説明

冷凍チャック装置

【課題】特定の支持方法に必要な突起だけを高く形成した多数の突起を有するチャックに試料を載置し、重力によって変形した試料裏面とチャック間に液体を供給した後、突起と試料裏面間に存在する液体のみを凝固することにより、凝固時に膨張する液体によって薄板の変形を生じさせることなく、重力で変形した状態のまま薄板を固着することができる冷凍チャック装置を提供する。
【解決手段】チャックプレート表面5の上面に、試料を特定の支持方法で支持するために設けられた試料を支承する、高さの高い突起1'および1"と、試料が重力により変形したさいに、突起表面と接触しない高さをもつ上記高さの高い突起よりも低く形成された高さの低い突起1を形成し、この多数の高さの高い突起1’、1”と高さの低い突起1の上面と試料12の裏面間に存在する液体6’、6”、6のみを凝固して試料を固着する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリコンウエハや液晶マスク基板などの薄板を固定して平面加工等を行う加工装置において、試料やマスクを固定する装置のチャック装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、加工に用いられている一般的な冷凍チャック装置は、図6(a)、(b)に示すように、チャックプレート表面5に設けられた多数の給排液孔2、これに連結されるチャックプレート表面下に設けられた中心から放射状および環状に延びた液体給排液管3、およびチャックプレート表面上に供給される液体を保持する外周壁4からなる冷凍チャックプレート8、このチャックプレート8の側面に設けられた液体給排液孔7から液体を供給する液体供給装置(図示せず)、このチャックプレート8の下部に設けられた不凍液を循環させる冷凍プレート9ならびにこの冷凍プレート9の側面に設けられた不凍液供給・戻り孔10、11を通じて冷凍プレート9に不凍液を供給する冷凍液恒温装置(図示せず)から構成される。
【0003】
この冷凍チャック装置のチャックプレート表面5の上面に、液体供給装置から液体給排液孔7、液体給排液管3、多数の給排液孔2を通じて、矢印で示す方向に液体を供給した後、シリコンウエハなどの試料12を、試料裏面間と液体表面間に泡を発生させないように載置する。つぎに、チャックプレート8の下部に設けられた冷凍プレート9に、不凍液供給・戻り孔10、11を通じて冷却された不凍液を冷凍液供給装置から供給する。これによってチャックプレート表面5上の液体は凝固し、試料12は固定される。しかし、通常、不凍液は凝固時に膨張するため試料12が薄板の場合は変形を生じる。
【0004】
一方、薄板を固定する下記特許文献1に記載の冷凍チャック装置は、薄板の変形をできる限り小さくして試料を固定することができる冷却手段と加熱手段を備えている。
【0005】
図7に示す上記従来の冷凍チャック装置30は、テーブル32、冷却手段34、加熱手段36、検知手段38およびコントローラ40からなり、冷却手段34、加熱手段36およびコントローラ40は制御手段43を構成している。テーブル32の表面32Bには試料41が載置され、試料41とテーブル32との隙間には冷凍チャック用の水52が供給されている。
【0006】
テーブル32には流路32Aが形成され、この両端部に連通する流路34A、34Bを通じてクーラ部42から冷媒が送られる。これによりテーブル32は常時冷却状態に維持され、テーブルの表面32Bは一定温度に冷却される。
【0007】
加熱手段36はテーブル32の全域に所定間隔で埋設された複数のヒータ部材44からなり、それぞれドライバ46に独立して電気的に連結されている。ドライバ46はコントローラ40からの信号に基づいて、それぞれのヒータ部材44に電圧を印加し、常時冷却状態に維持されているテーブル32の表面32Bを所定温度に設定する。
【0008】
検知手段38は所定間隔をおいて埋設された複数の温度センサー48からなり、埋設位置のテーブル32の温度を検知する。検知されたテーブル32の温度は温度・電圧変換器50で電圧に変換されて、後述するコントローラ40に入力される。温度・電圧変換器50は入力された検知温度に比例した電圧を出力する。
【0009】
