説明

冷却装置および冷却方法

【課題】真空冷却工程において、被冷却物の突沸を防止しつつ冷却時間の短縮を図り、処理槽内の減圧手段に用いる水や蒸気の使用量の削減を図る。
【解決手段】処理槽内に収容された被冷却物を真空冷却する際、処理槽内を設定圧力P1まで減圧する急冷工程と、この急冷工程よりも減圧能力を低くして処理槽内をさらに減圧する徐冷工程とを順に実行する。前記設定圧力P1は、処理槽内の飽和蒸気温度が被冷却物の温度と等しくなる品温換算圧力P2よりも余裕圧力P3だけ高い圧力に設定され、前記余裕圧力P3は、品温換算圧力P2が低くなる程、小さくなるよう設定される。たとえば、前記設定圧力P1は、品温換算圧力P2の設定比率の圧力に設定される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、食品や食材などの被冷却物を真空冷却する真空冷却装置(真空冷却専用機)の他、被冷却物の真空冷却と冷風冷却とを実行可能な複合冷却装置など、真空冷却機能を有する各種の冷却装置と、そのような冷却装置を用いた冷却方法とに関するものである。
【背景技術】
【0002】
食品や食材(以下、単に食品という)の冷却方法として、真空冷却が知られている。真空冷却とは、食品が収容された処理槽内の気体を外部へ吸引排出して処理槽内を減圧することで、食品からの水分の蒸発を促し、その気化熱により食品の冷却を図る方法である。
【0003】
真空冷却中、処理槽内が減圧されるに伴い、処理槽内の飽和蒸気温度は低下する。その際、処理槽内の飽和蒸気温度が食品の温度を大きく下回ることなどによって、食品が突沸を起こし、食品の外観や風味、歩留りを悪化させるおそれがある。そこで、処理槽内の飽和蒸気温度と食品の温度とを所望の温度差以内に抑えながら圧力を低下させる必要があるが、それには減圧能力の調整が必要となる。
【0004】
ところが、冷却開始当初から減圧能力を制限したのでは、冷却時間が長くかかることになる。そこで、下記特許文献1に開示されるように、処理槽内の飽和蒸気温度が食品の温度と等しくなるか、両温度の差が設定値となるまで、減圧能力を高くして食品の急冷を行い、前記設定値以降は減圧能力を低くして食品の徐冷を行う冷却装置が提案されている。つまり、処理槽内の飽和蒸気温度と食品の温度との差が無くなるか設定値となるまで、減圧能力を高くして食品の急冷を行い、その後に減圧能力を低くして食品の徐冷を行う冷却装置が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−157488号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、処理槽内の飽和蒸気温度が食品の温度と同一になるまで、処理槽内を減圧することは、処理槽内の圧力が食品の品温換算圧力(処理槽内の飽和蒸気温度が食品の温度と等しくなる圧力)を大きく下回るおそれがあり、その場合前述したような不都合を生じる。そこで、突沸による冷却品質の劣化が問題となる食品の冷却においては、処理槽内の飽和蒸気温度と食品の温度との差が設定値になるまで、処理槽内の減圧能力を高くして減圧することになる。
【0007】
具体的には、品温換算圧力よりも余裕圧力だけ高い設定圧力になるまで処理槽内を減圧後、減圧能力を低くして処理槽内をさらに減圧することになる。この場合、前記設定圧力での減圧速度の変更開始から、実際に減圧速度が所望に下がるまでの時間を考慮して、前記余裕圧力が設定される。但し、余裕圧力が品温換算圧力の高低に拘わらず不変であると、余裕圧力が小さすぎて、処理槽内の圧力が品温換算圧力を大きく下回ったり、逆に余裕圧力が大きすぎて、冷却時間が無駄に長くなったりする不都合を生じる。この点につき、以下に具体的に説明する。
【0008】
図3は、処理槽内の減圧開始からの経過時間と処理槽内の圧力との関係を示す図であり、実線は真空冷却開始時における食品の温度が50℃である場合の処理槽内の圧力変化、破線は真空冷却開始時における食品の温度が10℃である場合の処理槽内の圧力変化を示している。
【0009】
まず、真空冷却開始時における食品の温度がたとえば50℃の場合について述べる。この場合、品温換算圧力PAは、飽和蒸気温度が50℃となる飽和蒸気圧力として定義され、123hPaとなる。また、前記余裕圧力PBは、たとえば50hPaに設定される。その結果、前記設定圧力PCは、品温換算圧力PA(=123hPa)に余裕圧力PB(=50hPa)を加算した値として、173hPaに設定される。従って、処理槽内が設定圧力173hPaになるまで処理槽内を減圧後、減圧能力を調整しつつさらに処理槽内は減圧される。これにより、食品の突沸を防止しつつ、迅速な真空冷却が実現される。
