説明

冶金炉の水冷フランジ

【課題】 転炉やRH真空脱ガス装置などの高温で精錬する冶金炉に設置される、水冷用配管を鋳ぐるむことが難しい内部冷却型のフランジにおいて、水冷用配管からの水漏れの防止並びに施工上の安全性を確保した、冷却能に優れる水冷フランジを提供する。
【解決手段】 本発明に係る冶金炉の水冷フランジ4は、フランジに設けられた溝11の内部に水冷用配管8が敷設され、前記溝の開口部は蓋体9によって塞がれており、前記水冷用配管が蓋体によって前記溝の内部に収納された構造の水冷フランジであって、前記水冷用配管と前記溝と前記蓋体とで形成する間隙には、融点が350℃以上の固体の金属粉または金属片10a、10bが充填されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、転炉やRH真空脱ガス装置などの高温で精錬する冶金炉の水冷フランジに関する。
【背景技術】
【0002】
高温の溶鋼を精錬する、転炉やRH真空脱ガス装置などの冶金炉には、熱による変形を防止するために、通常、内部水冷構造とする部位が設けられている。
【0003】
転炉を例にしてみると、図1に示すように、転炉1の炉口部2Aには、炉体鉄皮3の上端部に接続して炉口フランジ4が設けられ、更に、炉口フランジ4の上部に取り付けられる炉口金物座5を介して炉口金物6が設けられており、転炉1に施工される耐火物7は、炉体鉄皮3、炉口フランジ4、炉口金物座5、炉口金物6によって形成される空間に施工されることから、つまり、耐火物7は炉口金物6によって押さえ付けられていることから、炉口フランジ4や炉口金物6が操業に伴う高熱によって変形すると、炉口金物6による耐火物7の押し付け力が緩み、耐火物7が崩れ落ちるなどの事故原因になる。従って、これを防止するために、炉口フランジ4或いは炉口金物6を内部水冷構造とすることが一般的である。
【0004】
例えば、特許文献1には、外部の冷却水給排水管と接続する冷却水流路をその内部に有する炉口金物が提案されており、特許文献2には、炉口フランジの外周面に設けられた周溝と該周溝の蓋体とにより冷却水流路を形成してなる炉口フランジが提案されている。
【0005】
また、特許文献3には、図4に示すように、従来、炉口フランジ4は、炉口フランジ4に、その上下面から開口部を設けた後、該開口部に水冷用配管12及び冷却水供給管13を配し、その後上記開口部を炉口フランジ蓋14、15及び炉口フランジ底16によって塞ぎ、併せて、前記水冷用配管12及び冷却水供給管13と炉口フランジ4の開口部との間に形成される隙間は、233℃以上で溶融する金属すず埋め込み部17とする構造であったが、水冷用配管12の溶接部で水漏れが発生するとして、これを防止するために、一体に形成されたフランジ状ブロックの外側面から内方に向かって内側面近傍まで穿たれた穴を互いに連通せしめてなる穴を冷却水流路とする水冷フランジが提案されている。尚、図4において符号18は、炉口フランジ4を支持するための支持金物である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平8−73919号公報
【特許文献2】実開昭59−189853号公報
【特許文献3】特開2000−256727号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記従来技術には以下の問題点がある。
【0008】
即ち、炉口金物は、精錬中に噴出する溶鋼や溶融スラグと直接接触して熱影響が大きいことから、特許文献1のように、炉口金物を水冷構造としても、炉口金物の損傷を大幅に改善することはできず、いずれは交換せざるを得ない。また、水冷構造にすると、炉口金物の交換毎に冷却水配管の繋ぎ込みを付け替えねばならないなどの問題もあり、必要費用に対してその効果は少ない。
【0009】
これに対して、炉口フランジは溶鋼や溶融スラグと直接接触することはなく、炉口フランジを水冷構造とすることは炉体の変形に対して効果が大きい。しかしながら、特許文献2の方法では、周溝を覆うための蓋体は溶接によって取り付けられることから、熱疲労などによって蓋体の溶接部に亀裂が発生し、水漏れが起こるという問題がある。
