾過することにより、容易にポリエステル屑中の異物を除去する方法(特許文献3参照)が開示されているが、このような方法だけでは軟化点が高く色調の優れた高品質の再生ポリエステルは得られない問題があった。
【特許文献1】特公昭60−248646号公報
【特許文献2】特開2002−167469号公報
【特許文献3】特開2005−171138号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、ポリエステル屑の解重合における上記従来技術の問題点を解消し、解重合して得られたポリマーの品質、品位を向上させ、かつ、解重合反応時間を遅延することがなく、紡糸時における操業性が良好である再生ポリエステルの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、前記課題を解決するために検討した結果、本発明に到達した。すなわち、本発明は以下の(1)、(2)、(3)、(4)、(5)を要旨とするものである。
(1)リサイクルポリエステルとグリコールおよびアルカリ化合物を第1の回分式反応装置に供給して解重合を行い、得られた低重合体を第2の回分式反応装置にて重縮合反応を行うことを特徴とする再生ポリエステルの製造方法。
(2)アルカリ化合物が水酸化テトラエチルアンモニウム、水酸化ナトリウム、又は水酸化カルシウムから選ばれたものであること。
(3)アルカリ化合物の添加量が、生成する再生ポリエステル100重量部に対して0.02〜0.10重量部であること。
(4)グリコールが、エチレングリコールおよび/または1,4−ブタンジオールであること。
(5)リサイクルポリエステルが、繊維やポリエステル製品の製造工程で発生するリサイクルポリエステルであること。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、ポリエステル屑を解重合する際にアルカリ化合物を添加することにより、軟化点も高く、色調も良好となり、ポリマー品質、品位を向上させ、かつ、解重合反応時間を遅延することなく、紡糸時における操業性良く、再生ポリエステルを製造することができる。また、本発明によれば、ポリエステル屑と、EG、1,4−ブタンジオール(BG)などのグリコールとを回分式反応装置を用いて解重合することにより、さらに再生ポリエステルの品質を安定化できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明においては、リサイクルポリエステルとグリコールおよびアルカリ化合物を第1の回分式反応装置に供給して解重合を行い、得られた低重合体を第2の回分式反応装置にて重縮合反応を行う。
【0012】
本発明で使用するアルカリ化合物とは、エステル交換反応を促進するアルカリ化合物であれば如何なる物でも良く、例えばアルカリ金属の水酸化物を挙げることができる。具体的には水酸化ナトリウム、水酸化カルシウム、または水酸化テトラエチルアンモニウム等を用いることができる。
【0013】
本発明において、アルカリ化合物の添加量は、生成する再生ポリエステル100重量部に対して0.02〜0.10重量部であることが好ましい。
【0014】
本発明で使用するポリエステルは、エチレンテレフタレートを主成分とするポリエステルであり、具体的には例えば、テレフタル酸またはその低級アルキルエステルとEGとからなるポリエステルである。そのテレフタル酸成分の一部をイソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、ジフェノキシエタンジカルボン酸などの芳香族ジカルボン酸や、ドデカンジオン酸、アジピン酸、セバシン酸、アゼライン酸、デカンジカルボン酸などの脂肪族カルボン酸、さらにはシクロヘキサンジカルボン酸などの脂環族ジカルボン酸、ヒドロキシ安息香酸、グリコール酸、ヒドロキシエトキシ安息香酸などのヒドロキシカルボン酸などで置き換えてもよい。また、グリコール成分の一部をBG、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、ヘキサメチレングリコール、p−キシレングリコール、1,4−シクロヘキサジメタノール、ビスフェノールなどの脂肪族、脂環族、芳香族のジオール化合物で置き換えてもよい。さらに熱可塑性を損なわない程度であれば、三官能以上の多官能性化合物を共重合したポリエステルでもよい。また、フタル酸、ジフェニルカルボン酸、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、P−ヒドロキシ安息香酸等の二官能性酸の1種または2種以上を置き換えたポリエステルであってもよい。また、顔料、耐熱材、蛍光増白剤などの添加物を含んでもよい。