【0010】
ところが、余裕圧力PBとして前述のように50hPaを設定した場合に、食品の突沸を防止しつつ迅速な真空冷却が実現されても、それは真空冷却開始時における食品の温度が50℃である場合に限られる。従って、真空冷却開始時における食品の温度が50℃よりも低くなるほど、冷却時間に無駄を生じることになる。たとえば、真空冷却開始時における食品の温度が10℃であるとする。この場合、品温換算圧力PA´は、飽和蒸気温度が10℃となる飽和蒸気圧力として定義され、12.3hPaとなる。そして、この場合も余裕圧力PBとして食品温度50℃の場合と同様に50hPaを用いたのでは、設定圧力PC´は、品温換算圧力PA´(=12.3hPa)に余裕圧力PB(=50hPa)を加算した値として、62.3hPaに設定されることになり、飽和蒸気温度に換算すると37℃相当となる。つまり、品温換算圧力よりも非常に高い圧力から減圧速度が調整されることになり、冷却時間が長くなってしまうのである。
【0011】
このように、真空冷却の開始時における食品の温度は一定とは限らないので、余裕圧力が品温換算圧力の高低に拘わらず不変であると、真空冷却の開始時における食品の温度が低くなるほど、冷却時間に無駄を生じることになる。しかも、たとえば10℃までの真空冷却を図るには、処理槽内の減圧手段として、通常、蒸気エゼクタ、蒸気凝縮用の間接熱交換器、および水封式真空ポンプが用いられるが、冷却時間が長くなれば、真空ポンプに用いる封水、間接熱交換器に用いる冷却用水、および蒸気エゼクタに用いる蒸気量がそれぞれ増加することになる。
【0012】
本発明が解決しようとする課題は、被冷却物の突沸を防止しつつ冷却時間の短縮を図り、処理槽内の減圧手段に用いる水や蒸気の使用量の削減を図ることにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、前記課題を解決するためになされたもので、請求項1に記載の発明は、被冷却物が収容される処理槽と、この処理槽内の気体を外部へ吸引排出して、前記処理槽内を減圧する減圧手段と、減圧された前記処理槽内へ外気を導入して、前記処理槽内を復圧する復圧手段と、前記処理槽内の圧力を検出する圧力センサとを備え、前記処理槽内を設定圧力まで減圧する急冷工程と、この急冷工程よりも減圧能力を低くして前記処理槽内をさらに減圧する徐冷工程とを順に実行可能とされ、前記設定圧力は、前記処理槽内の飽和蒸気温度が前記被冷却物の温度と等しくなる品温換算圧力よりも余裕圧力だけ高い圧力に設定され、前記余裕圧力は、前記品温換算圧力が低くなる程、小さくなるよう設定されることを特徴とする冷却装置である。
【0014】
請求項1に記載の発明によれば、品温換算圧力よりも余裕圧力だけ高い設定圧力になるまで処理槽内を減圧した後、減圧能力を低くしてさらに減圧するに際し、余裕圧力は、品温換算圧力が低くなる程、小さくなるよう設定される。これにより、たとえば、処理槽内に収容される被冷却物の温度が予め分かっているか予測できる場合において、処理槽内の飽和蒸気温度が被冷却物の温度(品温という)と等しくなる品温換算圧力を用いて、それより余裕圧力だけ高い設定圧力まで処理槽内を減圧後、減圧能力を低くすることで、被冷却物の突沸を防止しつつ冷却時間の短縮を図ることができる。そして、冷却時間の短縮を図ることで、処理槽内の減圧手段に用いる水や蒸気の使用量の削減を図ることもできる。また、目標圧力を指定して冷却を行うことができるため、品温センサを挿すことができない被冷却物も取り扱うことができる。
【0015】
請求項2に記載の発明は、前記処理槽内に収容される被冷却物の温度を検出する品温センサをさらに備え、前記品温換算圧力は、前記急冷工程開始時または前記急冷工程中における前記品温センサの検出温度に基づき算出され、前記余裕圧力は、前記品温換算圧力が低くなる程、小さくなるよう設定されることを特徴とする請求項1に記載の冷却装置である。
【0016】
請求項2に記載の発明によれば、品温センサを用いることでより確実に、被冷却物の突沸を防止しつつ冷却時間の短縮を図り、処理槽内の減圧手段に用いる水や蒸気の使用量の削減を図ることができる。
【0017】
