説明

冷間圧接方法及び金属接合体

【課題】 接合強度の向上を図る。
【解決手段】 硬度が高い方の金属板材11をダイス23で押圧するようにしたので、硬度の高い金属板材11が伸展するように変形すると、それに追従して、硬度の小さい金属板材も伸展するように変形する。したがって、硬度の高い金属板材11の伸展量と硬度の低い金属板材12の伸展量がほぼ同じ量となり、両金属板材11,12の接合面において過大な滑りが発生しないため、両金属板材11,12の接合強度が高い。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、冷間圧接方法及び金属接合体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、複数の金属板材を重ね合わせて一体化させことで金属接合体を製造する方法として、図6及び図7に示すように、重ね合わせた2枚の金属板材100,101を、その板面と交差する方向にダイス102で押圧することで、表面側に凹部103が形成されるように変形させつつ接合して金属接合体104を製造することが行われている。この冷間圧接方法によれば、ダイス102が金属板材100,101を押圧すると、金属板材100,101が凹まされるように変形しつつ、金属板材100,101の板面のうちダイス102で押圧される領域100a,101a同士が密着して接合される。
尚、金属同士を接合する手段については、特許文献1に開示されている。
【特許文献1】特開平2−280979号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
金属板材100,101をダイス102で押圧して凹ませるように変形させると、金属板材100,101のうちダイス102で押圧される領域は中心から外周側へ変位しつつ伸展変形するのであるが、従来は、硬度の異なる2つの金属板材のうち硬度が低い方の金属板材100を表面側、即ちダイス102が直接接触して押圧する側に配置していた。
【0004】
このように、ダイス102が硬度の低い金属板材100を直接押圧した場合には、ダイス102の侵入に伴なう伸展量の多くの部分を変形し易い金属板材100が受け持つこととなり、金属板材100,101同士の接触界面において過大な滑りが生じ、その結果、両金属板材100,101の接合強度が低下することが懸念される。
本発明は上記のような事情に基づいて完成されたものであって、接合強度の向上を図ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記の目的を達成するための手段として、請求項1の発明は、重ね合わせた硬度の異なる複数の金属板材を、その板面と交差する方向にダイスで押圧することで、表面側に凹部が形成されるように変形させつつ接合して金属接合体を製造する冷間圧接方法であって、硬度が異なる前記複数の金属板材のうち、硬度が高い方の金属板材を前記ダイスで押圧される表面側に配置する構成としたところに特徴を有する。
【0006】
請求項2の発明は、重ね合わせた硬度の異なる複数の金属板材を、その板面と交差する方向にダイスで押圧し、表面側に凹部が形成されるように変形させつつ接合することによって製造される金属接合体であって、硬度が異なる前記複数の金属板材のうち、硬度が高い方の金属板材を前記ダイスで押圧される表面側に配置したところに特徴を有する。
【発明の効果】
【0007】
<請求項1及び請求項2の発明>
金属板材をダイスで押圧して凹ませるように変形させると、金属板材のうちダイスで押圧される領域は中心から外周側へ変位しつつ伸展変形する。ここで、ダイスが硬度の低い金属板材を直接押圧した場合には、ダイスの侵入に伴なう伸展量の多くの部分を変形し易い金属板材が受け持つこととなり、金属板材同士の接触界面において過大な滑りが生じ、その結果、両金属板材の接合強度が低下することが懸念される。
これに対し、本発明では、硬度が高い方の金属板材がダイスで直接押圧されるようにしたので、硬度の高い金属板材が凹まされるように変形して中心から外周側へ伸展するように変形すると、これに追従して、硬度の小さい金属板材も中心から外周側へ伸展するように変形する。したがって、硬度の高い金属板材の伸展量と硬度の低い金属板材の伸展量がほぼ同じ量となり、両金属板材の接合面において過大な滑りが発生せず、上述したような剥離が発生しないため、両金属板材の接合強度は高い。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
<実施形態1>
以下、本発明を具体化した実施形態1を図1乃至図5を参照して説明する。本実施形態の金属接合体10は、第1金属板材11と第2金属板材12とを接合して製造される。第1金属板材11と第2金属板材12は、いずれも、板厚寸法が全域に亘って一定であり、前後方向に長く且つ幅寸法が全長(前後方向)に亘って一定の方形をなす。第1金属板材11の全長と幅寸法は、夫々、第2金属板材12と同じ寸法となっている。また、両金属板材11,12の板厚も同じ寸法となっている。
【0009】
