説明

冷え性用の皮膚温度測定装置

【課題】冷え性などの皮膚の血行障害を簡便で迅速に測定を可能にする皮膚温度測定装置を提供する。
【解決手段】
皮膚から発せられる赤外線を検出する検出手段20と、検出手段20により検出された信号に基づいて皮膚の温度を演算する演算手段30と、演算手段30により演算された皮膚の温度を表示する表示手段40と皮膚温度を記憶蓄積する記憶手段とを有する皮膚温度測定装置10において、躯幹部の皮膚温を記憶手段に記憶した後、末梢部の皮膚温を測定し、表示手段40に、躯幹部の温度と末梢部の温度の差を表示する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、躯幹部の皮膚温度と冷えが生じている末梢部の皮膚温度の差を測定することによる冷え性の程度を客観的に測定する皮膚温度測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
冷え性は、更年期を迎えた婦人だけでなく、若い女性にも増えてきている。このような「冷え」は、古くから東洋医学の対象とされ、漢方治療、鍼、灸などが施されてきた。
近年では、冷えは万病のもとであるという認識が高まり、西洋医学も冷えに目を向けるようになっている。そして、冷えは末梢循環障害であるという認識に基づいて、血行改善効果を得るために、低反応レベルレーザ治療機や直線偏光近赤外線治療機などの光線療法機器が利用され始めている。
しかし、冷え性は患者の自覚症状を頼りに診断されていたので、光線療法における光の生体への照射部位が適切でない場合もあった。さらに、冷え性の治療を施しても、状態が改善していることが客観的に判定できず、治療を継続するというモチベーションが得られないことも多かった。
このように、冷えは患者の自覚症状が診断の拠り所とされていたが、冷えが発症し易い下肢末端部で実際に皮膚の温度がかなり低いことがわかってきた。そこで、客観的な診断法の1つとしてサーモグラフィを用いた皮膚の温度(以下、「皮膚温」ともいう)の測定が注目されている(たとえば非特許文献1参照)。この非特許文献1では、躯幹部(たとえば腹部)の最高皮膚温と、冷えの発症している末梢部(たとえば足背部)の最低皮膚温との差が6℃以上あれば、冷え性と診断できる確立が高いと報告されている。さらに、冷え性に対して適切な治療を施すとサーモグラフィ上において温度差の縮小が観察されるため、サーモグラフィにより冷え性に対する客観的な診断ならびに治療効果の判定が可能となると記述されている。これは、皮膚温の絶対値は外界温度の影響を受けやすいためにばらつくが、皮膚の異なる2箇所の温度を測定し、その差で冷えを表現すればばらつきが少なくなるからである。しかしながら、サーモグラフィは、冷えの部位と程度を的確に示すことができるものの、装置が高価で、かつ操作が煩雑であるという問題がある。
したがって、安価で操作が簡単な冷え判定用の皮膚温度測定装置が要望される。
【非特許文献1】奥田博之、外3名、「サーモグラフィによる冷え性の診断と治療効果判定について」、産婦人科漢方研究のあゆみ、1993年、10、p.72−77
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は、上述の課題を解決するためになされたものであり、本発明の目的は、冷え性などの皮膚の血行障害を簡便で迅速に測定を可能にする皮膚温度測定装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明の目的は、下記する手段により達成される。
(1)皮膚から発せられる赤外線を検出する検出手段と、
該検出手段により検出された信号に基づいて皮膚の温度を演算する演算手段と、該演算手段により演算された皮膚の温度を表示する表示手段と該皮膚温度を記憶蓄積する記憶手段とを有する皮膚温度測定装置において、躯幹部の皮膚温を該記憶手段に記憶した後、末梢部の皮膚温を測定し、該表示手段に、躯幹部の温度と末梢部の温度の差を表示することを特徴とする冷え性測定用の皮膚温度測定装置。