請求項3に記載の発明は、前記設定圧力は、前記急冷工程開始時または前記急冷工程中における前記品温センサの検出温度に基づき算出される前記品温換算圧力の設定比率の圧力に設定されることを特徴とする請求項2に記載の冷却装置である。
【0018】
請求項3に記載の発明によれば、設定圧力は、品温換算圧力の設定比率の圧力に設定されることで、余裕圧力は、品温換算圧力が低くなる程小さくなるよう簡易に変更されることになる。
【0019】
請求項4に記載の発明は、前記設定圧力は、前記処理槽内の飽和蒸気温度が前記急冷工程開始時または前記急冷工程中における前記品温センサの検出温度に所定温度を加えた温度と等しくなる圧力に設定されることを特徴とする請求項2に記載の冷却装置である。
【0020】
請求項4に記載の発明によれば、設定圧力は、処理槽内の飽和蒸気温度が品温に所定温度を加えた温度と等しくなる圧力に設定されることで、余裕圧力は、品温換算圧力が低くなる程小さくなるよう簡易に変更されることになる。
【0021】
請求項5に記載の発明は、前記余裕圧力は、前記品温換算圧力が低くなる程、小さくなるよう設定されるか、前記品温換算圧力に拘わらず一定値とされ、前記急冷工程において、前記処理槽内の圧力が前記設定圧力に所定圧力を加えた圧力に到達すると、その時点における減圧速度を演算し、その演算された減圧速度のままで前記設定圧力まで減圧してそこから減圧能力を低くするのでは、前記処理槽内の圧力が前記品温換算圧力を下回ってしまうと判断する場合には、前記設定圧力に到達する前に減圧能力を低くすることを特徴とする請求項2に記載の冷却装置である。
【0022】
請求項5に記載の発明によれば、処理槽内が設定圧力に到達する前に、その時点における減圧速度を演算して、その結果に基づき減圧能力を調整可能とすることで、より確実に、被冷却物の突沸を防止しつつ冷却時間の短縮を図ることができる。
【0023】
さらに、請求項6に記載の発明は、処理槽内に収容した被冷却物の冷却を図る方法であって、前記処理槽内を設定圧力まで減圧する急冷工程と、この急冷工程よりも減圧能力を低くして前記処理槽内をさらに減圧する徐冷工程とを順に含み、前記設定圧力は、前記処理槽内の飽和蒸気温度が前記被冷却物の温度と等しくなる品温換算圧力よりも余裕圧力だけ高い圧力に設定され、前記余裕圧力は、前記品温換算圧力が低くなる程、小さくなるよう設定されることを特徴とする冷却方法である。
【0024】
請求項6に記載の発明によれば、品温換算圧力よりも余裕圧力だけ高い設定圧力になるまで処理槽内を減圧した後、減圧能力を低くしてさらに減圧するに際し、余裕圧力は、品温換算圧力が低くなる程、小さくなるよう設定される。これにより、たとえば、処理槽内に収容される被冷却物の温度が予め分かっているか予測できる場合において、処理槽内の飽和蒸気温度が被冷却物の温度(品温という)と等しくなる品温換算圧力を用いて、それより余裕圧力だけ高い設定圧力まで処理槽内を減圧後、減圧能力を低くすることで、被冷却物の突沸を防止しつつ冷却時間の短縮を図ることができる。そして、冷却時間の短縮を図ることで、処理槽内の減圧手段に用いる水や蒸気の使用量の削減を図ることもできる。また、目標圧力を指定して冷却を行うことができるため、品温センサを挿すことができない被冷却物も取り扱うことができる。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、品温換算圧力よりも余裕圧力だけ高い設定圧力になるまで処理槽内を減圧した後、減圧能力を低くしてさらに減圧するに際し、余裕圧力は、品温換算圧力が低くなる程、小さくなるよう設定される。これにより、たとえば、被冷却物の突沸を防止しつつ冷却時間の短縮を図ることができる。そして、冷却時間の短縮を図ることで、処理槽内の減圧手段に用いる水や蒸気の使用量の削減を図ることもできる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の冷却装置の一実施例を示す概略構成図であり、真空冷却装置に適用した例を示している。
【図2】図1の冷却装置を用いた冷却方法の一例を示す図であり、処理槽内の減圧開始からの経過時間と処理槽内の圧力との関係を示している。
【図3】従来の冷却方法を示す図であり、処理槽内の減圧開始からの経過時間と処理槽内の圧力との関係を示している。
【発明を実施するための形態】
【0027】
つぎに、本発明の実施の形態について説明する。
本発明は、真空冷却機能を有する各種冷却装置に適用される。冷却装置により冷却を図られる被冷却物は、特に問わないが、典型的には食品とされる。そのため、以下においては、被冷却物は食品であるとして説明する。
