説明

冷延処理ラインにおける鋼板のフェライト粒径計測装置及び材質制御装置

【課題】フェライト粒径の計測結果を利用した加熱炉の温度制御モデルの学習制御を可能とする冷延処理ラインにおける鋼板の材質制御装置を得る。
【解決手段】加熱炉を有する冷却処理ラインのライン内検査セクション1に、鋼板のフェライト粒径をオンラインで測定するレーザ超音波粒径センサ5を設置するとともに、このレーザ超音波粒径センサ5によるフェライト粒径測定値に基づいて、加熱炉の加熱炉温度、及び、鋼板が加熱炉温度に制御された加熱炉を通過した場合におけるフェライト粒径予測値を演算する加熱炉温度制御モデル6を設ける。そして、学習制御手段7により、フェライト粒径測定値及びフェライト粒径予測値に基づいて加熱炉温度制御モデル6の演算モデルを補正する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、加熱炉設備を有する冷延処理ラインにおける鋼板のフェライト粒径計測装置と材質制御装置とに関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、加熱炉設備を有する冷延処理ラインでは、鋼板が加熱炉を通過する際にフェライト粒径の再結晶及び粒成長挙動が発生する。なお、このフェライト粒径は、材料強度や絞り成形性等と密接に関連する。そこで、従来では、オフラインに設置された検査室で顕微鏡等による鋼板のミクロ組織調査を実施することにより、冷延処理ラインにおける最終品質を保証していた。
【0003】
また、従来技術として、焼鈍炉の途中或いは直後に粒径測定装置やr値測定装置を設置することにより、粒径測定装置やr値測定装置の測定結果に基づいて焼鈍温度を適宜変化させ、所定の粒径或いはr値に制御するようにしたものが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
【特許文献1】特開平5−171258号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
冷延処理ラインにおける最終品質を保証するために、従来のようにオフラインに設置された検査室で顕微鏡等による鋼板のミクロ組織調査を実施していたのでは、その調査に多大な時間と手間とが必要となり、作業効率が著しく悪化するといった問題があった。また、従来では、鋼板のミクロ組織調査結果を冷延処理ラインの制御にフィードバックして材質を作りこむといった制御方式は殆ど実用化されていなかった。
【0006】
また、特許文献1記載のものでは、補助加熱装置の温度変化による粒径の制御を主眼としているため、粒径計測装置を、補助加熱装置の直前又は直後、即ち鋼板処理ラインの中央付近に設置している。このため、鋼板のミクロ組織調査という観点からは、加熱炉以降のその他の表面処理による影響が考慮されないという問題があった。
【0007】
一方、所定のフェライト粒径を得るためには、加熱炉における適正な温度モデルの構築が必要不可欠であるが、特許文献1記載のものを含め従来のものでは、フェライト粒径の計測結果を利用した加熱炉温度制御モデルの学習制御は実用化されていなかった。
【0008】
この発明は、上述のような課題を解決するためになされたもので、その目的は、鋼板のミクロ組織調査を短時間で且つ正確に実施することができる冷延処理ラインにおける鋼板のフェライト粒径計測装置を提供することである。
【0009】
また、他の目的は、フェライト粒径の計測結果を利用した加熱炉の温度制御モデルの学習制御を可能とする冷延処理ラインにおける鋼板の材質制御装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この発明に係る冷延処理ラインにおける鋼板のフェライト粒径計測装置は、加熱炉を有する冷延処理ラインにおける鋼板のフェライト粒径計測装置であって、冷却処理ラインのライン内検査セクションに設けられ、鋼板のフェライト粒径をオンラインで測定するレーザ超音波粒径センサと、を備えたものである。
【0011】
また、この発明に係る冷延処理ラインにおける鋼板のフェライト粒径計測装置は、加熱炉を有する冷延処理ラインにおける鋼板のフェライト粒径計測装置であって、冷却処理ライン外のオフライン検査室に設けられ、鋼板のフェライト粒径を測定するレーザ超音波粒径センサと、を備えたものである。
【0012】
この発明に係る冷延処理ラインにおける鋼板の材質制御装置は、加熱炉を有する冷延処理ラインにおける鋼板の材質制御装置であって、冷却処理ラインのライン内検査セクションに設けられ、鋼板のフェライト粒径をオンラインで測定するレーザ超音波粒径センサと、レーザ超音波粒径センサによるフェライト粒径測定値に基づいて、加熱炉の加熱炉温度、及び、鋼板が加熱炉温度に制御された加熱炉を通過した場合におけるフェライト粒径予測値を演算する加熱炉温度制御モデルと、フェライト粒径測定値及びフェライト粒径予測値に基づいて、加熱炉温度制御モデルの演算モデルを補正する学習制御手段と、を備えたものである。
【発明の効果】
【0013】
この発明によれば、鋼板のミクロ組織調査を短時間で且つ正確に実施することができる。
【0014】
また、この発明によれば、フェライト粒径の計測結果を利用した加熱炉の温度制御モデルの学習制御が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
この発明をより詳細に説明するため、添付の図面に従ってこれを説明する。なお、各図中、同一又は相当する部分には同一の符号を付しており、その重複説明は適宜に簡略化ないし省略する。
【0016】
実施の形態1.
