説明

冷却液のリサイクル装置及び方法

【課題】安価で、かつ高品質の使用済み冷却液の再生が可能となる、使用済み冷却液のリサイクル方法および装置を提供する。
【解決手段】本発明の、水と、有機カルボン酸を含む防錆剤と、エチレングリコールと、を含む、使用済み冷却液のリサイクル方法は、冷却液のpHを少なくとも5以下に調整する工程と、ろ過または溶媒抽出の少なくとも一方により、有機カルボン酸を分離回収する工程と、を有する。冷却液に混入した油分を除去する工程S100を更に有してもよい。また、有機カルボン酸は、脂肪族カルボン酸と、芳香族カルボン酸と、を含み、脂肪族カルボン酸をろ過により回収する工程S104と、芳香族カルボン酸を溶媒抽出により回収する工程S106と、を含んでもよい。好ましくは、pHを6〜8に調整する工程S108と、減圧蒸留により水−エチレングリコール溶液を回収する工程S110と、をさらに有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、使用済み冷却液を再生するリサイクル装置及びリサイクル方法に関し、詳しくは、水、防錆剤およびエチレングリコールを含む、使用済みエンジン冷却液を車両等から回収した後に再生する、リサイクル装置及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
車両等のエンジンを冷却するため、一般にエンジン冷却液が使用されている。このエンジン冷却液には、エンジンの過熱を防止するという主たる機能のみならず、低温状態での凍結防止、冷却液流路への錆や腐食の発生防止といった、二次的な機能も同時に付与されている。この二次的な機能を付与するため、エンジン冷却液として、各種添加剤を水に溶解させたものが使用されている。特に、低温状態での凍結防止のために、グリコール類を、また、錆や腐食の発生防止のために、各種防錆剤を、それぞれ水に溶解させたエンジン冷却液が一般に使用されている。
【0003】
エンジン冷却液に使用されているグリコール類としては、例えばエチレングリコール、プロピレングリコール等が使用され、また防錆剤としては、例えばモリブデン酸塩、硝酸塩、トリアゾール等の無機防錆剤や、例えば、有機カルボン酸などの有機防錆剤が含まれる。有機カルボン酸としては、例えば、安息香酸、p−tert−ブチル安息香酸等の芳香族カルボン酸や、例えば、セバシン酸(デカン二酸、C1018)、ドデカン二酸、オクチル酸等の、脂肪族カルボン酸、等が挙げられる。有機カルボン酸は、水やグリコール類に対する溶解度が低い場合もあるため、例えば、安息香酸ナトリウム等、有機カルボン酸の塩を使用する場合もある。
【0004】
ところで、エンジン冷却液は、エチレングリコールや防錆剤などの各種添加剤が、長期間にわたる使用によって経時的に劣化し、所定の効果を奏することが出来なくなってしまうため、定期的に交換する必要がある。このとき、使用済みのエンジン冷却液は、エンジンの冷却液流路から車両外部に排出される。
【0005】
従来、使用済みのエンジン冷却液は、そのまま、または大量の水で希釈する等の、きわめて簡単な処理のみを行い、外部へと排出されることもあったが、近年、エチレングリコール等のグリコール類の、環境に対する影響が明らかとなるにつれ、環境中にエチレングリコールを含む廃液をそのまま排出せずに処理する方法が採られるようになってきている。このため、使用済みのエンジン冷却液を再生処理する方法及び装置が提案されている。
【0006】
特許文献1には、使用済みのエンジン冷却液中を濃縮し、得られた高濃度のエチレングリコール溶液を再利用する再生装置について開示されている。しかしながら、この再生装置により得られた高濃度のエチレングリコール溶液は、燃料として再利用されるものであり、特許文献1に記載された再生装置は、使用済みのエンジン冷却液を再びエンジン冷却液として再生し利用するものではない。
【0007】