(2)前記演算手段により末梢部の皮膚温度がN(Nは2以上の整数)回演算された場合、前記表示手段は、記憶された躯幹部の温度とN回目の末梢部の温度の差を表示し、記憶された躯幹部の温度と(N−1)回目以前の末梢部の温度との差を表示しないことを特徴とする(1)に記載の冷え性用の皮膚温度測定装置。
(3)前記演算手段により演算されたN回目の末梢部の温度と記憶されている躯幹部の温度の差がある値以上になると、音声、文字、文字の色、背景色の変化、ランプ点滅のいずれかにより警告が発せられることを特徴とする(1)あるいは(2)に記載の冷え性用の皮膚温度測定装置。
(4)前記記憶手段は取り外し可能な記憶媒体からなることを特徴とする(1)乃至(3)のいずれかに記載の冷え性用の皮膚温度測定装置。
(5)前記赤外線を検出する検出手段の中央にはレーザマーカ照射用のレーザ素子が設けられ、該レーザマーカが通過するための通過口が開けられていることを特徴とする(1)乃至(4)のいずれかに記載の冷え性用の皮膚温度測定装置。
(6)躯幹部の皮膚から発せられる赤外線を検出手段にて検出し、その検出された信号に基づいて温度を演算手段にて演算して、該躯幹部皮膚温度として記憶手段に記憶する工程と、末梢部の皮膚から発せられる赤外線を該検出手段にて検出し、その検出された信号に基づいて温度を該演算手段にて演算する工程と、該演算された末梢部皮膚温度と該記憶された躯幹部皮膚温度との差を計算する工程と、該差を表示する工程とからなる冷え性用皮膚温度測定装置の作動方法。
【発明の効果】
【0005】
本発明によれば、冷え性などの皮膚の血行障害を簡便で迅速に測定可能となる。すなわち、本発明は比較的温度が高温で外界の温度に影響しにくく安定している躯幹部の皮膚温度と外界の温度で影響されやすくまた冷えが生じている末梢部の皮膚温度の差を計測しようとするもので、冷えの症状が存在する部位と冷えの程度を客観的かつ簡便に判定することができる。また、躯幹部の温度は1回測定しておけば、以後の測定は末梢部のみで温度差が表示されるので簡便である。このように、治療前と治療後に皮膚温の測定を簡便に行うことができるので、治療効果がすぐに確認でき、治療継続のモチベーションが上がる利点がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態を説明する。
図1は、本発明の一実施形態である皮膚温度測定装置の全体構成を示す図である。図1に示すように、皮膚温度測定装置10は、使用時に皮膚2の表面に対向させられるヘッド部12と、使用者が握るためのグリップ部14とから構成されている。
皮膚温度測定装置10は、皮膚2から発せられる赤外線を検出する検出手段としての赤外線検出センサ20と、赤外線検出センサ20により検出された信号に基づいて皮膚2の温度を演算する演算手段としての機能を有する制御部30と、制御部30により演算された皮膚2の温度を表示する表示部40を有している。さらに、測定した皮膚温度などのデータを保存する保存部50を有している。また、測定部位が認識できるようにヘッド部12にはレーザ素子60(波長650nm、出力1mW以下)を装着し、レーザマーカ62が赤外線検出センサ20の中心部より照射するように透過口64を有している。
赤外線検出センサ20は、ヘッド部12の下方中央部に配置される。この赤外線検出センサ20は、人の皮膚2などの生体から放出された赤外線を受容し、受容した赤外線の強度に応じた信号を出力する。
制御部30は、皮膚温などの各種演算と、装置各部の制御とを行う。制御部30は、たとえばCPU、メモリ、専用の電気回路などから構成される。なお、グリップ部14には、電力を供給するための図示しない電源(電池)が内蔵されている。
表示部40は、たとえば液晶パネルである。この表示部40は、たとえば図3に示すように、末梢部の皮膚温とあらかじめ測定しておいた躯幹部との温度の差を同時に表示することができる。冷えは外界の温度により影響を受けるので測定時の環境温度(例えば室温)を加えて表示しても良い。より小型化を考慮すれば表示部40は温度差のみ表示してもよい。
【0007】