図1はこの発明の実施の形態1における冷延処理ラインにおける鋼板のフェライト粒径計測装置を示す構成図、図2はこの発明の実施の形態1における冷延処理ラインにおける鋼板の材質制御装置を示す構成図である。図1及び図2において、1は加熱炉設備を有する冷延処理ラインにおけるライン内検査セクションであり、このライン内検査セクション1には、鋼板の材質情報をオンラインで取得するために設置された板幅計2と板厚計3とが備えられている。そして、上記板幅計2は板幅の測定値を、上記板厚計3は板厚の測定値を、それぞれ材質情報として上位計算機4に対して実績として送信する。
【0017】
また、ライン内検査セクション1には、鋼板の材質情報の一つであるフェライト粒径をオンラインで測定するレーザ超音波粒径センサ5が備えられている。この上記レーザ超音波粒径センサ5は、上記板幅測定値及び板厚測定値と同様に、フェライト粒径の測定値を材質情報として上位計算機4に対して実績として送信する。
【0018】
そして、各種材質情報が入力される上位計算機4には、加熱炉温度制御モデル6と学習制御手段7とが備えられている。上記加熱炉温度制御モデル6は、レーザ超音波粒径センサ5によるフェライト粒径測定値に基づいて、加熱炉の目標設定温度となる加熱炉温度を演算する。なお、実際の加熱炉の温度制御は、加熱炉温度制御モデル6によって演算された上記加熱炉温度に基づいて、上位計算機4内外に備えられた他の制御手段によって行われる。また、加熱炉温度制御モデル6は、鋼板が、演算された上記加熱炉温度に制御された加熱炉を通過したと仮定した場合におけるフェライト粒径予測値を演算する。
【0019】
一方、上記学習制御手段7は、フェライト粒径測定値とフェライト粒径予測値とに基づいて、加熱炉温度制御モデル6の演算モデル自体をより良い形に補正するための手段であり、例えば、フェライト粒径測定値とフェライト粒径予測値との差異に基づいて、種々の係数や加算値、減算値等を書き換えるために、加熱炉温度制御モデル6に対してモデル補正値を出力する。
【0020】
かかる構成を有する冷延処理ラインにおける鋼板のフェライト粒径計測装置では、鋼板の材質情報をオンラインで測定するレーザ超音波粒径センサ5によって、鋼板のミクロ組織調査が短時間で且つ正確に実施される。このため、製品となる鋼板の強度を保証することができ、加熱炉の温度制御もレーザ超音波粒径センサ5によって測定された正確なフェライト粒径に基づいて実施することが可能となる。
【0021】
即ち、一般に、材料の強度の増加分は、粒径の1/2乗に反比例し、降伏強度(又は引張強度)σyと粒径dとが次式(Hall−Petchの関係式)で表されることが経験的に知られている。
【0022】
【数1】

ここで、σiは単結晶の平均降伏強度、kyは結晶粒界が降伏強度を高めるパラメータを示している。したがって、実際に鋼板のミクロ組織を調査して、フェライト粒径が所定の値になっているかを確認することにより、製品である鋼板の強度を保証することが可能となる。そして、レーザ超音波粒径センサ5によるオンライン測定を実施することにより、鋼板のミクロ組織調査の作業効率が向上し、上記調査を短時間且つ正確に実施することができる。
【0023】
なお、鋼板のミクロ組織調査という観点からは、粒径計測装置の設置位置は、鋼板に対する材質、表面処理の完了した鋼板処理ラインの最終段階に近い方が望ましい。したがって、本願発明のように、鋼板処理ラインの出側セクションに設置されたライン内検査セクション1に粒径計測装置を設置すれば、加熱炉以降のその他の表面処理による影響も考慮することができ、最終製品としての粒径測定を実施することが可能となる。
【0024】