【0010】
特許文献3に提案される、外側面から内方に向かって内側面近傍まで穿たれた穴を互いに連通せしめてなる穴を冷却水流路とする水冷フランジでは、冷却水流路自体には水漏れが起こらず冷却能に優れるが、フランジ内の冷却水流路と外部の冷却水給排水管との繋ぎ目は、溶接構造或いはネジでの接合構造となり、いずれの場合も熱疲労などによって亀裂が生じやすく、前記繋ぎ目で水漏れ発生の恐れがある。また、製作コストが高価で実用的ではないという問題点もある。
【0011】
また、特許文献3で従来技術として記載された、図4に示す構造のフランジでは、炉口フランジの開口部と配管との間にできる隙間に、融点が350℃未満の金属すずや金属鉛を流し込んで間隙を埋めており、金属すずや金属鉛は、いわゆる「特化物」であり、溶融金属流し込み施工時の安全性が問題となる。
【0012】
このように、転炉などの高温で精錬する冶金炉に設けられた従来の水冷フランジは、配管から水漏れが生じたり、水漏れが生じない場合には高価であったり、更には、施工時の安全性に問題があったりして、更なる改善が求められていた。
【0013】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、転炉やRH真空脱ガス装置などの高温で精錬する冶金炉に設置される、水冷用配管を鋳ぐるむことが難しい内部冷却型のフランジにおいて、水冷用配管からの水漏れの防止並びに施工上の安全性を確保することのできる、冷却能に優れる水冷フランジを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、上記課題を解決し、転炉炉口部を効率的に冷却することを目的として転炉炉口部の水冷構造について検討した。ここで、前述したように、炉口金物を水冷構造としても効果が少ないことから、交換を必要としない炉口フランジを水冷構造とすることを前提とした。
【0015】
検討の結果、炉口フランジ自体の内部に冷却水流路を形成する場合には、この冷却水流路と外部の冷却水給排水管との繋ぎ目を溶接構造或いはネジでの接合構造のいずれとしても、当該繋ぎ目で、熱疲労などによって生じた亀裂により水漏れ発生の恐れがあることから、水冷用配管を炉口フランジに形成した溝の内部に埋め込む構造が好適であるとの結論を得た。
【0016】
また、水冷用配管を炉口フランジに単に埋め込む構造では、水冷用配管とフランジとの間に空隙が生じ、冷却効果が低下することから、この間隙を熱伝導率の高い金属で充填することとした。従来、この間隙を、融点が350℃未満の低融点金属である、溶融した金属すずや金属鉛で充填していたが、操業中の炉口フランジの350℃以上の温度範囲では固体状態のままである金属の粉や片で充填することが、間隙を小さくして熱伝導を良くする観点からも、また、施工時の安全性の観点からも、更には、炉口フランジを修理する観点からも、優位であるとの知見を得た。また、350℃未満の低融点金属である金属すずや金属鉛を充填した場合には、炉口フランジの温度がこれら金属の融点以上に上昇したときには、充填した埋め込み材が溶融して流出し、充填層が無くなることも発生する。
【0017】
本発明は上記検討結果に基づいてなされたものであり、上記課題を解決するための本発明に係る冶金炉の水冷フランジは、フランジに設けられた溝の内部に水冷用配管が敷設され、前記溝の開口部は蓋体によって塞がれており、前記水冷用配管が蓋体によって前記溝の内部に収納された構造の水冷フランジであって、前記水冷用配管と前記溝と前記蓋体とで形成する間隙には、融点が350℃以上の固体の金属粉または金属片が充填されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、水冷用配管と溝と蓋体とで形成する間隙に、従来の350℃以上の温度で溶融した金属すずまたは金属鉛に替わって、350℃以上においても固体状態の金属粉または金属片を充填するので、施工の際に防毒マスクなどの特別な道具を必要とせず、施工上の安全性を確保することができる。また、水冷用配管の周囲を完全な空隙としないので、完全な空隙とした場合に比較して50℃以上フランジの温度を低下させることができ、これは、従来の溶融した金属すずまたは金属鉛を充填した場合と同等の冷却効果であり、設備の変形を防止し、設備の長寿命化を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明に係る水冷フランジを炉口部に配置した転炉の概略断面図である。