【0028】
真空冷却とは、処理槽内の気体を外部へ吸引排出して、処理槽内を減圧することで、処理槽内の飽和蒸気温度を低下させ、食品からの水分蒸発を促すことにより、その気化潜熱を利用して処理槽内の食品を冷却することをいう。
【0029】
真空冷却機能を有する装置には、たとえば、真空冷却装置、蒸煮冷却装置、飽和蒸気調理装置、冷風真空複合冷却装置が含まれる。真空冷却装置は、処理槽内を減圧して、処理槽内の食品の真空冷却を図る装置である。蒸煮冷却装置は、蒸気により処理槽内の食品の加熱を図った後、処理槽内を減圧して、処理槽内の食品の真空冷却を図る装置である。飽和蒸気調理装置は、処理槽内の圧力を調整することで、処理槽内の飽和蒸気温度を調整して、所望温度の飽和蒸気により処理槽内の食品の加熱を図る装置であり、加熱調理後には所望により、処理槽内を減圧して、処理槽内の食品の真空冷却を図ることができる装置である。さらに、冷風真空複合冷却装置は、処理槽内の食品へ冷風を吹き付けることによる冷風冷却と、食品を収容した処理槽内を減圧することによる真空冷却とを図ることができる装置である。
【0030】
真空冷却装置、蒸煮冷却装置、飽和蒸気調理装置および冷風真空複合冷却装置などの内、いずれの場合でも、真空冷却機能に関する構成および運転は同様である。そこで、以下の実施例では、真空冷却機能のみを有する真空冷却装置について説明するが、蒸煮冷却装置、飽和蒸気調理装置および冷風真空複合冷却装置などにも同様に適用可能である。
【実施例】
【0031】
以下、本発明の具体的実施例を図面に基づいて詳細に説明する。
図1は、本発明の冷却装置の一実施例の使用状態を示す概略構成図であり、一部を断面にして示している。本実施例の冷却装置は、真空冷却装置である。
【0032】
この冷却装置1は、冷却を図りたい食品2が収容される処理槽3と、この処理槽3内の気体を外部へ吸引排出して処理槽3内を減圧する減圧手段4と、減圧された処理槽3内へ外気を導入して処理槽3内を復圧する復圧手段5と、処理槽3内の圧力を検出する圧力センサ6と、処理槽3内に収容される食品2の温度(品温)を検出する品温センサ7と、これらセンサ6,7の検出信号などに基づき前記各手段4,5を制御する制御手段8とを備える。
【0033】
本実施例の処理槽3は、正面へ開口して中空部を有する処理槽本体9と、この処理槽本体9の開口部を開閉する扉(図示省略)とを備えた金属製の缶体である。処理槽3内への食品2の収容は、処理槽3に出し入れされるワゴン(図示省略)を介して行ってもよいし、図示例のように処理槽3内に棚板10を設けることで対応してもよい。また、食品2は、適宜、ホテルパンなどの容器11に入れて、処理槽3内に収容される。処理槽3内に食品2を収容した後、扉を閉じることで処理槽本体9の中空部は密閉される。
【0034】
処理槽3には、前述したとおり、圧力センサ6と品温センサ7とが設けられる。本実施例の品温センサ7は、測温部を食品2に差し込んで、食品2の温度を検出する。
【0035】
処理槽3には、処理槽3内の空気や蒸気を外部へ吸引排出して、処理槽3内を減圧する減圧手段4が接続される。本実施例では、処理槽3からの排気路12には、処理槽3の側から順に、蒸気エゼクタ13、熱交換器14、逆止弁15および水封式の真空ポンプ16が設けられる。
【0036】
蒸気エゼクタ13は、吸入口17が真空弁18を介して処理槽3に接続される。蒸気エゼクタ13には、入口19から出口20へ向けて、給蒸路21からの蒸気が噴出可能とされる。真空弁18を開けた状態で、入口19から出口20へ向けて蒸気を噴出させることで、処理槽3内の気体も出口へ向けて吸引排出される。給蒸路21に設けた給蒸弁22の開閉を操作することで、蒸気エゼクタ13の作動の有無を切り替えることができる。
【0037】
熱交換器14は、排気路12内の蒸気を冷却し凝縮させる。そのために、熱交換器14には、熱交給水弁23を介して水が供給され排出される。排気路12内の蒸気を予め凝縮させることで、その後の真空ポンプ16の負荷を軽減して、処理槽3内の減圧を有効に図ることができる。
【0038】
水封式の真空ポンプ16は、周知のとおり、封水と呼ばれる水が供給されて作動される。そのために、真空ポンプ16には、封水給水弁24を介して水が供給され排出される。真空ポンプ16を作動させる際、封水給水弁24は、真空ポンプ16に連動して開かれる。
【0039】