一方、前述したように、フェライト粒径の再結晶及び粒成長挙動は、鋼板が加熱炉を通過する際に発生する。また、上記両挙動は、加熱炉の温度と加熱時間によって決定される。このため、この粒成長予測を上記加熱炉温度制御モデル6の一部として予め組み込んでおくことにより、加熱炉温度に基づくフェライト粒径予測値の演算が可能となる。そして、学習制御手段7からのモデル補正値によって、フェライト粒径予測値と実際のフェライト粒径測定値との差異を、次材料が加熱炉を通過する際の加熱炉温度の演算に反映させることができ、鋼板の強度を保証するためのフェライト粒径の制御がより正確に実施可能となる。
【0025】
なお、加熱炉温度制御モデル6で実施される演算では、フェライト粒径以外にも、鋼種、板厚、板幅等をパラメータとして持つこともでき、かかる構成によって、幅広い母材料に対して常に適切な加熱炉温度設定を実現することが可能となる。
【0026】
また、図1における8は上記冷延処理ラインのライン外に設けられたオフライン検査室であり、このオフライン検査室8にも、フェライト粒径を測定するレーザ超音波粒径センサ9が設置されている。かかる構成を有することにより、従来顕微鏡等で実施していたミクロ組織調査に要する時間を大幅に削減することが可能となり、作業効率を向上させることができるようになる。なお、かかる場合であっても、最終製品としての粒径測定を実施することが可能となり、鋼板のミクロ組織調査を短時間且つ正確に実施することができるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】この発明の実施の形態1における冷延処理ラインにおける鋼板のフェライト粒径計測装置を示す構成図である。
【図2】この発明の実施の形態1における冷延処理ラインにおける鋼板の材質制御装置を示す構成図である。
【符号の説明】
【0028】
1 ライン内検査セクション、 2 板幅計、 3 板厚計、 4 上位計算機、
5 レーザ超音波粒径センサ、 6 加熱炉温度制御モデル、 7 学習制御手段、
8 オフライン検査室、 9 レーザ超音波粒径センサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
加熱炉を有する冷延処理ラインにおける鋼板のフェライト粒径計測装置であって、
前記冷却処理ラインのライン内検査セクションに設けられ、前記鋼板のフェライト粒径をオンラインで測定するレーザ超音波粒径センサと、
を備えたことを特徴とする冷延処理ラインにおける鋼板のフェライト粒径計測装置。
【請求項2】
加熱炉を有する冷延処理ラインにおける鋼板の材質制御装置であって、
前記冷却処理ラインのライン内検査セクションに設けられ、前記鋼板のフェライト粒径をオンラインで測定するレーザ超音波粒径センサと、
前記レーザ超音波粒径センサによるフェライト粒径測定値に基づいて、前記加熱炉の加熱炉温度、及び、前記鋼板が前記加熱炉温度に制御された前記加熱炉を通過した場合におけるフェライト粒径予測値を演算する加熱炉温度制御モデルと、
前記フェライト粒径測定値及び前記フェライト粒径予測値に基づいて、前記加熱炉温度制御モデルの演算モデルを補正する学習制御手段と、
を備えたことを特徴とする冷延処理ラインにおける鋼板の材質制御装置。
【請求項3】
加熱炉を有する冷延処理ラインにおける鋼板のフェライト粒径計測装置であって、
前記冷却処理ライン外のオフライン検査室に設けられ、前記鋼板のフェライト粒径を測定するレーザ超音波粒径センサと、
を備えたことを特徴とする冷延処理ラインにおける鋼板のフェライト粒径計測装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−139212(P2008−139212A)
【公開日】平成20年6月19日(2008.6.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−327331(P2006−327331)
【出願日】平成18年12月4日(2006.12.4)
【出願人】(501137636)東芝三菱電機産業システム株式会社 (904)
【Fターム(参考)】