前述したコントローラ40は予め入力されている冷凍チャック用の水52の凝固パターンに基づいてドライバ46に信号を出力する。また、コントローラ40は水52の凝固パターンと温度・電圧変換器50から入力された検知温度に比例した電圧に基づいてドライバ46に信号を出力する。これにより、常時冷却状態に維持されているテーブル32の表面32Bが設定温度に加熱されて、冷凍チャック用の水52が予め入力されている凝固パターンで凝固する。
【0010】
図8(A)、(B)に凝固パターンの好ましい例を示す。図8(A)の凝固パターンは試料41の右端部から水52が凝固を開始して、その凝固が順次左方向に移動するように設定されている。したがって、凝固時の水52の膨張量分を試料41の右側の外部に逃がすことができる。また、図8(B)の凝固パターンは試料41の中央部から水52が凝固を開始して、その凝固が順次試料41の外周方向に移動するように設定されている。したがって、凝固時の水52の膨張量分を試料41の外周から外部に逃がすことができる。したがって、試料41の形状変化を極力小さくすることができる。
【0011】
上記した図8に示す冷凍チャック装置は、冷凍温度を正確にコントロールするために冷却手段と加熱手段の両方を必要とし、且つ、冷却方向もコントロールしなければならないため、きわめて複雑な冷却・加熱機構と制御手段を要し、価格が高騰する欠点があった。また、所定間隔で多数のセンサーや加熱手段を埋め込まなければならなく、ペルチェ素子などを使用する場合には、この間隔をあまり小さくすることは不可能であり、かなりの大面積の液体が同時に凝固することになり、変形を無視できるほど小さくできないという欠点があった。
【0012】
一方、上記問題を解決するために、本特許出願人・発明者による下記特許文献2に記載の冷凍チャック装置では、チャック表面と試料裏面間に供給した液体のうち、多数の突起と試料裏面間に存在する液体のみを凝固することにより、凝固時に発生する液体の膨張による薄板の変形を無視できるほど小さくすることができる冷凍チャック装置が発明された。この冷凍チャック装置は,図9(a)、(b)に示すようにチャックプレート表面5に設けられた多数の給排液孔2、これに連結されるチャックプレート表面下に設けられた平行および垂直に延びた液体給排液管3、およびチャックプレート表面上に液体を保持する外周壁4からなるチャックプレート8、このチャックプレート8の側面に設けられた液体給排液孔7から液体を供給する液体供給装置(図示せず)、このチャックプレート8の下部に設けられた不凍液を循環させる冷凍プレート9ならびにこの冷凍プレート9の側面に設けられた不凍液供給・戻り孔10、11を通じて冷凍プレート9に不凍液を供給する冷凍液恒温装置(図示せず)から構成され、チャックプレート表面5の上面に試料を支承する多数の突起1を形成し、この多数の突起1の上面と試料12の裏面間に存在する液体6(黒色で塗りつぶし)のみを凝固して試料を固着するので、固化時に膨張する液体を、上下方向ではなく、横方向に逃がし、液体給排液孔7から排出することができるので、薄い試料を変形することなく、固着することが可能になる。
【0013】
しかし、このチャックは試料を全突起で均等に支持するため、自由状態において変形なく試料を支持することは可能になるが、特定の支持方法、例えば、矩形試料の両辺で支持した際に生じる重力による変形を維持したまま、それ以外の変形を生じさせることなく固着することは不可能であった。
【特許文献1】特開平6−246567号公報
【特許文献2】特許第4025877号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は上記した従来の問題点に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、特定の支持方法に必要な突起だけを高く形成した多数の突起を有するチャックに試料を載置し、重力によって変形した試料裏面とチャック間に液体を供給した後、突起と試料裏面間に存在する液体のみを凝固することにより、凝固時に膨張する液体によって薄板の変形を生じさせることなく、重力で変形した状態のまま薄板を固着することができる冷凍チャック装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記目的を達成するため、本発明は、図1(a)、(b)、(c)の第1の実施の形態に示すように、チャックプレート表面5に設けられた多数の給排液孔2、これに連結されるチャックプレート表面下に設けられた平行および垂直に延びた液体給排液管3、およびチャックプレート表面上に液体を保持する外周壁4からなるチャックプレート8、このチャックプレート8の側面に設けられた液体給排液孔7から液体を供給する液体供給装置(図示せず)、このチャックプレート8の下部に設けられた不凍液を循環させる冷凍プレート9ならびにこの冷凍プレート9の側面に設けられた不凍液供給・戻り孔10、11やチ ャックの左右両端に設けられた10’、11’および10”、11”を通じて冷凍プレート9に不凍液を供給する冷凍液恒温装置(図示せず)から構成される冷凍チャック装置において、チャックプレート表面5の上面に、試料を特定の支持方法で支持するために設けられた試料を支承する、矩形試料12の左右端に直線状に配置した高さの高い突起1'および1"と、試料が重力により変形したさいに、突起表面と接触しない高さをもつ格子状に配置した上記高さの高い突起よりも低く形成された高さの低い突起1を形成し、この多数の高さの高い突起1’、1”と高さの低い突起1の上面と試料12の裏面間に存在する液体6’、6”、6(黒色で塗りつぶし)のみを凝固して試料を固着する構造を有することを特徴としている。高さの高い突起は、少なくとも1個又は複数個により形成させることができる。
【0016】
図2の(a)、(b)、(c)の第2の実施形態に示すように、第1の実施例に加え、多数の高さの高い突起1’、1”、及び高さの低い突起1と、これらの突起を取り囲む環状突起13の上面と試料12の裏面間に存在する液体を凝固した後、環状突起13と外周壁4に取り囲まれた液体14(灰色で塗りつぶし)を凝固して試料外周を固着することを特徴としている。周辺の固着を確実にするために、ペルチェ素子などからなる液体14の凝固手段15を環状突起13と外周壁4の間の下部に埋め込んでもよい。
【0017】
上記多数の高さの低い突起1は、高さが数10μm〜10mm程度であって、直径が数10μm〜10mm程度の上記冷凍チャックプレートと同質のセラミックス材料、または金属および無機または有機材料のような材料により形成されている。また、上記多数の高さの高い突起1’、1”の直径及び材料は、上記多数の高さの低い突起1と同等であるが、高さの低い突起1は、高さの高い突起1’、1”に対し、数10μm〜数100μm低く形成されている。また、環状突起13は、高さが数10μm〜10mm程度であって、幅が数10μm〜10mm程度の上記冷凍チャックプレートと同質のセラミックス材料、または金属および無機または有機材料のような材料により形成されている。さらに、上記多数の高さの高い突起1’、1”、及び高さの低い突起1は、加工時や真空排気時に薄板が変形しない間隔で形成されており、研磨加工時に利用される冷凍チャックでは、厚さ1mm程度のシリコンウエハに対して、間隔1mm程度のものが使用されている。
【0018】
その上、上記目的を達成するため、本発明は、図3(a)、(b)の第3の実施の形態に示すように、多数の高さの高い突起1’、1”、及び高さの低い突起1もしくは前記環状突起13の上面と試料12の裏面間に存在する凝固した液体以外の液体を、チャックプレート8に連結された給排液孔2と試料端から直線状に延びた液体給排液管3、および液体給排液孔7を通して保留液漕(図示せず)に真空ポンプなどにより排出する手段を有することを特徴としている。これに加え、前記給排液孔2を通して多数の高さの高い突起1’、1”、及び高さの低い突起1の周りに存在する空気を真空排気する手段を併せもつことを特徴としている。
【0019】
また、本発明は、図4の第4の実施形態に示すように、試料12を固着し、これに不要な液体を保留液漕(図示せず)に真空ポンプなどにより排出した後、もしくは、試料12 の固着に不要な液体を保留液漕(図示せず)に真空ポンプなどにより排出し、試料12を載置し、多数の高さの高い突起1’、1”、及び高さの低い突起1もしくは環状突起13の上面と試料12の裏面間に存在する液体を凝固して試料を固着させた後、環状突起13と外周壁4に取り囲まれた領域に液体14(灰色で塗りつぶし)を供給する手段16を有し、凝固して試料12の外周を固着することを特徴としている。