処理槽3には、減圧された処理槽3内へ外気を導入して、処理槽3内を復圧する復圧手段5が接続される。本実施例では、処理槽3への給気路25には、処理槽3へ向けて順に、除菌フィルター26、給気弁27および逆止弁28が設けられる。従って、処理槽3内が減圧された状態で、給気弁27を開くと、フィルター26を介して外気を処理槽3内へ導入し、処理槽3内を復圧することができる。
【0040】
給気弁27は、開閉のみ可能な電磁弁でもよいが、開度調整可能な電動弁の方が好ましい。この場合、処理槽3内の減圧時または復圧時に、給気弁27の開度を調整することで、処理槽3内の圧力を徐々に変化させることができる。
【0041】
減圧手段4および復圧手段5は、制御手段8により制御される。この制御手段8は、前記各センサ6,7の検出信号などに基づき、前記各手段4,5を制御する制御器29である。具体的には、真空弁18、給蒸弁22、熱交給水弁23、真空ポンプ16、封水給水弁24、給気弁27、圧力センサ6および品温センサ7は、制御器29に接続されている。そして、制御器29は、以下に述べるように、所定の手順(プログラム)に従い、処理槽3内の食品2の真空冷却を図る。
【0042】
以下、本実施例の冷却装置1を用いた冷却方法について具体的に説明する。本実施例の冷却方法は、処理槽3内を設定圧力まで減圧する急冷工程と、この急冷工程よりも減圧能力を低くして処理槽3内をさらに減圧する徐冷工程とを順に実行する真空冷却方法である。このような一連の真空冷却に先立ち、処理槽3内には冷却しようとする食品2が収容され、処理槽3の扉は閉じられる。処理槽3内に収容される食品2は、所望により他の冷却装置(ブラストチラーや差圧冷却装置)で予めある程度まで冷却されている場合もある。
【0043】
急冷工程のために処理槽3内を大気圧から減圧するには、給気弁27は閉じる一方、真空弁18および封水給水弁24は開いた状態で、真空ポンプ16を作動させればよい。通常、急冷工程の初期には熱交給水弁23は閉じて熱交換器14に水は流さず、一定時間が経過するかあるいは熱交換器14の出口温度(処理槽3からの排気路12の内、熱交換器14から真空ポンプ16への配管内の温度)が所定温度を超えた場合に、熱交給水弁23を開いて熱交換器14に水を流す。そして、さらに熱交換器14の出口温度が所定まで上昇した場合は、熱交換器14への冷却水として、予めチラー(図示省略)で冷却された水を流すのがよい。また、急冷工程の初期には給蒸弁22は閉じて蒸気エゼクタ13は作動させず、処理槽3内の減圧に伴い処理槽3内をさらに減圧するには真空ポンプ16では足りなくなってくる圧力(たとえば45hPa)未満になると、給蒸弁22を開いて蒸気エゼクタ13も作動させる。
【0044】
その後の徐冷工程では、急冷工程よりも減圧能力を低くして、処理槽3内のさらなる減圧が図られる。それには、たとえば、急冷工程で閉じていた給気弁27を適宜開けつつ、減圧手段4により処理槽3内を減圧すればよい。具体的には、給気弁27が電磁弁であれば処理槽3内を所望に減圧するよう開閉すればよいし、給気弁27が電動弁であれば処理槽3内を所望に減圧するよう開度調整すればよい。いずれの場合も、経過時間と処理槽3内の目標圧力との関係が予め設定されており、それに沿うように減圧速度を調整しつつ処理槽3内の減圧が図られる。
【0045】
但し、徐冷工程における減圧速度の調整は、これに限定されず適宜に変更可能である。たとえば、処理槽3内への給気路25を並列して複数設けると共に、それぞれの給気路25に給気弁27を設けておき、そのようにして設けられた複数の給気弁27の内、開く数を変えて制御してもよい。あるいは、排気路12の中途に外気導入路(図示省略)を接続し、その外気導入路に設けた外気導入弁(図示省略)の開閉や開度を調整してもよい。さらに、真空弁18の開度を調整したり、インバータを用いて真空ポンプ16の回転数を変えたりしてもよい。これらは、複数の方法を組み合わせてもよい。いずれの場合も、通常、急冷工程では給気弁27や外気導入弁などを閉じて、減圧能力を制限することなく処理槽3内を減圧し、その後の徐冷工程において、減圧能力を調整することになる。
【0046】
図2に示すように、急冷工程では処理槽3内を設定圧力P1まで減圧するが、その設定圧力P1は、処理槽3内の飽和蒸気温度が品温センサ7の検出温度と等しくなる品温換算圧力P2よりも余裕圧力P3だけ高い圧力に設定される。すなわち、処理槽3内が減圧されると、それに伴い処理槽3内の飽和蒸気温度は低下するが、処理槽3内の飽和蒸気温度が品温を大きく下回ると、食品2が突沸を起こすおそれがあるので、処理槽3内の飽和蒸気温度が品温と等しくなる品温換算圧力P2よりも余裕圧力P3だけ高い圧力が設定圧力P1に設定される。