【0015】
本発明で使用するリサイクルポリエステルは、繊維やポリエステル製品の製造工程で発生するリサイクルポリエステルであることが好ましい。
【0016】
本発明において回分式反応装置に供給するグリコールは、通常、原料のリサイクルポリエステルを構成するグリコールと同種のグリコールを使用する。従って、EG、BG、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、ヘキサメチレングリコール、p−キシレングリコール、1,4−シクロヘキサジメタノール、ビスフェノールなどの脂肪族、脂環族、芳香族のジオール化合物が使用可能である。
【0017】
本発明で使用する回分式反応装置は特に限定されない。解重合反応あるいは縮重合反応に各々適したものを使用すればよい。
【0018】
以下、本発明方法を詳しく説明する。ポリエステルの製造では、一般的にあらかじめポリエステル低重合体が存在する回分式反応装置にポリエステル屑とEGを供給し、常圧で解重合させる。ポリエステル屑とEGを回分式反応装置に一定モル比、すなわち通常ポリエステル屑に対するEGのモル比は1.0〜2.0の範囲で供給する。第1の回分式反応装置中で行う解重合反応は、通常230〜270℃、常圧の条件にて反応させる。第1の回分式反応装置では、ほぼ解重合が完了し、生成したポリエステル低重合体が次工程の第2の回分式反応装置に送られる。第2の回分式反応装置では、250〜300℃、0.05〜30KPaの範囲で徐々に温度と、真空度を上げていくと、ポリエステルのポリマーが合成される。なお、ここではグリコール成分としてEGを用いたものについて説明しているが、本発明はグリコール成分がEGのみに限定されるものではない。また、回分式反応装置として、2槽構成のポリエステル重合方法を示したが、反応容器数はこれに限るものではない。
【実施例】
【0019】
以下、実施例にあげて本発明をさらに具体的に説明する。本実施例でいう「部」とは重量部を意味する。
【0020】
特性値の測定方法は次のとおりである。
【0021】
(1)固有粘度
オルソクロロフェノール中、25℃で測定した値である。
【0022】
(2)色調(b値)
スガ試験機(株)製の“SC3Pカラーマシン”を使用して測定した。
【0023】
(3)ジエチレングリコール含有率
試料1.0gに1級モノエタノールアミン2.5mlを加え、全還流下280℃で40 分間加熱後、内部標準液を加える。さらに特級テレフタル酸40gと1級エタノール5mlを加え測定用試料を調製する。該測定用試料を島津製ガスクロマトグラフィー“GC−9A”(使用カラム:島津C−R3A)を用いて測定した。
【0024】
(4)カルボキシル基含有量
ベンジルアルコールに得られたポリエステルを溶解し、0.01N水酸化ナトリウム水 溶液で滴定することにより求めた。
【0025】
実施例1
回分式反応装置1にPET屑2500部、EG870部、アルカリ化合物として水酸化テトラエチルアンモニウムを0.0157部を仕込み、原料仕込みと同時に昇温を開始して、常圧下に解重合反応を開始した。その後、解重合反応を開始して2時間50分後(この時の缶温度:245℃)に解重合反応終了となった。
【0026】
この時の反応生成物であるPET低重合体を回分式反応装置2に移液し、290℃、減圧下(1mmHg以下)で重縮合反応を行った。2時間42分後に固有粘度0.656のPETポリマーを得た。DEG量、COOH量も低い値となっており、得られたPETの色調はb値が13.7であった。得られた再生PETの物性を表1に示す。軟化点、色調も問題なく再生PETが得られることを確認した。
【0027】
実施例2
アルカリ化合物として水酸化テトラエチルアンモニウムを0.0112部使用する以外は実施例1と同様にして解重合反応を行い、解重合反応を開始して2時間51分後(この時の缶温度:245℃)に解重合反応終了となった。
【0028】
この時の反応生成物であるPET低重合体を回分式反応装置2に移液し、290℃、減圧下(1mmHg以下)で重縮合反応を行った。2時間43分後に固有粘度0.660のPETを得た。DEG量、COOH量も低い値となっており、得られたPETの色調はb値13.2であった。得られた再生PETの物性を表1に示す。軟化点、色調も問題なく再生PETが得られることを確認した。
【0029】
実施例3