また、特許文献2には、エンジン冷却液等の多価アルコール水溶液に混入した、重金属成分、油および有機汚染物等を除去する、処理方法について開示されている。特許文献2によれば、まず、多価アルコール水溶液のpHが約4〜約7.5に調整される。その後、凝集剤や凝固剤の少なくとも1つを用いた処理により、沈殿した重金属組成物は、ろ過により除去される。また、沈殿せずに溶存した金属イオンは、イオン交換体により、除去される。さらに、油や、エチレングリコールの分解組成物等の有機汚染物は、活性剤などの除去装置により除去される。しかしながら、凝集剤や凝固剤を使用して処理するため、再生処理を行なう度にかえって廃棄量が増大してしまうおそれがある。
【0008】
さらに、特許文献3には、既存の自動車用冷却水再生装置として、蒸留法、イオン交換法等により、冷却水を、水およびエチレングリコールと防錆剤とに分離し、分離された水およびエチレングリコールの混合液に新たな防錆剤を添加して再生する技術について記載されている。
【0009】
【特許文献1】特開平9−29229号公報
【特許文献2】特開平5−96284号公報
【特許文献3】特開2000−93937号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献3に記載された方法のうち、イオン交換法を採用すると、冷却液中の各種添加剤のうち、例えば、防錆剤、金属イオン等のイオン性物質を除去することは可能であるが、複数のイオン性物質が同時に除去されてしまうので、これらを分離回収し、再使用することは困難を極める。また、冷却液中に含まれる除去すべきイオン性物質の量は、イオン交換樹脂の交換能に対して極めて多いため、使用するイオン交換樹脂を頻繁に再生または交換する必要がある。このため、冷却液の再生処理を行なうに当たり、手間やコストが継続して発生する。
【0011】
また、使用済み冷却液中には、一般にエチレングリコールの分解組成物であるギ酸(HCOOH)や、防錆剤として安息香酸を含むことが多い。このギ酸や安息香酸等を含んだ使用済み冷却液を再生する際に蒸留法を採用した場合には、これらが蒸留により得られる水−エチレングリコール溶液とともに、共沸により混入してしまう。このため、蒸留法により使用済み冷却液を再生して得られる水−エチレングリコール溶液は、必ずしも高純度とは言えず、この水−エチレングリコール溶液を使用して再調製された冷却液は、一定の高い品質を維持することが困難であった。
【0012】
本発明は、かかる課題に鑑み、簡単な構成および操作で、安価かつ高品質の使用済み冷却液の再生が可能となる、使用済み冷却液のリサイクル方法および当該リサイクル方法を適用したリサイクル装置を提供する。
【0013】
また、本発明は使用済み冷却液に含まれる防錆剤のうち、特に脂肪族カルボン酸や芳香族カルボン酸を高純度で回収でき、更にこれらを防錆剤として再利用することも可能となる、使用済み冷却液のリサイクル方法および当該リサイクル方法を適用したリサイクル装置を提供する。
【0014】
さらに、本発明は使用済み冷却液に含まれる水−エチレングリコール溶液を、添加剤その他不純物をほとんど含まず、ほぼ一定の品質を維持することが可能となる、使用済み冷却液のリサイクル方法および当該リサイクル方法を適用したリサイクル装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記目的を達成するために、本発明は、水と、有機カルボン酸を含む防錆剤と、エチレングリコールと、を含む、使用済み冷却液のリサイクル装置であって、回収した使用済み冷却液のpHを少なくとも5以下に調整する手段と、ろ過または溶媒抽出の少なくとも一方により、有機カルボン酸を分離回収する手段と、を備える。
【0016】
本発明のリサイクル装置は、必要に応じ、冷却液に混入した油分を除去する手段を更に備えてもよい。
【0017】
本発明のリサイクル装置において、有機カルボン酸は、脂肪族カルボン酸と、芳香族カルボン酸と、を含み、脂肪族カルボン酸は、ろ過により、芳香族カルボン酸は、溶媒抽出により、それぞれ回収されることが好ましい。