【0020】
上記冷凍チャック装置は、熱伝導し易い材料からなるチャックプレート8の表面5を、前記多数の高さの高い突起1’、1”、及び高さの低い突起1の上面、もしくは環状突起13の上面を除いて熱伝導し難い材料で覆ったことを特徴としている。
また、本発明は、特定の支持方法を達成するために設けられた高さの高い突起1’、1”に対し、それ例外の高さの低い突起1の上面が試料の板厚に応じて重力によって変形する数10μm〜数100μm低く形成されていることを特徴としている。
【0021】
さらに、本発明は、試料左右端に直線状に配置される複数の高さの高い突起1’、1”の代わりに、多角形状,円形状、楕円状、円弧状、もしくは三角形あるいは四角形の頂点、もしくは1点のみに配置された高さの高い突起1’、1”と、それより低いそれらの周囲に配置される高さの低い突起1から構成されることを特徴としている。
【発明の効果】
【0022】
上記本発明においては、チャックプレート表面5上に、多数の高さの高い突起1’、1”、及び高さの低い突起1や環状突起13を設けることによって、試料12との裏面間に存在する液体6の量を多数の突起や環状突起以外のすきまに存在する液体の量と比較してきわめて小さくすることができる。したがって、上記多数の高さの高い突起1’、1”、及び高さの低い突起1や環状突起13と試料12の裏面間に存在する液体6の熱容量は小さくなり、凝固点に到達した液体6は凝固し、試料12を固着する。この時多数の高さの高い突起1’、1”、及び高さの低い突起1や環状突起13の周りの液体は凝固していないので、凝固時に発生する固化による膨張を逃がすことが可能になり、薄板の変形は生じない。横方向に大きな力が発生しない場合には、上記多数の突起上のみの液体を凝固することにより試料12を固着することができる。
【0023】
加工時に試料12の接線方向へ大きな力が発生する場合には、環状突起13と外周壁4の間の液体を凝固することによりさらに強固に試料12を固着することができる。また、上記多数の突起の周りに存在する液体を排液し、冷凍プレート9の温度を降下することにより試料12の固着を完全なものにすることができる。その上で、真空排気を行うことにより試料12の垂直方向の力を増加させることが可能になる。この時、各突起の間隔を試料12の厚さに応じて適切に決めることにより薄板試料においても突起間の変形を限りなく小さくすることができる。
【0024】
さらに、熱伝導し易い材料からなるチャックプレート表面5を、多数の高さの高い突起1’、1”、及び高さの低い突起1、もしくは環状突起13の上面を除いて、熱伝導し難い材料で覆うことにより、この部分に存在する液体の固化を遅らし、上記多数の突起もしくは環状突起13の上面の液体凝固による膨張を逃がすことが可能になる。したがって、重力による変形を維持した状態で、薄板試料の変形を極限まで減少させることができる。同様に、上記多数の突起に対し、環状突起13と外周壁4の間の面積は大きいので、これらの間に存在する液体の凝固を遅らすことができ、試料周辺の変形を抑制することができる。
【0025】
本発明に係わる冷凍チャック装置においては、突起の上面と試料の裏面に挟まれる液体のみを凝着させることにより、薄板試料を重力による変形以外に変形を生じさせないで保持することを可能にしている。環状突起を用いる場合には、加工液などのチャック表面への浸入を防止することができるので、チャック表面汚染を避けることが可能になる。また、突起周りの空気を真空排気することによりチャックの保持能力を高めることができ、凝固点以下の温度の流体を送り込むことにより固着力を高めることも可能になる。さらに、試料外周部に形成した凝固液体により試料接線方向の保持能力を飛躍的に増加させることが可能になる。したがって、実際に適用される支持方法と同じ方法で試料を支持・固定することにより、重力により変形した試料の上面を平面加工することが可能になり、この面を基準に平面真空ピンチャックなどにより平面矯正して、再度平面加工することにより重力場で自由状態において変形のない試料を作製することも可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