アルカリ化合物として水酸化テトラエチルアンモニウムを0.0068部使用する以外は実施例1と同様にして解重合反応を行い、、解重合反応を開始して2時間50分後(この時の缶温度:245℃)に解重合反応終了となった。
【0030】
この時の反応生成物であるPET低重合体を回分式反応装置2に移液し、290℃、減圧下(1mmHg以下)で重縮合反応を行った。2時間40分後に固有粘度0.657のPETを得た。DEG量、COOH量も低い値となっており、得られたPETの色調はb値13.4であった。得られた再生PETの物性を表1に示す。軟化点、色調も問題なく再生PETが得られることを確認した。
【0031】
実施例4
アルカリ化合物を水酸化ナトリウムに変える以外は実施例3と同様にして解重合反応を行い、解重合反応を開始して2時間55分後(この時の缶温度:245℃)に解重合反応終了となった。
【0032】
この時の反応生成物であるPET低重合体を回分式反応装置2に移液し、290℃、減圧下(1mmHg以下)で重縮合反応を行った。2時間42分後に固有粘度0.653のPETを得た。DEG量、COOH量も低い値となっており、得られたPETの色調はb値14.0であった。得られた再生PETの物性を表1に示す。軟化点、色調も問題なく再生PETが得られることを確認した。
【0033】
実施例5
PETをPBTに変える以外は実施例3と同様にして解重合反応を行い、解重合反応を開始して2時間54分後(この時の缶温度:245℃)に解重合反応終了となった。
【0034】
この時の反応生成物であるPBT低重合体を回分式反応装置2に移液し、290℃、減圧下(1mmHg以下)で重縮合反応を行った。2時間44分後に固有粘度0.658のPBTを得た。DEG量、COOH量も低い値となっており、得られたPBTの色調はb値13.9であった。得られた再生PBTの物性を表1に示す。軟化点、色調も問題なく再生PBTが得られることを確認した。
【0035】
比較例1
実施例1と同じ方法でPET屑2500部、BG870部を仕込み、原料仕込みと同時に昇温を開始して、常圧下に解重合反応を開始した。その後、解重合反応を開始して2時間52分後(この時の缶温度:245℃)に解重合反応終了となった。
この時の反応生成物であるPET低重合体を回分式反応装置2に移液し、290℃、減圧下(1mmHg以下)で重縮合反応を行った。2時間51分後に固有粘度0.652のポリマーを得た。DEG量、COOH量も高い値となっており、得られた再生PETの色調はb値15.3であった。軟化点が低く、色調も好ましくない再生PETしか得られなかった。
【0036】
【表1】

【0037】
アルカリ添加は、ポリエステル100重量部に対するアルカリ化合物の添加量である。
EGはエチレングリコール、BGは1,4−ブタンジオールである。
EAHは水産課テトラエチルアンモニウム、NaOHは水酸化ナトリウムである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リサイクルポリエステルとグリコールおよびアルカリ化合物を第1の回分式反応装置に供給して解重合を行い、得られた低重合体を第2の回分式反応装置にて重縮合反応を行うことを特徴とする再生ポリエステルの製造方法。
【請求項2】
アルカリ化合物が水酸化テトラエチルアンモニウム、水酸化ナトリウムおよび水酸化カルシウムから選ばれたことを特徴とする請求項1記載の再生ポリエステルの製造方法。
【請求項3】
アルカリ化合物の添加量が、生成するポリエステル100重量部に対して0.02〜0.10重量部であることを特徴とする請求項1又は2記載の再生ポリエステルの製造方法。
【請求項4】
グリコールが、エチレングリコールおよび/または1,4−ブタンジオールであることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の再生ポリエステルの製造方法。
【請求項5】
リサイクルポリエステルが、繊維やポリエステル製品の製造工程で発生するリサイクルポリエステルであることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の再生ポリエステルの製造方法。

【公開番号】特開2007−153942(P2007−153942A)
【公開日】平成19年6月21日(2007.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−347310(P2005−347310)
【出願日】平成17年11月30日(2005.11.30)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】