【0047】
急冷工程において、処理槽3内の減圧に伴い、処理槽3内の食品2は真空冷却を図られるので、品温が低下する。そこで、品温換算圧力P2や設定圧力P1を求めるための品温は、急冷工程中における時々刻々と低下していく品温としてもよいし、あるいは急冷工程開始時の初期品温としてもよい。
【0048】
そして、本発明では、前記余裕圧力P3は、品温換算圧力P2が低くなる程、小さくなるよう設定される。品温換算圧力P2が高い程、減圧速度は速くなるので、余裕圧力P3を大きくして早めに徐冷工程に移行する準備をする必要があるが、品温換算圧力P2が低い程、減圧速度は遅くなるので、余裕圧力P3を小さくしてもよく、むしろ小さくしなければ冷却時間に無駄を生じるからである。しかも、冷却時間が長くなれば、その分だけ真空ポンプ16に用いる封水、熱交換器14に用いる冷却用水、および蒸気エゼクタ13に用いる蒸気量がそれぞれ増加することになるからである。但し、余裕圧力P3を小さくし過ぎれば、設定圧力P1において減圧速度を落としたのでは間に合わず、処理槽内圧力が品温換算圧力P2を行き過ぎるおそれが増すことになる。そこで、このような事情を考慮して、余裕圧力P3および設定圧力P1が定められることになる。
【0049】
品温換算圧力P2が低くなる程、余裕圧力P3が小さくなれば、前記設定圧力P1の設定方法は特に問わないが、本実施例では品温換算圧力P2の設定比率の圧力が設定圧力とされる。この設定比率として、前記事情を考慮して、たとえば110〜150%、好ましくは110〜130%が用いられる。設定比率は、固定値であってもよいが、可変に設定できる方が好ましい。
【0050】
設定比率の下限値を110%、上限値を150%(好ましくは130%)としたのは、下限値未満(たとえば105%)では、品温換算圧力P2がたとえば35hPaのときには、設定圧力P1が36.75hPaとなり、余裕圧力P3が1.75hPaと小さくなり、減圧速度を遅くする調整が間に合えば短時間で品温換算圧力P2に近づけることが可能であるが、蒸気エゼクタ13が動作している減圧度では、急激な減圧が起こっているので、1.75hPaの余裕圧力分が低下する間に所望する減圧速度まで調整することができないからである。また、上限値を超える(たとえば155%)では、品温換算圧力P2がたとえば35hPaのときには、設定圧力P1が54.25hPaとなり、余裕圧力P3が19.25hPaと大きくなり、冷却時間に無駄が生じるからである。
【0051】
本実施例では、設定比率は、たとえば120%とされる。すなわち、品温換算圧力P2の120%の圧力が、設定圧力P1とされる。このように品温換算圧力P2の設定比率を設定圧力P1とすることで、品温換算圧力P2が低くなる程、余裕圧力P3が自動的に小さくなるよう設定される。
【0052】
図2は、本実施例の冷却装置1を用いた冷却方法の一例を示す図であり、処理槽3内の減圧開始からの経過時間と処理槽3内の圧力との関係を示している。この図において、実線は冷却開始時における食品2の温度が50℃の場合、破線は冷却開始時における食品2の温度が10℃の場合を示している。
【0053】
まず、冷却開始時の品温が50℃の場合について述べる。この場合、品温換算圧力P2は、飽和蒸気温度が50℃となる飽和蒸気圧力として定義され、123hPaとなる。そして、設定圧力P1は、この123hPaの120%の値として、148hPaとなる。従って、処理槽3内が設定圧力P1(=148hPa)になるまで処理槽3内を減圧後、減圧能力を調整しつつさらに処理槽3内は減圧される。この場合の余裕圧力P3は、設定圧力P1(=148hPa)から品温換算圧力P2(=123hPa)を引いた値として、25hPaである。
【0054】
次に、冷却開始時の品温が10℃の場合について述べる。なお、設定圧力P1、品温換算圧力P2および余裕圧力P3は、初期品温が50℃の場合と区別するために、初期品温が10℃の場合にはダッシュを付して、P1´、P2´およびP3´と表記する場合がある。初期品温が10℃の場合、品温換算圧力P2´は、飽和蒸気温度が10℃となる飽和蒸気圧力として定義され、12.3hPaとなる。そして、設定圧力P1´は、この12.3hPaの120%の値として、14.8hPaとなる。従って、処理槽3内が設定圧力P1´(=14.8hPa)になるまで処理槽3内を減圧後、減圧能力を調整しつつさらに処理槽3内は減圧される。この場合の余裕圧力P3´は、設定圧力P1´(=14.8hPa)から品温換算圧力P2´(=12.3hPa)を引いた値として、2.5hPaである。