図4は皮膚温度測定装置10の制御に関する構成を示す概略ブロック図である。図4に示すように、赤外線検出センサ20は、制御部30に接続されている。赤外線検出センサ20からの検出信号は、制御部30に入力される。表示部40および保存部50もまた制御部30に接続されている。制御部30は表示部40および保存部50の動作を制御するための信号を出力する。
【0008】
次に、皮膚温度測定装置の使用方法(作動方法)について説明する。
皮膚温度測定装置10には図には示さないが躯幹部温度測定と末梢部温度測定の2点切り替えスイッチが設けられている。
まず、スイッチを躯幹部温度測定にして、躯幹部(たとえば腹部)の皮膚2に皮膚温度測定装置10のヘッド部12を近接ないし接触させ、図示しない温度測定スイッチを押す。制御部30は、赤外線検出センサ20により検出された信号に基づいて腹部皮膚温を演算する。すなわち、躯幹部の皮膚2から発せられる赤外線を検出手段である赤外線検出センサ20により検出し、その検出された信号に基づいて温度を演算手段によって演算する。演算された温度は腹部(躯幹部)皮膚温として、記憶手段であるメモリに記憶される。次いで、制御部30は、演算結果を表示するように表示部40に指令を出し、表示部40に演算された腹部皮膚温が表示される。この躯幹部の記憶された温度はクリアボタンを押さないかぎり消去されない。続いて、スイッチを末梢部温度測定に切り替えて、患者が冷えを自覚している末梢部(たとえば足背部)の皮膚2に皮膚温度測定装置10のヘッド部12を近接ないし接触させ、図示しない温度測定スイッチを押す。制御部30は、赤外線検出センサ20により検出された信号に基づいて末梢部皮膚温を演算する。すなわち、末梢部の皮膚から発せられる赤外線を検出手段により検出して、その検出された信号に基づいて温度を演算手段により演算する。演算された末梢部皮膚温は、メモリに記憶される。制御部30は、演算された温度と記憶された躯幹部皮膚温度との差を計算する。
次いで、制御部30は、演算結果を表示するように表示部40に指令を出す。表示部40には、演算された末梢部皮膚温とあらかじめ記憶されていた躯幹部の温度との差が表示される。2つの温度の差により、冷えの症状を客観的にばらつきを少なくして簡便に判定することができる。
2つの温度の差がたとえば6℃などの所定値以上の場合、表示部40はさらに、冷えの症状が存在する可能性が高いことを警告するための所定の表示を行う。所定の表示を行う方法としては、たとえば「冷え」などの文字や音声を付加したり、温度の差をたとえば赤色で表示したり、背景色を青色にしたり、点滅信号がついたりする方法がある。
【0009】
さらに、患者が冷えを自覚している別の末梢部の皮膚に皮膚温度測定装置10のヘッド部12を近接ないし接触させ、図示しない温度測定スイッチを押すと、制御部30は、赤外線検出センサ20により検出された信号に基づいて別の末梢部皮膚温を演算する。演算された末梢部皮膚温は、メモリに記憶される。このように末梢部皮膚温が所定条件下でN(Nは2以上の整数)回演算された場合、表示部40は、N回目に演算された末梢部温度と、記憶されている躯幹部の温度との差を表示し、(N−1)回目以前(1回目は除く)に演算された各温度を表示しない。換言すれば、別の末梢部皮膚温が演算された場合、表示部40において、最初に演算された末梢部皮膚温とそれに基づく温度差の表示が消え、新たに演算された別の末梢部皮膚温とそれに基づく温度差が表示される。これにより、表示部40の表示領域が小さくても必要なデータの表示が可能である。ただし、末梢部皮膚温が複数表示されるように構成されていてもよい。
このような操作が繰り返されることにより、腹部と所定値以上の温度差のある部位を把握することができる。なお、図示しないクリアボタンを押すことにより、躯幹部皮膚温の演算から再度実行することが可能である。
【0010】
また、患者が、腹部と最も温度差のある部位を検知したら、記録指示ボタンを押す。そうすれば、測定した日時と各温度および温度差が皮膚温度測定装置10に装着された保存部50(例えば、メモリーカードのような記憶媒体)に記憶蓄積される。この保存部50を取り出し、コンピューターに接続すれば経時的な温度変化をグラフなどで読みとることが可能となる。
【0011】