【0018】
本発明のリサイクル装置において、脂肪族カルボン酸は、好ましくは、セバシン酸であり、芳香族カルボン酸は、好ましくは、安息香酸である。
【0019】
本発明のリサイクル装置は、有機カルボン酸を分離回収した後、pHを6〜8に調整する手段と、減圧蒸留により水−エチレングリコール溶液を回収する手段と、をさらに備えることが好ましい。
【0020】
また、本発明の、水と、有機カルボン酸を含む防錆剤と、エチレングリコールと、を含む、使用済み冷却液のリサイクル方法は、回収した使用済み冷却液のpHを少なくとも5以下に調整する工程と、ろ過または溶媒抽出の少なくとも一方により、有機カルボン酸を分離回収する工程と、を有する。
【0021】
本発明のリサイクル方法は、必要に応じ、冷却液に混入した油分を除去する工程を更に有してもよい。
【0022】
本発明のリサイクル方法において、有機カルボン酸は、脂肪族カルボン酸と、芳香族カルボン酸と、を含み、脂肪族カルボン酸をろ過により回収する工程と、芳香族カルボン酸を溶媒抽出により回収する工程と、を含むことが好ましい。
【0023】
本発明のリサイクル方法において、脂肪族カルボン酸は、好ましくは、セバシン酸であり、芳香族カルボン酸は、好ましくは、安息香酸である。
【0024】
本発明のリサイクル方法は、有機カルボン酸を分離回収した後、pHを6〜8に調整する工程と、減圧蒸留により水−エチレングリコール溶液を回収する工程と、をさらに有することが好ましい。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、簡単な装置および操作により、手間やコストをあまりかけることなく、使用済み冷却液を用いて高品質の冷却液を再生することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下、本発明の実施の形態について、図面に基づいて説明する。
【0027】
図1は、本発明の実施の形態における使用済み冷却液のリサイクル方法の概略を示すフローチャートである。エンジンの冷却液流路から排出された使用済み冷却液は、排出時に、潤滑油等、エンジン周辺の油分が誤って混入してしまうことも多い。このため、図1に示すように、S100において、使用済み冷却液に混入した油分を除去することが好ましい。使用済み冷却液に混入した油分を除去しないと、後述する減圧蒸留を行なって得られる水−エチレングリコール溶液に、油分が除去されずに混入し、白濁してしまう。
【0028】
S100において行なわれる油分の除去には、使用済み冷却液内に混入した油分を選択的に除去する、油分吸着剤を用いるのが好ましい。S100において、油分吸着剤が添加された使用済み冷却液は、所定時間撹拌を行うと、油分吸着剤による混入した油分の吸着が促進されるので、好適である。
【0029】
混入した油分が、S100で油分吸着剤に吸着され、除去された使用済み冷却液は、S102において、ろ過が行われる。ここでは、S100で添加された油分吸着剤が使用済み冷却液に混入した油分とともに除去される。ろ過する材料については、例えばろ紙、メッシュ、フィルタ等、冷却液との相互作用がないものであればいかなるものを使用してもよい。
【0030】
S102でろ過された使用済み冷却液は、S104において、第1のpH調整が行われる。冷却液は、例えば、硝酸や、硫酸、塩酸等の、酸を用い、pHを約5以下、好ましくは、約3.0〜約4.5、更に好ましくは、約3.8〜約4.2に調整される。このpH領域では、防錆剤である有機カルボン酸のうち、脂肪族カルボン酸が冷却液に溶解することができなくなり、冷却液中に析出する。このため、ろ過により、簡単に冷却液と分離することができる。
【0031】