図1(a)、(b)、(c)は、本発明に係わる冷凍チャック装置の第1の実施形態を示す平面図とB-B'およびC-C'断面図である。
図に示すように、セラミックスからなるチャックプレート8の上面に、多数の円形断面をもつピン状の微小突起が設けられる。矩形試料の左右端に一定間隔で直線状に配置された微小突起としての高さの高い突起1’、1”は、その間に格子状に配置された微小突起としての高さの低い突起1より高さが高く、且つ、これらの微小突起は加工時や真空排気時に試料12にたわみを生じないように試料12の厚さに応じた間隔にて離散配置されている。
【0027】
また、高さの高い突起1’、1”の高さは、試料がその左右端で支持されたさいに生じる重力による変形によって高さの低い突起1に接触しない高さに形成されている。そのチャックプレート8の表面には試料12を固着する液体を供給する給排液孔2、チャックプレート8の表面下には給排液孔2に連なる矩形状に延びた液体給排液管3が設けられ、液体給排液孔7から液体供給装置(図示せず)を介して試料固着用液体が供給される。このチャックプレート8の表面5に液体が供給された後、冷凍プレート9の左右両端に設けられた不凍液供給・戻り孔10’、11’や10”、11”、およびそれらの間に設けられた不凍液供給・戻り孔10、11を通じて、試料固着用液体の凝固点以下に冷却した不凍液を冷凍液恒温装置(図示せず)から流し、多数の高さの高い突起1’、1”、及び高さの低い突起1と試料12の裏面間に存在する液体6’、6”、6を冷却凝固し試料12を固着する。
【0028】
本実施例では、多数の高さの高い突起1’、1”及び高さの低い突起1と試料12の裏面間に存在する液体のみが凝固するため液体の膨張を容易に逃がすことが可能で,これによる変形は発生せず、重力による変形を維持したまま、それ以上変形させることなく薄板試料を固着することが可能になる。また、動作するステージ上に搭載した場合には、不凍液供給・戻り孔10’、11’や10”、11”に不凍液を流した後に、不凍液供給・戻り孔10、11に不凍液を流すことにより、突起本数の少ない特定の支持点における固着が先に、且つ、短時間で行なわれるので、全体を固着した後でステージを動作させるのと比較して無駄な待ち時間を減らすことができる。
【0029】
図2(a)、(b)、(c)は、本発明に係わる冷凍チャック装置の第2の実施形態を示す平面図とB-B'およびC-C'断面図である。
図に示すように、実施例1に加えて、多数の高さの高い突起1’、1”及び高さの低い突起1を取り囲む環状突起13とこの環状突起13と外周壁4の間に液体を供給する給排液孔2が付加されている。
本実施例では、多数の上記高さの高い突起1’、1”及び高さの低い突起1を取り囲む環状突起13と外周壁4間の環状領域に存在する全ての液体を凝固させることによって、突起と試料裏面間の凝固面積と比較してきわめて大きな領域を凝固させることになるので、加工で発生する接線方向力に対してきわめて強い固着力となる。
【0030】
さらに、ペルチェ素子などの冷却手段15が環状領域下に設けられている場合には、この環状領域に存在する液体14の凝固は、多数の高さの高い突起1’、1”及び高さの低い突起1と試料12の裏面間の液体6が凝固した後に、冷却することができるので、薄板を重力による変形状態のまま、それ以外の変形を生じさせることなく、試料外周を確実に強固な力で固着させることができる。この固着は、図に示すように液体の量を増やすことにより試料12を埋め込むようにもできるので、接線方向力に対しきわめて強大な固着力となる。
【0031】
図3(a)、(b)は、本発明に係わる冷凍チャック装置の第3の実施形態を示す断面図である。
図に示すように、実施例1、2における不要な液体を給排液孔2、液体給排液管3、液体給排液孔7を通して、保留液漕(図示せず)に真空ポンプなどを用いて排液することによって不要な液体の凝固により発生する試料12の変形を無くし、且つ、冷凍プレートの温度を下げることによって試料12との固着力を一層高めることが可能になる。それと同時に、図3(b)の実施例の場合には、試料12に対し垂直方向の固着力が弱い場合に、真空排気による真空力によって固着力を高めることができる。その上、環状突起13によって加工時に生じる加工液の浸入を防ぐことになるので、チャック表面の汚染をなくすことができる。
【0032】