【0055】
初期品温が50℃の場合と10℃の場合とを比較した場合、上述したように、前者の余裕圧力P3は25hPaであるのに対し、後者の余裕圧力P3´は2.5hPaである。このように、本実施例では、余裕圧力P3は、品温換算圧力P2が低くなる程、小さく設定されることになる。従って、簡易な方法で、食品2の突沸を防止しつつ冷却時間の短縮を図り、処理槽3内の減圧手段4に用いる水や蒸気の使用量の削減を図ることができる。
【0056】
前述したように、品温換算圧力P2が低くなる程、余裕圧力P3が小さくなるように設定されれば、設定圧力P1の設定方法は特に問わない。従って、設定圧力P1は、品温換算圧力P2の設定比率の圧力とする以外に、次のように設定することもできる。すなわち、設定圧力P1は、処理槽3内の飽和蒸気温度が急冷工程開始時または急冷工程中における品温センサ7の検出温度に所定温度を加えた温度と等しくなる圧力に設定してもよい。この所定温度は、前記実施例における設定比率の場合と同様に定められ、たとえば2〜5℃の範囲で設定される。
【0057】
具体的には、前記所定温度は、たとえば3℃に設定される。この場合、冷却開始時の品温が50℃とすると、設定圧力P1は、処理槽3内の飽和蒸気温度が、品温(50℃)に所定温度(3℃)を加えた温度(53℃)となる飽和蒸気圧力として定義され、143hPaとなる。従って、処理槽3内が設定圧力P1(=143hPa)になるまで処理槽3内を減圧後、減圧能力を調整しつつさらに処理槽3内は減圧される。この場合の余裕圧力P3は、設定圧力P1(=143hPa)から品温換算圧力P2(=123hPa)を引いた値として、20hPaである。
【0058】
また、冷却開始時の品温が10℃とすると、設定圧力P1は、処理槽3内の飽和蒸気温度が、品温(10℃)に所定温度(3℃)を加えた温度(13℃)となる飽和蒸気圧力として定義され、15hPaとなる。従って、処理槽3内が設定圧力P1(=15hPa)になるまで処理槽3内を減圧後、減圧能力を調整しつつさらに処理槽3内は減圧される。この場合の余裕圧力P3は、設定圧力P1(=15hPa)から品温換算圧力P2(=12.3hPa)を引いた値として、2.7hPaである。
【0059】
また、前記実施例の構成に代えてまたはそれに加えて、次のように制御してもよい。すなわち、急冷工程において、処理槽3内の圧力が設定圧力P1に所定圧力P4(たとえば数hPa)を加えた圧力に到達すると、その時点における減圧速度を演算し、その演算された減圧速度のままで設定圧力P1まで減圧してそこから減圧能力を低くするのでは、処理槽3内の圧力が品温換算圧力P2を下回ってしまう(所定以上下回ってしまう場合を含む)と判断する場合には、設定圧力に到達する前に減圧能力を低くしてもよい。この場合、前記余裕圧力P3および/または前記所定圧力P4は、品温換算圧力P2が低くなる程、小さくなるよう設定されてもよいし、品温換算圧力P2に拘わらず一定値とされてもよい。
【0060】
本発明の冷却装置および冷却方法は、前記実施例の構成に限らず、適宜変更可能である。特に、処理槽3内を設定圧力P1まで減圧する急冷工程と、この急冷工程よりも減圧能力を低くして処理槽3内をさらに減圧する徐冷工程とを順に含み、設定圧力P1は、品温換算圧力P2よりも余裕圧力P3だけ高い圧力に設定され、余裕圧力P3は、品温換算圧力P2が低くなる程、小さくなるよう設定されれば、その他の構成および制御は適宜に変更可能である。従って、品温換算圧力P2は、必ずしも品温センサ7の検出温度により算出する必要はない。たとえば、処理槽3内に収容される食品2の品温が予め分かっているか予測できる場合において、前記品温換算圧力P2として、処理槽3内の飽和蒸気温度が品温と等しくなる圧力を設定することで、食品2の突沸を防止しつつ冷却時間の短縮を図ることができる。この場合、品温センサ7を挿すことができない食品2も取り扱うことができる。
【0061】