S104で第1のpH調整およびろ過を行った後のろ液は、S106において、第2のpH調整が行われる。冷却液は、S104と同じ、または異なる酸を用いて、pHを約3.0以下、好ましくは約1.7〜約2.2、更に好ましくは、約1.8〜約2.1に調整される。このpH領域では、芳香族カルボン酸が冷却液に完全に溶解することができなくなり、このため、芳香族カルボン酸の一部が冷却液中に析出し、白濁する。冷却液中の芳香族カルボン酸は、第2のpH調整を行った後、極性の低い有機溶媒を用いて抽出すると、溶媒層に抽出される。
【0032】
S106で第2のpH調整および溶媒抽出を行った後の冷却液層は、S108において、アルカリを用いて中和が行われ、次いで、S110において、減圧蒸留される。このとき、減圧蒸留の際の圧力および温度を適宜調整すると、得られる水−エチレングリコール混合物組成の比率を変更することができる。なお減圧蒸留で得られる留出分のうち、初留分は、エチレングリコールをほとんど含まず、また不純物を含むおそれがあるため、別にすることが好ましい。
【0033】
S110において、減圧蒸留により得られた水−エチレングリコール溶液は、S112において、エチレングリコール濃度が測定される。エチレングリコール濃度の測定には、屈折率計を使用してもよく、また比重測定によるものでもよい。なお、かかる場合には、予め濃度既知の水−エチレングリコール溶液を用意し、濃度の異なる水−エチレングリコール溶液の既知のエチレングリコール濃度と、屈折率または比重との関係を把握または記録しておくことは言うまでもない。またエチレングリコール濃度が測定可能な方法であれば、その他いかなる既知の分析・測定手段を用いてもよい。
【0034】
S112でエチレングリコール濃度を測定した水−エチレングリコール溶液は、S114において、各種添加剤が加えられ、再び冷却液として調製され、再生される。
【0035】
このようにして、使用済み冷却液のリサイクルが終了する。なお、図1に示した一連の工程は、車両1台分の使用済み冷却液をその都度処理してもよいし、数台分をまとめて処理してもよい。また、所定の量を一度に、つまりバッチ毎に処理を行なってもよく、また連続して処理を行なってもよい。
【0036】
図2に、本発明の実施の形態における使用済み冷却液のリサイクル装置100の構成の概略を示す。図2において、使用済み冷却液のリサイクル装置100は、貯留タンク10と、pH調整・溶媒抽出タンク20と、減圧蒸留タンク30と、を含む。
【0037】
車両等のエンジン冷却液流路から回収された使用済み冷却液は、例えば、図示しない配管等を用いて、貯留タンク10に送られる。このとき、使用済み冷却液に含まれる異物や夾雑物を除去するために、ろ過材を使用してろ過してもよい。ろ過する材料については、例えばろ紙、メッシュ、フィルタ等、冷却液との相互作用がないものであればいかなるものを使用してもよい。ろ過材の目開きについては、目開きが約0.03mm〜約0.1mm、好ましくは約0.05〜0.075mm程度のものが使用され、例えば、200メッシュ(目開き0.075mm)のステンレス製メッシュフィルタが好適に使用される。
【0038】
上述したように、使用済み冷却液には、回収される際にエンジン等に付着した潤滑油などの油分が、誤って混入するおそれがある。使用済み冷却液に混入した油分を除去するために、貯留タンク10内に油分を吸着除去する油分吸着剤が添加される。油分吸着剤は、使用済み冷却液を貯留タンク10に送るたびに毎回加えてもよく、また予め貯留タンク10内の使用済み冷却液を分析し、使用済み冷却液に含まれる油分の有無に応じて加えるようにしてもよい。
【0039】
油分吸着剤としては、好ましくは多孔質であって、また溶液中の油分を吸着する性質を備えた、多孔質吸着剤を使用してよい。多孔質吸着剤は、混入した油分の量や、多孔質吸着剤の比表面積や吸着能等にもよるが、処理される使用済み冷却液1リットルに対し、約0.4〜約1.0g、好ましくは約0.5〜約0.7g、更に好ましくは約0.6g添加される。
【0040】