図4は、本発明に係わる冷凍チャック装置の第4の実施形態を示す正断面図である。
図に示すように、実施例2(b)に加えて、環状突起13と外周壁4間の環状領域に凝固させる液体を供給する手段16を設けたものであり、供給した液体14の凝着により実施例2の場合と同じ効果を得ることが可能になる。
【0033】
図5は、本発明に係わる冷凍チャック装置の第5の実施形態を示す突起の拡大図である。図に示すように、多数の高さの高い突起1’、1”及び高さの低い突起1や環状突起13を含むチャックプレート8は熱伝導の大きい材料で製造されており、凝固した液体を形成する面、すなわち多数の高さの高い突起1’、1”及び高さの低い突起1や環状突起13の上面、および環状突起13と外周壁4に囲まれる環状領域を除く領域は熱伝導の悪い材料で覆われている。このことにより多数の高さの高い突起1’、1”及び高さの低い突起1や環状突起13の上面では、液体が早めに凝固し、そのさい周りには多量の液体があるので、凝固した液体が膨張しても、試料12に重力による変形以外に変形を生じさせないで固着させることができる。
【0034】
なお、上述実施の形態においては、突起としてピン状の微小突起により高さの高い突起1’、1”及び高さの低い突起1を設けたが、突起として断面が矩形等の微小突起を設けてもよい。また、上述実施の形態においては、特定の支持方法として、矩形試料を高さの高い突起1’、1”により左右両端で支持する方法についてのみ説明したが、支持方法として多角形状,円形状、楕円状、円弧状、もしくは三角形あるいは四角形の頂点、もしくは極端な場合は1点で高さの高い突起により支持する方法の場合にも、本方法を適用できることは言うまでもない。
【0035】
また、上記実施例では、突起上部の液体を凝固後に、それ以外の部分にある液体を排液したが、液体をチャック吸着面に供給した後、多数の突起や環状突起上部以外の液体を排液し、その後で多数の突起や環状突起上部の液体を凝固する手順をとってもよい。さらに、上記実施例では、液体を供給する溝と排液する溝、ならびに空気を真空排気する溝は液体給排液管を共有する場合について述べたが、これらは個別に設けてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】(a)、(b)、(c)は本発明の第1の実施形態に係る冷凍チャック装置の一実施例を示す平面図および正断面図と横断面図である。
【図2】(a)、(b)、(c)は本発明の第2の実施形態に係る冷凍チャック装置の一実施例を示す平面図および正断面図と横断面図である。
【図3】(a)、(b)は本発明の第3の実施形態に係る冷凍チャック装置の一実施例を示す正断面図である。
【図4】は本発明の第4の実施形態に係る冷凍チャック装置の一実施例を示す正断面図である。
【図5】は本発明の第5の実施形態に係る冷凍チャック装置の一実施例を示す突起の拡大図である。
【図6】(a)、(b)は従来の冷凍チャック装置の一実施例を示す平面図および正断面図である。
【図7】は従来の冷凍チャック装置の一実施例を示す正断面図である。
【図8】(a)、(b)は従来の冷凍チャック装置において、冷却により試料を変形させることなく液体を凝固させる凝固パターンである。
【図9】(a)、(b)は突起上の液体のみを凝固させる冷凍チャック装置の一実施例を示す平面図および正断面図である。
【符号の説明】
【0037】
1…高さの低い突起、1’,1”…高さの高い突起、2…給排液孔、3…液体給排液管、4…外周壁、5…チャックプレート表面、6、6’、6”…凝固した液体、7…液体給排液孔、8…チャックプレート、9…冷凍プレート、10、10’、10”…供給孔、11、11’、11”…戻り孔、12…試料、13…環状突起、14…環状領域の凝着液体、15…冷却手段、16…液体供給手段
30…冷凍チャック装置、32…テーブル、32B…テーブルの表面、32A、34A、34B…流路、34…冷却手段、36…加熱手段、38…検知手段、40…コントローラ、41…ワーク、41…クーラ部、43…制御手段、44…ヒータ部材、46…ドライバ、48…温度センサー、50…温度・電圧変換器、52…冷凍チャック水

【特許請求の範囲】
【請求項1】