また、前記実施例では、真空冷却装置に適用した例を示したが、蒸煮冷却装置、飽和蒸気調理装置、冷風真空複合冷却装置などにも同様に適用可能である。すなわち、蒸煮冷却装置または飽和蒸気調理装置の場合には、前記実施例において、処理槽3内へ蒸気を供給する給蒸手段をさらに設置すればよい。これにより、給蒸手段により、処理槽3内へ蒸気を供給して食品2の加熱を図った後、減圧手段4により、処理槽3内を減圧して食品2の真空冷却を図ることができる。但し、給蒸手段は、ボイラなどからの蒸気を処理槽3内へ供給する以外に、処理槽3内に予め貯留しておいた水をヒータで蒸発させてもよい。また、冷風真空複合冷却装置の場合には、前記実施例において、処理槽3内に冷風を生じさせる手段(冷却機およびファン)をさらに設置すればよい。これにより、食品2を収容した処理槽3内を減圧することによる真空冷却と、処理槽3内の食品2へ冷風を吹き付けることによる冷風冷却とを図ることができる。
【0062】
さらに、減圧手段4や復圧手段5の各構成は、前記実施例の構成に限定されない。たとえば、減圧手段4は、前記実施例において蒸気エゼクタ13を省略したり、熱交換器14や真空ポンプ16に替えて水エゼクタを用いたりしてもよい。また、復圧手段5として、給気路25を並列して複数設けておき、それぞれに電磁弁を設けてもよい。
【符号の説明】
【0063】
1 冷却装置(真空冷却装置)
2 食品(被冷却物)
3 処理槽
4 減圧手段
5 復圧手段
6 圧力センサ
7 品温センサ
P1 設定圧力
P2 品温換算圧力
P3 余裕圧力
P4 所定圧力

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被冷却物が収容される処理槽と、
この処理槽内の気体を外部へ吸引排出して、前記処理槽内を減圧する減圧手段と、
減圧された前記処理槽内へ外気を導入して、前記処理槽内を復圧する復圧手段と、
前記処理槽内の圧力を検出する圧力センサとを備え、
前記処理槽内を設定圧力まで減圧する急冷工程と、この急冷工程よりも減圧能力を低くして前記処理槽内をさらに減圧する徐冷工程とを順に実行可能とされ、
前記設定圧力は、前記処理槽内の飽和蒸気温度が前記被冷却物の温度と等しくなる品温換算圧力よりも余裕圧力だけ高い圧力に設定され、
前記余裕圧力は、前記品温換算圧力が低くなる程、小さくなるよう設定される
ことを特徴とする冷却装置。
【請求項2】
前記処理槽内に収容される被冷却物の温度を検出する品温センサをさらに備え、
前記品温換算圧力は、前記急冷工程開始時または前記急冷工程中における前記品温センサの検出温度に基づき算出され、
前記余裕圧力は、前記品温換算圧力が低くなる程、小さくなるよう設定される
ことを特徴とする請求項1に記載の冷却装置。
【請求項3】
前記設定圧力は、前記急冷工程開始時または前記急冷工程中における前記品温センサの検出温度に基づき算出される前記品温換算圧力の設定比率の圧力に設定される
ことを特徴とする請求項2に記載の冷却装置。
【請求項4】
前記設定圧力は、前記処理槽内の飽和蒸気温度が前記急冷工程開始時または前記急冷工程中における前記品温センサの検出温度に所定温度を加えた温度と等しくなる圧力に設定される
ことを特徴とする請求項2に記載の冷却装置。
【請求項5】
前記余裕圧力は、前記品温換算圧力が低くなる程、小さくなるよう設定されるか、前記品温換算圧力に拘わらず一定値とされ、
前記急冷工程において、前記処理槽内の圧力が前記設定圧力に所定圧力を加えた圧力に到達すると、その時点における減圧速度を演算し、その演算された減圧速度のままで前記設定圧力まで減圧してそこから減圧能力を低くするのでは、前記処理槽内の圧力が前記品温換算圧力を下回ってしまうと判断する場合には、前記設定圧力に到達する前に減圧能力を低くする
ことを特徴とする請求項2に記載の冷却装置。
【請求項6】
処理槽内に収容した被冷却物の冷却を図る方法であって、
前記処理槽内を設定圧力まで減圧する急冷工程と、この急冷工程よりも減圧能力を低くして前記処理槽内をさらに減圧する徐冷工程とを順に含み、
前記設定圧力は、前記処理槽内の飽和蒸気温度が前記被冷却物の温度と等しくなる品温換算圧力よりも余裕圧力だけ高い圧力に設定され、
前記余裕圧力は、前記品温換算圧力が低くなる程、小さくなるよう設定される
ことを特徴とする冷却方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−181042(P2010−181042A)
【公開日】平成22年8月19日(2010.8.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−22335(P2009−22335)
【出願日】平成21年2月3日(2009.2.3)
【出願人】(000175272)三浦工業株式会社 (1,055)
【Fターム(参考)】