貯留タンク10において、油分吸着剤が添加された使用済み冷却液は、所定時間撹拌を行うと、油分の吸着が促進されるので、好適である。撹拌は、例えばプロペラやマグネティックスターラ等の回転によるものでもよく、また、ポンプ等による冷却液の吐出によるものでもよいが、冷却液および油分吸着剤の少なくとも一部が対流するようにすればよい。撹拌速度は、いかなる速さでも構わないが、少なくとも、油分吸着剤が例えば貯留タンク10の底面や、冷却液の表面等の、ある一箇所にとどまらず、移動する程度の撹拌を行われるよう適宜調整されることが望ましい。撹拌時間は、処理量や液温にもよるが、例えば室温では、好ましくは1分〜10分、より好ましくは2分〜5分程度である。使用済み冷却液に添加する油分吸着剤の形状は、粒状または球状のものが好ましい。また油分吸着剤として、例えば、活性炭、シリケート、ゼオライト、モンモリロナイト、セラミック、ケイソウ土等の多孔質吸着剤が好適に使用されるが、これらは単独で使用してもよく、また2つ以上の多孔質吸着剤を組み合わせて使用してもよい。使用済み冷却液に混入した油分が油分吸着剤に吸着されたことを確認するには、使用済み冷却液表面に発生した、いわゆる油浮き現象の有無を目視により確認するだけでなく、JIS K0102に規定された油測定法による、使用済み冷却液中からの油分検出の有無によっても確認することができる。なお、貯留タンク10で撹拌を行う替わりに、油分吸着剤を充填した配管内に使用済み冷却液を導入し、油分の吸着を行うようにしてもよい。
【0041】
貯留タンク10において油分吸着剤が添加され、混入した油分が吸着除去された使用済み冷却液は、送液路12を介し、ろ過装置15で油分吸着剤のろ過が行われる。ろ過する材料については、例えばろ紙、メッシュ、フィルタ等、冷却液との相互作用がないものであればいかなるものを使用してもよい。ろ過装置15で使用するろ過材の目開きは、多孔質吸着剤が通過しない大きさであればよく、特に限定されない。なお、使用済み冷却液に混入していた夾雑物の除去を、貯留タンク10内に送られる前に予め行わず、ろ過装置15で油分吸着剤とともに除去することとしてもよいが、油分吸着剤を適宜交換または再生して使用する場合の処理が煩雑となることから、油分吸着剤と夾雑物とを同時に除去することはあまり望ましくない。
【0042】
ろ過装置15で油分吸着剤のろ過が行われた使用済み冷却液は、pH調整・溶媒抽出タンク20において、まず、第1のpH調整が行われる。冷却液は、例えば、硝酸や、硫酸、塩酸等の酸を用い、pHを約5以下、好ましくは、約3.0〜約4.5、更に好ましくは、約3.8〜約4.2に調整される。このpH領域では、防錆剤である有機カルボン酸のうち、脂肪族カルボン酸が冷却液中に析出する。
【0043】
pH調整・溶媒抽出タンク20において第1のpH調整を行った使用済み冷却液は、送液路22を介してろ過装置25に送られ、析出した脂肪族カルボン酸が除去される。ろ過装置25で使用するろ過材は、ろ過装置15で使用したものと同じものを使用してもよいが、耐酸性のあるものが好ましい。ろ過装置25によって除去された脂肪族カルボン酸を、水洗、風乾するだけで、高純度の脂肪族カルボン酸を回収することができる。回収、再生された高純度の脂肪族カルボン酸を、例えば、送液路24等を介して図示しない脂肪族カルボン酸回収容器に移してもよい。
【0044】
ろ過装置25を通過したろ液は、再びpH調整・溶媒抽出タンク20に戻され、第2のpH調整が行われる。ここで、冷却液は、第1のpH調整と同じ、または異なる酸を用いて、pHを約3.0以下、好ましくは約1.7〜約2.2、更に好ましくは、約1.8〜約2.1に調整される。このpH領域では、冷却液表面に、芳香族カルボン酸が油状物質として浮遊する。第2のpH調整を行った冷却液を、クロロホルム、イソヘキサン等の、極性の低い有機溶媒を用いて抽出すると、溶媒層と、冷却液層(水層)の2層に分離し、このうち溶媒層に、芳香族カルボン酸が抽出される。そこで、溶媒層のみを分取して送液路26を介して図示しない蒸留装置に送り、蒸留を行うと、溶媒のみが揮発し、芳香族カルボン酸が残るので、これを水洗、風乾することで、高純度の芳香族カルボン酸を回収することができる。なお、このとき使用した低極性溶媒は、回収し再利用することが望ましい。