凝固させた液体を介して試料を固着するためのチャックプレートと、この上面に凝固した液体を形成するための液体を供給する液体供給手段と、この液体供給手段によって前記チャックプレート上に供給された液体を冷凍して、凝固した液体を形成する冷凍手段とを具備するチャック装置において、前記チャックプレートは上面に,少なくとも1個又は複数個の高さの高い突起と,該高さの高い突起よりも低く形成された複数個の高さの低い突起をもち、これら突起の上面と突起の回りに前記液体供給手段によって前記液体を送り込み、前記チャックプレートの下部に配置された前記冷凍手段によって、前記高さの高い突起上面と試料裏面間に存在する前記液体と,前記高さの低い突起上面と試料裏面間に存在する前記液体を冷却・凝固させることにより、これら突起上面と試料裏面間に存在する液体のみを凝固して試料を固着する構造を有することを特徴とする冷凍チャック装置。
【請求項2】
請求項1に記載の冷凍チャック装置において、前記高さの高い突起及び高さの低い突起に加え、これら突起全体を取り囲む1個の環状突起を有し、前記高さの高い突起上面と試料裏面間に存在する前記液体,および前記高さの低い突起上面と試料裏面間に存在する前記液体を凝固して試料を固着した後,前記環状突起の上面と試料裏面・側面間に存在する液体,および環状突起とチャックプレート表面の外周縁に沿って突設された外周壁に取り囲まれた溝に存在する液体を凝固して試料外周を固着する構造を有することを特徴とする冷凍チャック装置。
【請求項3】
請求項1に記載の冷凍チャック装置において、前記高さの高い突起及び前記高さの低い突起の上面と試料裏面間に存在する凝固した液体以外の液体を、チャックプレートに連結された給排液孔を通して保留液漕に排出する手段を有することを特徴とする冷凍チャック装置。
【請求項4】
請求項2に記載の冷凍チャック装置において、前記高さの高い突起及び前記高さの低い突起と試料裏面間,前記環状突起の上面と試料裏面・側面間および環状突起とチャックプレート表面の外周縁に沿って突設された前記外周壁に取り囲まれた溝に存在する凝固した液体以外の液体を、チャックプレートに連結された給排液孔を通して保留液漕に排出する手段を有することを特徴とする冷凍チャック装置。
【請求項5】
請求項2に記載の冷凍チャック装置において、前記高さの高い突起及び前記高さの低い突起の上面と試料裏面間に存在する凝固した液体以外の液体をチャックプレートに連結された給排液孔を通して保留液漕に排出した後、前記環状突起とチャックプレート表面の外周縁に沿って突設された前記外周壁に取り囲まれた領域に液体を供給し、この外周壁に取り囲まれた領域に供給された液体を凝固して試料外周を固着する手段を有することを特徴とする冷凍チャック装置。
【請求項6】
請求項4又は5に記載の冷凍チャック装置において、試料を固着するために不必要な液体を保留液漕に排出し、前記環状突起の上面と試料裏面・側面間および前記環状突起とチャックプレート表面の外周縁に沿って突設された前記外周壁に取り囲まれた溝に存在する液体を凝固した後,給排液孔を通して全ての突起の周りに存在する空気を真空排気する手段を併せもつことを特徴とする冷凍チャック装置。
【請求項7】
請求項6に記載の冷凍チャック装置において、試料を固着した後、給排液孔を通して全ての突起の周りに凝固点以下の温度の流体を供給する手段を有することを特徴とする冷凍チャック装置。
【請求項8】
チャックプレート表面を、前記高さの高い突起及び前記高さの低い突起および前記環状突起の上面を除いてチャックプレート材料よりも熱伝導し難い材料で覆ったことを特徴とする上記請求項2、4乃至7のいずれか1項に記載の冷凍チャック装置。
【請求項9】
前記高さの高い突起が,多角形状,円形状、楕円状、円弧状、もしくは三角形あるいは四角形の頂点、もしくは1点のみに配置されたことを特徴とする請求項1乃至8のいずれか1項に記載の冷凍チャック装置。
【請求項10】
前記高さの高い突起が、直線状に離れて配列された2列の複数の突起により形成され、前記高さの低い突起が、2列の複数の高さの高い突起の間に格子状に複数配列されていることを特徴とする請求項1乃至8のいずれか1項に記載の冷凍チャック装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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