【図2】図1に示す転炉炉口部の拡大図である。
【図3】図2に示す炉口フランジの拡大図である。
【図4】従来の炉口フランジの構造の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、添付図面を参照して本発明を具体的に説明する。図1は、本発明に係る水冷フランジを炉口部に配置した転炉の概略断面図、図2は、図1に示す転炉炉口部2Aの拡大図、図3は、図2に示す炉口フランジ4の拡大図である。
【0021】
図1に示すように、転炉1は、外殻を炉体鉄皮3とし、その内部に耐火物7が施工されていて、転炉1の正立状態での上端部は開口し、炉口2を形成している。この転炉1の炉口部2Aには、炉体鉄皮3の上端部に接続して炉口フランジ4が設けられ、更に、炉口フランジ4の上部に取り付けられる炉口金物座5を介して炉口金物6が設けられている。炉口金物6は耐火物7を固定する役目(煉瓦押さえ)を兼ねており、耐火物7は、炉体鉄皮3、炉口フランジ4、炉口金物座5、炉口金物6によって形成される空間に施工されることから、操業中に炉口フランジ4や炉口金物6が操業に伴う高熱によって変形すると、炉口金物6による耐火物7の押し付け力が緩み、耐火物7が崩れ落ちるなどの事故が発生する。従って、これを防止するために、炉口フランジ4は内部水冷構造となっている。尚、炉口フランジ4、炉口金物座5、炉口金物6は、鋳鋼或いは強靭鋳鉄製であり、炉口フランジ4は、鋳造などによって最初から一体に製造したり、1/4周程度のセグメントを互いに溶接したりするなどして一体に製造されている。
【0022】
図2及び図3に示すように、炉口フランジ4には、フランジの円周方向に溝11が設けられており、この溝11の内部に、冷却水を通すための水冷用配管8が敷設されている。この場合、水冷用配管8の外径は、溝11の内径とほぼ同等であり、水冷用配管8の下側の約1/2が溝11と密着した状態で敷設されている。そして、水冷用配管8と溝11との間隙には、融点が350℃以上の固体状態の金属粉或いは金属片が埋め込み材10として充填されており、埋め込み材10が充填された溝11の上部には蓋体9が炉口フランジ4に嵌合して配置され、溝11の開口部は塞がれた形状となっている。蓋体9の上面は、炉口金物座5の取り付けを妨げないようにするために、炉口フランジ4のその他の部位の上面と同等高さ位置、つまり、平滑になっている。蓋体9は、ボルト、溶接などの適宜の手段で容易に分離しないように取り付けられている。容易に分離しなければ、炉口フランジ4に嵌合するだけであっても構わない。
【0023】
溝11の設置数は、これらの図では2本であるが、1本であっても、また3本以上であっても構わない。また、埋め込み材10として使用する金属粉及び金属片は、操業中にフランジ4の温度が300℃を超えることもあることから、融点が350℃以上の金属である限り、その種類は特定する必要はないが、安価であることから、鉄粉や鉄片を使用することが好ましい。銅は熱伝導率が高く、冷却能に優れるが、高価である。但し、銅粉、銅片も埋め込み材10として使用することができる。尚、金属粉は細かくしすぎると、反応性に富み、空気と反応して燃焼する恐れもあるので、使用時の温度条件などを勘案して、粒度を決めればよい。
【0024】
図示はしないが、溝11の少なくとも2箇所は、炉口フランジ4の下面側に開口しており、この開口した部位を通って炉口フランジ4の外部に出た水冷用配管8は、外部の冷却水供給管及び冷却水排出管と接続されている。この場合に、冷却水を炉口フランジ4の全周に亘って循環させてもよく、また、1/4周など適宜の範囲に分割して循環させてもよい。
【0025】