【0045】
pH調整・溶媒抽出タンク20で第2のpH調整および溶媒抽出を行った後の冷却液層(水層)は、中和が行われる。このとき、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリを用いて、pHを、約6〜約8、好ましくは、約6.5〜約7.5、好適には、約7に調整される。なお、冷却液層の、酸性状態での保管に伴う劣化防止のため、S104で溶媒抽出した後、速やかに中和が行われることが好ましい。
【0046】
pH調整・溶媒抽出タンク20で中和された冷却液層は、送液路28を介して、減圧蒸留タンク30に送られる。減圧蒸留タンク30に送られた中和済み冷却液層は、減圧蒸留が行われる。このときの減圧蒸留タンク30内の圧力は、約1キロパスカル〜約100キロパスカルが好ましく、約10キロパスカルが好適であるが、適宜調整してよく、また、圧力を適宜変化させながら蒸留を行なってもよい。また、減圧蒸留の際の圧力および温度を適宜調整すると、得られる水−エチレングリコール混合物組成の比率を変更することができる。なお、低温条件では、ギ酸等の、エチレングリコール分解組成物が水とともに共沸してしまうので、配管32より得られる初留は、回収せずに廃棄することが好ましい。また、蒸留されない残渣には、無機防錆剤、金属イオン、グリコール酸等が、少量のエチレングリコールとともに含まれている。これらの残渣は、例えば排出管34を介して排出され、廃棄物として処理される。
【0047】
減圧蒸留タンク30において、得られた水−エチレングリコール溶液は、水およびエチレングリコール以外の不純物をほとんど含まない、高純度のエチレングリコール水溶液である。その後、この高純度水−エチレングリコール溶液に、必要な各種添加剤が加えられ、冷却液として再生される。このとき、防錆剤として使用される有機カルボン酸は、送液路24,26を介し、それぞれ回収、再生されたものを用いてもよく、別に準備したものを加えてもよい。また、減圧蒸留により得られた水−エチレングリコール溶液のエチレングリコール濃度が所定の濃度より高い場合には水で希釈され、一方エチレングリコール濃度が所定の濃度より低い場合にはエチレングリコールが新たに追加される。
【0048】
このようにして、使用済み冷却液のリサイクルが終了する。なお、図2に示した使用済み冷却液のリサイクル装置100において、送液路12,22,24,26,28、排出管34等は配管で接続されていてもよく、配管を使用しないで直接所望の容器または次の手段等に移してもよい。またpH調整・溶媒抽出タンク20は、1つのタンクでpH調整と溶媒抽出とを行なう必要もなく、また第1のpH調整と第2のpH調整とを同じタンクで行なう必要もない。さらに、本発明の実施の形態における使用済み冷却液のリサイクル装置100は、必ずしも図2に示した順序に従って再生処理を行なうことを要しない。
【0049】
[実施例1]
実車より使用済みエンジン冷却液(エチレングリコール濃度40重量%に調製したものを使用)を回収し、ステンレス製400メッシュ(目開き0.033mm)フィルタを通じて夾雑物を除いた。この使用済みエンジン冷却液は、pH6.7であり、また、防錆剤として、安息香酸をエンジン冷却液5リットル当たり40.0g(CCOOHとして)含み、またセバシン酸をエンジン冷却液5リットル当たり37.0g(HOOCC16COOHとして)含むことを予め分析により確認した。この、使用済みエンジン冷却液5リットル(約4.89kg)に、シリケートを3g(1リットル当たり0.6g)添加し、10分間撹拌を行った。使用済み冷却液中の、シリケートによる処理前後の油分含量を、JISK 0102に従い、測定した結果および目視による判定結果を表1に示す。表1の結果より、シリケートによる処理によって使用済み冷却液に混入した油分が完全に除去されていることが分かる。