このように本実施形態によれば、冷え性などの皮膚の血行障害を簡便で迅速に測定可能となる。
すなわち、本実施形態は比較的温度が高温で外界の温度に影響しにくく安定している躯幹部の温度と外界の温度で影響されやすくまた冷えが生じている末梢部の温度の差を計測しようとするもので、冷えの症状が存在する部位と冷えの程度を客観的かつ簡便に判定することができる。また、躯幹部の温度は1回測定しておけば、以後の測定は末梢部のみで温度差が表示されるので簡便である。
しかも、治療前と治療後に皮膚温の測定を簡便に行うことができるので、治療効果がすぐに確認でき、治療継続のモチベーションが上がる利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の一実施形態である冷え性用の皮膚温度測定装置の全体構成を示す図である。
【図2】図1に示される皮膚温度測定装置の底面図である。
【図3】図1に示される皮膚温度測定装置の平面図である。
【図4】皮膚温度測定装置の制御に関する構成を示す概略ブロック図である。
【符号の説明】
【0013】
10 皮膚温度測定装置、
2 皮膚、
12 ヘッド部、
14 グリップ部、
20 赤外線検出センサ、
30 制御部、
40 表示部、
60 レーザ素子。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
皮膚から発せられる赤外線を検出する検出手段と、
該検出手段により検出された信号に基づいて皮膚の温度を演算する演算手段と、
該演算手段により演算された皮膚の温度を表示する表示手段と該皮膚温度を記憶蓄積する記憶手段とを有する皮膚温度測定装置において、
躯幹部の皮膚温を該記憶手段に記憶した後、末梢部の皮膚温を測定し、該表示手段に、躯幹部の温度と末梢部の温度の差を表示することを特徴とする冷え性測定用の皮膚温度測定装置。
【請求項2】
前記演算手段により末梢部の皮膚温度がN(Nは2以上の整数)回演算された場合、前記表示手段は、記憶された躯幹部の温度とN回目の末梢部の温度の差を表示し、記憶された躯幹部の温度と(N−1)回目以前の末梢部の温度との差を表示しないことを特徴とする請求項1に記載の冷え性用の皮膚温度測定装置。
【請求項3】
前記演算手段により演算されたN回目の末梢部の温度と記憶されている躯幹部の温度の差がある値以上になると、音声、文字、文字の色、背景色の変化、ランプ点滅のいずれかにより警告が発せられることを特徴とする請求項1あるいは2に記載の冷え性用の皮膚温度測定装置。
【請求項4】
前記記憶手段は取り外し可能な記憶媒体からなることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の冷え性用の皮膚温度測定装置。
【請求項5】
前記赤外線を検出する検出手段の中央にはレーザマーカ照射用のレーザ素子が設けられ、該レーザマーカが通過するための通過口が開けられていることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の冷え性用の皮膚温度測定装置。
【請求項6】
躯幹部の皮膚から発せられる赤外線を検出手段にて検出し、その検出された信号に基づいて温度を演算手段にて演算して、該躯幹部皮膚温度として記憶手段に記憶する工程と、
末梢部の皮膚から発せられる赤外線を該検出手段にて検出し、その検出された信号に基づいて温度を該演算手段にて演算する工程と
該演算された末梢部皮膚温度と該記憶された躯幹部皮膚温度との差を計算する工程と、
該差を表示する工程とからなる冷え性用皮膚温度測定装置の作動方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−247126(P2006−247126A)
【公開日】平成18年9月21日(2006.9.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−67713(P2005−67713)
【出願日】平成17年3月10日(2005.3.10)
【出願人】(000109543)テルモ株式会社 (2,232)
【Fターム(参考)】