第1金属板材11は、銅合金製であり、その硬度は、HV115である。一方の第2金属板材12は、銅製であり、その硬度は、HV90である。つまり、第1金属板材11の方が第2金属板材12よりも硬度が高く、第1金属板材11の方が変形し難い。
【0010】
この第1金属板材11と第2金属板材12は、板面同士が水平な姿勢で面接触状態となるように上下に重ね合わせた状態で、ダイス23を用いた冷間圧接方法によって電気的導通可能に接合される。ここで、硬度の高い第1金属板材11が第2金属板材12上面(表面)側に重ねられるが、これは、接合手段であるダイス23が上から下向き(即ち、金属板材11,12の板面と略直角な方向)に両金属板材11,12を押圧することを考慮した配置である。尚、両金属板材11,12を重ね合わせた状態では、双方の前端面同士、後端面同士、及び左右両側面同士が互いに面一状に連続するようになる。そして、この重ね合わせた2枚の金属板材11,12は、上下両金型21,22によって重ね合わせ状態に固定される。
【0011】
上部金型21は、全体としてブロック状をなし、下面には第1金属板材11を収容するための溝部21aが形成されている。溝部21aは上部金型21の前後両端面に開口され、第1金属板材11を左右方向(金属板材11の板面と平行な方向)へのガタ付き(変位)なく位置決めして収容する。溝部21aに第1金属板材11をセットした状態では、第1金属板材11の前後両端部が上部金型21の外部へ突出し、第1金属板材11の上面が溝部21aの天井面(上面)に面接触状態で当接し、第1金属板材11の下面が上部金型21の下面に対して面一状に連続する。
【0012】
また、上部金型21には、その上面から溝部21aの天井面(内面)に至る上下方向(金属板材11,12の板面と直角方向)の円形をなすガイド孔21bが形成されている。ガイド孔21bは幅方向(左右方向)及び前後方向において溝部21aのほぼ中央に位置する。このガイド孔21bにより接合時にダイス23が案内されるようになっている。ダイス23は、軸線を上下方向に向けた円柱形をなし、上部金型21の上方からガイド孔21b内に前後左右方向へのガタ付きなく嵌入されるようになっている。ダイス23の外径は、その下端から接合完了時にガイド孔21bに収容される領域に亘って一定の寸法となっている。また、ダイス23の下面は、ダイス23と同心で且つダイス23の外径よりも小径の円形をなす押圧面23aとなっている。この押圧面23aは、ダイス23により金属板材11,12を押圧する方向と直角な平坦面である。
【0013】
下部金型22は、全体としてブロック状をなし、上面には第2金属板材12を収容するための溝部22aが形成されている。溝部22aは下部金型22の前後両端面に開口され、第2金属板材12を左右方向(金属板材12の板面と平行な方向)へのガタ付き(変位)なく位置決めして収容する。溝部22aに第2金属板材12をセットした状態では、第2金属板材12の前後両端部が下部金型22の外部へ突出するとともに、第2金属板材12の下面が溝部22aの下面に面接触状態で当接し、第2金属板材12の上面が下部金型22の上面に対して面一状に連続する。
【0014】
尚、上部金型21、下部金型22及びダイス23は、いずれも、合金工具鋼(SKD11)であり、その硬度は、HV700〜750である。つまり、上下両金型21,22とダイス23は、いずれも第1金属板材11より硬度が高い。
【0015】
次に、本実施形態の作用を説明する。
第1金属板材11と第2金属板材12を接合して金属接合体10を製造する際には、下部金型22の溝部22aに第2金属板材12を嵌合(セット)し、その第2金属板材12の上面に第1金属板材11を重ね、その上から上部金型21を被せてその溝部21aを第1金属板材11に嵌合し、上部金型21の下面と下部金型22の上面とを面接触状態で当接させることにより、両金型21,22を合体させる。この状態では、上下に重ね合わせた両金属板材11,12が、下部金型22の溝部22aの下面と上部金型21の溝部21aの天井面との間で挟みつけられることにより、両金属板材11,12が上下両金型21,22に対して上下左右へのガタ付きなく保持される。尚、両金属板材11,12の前後方向への変形は許容されている。
【0016】
この状態からダイス23をガイド孔21b内に進入(下降)させると、ダイス23の下端の押圧面23aが第1金属板材11の上面(表面)を上から押圧し、その第1金属板材11の上面を凹ませる。この後、さらにダイス23の下降が進むと、第1金属板材11がダイス23に押圧されて下方へ沈むように(凹むように)変形する。この変形部は有底筒状をなす。この第1金属板材11の有底筒状の変形部のうちダイス23の押圧面23aと対応(直接接触)する水平な円形板状部11aが、第2金属板材12の上面を押圧して凹ませる。
【0017】
そして、ダイス23が接合完了位置まで下降すると、図4に示すように、第1金属板材11の上面には、円形の凹部13が形成されるとともに、両金属板材11,12のうちダイス23の押圧面23aと対応する円形板状部11a,12aの板厚が薄くなる。第2金属板材12の板厚の薄くなった円形板状部12aは、第1金属板材11の円形板状部11aの上面に重ね合わされ、その両金属板材11,12の円形板状部11a,12aは、ダイス23の押圧面23aと下部金型22の溝部22aの下面との間で上下に挟みつけられた状態となる。
【0018】
このように、両金属板材11,12がダイス23によって変形させられると、第1金属板材11の円形板状部11a(ダイス23の押圧面23aと対応する略円形領域)の下面と第2金属板材12の円形板状部12a(ダイス23の押圧面23aと対応する略円形領域)の上面が、互いに強固に接合(固着)し、もって、第1金属板材11と第2金属板材12が一体化されて金属接合体10が製造される。
【0019】
さて、接合工程において、第1金属板材11をダイス23で押圧して凹ませるように変形させると、第1金属板材11のうちダイス23で押圧される円形板状部11aはダイス23の中心から外周側へ変位しつつ伸展変形する。ここで、もしダイス23が硬度の低い第2金属板材12を直接押圧した場合には、ダイス23の侵入に伴なう伸展量の多くの部分を変形し易い第2金属板材12が受け持つこととなり、金属板材11,12同士の接触界面(接合面)において過大な滑りが生じ、その結果、両金属板材11,12の接合強度が低下することが懸念される。
これに対し本実施形態では、硬度の高い第1金属板材11がダイス23で直接押圧されるようにしたので、硬度の高い第1金属板材11が凹まされてその円形板状部11aが中心から外周側へ伸展するように変形すると、硬度の小さい第2金属板材12が凹まされつつ、その円形板状部12aが第1金属板材11の円形板状部11aに追従して中心から外周側へ伸展するように変形する。したがって、第1金属板材11の円形板状部11aの伸展量と第2金属板材12の円形板状部12aの伸展量がほぼ同じ量となり、第1金属板材11と第2金属板材12との接合面(界面)において過大な滑りが発生せず、前述のような剥離が生じないため、第1金属板材11と第2金属板材12の接合強度が高い。
なお、実験の結果によれば、硬度の低い第2金属板材12をダイスで直接押圧した場合の接合強度が830N(10個のサンプルの平均値)であったのに対し、硬度が高い第1金属板材11をダイス23で直接押圧する本実施形態の場合の接合強度は1240N(10個のサンプルの平均値)、即ち第2金属板材12を直接押圧した場合の約1.49倍の強さとなることが判った。
【0020】
<他の実施形態>
本発明は上記記述及び図面によって説明した実施形態に限定されるものではなく、例えば次のような実施態様も本発明の技術的範囲に含まれ、さらに、下記以外にも要旨を逸脱しない範囲内で種々変更して実施することができる。
【0021】
(1)上記実施形態では2枚の金属板材を重ねた場合について説明したが、本発明は、硬度の異なる3枚以上の金属板材を重ね合わせる場合にも適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】実施形態1の斜視図
【図2】接合済みの金属接合体の斜視図
【図3】接合前の状態をあらわす断面図
【図4】接合が完了した状態をあらわす断面図
【図5】図3のX−X断面図
【図6】従来例の接合前の状態をあらわす断面図
【図7】従来例の接合が完了した状態をあらわす断面図
【符号の説明】
【0023】
10…金属接合体
11…硬度の高い金属板材
12…硬度の低い金属板材
13…凹部
23…ダイス

【特許請求の範囲】
【請求項1】
重ね合わせた硬度の異なる複数の金属板材を、その板面と交差する方向にダイスで押圧することで、表面側に凹部が形成されるように変形させつつ接合して金属接合体を製造する冷間圧接方法であって、
硬度が異なる前記複数の金属板材のうち、硬度が高い方の金属板材を前記ダイスで押圧される表面側に配置することを特徴とする冷間圧接方法。
【請求項2】
重ね合わせた硬度の異なる複数の金属板材を、その板面と交差する方向にダイスで押圧し、表面側に凹部が形成されるように変形させつつ接合することによって製造される金属接合体であって、
硬度が異なる前記複数の金属板材のうち、硬度が高い方の金属板材を前記ダイスで押圧される表面側に配置したことを特徴とする金属接合体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−35244(P2006−35244A)
【公開日】平成18年2月9日(2006.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−216003(P2004−216003)
【出願日】平成16年7月23日(2004.7.23)
【出願人】(395011665)株式会社オートネットワーク技術研究所 (2,668)
【出願人】(000183406)住友電装株式会社 (6,135)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【出願人】(000213884)住電朝日精工株式会社 (24)
【Fターム(参考)】