【0050】
【表1】

【0051】
次に、シリケートを除去した使用済み冷却液のpHを、硝酸を用いて4.0に調整した。このとき、冷却液中に結晶が析出したので、これをろ過し、水洗、風乾した。得られた結晶はセバシン酸であり、収量は36.3g(収率約98%)、純度はほぼ100%であった。このように、使用済み冷却液に防錆剤として配合していたセバシン酸を、高収率かつ高純度で回収することができた。
【0052】
次に、セバシン酸を回収した後のろ液に、更に硝酸を加え、pHを2.0に調整した。このとき、冷却液が白濁した。この冷却液に対し、約1.5倍量のクロロホルムを加え、よく震とうさせた。冷却液の層と、クロロホルムの層に分離したので、このうちクロロホルムの層を分取し、蒸留を行うと、白色結晶が得られた。この白色結晶を水で洗浄し、風乾させた。得られた結晶は安息香酸であり、収量は39.2g(収率約98%)、純度はほぼ100%であった。このように、使用済み冷却液に防錆剤として配合していた安息香酸もまた、高収率かつ高純度で回収することができた。
【0053】
クロロホルムを加えて抽出し、溶媒層を分取した後の冷却液層に、水酸化ナトリウムを加え、pHを7.0に調整した。この溶液を、10キロパスカル(kPa)に減圧し、蒸留した。蒸留温度を徐々に上げていき、50℃以下、50〜65℃、65〜100℃、100〜140℃の留出分、をそれぞれ別の容器に取り出し、得られた溶液の組成をそれぞれ分析した。結果を表2に示す。
【0054】
【表2】

【0055】
表2に示すとおり、10kPaにおける減圧条件下で、65〜140℃における留出分には、水およびエチレングリコール以外の成分は含まれていないので、これをそのまま再利用することが可能である。なお、140℃で流出せずに残った残渣には、エチレングリコールの他、リン酸などの無機防錆剤や、金属イオン、エチレングリコールの分解組成物であるグリコール酸、冷却液の着色に用いられている染料等が含まれる。
【0056】
表3に、実施例1において、回収された使用済み冷却液の各成分の収支についてまとめた。表3における数値の単位はgであり、処理した冷却液の総量に対する割合を%標記により併記した。
【0057】
【表3】

【0058】
[実施例2]
夾雑物を除去した使用済み冷却液にシリケートを添加しないことを除いて、後は上述した実施例と同じ操作を行なった。セバシン酸は、実施例同様、高純度のものが得られたが、溶媒抽出の際に、使用済み冷却液に混入していた油状物質が安息香酸とともに溶媒層に抽出されたため、高純度の安息香酸を得ることは出来なかった。一方、減圧蒸留により得られた水−エチレングリコール溶液は、実施例同様、高純度のものであった。
【0059】
[比較例]
上述の実施例で使用したものと同一の使用済みエンジン冷却液5リットルにシリケートを加えて油分を除去したものを、10kPaで減圧蒸留した。表4に示すように、50〜140℃におけるどの留出分にも、得られた水−エチレングリコール溶液に安息香酸が含まれていた。このため、本比較例を利用したリサイクル装置によれば、使用済みエンジン冷却液の劣化の状況に伴い、減圧蒸留により得られる水−エチレングリコール溶液の品質が変化すると考えられる。また、減圧蒸留後の残渣には、実施例において含まれたもののほか、更にセバシン酸も含まれていた。
【0060】
【表4】

【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明は、車両等のエンジン冷却液に限らず、水と、有機カルボン酸と、エチレングリコールと、を含む各種使用済み冷却液のリサイクルに利用することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】本発明の実施の形態における使用済み冷却液のリサイクル方法の概略を示すフローチャートである。