埋め込み材10を充填する際に、水冷用配管8と溝11とで形成する間隙の広さが水冷用配管8の側面位置に応じて異なることから、同一種類の金属粉または金属片だけで充填しようとすると、無理が生じたり、充填に長時間を費やしたりすることが起こる。これを防止するために、図3に示すように、水冷用配管8と溝11とで形成する間隙には、細かい線材10bを充填し、その上に、或る程度の大きさの金属板10aを充填する、などとすることが好ましい。金属板10aは密着させると間隙がほとんど無くなることから、冷却効果を高めることができる。また、線材10bを、その長さ方向が水冷用配管8の長さ方向と一致するように充填することで、粉体のみを充填した場合に比較して間隙が小さくなることから、冷却効果を高めるためには、線材10bを使用することも好ましい。線材10bとしては、銅線材、鋼線材などを用いることができ、金属板10aとしては銅板、鉄板などを用いることができる。
【0026】
このように、本発明によれば、水冷用配管8と溝11と蓋体9とで形成する間隙に、埋め込み材10として、融点が350℃以上である固体状態の金属粉または金属片を充填するので、施工の際に防毒マスクなどの特別な道具を必要とせず、施工上の安全性を確保することができる。また、水冷用配管8の周囲を完全な空隙としないので、完全な空隙とした場合に比較して50℃以上フランジの温度を低下させることができ、これは、従来の溶融した金属すずまたは金属鉛を充填した場合と同等の冷却効果であり、設備の変形を防止し、設備の長寿命化を図ることが実現される。
【0027】
尚、上記説明は本発明を転炉の炉口フランジに適用した例であるが、本発明は転炉の炉口フランジに限るものではなく、RH真空脱ガス装置の上部槽と下部槽とを連結するフランジのように、高温で精錬する冶金炉の冷却を必要とするフランジに適用可能である。
【実施例】
【0028】
図1に示す転炉において、本発明を適用した。直径60mmの配管が入るように2本の溝が加工された炉口フランジに、直径60mmの水冷用配管を敷設した後、図3に示すように、水冷用配管の側面部と溝との間隙には、直径0.18mmの銅線材を埋め込み、水冷用配管の円弧部に関与しない部位である、前記線材の上に蓋体との間隙と同等厚の鉄板(厚み:3.2mm)を充填した。その後、蓋体を取り付け、溝の開口部を閉塞した。
【0029】
銅線材及び鉄板からなる埋め込み材によって間隙が小さくなり、水冷用配管と炉口フランジとの熱伝導率が高くなり、完全な空隙であった場合に比較して、炉口フランジ自体の温度を50℃低下することができた。
【0030】
また、水冷用配管の設置作業及び銅線材、鉄板の充填作業を定常の転炉修理時に行ったが、防毒マスクなどの特別な道具を必要とせず、また、炉口の変形による埋め込み障害もなく、短時間で施工することができた。
【符号の説明】
【0031】
1 転炉
2 炉口
2A 炉口部
3 炉体鉄皮
4 炉口フランジ
5 炉口金物座
6 炉口金物
7 耐火物
8 水冷用配管
9 蓋体
10 埋め込み材
10a 金属板
10b 線材
11 溝
12 水冷用配管
13 冷却水供給管
14 炉口フランジ蓋
15 炉口フランジ蓋
16 炉口フランジ底
17 金属すず埋め込み部
18 支持金物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フランジに設けられた溝の内部に水冷用配管が敷設され、前記溝の開口部は蓋体によって塞がれており、前記水冷用配管が蓋体によって前記溝の内部に収納された構造の水冷フランジであって、前記水冷用配管と前記溝と前記蓋体とで形成する間隙には、融点が350℃以上の固体の金属粉または金属片が充填されていることを特徴とする、冶金炉の水冷フランジ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−77358(P2012−77358A)
【公開日】平成24年4月19日(2012.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−224567(P2010−224567)
【出願日】平成22年10月4日(2010.10.4)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】