【図2】本発明の実施の形態における使用済み冷却液のリサイクル装置100の構成の概略を示す図である。
【符号の説明】
【0063】
10 貯留タンク、12,22,24,26,28 送液路、32 配管、34 排出管、15,25 ろ過装置、20 pH調整・溶媒抽出タンク、30 減圧蒸留タンク、100 使用済み冷却液のリサイクル装置。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水と、
有機カルボン酸を含む防錆剤と、
エチレングリコールと、
を含む、使用済み冷却液のリサイクル装置であって、
回収した使用済み冷却液のpHを少なくとも5以下に調整する手段と、
ろ過または溶媒抽出の少なくとも一方により、有機カルボン酸を分離回収する手段と、
を備える、リサイクル装置。
【請求項2】
請求項1に記載の使用済み冷却液のリサイクル装置において、
冷却液に混入した油分を除去する手段を更に備える、リサイクル装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の使用済み冷却液のリサイクル装置において、
前記有機カルボン酸は、脂肪族カルボン酸と、芳香族カルボン酸と、を含み、
前記脂肪族カルボン酸は、ろ過により、
前記芳香族カルボン酸は、溶媒抽出により、それぞれ回収される、リサイクル装置。
【請求項4】
請求項3に記載の使用済み冷却液のリサイクル装置において、
前記脂肪族カルボン酸は、セバシン酸であり、
前記芳香族カルボン酸は、安息香酸である、リサイクル装置。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか1項に記載の使用済み冷却液のリサイクル装置において、
有機カルボン酸を分離回収した後、pHを6〜8に調整する手段と、
減圧蒸留により水−エチレングリコール溶液を回収する手段と、
をさらに備える、リサイクル装置。
【請求項6】
水と、
有機カルボン酸を含む防錆剤と、
エチレングリコールと、
を含む、使用済み冷却液のリサイクル方法であって、
回収した使用済み冷却液のpHを少なくとも5以下に調整する工程と、
ろ過または溶媒抽出の少なくとも一方により、有機カルボン酸を分離回収する工程と、
を有する、リサイクル方法。
【請求項7】
請求項6に記載の使用済み冷却液のリサイクル方法において、
冷却液に混入した油分を除去する工程を更に有する、リサイクル方法。
【請求項8】
請求項6または7に記載の使用済み冷却液のリサイクル方法において、
前記有機カルボン酸は、脂肪族カルボン酸と、芳香族カルボン酸と、を含み、
前記脂肪族カルボン酸をろ過により回収する工程と、
前記芳香族カルボン酸を溶媒抽出により回収する工程と、
を含む、リサイクル方法。
【請求項9】
請求項8に記載の使用済み冷却液のリサイクル方法において、
前記脂肪族カルボン酸は、セバシン酸であり、
前記芳香族カルボン酸は、安息香酸である、リサイクル方法。
【請求項10】
請求項6から9のいずれか1項に記載の使用済み冷却液のリサイクル方法において、
有機カルボン酸を分離回収した後、pHを6〜8に調整する工程と、
減圧蒸留により水−エチレングリコール溶液を回収する工程と、
をさらに有する、リサイクル方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−7573(P2007−7573A)
【公開日】平成19年1月18日(2007.1.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−192560(P2005−192560)
【出願日】平成17年6月30日(2005.6.30)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(591125289)日本ケミカル工業株式会社 (25)
【Fターム(参考)】